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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第44巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 神示の合離
第1章 笑の恵
第2章 月の影
第3章 守衛の囁
第4章 滝の下
第5章 不眠症
第6章 山下り
第7章 山口の森
第2篇 月明清楓
第8章 光と熱
第9章 怪光
第10章 奇遇
第11章 腰ぬけ
第12章 大歓喜
第13章 山口の別
第14章 思ひ出の歌
第3篇 珍聞万怪
第15章 変化
第16章 怯風
第17章 罵狸鬼
第18章 一本橋
第19章 婆口露
第20章 脱線歌
第21章 小北山
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第44巻(未の巻)
> 第3篇 珍聞万怪 > 第16章 怯風
<<< 変化
(B)
(N)
罵狸鬼 >>>
第一六章
怯風
(
けふふう
)
〔一一八五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
篇:
第3篇 珍聞万怪
よみ(新仮名遣い):
ちんぶんばんかい
章:
第16章 怯風
よみ(新仮名遣い):
きょうふう
通し章番号:
1185
口述日:
1922(大正11)年12月09日(旧10月21日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年8月18日
概要:
舞台:
野中の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
万公はうら寂しく、寝付かれずに一行の寝息をうかがいながら夜明けを待っている。このさびしい森でぐっすり寝ている連れの三人の肝の太さに感心し、我が身を省みて、言霊を打ち出してみることにした。
そうするうちに、五三公は幽霊の夢に驚いて目を覚ました。五三公は不安そうに治国別はちゃんとここに寝ているだろうかと万公に尋ねた。五三公と万公は寝られずに話を続けている。
すると少し離れたところで何かひそひそと人声が聞こえてきた。万公と五三公は口をつぐんで耳を傾けた。これはバラモン教の斥候、アク、タク、テクであった。三人は昨晩、鬼娘におどかされた後に、三五教の宣伝歌で追い散らされて恐ろしい目にあったとびくついている。
万公と五三公は、鬼の夫婦の真似をして三人を驚かせた。アク、テク、タクは腰が抜けてその場から動けなくなってしまった。そこへ月の光が照らして、一同の顔は互いに明らかになった。
万公と五三公は竜公と起こそうとしたが、どうしたわけか治国別と竜公の姿が見えない(治国別と竜公はこっそり浮木の森へ向かった。第47巻第1章を見よ)。代わりに起きてきたのは松彦であった。二人は松彦に、腰が抜けて動けなくなっているバラモン軍の三人を見せた。
松彦はアク、テク、タクの三人を安堵させて、一緒に話をするようにと打ち解けた。万公と五三公も三人を受け入れることとし、五三公はこの場のなごやかな空気に思わず愉快気に笑い出した。
この笑い声はあたりの陰鬱を破り、一同はにわかに陽気となって敵味方声をそろえて高笑いをした。今まで我が物顔にこずえを飛び交っていた猿どもは一度に声を潜めてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-02-15 18:07:01
OBC :
rm4416
愛善世界社版:
212頁
八幡書店版:
第8輯 213頁
修補版:
校定版:
222頁
普及版:
91頁
初版:
ページ備考:
001
冷
(
つめ
)
たき
初冬
(
しよとう
)
の
凩
(
こがらし
)
に
002
吹
(
ふ
)
かれて
降
(
ふ
)
り
来
(
く
)
る
村時雨
(
むらしぐれ
)
003
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
004
珍彦
(
うづひこ
)
親子
(
おやこ
)
を
河鹿山
(
かじかやま
)
005
登
(
のぼ
)
り
口
(
ぐち
)
まで
送
(
おく
)
りつけ
006
万公
(
まんこう
)
五三公
(
いそこう
)
竜公
(
たつこう
)
や
007
松彦
(
まつひこ
)
引
(
ひき
)
つれ
大野原
(
おほのはら
)
008
時雨
(
しぐれ
)
を
冒
(
をか
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
009
歩
(
あゆ
)
みも
早
(
はや
)
き
山口
(
やまぐち
)
の
010
森
(
もり
)
をば
右手
(
めて
)
に
眺
(
なが
)
めつつ
011
草野
(
くさの
)
を
分
(
わ
)
けてやうやうに
012
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
に
到着
(
たうちやく
)
し
013
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
に
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
み
014
身
(
み
)
を
忍
(
しの
)
びつつ
窺
(
うかが
)
へば
015
鬼
(
おに
)
をもひしぐ
荒男
(
あらをとこ
)
016
一人
(
ひとり
)
のか
弱
(
よわ
)
き
女
(
をんな
)
をば
017
捉
(
とら
)
へて
無体
(
むたい
)
の
打擲
(
ちやうちやく
)
を
018
なし
居
(
を
)
れるこそ
歎
(
うた
)
てけれ
019
治国別
(
はるくにわけ
)
は
木蔭
(
こかげ
)
より
020
此
(
この
)
惨状
(
さんじやう
)
を
一瞥
(
いちべつ
)
し
021
其
(
その
)
成行
(
なりゆき
)
に
任
(
まか
)
す
内
(
うち
)
022
女
(
をんな
)
は
忽
(
たちま
)
ち
白煙
(
はくえん
)
と
023
なつて
消
(
き
)
えしと
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
に
024
思
(
おも
)
ひもよらぬ
白狐
(
しろぎつね
)
025
のそりのそりと
這
(
は
)
ひ
出
(
いだ
)
し
026
野中
(
のなか
)
を
指
(
さ
)
して
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
