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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第44巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 神示の合離
第1章 笑の恵
第2章 月の影
第3章 守衛の囁
第4章 滝の下
第5章 不眠症
第6章 山下り
第7章 山口の森
第2篇 月明清楓
第8章 光と熱
第9章 怪光
第10章 奇遇
第11章 腰ぬけ
第12章 大歓喜
第13章 山口の別
第14章 思ひ出の歌
第3篇 珍聞万怪
第15章 変化
第16章 怯風
第17章 罵狸鬼
第18章 一本橋
第19章 婆口露
第20章 脱線歌
第21章 小北山
余白歌
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霊界物語
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舎身活躍(第37~48巻)
>
第44巻(未の巻)
> 第2篇 月明清楓 > 第11章 腰ぬけ
<<< 奇遇
(B)
(N)
大歓喜 >>>
第一一章
腰
(
こし
)
ぬけ〔一一八〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
篇:
第2篇 月明清楓
よみ(新仮名遣い):
げつめいせいふう
章:
第11章 腰ぬけ
よみ(新仮名遣い):
こしぬけ
通し章番号:
1180
口述日:
1922(大正11)年12月08日(旧10月20日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年8月18日
概要:
舞台:
山口の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
晴公、楓の兄妹は久しぶりの再会に積もる話をしようと森の木の間の月影をたよりに二三町ばかり南へ進んで行く。
南方より三人の男が提灯をともしてやってくる。提灯の三つ葉葵のしるしを見て、兄妹はバラモン教の捕り手とわかり、大木の幹に姿を隠した。
三人の男はバラモン教軍の斥候であり、三五教の宣伝使に出会ったらひとたまりもないとびくつきながら、このあたりで最近噂の鬼娘の話に恐れおののいている。
また話の中に、晴公と楓の両親が三五教の杢助・黒姫宣伝使に間違われて捕えられ、人質として駕籠に乗せられて運ばれてくることも漏れ聞こえてきた。
三人の馬鹿話に晴公と楓は思わず吹き出してしまう。バラモン教の三人は、二人はてっきり人目を忍ぶ若夫婦だと思って姿を見せるように呼びかけたが、楓は鬼娘のふりをして、逆に三人を驚かせる。
そこへバラモン軍の後発隊十五六人が、二人の両親を駕籠に乗せてやってきた。一行が斥候隊の三人、アク、タク、テクから様子を聞いていると、森の中から宣伝歌が聞こえてきた。
不意を打たれたバラモン軍の一隊は、人質の駕籠を投げ捨ててバラバラと逃げて行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-02-11 17:11:20
OBC :
rm4411
愛善世界社版:
147頁
八幡書店版:
第8輯 191頁
修補版:
校定版:
154頁
普及版:
65頁
初版:
ページ備考:
001
晴公
(
はるこう
)
、
002
楓
(
かへで
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
兄妹
(
きやうだい
)
睦
(
むつま
)
じく
手
(
て
)
をひき
乍
(
なが
)
ら、
003
森
(
もり
)
の
木間
(
こま
)
を
漏
(
も
)
る
月影
(
つきかげ
)
を
幸
(
さいは
)
ひに
枯草
(
かれくさ
)
の
茫々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
つた
細道
(
ほそみち
)
を
逍遥
(
せうえう
)
し、
004
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らず
二三丁
(
にさんちやう
)
計
(
ばか
)
り
南
(
みなみ
)
の
方
(
はう
)
へ
進
(
すす
)
むで
行
(
ゆ
)
く。
005
南方
(
なんぱう
)
より
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
[
※
アク、タク、テクの3人
]
、
006
忙
(
いそが
)
しげに
提灯
(
ちやうちん
)
をとぼしてやつて
来
(
く
)
る。
007
兄妹
(
きやうだい
)
は
之
(
これ
)
を
眺
(
なが
)
めて
彼
(
か
)
の
提灯
(
ちやうちん
)
の
しるし
は
三葉葵
(
みつばあふひ
)
がついてゐる。
008
擬
(
まが
)
ふ
方
(
かた
)
もなきバラモン
教
(
けう
)
の
捕手
(
とりて
)
に
間違
(
まちが
)
ひない、
009
見
(
み
)
つけられては
一大事
(
いちだいじ
)
と
大木
(
たいぼく
)
の
幹
(
みき
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
010
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はツト
立止
(
たちど
)
まり、
011
甲
(
かふ
)
『オイ
此辺
(
ここら
)
で
一先
(
ひとま
)
づ
一服
(
いつぷく
)
して
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
012
これから
先
(
さき
)
は
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
だ。
013
何程
(
なにほど
)
斥候隊
(
せきこうたい
)
だと
云
(
い
)
つても、
014
僅
