霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 変化(へんげ)〔一一八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻 篇:第3篇 珍聞万怪 よみ(新仮名遣い):ちんぶんばんかい
章:第15章 変化 よみ(新仮名遣い):へんげ 通し章番号:1184
口述日:1922(大正11)年12月08日(旧10月20日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年8月18日
概要: 舞台:野中の森 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
一行が二十里ばかりも歩いてくると、傍らの森の中から騒々しい女の声が聞こえてきた。一行は何事かと息をひそめて近づいていく。
見れば森の中で五六人の荒男たちが、一人の女を捕えて打擲している。男たちはバラモン軍の手下であり、杢助の娘・初稚姫を捜索していた。女を尋問し、初稚姫に仕立てて捕えようとしていたのであった。
万公は助けだそうと歯ぎしりをしているが、どうしたことか治国別と松彦はこの様子を泰然として眺めている。
そうするうちに、女を尋問していた男たちはどうしたことか同士討ちを始めた。すると女は大きな白狐に変じて、森を後に逃げて行った。男たちはそのまま同士討ちを始めている。
この様子に万公たちはおかしさをこらえきれずに大声で笑いだした。この笑い声に驚いて、男たちは雲を霞と逃げて行った。
治国別はあれは白狐・月日明神であり、楓をバラモン教の捕り手たちから逃がすために身代わりとなってくれたのでだと説明した。一行はここで一夜を明かすことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-02-14 16:21:35 文字数:3871 OBC :rm4415
愛善世界社版:201頁 八幡書店版:第8輯 209頁 修補版: 校定版:211頁 普及版:86頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は山口(やまぐち)の森(もり)を後(あと)にして、002足(あし)を速(はや)めて二十(にじふ)里(り)ばかり南進(なんしん)した。003二十(にじふ)里(り)といつても極近(ごくちか)いものである。004一(いち)里(り)といへば我(わが)国(くに)の二百間(にひやくけん)位(ぐらゐ)なもの、005丁度(ちやうど)三丁(さんちやう)強(きやう)に当(あた)るのである。
006 治国別(はるくにわけ)は道(みち)の傍(かたへ)の細(ほそ)き流(なが)れに下(お)りて喉(のど)をうるほし、007空(そら)行(ゆ)く雲(くも)を眺(なが)めて暫(しば)し息(いき)を休(やす)めてゐた。008二十間(にじつけん)ばかり隔(へだ)つた田圃(たんぼ)の中(なか)にコンモリとした森(もり)[※次の章で「野中の森」と呼ばれている]が、009巍然(ぎぜん)と広(ひろ)き原野(げんや)を占領(せんりやう)して吾物顔(わがものがほ)に立(た)つてゐる。010其(その)森(もり)の中(なか)より騒々(さうざう)しき女(をんな)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。011万公(まんこう)は早(はや)くも聞(き)きとり、
012万公『モシ先生(せんせい)、013あの森(もり)の中(なか)に奇妙(きめう)奇天烈(きてれつ)な活劇(くわつげき)が演(えん)じられてゐるやうです。014どうです、015今晩(こんばん)は活劇(くわつげき)見物(けんぶつ)がてら、016あの森(もり)で一宿(いつしゆく)致(いた)しませうか。017森林(しんりん)ホテルも乙(おつ)なものですでー。018夜前(やぜん)も森林(しんりん)ホテル、019今晩(こんばん)も又(また)同(おな)じくと云(い)ふのだから日記帳(につきちやう)につけるのも大変(たいへん)便利(べんり)がよろしからう。020アレアレ御(お)聞(き)きなさいませ。021猿(さる)を攻(せ)めるやうな女(をんな)の声(こゑ)、022此奴(こいつ)は何(なに)か秘密(ひみつ)が伏在(ふくざい)して居(を)るでせう。023兎(と)も角(かく)実地(じつち)探険(たんけん)に参(まゐ)りませうか』