027
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
028
互
(
たがひ
)
に
棍棒
(
こんぼう
)
ふりかざし
029
眼
(
まなこ
)
くらみて
同士打
(
どうしうち
)
030
挑
(
いど
)
み
戦
(
たたか
)
ふ
可笑
(
をか
)
しさに
031
万公
(
まんこう
)
さまは
吹
(
ふ
)
きいだす
032
治国別
(
はるくにわけ
)
も
松彦
(
まつひこ
)
も
033
五三公
(
いそこう
)
竜公
(
たつこう
)
もこらえかね
034
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
せば
035
男
(
をとこ
)
は
驚
(
おどろ
)
き
雲
(
くも
)
霞
(
かすみ
)
036
森
(
もり
)
の
奥
(
おく
)
へと
一散
(
いつさん
)
に
037
命
(
いのち
)
からがら
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
038
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
039
月日
(
つきひ
)
の
白狐
(
びやくこ
)
の
出現
(
しゆつげん
)
に
040
驚異
(
きやうい
)
の
眼
(
まなこ
)
を
見
(
み
)
はりつつ
041
白狐
(
びやつこ
)
の
後
(
あと
)
を
伏拝
(
ふしをが
)
み
042
森
(
もり
)
の
広場
(
ひろば
)
に
蓑
(
みの
)
を
布
(
し
)
き
043
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
044
生言霊
(
いくことたま
)
を
唱
(
とな
)
へつつ
045
一夜
(
いちや
)
を
茲
(
ここ
)
に
明
(
あ
)
かさむと
046
肱
(
ひぢ
)
を
枕
(
まくら
)
に
横
(
よこ
)
たはる
047
冷
(
つめ
)
たき
風
(
かぜ
)
は
容赦
(
ようしや
)
なく
048
森
(
もり
)
の
梢
(
こずゑ
)
を
揺
(
ゆる
)
がして
049
ザワザワザワと
鳴
(
な
)
り
立
(
た
)
てる
050
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
にキヤツ キヤツと
051
聞
(
きこ
)
ゆる
声
(
こゑ
)
は
山猿
(
やまざる
)
か
052
但
(
ただし
)
は
魔神
(
まがみ
)
の
襲来
(
しふらい
)
か
053
只事
(
ただごと
)
ならじと
万公
(
まんこう
)
は
054
一人
(
ひとり
)
胸
(
むね
)
をば
躍
(
をど
)
らせて
055
眠
(
ねむ
)
りもえせずパチパチと
056
目
(
め
)
を
繁叩
(
しばたた
)
き
座
(
すわ
)
りゐる。
057
万公
(
まんこう
)
は
何
(
なん
)
となく、
058
心
(
うら
)
淋
(
さび
)
しく、
059
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
に
寝
(
ね
)
つかれねば、
060
横
(
よこ
)
になつて
見
(
み
)
たり、
061
坐
(
すわ
)
つて
見
(
み
)
たり、
062
一行
(
いつかう
)
の
寝息
(
ねいき
)
を
窺
(
うかが
)
つたりなどして、
063
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けるのを
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
かれと
待
(
ま
)
つてゐる。
064
万公
『
先生
(
せんせい
)
と
言
(
い
)
ひ、
065
松彦
(
まつひこ
)
さまと
云
(
い
)
ひ、
066
肝玉
(
きもだま
)
の
太
(
ふと
)
い
方
(
かた
)
計
(
ばか
)
り、
067
斯
(
か
)
う
他愛
(
たあい
)
もなく
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
はれては
淋
(
さび
)
しい
事
(
こと
)
だわい、
068
俺
(
おり
)
や
又
(
また
)
何
(
ど
)
うして
寝
(
ね
)
られぬのか
知
(
し
)
らぬがなア、
069
昨夜
(
さくや
)
のやうに
又
(
また
)
もや
楓
(
かへで
)
の
化者
(
ばけもの
)
がやつて
来
(
き
)
よつたなら、
070
おらモウ、
071
仮令
(
たとへ
)
真人間
(
まにんげん
)
であらうと
辛棒
(
しんぼう
)
が
出来
(
でき
)
ないワ。
072
七八分
(
しちはちぶ
)
迄
(
まで
)
肝玉
(
きもだま
)
をどつかへやつて
了
(
しま
)
つたのだから、
073
強
(
つよ
)
相
(
さう
)
に
言
(
い
)
うてるものの、
074
実際
(
じつさい
)
はビクビクものだ、
075
誰
(
たれ
)
か
起
(
お
)
きて
下
(
くだ
)
さらぬかいなア。
076
折角
(
せつかく
)
の
安眠
(
あんみん
)
を
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
してお
目玉
(
めだま
)
頂戴
(
ちやうだい
)
してはたまらないし、
077
何
(
なん
)
だか
首筋元
(
くびすぢもと
)
がゾクゾクして
来
(
き
)
だした。
078
誰
(
たれ
)
か
物
(
もの
)
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
一人
(
ひとり
)
あると、
079
互
(
たがひ
)
に
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
うて
此
(
この
)
淋
(
さび
)
しさを
紛
(
まぎ
)
らすのだけれど
鼾
(
いびき
)
計
(
ばか
)
りでは
根
(
ね
)
つから
有難
(
ありがた
)
くないわい。
080
五三公
(
いそこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
081
怪体
(
けたい
)
な
鼾
(
いびき
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