(
わづ
)
かに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
位
(
ぐらゐ
)
では
心細
(
こころぼそ
)
いぢやないか。
015
三五教
(
あななひけう
)
の
言霊
(
ことたま
)
宣伝使
(
せんでんし
)
とやらに
出会
(
でつくは
)
したら、
016
大変
(
たいへん
)
な
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
ふと
云
(
い
)
う
事
(
こと
)
だ。
017
一
(
ひと
)
つ
此辺
(
ここら
)
で
団尻
(
だんじり
)
を
下
(
お
)
ろして
馬
(
うま
)
に
水
(
みづ
)
でもかうたら
何
(
ど
)
うだイ』
018
乙
(
おつ
)
『オイ
何処
(
どこ
)
に
馬
(
うま
)
が
居
(
ゐ
)
るのだ。
019
貴様
(
きさま
)
チツと
呆
(
とぼ
)
けてゐやせぬか』
020
甲
(
かふ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
馬
(
うま
)
で、
021
モ
一人
(
ひとり
)
が
鹿
(
しか
)
だ。
022
大分
(
だいぶ
)
最前
(
さいぜん
)
からヒイヒイと
汽笛
(
きてき
)
をならしてゐるぢやないか。
023
それだから
此
(
こ
)
の
出水
(
でみづ
)
で
馬
(
うま
)
に
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
ませと
云
(
い
)
ふのだよ』
024
乙
(
おつ
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ、
025
鼬
(
いたち
)
奴
(
め
)
が。
026
先
(
さき
)
へ
行
(
ゆ
)
きよつて
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
い
屁
(
へ
)
を
連発
(
れんぱつ
)
しよつて、
027
コレ
見
(
み
)
ろ、
028
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
は
曲
(
まが
)
つて
了
(
しま
)
つた。
029
眉毛
(
まゆげ
)
迄
(
まで
)
立枯
(
たちがれ
)
が
出来
(
でき
)
てきたワ。
030
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
が
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つたものだな』
031
甲
(
かふ
)
『
俺
(
おれ
)
の
最後屁
(
さいごぺ
)
で
鼻
(
はな
)
が
曲
(
まが
)
つたのぢやないわ。
032
貴様
(
きさま
)
は
先天
(
せんてん
)
的
(
てき
)
に
鼻曲
(
はなまが
)
りだ。
033
親譲
(
おやゆづ
)
りの
片輪
(
かたわ
)
迄
(
まで
)
俺
(
おれ
)
の
屁
(
へ
)
に
転嫁
(
てんか
)
さすとは、
034
チト
虫
(
むし
)
が
好
(
よ
)
すぎるぞ。
035
何
(
ど
)
うだドツと
張込
(
はりこ
)
ンで
此処
(
ここ
)
で
休息
(
きうそく
)
しようぢやないか。
036
さうすりや、
037
やがて
本隊
(
ほんたい
)
がやつて
来
(
く
)
るのだから、
038
先
(
ま
)
づ
斥候
(
せきこう
)
だと
云
(
い
)
つても
一丁
(
いつちやう
)
位
(
くらゐ
)
の
距離
(
きより
)
を
持
(
たも
)
つて
行
(
ゆ
)
かなくちやコレから
先
(
さき
)
は
心細
(
こころぼそ
)
いよ』
039
乙
(
おつ
)
『それだから
貴様
(
きさま
)
は
鼬
(
いたち
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
040
直
(
すぐ
)
に
糞
(
ばば
)
をたれ
屁古垂
(
へこた
)
れよつて
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
だイ』
041
甲
(
かふ
)
『ヘン
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない。
042
臆病
(
おくびやう
)
たれ
奴
(
め
)
、
043
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
真中
(
まんなか
)
へ
入
(
はい
)
らにやヨウ
歩
(
ある
)
かぬと
云
(
い
)
つたぢやないか。
044
ポンポン
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
アーちやまは
敵
(
てき
)
の
矢玉
(
やだま
)
を
受
(
う
)
ける
一番槍
(
いちばんやり
)
の
御
(
ご
)
先頭
(
せんとう
)
だぞ。
045
何
(
なん
)
なら
貴様
(
きさま
)
、
046
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つたら
何
(
ど
)
うだイ。
047
俺
(
おれ
)
が
真中
(
まんなか
)
から
行
(
い
)
つてやらうか』
048
乙
(
おつ
)
『
先輩
(
せんぱい
)
が
先
(
さき
)
へ
行
(
ゆ
)
くのは
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だよ。
049
総
(
すべ
)
て
物
(
もの
)
には
順序
(
じゆんじよ
)
がある。
050
長幼序
(
ちやうえうじよ
)
あり
夫婦別
(
ふうふべつ
)
あり、
051
といふからなア』
052
甲
(
かふ
)
『
夜道
(
よみち
