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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第44巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 神示の合離
第1章 笑の恵
第2章 月の影
第3章 守衛の囁
第4章 滝の下
第5章 不眠症
第6章 山下り
第7章 山口の森
第2篇 月明清楓
第8章 光と熱
第9章 怪光
第10章 奇遇
第11章 腰ぬけ
第12章 大歓喜
第13章 山口の別
第14章 思ひ出の歌
第3篇 珍聞万怪
第15章 変化
第16章 怯風
第17章 罵狸鬼
第18章 一本橋
第19章 婆口露
第20章 脱線歌
第21章 小北山
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
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第44巻(未の巻)
> 第1篇 神示の合離 > 第3章 守衛の囁
<<< 月の影
(B)
(N)
滝の下 >>>
第三章
守衛
(
しゆゑい
)
の
囁
(
ささやき
)
〔一一七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
篇:
第1篇 神示の合離
よみ(新仮名遣い):
しんじのごうり
章:
第3章 守衛の囁
よみ(新仮名遣い):
しゅえいのささやき
通し章番号:
1172
口述日:
1922(大正11)年12月07日(旧10月19日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年8月18日
概要:
舞台:
浮木ケ原
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
バラモン軍は浮木が原に陣営を張り、ランチ将軍、片彦将軍、久米彦将軍が数多の軍勢を集めている。陣営の表門にはハル、テルの両人が守衛をしながら雑談にふけっている。
ハルとテルはこんな人殺しの子分として現世に罪を重ねさせられ、苦行で死んだ修行者の骨を崇めるバラモン教の矛盾をあげつらっている。両人は雑談のうちに、バラモン教を脱出して三五教に降参しようかと他愛もなく笑っている。
そこへ片彦将軍の近侍のヨルがやってきて、二人がバラモン教の悪口を言っていたことを怒鳴りつけた。二人はヨルに酒を飲ませてごまかそうとする。
ヨルは酔って本音を表し、実は自分もバラモン教に嫌気がさしており、三人で三五教に投降しようと持ちかけた。三人は駕籠を持ち出し、酔っ払ったヨルをテルとハルがかついで陣営を抜け出し、河鹿峠を登って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-01-17 10:40:54
OBC :
rm4403
愛善世界社版:
32頁
八幡書店版:
第8輯 151頁
修補版:
校定版:
33頁
普及版:
15頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
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:
出口王仁三郎著作集 > 第二巻 変革と平和 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 守衛の囁
001
浮木
(
うきき
)
が
原
(
はら
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
にはランチ
将軍
(
しやうぐん
)
、
002
片彦
(
かたひこ
)
、
003
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
が、
004
数多
(
あまた
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
を
集
(
あつ
)
め、
005
幔幕
(
まんまく
)
を
張
(
は
)
り
廻
(
まは
)
し、
006
治国別
(
はるくにわけ
)
の
進路
(
しんろ
)
を
要
(
えう
)
して、
007
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
008
俄作
(
にはかづく
)
りの
陣営
(
ぢんえい
)
の
表門
(
おもてもん
)
にはテル、
009
ハル
両人
(
りやうにん
)
が
守衛
(
しゆゑい
)
の
役
(
やく
)
を
務
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
010
夜
(
よ
)
はだんだんと
更
(
ふ
)
け
渡
(
わた
)
り
雨嵐
(
あめあらし
)
の
声
(
こゑ
)
烈
(
はげ
)
しく、
011
立番
(
たちばん
)
も
漸
(
やうや
)
く
飽
(
あ
)
きが
来
(
き
)
て、
012
パノラマ
式
(
しき
)
の
門側
(
もんがは
)
の
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
り、
013
ポートワインの
詰
(
つめ
)
を
抜
(
ぬ
)
きながら
雑談
(
ざつだん
)
を
始
(
はじ
)
めた。
014
テル
『オイ、
015
ハル
公
(
こう
)
、
016
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
人生
(
じんせい
)
が
厭
(
いや
)
になつたぢやないか、
017
僅
(
わづか
)
三百
(
さんびやく
)
年
(
ねん
)
の
寿命
(
じゆみやう
)
を
保
(
たも
)
つ
為
(
ため
)
に、
018
こンな
しやつち
もない
人殺
(
ひとごろし
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
使
(
つか
)
はれ、
019
死
(
し
)
ンで
地獄
(
ぢごく
)
の
成敗
(
せいばい
)
を
受
(
う
)
ける
準備
(
じゆんび
)
ばかりして
居
(
ゐ
)
るやうな
事
(
こと
)
では
困
(
こま
)
つたものぢや、
020
些
(
ちつと
)
は
考
(
かんが
)
へねばなるまいぞ』
021
ハル
『
何
(
なに
)
、
022
吾々
(
われわれ
)
は、
023
天
(
あめ
)
の
八衢
(
やちまた
)
に
迷
(
まよ
)
うて
居
(
ゐ
)
るようなものだよ。
024
此
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
