霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 守衛(しゆゑい)の囁(ささやき)〔一一七二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻 篇:第1篇 神示の合離 よみ(新仮名遣い):しんじのごうり
章:第3章 守衛の囁 よみ(新仮名遣い):しゅえいのささやき 通し章番号:1172
口述日:1922(大正11)年12月07日(旧10月19日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年8月18日
概要: 舞台:浮木ケ原 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
バラモン軍は浮木が原に陣営を張り、ランチ将軍、片彦将軍、久米彦将軍が数多の軍勢を集めている。陣営の表門にはハル、テルの両人が守衛をしながら雑談にふけっている。
ハルとテルはこんな人殺しの子分として現世に罪を重ねさせられ、苦行で死んだ修行者の骨を崇めるバラモン教の矛盾をあげつらっている。両人は雑談のうちに、バラモン教を脱出して三五教に降参しようかと他愛もなく笑っている。
そこへ片彦将軍の近侍のヨルがやってきて、二人がバラモン教の悪口を言っていたことを怒鳴りつけた。二人はヨルに酒を飲ませてごまかそうとする。
ヨルは酔って本音を表し、実は自分もバラモン教に嫌気がさしており、三人で三五教に投降しようと持ちかけた。三人は駕籠を持ち出し、酔っ払ったヨルをテルとハルがかついで陣営を抜け出し、河鹿峠を登って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-17 10:40:54 文字数:5069 OBC :rm4403
愛善世界社版:32頁 八幡書店版:第8輯 151頁 修補版: 校定版:33頁 普及版:15頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第二巻 変革と平和 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 守衛の囁
001 浮木(うきき)が原(はら)の陣営(ぢんえい)にはランチ将軍(しやうぐん)、002片彦(かたひこ)、003久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)が、004数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)を集(あつ)め、005幔幕(まんまく)を張(は)り廻(まは)し、006治国別(はるくにわけ)の進路(しんろ)を要(えう)して、007手具脛(てぐすね)引(ひ)いて待(ま)つて居(ゐ)る。008俄作(にはかづく)りの陣営(ぢんえい)の表門(おもてもん)にはテル、009ハル両人(りやうにん)が守衛(しゆゑい)の役(やく)を務(つと)めて居(ゐ)る。010夜(よ)はだんだんと更(ふ)け渡(わた)り雨嵐(あめあらし)の声(こゑ)烈(はげ)しく、011立番(たちばん)も漸(やうや)く飽(あ)きが来(き)て、012パノラマ式(しき)の門側(もんがは)の一間(ひとま)に入(い)り、013ポートワインの詰(つめ)を抜(ぬ)きながら雑談(ざつだん)を始(はじ)めた。
014テル『オイ、015ハル公(こう)、016思(おも)へば思(おも)へば人生(じんせい)が厭(いや)になつたぢやないか、017僅(わづか)三百(さんびやく)年(ねん)の寿命(じゆみやう)を保(たも)つ為(ため)に、018こンなしやつちもない人殺(ひとごろし)の乾児(こぶん)に使(つか)はれ、019死(し)ンで地獄(ぢごく)の成敗(せいばい)を受(う)ける準備(じゆんび)ばかりして居(ゐ)るやうな事(こと)では困(こま)つたものぢや、020些(ちつと)は考(かんが)へねばなるまいぞ』
