霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 奇遇(きぐう)〔一一七九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻 篇:第2篇 月明清楓 よみ(新仮名遣い):げつめいせいふう
章:第10章 奇遇 よみ(新仮名遣い):きぐう 通し章番号:1179
口述日:1922(大正11)年12月08日(旧10月20日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年8月18日
概要: 舞台:山口の森 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
女は自分は楓という名であり、父は珍彦、母は静子、別れた兄は俊というと明かした。治国別は、女の両親はきっと生きていて無事であろうと安堵させた。
晴公は楓の身の上話を聞いてふさぎ込んでいる。万公に問い詰められた晴公は、自分が楓の兄の俊であることを明かした。
兄妹は再会を果たし、二人はうれし涙に暮れた。楓は兄たち三五教の宣伝使一行に、両親を助けてくれるように頼みこんだ。
治国別は二人の再会を祝福し、両親の無事と再会を祈る宣伝歌を歌った。楓と晴公はそれぞれ述懐の歌を歌い、その他の供人たちも二人を励ます歌を歌った。治国別一行はふたたび眠りに就いたが、晴公と楓の兄妹は一睡もせずに涙と共にこれまでの物語を語り明かそうと森の外に立って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-10-28 09:27:51 文字数:4497 OBC :rm4410
愛善世界社版:130頁 八幡書店版:第8輯 185頁 修補版: 校定版:135頁 普及版:58頁 初版: ページ備考:
001 万公(まんこう)、002晴公(はるこう)、003竜公(たつこう)はやつと胸(むね)撫(な)で卸(おろ)し、004瘧(おこり)の落(お)ちたやうな顔(かほ)をして女(をんな)の顔(かほ)を不思議(ふしぎ)さうに見守(みまも)つて居(ゐ)る。005松彦(まつひこ)は何(なに)呉(くれ)となく親切(しんせつ)に女(をんな)を労(いたは)り、006いろいろと慰安(ゐあん)の言葉(ことば)を与(あた)へて居(ゐ)る。007治国別(はるくにわけ)は気(き)の毒(どく)さに頭(あたま)を垂(た)れ、008目(め)を瞬(しばたた)き涙(なみだ)をそつと拭(ぬぐ)ひながら、
009治国別『承(うけたま)はれば貴女(あなた)の家庭(かてい)には悲惨(ひさん)の幕(まく)が下(お)りたものですなア。010そして黄金姫(わうごんひめ)様(さま)に神(かみ)様(さま)の話(はなし)を聞(き)かして頂(いただ)き三五教(あななひけう)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)して居(ゐ)たために、011バラモンに捕(とら)へられなさつたとは実(じつ)に気(き)の毒(どく)な事(こと)だ。012併(しか)し乍(なが)ら御(ご)安心(あんしん)なさいませ。013キツと貴女(あなた)の両親(りやうしん)は命(いのち)に別条(べつでう)ありませぬよ。014これから私(わたし)が何(なん)とかして救(すく)ひ出(だ)して貴女(あなた)にお渡(わた)し致(いた)しませう』
015 女(をんな)は、016嬉(うれ)し涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ひながら、
017女(楓)『ハイ御(ご)親切(しんせつ)によう云(い)つて下(くだ)さいました、018あり難(がた)う厶(ござ)います。019神(かみ)様(さま)に遇(あ)ふたやうに存(ぞん)じます。020何卒(どうぞ)憐(あは)れな私(わたし)の境遇(きやうぐう)、021お助(たす)け下(くだ)さいませ。022両親(りやうしん)はキツと助(たす)かりませうかなア』
