霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 滝(たき)の下(した)〔一一七三〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm4404
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 初冬(はつふゆ)の空(そら)に輝(かがや)く月(つき)の光(ひかり)は、002河鹿川(かじかがは)の谷間(たにま)を落(お)つる屏風(びやうぶ)の様(やう)な滝(たき)に懸(かか)つて、003玉(たま)の如(ごと)き飛沫(ひまつ)をとばし、004其(その)飛沫(ひまつ)には一々(いちいち)月(つき)が宿(やど)つて、005星(ほし)の飛(と)ぶ様(やう)に見(み)えて居(ゐ)る、006ここは祠(ほこら)の森(もり)から三町(さんちやう)許(ばか)り下手(しもて)である。007滝(たき)の音(おと)を圧(あつ)して、008大声(おほごゑ)に笑(わら)ひさざめいてゐる三(さん)人(にん)の男(をとこ)ありける。
009イル『オイ、010イクにサール、011今晩(こんばん)は怪体(けたい)な晩(ばん)ぢやないか。012松公(まつこう)さまが兄貴(あにき)に会(あ)ひ、013根本(こつぽん)の根本(こつぽん)から三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)して了(しま)ひ、014俺(おれ)と一緒(いつしよ)に巻込(まきこ)まれて了(しま)つたが、015併(しか)し考(かんが)へてみれば危(あぶ)ないものだぞ。016何程(なにほど)三五教(あななひけう)が、017神力(しんりき)が強(つよ)いと云(い)つても、018玉国別(たまくにわけ)、019治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)〆(しめ)て十(じふ)人(にん)以内(いない)だ。020ランチ将軍(しやうぐん)の率(ひき)ゆる、021数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)に進路(しんろ)を遮(さへぎ)られ、022何時(いつ)迄(まで)も袋(ふくろ)の鼠(ねづみ)の様(やう)に祠(ほこら)の森(もり)近辺(きんぺん)に退嬰(たいえい)して居(を)つた所(ところ)で、023さう兵糧(ひやうらう)は続(つづ)くまいし、024今度(こんど)は計画(けいくわく)をかへて、025捲土(けんど)重来(ぢうらい)と、026ランチ将軍(しやうぐん)が指揮(しき)の下(もと)に登(のぼ)つて来(こ)ようものならそれこそ大変(たいへん)だよ。027俺(おれ)達(たち)ア敵(てき)に帰順(きじゆん)したと云(い)つて、028キツと槍玉(やりだま)にあげられるに違(ちがひ)ない。029三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)すればバラモン教(けう)から睨(にら)まれる。030バラモン教(けう)の方(はう)へ行(ゆ)けば三五教(あななひけう)から攻(せ)められるだらうし、031イクにも行(ゆ)かれず、032逃(に)げるにも逃(に)げられず、033エライ、034ヂレンマに係(かか)つたものだ。035お前(まへ)達(たち)は如何(どう)する考(かんが)へだ』
036イク『此(この)イクさまの肚(はら)の中(なか)にはイクラも妙案(めうあん)奇策(きさく)が包蔵(はうざう)してあるのだから、037さう悲観(ひくわん)したものぢやない。038キツと三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)して居(を)れば活路(くわつろ)は開(ひら)けるよ。039此(この)河鹿(かじか)峠(たうげ)は敵味方(てきみかた)勝敗(しようはい)の分(わか)るる所(ところ)だ、040が併(しか)し乍(なが)ら、041此(この)喉首(のどくび)を三五教(あななひけう)に扼(やく)されて了(しま)つたのだから、042仮令(たとへ)百万(ひやくまん)の兵士(へいし)を引(ひき)つれて、043ランチ将軍(しやうぐん)が登(のぼ)つて来(き)た所(ところ)で、044さう一度(いちど)に戦(たたか)へるものでなし、045小口(こぐち)から将棋倒(しやうぎだふ)しにやられて了(しま)ふのは当然(たうぜん)だ。