021ハル『何(なに)、022吾々(われわれ)は、023天(あめ)の八衢(やちまた)に迷(まよ)うて居(ゐ)るようなものだよ。024此(こ)の通(とほ)り嵐(あらし)に雨(あめ)の激(はげ)しい事(こと)、025人生(じんせい)の行路(かうろ)を暗示(あんじ)して居(ゐ)る。026テルも何(なん)とか身(み)の振(ふ)り方(かた)を考(かんが)へたらよからう。027併(しか)し乍(なが)ら死後(しご)の世界(せかい)は吾々(われわれ)の目(め)に入(い)らないのだから、028有(あ)るとも無(な)いとも分(わか)らないワ、029そンな頼(たよ)りない事(こと)を思(おも)つて宗教心(しうけうしん)を出(だ)すと、030一(いち)日(にち)も此(この)世(よ)が恐(おそ)ろしうて居(ゐ)る事(こと)が出来(でき)ないわ。031まあワインでも呑(の)ンで、032空元気(からげんき)でもつけるのぢやなア』
033テル『それでも、034バラモン教(けう)の大黒主(おほくろぬし)様(さま)は、035死後(しご)の世界(せかい)が恐(おそ)ろしいから現在(げんざい)に於(おい)て難行(なんぎやう)苦行(くぎやう)を積(つ)み、036未来(みらい)の楽園(らくゑん)を楽(たの)しめと仰有(おつしや)るぢやないか、037大黒主(おほくろぬし)様(さま)が仰有(おつしや)るのだから決(けつ)して間違(まちが)ひはあるまい。038吾々(われわれ)は仮令(たとへ)この肉体(にくたい)は現在(げんざい)の此処(ここ)に置(お)くとも、039霊魂(みたま)の故郷(こきやう)なる天国(てんごく)浄土(じやうど)に復活(ふくくわつ)し、040永遠(ゑいゑん)無窮(むきう)の生命(せいめい)を保(たも)ち、041無限(むげん)の歓喜(くわんき)を味(あぢ)はひたいからバラモン教(けう)のためだと思(おも)うて、042テルもこんな人殺(ひとごろし)の軍人(いくさびと)に使(つか)はれて居(ゐ)るのだが、043こンな事(こと)やつて居(ゐ)ても天国(てんごく)へ行(ゆ)けるだらうか、044テルは其(その)点(てん)が気(き)にかかつてならないのぢや、045大雲山(たいうんざん)に現(あら)はれたまふ、046大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)命(みこと)様(さま)の御(ご)気勘(きかん)に叶(かな)うだらうかなあ』
047ハル『世(よ)の中(なか)には裏(うら)もあれば表(おもて)もあるよ。048打(う)ち割(わ)つて言(い)へば大雲山(たいうんざん)は荘厳(さうごん)無比(むひ)の神聖(しんせい)なる神(かみ)様(さま)の霊場(れいぢやう)だが、049併(しか)し内実(ないじつ)は恐(おそ)るべき地獄(ぢごく)のやうな所(ところ)で、050いろいろと難行(なんぎやう)苦行(くぎやう)を強(しひ)られ骨(ほね)を砕(くだ)き身(み)を破(やぶ)り、051荒行(あらげう)の結果(けつくわ)中途(ちうと)に死(し)ンだやつは皆(みな)骨堂(こつだう)に骨(ほね)を祀(まつ)られて居(ゐ)るぢやないか。052あの骨堂(こつだう)を有(あ)り難(がた)がつて拝(をが)みに行(ゆ)くやつの気(き)が知(し)れないぢやないか。053バラモン教(けう)の骨堂(こつだう)と修業場(しうげふば)とお札(ふだ)は実(じつ)に印度人(いんどじん)のために大恐怖(だいきようふ)の源泉(げんせん)だよ。054力(ちから)の弱(よわ)い無知識(むちしき)の人間(にんげん)に、055死(し)と云(い)ふ恐怖心(きようふしん)をもたせて生(せい)の自由(じいう)を束縛(そくばく)して居(ゐ)るのだ、056大雲山(たいうんざん)又(また)はハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)に所謂(いはゆる)神権(しんけん)の存在(そんざい)するのは、057これあるがためだよ。