)
を
行
(
ゆ
)
く
時
(
とき
)
丈
(
だ
)
け
貴様
(
きさま
)
は
長幼序
(
ちやうえうじよ
)
ありを
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
すのだから
耐
(
たま
)
らぬワ。
053
なア
丙州
(
へいしう
)
、
054
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここら
)
で
休
(
やす
)
ンで
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
055
丙
(
へい
)
『モー
二三丁
(
にさんちやう
)
北
(
きた
)
へ
行
(
ゆ
)
けば
古社
(
ふるやしろ
)
の
跡
(
あと
)
がある。
056
ウン
其処
(
そこ
)
には
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
のよい
段
(
だん
)
があつて、
057
腰
(
こし
)
をかけるに
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いだ。
058
そこ
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
059
甲
(
かふ
)
『そこ
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
くのは
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
060
なンだか
俄
(
にはか
)
に
足
(
あし
)
が
進
(
すす
)
まなくなつたのだ。
061
出
(
で
)
るのぢやないか。
062
エー』
063
丙
(
へい
)
『
出
(
で
)
るとは
何
(
なに
)
が
出
(
で
)
るのだい。
064
怪体
(
けたい
)
な
事
(
こと
)
をいふ
奴
(
やつ
)
だな』
065
甲
(
かふ
)
『
出
(
で
)
るとも
出
(
で
)
るとも
大
(
おほい
)
に
出
(
で
)
るのだ。
066
モウ
夜明
(
よあ
)
けに
間
(
ま
)
もあるまいから、
067
此処
(
ここら
)
で
一寸
(
ちよつと
)
休
(
やす
)
みて
行
(
ゆ
)
かうかい』
068
丙
(
へい
)
『アハー
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いた
鬼娘
(
おにむすめ
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
しよつたな。
069
ソレは
貴様
(
きさま
)
、
070
人
(
ひと
)
の
話
(
はなし
)
だよ。
071
幽霊
(
いうれい
)
と
化物
(
ばけもの
)
と
鬼
(
おに
)
とは
決
(
けつ
)
して
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にあるものぢやない。
072
そンな
迷信
(
めいしん
)
をするな。
073
さア、
074
行
(
ゆ
)
かう』
075
乙
(
おつ
)
『ヨウ
其奴
(
そいつ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ものだ。
076
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
見
(
み
)
たところが、
077
何
(
なん
)
の
役
(
やく
)
にもならないから、
078
マア
此辺
(
ここら
)
で
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
一服
(
いつぷく
)
しようかい。
079
それの
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
安全
(
あんぜん
)
だぞ』
080
丙
(
へい
)
『アハヽヽヽ
此奴
(
こいつ
)
も
到頭
(
たうとう
)
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
き
居
(
を
)
つた。
081
やつぱり
鬼娘
(
おにむすめ
)
が
恐
(
こは
)
いと
見
(
み
)
えるワイ。
082
頭
(
あたま
)
に
蝋燭
(
らふそく
)
を
三本
(
さんぼん
)
立
(
た
)
て、
083
面
(
つら
)
を
青赤
(
あをあか
)
く
塗
(
ぬ
)
りたて、
084
口
(
くち
)
を
耳
(
みみ
)
迄
(
まで
)
裂
(
さ
)
けたやうにして、
085
ピカツ ピカツと
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
086
白
(
しろ
)
い
尾
(
を
)
を
引
(
ひき
)
ずつて
来
(
く
)
る
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
たら
余
(
あんま
)
り
気味
(
きびた
)
がよい
事
(
こと
)
ない
事
(
こと
)
ない
事
(
こと
)
ないワ。
087
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
だか
身柱元
(
ちりけもと
)
がぞくぞくして
来
(
き
)
はせぬワイ。
088
さア、
089
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
もそこ
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
めとは
云
(
い
)
はぬわ』
090
甲
(
かふ
)
『アハヽヽヽ、
091
やつぱり
此奴
(
こいつ
)
も
屁古垂
(
へこた
)
れ
組
(
ぐみ
)
だな。
092