046それだから身(み)の安全(あんぜん)、047霊(みたま)の健全(けんぜん)を保(たも)つ為(ため)に三五教(あななひけう)にスーツパリと帰順(きじゆん)したのだ。048貴様(きさま)はまだ迷(まよ)うてイルのか、049信仰心(しんかうしん)の足(た)らない奴(やつ)だなア。050風呂(ふろ)の蓋(ふた)でイル時(とき)にイラン、051入(い)らぬ時(とき)に入(い)る代物(しろもの)だよ』
052イル『それだと云(い)つてヤツパリ人(ひと)は先(さき)の事(こと)も考(かんが)へておかねば、053サア今(いま)となつて周章(しうしやう)狼狽(らうばい)した所(ところ)が、054後(あと)の祭(まつり)で仕方(しかた)がないからのう』
055サール『兎(と)も角(かく)も吾々(われわれ)三(さん)人(にん)をお疑(うたがひ)もなく、056そこらを遊(あそ)ンで来(こ)いと云(い)つて解放(かいはう)してくだサールような寛大(くわんだい)な度量(どりやう)のひろい宣伝使(せんでんし)だから、057キツと確信(かくしん)があるのだ。058モウそンな馬鹿(ばか)な事(こと)はいはずに神(かみ)様(さま)に任(まか)しておく方(はう)が何程(なにほど)安心(あんしん)だか知(し)れないなア。059此(この)滝水(たきみづ)を見(み)い、060実(じつ)に綺麗(きれい)ぢやないか。061此(この)真白(まつしろ)に光(ひか)つた清(きよ)らかな水(みづ)で心(こころ)の垢(あか)をサールと洗(あら)ひきよめ、062月(つき)の光(ひかり)に照(てら)されて、063自然(しぜん)の境(きやう)に逍遥(せうえう)し、064三(さん)人(にん)の親友(しんいう)が仮令(たとへ)半時(はんとき)でも、065かうしてゐられるのは全(まつた)く貴(たふと)き神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)だよ。066あゝ有難(ありがた)い有難(ありがた)い。067バラモン教(けう)であつたならば、068何(ど)うして今(いま)に帰順(きじゆん)した者(もの)に対(たい)し、069自由(じいう)行動(かうどう)をとらしてくれるものか、070之(これ)を見(み)ても教(をしへ)の大小(だいせう)が分(わか)るぢやないか。071第一(だいいち)世(よ)の中(なか)を刃物(はもの)を以(もつ)て治(をさ)めようなぞとは実(じつ)に危険(きけん)千万(せんばん)だ。072おりや最(も)う、073バラモンのバの字(じ)を聞(き)いても厭(いや)になつたよ。074バのついたものに碌(ろく)なものはありやしないよ。075ババアにババにバケモノ、076バクチにバンタ、077バリにバカと云(い)ふよなもので、078穢(きたな)い物(もの)計(ばか)りだ。079皆(みな)穴(あな)(欠点(けつてん))のある奴(やつ)ばかりがかたまつて居(を)るのだからなア、080俺(おれ)だつてバラモン教(けう)へ這入(はい)つてから、081世間(せけん)の奴(やつ)や友達(ともだち)に大変(たいへん)に擯斥(ひんせき)されたよ。082今(いま)ぢやバラモン教(けう)以外(いぐわい)の奴(やつ)ア サール神(かみ)に祟(たた)りありとか云(い)つて、083交際(つきあ)つてくれないのだからなア』
084イル『バラモン教(けう)へ入信(はい)つてから人(ひと)が附合(つきあ)はぬようになつたのぢやない、085貴様(きさま)は呑(の)んだくれのバクチ打(うち)のババせせりのバカ者(もの)だから、086世間(せけん)の奴(やつ)から排斥(はいせき)され、087行(ゆ)く所(ところ)がなくなつてバラモンへ入信(はい)つたのだろ。088どうせ、089バラモンへ入信(はい)るやうな奴(やつ)ア、090皆(みな)行詰(ゆきつま)り者(もの)だ。091行詰(ゆきつま)つて約(つま)らぬようになつてから、092つまらぬとは知(し)り乍(なが)ら入信(はい)るのだからなア』