058斯(か)かる虚偽(きよぎ)的(てき)な空漠(くうばく)な権威(けんゐ)をもつて、059無知識(むちしき)なる人間(にんげん)の心(こころ)をとらへ、060さうして、061宗閥(しうばつ)、062宣伝使(せんでんし)の一統(いつとう)は、063多数(たすう)人民(じんみん)の膏血(かうけつ)を絞(しぼ)る手段(しゆだん)として居(を)るのだ。064バラモンのお札(ふだ)は宗教界(しうけうかい)の不換(ふくわん)紙幣(しへい)とも云(い)ふべきものだ。065バラモン教(けう)は恐怖(きようふ)をもつて人類(じんるゐ)の膏血(かうけつ)をしぼる恐(おそ)るべき社会(しやくわい)の地獄(ぢごく)と云(い)ふものだ。066印度(いんど)の国民(こくみん)は一人(ひとり)も残(のこ)らず、067この地獄(ぢごく)に陥落(かんらく)して居(ゐ)るのだ。068それだから三五教(あななひけう)と云(い)ふやうな誠(まこと)の救世教(きうせいけう)が興(おこ)つて来(き)たのだ。069大黒主(おほくろぬし)は大雲山(たいうんざん)の骨堂(こつだう)に等(ひと)しい牢獄(らうごく)とお札(ふだ)に等(ひと)しい不換(ふくわん)紙幣(しへい)をもつて絶対(ぜつたい)権威(けんゐ)の維持(ゐぢ)につとめて居(ゐ)るのだから、070矢張(やつぱり)八岐(やまたの)大蛇(をろち)の再来(さいらい)と云(い)はれても仕方(しかた)がないわい。071そこを三五教(あななひけう)が看破(かんぱ)して居(ゐ)るのだから偉(えら)いものだよ。072河鹿(かじか)峠(たうげ)の言霊戦(ことたません)に遇(あ)つた時(とき)には僅(わづ)か三(さん)人(にん)の敵(てき)に対(たい)して三四百(さんしひやく)の騎馬隊(きばたい)が潰散(くわいさん)した事(こと)を思(おも)へば、073到底(たうてい)バラモン教(けう)等(など)は三五教(あななひけう)の敵(てき)で無(な)い事(こと)は明白(めいはく)だ、074俺(おれ)等(たち)はこンな吹(ふ)き放(はな)しの野営(やえい)の門番(もんばん)をさせられて居(ゐ)るが、075もしや治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)が攻(せ)めて来(き)たら一番(いちばん)に正面(しやうめん)衝突(しようとつ)をするのは、076貴様(きさま)と俺(おれ)だ。077オイここは一(ひと)つ相談(さうだん)だが大将(たいしやう)は皆(みな)気楽(きらく)に寝(ね)て居(ゐ)るだらうから、078今(いま)の中(うち)に脱営(だつえい)して治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)に帰順(きじゆん)し命(いのち)を助(たす)けて貰(もら)ふ方(はう)が余程(よつぽど)当世流(たうせいりう)だよ。079一(ひと)つしかない命(いのち)を捨(す)てた所(ところ)が、080大黒主(おほくろぬし)様(さま)の国妾(こくせふ)養成所(やうせいじよ)の国妾(こくせふ)学校(がくかう)を立派(りつぱ)にするやうなものだ。081実(じつ)に馬鹿(ばか)らしいぢやないか、082エーン』
083テル『オイ ハル公(こう)、084国妾(こくせふ)学校(がくかう)と云(い)ふ事(こと)があるかい、085あれは国立(こくりつ)女学校(ぢよがくかう)と云(い)ふのだ、086立(りつ)と女(ぢよ)と貴様(きさま)は一(ひと)つに読(よ)むから国妾(こくせふ)なぞと読(よ)めるのだよ。087余程(よほど)文盲(もんまう)の代物(しろもの)だなア』
