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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第44巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 神示の合離
第1章 笑の恵
第2章 月の影
第3章 守衛の囁
第4章 滝の下
第5章 不眠症
第6章 山下り
第7章 山口の森
第2篇 月明清楓
第8章 光と熱
第9章 怪光
第10章 奇遇
第11章 腰ぬけ
第12章 大歓喜
第13章 山口の別
第14章 思ひ出の歌
第3篇 珍聞万怪
第15章 変化
第16章 怯風
第17章 罵狸鬼
第18章 一本橋
第19章 婆口露
第20章 脱線歌
第21章 小北山
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第44巻(未の巻)
> 第2篇 月明清楓 > 第9章 怪光
<<< 光と熱
(B)
(N)
奇遇 >>>
第九章
怪光
(
くわいくわう
)
〔一一七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
篇:
第2篇 月明清楓
よみ(新仮名遣い):
げつめいせいふう
章:
第9章 怪光
よみ(新仮名遣い):
かいこう
通し章番号:
1178
口述日:
1922(大正11)年12月08日(旧10月20日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年8月18日
概要:
舞台:
山口の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
晴公は、自分の言霊に神力が現れず万公に罵倒されたことを気に病み、治国別の言霊解説歌の真意を早く悟って見返してやろうと一睡もせずに両手を組んで考え込んでいた。
あたりはシンとして声もなく、物寂しさが刻々に身に迫ってきた。しばらくすると、はるかかなたに光明が輝きだしたのが見えた。晴公は自分の言霊がようやく効果を表したと得意になっていたが、光が近づいてくると、それは頭にろうそくを立てて金槌、五寸釘を持った鬼女であった。
鬼女は人に見られたことを覚ると、治国別一行に襲い掛かろうとした。治国別は寝たまま霊縛をかけると、鬼女は剣を振り上げたまま固まってしまった。
治国別は震えおののいている晴公をからかっている。松彦は、女は鬼ではなく、お百度参りをしている娘であることを見抜いて、身の上話を聞いた。聞けば、バラモン教のランチ将軍に両親が捕えられ、殺されたと聞いたため、その恨みを晴らすために丑の刻参りをしていたのだという。
女は、元はアーメニヤの生まれであったが、アーメニヤがバラモン軍に襲われた混乱のときに兄と生き別れになり、年老いた両親とライオン川のほとりで暮らしていたところ、三五教の黄金姫に諭されて改宗したと身の上話を語った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-01-21 15:53:00
OBC :
rm4409
愛善世界社版:
118頁
八幡書店版:
第8輯 180頁
修補版:
校定版:
123頁
普及版:
51頁
初版:
ページ備考:
001
治国別
(
はるくにわけ
)
外
(
ほか
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
祠
(
ほこら
)
の
跡
(
あと
)
に
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
き
端坐
(
たんざ
)
し、
002
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
神言
(
かみごと
)
を
唱
(
とな
)
へ、
003
漸
(
やうや
)
く
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
きぬ。
004
晴公
(
はるこう
)
は
万公
(
まんこう
)
に
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
罵倒
(
ばたう
)
され
且
(
か
)
つ
言霊
(
ことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
の
現
(
あら
)
はれざりしに
胸
(
むね
)
を
痛
(
いた
)
め、
005
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
鼾
(
いびき
)
を
聞
(
き
)
き
乍
(
なが
)
ら
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り
治国別
(
はるくにわけ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
解説歌
(
かいせつか
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
006
万公
(
まんこう
)
よりも
早
(
はや
)
く
真意
(
しんい
)
を
諒解
(
りやうかい
)
しアツと
言
(
い
)
はせて
呉
(
く
)
れむものと
一睡
(
いつすゐ
)
もせず