023治国別『キツと助(たす)けてみせませう。024御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。025さうして貴女(あなた)の両親(りやうしん)の名(な)は何(なん)と云(い)ひますかな』
026女(楓)『ハイ父(ちち)の名(な)は珍彦(うづひこ)、027母(はは)は静子(しづこ)と申(まを)します。028そして私(わたし)の名(な)は楓(かへで)と申(まを)します』
029治国別『さうしてお前(まへ)の尋(たづ)ぬる兄(あに)の名(な)は何(なん)と云(い)ふのかなア』
030楓『ハイ、031兄(あに)の名(な)は俊(とし)と申(まを)しました。032其(その)兄(あに)に廻(めぐ)り会(あ)ひたいばかりに、033親子(おやこ)三(さん)人(にん)が広(ひろ)いフサの国(くに)を彷徨(さまよ)ひ、034漸(やうや)くライオン河(がは)の辺(ほとり)まで参(まゐ)つて……両親(りやうしん)は老(お)い、035足(あし)の歩(あゆ)みも、036はかばかしくないので、037つひそこへ住居(ぢうきよ)を定(さだ)めて居(ゐ)たので厶(ござ)います』
038 晴公(はるこう)は此(この)女(をんな)の物語(ものがたり)を聞(き)き、039太(ふと)き息(いき)をつき、040口(くち)をへの字(じ)に結(むす)び、041目(め)を閉(ふさ)いで、042頻(しき)りにウンウンと溜息(ためいき)を吐(つ)きながら、043何(なに)か深(ふか)き考(かんが)へに沈(しづ)ンで居(ゐ)る。
044 万公(まんこう)は勢(いきほ)ひよく、
045万公『オイ晴公(はるこう)、046何(なん)だい、047こくめいな顔(かほ)をしよつて、048貴様(きさま)が生(う)ンだナイスぢやないか。049仕様(しやう)もない言霊(ことたま)を出(だ)して鬼女(きぢよ)を生(う)ンだと思(おも)へば何(なん)の事(こと)はない、050天下(てんか)無双(むさう)のナイスだ。051ちつと噪(はしや)がぬかい、052こンな時(とき)こそ貴様(きさま)の威張(ゐば)る時(とき)だよ。
053思(おも)ひきや鬼女(きぢや)と思(おも)ひし其(その)影(かげ)は
054譬(たと)へ方(かた)なきナイスなりとは
055だ。056本当(ほんたう)に貴様(きさま)は今夜(こんや)の言霊戦(ことたません)の殊勲者(しゆくんしや)だ。057この女(をんな)を発見(はつけん)して一(ひと)つ手(て)がかりを得(え)、058ランチ将軍(しやうぐん)の陣営(ぢんえい)を根底(こんてい)より覆(くつが)へし神力(しんりき)を現(あら)はす機運(きうん)が向(む)いたのだ。059何(なに)をウンウンと溜息(ためいき)をつくのだ。060ちつと確(しつか)りせぬかい、061エーン』
062 晴公(はるこう)は力(ちから)なげに、
063晴公『アヽ済(す)まぬ。064如何(どう)したらよからうかなア』
065と云(い)ひながら豆(まめ)のやうな涙(なみだ)をパラパラと降(ふ)らして居(ゐ)る。066折(をり)から十八夜(じふはちや)の月(つき)は、067河鹿山(かじかやま)をかすめて上(のぼ)り初(はじ)めた。068森(もり)の中(なか)とは云(い)へ全体(ぜんたい)的(てき)にホンノリと四辺(あたり)は明(あか)くなつて来(き)た。069蝋燭(らふそく)の火(ひ)はつぎ換(か)へられた。
070 万公(まんこう)は元気(げんき)よく、
071万公『何(なん)だ晴公(はるこう)、072貴様(きさま)は泣(な)いて居(ゐ)るのだな。073三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の卵(たまご)が何(なん)だ、074メソメソと吠面(ほえづら)をかわくと云(い)ふ事(こと)があるかい。075俺(おれ)が一(ひと)つ活(くわつ)を入(い)れてやらう確(しつか)りせい』
076と云(い)ひながら拳(こぶし)を固(かた)めて二(ふた)つ三(み)つ晴公(はるこう)の背(せ)をつづけ打(う)ちにした。
077晴公『今(いま)あの楓(かへで)の云(い)つた兄(あに)と云(い)ふのは俺(おれ)だよ、078この晴公(はるこう)だよ』