り
嵐
(
あらし
)
に
雨
(
あめ
)
の
激
(
はげ
)
しい
事
(
こと
)
、
025
人生
(
じんせい
)
の
行路
(
かうろ
)
を
暗示
(
あんじ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
026
テルも
何
(
なん
)
とか
身
(
み
)
の
振
(
ふ
)
り
方
(
かた
)
を
考
(
かんが
)
へたらよからう。
027
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
死後
(
しご
)
の
世界
(
せかい
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らないのだから、
028
有
(
あ
)
るとも
無
(
な
)
いとも
分
(
わか
)
らないワ、
029
そンな
頼
(
たよ
)
りない
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
つて
宗教心
(
しうけうしん
)
を
出
(
だ
)
すと、
030
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
恐
(
おそ
)
ろしうて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないわ。
031
まあワインでも
呑
(
の
)
ンで、
032
空元気
(
からげんき
)
でもつけるのぢやなア』
033
テル
『それでも、
034
バラモン
教
(
けう
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
は、
035
死後
(
しご
)
の
世界
(
せかい
)
が
恐
(
おそ
)
ろしいから
現在
(
げんざい
)
に
於
(
おい
)
て
難行
(
なんぎやう
)
苦行
(
くぎやう
)
を
積
(
つ
)
み、
036
未来
(
みらい
)
の
楽園
(
らくゑん
)
を
楽
(
たの
)
しめと
仰有
(
おつしや
)
るぢやないか、
037
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのだから
決
(
けつ
)
して
間違
(
まちが
)
ひはあるまい。
038
吾々
(
われわれ
)
は
仮令
(
たとへ
)
この
肉体
(
にくたい
)
は
現在
(
げんざい
)
の
此処
(
ここ
)
に
置
(
お
)
くとも、
039
霊魂
(
みたま
)
の
故郷
(
こきやう
)
なる
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
復活
(
ふくくわつ
)
し、
040
永遠
(
ゑいゑん
)
無窮
(
むきう
)
の
生命
(
せいめい
)
を
保
(
たも
)
ち、
041
無限
(
むげん
)
の
歓喜
(
くわんき
)
を
味
(
あぢ
)
はひたいからバラモン
教
(
けう
)
のためだと
思
(
おも
)
うて、
042
テルもこんな
人殺
(
ひとごろし
)
の
軍人
(
いくさびと
)
に
使
(
つか
)
はれて
居
(
ゐ
)
るのだが、
043
こンな
事
(
こと
)
やつて
居
(
ゐ
)
ても
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
けるだらうか、
044
テルは
其
(
その
)
点
(
てん
)
が
気
(
き
)
にかかつてならないのぢや、
045
大雲山
(
たいうんざん
)
に
現
(
あら
)
はれたまふ、
046
大自在天
(
だいじざいてん
)
大国彦
(
おほくにひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
気勘
(
きかん
)
に
叶
(
かな
)
うだらうかなあ』
047
ハル
『
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
裏
(
うら
)
もあれば
表
(
おもて
)
もあるよ。
048
打
(
う
)
ち
割
(
わ
)
つて
言
(
い
)
へば
大雲山
(
たいうんざん
)
は
荘厳
(
さうごん
)
無比
(
むひ
)
の
神聖
(
しんせい
)
なる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
霊場
(
れいぢやう
)
だが、
049
併
(
しか
)
し
内実
(
ないじつ
)
は
恐
(
おそ
)
るべき
地獄
(
ぢごく
)
のやうな
所
(
ところ
)
で、
050
いろいろと
難行
(
なんぎやう
)
苦行
(
くぎやう
)
を
強
(
しひ
)
られ
骨
(
ほね
)
を
砕
(
くだ
)
き
身
(
み
)
を
破
(
やぶ
)
り、
051
荒行
(
あらげう
)
の
結果
(
けつくわ
)
中途
(
ちうと
)
に
死
(
し
)
ンだやつは
皆
(
みな
)
骨堂
(
こつだう
)
に
骨
(
ほね
)
を
祀
(
まつ
)
られて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
052
あの
骨堂
(
こつだう
)
を
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
がつて
拝
(
をが
)
みに
行
(
ゆ
)
くやつの
気
(
き
)
が
知
(
し
)
れないぢやないか。
053
バラモン
教
(
けう
)
の
骨堂
(
こつだう
)
と
修業場
(
しうげふば
)
とお
札
(
ふだ
)
は
実
(
じつ
)
に
印度人
(
いんどじん
)
のために
大恐怖
(
だいきようふ
)
の
源泉
(
げんせん
)
だよ。
054
力
(
ちから
)
の
弱
(
よわ
)
い
無知識
(
むちしき
)
の
人間
(
にんげん
)
に、
055
死
(
し
)
と
云
(
い
)
ふ
恐怖心
(
きようふしん
)
をもたせて
生
(
せい
)
の
自由
(
じいう
)
を
束縛
(
そくばく
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ、
056
大雲山
(
たいうんざん
)
又
(
また
)
はハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
所謂
(
いはゆる
)
神権
(
しんけん
)
の
存在
(
そんざい
)
するのは、
057
これあるがためだよ。
058
斯
(
か
)
かる
虚偽
(
きよぎ
)
的
(
てき
)