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
瞑目
(
めいもく
)
正座
(
せいざ
)
し
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
ンでゐる。
007
夜
(
よ
)
はおひおひと
更
(
ふ
)
け
渡
(
わた
)
り
冬
(
ふゆ
)
の
初
(
はじ
)
めの
木枯
(
こがらし
)
は
森
(
もり
)
の
老樹
(
らうじゆ
)
の
枝
(
えだ
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
008
分
(
ぶ
)
の
厚
(
あつ
)
い
枯葉
(
かれは
)
はパラパラと
雨
(
あめ
)
の
如
(
ごと
)
くに
落
(
お
)
ちて
来
(
く
)
る。
009
四辺
(
あたり
)
はシンとして
声
(
こゑ
)
なく
物淋
(
ものさび
)
しさは
刻々
(
こくこく
)
に
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
り
来
(
き
)
たる。
010
何
(
なん
)
とはなく
身体
(
しんたい
)
震
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
し
恐怖
(
きようふ
)
の
念
(
ねん
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
襲
(
おそ
)
ふ。
011
暫
(
しばら
)
くありて、
012
一道
(
いちだう
)
の
光明
(
くわうみやう
)
遥
(
はるか
)
の
彼方
(
かなた
)
より
輝
(
かがや
)
き
来
(
き
)
たる。
013
晴公
(
はるこう
)
は
稍
(
やや
)
得意
(
とくい
)
となつて
独語
(
ひとりごと
)
、
014
晴公
『
何
(
なん
)
とまア
有難
(
ありがた
)
いものだナア。
015
先生
(
せんせい
)
始
(
はじ
)
め
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
連中
(
れんちう
)
は
何
(
なん
)
にも
知
(
し
)
らず、
016
白河
(
しらかは
)
夜船
(
よぶね
)
を
漕
(
こ
)
いでゐる
間
(
ま
)
に
此
(
この
)
晴公
(
はるこう
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
理解
(
りかい
)
について
研究
(
けんきう
)
した
結果
(
けつくわ
)
、
017
此
(
この
)
暗黒
(
あんこく
)
の
闇
(
やみ
)
に
光明
(
くわうみやう
)
がさし
出
(
だ
)
した。
018
一
(
ひと
)
つ
万公
(
まんこう
)
に
見
(
み
)
せてやり
度
(
た
)
いものだな。
019
何
(
なん
)
だか
淋
(
さび
)
しくなつたと
思
(
おも
)
へば、
020
こンな
光明
(
くわうみやう
)
が
現
(
あら
)
はれる
前提
(
ぜんてい
)
だつたのか。
021
さうするとウラル
教
(
けう
)
も
万更
(
まんざら
)
捨
(
す
)
てたものぢやないワ。
022
暗
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
ると
云
(
い
)
ふが
本当
(
ほんたう
)
に
俺
(
おれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
023
下
(
した
)
の
方
(
はう
)
から
月光
(
げつくわう
)
がさして
来
(
く
)
る。
024
光
(
ひかり
)
と
云
(
い
)
ふものは
空
(
そら
)
から
来
(
く
)
るものとばかり
今
(
いま
)
の
奴
(
やつ
)
は
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
るが
俺
(
おれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
は
偉
(
えら
)
いものだワイ。
025
地
(
ち
)
の
中
(
なか
)
から
月光
(
げつくわう
)
が
輝
(
かがや
)
くのだから
豪気
(
がうき
)
なものだ。
026
先生
(
せんせい
)
だつてこれ
丈
(
だけ
)
の
神力
(
しんりき
)
は
滅多
(
めつた
)
にお
出
(
だ
)
しなさつた
事
(
こと
)
はあるまい。
027
一
(
ひと
)
つ
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
して
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れようかな。
028
追々
(
おひおひ
)
と
近
(
ちか
)
くなつて
来
(
く
)
る。
029
やア
瑞
(
みづ
)
の
魂
(
みたま
)
と
見
(
み
)
えて
三
(
み
)
つの
玉
(
たま
)
が
光
(
ひか
)
つて
来
(
く
)
るぞ。
030
ヒヨツとしたら
三光
(
さんくわう
)
の
神
(
かみ
)
がおいでになつたのかな。
031
一
(
ひと
)
つ