079万公『何(なに)、080お前(まへ)があのナイスの兄貴(あにき)か、081ヨウさう聞(き)くと、082どこともなしに似(に)よつた処(ところ)があるやうだ。083もし先生(せんせい)妙(めう)な事(こと)があるものですな。084これもやつぱり神(かみ)様(さま)のお引(ひ)き合(あは)せでせう。085晴公(はるこう)がしやうもない言霊(ことたま)を寝(ね)もせずに上(あ)げて居(を)つたのを見(み)て怪体(けたい)な男(をとこ)だと怪(あや)しみながら寝(ね)て居(ゐ)ましたが、086矢張(やつぱ)り虫(むし)が知(し)らしたので寝(ね)られなかつたのですな。087兄妹(きやうだい)の霊魂(れいこん)が交通(かうつう)したのでせうかな。088ヤア晴公(はるこう)さまお目出度(めでた)う。089楓(かへで)さまお目出度(めでた)う。090お祝(いは)ひ申(まを)します。091私(わたし)の先生(せんせい)もこの松彦(まつひこ)さまと久(ひさ)し振(ぶ)りで兄弟(きやうだい)の御(ご)対面(たいめん)なさつたのだ、092何(なん)と人間(にんげん)の運命(うんめい)は分(わか)らぬものだなア、093先生(せんせい)、094本当(ほんと)に不思議(ふしぎ)ぢや御座(ござ)いませぬか』
095治国別『さうだなア、096不思議(ふしぎ)な事(こと)もあればあるものだ。097何(いづ)れ宣伝使(せんでんし)になるものは親(おや)兄弟(きやうだい)に生(い)き別(わか)れたり、098再(ふたた)び世(よ)に立(た)つ可(べ)からざる運命(うんめい)に陥(おちい)つた者(もの)ばかりが神(かみ)の恵(めぐみ)に救(すく)はれて御用(ごよう)をして居(ゐ)るのだから、099誰(たれ)だつて其(その)来歴(らいれき)を洗(あら)ひ曝(さら)せば、100皆(みな)悲惨(ひさん)な者(もの)ばかりだよ。101人間心(にんげんごころ)に立(た)ち帰(かへ)つて考(かんが)へ出(だ)した位(くらゐ)なら一(いち)時(じ)も心(こころ)を安(やす)むずる事(こと)は出来(でき)ないのだが、102愛(あい)と信(しん)と神(かみ)様(さま)の光明(くわうみやう)に照(て)らされて地上(ちじやう)の憂(う)さを忘(わす)れて居(ゐ)るのだからなア』
103と悄然(せうぜん)として首垂(うなだ)れる。104万公(まんこう)は涙声(なみだごゑ)を態(わざ)と元気(げんき)らしく、
105万公『先生(せんせい)貴方(あなた)からそう悄気(しよげ)て貰(もら)つては、106吾々(われわれ)は如何(どう)するのです。107人(ひと)の心霊(しんれい)は歓喜(くわんき)のために存在(そんざい)すると何時(いつ)も仰有(おつしや)つたぢやありませぬか。108どうやら貴方(あなた)は歓喜(くわんき)去(さ)つて悲哀(ひあい)来(きた)ると云(い)ふ状態(じやうたい)ですよ。109ちつと確(しつか)りして下(くだ)さいな』
110治国別『イヤわしは歓喜(くわんき)余(あま)つての悲哀(ひあい)だ。111つまり有難涙(ありがたなみだ)に暮(く)れて居(ゐ)るのだ。112神(かみ)様(さま)の御(お)恵(めぐみ)を今更(いまさら)の如(ごと)く感謝(かんしや)して居(ゐ)る随喜(ずいき)の涙(なみだ)だからさう心配(しんぱい)をして呉(く)れるな』
113万公『私(わたし)も歓喜(くわんき)の涙(なみだ)がアンアンアン溢(こぼ)れますわい。114オンオンオン オイ晴公(はるこう)、115いや俊(とし)さま、116お前(まへ)も嬉(うれ)し涙(なみだ)が溢(こぼ)れるだらう。117歓喜(くわんき)の涙(なみだ)なら堤防(ていばう)が崩(くづ)れる処(ところ)迄(まで)流(なが)したらよからう。118アンアンアン余(あま)り嬉(うれ)しくて泣(な)き堪能(たんのう)が仕度(した)いわい』
119 晴公(はるこう)は又(また)涙声(なみだごゑ)にて、
120晴公『治国別(はるくにわけ)の先生(せんせい)様(さま)有(あ)り難(がた)う厶(ござ)います。121何卒(どうぞ)妹(いもうと)の身(み)の上(うへ)を宜(よろ)しくお願(ねが)ひ致(いた)します』