024 治国別(はるくにわけ)は、
025治国別『モウ少(すこ)し先(さき)へ行(ゆ)き度(た)いのだが、026あの声(こゑ)を聞(き)いては宣伝使(せんでんし)として見逃(みのが)して通(とほ)る訳(わけ)には行(ゆ)かぬ。027大変(たいへん)な茂(しげ)つた森(もり)だから、028ソツと忍(しの)び寄(よ)り、029何事(なにごと)か様子(やうす)を考(かんが)へて見(み)よう』
030 五三公(いそこう)は、
031五三公『オイ万公(まんこう)、032又(また)ヒユードロドロだぞ。033肝(きも)をつぶすな』
034万公『ナアニ昼(ひる)の幽霊(いうれい)が恐(こは)くて怺(たま)るかい。035ドロドロでも泥坊(どろばう)でもかまはぬぢやないか。036大方(おほかた)泥坊(どろばう)さまが旅人(たびびと)を引張(ひつぱ)り込(こ)ンで衣類(いるゐ)を剥(は)ぎ、037厭(いや)がる女(をんな)を無理(むり)無体(むたい)に捻伏(ねぢふ)せて念仏講(ねんぶつかう)でもやつて居(ゐ)るのだらう』
038五三公『念仏講(ねんぶつかう)て何(なん)だい。039妙(めう)な事(こと)をいふぢやないか。040ハヽヽヽ幽霊(いうれい)が出(で)るので成仏(じやうぶつ)する様(やう)に念仏(ねんぶつ)を唱(とな)へてゐるのだな。041それにしては根(ね)つから詠歌(えいか)の声(こゑ)が聞(きこ)えぬぢやないか。042薩張(さつぱり)金切声(きんきりごゑ)のチヤアチヤアだ。043一寸(ちよつと)聞(き)くと狐々(こんこん)様(さま)のやうにもあるし、044猿(さる)のやうにもあるし、045女(をんな)の様(やう)にも聞(きこ)えて来(く)る。046何(なん)だか怪体(けつたい)な代物(しろもの)だ。047五三公(いそこう)は研究(けんきう)の価値(かち)が十分(じふぶん)にあるやうに思(おも)ひますがなア先生(せんせい)』
048治国別『ウン兎(と)も角(かく)行(い)つて見(み)やう。049併(しか)し篏口令(かんこうれい)を布(し)いておくから、050号令(がうれい)が下(くだ)る迄(まで)、051何事(なにごと)があつても発声(はつせい)する事(こと)は出来(でき)ないぞ』
052万公『承知(しようち)致(いた)しました。053囁(ささや)き話(ばなし)も出来(でき)ませんか、054万公(まんこう)も一寸(ちよつと)困(こま)るナア』
055治国別『ウン勿論(もちろん)だ』
056万公『万公別(まんこうわけ)が、057五三公(いそこう)、058竜公(たつこう)に対(たい)し篏口令(かんこうれい)を布(し)く。059堅(かた)く沈黙(ちんもく)を守(まも)るのだぞ』
060五三公『ハヽヽヽ直(すぐ)に受売(うけう)りをやつて居(ゐ)よるナ。061そんな小売(こう)りをしたつて俺(おれ)達(たち)ア買(か)ふ気(き)づかひは無(な)いぞ。062物価(ぶつか)調節令(てうせつれい)が出(で)て居(ゐ)るのに、063それを無視(むし)して小商人(こあきんど)が暴利(ばうり)を貪(むさぼ)り、064無性(むしやう)矢鱈(やたら)にゴンベツたり、065ビヤクツたりするから為政者(ゐせいしや)もこの五三公(いそこう)さまもなかなか骨(ほね)の折(を)れる事(こと)だワイ、066アハヽヽヽヽ』
067 治国別(はるくにわけ)は、
068治国別『サア行(い)かう、069沈黙(ちんもく)だ』
070と厳命(げんめい)し乍(なが)ら草野(くさの)を分(わ)けて進(すす)み行(ゆ)く。