な
空漠
(
くうばく
)
な
権威
(
けんゐ
)
をもつて、
059
無知識
(
むちしき
)
なる
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
をとらへ、
060
さうして、
061
宗閥
(
しうばつ
)
、
062
宣伝使
(
せんでんし
)
の
一統
(
いつとう
)
は、
063
多数
(
たすう
)
人民
(
じんみん
)
の
膏血
(
かうけつ
)
を
絞
(
しぼ
)
る
手段
(
しゆだん
)
として
居
(
を
)
るのだ。
064
バラモンのお
札
(
ふだ
)
は
宗教界
(
しうけうかい
)
の
不換
(
ふくわん
)
紙幣
(
しへい
)
とも
云
(
い
)
ふべきものだ。
065
バラモン
教
(
けう
)
は
恐怖
(
きようふ
)
をもつて
人類
(
じんるゐ
)
の
膏血
(
かうけつ
)
をしぼる
恐
(
おそ
)
るべき
社会
(
しやくわい
)
の
地獄
(
ぢごく
)
と
云
(
い
)
ふものだ。
066
印度
(
いんど
)
の
国民
(
こくみん
)
は
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず、
067
この
地獄
(
ぢごく
)
に
陥落
(
かんらく
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
068
それだから
三五教
(
あななひけう
)
と
云
(
い
)
ふやうな
誠
(
まこと
)
の
救世教
(
きうせいけう
)
が
興
(
おこ
)
つて
来
(
き
)
たのだ。
069
大黒主
(
おほくろぬし
)
は
大雲山
(
たいうんざん
)
の
骨堂
(
こつだう
)
に
等
(
ひと
)
しい
牢獄
(
らうごく
)
とお
札
(
ふだ
)
に
等
(
ひと
)
しい
不換
(
ふくわん
)
紙幣
(
しへい
)
をもつて
絶対
(
ぜつたい
)
権威
(
けんゐ
)
の
維持
(
ゐぢ
)
につとめて
居
(
ゐ
)
るのだから、
070
矢張
(
やつぱり
)
八岐
(
やまたの
)
大蛇
(
をろち
)
の
再来
(
さいらい
)
と
云
(
い
)
はれても
仕方
(
しかた
)
がないわい。
071
そこを
三五教
(
あななひけう
)
が
看破
(
かんぱ
)
して
居
(
ゐ
)
るのだから
偉
(
えら
)
いものだよ。
072
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
に
遇
(
あ
)
つた
時
(
とき
)
には
僅
(
わづ
)
か
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
敵
(
てき
)
に
対
(
たい
)
して
三四百
(
さんしひやく
)
の
騎馬隊
(
きばたい
)
が
潰散
(
くわいさん
)
した
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
へば、
073
到底
(
たうてい
)
バラモン
教
(
けう
)
等
(
など
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
敵
(
てき
)
で
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
は
明白
(
めいはく
)
だ、
074
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
はこンな
吹
(
ふ
)
き
放
(
はな
)
しの
野営
(
やえい
)
の
門番
(
もんばん
)
をさせられて
居
(
ゐ
)
るが、
075
もしや
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
が
攻
(
せ
)
めて
来
(
き
)
たら
一番
(
いちばん
)
に
正面
(
しやうめん
)
衝突
(
しようとつ
)
をするのは、
076
貴様
(
きさま
)
と
俺
(
おれ
)
だ。
077
オイここは
一
(
ひと
)
つ
相談
(
さうだん
)
だが
大将
(
たいしやう
)
は
皆
(
みな
)
気楽
(
きらく
)
に
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
るだらうから、
078
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
脱営
(
だつえい
)
して
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
帰順
(
きじゆん
)
し
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ふ
方
(
はう
)
が
余程
(
よつぽど
)
当世流
(
たうせいりう
)
だよ。
079
一
(
ひと
)
つしかない
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てた
所
(
ところ
)
が、
080
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
国妾
(
こくせふ
)
養成所
(
やうせいじよ
)
の
国妾
(
こくせふ
)
学校
(
がくかう
)
を
立派
(
りつぱ
)
にするやうなものだ。
081
実
(
じつ
)
に
馬鹿
(
ばか
)
らしいぢやないか、
082
エーン』
083
テル
『オイ ハル
公
(
こう
)
、
084
国妾
(
こくせふ
)
学校
(
がくかう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるかい、
085
あれは
国立
(
こくりつ
)
女学校
(
ぢよがくかう
)
と
云
(
い
)
ふのだ、
086
立
(
りつ
)
と
女
(
ぢよ
)
と
貴様
(
きさま
)
は
一
(
ひと
)
つに
読
(
よ
)
むから
国妾
(
こくせふ
)
なぞと
読
(
よ
)
めるのだよ。
087
余程
(
よほど
)
文盲
(
もんまう
)
の
代物
(
しろもの
)
だなア』
088
ハル
『それだから
文盲省
(
もんもうしやう
)
の
許可
(
きよか
)
を
受
(
う
)
けて
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
るのぢやないか、
089
妾
(
せふ
)
もない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふない。
090