088ハル『それだから文盲省(もんもうしやう)の許可(きよか)を受(う)けて立(た)てて居(ゐ)るのぢやないか、089妾(せふ)もない事(こと)を云(い)ふない。090大黒主(おほくろぬし)の大将(たいしやう)は幾十(いくじふ)人(にん)とも知(し)れぬ程(ほど)の沢山(たくさん)の女(をんな)をかかへ、091朝(あさ)から晩(ばん)まで糸竹(しちく)管弦(くわんげん)の響(ひびき)に心腸(しんちやう)を蕩(とろ)かし酒池(しゆち)肉林(にくりん)の楽(たの)しみに耽(ふけ)り利己(りこ)主義(しゆぎ)を発揮(はつき)して居(ゐ)るぢやないかい、092テル公(こう)』
093テル『そりや仕方(しかた)がないさ、094カビライ国(こく)の浄飯王(じやうばんわう)の悉達(しつた)太子(たいし)でさへも美姫(びき)三千(さんぜん)人(にん)を侍(はべ)らしたと云(い)ふぢやないか、095大黒主(おほくろぬし)が五十(ごじふ)人(にん)や六十(ろくじふ)人(にん)の女房(にようばう)もつたつて何(なに)がそれ程(ほど)不思議(ふしぎ)なのだい。096今頃(いまごろ)の女(をんな)は一人前(いちにんまへ)の女房(にようばう)にする女(をんな)が無(な)いから、097数十(すうじふ)人(にん)を集(あつ)めて初(はじ)めて一人(ひとり)の仕事(しごと)をさすのだ。098第一(だいいち)に寝間(ねま)の伽(とぎ)をする奴(やつ)、099炊事(すゐじ)を司(つかさど)る奴(やつ)、100裁縫(さいほう)を司(つかさど)る奴(やつ)、101機(はた)を織(お)る奴(やつ)、102会計(くわいけい)を司(つかさど)る奴(やつ)、103下僕(しもべ)を追(お)ひ廻(まは)す奴(やつ)と云(い)ふやうに、104今(いま)の女(をんな)は、105専門(せんもん)的(てき)だから到底(たうてい)一人(ひとり)で女房(にようばう)の本職(ほんしよく)が尽(つく)せぬからだ。106現代(げんだい)の博士(はかせ)だつてさうぢやないか、107部分(ぶぶん)的(てき)の専門学(せんもんがく)より知(し)らないのだからなア、108理学(りがく)なら理学(りがく)、109文学(ぶんがく)なら文学(ぶんがく)、110法学(はふがく)なら法学(はふがく)、111只(ただ)それ一(ひと)つを掴(つかま)へて朝(あさ)から晩(ばん)まで頭(あたま)を痛(いた)め、112書物(しよもつ)と首(くび)つ引(ぴ)きで居(ゐ)るものだから遂(つひ)に頭脳(づなう)の変調(へんてう)を来(きた)し、113やつと博士(はかせ)か馬鹿士(ばかせ)になるのぢやないか、114総(すべ)て世(よ)の中(なか)はこンなものだよ、115ハル公(こう)』
116ハル『オイ貴様(きさま)の名(な)はテルなり、117俺(おれ)の名(な)はハルなり照国別(てるくにわけ)、118治国別(はるくにわけ)の三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の頭字(かしらじ)を取(と)つて居(ゐ)るのだから、119何(なに)か因縁(いんねん)があるのに違(ちが)ひない。120キツと此処(ここ)を飛(と)び出(だ)して行(ゆ)けば許(ゆる)して呉(く)れるに相違(さうゐ)ないから行(ゆ)かうぢやないか、121行(ゆ)くなら今(いま)の中(うち)だからなア』
122テル『ハル公(こう)、123貴様(きさま)余程(よほど)御幣(ごへい)舁(かつ)ぎになつたと見(み)えるな、124大雲山(たいうんざん)が余程(よほど)こたへたと見(み)えるわい、125あゝ何(なん)だかタンクが破裂(はれつ)しさうだ、126売買(ばいばい)契約(けいやく)の破棄(はき)をやつて来(こ)うかなア』
127ハル『テル、128貴様(きさま)は軍人(ぐんじん)で居(ゐ)ながら、129内職(ないしよく)をやつて居(ゐ)るのか、130そんな事(こと)が聞(きこ)えたら大変(たいへん)だぞ』