122治国別『ウン私(わたし)も満足(まんぞく)だが、123お前(まへ)も嘸(さぞ)満足(まんぞく)だらう』
124楓『あなたは兄上(あにうへ)で厶(ござ)いましたか、125妾(わたし)は楓(かへで)で厶(ござ)ります。126ようまあ無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さいました。127どうぞお父(とう)さまやお母(かあ)さまの命(いのち)を救(すく)うて下(くだ)さいませ。128貴兄(あなた)にこの事(こと)さへ知(し)らして置(お)けば楓(かへで)は此(この)儘(まま)死(し)すとも此(この)世(よ)に思(おも)ひは残(のこ)りませぬ、129あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
130晴公『妹(いもうと)随分(ずゐぶん)苦労(くらう)をしたであらうなア、131俺(おれ)だとて親兄妹(おやきやうだい)の事(こと)を一(いち)時(じ)も忘(わす)れた事(こと)はない。132雨(あめ)の晨(あした)風(かぜ)の夕(ゆふべ)アーメニヤの空(そら)を眺(なが)め、133両親(りやうしん)は如何(いか)に、134妹(いもうと)は如何(いか)にと、135涙(なみだ)の種(たね)がつきる程(ほど)どれ丈(だけ)泣(な)き暮(く)らしたか知(し)れない。136治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)に拾(ひろ)はれて神(かみ)様(さま)のお道(みち)に入(い)り、137歓喜(くわんき)の雨(あめ)に浴(よく)し、138「かへらぬ事(こと)を思(おも)ふまい」といつも心(こころ)を紛(まぎ)らし、139馬鹿口(ばかぐち)ばかりたたいて浮世(うきよ)三分(さんぶ)五厘(ごりん)で表面(へうめん)は暮(く)らして居(ゐ)るものの、140恩愛(おんあい)の覊(きづな)はどうしても切(き)る事(こと)は出来(でき)ぬ。141妹(いもうと)、142俺(おれ)も会(あ)ひたかつた』
143と人目(ひとめ)も構(かま)はず楓(かへで)の体(からだ)を抱(いだ)きかかへ、144一言(ひとこと)も発(はつ)し得(え)ず泣(な)き崩(くづ)れて居(ゐ)る。145勇(いさ)みをつけむと治国別(はるくにわけ)は立(た)ち上(あが)り声(こゑ)も涼(すず)しく歌(うた)ひ出(だ)しぬ。
146治国別『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
147月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
148仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
149曲津(まがつ)の神(かみ)は荒(すさ)ぶとも
150誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
151教(をしへ)の道(みち)は世(よ)を救(すく)ふ
152神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
153善神(ぜんしん)邪神(じやしん)を立(た)て分(わ)ける
154此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
155心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
156唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
157直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ
158身(み)の禍(わざはひ)は宣(の)り直(なほ)せ
159天地(てんち)を造(つく)りたまひたる
160誠(まこと)の神(かみ)のます限(かぎ)り
161信(しん)と愛(あい)との備(そな)はりし
162誠(まこと)の氏子(うぢこ)の身(み)の上(うへ)を
163守(まも)りたまはぬ事(こと)やある