093サール『さういへば、094幾分(いくぶん)かの真理(しんり)がないでもないでごサールワイ。095併(しか)し乍(なが)らイルだつて、096さうだろ、097世(よ)の中(なか)からゲジゲジの様(やう)に厭(いや)がられ、098相手(あひて)がなくて、099バラモンへ沈没(ちんぼつ)したのだから、100余(あま)り大(おほ)きな声(こゑ)で人(ひと)の批評(ひひやう)はせぬがよからうぞ。101此(この)世(よ)に用(よう)のない人間(にんげん)はバラモンへでも入信(はい)つて、102日(ひ)を送(おく)らねば仕方(しかた)がないからなア』
103イル『俺(おれ)だつて、104まだ世(よ)の中(なか)に必要(ひつえう)があるのだ。105イル代物(しろもの)だ。106それだからイルと名(な)がついてるのだよ。107弓(ゆみ)もイル、108風呂(ふろ)にもイル、109人(ひと)の為(ため)には肝(きも)もイル。110足(あし)の裏(うら)に豆(まめ)をイル。111……といふ重宝(ちようほう)な哥兄(にい)さまだ。112余(あま)りバカにして貰(もら)うまいか、113こンな事(こと)を嬶(かか)が聞(き)いたら一遍(いつぺん)にお暇(ひま)を頂戴(ちやうだい)しなくちやならないワ、114なア、115イク公(こう)』
116サール『貴様(きさま)偉相(えらさう)に言(い)つてるが、117女房(にようばう)がそれでもあるのか、118サール事実(じじつ)ありとは根(ね)つから噂(うはさ)にも聞(き)いた事(こと)がないぢやないか』
119イル『女房(にようばう)が内(うち)に要(い)るからイルと言(い)ふのだ。120嫁(よめ)がイル婿(むこ)がイルといつて、121一軒(いつけん)の内(うち)にはなくてならぬのだ。122併(しか)し乍(なが)ら俺(おれ)はまだ年(とし)が若(わか)いから、123女房(にようばう)の候補者(こうほしや)はザツと二打(にダース)ばかりあるのだが、124まだ金勝要(きんかつかね)の神(かみ)とやらが決定(けつてい)を与(あた)へてくれないので待命中(たいめいちう)だ』
125サール『待命中(たいめいちう)なら月給(げつきふ)の三分(さんぶ)の二(に)はくれるだらう。126チツとサールにも分配(ぶんぱい)したらどうだい』
127イル『イヅレ金勝要(きんかつかねの)神(かみ)さまだから、128金(かね)は沢山(たくさん)に持(も)つて厶(ござ)るよ。129俺(おれ)のは一遍(いつぺん)にチヨビ チヨビ貰(もら)ふのは邪魔(じやま)臭(くさ)いから、130一時金(いちじきん)として頂(いただ)くように、131天国(てんごく)の倉庫(さうこ)に預(あづ)けてあるのだ。132欲(ほ)しければ貴様(きさま)勝手(かつて)に働(はたら)いて力(ちから)一杯(いつぱい)取(と)つたがよからう、133イルだけ取(と)らしてやらう』
134 かく話(はな)す所(ところ)へ覆面(ふくめん)の男(をとこ)二人(ふたり)、135手槍(てやり)を杖(つゑ)につき乍(なが)ら木蔭(こかげ)よりノソリノソリ現(あら)はれ来(き)たり、136黒頭巾(くろづきん)は大喝(だいかつ)一声(いつせい)「コラツ」と叫(さけ)ぶを、137三(さん)人(にん)は思(おも)はず声(こゑ)の方(はう)に視線(しせん)を注(そそ)げば二人(ふたり)の大男(おほをとこ)が立(た)つてゐる。
138イル『コレヤどこの奴(やつ)か知(し)らぬが、139イル様(さま)が機嫌(きげん)よく夜遊(よあそ)びをしてるのに、140コラとは何(なん)だ、141一体(いつたい)貴様(きさま)は誰(たれ)だい。142大方(おほかた)三五教(あななひけう)の目付(めつけ)だろ、143俺(おれ)は勿体(もつたい)なくも大自在天(だいじざいてん)様(さま)の子分(こぶん)だ。144清春山(きよはるやま)の番(ばん)をしてゐる、145イル、146イク、147サールのお三体(さんたい)様(さま)だぞ。148サア是(これ)から貴様(きさま)等(たち)両人(りやうにん)をふン縛(しば)り、149ランチ将軍(しやうぐん)の前(まへ)へ連(つ)れて行(ゆ)くから、150覚悟(かくご)を致(いた)せ』