131テル『貴様(きさま)の薄野呂(うすのろ)には俺(おれ)も感心(かんしん)した、132売買(ばいばい)契約(けいやく)の破棄(はき)と云(い)ふ事(こと)は小便(せうべん)すると云(い)ふ事(こと)だよ、133ハル公(こう)』
134ハル『アハヽヽ、135それなら大(たい)ウン山(ざん)と、136キツパリ断(ことわ)つて来(こ)い、137その方(はう)が大便利(だいべんり)かも知(し)れないぞ、138屁(へ)のやうな理屈(りくつ)をブツブツたれて居(ゐ)た処(ところ)でつまらぬぢやないか、139何程(なにほど)偉相(えらさう)に云(い)つたところが、140暗黒(あんこく)無明(むみやう)の世界(せかい)に湧(わ)いた人間(にんげん)よ、141余程(よつぽど)、142智者(ちしや)ぢや学者(がくしや)ぢやと云(い)つた所(ところ)が俺(おれ)達(たち)の百万倍(ひやくまんばい)の智慧(ちゑ)のある人間(にんげん)でもやつぱり人間(にんげん)は人間(にんげん)だ、143人間(にんげん)の暗(くら)い知識(ちしき)では一匹(いつぴき)の蝗(いなご)に一瞬間(いつしゆんかん)の生命(いのち)を与(あた)へる事(こと)すら出来(でき)ないのだ、144放屁(はうひ)一(ひと)つでさへ、145自分(じぶん)の放(ひ)らうと思(おも)ふ時(とき)に註文(ちうもん)通(どほ)り放(ひ)る事(こと)の出来(でき)ない不都合(ふつがふ)極(きは)まる人間(にんげん)だからなア、146アハヽヽヽ』
147テル『ウフヽヽヽ』
148 かく両人(りやうにん)が、149他愛(たあい)もなく笑(わら)つて居(ゐ)る。150そこへやつて来(き)たのは片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)のお近侍(そばづき)のヨルである。151ヨルは雨嵐(あめあらし)の音(おと)を圧(あつ)する様(やう)な蛮声(ばんせい)で、
152ヨル『これやこれや両人(りやうにん)、153守衛(しゆゑい)も致(いた)さず勝手(かつて)気儘(きまま)に酒(さけ)を喰(くら)ひ何(なに)を喋(しやべ)つて居(ゐ)たのだ。154これから片彦(かたひこ)様(さま)のお耳(みみ)に入(い)れるから覚悟(かくご)を致(いた)せ』
155と声高(こわだか)に罵(ののし)るにぞ、156テル公(こう)は頭(あたま)を掻(か)きながら、
157テル『ハイ、158一寸(ちよつと)小便(せうべん)の話(はなし)をやつて居(を)つたところです。159序(ついで)に大便(だいべん)も放屁(はうひ)も話頭(わとう)に上(のぼ)りましたが、160別(べつ)にそれ以外(いぐわい)に六(むつ)ケしい話(はなし)も厶(ござ)いませぬ、161なあハル公(こう)、162さうぢやつたぢやないか』
163ハル『ウンその通(とほ)りその通(とほ)り、164いやもう、165糞食時(くそくひどき)に飯(めし)の話(はなし)をしられて、166いやどつこい小便呑(せうべんの)み時(どき)に酒(さけ)の話(はなし)をしられて、167イヤもう気分(きぶん)の悪(わる)い事(こと)ぢやわい、168エヘヽヽヽ』
169ヨル『これやこれや両人(りやうにん)、170俺(おれ)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)るか、171全軍(ぜんぐん)の監督(かんとく)ぢやぞ』
172テル『監督(かんとく)はよく分(わか)つて居(を)りますわい、173燗徳利(かんどくり)ぢやとよろしいが、174こいつはポートワインだから、175冷徳利(ひやとくり)だ。176併(しか)しそンな六(むつ)ケ敷(し)い顔(かほ)をせずに一(ひと)つ召上(めしあ)がつてはどうですか、177テルが酌(しやく)をしませう、178いや呑(の)みやがつたらどうですか、179御(お)神酒(みき)上(あが)らぬ神(かみ)はないと云(い)ひますぜ』