164晴公(はるこう)楓(かへで)の両人(りやうにん)よ
165心(こころ)安(やす)けく平(たひ)らけく
166神(かみ)に任(まか)せよ千早(ちはや)振(ふ)る
167尊(たふと)き神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
168親子(おやこ)兄妹(きやうだい)廻(めぐ)り会(あ)ひ
169天国(てんごく)浄土(じやうど)の楽(たの)しみを
170摂受(せつじゆ)し得(う)るは目(ま)のあたり
171治国別(はるくにわけ)は三五(あななひ)の
172神(かみ)の力(ちから)を頼(たよ)りつつ
173汝(なんぢ)等(ら)二人(ふたり)の望(のぞ)みをば
174必(かなら)ず叶(かな)へ与(あた)ふべし
175神(かみ)は汝(なんぢ)と共(とも)にあり
176吾(われ)等(ら)も神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
177神(かみ)に任(まか)せし身(み)の上(うへ)は
178如何(いか)に悪魔(あくま)の荒(すさ)ぶとも
179如何(いか)でか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
180大和心(やまとごころ)を振(ふ)り興(おこ)し
181四方(よも)の醜草(しこぐさ)薙払(なぎはら)ひ
182天地(てんち)に塞(ふさ)がる叢雲(むらくも)を
183生言霊(いくことたま)の神力(しんりき)に
184吹(ふ)き払(はら)ひつつ天(あま)つたふ
185月(つき)の光(ひかり)の清(きよ)きごと
186天津(あまつ)日(ひ)かげの照(て)る如(ごと)く
187吾(わ)が神力(しんりき)を輝(かがや)かし
188バラモン教(けう)の曲神(まがかみ)を
189言向(ことむ)け和(やは)し歓楽(くわんらく)の
190海(うみ)に真如(しんによ)の日月(じつげつ)を
191浮(うか)べて歓喜(くわんき)の小波(さざなみ)に
192此(この)世(よ)を渡(わた)す法(のり)の船(ふね)
193心(こころ)安(やす)けくおぼされよ
194いざこれよりは曲神(まがかみ)の
195軍(いくさ)の砦(とりで)に立(た)ち向(むか)ひ
196天津(あまつ)御神(みかみ)の給(たま)ひてし
197生言霊(いくことたま)を打(う)ち出(だ)して
198天地(てんち)清浄(しやうじやう)山川(やまかは)も
199木草(きくさ)の端(はし)に至(いた)るまで
200歓喜(くわんき)の雨(あめ)に浴(よく)せしめ
201救(すく)ひて往(ゆ)かむ惟神(かむながら)
202神(かみ)の御前(みまへ)に亀彦(かめひこ)が
203治国別(はるくにわけ)と現(あら)はれて
204偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
205あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
206御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ。
207今(いま)のぼる月(つき)の御光(みひかり)親(おや)と子(こ)の
208身(み)の行末(ゆくすゑ)を守(まも)らせたまへ。
209今(いま)暫(しば)し時(とき)をまたせよ楓姫(かへでひめ)
210珍彦(うづひこ)静子(しづこ)の親(おや)に遇(あ)はさむ。
211たらちねの親(おや)の恵(めぐみ)は日月(じつげつ)の
212空(そら)に輝(かがや)く光(ひかり)なるかも。
213七里(ななさと)を照(て)らすと云(い)へる垂乳根(たらちね)の
214親(おや)の光(ひかり)ぞめでたかりけり。
215治国別(はるくにわけ)神(かみ)の命(みこと)は村肝(むらきも)の
216心(こころ)の限(かぎ)り汝(なれ)をたすけむ』
217 楓(かへで)は唄(うた)ふ。
218楓『たまちはふ救(すく)ひの神(かみ)に遇(あ)ひしごと
219吾(われ)は心(こころ)も勇(いさ)み来(き)にけり。