時
(
とき
)
にランチ
将軍
(
しやうぐん
)
さまは
何故
(
なぜ
)
アンナ
爺
(
ぢい
)
や
婆
(
ばば
)
を
大事
(
だいじ
)
相
(
さう
)
に
駕籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
せて
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
ゆるのだらうかなア。
093
些
(
ちつ
)
とも
合点
(
がつてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬぢやないか。
094
彼奴
(
あいつ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
や、
095
黒姫
(
くろひめ
)
が
化
(
ば
)
けてゐるのだと
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
だが、
096
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
面
(
かほ
)
を
見
(
み
)
たが、
097
余
(
あま
)
り
恐
(
こは
)
さうな
奴
(
やつ
)
ぢやなかつたぞ』
098
乙
(
おつ
)
『それが
化物
(
ばけもの
)
だよ。
099
人殺
(
ひとごろし
)
をしたり、
100
強盗
(
がうたう
)
する
奴
(
やつ
)
には
決
(
けつ
)
して
悪相
(
あくさう
)
な
奴
(
やつ
)
は
無
(
な
)
いものだ。
101
虫
(
むし
)
も
殺
(
ころ
)
さぬ
丸
(
まる
)
で
女
(
をんな
)
の
様
(
やう
)
な
優
(
やさ
)
しい
面
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
つて、
102
陰
(
かげ
)
で
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をするのだ。
103
俺
(
おれ
)
の
様
(
やう
)
な
閻魔面
(
えんまづら
)
は
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
が
初
(
はじ
)
めから
恐
(
こは
)
がつて
油断
(
ゆだん
)
をせぬから、
104
一寸
(
ちよつと
)
も
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
はせない。
105
外面
(
げめん
)
如
(
によ
)
菩薩
(
ぼさつ
)
、
106
内心
(
ないしん
)
如
(
によ
)
夜叉
(
やしや
)
と
云
(
い
)
つてな、
107
外
(
そと
)
から
弱
(
よわ
)
そに
見
(
み
)
える
奴
(
やつ
)
が
挺子
(
てこ
)
でも
棒
(
ぼう
)
でも
了
(
を
)
へぬ
奴
(
やつ
)
だよ』
108
丙
(
へい
)
『さうすると
彼
(
あ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
、
109
黒姫
(
くろひめ
)
を
駕籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
せ、
110
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
通過
(
つうくわ
)
せうといふ
算段
(
さんだん
)
だなア』
111
甲
(
かふ
)
『ウンさうだ。
112
何
(
なん
)
でも
治国別
(
はるくにわけ
)
とか、
113
玉国別
(
たまくにわけ
)
とか
云
(
い
)
ふ
豪傑
(
がうけつ
)
が
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
や、
114
懐谷
(
ふところだに
)
辺
(
あたり
)
に
陣
(
ぢん
)
を
構
(
かま
)
へて
頻
(
しき
)
りに
言霊
(
ことたま
)
とやらを
打出
(
うちだ
)
しよるものだから、
115
何
(
ど
)
うしても
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない。
116
そこで
三五教
(
あななひけう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
、
117
黒姫
(
くろひめ
)
が
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
伴
(
つ
)
れてライオン
河
(
がは
)
の
畔
(
ほとり
)
にバラモン
軍
(
ぐん
)
の
動静
(
どうせい
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
つたのを
甘
(
うま
)
く
捕獲
(
ほくわく
)
し、
118
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
通過
(
つうくわ
)
しようといふ
計略
(
けいりやく
)
だ。
119
もし
言霊
(
ことたま
)
でも
打出
(
うちだ
)
し
居
(
を
)
つたら
駕籠
(
かご
)
の
扉
(
と
)
をパツと
開
(
ひら
)
き、
120
槍
(
やり
)
で
殺
(
ころ
)
すが
何
(
ど
)
うだ。
121
コレでも
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
するかと
両人
(
りやうにん
)
の
胸元
(
むなもと
)
へ
突
(
つ
)
きつけるのだ。
122
さうすると
如何
(
いか
)
に
無謀
(
むぼう
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
でも、
123