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大将
(
たいしやう
)
は
幾十
(
いくじふ
)
人
(
にん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
程
(
ほど
)
の
沢山
(
たくさん
)
の
女
(
をんな
)
をかかへ、
091
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
糸竹
(
しちく
)
管弦
(
くわんげん
)
の
響
(
ひびき
)
に
心腸
(
しんちやう
)
を
蕩
(
とろ
)
かし
酒池
(
しゆち
)
肉林
(
にくりん
)
の
楽
(
たの
)
しみに
耽
(
ふけ
)
り
利己
(
りこ
)
主義
(
しゆぎ
)
を
発揮
(
はつき
)
して
居
(
ゐ
)
るぢやないかい、
092
テル
公
(
こう
)
』
093
テル
『そりや
仕方
(
しかた
)
がないさ、
094
カビライ
国
(
こく
)
の
浄飯王
(
じやうばんわう
)
の
悉達
(
しつた
)
太子
(
たいし
)
でさへも
美姫
(
びき
)
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
を
侍
(
はべ
)
らしたと
云
(
い
)
ふぢやないか、
095
大黒主
(
おほくろぬし
)
が
五十
(
ごじふ
)
人
(
にん
)
や
六十
(
ろくじふ
)
人
(
にん
)
の
女房
(
にようばう
)
もつたつて
何
(
なに
)
がそれ
程
(
ほど
)
不思議
(
ふしぎ
)
なのだい。
096
今頃
(
いまごろ
)
の
女
(
をんな
)
は
一人前
(
いちにんまへ
)
の
女房
(
にようばう
)
にする
女
(
をんな
)
が
無
(
な
)
いから、
097
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
を
集
(
あつ
)
めて
初
(
はじ
)
めて
一人
(
ひとり
)
の
仕事
(
しごと
)
をさすのだ。
098
第一
(
だいいち
)
に
寝間
(
ねま
)
の
伽
(
とぎ
)
をする
奴
(
やつ
)
、
099
炊事
(
すゐじ
)
を
司
(
つかさど
)
る
奴
(
やつ
)
、
100
裁縫
(
さいほう
)
を
司
(
つかさど
)
る
奴
(
やつ
)
、
101
機
(
はた
)
を
織
(
お
)
る
奴
(
やつ
)
、
102
会計
(
くわいけい
)
を
司
(
つかさど
)
る
奴
(
やつ
)
、
103
下僕
(
しもべ
)
を
追
(
お
)
ひ
廻
(
まは
)
す
奴
(
やつ
)
と
云
(
い
)
ふやうに、
104
今
(
いま
)
の
女
(
をんな
)
は、
105
専門
(
せんもん
)
的
(
てき
)
だから
到底
(
たうてい
)
一人
(
ひとり
)
で
女房
(
にようばう
)
の
本職
(
ほんしよく
)
が
尽
(
つく
)
せぬからだ。
106
現代
(
げんだい
)
の
博士
(
はかせ
)
だつてさうぢやないか、
107
部分
(
ぶぶん
)
的
(
てき
)
の
専門学
(
せんもんがく
)
より
知
(
し
)
らないのだからなア、
108
理学
(
りがく
)
なら
理学
(
りがく
)
、
109
文学
(
ぶんがく
)
なら
文学
(
ぶんがく
)
、
110
法学
(
はふがく
)
なら
法学
(
はふがく
)
、
111
只
(
ただ
)
それ
一
(
ひと
)
つを
掴
(
つかま
)
へて
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
頭
(
あたま
)
を
痛
(
いた
)
め、
112
書物
(
しよもつ
)
と
首
(
くび
)
つ
引
(
ぴ
)
きで
居
(
ゐ
)
るものだから
遂
(
つひ
)
に
頭脳
(
づなう
)
の
変調
(
へんてう
)
を
来
(
きた
)
し、
113
やつと
博士
(
はかせ
)
か
馬鹿士
(
ばかせ
)
になるのぢやないか、
114
総
(
すべ
)
て
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はこンなものだよ、
115
ハル
公
(
こう
)
』
116
ハル
『オイ
貴様
(
きさま
)
の
名
(
な
)
はテルなり、
117
俺
(
おれ
)
の
名
(
な
)
はハルなり
照国別
(
てるくにわけ
)
、
118
治国別
(
はるくにわけ
)
の
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
頭字
(
かしらじ
)
を
取
(
と
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
119
何
(
なに
)
か
因縁
(
いんねん
)
があるのに
違
(
ちが
)
ひない。
120
キツと
此処
(
ここ
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
して
行
(
ゆ
)
けば
許
(
ゆる
)
して
呉
(
く
)
れるに
相違
(
さうゐ
)
ないから
行
(
ゆ
)
かうぢやないか、
121
行
(
ゆ
)
くなら
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
だからなア』
122
テル
『ハル
公
(
こう
)
、
123
貴様
(
きさま
)
余程
(
よほど
)
御幣
(
ごへい
)
舁
(
かつ
)
ぎになつたと
見
(
み
)
えるな、
124
大雲山
(
たいうんざん
)
が
余程
(
よほど
)
こたへたと
見
(
み
)
えるわい、
125
あゝ
何
(
なん
)
だかタンクが
破裂
(
はれつ
)
しさうだ、
126
売買
(
ばいばい
)
契約
(
けいやく
)
の
破棄
(
はき
)
をやつて
来
(
こ
)
うかなア』
127
ハル
『テル、
128
貴様
(
きさま
)
は
軍人
(
ぐんじん
)
で
居
(
ゐ
)
ながら、
129
内職
(
ないしよく
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのか、
130
そんな
事
(
こと
)
が
聞
(
きこ
)
えたら
大変
(
たいへん
)
だぞ』
131
テル
『
貴様
(
きさま
)
の
薄野呂
(
うすのろ
)
には
俺
(
おれ
)
も
感心
(
かんしん
)
した、
132
売買
(
ばいばい
)
契約
(
けいやく
)
の
破棄
(
はき