万公
(
まんこう
)
を
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
して
見
(
み
)
せてやりたいものだナア』
032
と
得意
(
とくい
)
になつてゐる。
033
治国別
(
はるくにわけ
)
は
熟睡
(
じゆくすゐ
)
を
装
(
よそほ
)
ひ
晴公
(
はるこう
)
の
独語
(
ひとりごと
)
を
聞
(
き
)
き、
034
可笑
(
をか
)
しさに
堪
(
た
)
へず
笑
(
わら
)
ひを
抑
(
おさ
)
へ、
035
体中
(
からだぢう
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
目
(
め
)
から
涙
(
なみだ
)
を
出
(
だ
)
し
気張
(
きば
)
つてゐる。
036
晴公
(
はるこう
)
は
得意気
(
とくいげ
)
に、
037
晴公
『やア
近付
(
ちかづ
)
いた
近付
(
ちかづ
)
いた』
038
と
目
(
め
)
を
円
(
まる
)
うして
見
(
み
)
つめてゐると
頭
(
かしら
)
に
三本
(
さんぼん
)
の
蝋燭
(
らふそく
)
を
立
(
た
)
て
胸
(
むね
)
に
鏡
(
かがみ
)
をつり、
039
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
鋏
(
はさみ
)
を
二
(
ふた
)
つばかり
釣
(
つ
)
つてゐる。
040
さうして
口
(
くち
)
は
耳
(
みみ
)
迄
(
まで
)
引
(
ひ
)
き
裂
(
さ
)
け
顔
(
かほ
)
は
真蒼
(
まつさを
)
に
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
には
金槌
(
かなづち
)
、
041
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
には
五寸釘
(
ごすんくぎ
)
、
042
白
(
しろ
)
い
布
(
ぬの
)
を
三間
(
さんげん
)
ばかり
垂
(
た
)
らした
異様
(
いやう
)
の
怪物
(
くわいぶつ
)
、
043
歩
(
ある
)
く
拍子
(
ひやうし
)
に
鋏
(
はさみ
)
と
鏡
(
かがみ
)
と
当
(
あた
)
り
合
(
あ
)
うて、
044
チヤンチヤンと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て
蝋燭
(
らふそく
)
の
火
(
ひ
)
は
鏡面
(
きやうめん
)
に
映
(
えい
)
じ
晴公
(
はるこう
)
の
面
(
おもて
)
を
照
(
てら
)
した。
045
晴公
(
はるこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
真蒼
(
まつさを
)
になり
唇
(
くちびる
)
を
慄
(
ふる
)
はせ、
046
晴公
『セヽヽヽ
先々々
(
せんせんせん
)
……
先生
(
せんせい
)
』
047
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
体
(
からだ
)
をすくめて
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぐ。
048
怪物
(
くわいぶつ
)
は
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
049
厭
(
いや
)
らしき
細
(
ほそ
)
い
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
050
怪物
『やア、
051
残念
(
ざんねん
)
至極
(
しごく
)
、
052
口惜
(
くちをし
)
やな、
053
今日
(
けふ
)
は
三七
(
さんしち
)
日
(
にち
)
の
満願
(
まんぐわん
)
の
日
(
ひ
)
、
054
人
(
ひと
)
に
見
(
み
)
つけられては
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
せぬと
聞
(
き
)
く。
055
もうかうなる
上
(
うへ
)
は
死物狂
(
しにものぐる
)
ひだ』
056
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
懐剣
(
くわいけん
)
をスラリと
引
(
ひ
)
きぬき、
057
先
(
ま
)
づ
晴公
(
はるこう
)
に
向
(
むか
)
つて
飛
(
と
)
びかからむとするにぞ、
058
晴公
(
はるこう
)
はキヤツと
一声
(
ひとこゑ
)
、
059
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
打倒
(
うちたふ
)
れた。
060
治国別
(
はるくにわけ
)
は
寝
(
ね
)
たまま「ウン」と
一声
(
ひとこゑ
)
鎮魂
(
ちんこん
)
をかけた。
061
怪物
(
くわいぶつ
)
は
土中
(
どちう
)
から
生
(
は
)
えた
樹木
(
じゆもく
)
の
如
(
ごと
)
く
懐剣
(
くわいけん
)
をふり
上
(
あ
)
げたまま
硬
(
かた
)
まつて
了
(
しま
)
つた。
062