180 ヨルは呑(の)みたくて堪(たま)らぬのを耐(こら)へて、181態(わざ)と声高(こわだか)に、
182ヨル『其(その)方(はう)は酒(さけ)をもつて此(この)方(はう)をたぶらかし、183悪事(あくじ)の露顕(ろけん)を防(ふせ)がうと致(いた)す、184憎(につ)くき門番(もんばん)、185そンな話(はなし)ぢやなからう。186国妾(こくせふ)学校(がくかう)について大変(たいへん)な、187酷評(こくひやう)をして居(ゐ)たぢやないか、188事(こと)にヨルと貴様(きさま)の首(くび)が危(あぶ)ないぞ』
189ハル『それだからテルとハルの首(くび)のある中(うち)に一杯(いつぱい)でも呑(の)ンで置(お)かねば損(そん)ですからなア、190まあ一(ひと)つ聞召(きこしめ)せ、191随分(ずゐぶん)気(き)がはんなりと致(いた)しますよ』
192と云(い)ひ乍(なが)ら鼻(はな)の先(さき)につきつくれば、193ヨルは腹(はら)の虫(むし)がクウクウと催促(さいそく)をする。
194ヨル『これやこれや些(ちつと)心得(こころえ)ぬか、195戦陣(せんぢん)で酒(さけ)は禁物(きんもつ)だぞ。196さうして貴様(きさま)達(たち)は、197照国別(てるくにわけ)、198治国別(はるくにわけ)に帰順(きじゆん)しようと話(はな)して居(ゐ)たではないか。199その方(はう)は隠謀(いんぼう)未遂罪(みすゐざい)だから、200これから片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の前(まへ)に引(ひ)き立(た)てる、201神妙(しんめう)に手(て)を廻(まは)せ』
202テル『承知(しようち)致(いた)しました。203何時(いつ)でも手(て)も足(あし)も廻(まは)しませう。204今晩(こんばん)はどうせテルの笠(かさ)の台(だい)が飛(と)ぶのだから、205冥土(めいど)の土産(みやげ)に、206も一杯(いつぱい)呑(の)まして下(くだ)さい。207そして貴方(あなた)も生別(せいべつ)死別(しべつ)の盃(さかづき)をして下(くだ)さいな』
208ヨル『その方(はう)が、209この世(よ)の別(わか)れとあれば役目(やくめ)とは云(い)ひ乍(なが)ら呑(の)ンでやるのも一(ひと)つの情(なさけ)ぢや。210よし差支(さしつかへ)ない、211いや苦(くる)しうない、212注(つ)がして遣(つか)はす』
213 ヨルの喉(のど)はクウクウと二人(ふたり)の耳(みみ)に聞(きこ)える程(ほど)催促(さいそく)をして居(ゐ)る。214二人(ふたり)は瓶(びん)のキルクを態(わざ)とに暇(ひま)を入(い)れて抜(ぬ)いて居(ゐ)る。215ヨルは呑(の)みたくて耐(たま)らず、216人(ひと)が居(を)らねば飛(と)びつきたい程(ほど)になつて居(ゐ)る。
217ヨル『これやこれや、218何(なに)をグヅグヅ致(いた)して居(を)るか、219早(はや)く詰(つめ)を取(と)らないか』
220ハル『そんな殺生(せつしやう)な事(こと)を云(い)つて下(くだ)さるな、221たつた今(いま)首(くび)の飛(と)ぶ人間(にんげん)ぢやありませぬか。222素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)かなんぞのやうに爪(つめ)を取(と)るなぞとそんな二重(にぢゆう)成敗(せいばい)をするものぢやありませぬよ』
223ヨル『つめを取(と)ると云(い)ふ事(こと)は早(はや)くキルクを抜(ぬ)けと申(まを)す事(こと)ぢや』
224ハル『たうとう時節(じせつ)到来(たうらい)、225酒瓶(さけびん)の首(くび)がキルクと抜(ぬ)けよつた。226サアサアお上(あが)り遊(あそ)ばせ、227随分(ずゐぶん)いい味(あぢ)がしますよ』