082
何
(
なん
)
だ。
083
がらがらがらがらといふ
鼾
(
いびき
)
がどこにあるかい。
084
グツグツグツグツと
鼻
(
はな
)
を
鳴
(
な
)
らしてゐるのは、
085
コリヤ
竜公
(
たつこう
)
だろ、
086
丸
(
まる
)
でお
粥
(
かゆ
)
をたいた
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよる。
087
エヽ、
088
こンな
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
益々
(
ますます
)
淋
(
さび
)
しうなつて
来
(
き
)
た。
089
一
(
ひと
)
つ
鼻
(
はな
)
でも
摘
(
つ
)
まンで
起
(
おこ
)
してやろかな、
090
怒
(
おこ
)
つたら
罪
(
つみ
)
のない
喧嘩
(
けんくわ
)
を
始
(
はじ
)
める
迄
(
まで
)
の
事
(
こと
)
だ。
091
何
(
なん
)
とかして
紛
(
まぎ
)
らさなくちや、
092
仕方
(
しかた
)
がないワ。
093
オウさうださうだ、
094
言霊
(
ことたま
)
を
忘
(
わす
)
れて
居
(
を
)
つた。
095
夜前
(
やぜん
)
の
先生
(
せんせい
)
に
聞
(
き
)
いた
言霊
(
ことたま
)
を
一
(
ひと
)
つ
打出
(
うちだ
)
して
見
(
み
)
よう。
096
さうすれば、
097
陰鬱
(
いんうつ
)
な
空気
(
くうき
)
がどつかへ
退散
(
たいさん
)
し、
098
俺
(
おれ
)
の
気分
(
きぶん
)
もさえるだろ。
099
エーエ、
100
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
、
101
早
(
はや
)
から
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
しよる。
102
おりやそンな
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だないが、
103
怪体
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
104
弱
(
よわ
)
つたらしい
守護神
(
しゆごじん
)
がくつついてると
見
(
み
)
えるわい』
105
五三公
(
いそこう
)
は
昨夜
(
さくや
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たと
見
(
み
)
え、
106
いやらしい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
107
五三公
『キヤア、
108
幽霊
(
いうれい
)
だア、
109
鬼娘
(
おにむすめ
)
だア、
110
オイ
万公
(
まんこう
)
、
111
ウニヤ ウニヤ ウニヤ』
112
万公
『アヽア、
113
又
(
また
)
ビツクリさしよつたナ、
114
此奴
(
こいつ
)
ア
一
(
ひと
)
つ
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
してやろ、
115
襲
(
おそ
)
はれてけつかるのだろ。
116
オイオイ
五三公
(
いそこう
)
、
117
起
(
お
)
きたり
起
(
お
)
きたり、
118
万公
(
まんこう
)
さまだぞ、
119
大変
(
たいへん
)
魘
(
うな
)
されてるぢやないか』
120
五三公
『あ……、
121
恐
(
おそ
)
ろしことだつた。
122
よう
起
(
おこ
)
してくれた。
123
万公
(
まんこう
)
、
124
お
前
(
まへ
)
又
(
また
)
無事
(
ぶじ
)
で
居
(
を
)
つたのか。
125
マアそれで
安心
(
あんしん
)
だ』
126
万公
『
無事
(
ぶじ
)
で
居
(
を
)
つたかて、
127
……
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか、
128
俺
(
おれ
)
の
夢
(
ゆめ
)
でも
見
(
み
)
たのかい』
129
五三公
『ウーン、
130
見
(
み
)
た
見
(
み
)
た、
131
貴様
(
きさま
)
はなア、
132
昨夜
(
さくや
)
会
(
あ
)
うた
楓
(
かへで
)
さまの
変装
(
へんさう
)
以上
(
いじやう
)
の……
厭
(
いや
)
らしい
怪物
(
くわいぶつ
)
が
現
(
あら
)
はれて、
133
赤黒
(
あかぐろ
)
い
痩
(
やせ
)
た
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して、
134
貴様
(
きさま
)
の
素
(
そ
)
つ
首
(
くび
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
135
山奥
(
やまおく
)
へひつ
攫
(
さら
)
へて
行
(
い
)
つた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだ。
136
其
(
その
)
時
(
とき
)
にキヤアキヤアとお
前
(
まへ
)
の
泣
(
な
)
く
声
(
こゑ
)
が
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
厭
(
いや
)
らしかつたよ。
137
まだ
誰
(
たれ
)
かキヤアキヤア
言
(
い
)
つてるぢやないか』
138
万公
(
まんこう
)
は
身慄
(
みぶる
)
ひし
乍
(
なが
)
ら、
139
万公
『
貴様
(
きさま
)
は
身魂
(
みたま
)
が
曇
(
くも
)
つて
居
(
ゐ
)
るから、
140
そンなケヽ
怪体
(
けたい
)
な、
141
悪夢
(
あくむ
)
に
魘
(
おそ
)
はれるのだ。
142
キヤツ キヤツ
云
(
い
)
うてるのは
猿
(
さる
)
の
声
(
こゑ
)
だよ。
143
オイちとしつかりせぬかい。
144
エヽー、
145
万公
(
まんこう
)
だつて
気味
(
きみ
)
が
悪
(
わる
)
て、
146
たまらぬぢやないか。
147
せうもない
夢
(
ゆめ
)
を
聞
(
き
)
かされて……』
148
五三公
(
いそこう
)
は
不安
(
ふあん
)
さうに、
149
五三公
『
先生
(
せんせい