三五教
(
あななひけう
)
切
(
き
)
つての
豪傑
(
がうけつ
)
杢助
(
もくすけ
)
、
124
黒姫
(
くろひめ
)
を
見殺
(
みごろし
)
にする
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬ。
125
せう
事
(
こと
)
なしに
屁古垂
(
へこた
)
れ
居
(
を
)
つて、
126
何卒
(
どうぞ
)
無事
(
ぶじ
)
に
御
(
ご
)
通過
(
つうくわ
)
をして
下
(
くだ
)
さいと
反対
(
あべこべ
)
に
頼
(
たの
)
むやうに
仕組
(
しぐ
)
まれた
仕事
(
しごと
)
だ。
127
随分
(
ずゐぶん
)
ランチさまも
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
ぢやないか』
128
兄妹
(
きやうだい
)
は
一口
(
ひとくち
)
々々
(
ひとくち
)
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせ
乍
(
なが
)
ら
聞
(
き
)
きゐたり。
129
丙
(
へい
)
『
何
(
なん
)
だか
人
(
ひと
)
くさいぞ。
130
怪体
(
けたい
)
な
匂
(
にほ
)
ひがするぢやないか』
131
乙
(
おつ
)
『
人
(
ひと
)
くさいなンて
丸
(
まる
)
で
鬼
(
おに
)
のやうな
事
(
こと
)
をいふない。
132
アタ
厭
(
いや
)
らしい、
133
鬼娘
(
おにむすめ
)
の
出
(
で
)
る
森
(
もり
)
だと
思
(
おも
)
つて
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢや
無
(
な
)
い。
134
ナーニ
此処
(
ここ
)
に
人
(
ひと
)
が
居
(
を
)
つて
耐
(
たま
)
るかい。
135
俺様
(
おれさま
)
のやうな
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
でも
気味
(
きみ
)
の
悪
(
わる
)
い
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
だ。
136
こンな
所
(
ところ
)
へ
夜夜中
(
よるよなか
)
うろついて
居
(
ゐ
)
ようものなら
大蛇
(
をろち
)
に
呑
(
の
)
まれて
了
(
しま
)
ふワイ』
137
丙
(
へい
)
『それでも
何
(
なん
)
だか
人間
(
にんげん
)
の
匂
(
にほ
)
ひがするやうだ、
138
併
(
しか
)
し
人間
(
にんげん
)
の
臭
(
にほひ
)
のするのは
当然
(
あたりまへ
)
だらうよ。
139
此処
(
ここ
)
にも
一人
(
ひとり
)
人間
(
にんげん
)
が
居
(
を
)
るのだからなア』
140
乙
(
おつ
)
『
人間
(
にんげん
)
が
一人
(
ひとり
)
とはなンだい。
141
三
(
さん
)
人
(
にん
)
居
(
を
)
るぢやないか』
142
丙
(
へい
)
『
俺
(
おれ
)
は
人間
(
にんげん
)
だが
他
(
ほか
)
は
鼬
(
いたち
)
と
鹿
(
しか
)
だ』
143
乙
(
おつ
)
『ナニを
吐
(
ぬか
)
すのだい。
144
ドー
狸
(
たぬき
)
奴
(
め
)
が』
145
丙
(
へい
)
『
狸
(
たぬき
)
でも
何
(
なん
)
でもホツチツチだ。
146
俺
(
おれ
)
の
人間
(
にんげん
)
さまの
鼻
(
はな
)
には
何
(
ど
)
うも
異性
(
いせい
)
の
匂
(
にほ
)
ひがするのだ。
147
随分
(
ずゐぶん
)
威勢
(
ゐせい
)
のよい
匂
(
にほ
)
ひだよ。
148
一寸
(
ちよつと
)
男
(
をとこ
)
の
匂
(
にほ
)
ひもするやうだし』
149
乙
(
おつ
)
『ハー、
150
さうすると
貴様
(
きさま
)
もやつぱり
四足
(
よつあし
)
だ。
151
犬
(
いぬ
)
の
生
(
うま
)
れ
代
(
がは
)
りだな。
152
さうでなくちや、
153
それ
丈
(
だけ
)
鼻
(
はな
)
の
利
(
き
)
く
気遣
(
きづか
)
ひはないわ。
154
ハナハナ
以
(
もつ
)
て
奇妙
(
きめう
)
奇天烈
(
きてれつ
)
な
動物
(
どうぶつ
)
だなア』
155
楓
(
かへで
)
は
可笑
(
をか
)
しさに
怺
(
こら
)
えかね、
156
「ホヽヽヽヽ」と
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
せば、
157
乙
(
おつ
)
『ソラ
鬼娘
(
おにむすめ
)
だ。
158
ホヽヽヽヽだ。
159
オイ
逃
(
に
)
げろ
逃
(
に
)
げろ』
160
甲
(
かふ
)
丙
(
へい
)
『
逃
(
に
)
げろといつたつて
逃
(
にげ
)
られるものか。
161
モウあきらめるより
仕方
(
しかた
)
がないわ。
162
肝腎
(
かんじん
)
の
腰
(
こし
)
が
命令権
(
めいれいけん
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
せぬのだから』
163
傍
(
かたはら
)
の
木蔭
(
こかげ
)
から、
164
(晴公、楓)
『アハヽヽヽ、
165
オホヽヽヽ』
166
丙
(
へい
)
『ソレ
見
(
み
)
たか、
167
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
は
偉
(
えら
)
いものだろ。
168
若
(
わか
)
い
男女
(
だんぢよ
)
が
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
169
ソツと
吾
(
わが
)
家
(
や