228ヨル『早(はや)く注(つ)がないか、229ヨル監督(かんとく)に対(たい)しては、230別(べつ)に礼式(れいしき)も何(なに)もいつたものぢやない、231こんな戦陣(せんぢん)にあつては上下(じやうげ)の障壁(しやうへき)を取(と)り、232何事(なにごと)も簡単(かんたん)に手取(てつと)り早(ばや)くやるものぢや』
233ハル『そんなら、234この儘(まま)ラツパ呑(のみ)とお出(で)かけになつたらどうですか』
235ヨル『戦陣(せんぢん)にあつてラツパのみとはこいつは面白(おもしろ)い、236ラツパの一声(いつせい)で三軍(さんぐん)を自由(じいう)自在(じざい)に動(うご)かすのだからなア、237武道(ぶだう)の達人(たつじん)が葡萄酒(ぶだうしゆ)を呑(の)むのは合(あ)つたり叶(かな)つたりだ』
238と云(い)ひながら、239ハルがキルクを抜(ぬ)いた酒瓶(さけびん)を一(いち)ダースばかりつづけざまに呑(の)み干(ほ)して仕舞(しま)つた。240忽(たちま)ちヨルは足(あし)を失(うしな)ひヨロヨロとしながら二人(ふたり)の前(まへ)にドスンと倒(たふ)れ、
241ヨル『あゝ、242そこらがなンとはなしにポーとして来(き)た。243これだからポーとワインと云(い)ふのだなア、244何(なん)と酒(さけ)と云(い)ふものは怪体(けつたい)な代物(しろもの)だナ、245俺(おれ)はもう軍人(ぐんじん)が嫌(いや)になつた。246オイ、247テル、248ハル、249このヨルさま等(ら)がヨルに紛(まぎ)れて此(この)場(ば)をテル、250そしてハルバルと、251斎苑(いそ)の館(やかた)へ帰順(きじゆん)と参(まゐ)らうぢやないか、252エーン何(なん)だか此(この)頃(ごろ)は俺(おれ)も実(じつ)の処(ところ)はバラモン教(けう)がいやになつた。253三五教(あななひけう)の三(さん)人(にん)や四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)に言霊(ことたま)を打(う)ち出(だ)され人馬(じんば)諸共(もろとも)逃(に)げ散(ち)るとは実(じつ)に情(なさけ)なくなつて来(き)た。254これを思(おも)へば、255実(じつ)に三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)は天(てん)のミロク様(さま)、256バラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)は大蛇(をろち)の乾児(こぶん)様(さま)位(くらゐ)に違(ちが)ひないよ、257こンな事(こと)をして居(ゐ)ると終(しまひ)には地獄(ぢごく)の釜炙(かまいり)ぢや。258テル、259ハル貴様(きさま)も同意見(どういけん)だらう』
260テル『そいつは何(なん)とも明言(めいげん)し兼(か)ねますわい、261人(ひと)の心(こころ)は分(わか)りませぬからな、262ウツカリした事(こと)は言(い)へませぬぜ、263ヨルさまお前(まへ)さまは俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)をとつ捕(つか)まへて片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の前(まへ)につき出(だ)し手柄(てがら)をする心算(つもり)だらう、264併(しか)し賤(いや)しい酒(さけ)に喰(くら)ひよつて身体(からだ)が自由(じいう)にならないものだからそンな事(こと)をいつて俺(おれ)達(たち)の機嫌(きげん)を取(と)つて居(ゐ)るのだらう。265そンな事(こと)にチヨロまかされるやうなテル、266ハルさまぢやありませぬぞえ』