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
小便
(
せうべん
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ、
133
ハル
公
(
こう
)
』
134
ハル
『アハヽヽ、
135
それなら
大
(
たい
)
ウン
山
(
ざん
)
と、
136
キツパリ
断
(
ことわ
)
つて
来
(
こ
)
い、
137
その
方
(
はう
)
が
大便
利
(
だいべんり
)
かも
知
(
し
)
れないぞ、
138
屁
(
へ
)
のやうな
理屈
(
りくつ
)
をブツブツたれて
居
(
ゐ
)
た
処
(
ところ
)
でつまらぬぢやないか、
139
何程
(
なにほど
)
偉相
(
えらさう
)
に
云
(
い
)
つたところが、
140
暗黒
(
あんこく
)
無明
(
むみやう
)
の
世界
(
せかい
)
に
湧
(
わ
)
いた
人間
(
にんげん
)
よ、
141
余程
(
よつぽど
)
、
142
智者
(
ちしや
)
ぢや
学者
(
がくしや
)
ぢやと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
が
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
百万倍
(
ひやくまんばい
)
の
智慧
(
ちゑ
)
のある
人間
(
にんげん
)
でもやつぱり
人間
(
にんげん
)
は
人間
(
にんげん
)
だ、
143
人間
(
にんげん
)
の
暗
(
くら
)
い
知識
(
ちしき
)
では
一匹
(
いつぴき
)
の
蝗
(
いなご
)
に
一瞬間
(
いつしゆんかん
)
の
生命
(
いのち
)
を
与
(
あた
)
へる
事
(
こと
)
すら
出来
(
でき
)
ないのだ、
144
放屁
(
はうひ
)
一
(
ひと
)
つでさへ、
145
自分
(
じぶん
)
の
放
(
ひ
)
らうと
思
(
おも
)
ふ
時
(
とき
)
に
註文
(
ちうもん
)
通
(
どほ
)
り
放
(
ひ
)
る
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ない
不都合
(
ふつがふ
)
極
(
きは
)
まる
人間
(
にんげん
)
だからなア、
146
アハヽヽヽ』
147
テル
『ウフヽヽヽ』
148
かく
両人
(
りやうにん
)
が、
149
他愛
(
たあい
)
もなく
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
150
そこへやつて
来
(
き
)
たのは
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
のお
近侍
(
そばづき
)
のヨルである。
151
ヨルは
雨嵐
(
あめあらし
)
の
音
(
おと
)
を
圧
(
あつ
)
する
様
(
やう
)
な
蛮声
(
ばんせい
)
で、
152
ヨル
『これやこれや
両人
(
りやうにん
)
、
153
守衛
(
しゆゑい
)
も
致
(
いた
)
さず
勝手
(
かつて
)
気儘
(
きまま
)
に
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ひ
何
(
なに
)
を
喋
(
しやべ
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
154
これから
片彦
(
かたひこ
)
様
(
さま
)
のお
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
れるから
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ』
155
と
声高
(
こわだか
)
に
罵
(
ののし
)
るにぞ、
156
テル
公
(
こう
)
は
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
きながら、
157
テル
『ハイ、
158
一寸
(
ちよつと
)
小便
(
せうべん
)
の
話
(
はなし
)
をやつて
居
(
を
)
つたところです。
159
序
(
ついで
)
に
大便
(
だいべん
)
も
放屁
(
はうひ
)
も
話頭
(
わとう
)
に
上
(
のぼ
)
りましたが、
160
別
(
べつ
)
にそれ
以外
(
いぐわい
)
に
六
(
むつ
)
ケしい
話
(
はなし
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬ、
161
なあハル
公
(
こう
)
、
162
さうぢやつたぢやないか』
163
ハル
『ウンその
通
(
とほ
)
りその
通
(
とほ
)
り、
164
いやもう、
165
糞食時
(
くそくひどき
)
に
飯
(
めし
)
の
話
(
はなし
)
をしられて、
166
いやどつこい
小便呑
(
せうべんの
)
み
時
(
どき
)
に
酒
(
さけ
)
の
話
(
はなし
)
をしられて、
167
イヤもう
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
ぢやわい、
168
エヘヽヽヽ』
169
ヨル
『これやこれや
両人
(
りやうにん
)
、
170
俺
(
おれ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
るか、
171
全軍
(
ぜんぐん
)
の
監督
(
かんとく
)
ぢやぞ』
172
テル
『
監督
(
かんとく
)
はよく
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
りますわい、
173
燗徳利
(
かんどくり
)
ぢやとよろしいが、
174
こいつはポートワインだから、
175
冷徳利
(
ひやとくり
)
だ。
176
併
(
しか
)
しそンな
六
(
むつ
)
ケ
敷
(
し
)
い
顔
(
かほ
)
をせずに
一
(
ひと
)
つ
召上
(
めしあ
)
がつてはどうですか、
177
テルが
酌
(
しやく
)
をしませう、
178
いや
呑
(
の
)
みやがつたらどうですか、
179
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
上
(
あが
)
らぬ
神
(
かみ
)
はないと
云
(
い
)
ひますぜ』
180
ヨルは
呑
(
の
)
みたくて
堪
(
たま
)
らぬのを
耐
(
こら
)
へて、
181
態
(
わざ
)
と
声高
(
こわだか
)
に、
182
ヨル