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られるかなア』
150
万公
『
居
(
ゐ
)
られえでかい。
151
現
(
げん
)
に
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
鼾
(
いびき
)
がしてるぢやないか。
152
余
(
あま
)
り
暗
(
くら
)
くつてお
姿
(
すがた
)
はハツキリせぬが、
153
大抵
(
たいてい
)
鼾
(
いびき
)
で
分
(
わか
)
つてるわ』
154
五三公
『さうだらうかなア。
155
俺
(
おれ
)
の
夢
(
ゆめ
)
には、
156
貴様
(
きさま
)
が
化物
(
ばけもの
)
に
引掴
(
ひつつか
)
まれ、
157
キヤアキヤア
言
(
い
)
つて
逃
(
に
)
げた
時
(
とき
)
、
158
治国別
(
はるくにわけ
)
の
先生
(
せんせい
)
と
松彦
(
まつひこ
)
さまとが、
159
後
(
あと
)
追
(
お
)
つかけて
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
はれた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだ』
160
万公
『そら
夢
(
ゆめ
)
だ。
161
現
(
げん
)
に
此処
(
ここ
)
に
鼾
(
いびき
)
をかいて
居
(
を
)
られるのだからマア
安心
(
あんしん
)
せい。
162
時
(
とき
)
に
竜公
(
たつこう
)
を
一
(
ひと
)
つ
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
してくれぬか、
163
貴様
(
きさま
)
と
二人
(
ふたり
)
で
面白
(
おもしろ
)
うない
話
(
はなし
)
をしてゐると、
164
だんだん
体
(
からだ
)
が
縮
(
ちぢ
)
まるやうになつて
来
(
く
)
るワ、
165
何
(
なん
)
とマア
陰気
(
いんき
)
な
夜
(
よ
)
さぢやな』
166
五三公
『それ
程
(
ほど
)
淋
(
さび
)
しければ、
167
俺
(
おれ
)
に
喰
(
くら
)
ひついて
居
(
を
)
れ。
168
言
(
い
)
うても
五三公
(
いそこう
)
さまは
肝
(
きも
)
つ
玉
(
たま
)
が
太
(
ふと
)
いからなア』
169
万公
『さうだらう、
170
夢
(
ゆめ
)
見
(
み
)
てもビツクリするやうな
男
(
をとこ
)
だからな、
171
ヘン』
172
二三間
(
にさんげん
)
傍
(
かたはら
)
に
何
(
なに
)
かヒソヒソと
人声
(
ひとごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
173
万公
(
まんこう
)
、
174
五三公
(
いそこう
)
は
俄
(
にはか
)
に
口
(
くち
)
をつめ、
175
抱
(
だき
)
ついた
儘
(
まま
)
、
176
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
け
出
(
だ
)
した。
177
アク
『オイ、
178
テク、
179
昨夜
(
さくや
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
驚
(
おどろ
)
いたねえ、
180
今晩
(
こんばん
)
もこンな
所
(
ところ
)
で
休
(
やす
)
むのはいいが、
181
又
(
また
)
ホツホヽなンて
仰有
(
おつしや
)
ると、
182
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
はアクさまも
居
(
ゐ
)
たたまらないから、
183
小声
(
こごゑ
)
で
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
を
拝
(
をが
)
まうぢやないか』
184
テク
『コリヤ、
185
アク、
186
貴様
(
きさま
)
も
悪人
(
あくにん
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だなア。
187
人
(
ひと
)
に
相談
(
さうだん
)
しなくつても、
188
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ねが
)
つたら
何
(
ど
)
うだい』
189
アク
『
俺
(
おれ
)
だつて
余
(
あま
)
りビツクリしたので、
190
神
(
かみ
)
さままでが
怖
(
こは
)
うなつて、
191
連
(
つれ
)
がなくては
拝
(
をが
)
めぬぢやないか。
192
どうだ、
193
三
(
さん
)
人
(
にん
)
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
せうぢやないか。
194
又
(
また
)
ホツホヽヽがやつて
来
(
き
)
さうだぞ。
195
どうも
陰欝
(
いんうつ
)
になつて
来
(
き
)
た。
196
僅
(
わづ
)
か
二十
(
にじふ
)
里
(
り
)
の
道
(
みち
)
を
猫
(
ねこ
)
の
様
(
やう
)
に、
197
草原
(
くさはら
)
計
(
ばか
)
りやつて
来
(
き
)
たのだから、
198
枯芒
(
かれすすき
)
で
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
顔
(
かほ
)
も
疵
(
きず
)
だらけだ。
199
何
(
なん
)
だかピリピリと
体中
(
からだぢう
)
が
痛
(
いた
)
くて
仕方
(
しかた
)
がないワ』
200
テク
『さうだから、
201
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
の
道
(
みち
)
を
俺
(
おれ
)
の
名
(
な
)
のやうに
テク
らうといふのに、
202
貴様
(
きさま
)
が
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
誘
(
さそ
)
はれて、
203
道
(
みち
)
もない
所
(
ところ
)
を
四這
(
よつばひ
)
になつて
歩
(
ある
)
きよるものだから……
自業
(
じごふ
)
自得
(
じとく
)