267ヨル『さう貴様(きさま)が疑(うたが)へば仕方(しかた)がない、268併(しか)し乍(なが)ら俺(おれ)は決(けつ)して、269酔(よ)うては居(ゐ)るが酒呑(さけの)み本性(ほんしやう)違(たが)はずと云(い)うて嘘(うそ)は云(い)はない、270貴様(きさま)達(たち)二人(ふたり)をとらまへようと思(おも)へば何(なん)でもない事(こと)ぢや、271己(おれ)が懐(ふところ)にもつて居(ゐ)る合図(あひづ)の笛(ふえ)さへ吹(ふ)けば、272何十(なんじふ)人(にん)でも此(この)場(ば)へ出(で)て来(く)るのだから』
273テル『さうすると、274矢張(やつぱ)り本音(ほんね)を吹(ふ)きよつたのだな、275ヨシヨシ ヨルも矢張(やつぱ)り吾(わ)がテル党(たう)の士(し)だ。276これで三(さん)人(にん)揃(そろ)うた。277天地人(てんちじん)、278日地月(につちげつ)、279霊力体(れいりよくたい)だ、280御(ご)三体(さんたい)の神(かみ)様(さま)だ。281三人世(さんにんよ)の元(もと)、282結構(けつこう)々々(けつこう)こンな結構(けつこう)が世(よ)にあらうか、283どうだ三角(さんかく)同盟(どうめい)の成立(せいりつ)した祝(いはひ)に土堤切(どてつき)り発動(はつどう)して見(み)ようぢやないか』
284ヨル『そいつは一寸(ちよつと)待(ま)つて呉(く)れ。285こンな所(ところ)で噪(さわ)いで居(ゐ)ては見(み)つかつては大変(たいへん)だ。286オイ今(いま)の中(うち)に此処(ここ)にあるだけの酒(さけ)を背(せ)に負(お)ひ、287夜(よる)に紛(まぎ)れて祠(ほこら)の森(もり)迄(まで)行(い)つて見(み)ようぢやないか。288グヅグヅして居(ゐ)ると大変(たいへん)だからのう』
289テル『テルの目(め)からは、290ヨルさま、291お前(まへ)其(その)足許(あしもと)であの山路(やまみち)が行(ゆ)けるかい、292危(あぶ)ないものだぞ』
293ヨル『俺(おれ)は動(うご)けなくても構(かま)はないぢやないか、294貴様(きさま)達(たち)二人(ふたり)の足(あし)さへ達者(たつしや)であれば、295山駕籠(やまかご)に乗(の)せて舁(か)ついで行(ゆ)けばよいのだ。296幸(さいはひ)ここに山駕籠(やまかご)が四五挺(しごちやう)ある、297これを一挺(いつちやう)何々(なになに)して俺(おれ)を乗(の)せるのだなア』
298ハル『何(なん)と甘(うま)い事(こと)を仰有(おつしや)るわい、299併(しか)しながら逃(に)げ出(だ)すのは今晩(こんばん)に限(かぎ)る、300仕方(しかた)がない、301オイ、302テルさま ヨルさまを舁(か)ついで夜(よる)の山道(やまみち)を上(のぼ)つて行(ゆ)かうぢやないか、303河鹿(かじか)峠(たうげ)に往(ゆ)けば最早(もはや)安全(あんぜん)地帯(ちたい)だからなア』
304 ここに三(さん)人(にん)は一挺(いつちやう)の駕籠(かご)を盗(ぬす)み出(だ)し、305ヨルを乗(の)せテル、306ハルの両人(りやうにん)は面白(おもしろ)可笑(をか)しき歌(うた)を小声(こごゑ)に喋(しやべ)りながら、307ソツと浮木(うきき)が原(はら)の陣営(ぢんえい)を脱出(だつしゆつ)し、308河鹿(かじか)峠(たうげ)の祠(ほこら)の森(もり)をさして進(すす)み往(ゆ)く。309月(つき)は黒雲(くろくも)の帳(とばり)を破(やぶ)つて三(さん)人(にん)の頭上(づじやう)をニコニコ笑(わら)ひながら覗(のぞ)かせたまふ。
310(大正一一・一二・七 旧一〇・一九 加藤明子録)
311(昭和九・一二・二一 王仁校正)
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