220有難(ありがた)き神(かみ)の恵(めぐみ)に照(て)らされて
221吾(わが)父母(ちちはは)に遇(あ)ふ日(ひ)待(ま)たるる。
222吾(わが)兄(あに)に思(おも)はぬ処(ところ)で廻(めぐ)り会(あ)ひ
223嬉(うれ)し涙(なみだ)のとめどなきかな。
224三五(あななひ)の神(かみ)を恨(うら)みし吾(われ)こそは
225身(み)の愚(おろか)さを今(いま)ぞ悔(く)いぬる。
226垂乳根(たらちね)の親(おや)は如何(いか)にと朝夕(あさゆふ)に
227胸(むね)迫(せま)りつつ神詣(かみまう)でせし。
228父母(ちちはは)を奪(うば)ひ去(さ)りたる曲神(まがかみ)を
229憎(にく)みしあまり醜業(しこわざ)せしかな。
230大空(おほぞら)を照(て)らして登(のぼ)る月影(つきかげ)を
231見(み)るにつけてもうら恥(はづ)かしき』
232晴公(はるこう)『三五(あななひ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)に浴(よく)しつつ
233浮世(うきよ)の夢(ゆめ)を覚(さま)しけるかな。
234妹(いもうと)と聞(き)くより心(こころ)飛(と)び立(た)ちて
235抱(だ)きつきたくぞ思(おも)ひけるかな。
236バラモンに捕(とら)へられたる父母(ちちはは)の
237身(み)の行末(ゆくすゑ)を果(は)かなくぞ思(おも)ふ。
238さりながら神(かみ)の恵(めぐみ)は垂乳根(たらちね)の
239身(み)を隅(くま)もなく守(まも)りたまはむ。
240垂乳根(たらちね)の父(ちち)珍彦(うづひこ)よ母(はは)の君(きみ)よ
241今(いま)兄妹(きやうだい)が救(すく)ひまつらむ。
242さは云(い)へどか弱(よわ)きわれの力(ちから)ならず
243産土山(うぶすなやま)の神(かみ)の恵(めぐ)みに。
244治国別(はるくにわけ)神(かみ)の司(つかさ)に助(たす)けられ
245吾(わが)垂乳根(たらちね)を救(すく)ふ嬉(うれ)しさ。
246曲神(まがかみ)の如何(いか)程(ほど)せまり来(きた)るとも
247神(かみ)の力(ちから)におひ退(そ)けやらむ。
248妹(いもうと)よ心(こころ)安(やす)かれ三五(あななひ)の
249神(かみ)は吾(われ)等(ら)を見捨(みす)てたまはじ』
250楓(かへで)『有難(ありがた)し兄(あに)の命(みこと)の言(こと)の葉(は)を
251胸(むね)にたたみて守(まも)りとやせむ。
252アーメニヤ恋(こひ)しき家(いへ)をふり捨(す)てて
253逍(さまよ)ひし親子(おやこ)の身(み)の果(はか)なさよ。
254黄金姫(わうごんひめ)神(かみ)の司(つかさ)に助(たす)けられ
255またもやここに救(すく)はれにけり。
256何事(なにごと)も皆(みな)神(かみ)様(さま)の御(おん)経綸(しぐみ)
257見直(みなほ)し見(み)れば憂(う)き事(こと)もなし。
258憂(う)き事(こと)のなほ此(この)上(うへ)に積(つも)るとも
259何(なに)か恐(おそ)れむ神(かみ)のまにまに』
260松彦(まつひこ)『月(つき)も日(ひ)も大空(おほぞら)に照(て)る世(よ)の中(なか)は
261曲(まが)のかくらふ隙(すき)はあらまし。
262ランチてふ軍(いくさ)の司(つかさ)の前(まへ)に出(で)て
263生言霊(いくことたま)をたむけてや見(み)む。
264愛信(あいしん)の誠(まこと)の剣(つるぎ)振(ふ)りかざし
265曲(まが)のとりでを切(き)りはふりなむ。
266面白(おもしろ)しあゝ勇(いさ)ましき門出(かどで)かな
267神(かみ)に仕(つか)へし軍司(いくさづかさ)の』
268万公(まんこう)『世(よ)の中(なか)に吾(わが)子(こ)に勝(まさ)る宝(たから)なし
269珍彦(うづひこ)静子(しづこ)の心(こころ)しのばゆ。
270珍彦(うづひこ)よ静子(しづこ)の姫(ひめ)よ待(ま)てしばし
271救(すくひ)の神(かみ)と現(あら)はれゆかむ。
272ゆくりなく廻(めぐ)り会(あ)ひたる山口(やまぐち)の
273森(もり)は結(むす)びの神(かみ)にますらむ』