だよ』
204
アク
『それだと
云
(
い
)
つて、
205
うつかり
立
(
た
)
つて
歩
(
ある
)
かうものなら、
206
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
体
(
からだ
)
が
見
(
み
)
えるぢやないか。
207
もしも
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
にでも
見
(
み
)
つけられてみよ。
208
それこそ
大変
(
たいへん
)
だ。
209
アクさまの
提案
(
ていあん
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
したお
蔭
(
かげ
)
に
依
(
よ
)
つて、
210
やうやう、
211
此処
(
ここ
)
まで
安着
(
あんちやく
)
したではないか。
212
オイ、
213
タク、
214
何
(
なん
)
だ、
215
糞落着
(
くそおちつ
)
きに
落
(
おち
)
つきよつて、
216
チと
何
(
なに
)
か
話
(
はなし
)
でもせぬかい、
217
淋
(
さび
)
しうて
仕方
(
しかた
)
がないワ』
218
タク
『おりやモウ
腰
(
こし
)
が
痛
(
い
)
タク
て、
219
話
(
はなし
)
どころかい。
220
気息
(
きそく
)
奄々
(
えんえん
)
だ。
221
随分
(
ずゐぶん
)
四足
(
よつあし
)
の
真似
(
まね
)
も
苦
(
くる
)
しいものだなア』
222
アク
『
貴様
(
きさま
)
はコンパスが
長
(
なが
)
くて、
223
手
(
て
)
の
方
(
はう
)
が
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
短
(
みじか
)
いから、
224
四足
(
よつあし
)
になるのもえらかろ、
225
ソリヤ
尤
(
もつと
)
もだ。
226
併
(
しか
)
し
足
(
あし
)
の
長
(
なが
)
いのは
手
(
て
)
の
長
(
なが
)
いのよりもマシだ。
227
手
(
て
)
が
長
(
なが
)
いと
交番所
(
かうばんしよ
)
の
前
(
まへ
)
が
通
(
とほ
)
れぬからのオ』
228
テク
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
229
俄
(
にはか
)
に
此
(
この
)
森
(
もり
)
へテクリ
込
(
こ
)
んでから
淋
(
さび
)
しくなつたぢやないか。
230
そこらあたりに
死屍
(
しし
)
累々
(
るゐるゐ
)
と
横
(
よこ
)
たはつてるやうな
怪体
(
けたい
)
な
気分
(
きぶん
)
がするぢやないか』
231
タク
『ヒヨツとしたら、
232
ここは
墓場
(
はかば
)
ぢやあるまいかな。
233
鼾
(
いびき
)
が
聞
(
きこ
)
えるやうだ、
234
幽霊
(
いうれい
)
がタク
山
(
さん
)
に
寝
(
ね
)
てけつかるのだなからうかな』
235
テク
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ。
236
幽霊
(
いうれい
)
が
鼾
(
いびき
)
をかくかい。
237
大方
(
おほかた
)
狸
(
たぬき
)
が
寝
(
ね
)
てゐるのだらう。
238
確
(
たしか
)
に
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
だ、
239
墓場
(
はかば
)
の
気遣
(
きづか
)
ひないワ、
240
マア
安心
(
あんしん
)
せい、
241
テクが
保証
(
ほしよう
)
するよ』
242
タク
『
何
(
なん
)
だかお
粥
(
かゆ
)
でもタク
否
(
い
)
ナ、
243
炊
(
た
)
いてるやうな
音
(
おと
)
がするぞ』
244
アク
『オイ、
245
そんな
怪体
(
けたい
)
な
話
(
はなし
)
はやめて、
246
トツクリと
寝
(
ね
)
やうぢやないか。
247
寝
(
ね
)
さへすれば
怖
(
こは
)
い
事
(
こと
)
も
何
(
なん
)
にも
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ふからな。
248
疑心
(
ぎしん
)
暗鬼
(
あんき
)
を
生
(
しやう
)
ずとか
云
(
い
)
つて、
249
此
(
この
)
暗
(
やみ
)
の
晩
(
ばん
)
にそンな
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
り
云
(
い
)
うてると、
250
又
(
また
)
それ、
251
アク
魔
(
ま
)
がホツホヽヽぢや』
252
万公
(
まんこう
)
、
253
五三公
(
いそこう
)
は
二三間
(
にさんげん
)
側
(
そば
)
で、
254
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
き
終
(
をは
)
り、
255
万公
(
まんこう
)
は
声低
(
こゑび
)
くに、
256
万公
『オイ
五三公
(
いそこう
)
、
257
此奴
(
こやつ
)
ア バラモン
教
(
けう
)
の
臆病者
(
おくびやうもの
)
だで。
258
昨夜
(
さくや
)
晴公
(
はるこう
)
や
楓
(
かへで
)
さまに
脂
(
あぶら
)
をとられた
奴
(
やつ
)
と
見
(
み
)
えるワイ。
259
オイ
一
(
ひと
)
つ
俺
(
おれ
)
が
晴公
(
はるこう
)
になるから、
260
五三公
(
いそこう
)
お
前
(
まへ
)
楓
(
かへで
)
になつたらどうだ、
261
お
前
(
まへ
)
の
声
(
こゑ
)
は
女
(
をんな
)
に
似
(
に
)
てゐるからなア』
262
五三公
『ウン、
263
そら
面白
(
おもしろ
)
い。
264
そンなら
俺
(
おれ
)
から
一
(
ひと
)
つ
戦闘
(
せんとう
)
を
開始
(
かいし
)
しようかな。
265
貴様
(
きさま
)
と
俺
(
おれ
)
とは
余程
(
よほど
)
臆病者
(
おくびやうもの
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたら、
266
モウ
一段
(
いちだん
)
と
臆病者
(
おくびやうもの
)
が
現
(
あら
)