071 見(み)れば欝蒼(うつさう)たる森(もり)の中(なか)に五六(ごろく)人(にん)の荒男(あらをとこ)、072一人(ひとり)の美人(びじん)を捕(とら)へ、073四方(しはう)八方(はつぱう)より寄(よ)つてかかつて打擲(ちやうちやく)を始(はじ)めてゐる。074治国別(はるくにわけ)は平然(へいぜん)として此(この)光景(くわうけい)を木(き)の茂(しげ)みより眺(なが)めてゐる。075万公(まんこう)は胸(むね)を躍(をど)らせ、076口(くち)をパツと開(あ)け、077両手(りやうて)をひらいて中腰(ちうごし)になり、078今(いま)にも飛(と)び出(だ)さむとする格好(かくかう)で歯(は)がゆ相(さう)に片唾(かたづ)を呑(の)ンで、079治国別(はるくにわけ)の命令(めいれい)一下(いつか)すれば、080片端(かたつぱし)から撲(なぐ)り倒(たふ)し、081虐(さいな)まれてゐる女(をんな)を救(すく)ひやらむと身構(みがま)へしてゐる。082五三公(いそこう)も竜公(たつこう)もハラハラし乍(なが)ら、083もどかしげに眺(なが)めてゐた。084治国別(はるくにわけ)、085松彦(まつひこ)は素知(そし)らぬ顔(かほ)で微笑(ほほゑみ)をうかべ乍(なが)ら愉快気(ゆくわいげ)に見(み)つめてゐる。086女(をんな)を仰向(あふむけ)に寝(ね)させ胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り大(だい)の男(をとこ)が蠑螺(さざえ)のやうな拳骨(げんこつ)をふり上(あ)げ、087キア キア云(い)ふ女(をんな)を憎々(にくにく)し気(げ)に睨(にら)みつけ乍(なが)ら、
088甲(かふ)『コリア尼(あま)ツちよ、089何(ど)うしても白状(はくじやう)致(いた)さぬか。090しぶとい奴(やつ)だなア。091貴様(きさま)は三五教(あななひけう)の初稚姫(はつわかひめ)といふ奴(やつ)だらう』
092女『イエイエ決(けつ)して決(けつ)してそんな女(をんな)ぢや厶(ござ)いませぬ。093山(やま)住居(ずまゐ)をいたして居(ゐ)るものの娘(むすめ)で厶(ござ)います。094何卒(なにとぞ)御(お)慈悲(じひ)に御(お)助(たす)け下(くだ)さいませ』
095 甲(かふ)は、
096甲『エーしぶとい女(をんな)奴(め)』
097と呶鳴(どな)りつけ、098拳骨(げんこつ)を固(かた)めて前額部(ぜんがくぶ)をコツンと擲(なぐ)る。099撲(なぐ)られて娘(むすめ)はキヤアキヤアと叫(さけ)ぶ。
100 万公(まんこう)は今(いま)は一矢(いつし)の弦(ゆみづる)を離(はな)れむとする如(ごと)き勢(いきほひ)で、101体(からだ)を前方(ぜんぱう)に反(そ)らせ足(あし)をふン張(ば)り、102マラソン競争(きやうそう)の合図(あひづ)の太鼓(たいこ)が鳴(な)るのを待(ま)つやうな構(かま)へで、103腕(うで)を唸(うな)らしてゐる。
104 一方(いつぱう)の荒男(あらをとこ)は又(また)もや声(こゑ)を荒(あら)らげ、
105男『エーしぶとい。106貴様(きさま)は杢助(もくすけ)の娘(むすめ)に間違(まちが)ひなからう。107さあ尋常(じんじやう)に白状(はくじやう)して了(しま)へ。108貴様(きさま)の親(おや)の杢助(もくすけ)や、109三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)はライオン河(がは)の畔(ほとり)でランチ将軍(しやうぐん)様(さま)の部下(ぶか)に捕(とら)へられ、110日夜(にちや)の責苦(せめく)に逢(あ)うて苦(くる)しみてゐるのだ。111貴様(きさま)さへ白状(はくじやう)すれば二人(ふたり)の罪(つみ)は許(ゆる)され、112貴様(きさま)はランチ将軍(しやうぐん)様(さま)のお妾(めかけ)と抜擢(ばつてき)されて出世(しゆつせ)をするのだ。113コリヤ女(をんな)、114此処(ここ)で殺(ころ)されるのがよいか、115将軍(しやうぐん)様(さま)のお妾(めかけ)になつて親(おや)の生命(いのち)を助(たす)けるのがよいか。116よく思案(しあん)をして返答(へんたふ)いたせ』