151男(アリス又はサム)『今(いま)木蔭(こかげ)に於(おい)て汝(なんぢ)等(ら)三(さん)人(にん)の話(はなし)を聞(き)けば、152最早(もはや)三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)しよつた反逆人(はんぎやくにん)、153そンな言訳(いひわけ)を致(いた)して、154あべこべに此(この)方(はう)を三五教(あななひけう)の捕手(とりて)呼(よ)ばはり致(いた)すとは、155中々(なかなか)以(もつ)て世智(せち)に丈(た)けた代物(しろもの)だ、156サアかうならば最早(もはや)了見(れうけん)は致(いた)さぬ。157此(この)方(はう)はランチ将軍(しやうぐん)の目付役(めつけやく)アリス、158サムの両人(りやうにん)だ。159俺(おれ)の武勇(ぶゆう)は天下(てんか)に聞(きこ)えて居(ゐ)るだろ。160一騎(いつき)当千(たうせん)の英傑(えいけつ)はアリス、161サムの事(こと)だ。162サア覚悟(かくご)をせい』
163イル『アハヽヽヽ吐(ぬか)したりな吐(ぬか)したりな。164アリス、165サムの野郎(やらう)、166グヅグヅぬかすと、167生言霊(いくことたま)の発射(はつしや)をしてやらうか、168モウ斯(か)うなつてイル以上(いじやう)は隠(かく)すに及(およ)ばぬ、169吾々(われわれ)三(さん)人(にん)は三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)の三羽烏(さんばがらす)だ。170グヅグヅぬかすと手(て)は見(み)せぬぞ』
171アリス『何(なん)と俄(にはか)に噪(はしや)ぎ出(だ)したものだのう。172そして貴様(きさま)等(たち)三(さん)人(にん)ばかりここにゐるのか。173何(なに)か後押(あとおし)する者(もの)がなくては、174貴様(きさま)の口(くち)からそンな強(つよ)い事(こと)が言(い)へる筈(はず)がない。175サア其(その)事情(じじやう)を、176ハツキリと申上(まをしあ)げるのだぞ』
177イル『大(おほい)に後援者(こうゑんしや)がアリスだ。178イル丈(だけ)イクらでも加勢(かせい)をして下(くだ)サールのだから、179大丈夫(だいぢやうぶ)だ。180貴様(きさま)のやうな弱将(じやくしやう)の下(もと)に仕(つか)へてゐるイルさまぢやない、181サア美事(みごと)生捕(いけどら)れるなら生捕(いけど)つてみよ。182今(いま)俺(おれ)が呼子(よびこ)の笛(ふえ)を一(ひと)つ吹(ふ)いたが最後(さいご)、183数百万(すうひやくまん)の獅子(しし)は唸(うな)りを立(た)てて此(この)場(ば)に現(あら)はれ、184汝(なんぢ)等(ら)が如(ごと)き弱武者(よわむしや)を木端(こつぱ)微塵(みぢん)に噛(か)み砕(くだ)き、185谷川(たにがは)を紅(くれなゐ)に染(そめ)なす迄(まで)の事(こと)だ。186サア吾々(われわれ)三(さん)人(にん)に指一本(ゆびいつぽん)でもさへられるものならさへてみよ』
187と捻鉢巻(ねぢはちまき)をし乍(なが)ら大(だい)の字(じ)に立(たち)はだかり、188槍(やり)の切先(きつさき)も恐(おそ)れず頬桁(ほほげた)を叩(たた)いてゐる。
189 谷道(たにみち)の遥(はるか)下方(かほう)より坂(さか)を上(のぼ)り来(く)る人声(ひとごゑ)聞(きこ)え来(き)たるにぞ、190アリス、191サムを始(はじ)め、192イル、193イク、194サールの彼我(ひが)一行(いつかう)は期(き)せずして、195其(その)声(こゑ)に耳(みみ)をすましける。
196(ヨル、テル、ハル)『高天原(たかあまはら)の大空(おほぞら)に
197常磐(ときは)堅磐(かきは)に輝(かがや)ける
198天王星(てんわうせい)の御国(みくに)より
199下(くだ)りましたる神柱(かむばしら)
200梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
201大国彦(おほくにひこ)の大神(おほかみ)を
202いつき祭(まつ)つたバラモンの