はれよつた。
267
上
(
うへ
)
には
上
(
うへ
)
のあるものだのオ』
268
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
いてゐる。
269
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はそンな
事
(
こと
)
とは
知
(
し
)
らず、
270
暗
(
くら
)
がりに
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
ぎ
合
(
あは
)
せ、
271
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
小声
(
こごゑ
)
で
囁
(
ささや
)
いてゐる。
272
アク
『オイどうも
形勢
(
けいせい
)
不穏
(
ふをん
)
だぞ。
273
キヤツキヤツと
吐
(
ぬか
)
す
猿
(
さる
)
の
声
(
こゑ
)
が、
274
何
(
なん
)
とはなしにアク
魔
(
ま
)
否
(
い
)
ナ
幽
(
いう
)
さまの
声
(
こゑ
)
のやうに
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
るぢやないか。
275
こンな
時
(
とき
)
には
腹帯
(
はらおび
)
をしつかり
締
(
しめ
)
て
居
(
を
)
らぬと、
276
ヒユードロドロドロとやられちや、
277
おたまり
小坊子
(
こぼうし
)
がないからなア』
278
五三公
(
いそこう
)
は
暗
(
くら
)
がり
乍
(
なが
)
らも、
279
両手
(
りやうて
)
を
前
(
まへ
)
にニユツと
伸
(
の
)
ばし、
280
手首
(
てくび
)
をペロツと
下
(
さ
)
げ、
281
少
(
すこ
)
し
立膝
(
たてひざ
)
をして、
282
蟷螂
(
かまきり
)
の
様
(
やう
)
に
体
(
からだ
)
を
前
(
まへ
)
へつき
出
(
だ
)
し、
283
五三公
『ヒユードロドロドロドロ、
284
ホツホヽヽ』
285
アク
『ソーレ アク、
286
幽
(
いう
)
だ、
287
逃
(
に
)
げろ
逃
(
に
)
げろ』
288
テク
『
逃
(
に
)
げろと
云
(
い
)
つたつて、
289
テクろと
云
(
い
)
つたつて
駄目
(
だめ
)
だよ、
290
又
(
また
)
脱
(
ぬ
)
けた』
291
タク
『あゝあ、
292
俺
(
おれ
)
もぬけた。
293
アク、
294
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
をかたげてのいてくれ、
295
タヽタクが
頼
(
たの
)
む』
296
アク
『
俺
(
おれ
)
もチヨボチヨボだ、
297
アクものは
口
(
くち
)
斗
(
ばか
)
りだ』
298
五三公
『ホツホヽヽ、
299
アツハヽヽ』
300
アク
『ヤア
昨夜
(
さくや
)
の
化州
(
ばけしう
)
だ、
301
執念深
(
しふねんぶか
)
い、
302
どこ
迄
(
まで
)
もついて
来
(
き
)
よるのだな。
303
オイ、
304
タク、
305
テク、
306
かう
幽霊
(
いうれい
)
に
魅入
(
みい
)
られては
仕方
(
しかた
)
がない、
307
アク
胴
(
どう
)
を
据
(
す
)
ゑようぢやないか』
308
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
内
(
うち
)
十九
(
じふく
)
日
(
にち
)
の
夜
(
よる
)
の
月
(
つき
)
は
東天
(
とうてん
)
をこがして
一層
(
いつそう
)
鮮
(
あざや
)
かな
光
(
ひかり
)
を
地上
(
ちじやう
)
に
投
(
な
)
げた。
309
丁度
(
ちやうど
)
此処
(
ここ
)
は
木
(
き
)
の
疎
(
まばら
)
な
所
(
ところ
)
で、
310
東
(
ひがし
)
がすいてゐるので、
311
一同
(
いちどう
)
の
顔
(
かほ
)
はパツと
明
(
あきら
)
かになつた。
312
万公
『アハヽヽヽ、
313
これで
天地
(
てんち
)
開明
(
かいめい
)
の
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
た、
314
ヤツパリ
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
は
有難
(
ありがた
)
いものだな。
315
肚
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
まで
光
(
ひか
)
つたやうな
気
(
き
)
がする。
316
モウ
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
317
オイ
竜
(
たつ
)
、
318
起
(
お
)
きぬかい、
319
万公
(
まんこう
)
さまだよ』
320
「ウン」と
云
(
い
)
つて
起
(
お
)
きて
来
(
き
)
たのは
松彦
(
まつひこ
)
である。
321
松彦
『ヤア
良
(
よ
)
い
月
(
つき
)
だな。
322
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
竜公
(
たつこう
)
の
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えぬぢやないか、
323
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
かれたのだろ』
[
※
治国別と竜公はこっそり浮木の森へ向かった。第47巻第1章を見よ
]
324
万公
『ヤア、
325
マンマンマンマン
大変
(
たいへん
)
だ。
326
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
何者
(
なにもの
)
か
先生
(
せんせい
)
を
拐
(
かど
)
はかしよつたなア』
327
五三公
『ナアニ
芋
(
いも
)
でもイソイソ
埋
(
い
)
けに
行
(
ゆ
)
かれたのだよ。
328
何
(
なに
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
捨
(
す
)
てて
勝手
(
かつて
)
に
往
(
ゆ
)
くなンて、