117女『オホヽヽヽ、118彼(あ)のマア瓢六玉(へうろくだま)わいのう。119何(ど)うなと勝手(かつて)になさいませ。120杢助(もくすけ)などといふ父親(てておや)は持(も)つた事(こと)は厶(ござ)いませぬわ。121黒姫(くろひめ)なンて出逢(であ)つた事(こと)もありませぬわ。122さア、123殺(ころ)すなと何(なん)なとして下(くだ)さい』
124男(をとこ)『ヤア俄(にはか)に強(つよ)くなりよつたな。125ハー、126あまりビツクリして気(き)が違(ちが)つたのだな。127こンな気違(きちが)ひを連(つ)れて行(い)つたとこで、128将軍(しやうぐん)さまの御用(ごよう)に立(た)つでも無(な)し、129併(しか)し乍(なが)ら何処迄(どこまで)も白状(はくじやう)さして伴(つ)れ帰(かへ)らねば、130俺(おれ)達(たち)の役目(やくめ)が済(す)まぬ。131オイ女(をんな)、132貴様(きさま)はランチ将軍(しやうぐん)様(さま)を怨(うら)ンで昼(ひる)は大蛇(をろち)の窟(あな)に身(み)を隠(かく)し、133夜(よる)は鬼娘(おにむすめ)と化(ば)けて呪(のろ)ひの五寸釘(ごすんくぎ)を打(う)つてゐよつたのだらうがなア。134そンな事(こと)はチヤンと探索(たんさく)してあるのだから、135モウ駄目(だめ)だ。136俺(おれ)が此(この)間(あひだ)の夜(よさ)りだつた…頭(あたま)に蝋燭(らふそく)を立(た)つて、137鏡(かがみ)を下(さ)げ、138凄(すさま)じい様子(やうす)をして山口(やまぐち)の森(もり)へ行(ゆ)きよつた時(とき)、139俺(おれ)も一寸(ちよつと)気味(きみ)が悪(わる)かつたけれど、140なアにバラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)に頼(たの)めば大丈夫(だいぢやうぶ)だと思(おも)ひ、141尾行(びかう)して貴様(きさま)の言(い)ふ事(こと)を聞(き)けば、142何卒(どうぞ)私(わたし)の親(おや)の仇(かたき)が打(う)てますやうに、143さうして無事(ぶじ)に逃(のが)れますやう、144ランチ将軍(しやうぐん)が亡(ほろ)びますやうと言(い)つては釘(くぎ)を打(う)つてゐたではないか。145そこ迄(まで)手証(てしよう)を握(にぎ)つてゐるから、146モウ隠(かく)しても駄目(だめ)だぞ。147大(だい)それた女(をんな)の分際(ぶんざい)として大蛇(をろち)の窟(あな)に安閑(あんかん)として高鼾(たかいびき)をかいて寝(ね)てゐやがつた所(ところ)をとつ捉(つか)まへて来(き)たのだ。148さア、149白状(はくじやう)せい。150昨日(きのふ)の日暮(ひぐれ)から殆(ほとん)ど一日(いちにち)一夜(いちや)骨(ほね)を折(を)らしよつて、151ドシ太(ぶと)い。152俺(おれ)だつて腹(はら)が減(へ)つて怺(たま)らンぢやないか』
153女『オホヽヽヽ、154何(なん)と云(い)ふお前(まへ)達(たち)あ、155間抜(まぬ)けだい。156その女(をんな)は楓(かへで)といつて夜前(やぜん)も釘(くぎ)を打(う)ちに行(い)つたよ。157妾(わたし)と間違(まちが)へられちや大変(たいへん)だ。158偉(えら)い災難(さいなん)だよ。159三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に助(たす)けられ、160今頃(いまごろ)は河鹿(かじか)峠(たうげ)を上(のぼ)つてゐる最中(さいちう)だ。161余程(よつぽど)好(よ)い頓馬(とんま)だこと。162ホヽヽヽヽ』