203神(かみ)の司(つかさ)の此処(ここ)彼処(かしこ)
204ハルナの都(みやこ)の神柱(かむばしら)
205大黒主(おほくろぬし)の御言(みこと)もて
206逍(さまよ)ひ巡(めぐ)る軍人(いくさびと)
207斎苑(いそ)の館(やかた)に現(あ)れませる
208神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)をば
209屠(ほふ)らむものとハルナ城(じやう)
210都(みやこ)を後(あと)に鬼春別(おにはるわけ)の
211大将軍(だいしやうぐん)を始(はじ)めとし
212ランチ将軍(しやうぐん)其(その)外(ほか)の
213表面(うはべ)ばかりは錚々(さうさう)と
214強(つよ)さうに見(み)える軍師(ぐんし)らが
215猛虎(まうこ)の如(ごと)き勢(いきほひ)で
216河鹿(かじか)峠(たうげ)の急坂(きふはん)を
217上(のぼ)りてウブスナ山脈(さんみやく)の
218大高原(だうかうげん)の斎苑(いそ)館(やかた)
219占領(せんりやう)せむと思(おも)ひ立(た)ち
220片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)二柱(ふたはしら)
221先鋒隊(せんぽうたい)の将軍(しやうぐん)と
222選(えら)まれイソイソ進(すす)み行(ゆ)く
223モウ一息(ひといき)といふ所(とこ)で
224治国別(はるくにわけ)の言霊(ことたま)に
225打(う)たれて脆(もろ)くも潰走(くわいそう)し
226今(いま)は是非(ぜひ)なく山口(やまぐち)の
227浮木(うきき)ケ原(はら)の真中(まんなか)に
228俄作(にはかづく)りの陣営(ぢんえい)を
229構(かま)へて敵(てき)を捉(とら)へむと
230手具脛(てぐすね)引(ひ)いて待(ま)ち居(を)れり
231吾(わ)れは片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の
232部下(ぶか)に仕(つか)へしテル、ハルよ
233負(まけ)た戦(いくさ)の門番(もんばん)を
234任(まか)され酒(さけ)に酔(よ)ひ狂(くる)ひ
235思(おも)はず知(し)らず脱線(だつせん)し
236大黒主(おほくろぬし)の身(み)の上(うへ)を
237口(くち)を極(きは)めて誹謗(ひばう)する
238其(その)場(ば)へヌツと現(あら)はれた
239大(だい)監督(かんとく)のヨル司(つかさ)
240団栗眼(どんぐりまなこ)を怒(いか)らして
241片彦(かたひこ)下(もと)へわれわれを
242引立(ひきた)て行(ゆ)かむと威(おど)しよる
243此奴(こいつ)ア鰌(どぢやう)ぢやなけれ共(ども)
244酒(さけ)でいためてくれむぞと
245仁王(にわう)の如(ごと)く立(た)つてゐる
246ヨルの左右(さいう)に葡萄酒(ぶだうしゆ)の
247瓶(びん)を見(み)せつけつめよれば
248流石(さすが)のヨルも辟易(へきえき)し
249コローツと参(まゐ)つて了(しま)ふたり
250二打(にダース)ばかりの葡萄酒(ぶだうしゆ)を
251瞬(またた)く内(うち)に平(たひ)らげて
252足(あし)もよろよろヨルさまは
253ヨル辺(べ)渚(なぎさ)の捨小舟(すてをぶね)
254殺(ころ)そと生(い)かそとテル、ハルの
255瞬(またた)く内(うち)に掌中(しやうちう)に
256其(その)運命(うんめい)を握(にぎ)られて
257くたばり返(かへ)つた面白(おもしろ)さ
258流石(さすが)のヨルもそろそろと
259酒(さけ)に誘(さそ)はれ本音(ほんね)をば
260吹出(ふきだ)し心(こころ)の奥底(おくそこ)を
261物語(ものがた)りたる其(その)時(とき)の
262吾(われ)等(ら)二人(ふたり)の驚(おどろ)きは
263譬(たと)ふる物(もの)もなかりけり
264いよいよこれから急坂(きふはん)だ
265テルさまシツカリしておくれ
266オイオイ、ヨルさま気(き)をつけて
267紐(ひも)にしつかり取縋(とりすが)り
268身(み)の安定(あんてい)を保(たも)てよや
269づぶ六(ろく)さまに酔(よ)ひつぶれ