329
そンな
不親切
(
ふしんせつ
)
な
事
(
こと
)
をなさるものかい。
330
なア
松彦
(
まつひこ
)
さま』
331
松彦
『ソリヤ
何
(
なん
)
とも
分
(
わか
)
らぬなア。
332
何程
(
なんぼ
)
兄弟
(
きやうだい
)
だつて、
333
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
迄
(
まで
)
分
(
わか
)
らぬからなア、
334
松彦
(
まつひこ
)
には』
335
五三公
『ヘーン、
336
もしもそンな
事
(
こと
)
だつたら
大変
(
たいへん
)
ですがな、
337
あイソを
尽
(
つく
)
されたのか』
338
松彦
『
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
につくな、
339
人
(
ひと
)
を
頼
(
たよ
)
りにすなと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
仰有
(
おつしや
)
るぢやないか、
340
一丈
(
いちぢやう
)
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
の
褌
(
まはし
)
をかいた
男
(
をとこ
)
がそンな
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
くものぢやない、
341
之
(
これ
)
から
各自
(
かくじ
)
単独
(
たんどく
)
で、
342
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
へ
突撃
(
とつげき
)
せよと
命
(
めい
)
ぜられたら
何
(
ど
)
うするか。
343
それでも
行
(
ゆ
)
かねばなるまい。
344
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
生
(
せい
)
の
執着
(
しふちやく
)
が
強
(
きつ
)
いから
恐怖心
(
きようふしん
)
が
起
(
おこ
)
るのだ。
345
捨身
(
すてみ
)
になれば
何
(
なに
)
も
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
はないぢやないか。
346
最前
(
さいぜん
)
から
随分
(
ずゐぶん
)
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
居
(
ゐ
)
たなア、
347
松彦
(
まつひこ
)
が
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
何
(
なん
)
だホツホヽヽなンてせうもない
余興
(
よきよう
)
をやるぢやないか』
348
万公
『
何程
(
なにほど
)
恐怖心
(
きようふしん
)
にかられたといつても、
349
流石
(
さすが
)
に
万公
(
まんこう
)
さまは
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
ですわい。
350
余裕
(
よゆう
)
綽々
(
しやくしやく
)
として
滑稽
(
こつけい
)
を
演
(
えん
)
ずるのですからなア。
351
あれ
御覧
(
ごらん
)
なさい、
352
あこに
三匹
(
さんびき
)
の
四足
(
よつあし
)
が
へた
つて
居
(
を
)
りますわ』
353
松彦
『ウン、
354
あれはバラモン
軍
(
ぐん
)
の
斥候
(
せきこう
)
を
勤
(
つと
)
めてるアク、
355
タク、
356
テクの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
だ、
357
楓
(
かへで
)
さまに
脂
(
あぶら
)
を
取
(
と
)
られた
連中
(
れんちう
)
だらう』
358
万公
『
松彦
(
まつひこ
)
さま、
359
貴方
(
あなた
)
は
鼾
(
いびき
)
をかき
乍
(
なが
)
ら
聞
(
き
)
いてゐたのですかい』
360
松彦
『ウン、
361
鼾
(
いびき
)
は
鼾
(
いびき
)
、
362
聞
(
き
)
くのは
聞
(
き
)
くのだ、
363
鼻
(
はな
)
は
休
(
やす
)
ンで
居
(
を
)
つても、
364
耳
(
みみ
)
は
起
(
お
)
きてゐるからなア』
365
アクは
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ、
366
アク
『モシモシ、
367
三五教
(
あななひけう
)
の
先生
(
せんせい
)
、
368
私
(
わたし
)
はお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
369
アク、
370
タク、
371
テクの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
372
決
(
けつ
)
して
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
に
仇
(
あだ
)
をするものでは
厶
(
ござ
)
いませぬから、
373
どうぞ
宜
(
よろ
)
しく
頼
(
たの
)
みます……とは
申
(
まを
)
しませぬが、
374
いぢめぬやうにして
下
(
くだ
)
さい、
375
構
(
かま
)
うてさへ
貰
(
もら
)
はねば、
376
何
(
ど
)
うなつと
処置
(
しよち
)
をつけますから、
377
本当
(
ほんたう
)
に
貴方
(
あなた
)
の
家来
(
けらい
)
には
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
方
(
かた
)
がありますなア。
378
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
了
(
しま
)
つたのですから
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
りますワ』
379
松彦
『それは
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ。
380
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
二十
(
にじふ
)
里