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
酒
(
さけ
)
をもつて
此
(
この
)
方
(
はう
)
をたぶらかし、
183
悪事
(
あくじ
)
の
露顕
(
ろけん
)
を
防
(
ふせ
)
がうと
致
(
いた
)
す、
184
憎
(
につ
)
くき
門番
(
もんばん
)
、
185
そンな
話
(
はなし
)
ぢやなからう。
186
国妾
(
こくせふ
)
学校
(
がくかう
)
について
大変
(
たいへん
)
な、
187
酷評
(
こくひやう
)
をして
居
(
ゐ
)
たぢやないか、
188
事
(
こと
)
にヨルと
貴様
(
きさま
)
の
首
(
くび
)
が
危
(
あぶ
)
ないぞ』
189
ハル
『それだからテルとハルの
首
(
くび
)
のある
中
(
うち
)
に
一杯
(
いつぱい
)
でも
呑
(
の
)
ンで
置
(
お
)
かねば
損
(
そん
)
ですからなア、
190
まあ
一
(
ひと
)
つ
聞召
(
きこしめ
)
せ、
191
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
が
はんなり
と
致
(
いた
)
しますよ』
192
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
につきつくれば、
193
ヨルは
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
がクウクウと
催促
(
さいそく
)
をする。
194
ヨル
『これやこれや
些
(
ちつと
)
心得
(
こころえ
)
ぬか、
195
戦陣
(
せんぢん
)
で
酒
(
さけ
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だぞ。
196
さうして
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は、
197
照国別
(
てるくにわけ
)
、
198
治国別
(
はるくにわけ
)
に
帰順
(
きじゆん
)
しようと
話
(
はな
)
して
居
(
ゐ
)
たではないか。
199
その
方
(
はう
)
は
隠謀
(
いんぼう
)
未遂罪
(
みすゐざい
)
だから、
200
これから
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
前
(
まへ
)
に
引
(
ひ
)
き
立
(
た
)
てる、
201
神妙
(
しんめう
)
に
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
せ』
202
テル
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
203
何時
(
いつ
)
でも
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
廻
(
まは
)
しませう。
204
今晩
(
こんばん
)
はどうせテルの
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
が
飛
(
と
)
ぶのだから、
205
冥土
(
めいど
)
の
土産
(
みやげ
)
に、
206
も
一杯
(
いつぱい
)
呑
(
の
)
まして
下
(
くだ
)
さい。
207
そして
貴方
(
あなた
)
も
生別
(
せいべつ
)
死別
(
しべつ
)
の
盃
(
さかづき
)
をして
下
(
くだ
)
さいな』
208
ヨル
『その
方
(
はう
)
が、
209
この
世
(
よ
)
の
別
(
わか
)
れとあれば
役目
(
やくめ
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
呑
(
の
)
ンでやるのも
一
(
ひと
)
つの
情
(
なさけ
)
ぢや。
210
よし
差支
(
さしつかへ
)
ない、
211
いや
苦
(
くる
)
しうない、
212
注
(
つ
)
がして
遣
(
つか
)
はす』
213
ヨルの
喉
(
のど
)
はクウクウと
二人
(
ふたり
)
の
耳
(
みみ
)
に
聞
(
きこ
)
える
程
(
ほど
)
催促
(
さいそく
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
214
二人
(
ふたり
)
は
瓶
(
びん
)
のキルクを
態
(
わざ
)
とに
暇
(
ひま
)
を
入
(
い
)
れて
抜
(
ぬ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
215
ヨルは
呑
(
の
)
みたくて
耐
(
たま
)
らず、
216
人
(
ひと
)
が
居
(
を
)
らねば
飛
(
と
)
びつきたい
程
(
ほど
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
217
ヨル
『これやこれや、
218
何
(
なに
)
をグヅグヅ
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るか、
219
早
(
はや
)
く
詰
(
つめ
)
を
取
(
と
)
らないか』
220
ハル
『そんな
殺生
(
せつしやう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな、
221
たつた
今
(
いま
)
首
(
くび
)
の
飛
(
と
)
ぶ
人間
(
にんげん
)
ぢやありませぬか。
222
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
かなんぞのやうに
爪
(
つめ
)
を
取
(
と
)
るなぞとそんな
二重
(
にぢゆう
)
成敗
(
せいばい
)
をするものぢやありませぬよ』
223
ヨル
『
つめ
を
取
(
と
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
早
(
はや
)
くキルクを
抜
(
ぬ
)
けと
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
ぢや』
224
ハル
『たうとう
時節
(
じせつ
)
到来
(
たうらい
)
、
225
酒瓶
(
さけびん
)
の
首
(
くび
)
がキルクと
抜
(
ぬ
)
けよつた。
226
サアサアお
上
(
あが
)
り
遊
(
あそ
)
ばせ、
227
随分
(
ずゐぶん
)
いい
味
(
あぢ
)
がしますよ』
228
ヨル
『
早
(
はや