270二人(ふたり)に舁(かか)れて山坂(やまさか)を
271登(のぼ)つて行(ゆ)くとはこれは又(また)
272開闢(かいびやく)以来(いらい)の大珍事(だいちんじ)
273アイタタタツタ躓(つまづ)いた
274オイオイ、テルさまモウここで
275ヨルをおろしたらどうだろう
276これから先(さき)は馬(うま)だとて
277容易(ようい)に登(のぼ)ることは出来(でき)ぬ
278あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
279御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ
280旭(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)る共(とも)
281月(つき)は盈(み)つ共(とも)虧(か)くる共(とも)
282大黒主(おほくろぬし)は強(つよ)く共(とも)
283三五教(あななひけう)の御(おん)道(みち)に
284進(すす)みし上(うへ)は千万(せんまん)の
285艱難(かんなん)苦労(くらう)が迫(せま)る共(とも)
286などや恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
287清(きよ)き涼(すず)しき神心(かみごころ)
288滝(たき)の流(なが)れに身(み)を洗(あら)ひ
289霊(みたま)を浄(きよ)めて休息(きうそく)し
290祠(ほこら)の森(もり)に隠(かく)れます
291神(かみ)の司(つかさ)の御(おん)前(まへ)に
292進(すす)みて行(ゆ)かむ面白(おもしろ)や
293祠(ほこら)の森(もり)に祀(まつ)りたる
294梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
295許(ゆる)させ玉(たま)へ吾々(われわれ)の
296清(きよ)き願(ねがひ)を一言(ひとこと)も
297おとさず洩(も)らさず諾(うべな)ひて
298誠(まこと)の道(みち)に進(すす)むべく
299守(まも)らせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
300世(よ)の大元(おほもと)の皇神(すめかみ)の
301御前(みまへ)に感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
302あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
303御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
304 ヨル、305テル、306ハルの三(さん)人(にん)はランチ将軍(しやうぐん)の陣営(ぢんえい)を脱(ぬ)け出(だ)し、307治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)に会(あ)ひ、308バラモン教(けう)の策戦(さくせん)計画(けいくわく)を密告(みつこく)し、309自分(じぶん)も亦(また)三五教(あななひけう)の為(ため)に尽(つく)さむと、310酒(さけ)に酔(よ)ひつぶれた監督(かんとく)のヨルを山駕籠(やまかご)にて舁(か)つぎ乍(なが)らやうやう滝(たき)の下(した)まで登(のぼ)つて来(き)た。311此(この)歌(うた)を聞(き)くや否(いな)や、312アリス、313サムの両人(りやうにん)は道(みち)なき山(やま)を駆(か)け上(のぼ)り、314何処(どこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。315ここに彼我(ひが)六(ろく)人(にん)は暫(しば)し休息(きうそく)の上(うへ)、316祠(ほこら)の森(もり)を指(さ)して登(のぼ)り行(ゆ)く。
317(大正一一・一二・七 旧一〇・一九 松村真澄録)
318(昭和九・一二・二二 王仁校正)
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