(
り
)
の
道
(
みち
)
を
四這
(
よつばひ
)
になつて
来
(
く
)
るのは、
381
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しかつたでせうなア、
382
松彦
(
まつひこ
)
は
感心
(
かんしん
)
したよ』
383
アク
『
何
(
なに
)
もかも
皆
(
みな
)
御存
(
ごぞん
)
じですな。
384
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り
暫
(
しばら
)
く
四足
(
よつあし
)
の
修行
(
しうぎやう
)
をアク
迄
(
まで
)
やつてみましたが、
385
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しいもので
厶
(
ござ
)
いますよ』
386
松彦
『コンパスの
長
(
なが
)
い
手
(
て
)
の
短
(
みじか
)
いタクさまは
余程
(
よほど
)
お
困
(
こま
)
りだつたさうですねえ』
387
タク
『
手
(
て
)
の
短
(
みじか
)
いのは
正直者
(
しやうぢきもの
)
の
証拠
(
しようこ
)
ですから、
388
どうぞ
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さいナ、
389
松彦
(
まつひこ
)
さまとやら』
390
松彦
『アハヽヽヽ、
391
マア
此方
(
こちら
)
へお
出
(
いで
)
なさい、
392
ゆつくり
話
(
はなし
)
を
交換
(
かうくわん
)
しませう』
393
アク
『オイ、
394
タク、
395
テク
三五教
(
あななひけう
)
の
大将
(
たいしやう
)
は
余程
(
よほど
)
開
(
ひら
)
けてるぢやないかエヽー、
396
バラモン
教
(
けう
)
の
司
(
つかさ
)
だつたら、
397
随分
(
ずゐぶん
)
威張
(
ゐば
)
る
所
(
ところ
)
だがなア。
398
ヤツパリ
平民
(
へいみん
)
主義
(
しゆぎ
)
と
見
(
み
)
えるワイ、
399
俺
(
おれ
)
や
平民
(
へいみん
)
主義
(
しゆぎ
)
が
大好
(
だいす
)
きだ……
三五教
(
あななひけう
)
の
先生
(
せんせい
)
、
400
そンなら
一切
(
いつさい
)
の
障壁
(
しやうへき
)
を
除
(
のぞ
)
いて
御
(
ご
)
昵懇
(
ぢつこん
)
に
預
(
あづ
)
かりませう』
401
松彦
(
まつひこ
)
は、
402
松彦
『ハア、
403
お
互
(
たがひ
)
に
御
(
お
)
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
う
頼
(
たの
)
みますよ』
404
と
軽
(
かる
)
くうなづく。
405
万公
『モシモシ
先生
(
せんせい
)
、
406
あンな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて、
407
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてゐるのですよ、
408
万公
(
まんこう
)
は
気懸
(
きがか
)
りですワ。
409
モ
一
(
ひと
)
つホヽヽヽヽでおどかして
逃
(
に
)
がしてやりませう』
410
アク
『ホツホヽヽ、
411
モシモシ
万公
(
まんこう
)
さま、
412
正体
(
しやうたい
)
が
現
(
あら
)
はれた
以上
(
いじやう
)
は、
413
ホヽヽもアハヽヽヽも
笑
(
わら
)
ひの
種
(
たね
)
にこそなれチヨツとも
恐
(
おそ
)
ろしくありませぬよ。
414
アク
迄
(
まで
)
も
得意
(
とくい
)
のホヽヽヽヽをやつて
御覧
(
ごらん
)
なさい』
415
万公
『オイ、
416
五三公
(
いそこう
)
、
417
最
(
も
)
う
駄目
(
だめ
)
だ、
418
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いなア』
419
五三公
『
松彦
(
まつひこ
)
さまがあゝ
仰有
(
おつしや
)
るのだもの、
420
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
泣
(
な
)
き
寝入
(
ねいり
)
かな。
421
無条件
(
むでうけん
)
降服
(
かうふく
)
だ……
否
(
いな
)
無条件
(
むでうけん
)
還附
(
くわんぷ
)
だ。
422
之
(
これ
)
から
臥薪
(
ぐわしん
)
嘗胆
(
しやうたん
)
、
423
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
の
苦
(
く
)
をなめて、
424
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
復讐戦
(
ふくしうせん
)
をやるのだなア、
425
アツハヽヽヽ』
426
と
始
(
はじ
)
めて
愉快
(
ゆくわい
)
げに
五三公
(
いそこう
)
は
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
した。
427
此
(
この
)
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
は
四辺
(
しへん
)
の
陰鬱
(
いんうつ
)
を
破
(
やぶ
)
つて
一同
(
いちどう
)
は
俄
(
にはか
)
に
陽気
(
やうき
)
となり、
428
敵
(
てき
)
も
味方
(
みかた
)
も
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
429
「ワハヽヽヽ」と
高笑
(
たかわら
)
ひする、
430
今迄
(
いままで
)
吾物顔
(
わがものがほ
)
に
梢
(
こずゑ
)
に
飛
(
と
)
び
交
(
か
)
ひ、
431
キヤツキヤツ
囁
(
さへづ
)
つてゐた
猿
(
さる
)
は
一度
(
いちど
)
に
声
(
こゑ
)
を
潜
(
ひそ
)
めて
了
(
しま
)
つた。
432
(
大正一一・一二・九
旧一〇・二一
松村真澄
録)
433
(昭和九・一二・二九 於湯ケ島 王仁校正)
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