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
170
たとへ
野
(
の
)
の
末
(
すゑ
)
、
171
山
(
やま
)
の
奥
(
おく
)
、
172
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
の
住処
(
すみか
)
でも、
173
などと
洒落
(
しやれ
)
よつて
恋
(
こひ
)
の
道
(
みち
)
行
(
ゆ
)
きをやつてるのだよ。
174
斯
(
か
)
う
分
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
矢張
(
やつぱり
)
人間
(
にんげん
)
だ、
175
驚
(
おどろ
)
く
必要
(
ひつえう
)
はないわ』
176
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
は
胸
(
むね
)
をなで
下
(
お
)
ろし、
177
甲、乙
『
誰
(
たれ
)
も
驚
(
おどろ
)
いてゐるものがあるかい。
178
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
驚
(
おどろ
)
いて
居
(
ゐ
)
よるのだ。
179
オイ
若夫婦
(
わかふうふ
)
、
180
そンな
処
(
ところ
)
へ
隠
(
かく
)
れて
居
(
を
)
らずに、
181
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
此処
(
ここ
)
へ
罷
(
まか
)
りつン
出
(
で
)
て、
182
何
(
ど
)
ンな
面付
(
つらつ
)
きをして
居
(
を
)
るか、
183
一
(
ひと
)
つ
御
(
お
)
慰
(
なぐさ
)
みに
供
(
きよう
)
したら
何
(
ど
)
うだい』
184
楓
(
かへで
)
はやさしい
声
(
こゑ
)
で、
185
楓
『
兄
(
にい
)
さま、
186
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
がアナイ
云
(
い
)
うてゐやはりますから、
187
一寸
(
ちよつと
)
顔
(
かほ
)
を
拝
(
をが
)
まして
上
(
あ
)
げませうかなア。
188
ホヽヽヽヽ』
189
甲
(
かふ
)
『ナーンだ、
190
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるない。
191
拝
(
をが
)
まして
上
(
あ
)
げようなンて、
192
何
(
ど
)
ンなナイスかしらぬが、
193
女
(
をんな
)
位
(
ぐらゐ
)
に
精神
(
せいしん
)
をとろかすアーちやまぢやないぞ、
194
エー。
195
世間体
(
せけんてい
)
をつくりよつて「
兄
(
にい
)
さま、
196
ホヽヽヽヽ」が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れるワイ。
197
貴様
(
きさま
)
は
親
(
おや
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
ンで
喰
(
く
)
つ
付
(
つ
)
いてゐるのだろ。
198
サア
此処
(
ここ
)
へつン
出
(
で
)
て
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
白状
(
はくじやう
)
するのだ。
199
早
(
はや
)
う
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬかいグヅグヅしてゐると
爺婆
(
ぢぢばば
)
の
駕籠
(
かご
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
ると
迷惑
(
めいわく
)
だ。
200
それ
迄
(
まで
)
に
首実検
(
くびじつけん
)
をしておく
必要
(
ひつえう
)
があるワ』
201
楓
(
かへで
)
『ホヽヽヽヽ、
202
アタイもアンタ
方
(
がた
)
の
首
(
くび
)
を
実検
(
じつけん
)
して
置
(
お
)
く
必要
(
ひつえう
)
があるのよ。
203
幸
(
さいは
)
ひお
月様
(
つきさま
)
も
御
(
お
)
照
(
て
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
204
よく
見
(
み
)
えるでせう。
205
アタイ
毎晩
(
まいばん
)
此
(
この
)
森
(
もり
)
に
現
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
る
鬼娘
(
おにむすめ
)
ですわ。
206
ビツクリなさいますなや』
207
甲
(
かふ
)
『エー、
208
気味
(
きび
)
たの
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
す
奴
(
やつ
)
だ。
209
モウ
拝謁
(
はいえつ
)
はまかりならぬ。
210
勝手
(
かつて
)
に
森
(
もり
)
の
奥
(
おく
)
へすつこみて、
211
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はさぬやうにいたせ』
212
楓
(
かへで
)
『アタイその
爺
(
ぢい
)
さまと
婆
(
ばあ
)
さまとが
喰
(
く
)
ひたいのよ。
213
それで
此処
(
ここ
)
に
青鬼
(
あをおに
)
の
兄
(
にい
)
さまと
待
(
ま
)
つてゐるの。
214
皆
(
みな
)
さま、
215
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だね。
216
馬
(
うま
)
さま、
217
鹿
(
しか
)
さま、
218
狸
(