163男『コリヤ尼(あま)ツちよ、164そンな事(こと)をいつて俺(おれ)達(たち)を胡麻化(ごまか)さうとしても駄目(だめ)だぞ。165チヤアンと証拠(しようこ)が握(にぎ)つてあるのだから、166好(よ)い加減(かげん)に白状(はくじやう)致(いた)さぬと親(おや)の為(ため)に悪(わる)いぞ。167杢助(もくすけ)や、168黒姫(くろひめ)が可愛相(かあいさう)とは思(おも)はぬか』
169女『ホヽヽヽヽ杢(もく)さまが何(ど)うならうと、170此方(こつち)や一寸(ちよつと)も目算(もくさん)が外(はづ)れぬのだから構(かま)やせぬわ。171黒(くろ)さまが何(ど)うならうとお前(まへ)さまが苦労(くらう)する丈(だ)けの事(こと)ぢや。172殺(ころ)しなつと煮(たい)て喰(く)はふと勝手(かつて)になさいませ』
173男『コリヤ女(をんな)、174貴様(きさま)は親(おや)に対(たい)し孝行(かうかう)といふ事(こと)を知(し)らぬのだなア。175丸(まる)で狐狸(こり)のやうな奴(やつ)だ。176不人情(ふにんじやう)者(もの)だなア。177こンな優(やさ)しい顔(かほ)をしよつて、178親不孝(おやふかう)の魂(たましひ)見下(みさ)げはてた女(をんな)だ』
179女『妾(わたし)はコンコンさまだよ。180お前(まへ)達(たち)は馬鹿(ばか)だからつままれてゐるのだ。181そンな枯木杭(かれぼくくひ)をつかまへて何(なに)をしてゐるのだイ。182よい盲目(めくら)だなア、183ホヽヽヽヽ』
184男『丸(まる)で狐(きつね)のやうな奴(やつ)だ。185ドシ太(ふと)い何(なん)ぼ叩(たた)いても叩(たた)いてもキア キア吐(ぬか)すばつかりで往生(わうじやう)しよらぬ。186此奴(こいつ)は不死身(ふじみ)かもしれぬぞ。187俺(おれ)一人(ひとり)では駄目(だめ)だ。188皆(みな)寄(よ)つてたかつて叩(たた)き延(の)ばしてやらうかい』
189女『ホヽヽヽ、190たかが一人(ひとり)の女(をんな)を取(とり)まいて大(だい)の荒男(あらをとこ)がよりかかり、191一昼夜(いつちうや)もかかつて何(ど)うする事(こと)もようせぬといふやうな間抜(まぬ)けが仮令(たとへ)何万(なんまん)人(にん)かかつたつて烏合(うがふ)の衆(しう)だから、192カラツキシ駄目(だめ)だよ。193御(お)気(き)の毒様(どくさま)、194お前(まへ)さまの手(て)を御覧(ごらん)なさい。195木(き)の欠杭(かつくひ)をたたいて血(ち)だらけになつてますよ』
196男『云(い)はしておけば際限(さいげん)も無(な)き雑言(ざふごん)無礼(ぶれい)、197最早(もはや)勘忍袋(かんにんぶくろ)の緒(を)が切(き)れた。198さア一同(いちどう)寄(よ)つてたかつて殺(ころ)して了(しま)へ』
199『よし合点(がつてん)だ』
200と七八(しちはち)人(にん)の荒男(あらをとこ)は棍棒(こんぼう)を打振(うちふ)り一人(ひとり)の女(をんな)に打(う)つてかかる。201何(ど)う間違(まちが)つたか、202互(たがひ)に入(い)り乱(みだ)れて同士討(どうしうち)をやつてゐる。203女(をんな)の体(からだ)よりパツと立(た)つた白煙(しらけぶり)、204太(ふと)い尾(を)を下(さ)げた白狐(びやくこ)が一匹(いつぴき)、205ノソリノソリと歩(ある)き出(だ)し、206コンコン クワイクワイと吠(ほ)え乍(なが)ら、207森(もり)を見棄(みす)てて逃(に)げて行(ゆ)く。
208 八(はち)人(にん)の男(をとこ)は女(をんな)が狐(きつね)と変(へん)じて逃(に)げ失(う)せたるに気(き)がつかず、209一生(いつしやう)懸命(けんめい)に同士討(どうしう)ちをつづけてゐる。210可笑(をか)しさを怺(こら)えてゐた万公(まんこう)は口(くち)が破裂(はれつ)した様(やう)に「グワツハヽヽヽ」と笑(わら)ひ声(ごゑ)を噴出(ふんしゆつ)する。211治国別(はるくにわけ)外(ほか)三(さん)人(にん)もたまりかねて「アハヽヽヽ」と体(からだ)を揺(ゆす)つて笑(わら)ひ出(だ)した。212此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて八(はち)人(にん)の奴(やつ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く。213万公(まんこう)は、