)
く
注
(
つ
)
がないか、
229
ヨル
監督
(
かんとく
)
に
対
(
たい
)
しては、
230
別
(
べつ
)
に
礼式
(
れいしき
)
も
何
(
なに
)
もいつたものぢやない、
231
こんな
戦陣
(
せんぢん
)
にあつては
上下
(
じやうげ
)
の
障壁
(
しやうへき
)
を
取
(
と
)
り、
232
何事
(
なにごと
)
も
簡単
(
かんたん
)
に
手取
(
てつと
)
り
早
(
ばや
)
くやるものぢや』
233
ハル
『そんなら、
234
この
儘
(
まま
)
ラツパ
呑
(
のみ
)
とお
出
(
で
)
かけになつたらどうですか』
235
ヨル
『
戦陣
(
せんぢん
)
にあつてラツパのみとはこいつは
面白
(
おもしろ
)
い、
236
ラツパの
一声
(
いつせい
)
で
三軍
(
さんぐん
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
動
(
うご
)
かすのだからなア、
237
武道
(
ぶだう
)
の
達人
(
たつじん
)
が
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
を
呑
(
の
)
むのは
合
(
あ
)
つたり
叶
(
かな
)
つたりだ』
238
と
云
(
い
)
ひながら、
239
ハルがキルクを
抜
(
ぬ
)
いた
酒瓶
(
さけびん
)
を
一
(
いち
)
ダースばかりつづけざまに
呑
(
の
)
み
干
(
ほ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
240
忽
(
たちま
)
ちヨルは
足
(
あし
)
を
失
(
うしな
)
ひヨロヨロとしながら
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
にドスンと
倒
(
たふ
)
れ、
241
ヨル
『あゝ、
242
そこらがなンとはなしにポーとして
来
(
き
)
た。
243
これだからポーとワインと
云
(
い
)
ふのだなア、
244
何
(
なん
)
と
酒
(
さけ
)
と
云
(
い
)
ふものは
怪体
(
けつたい
)
な
代物
(
しろもの
)
だナ、
245
俺
(
おれ
)
はもう
軍人
(
ぐんじん
)
が
嫌
(
いや
)
になつた。
246
オイ、
247
テル、
248
ハル、
249
このヨルさま
等
(
ら
)
がヨルに
紛
(
まぎ
)
れて
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
テル
、
250
そして
ハル
バルと、
251
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
帰順
(
きじゆん
)
と
参
(
まゐ
)
らうぢやないか、
252
エーン
何
(
なん
)
だか
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
俺
(
おれ
)
も
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
はバラモン
教
(
けう
)
がいやになつた。
253
三五教
(
あななひけう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
や
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
打
(
う
)
ち
出
(
だ
)
され
人馬
(
じんば
)
諸共
(
もろとも
)
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
るとは
実
(
じつ
)
に
情
(
なさけ
)
なくなつて
来
(
き
)
た。
254
これを
思
(
おも
)
へば、
255
実
(
じつ
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
天
(
てん
)
のミロク
様
(
さま
)
、
256
バラモン
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
大蛇
(
をろち
)
の
乾児
(
こぶん
)
様
(
さま
)
位
(
くらゐ
)
に
違
(
ちが
)
ひないよ、
257
こンな
事
(
こと
)
をして
居
(
ゐ
)
ると
終
(
しまひ
)
には
地獄
(
ぢごく
)
の
釜炙
(
かまいり
)
ぢや。
258
テル、
259
ハル
貴様
(
きさま
)
も
同意見
(
どういけん
)
だらう』
260
テル
『そいつは
何
(
なん
)
とも
明言
(
めいげん
)
し
兼
(
か
)
ねますわい、
261
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
は
分
(
わか
)
りませぬからな、
262
ウツカリした
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
へませぬぜ、
263
ヨルさまお
前
(
まへ
)
さまは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
をとつ
捕
(
つか
)
まへて
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
前
(
まへ
)
につき
出
(
だ
)
し
手柄
(
てがら
)
をする
心算
(
つもり
)
だらう、
264
併
(
しか
)
し
賤
(
いや
)
しい
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひよつて
身体
(
からだ
)
が
自由
(
じいう
)
にならないものだからそンな
事
(
こと
)
をいつて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだらう。
265
そンな
事
(
こと
)
にチヨロまかされるやうなテル、
266
ハルさまぢやありませぬぞえ』
267
ヨル
『さう
貴様
(
きさま
)
が
疑
(
うたが
)
へば
仕方
(
しかた
)
がない、
268
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
俺
(
おれ
)
は
決
(
けつ
)
して、
269
酔
(
よ
)
うては
居
(
ゐ
)
るが
酒呑
(
さけの
)
み
本性
(
ほんしやう
)
違
(
たが
)
はずと
云
(
い
)
うて
嘘
(
うそ
)
は
云
(
い
)
はない、
270