たぬき
)
さま。
219
ホヽヽヽヽ』
220
甲
(
かふ
)
『エー
鬼娘
(
おにむすめ
)
迄
(
まで
)
が
馬鹿
(
ばか
)
にしよる
哩
(
わい
)
。
221
コリヤ
鬼娘
(
おにむすめ
)
、
222
コレでも
一人前
(
いちにんまへ
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
兄
(
にい
)
さまだぞ。
223
沢山
(
たくさん
)
のナイスにチヤホヤされて
袖
(
そで
)
が
千切
(
ちぎ
)
れて
怺
(
たま
)
らないから、
224
浮世
(
うきよ
)
のうるささを
避
(
さ
)
けてバラモン
教
(
けう
)
の
先生
(
せんせい
)
になつてゐるのだ。
225
何程
(
なにほど
)
惚
(
ほれ
)
たつて
駄目
(
だめ
)
だ。
226
四十八
(
しじふはち
)
珊
(
サンチ
)
のクルツプ
砲
(
はう
)
を
発射
(
はつしや
)
してやらうか。
227
貴様
(
きさま
)
も
地獄
(
ぢごく
)
から
来
(
き
)
たのだらうが、
228
地獄
(
ぢごく
)
へ
帰
(
かへ
)
つてアーちやまに
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされたと
云
(
い
)
つては
貴様
(
きさま
)
の
面
(
つら
)
が
立
(
た
)
つまい。
229
さア、
230
早
(
はや
)
く
退却
(
たいきやく
)
々々
(
たいきやく
)
』
231
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
十七八
(
じふしちはち
)
人
(
にん
)
の
同勢
(
どうぜい
)
、
232
抜
(
ぬ
)
き
身
(
み
)
の
鎗
(
やり
)
を
振
(
ふ
)
りかざし、
233
二挺
(
にちやう
)
の
駕籠
(
かご
)
をかつがせてスタスタとやつて
来
(
く
)
る。
234
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
つた
男
(
をとこ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
月影
(
つきかげ
)
に
眺
(
なが
)
め、
235
男
(
をとこ
)
『ヤア
此処
(
ここ
)
に
何
(
なん
)
だか
怪
(
あや
)
しいものが
居
(
を
)
る。
236
大方
(
おほかた
)
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
だろ。
237
オイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
238
首途
(
かどで
)
の
血祭
(
ちまつり
)
に
芋刺
(
いもざ
)
しにして
行
(
ゆ
)
け』
239
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
両手
(
りやうて
)
をひろげ、
240
甲、乙、丙
『アーモシモシ アクに、
241
タクに、
242
テクだ。
243
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
で
鬼娘
(
おにむすめ
)
が
出
(
で
)
やがつたから
評定
(
ひやうじやう
)
をしてゐるのだ。
244
見違
(
みちが
)
へて
貰
(
もら
)
つちや
困
(
こま
)
るぞ』
245
槍持
(
やりもち
)
『ナンダ
斥候隊
(
せきこうたい
)
のアク、
246
タク、
247
テクぢやないか。
248
何故
(
なぜ
)
こンな
処
(
ところ
)
にグヅグヅしてゐるのだ。
249
敵状
(
てきじやう
)
は
何
(
ど
)
うなつたか』
250
甲
(
かふ
)
『
何
(
ど
)
うも
斯
(
か
)
うもあつたものぢやない。
251
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
鬼娘
(
おにむすめ
)
が
現
(
あら
)
はれたのだ。
252
声
(
こゑ
)
ばつかり
聞
(
きこ
)
えてチツとも
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えないのだよ』
253
槍持
(
やりもち
)
はビクビク
震
(
ふる
)
へ
出
(
だ
)
した。
254
槍持
『ナヽヽヽナニ
鬼娘
(
おにむすめ
)
が
出
(
で
)
たと。
255
ソヽヽヽそしてそれは
何
(
ど
)
うなつたのだい』
256
甲
(
かふ
)
『
俺
(
おれ
)
に
惚
(
ほれ
)
よつたと
見
(
み
)
えて、
257
どうしても
斯
(
か
)
うしても
除
(
の
)
かぬのだよ。
258
大雲山
(
だいうんざん
)
のお
札
(
ふだ
)
でもあつたら
貸
(
かし
)
て
呉
(
く
)
れないか』
259
男
(
をとこ
)
『
怪体
(
けたい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
260
マアマア
此処
(
ここ
)
へ
一
(
ひと
)
つ
駕籠
(
かご
)
を
下
(
お
)
ろして
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
よう。
261
全隊
(
ぜんたい
)
止
(
と
)
まれ!』
262
と
号令
(
がうれい
)
する。
263
十七八
(
じふしちはち
)
人
(
にん
)
の
同勢
(
どうぜい
)
は
鎗
(
やり
)
を
杖
(
つゑ
)
につき
足
(
あし
)
を
揃
(
そろ
)
へてピタリと
止
(
と
)
まつた。
264
二人
(
ふたり
)
を
乗
(
の
)
せた
籠
(
かご
)
は
手荒
(
てあら
)
く
地上
(
ちじやう
)
に
下
(
お
)
ろされた。
265