214万公『グワツハヽヽヽ、215道公(みちこう)さまぢやないが、216到頭(たうとう)大勢(おほぜい)の奴(やつ)を笑(わら)ひ散(ち)らしてやつた。217エヘヽヽヽ』
218 一同(いちどう)は、219「アハヽヽヽ」と吹(ふ)き出(だ)してゐる。
220 五三公(いそこう)は呆(あき)れて、
221五三公『先生(せんせい)、222貴方(あなた)は本当(ほんたう)に感心(かんしん)ですよ。223何故(なぜ)あンな優(やさ)しい女(をんな)が虐待(ぎやくたい)されて居(ゐ)るのに平気(へいき)で笑(わら)つて厶(ござ)るのか、224無情(むじやう)冷酷(れいこく)な御(お)方(かた)だと内実(ないじつ)は思(おも)つてゐました。225飛(と)び出(だ)したいは山々(やまやま)だつたが命令(めいれい)が下(くだ)らぬものだから、226差控(さしひか)へて居(を)りましたが、227彼奴(あいつ)は狐(きつね)になぶられてゐたのですなア』
228治国別『ウン、229あの御(お)方(かた)は三五教(あななひけう)の御(ご)守護神(しゆごじん)、230鬼武彦(おにたけひこ)の御(ご)眷族(けんぞく)、231月日(つきひ)明神(みやうじん)さまだよ。232バラモン教(けう)の捕手(とりて)が山口(やまぐち)の森(もり)に隠(かく)れて厶(ござ)つた楓(かへで)さまを召捕(めしと)らうと大蛇(をろち)の窟(いはや)迄(まで)覗(のぞ)きに行(ゆ)き居(を)つたのだから、233月日(つきひ)さまが楓(かへで)さまの親子(おやこ)対面(たいめん)が出来(でき)る迄(まで)、234あゝして身代(みがは)りになつてゐて下(くだ)さつたのだ。235而(しか)して吾々(われわれ)に御(ご)守護(しゆご)あつた事(こと)を示(しめ)すために今迄(いままで)待(ま)つてゐて下(くだ)さつたのだよ。236お前(まへ)達(たち)の目(め)に娘(むすめ)と見(み)えたのは枯木杭(かれぼくくひ)だ。237可愛相(かあいさう)に娘(むすめ)の額(ひたひ)だと思(おも)つてトゲだらけの欠杭(かつくひ)を撲(なぐ)りつけ、238血(ち)だらけの拳(こぶし)になつて居(を)つたぢやらう』
239 万公(まんこう)は、
240万公『ヘー何(なん)だか赤(あか)い手袋(てぶくろ)をはめてゐると思(おも)つてゐました。241月日(つきひ)さまといふ明神(みやうじん)さまは本当(ほんたう)に偉(えら)い方(かた)ですなア』
242治国別『サア今晩(こんばん)は此処(ここ)で宿(とま)ることにしよう。243先(ま)づ第一(だいいち)に天津(あまつ)祝詞(のりと)の奏上(そうじやう)だ』
244と治国別(はるくにわけ)の命令(めいれい)に一同(いちどう)は、
245一同『ハイ畏(かしこ)まりました』
246と辺(あた)りの小溝(こみぞ)で口(くち)を嗽(そそ)ぎ、247手(て)を洗(あら)ひ、248型(かた)の如(ごと)く祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、249一夜(いちや)を此処(ここ)に明(あか)す事(こと)とはなりける。250あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
251(大正一一・一二・八 旧一〇・二〇 外山豊二録)
252(昭和九・一二・二九 王仁校正)
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