274竜公(たつこう)『常暗(とこやみ)の森(もり)を照(て)らして進(すす)み来(く)る
275怪(あや)しき影(かげ)に驚(おどろ)きしかな。
276さりながら世(よ)にも稀(まれ)なるナイスぞと
277悟(さと)りし時(とき)の心(こころ)安(やす)けさ。
278今(いま)となり身(み)の愚(おろ)かさを顧(かへり)みて
279顔(かほ)の色(いろ)さへ赤(あか)くなりぬる。
280吾(わが)胸(むね)に醜(しこ)の曲津(まがつ)の潜(ひそ)むらむ
281正(ただ)しき人(ひと)をおぢ怖(おそ)れけり。
282村肝(むらきも)の心(こころ)に潜(ひそ)む曲神(まがかみ)を
283払(はら)はせたまへ三五(あななひ)の神(かみ)。
284治国別(はるくにわけ)神(かみ)の司(つかさ)に従(したが)ひて
285言霊戦(ことたまいくさ)に向(むか)ふ嬉(うれ)しさ』
286治国別(はるくにわけ)『山口(やまぐち)の森(もり)に休(やす)らひ兄妹(おとどひ)の
287名乗(なの)りあげたる事(こと)の床(ゆか)しさ。
288片彦(かたひこ)やランチ将軍(しやうぐん)何者(なにもの)ぞ
289彼(かれ)は人(ひと)の子(こ)人(ひと)の身(み)なれば。
290吾(われ)こそは神(かみ)の御子(みこ)なり神(かみ)の宮(みや)
291いかで恐(おそ)れむ人(ひと)の御子(みこ)らに。
292さりながら心(こころ)高(たか)ぶる事(こと)勿(なか)れ
293言霊戦(ことたません)に向(むか)ふ人々(ひとびと)。
294たらちねの親子(おやこ)兄妹(きやうだい)廻(めぐ)り会(あ)ひ
295抱(いだ)き喜(よろこ)ぶ時(とき)の待(ま)たるる。
296夜(よ)や更(ふ)けぬ月(つき)は御空(みそら)に上(のぼ)りましぬ
297いざいねませよ百(もも)の人(ひと)達(たち)』
298晴公(はるこう)『神司(かむづかさ)宣(の)らせたまへる言(こと)の葉(は)も
299守(まも)るよしなき今日(けふ)の嬉(うれ)しさ。
300村肝(むらきも)の心(こころ)勇(いさ)みて森(もり)の夜(よ)の
301明(あ)けゆく空(そら)を待(ま)ちあぐむなり』
302楓(かへで)『なつかしき兄(あに)の命(みこと)よ治国別(はるくにわけ)の
303神(かみ)の司(つかさ)の御言(みこと)守(まも)りませ
304さりながら妾(わらは)も心(こころ)勇(いさ)み立(た)ち
305ねるに寝(ね)られぬ今宵(こよひ)ばかりは』
306治国別(はるくにわけ)『兄妹(きやうだい)の心(こころ)はさもやあるべしと
307直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)しおく
308いざさらば万公(まんこう)五三公(いそこう)竜公(たつこう)よ
309松彦(まつひこ)共(とも)に一(ひと)ねむりせよ』
310松彦(まつひこ)『吾(わが)兄(あに)の言葉(ことば)にならひ人々(ひとびと)よ
311よくねむりませ寅(とら)の刻(こく)まで』
312 斯(か)く歌(うた)ひて治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は、313やすやすと眠(ねむ)りについた。314晴公(はるこう)、315楓(かへで)の兄妹(きやうだい)は嬉(うれ)しさの余(あま)り一睡(いつすゐ)もせず辺(あた)りを憚(はばか)り、316ひそびそと長物語(ながものがたり)を涙(なみだ)とともに語(かた)り明(あ)かさむと此(この)場(ば)を立出(たちい)で兄妹(きやうだい)は月光(げつくわう)を浴(あ)びて森(もり)の外(そと)を逍遥(せうえう)する真夜中(まよなか)、317初冬(しよとう)の月(つき)は皎々(かうかう)として満天(まんてん)に輝(かがや)き、318此(この)森(もり)の外面(ぐわいめん)は白(しろ)く光(ひか)つて居(ゐ)る。
319(大正一一・一二・八 旧一〇・二〇 加藤明子録)
320(昭和九・一二・二七 王仁校正)
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