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
から
辺
(
あた
)
りに
響
(
ひび
)
く
大声
(
おほごゑ
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
さやさやに
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たる。
266
治国別
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
267
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
268
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
269
われは
治国別
(
はるくにわけ
)
の
神
(
かみ
)
270
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
片彦
(
かたひこ
)
の
271
手下
(
てした
)
の
奴
(
やつ
)
共
(
ども
)
よつく
聞
(
き
)
け
272
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
に
陣取
(
ぢんど
)
りて
273
生言霊
(
いくことたま
)
に
妙
(
めう
)
を
得
(
え
)
し
274
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
275
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
一族
(
いちぞく
)
悉
(
ことごと
)
く
276
生言霊
(
いくことたま
)
に
払
(
はら
)
はむと
277
今
(
いま
)
や
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
向
(
むか
)
うたり
278
もはや
逃
(
にが
)
れぬ
百年目
(
ひやくねんめ
)
279
汝
(
なんぢ
)
の
運
(
うん
)
も
早
(
はや
)
つきぬ
280
二
(
ふた
)
つの
籠
(
かご
)
をそこに
置
(
お
)
き
281
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
れ
282
拒
(
こば
)
むに
於
(
おい
)
ては
某
(
それがし
)
が
283
又
(
また
)
もやきびしき
言霊
(
ことたま
)
を
284
霰
(
あられ
)
の
如
(
ごと
)
く
打出
(
うちいだ
)
し
285
曲
(
まが
)
に
従
(
したが
)
ふ
者
(
もの
)
共
(
ども
)
を
286
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
に
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
き
287
滅
(
ほろぼ
)
しくれむは
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
288
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
289
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
290
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
吾々
(
われわれ
)
は
291
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
す
宣伝使
(
せんでんし
)
292
汝
(
なんぢ
)
の
罪
(
つみ
)
は
憎
(
にく
)
けれど
293
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
に
神習
(
かむなら
)
ひ
294
仁慈
(
じんじ
)
を
以
(
もつ
)
て
救
(
すく
)
ふ
可
(
べ
)
し
295
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
296
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
へよ』
297
此
(
この
)
言霊
(
ことたま
)
に
不意
(
ふい
)
を
打
(
う
)
たれて
二挺籠
(
にちやうかご
)
を
路上
(
ろじやう
)
に
捨
(
す
)
てた
儘
(
まま
)
、
298
バラバラパツと
蜘蛛
(
くも
)
の
子
(
こ
)
を
散
(
ち
)
らすが
如
(
ごと
)
く
生命
(
いのち
)
からがら
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
299
アク、
300
タク、
301
テクの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
腰
(
こし
)
をぬかして
逃
(
に
)
げ
後
(
おく
)
れ、
302
路傍
(
ろばう
)
に
四這
(
よつば
)
ひとなつて
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
おのの
)
いてゐる。
303
楓
(
かへで
)
は
森
(
もり
)
かげを
立出
(
たちい
)
で
山駕籠
(
やまかご
)
の
扉
(
と
)
を
開
(
ひら
)
いて、
304
アツと
計
(
ばか
)
りにおどろき
叫
(
さけ
)
ぶ。
305
(
大正一一・一二・八
旧一〇・二〇
外山豊二
録)
306
(昭和九・一二・二七 王仁校正)
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