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
をとらまへようと
思
(
おも
)
へば
何
(
なん
)
でもない
事
(
こと
)
ぢや、
271
己
(
おれ
)
が
懐
(
ふところ
)
にもつて
居
(
ゐ
)
る
合図
(
あひづ
)
の
笛
(
ふえ
)
さへ
吹
(
ふ
)
けば、
272
何十
(
なんじふ
)
人
(
にん
)
でも
此
(
この
)
場
(
ば
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るのだから』
273
テル
『さうすると、
274
矢張
(
やつぱ
)
り
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
きよつたのだな、
275
ヨシヨシ ヨルも
矢張
(
やつぱ
)
り
吾
(
わ
)
がテル
党
(
たう
)
の
士
(
し
)
だ。
276
これで
三
(
さん
)
人
(
にん
)
揃
(
そろ
)
うた。
277
天地人
(
てんちじん
)
、
278
日地月
(
につちげつ
)
、
279
霊力体
(
れいりよくたい
)
だ、
280
御
(
ご
)
三体
(
さんたい
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ。
281
三人世
(
さんにんよ
)
の
元
(
もと
)
、
282
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
こンな
結構
(
けつこう
)
が
世
(
よ
)
にあらうか、
283
どうだ
三角
(
さんかく
)
同盟
(
どうめい
)
の
成立
(
せいりつ
)
した
祝
(
いはひ
)
に
土堤切
(
どてつき
)
り
発動
(
はつどう
)
して
見
(
み
)
ようぢやないか』
284
ヨル
『そいつは
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ。
285
こンな
所
(
ところ
)
で
噪
(
さわ
)
いで
居
(
ゐ
)
ては
見
(
み
)
つかつては
大変
(
たいへん
)
だ。
286
オイ
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
此処
(
ここ
)
にあるだけの
酒
(
さけ
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ひ、
287
夜
(
よる
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
ようぢやないか。
288
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
大変
(
たいへん
)
だからのう』
289
テル
『テルの
目
(
め
)
からは、
290
ヨルさま、
291
お
前
(
まへ
)
其
(
その
)
足許
(
あしもと
)
であの
山路
(
やまみち
)
が
行
(
ゆ
)
けるかい、
292
危
(
あぶ
)
ないものだぞ』
293
ヨル
『
俺
(
おれ
)
は
動
(
うご
)
けなくても
構
(
かま
)
はないぢやないか、
294
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
の
足
(
あし
)
さへ
達者
(
たつしや
)
であれば、
295
山駕籠
(
やまかご
)
に
乗
(
の
)
せて
舁
(
か
)
ついで
行
(
ゆ
)
けばよいのだ。
296
幸
(
さいはひ
)
ここに
山駕籠
(
やまかご
)
が
四五挺
(
しごちやう
)
ある、
297
これを
一挺
(
いつちやう
)
何々
(
なになに
)
して
俺
(
おれ
)
を
乗
(
の
)
せるのだなア』
298
ハル
『
何
(
なん
)
と
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るわい、
299
併
(
しか
)
しながら
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すのは
今晩
(
こんばん
)
に
限
(
かぎ
)
る、
300
仕方
(
しかた
)
がない、
301
オイ、
302
テルさま ヨルさまを
舁
(
か
)
ついで
夜
(
よる
)
の
山道
(
やまみち
)
を
上
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
かうぢやないか、
303
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
に
往
(
ゆ
)
けば
最早
(
もはや
)
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
だからなア』
304
ここに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一挺
(
いつちやう
)
の
駕籠
(
かご
)
を
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
し、
305
ヨルを
乗
(
の
)
せテル、
306
ハルの
両人
(
りやうにん
)
は
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しき
歌
(
うた
)
を
小声
(
こごゑ
)
に
喋
(
しやべ
)
りながら、
307
ソツと
浮木
(
うきき
)
が
原
(
はら
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
を
脱出
(
だつしゆつ
)
し、
308
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
をさして
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く。
309
月
(
つき
)
は
黒雲
(
くろくも
)
の
帳
(
とばり
)
を
破
(
やぶ
)
つて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
頭上
(
づじやう
)
をニコニコ
笑
(
わら
)
ひながら
覗
(
のぞ
)
かせたまふ。
310
(
大正一一・一二・七
旧一〇・一九
加藤明子
録)
311
(昭和九・一二・二一 王仁校正)
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