晴公
(
はるこう
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
に
万公
(
まんこう
)
、
063
五三公
(
いそこう
)
、
064
松彦
(
まつひこ
)
、
065
竜公
(
たつこう
)
は
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
まし
形相
(
ぎやうさう
)
凄
(
すさま
)
じき
怪物
(
くわいぶつ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
又
(
また
)
もやキヤツと
声
(
こゑ
)
を
上
(
あ
)
げ
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
066
怪物
(
くわいぶつ
)
は
目
(
め
)
を
きよろ
つかし
口
(
くち
)
をもがもがさせ、
067
舌
(
した
)
をペロペロ
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら
依然
(
いぜん
)
として
懐剣
(
くわいけん
)
をふり
上
(
あ
)
げたまま
睨
(
にら
)
みゐる。
068
万公
『セヽヽヽ
先生
(
せんせい
)
、
069
タヽヽヽ
大変
(
たいへん
)
です。
070
起
(
お
)
きて
下
(
くだ
)
さいな。
071
晴公
(
はるこう
)
がしようもない
言霊
(
ことたま
)
を
上
(
あ
)
げるものですから
地獄
(
ぢごく
)
から
万公
(
まんこう
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
ました。
072
ドヽヽヽ
何卒
(
どうぞ
)
追
(
お
)
ひやつて
下
(
くだ
)
さい。
073
あの……
言霊
(
ことたま
)
で………』
074
治国別
(
はるくにわけ
)
は
少
(
すこ
)
しも
騒
(
さわ
)
がず、
075
治国別
『ハヽヽヽヽまア
修行
(
しうぎやう
)
のためだ。
076
一
(
ひと
)
つあの
鬼娘
(
おにむすめ
)
さまと
抱擁
(
はうよう
)
接吻
(
キツス
)
でもやつて
来
(
き
)
たらどうだい。
077
何程
(
なにほど
)
怖
(
こは
)
い
顔
(
かほ
)
だと
云
(
い
)
つてもヤツパリ
女
(
をんな
)
だからな』
078
万公
『メヽヽヽ
滅相
(
めつさう
)
な、
079
何程
(
なにほど
)
女
(
をんな
)
早魃
(
ひでり
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
でも、
080
アタ
恐
(
こは
)
い、
081
アタ
厭
(
いや
)
らしい、
082
誰
(
たれ
)
があンな
奴
(
やつ
)
にキヽヽヽキツスするバヽヽヽ
馬鹿
(
ばか
)
がありますか、
083
万公
(
まんこ
)
とに
恐
(
こは
)
い
化者
(
ばけもの
)
だ』
084
治国別
『ハヽヽヽヽおい
晴公
(
はるこう
)
さま、
085
お
前
(
まへ
)
の
言霊
(
ことたま
)
は
大
(
たい
)
したものだナ。
086
到頭
(
たうとう
)
鬼娘
(
おにむすめ
)
を
生
(
う
)
んで
了
(
しま
)
つたぢやないか。
087
言葉
(
ことば
)
は
神
(
かみ
)
也
(
なり
)
。
088
神
(
かみ
)
即
(
すなは
)
ち
言葉
(
ことば
)
也
(
なり
)
。
089
言葉
(
ことば
)
は
神
(
かみ
)
と
共
(
とも
)
にあり。
090
万物
(
ばんぶつ
)
之
(
これ
)
によつて
造
(
つく
)
らる。
091
実
(
じつ
)
に
大成功
(
だいせいこう
)
だ。
092
然
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
のは
言葉
(
ことば
)
は
鬼娘
(
おにむすめ
)
也
(
なり
)
、
093
鬼娘
(
おにむすめ
)
即
(
すなは
)
ち
言葉
(
ことば
)
也
(
なり
)
。
094
言葉
(
ことば
)
は
鬼娘
(
おにむすめ
)
と
共
(
とも
)
にあり。
095
怪物
(
くわいぶつ
)
これに
依
(
よ
)
つて
造
(
つく
)
らる、
096
と
云
(
い
)
ふのだから
天下
(
てんか
)
一品
(
いつぴん
)
だよ。
097
おい
何
(
なに
)
を
慄
(
ふる
)
つてゐるのだ。
098
お
前
(
まへ
)
が
生
(
う
)
ンだ
鬼娘
(
おにむすめ
)
だから、
099
さアさアお
前
(
まへ
)
が
形
(
かた
)
づけるのだよ』
100
晴公
『
南無
(
なむ
)
幽霊
(
いうれい
)
鬼女
(
きぢよ
)
大菩薩
(
だいぼさつ
)
頓生
(
とんしやう
)
菩提
(
ぼだい
)
、
101
消滅
(
せうめつ
)
し
給
(
たま
)
へ、
102
晴公
(
はるこう
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
し
玉
(
たま
)
へ、
103
隠
(
かく
)
れさせ
給
(
たま
)
へ、
104
かなはぬからたまちはへませだ。
105
あゝア、
106
先生
(
せんせい
)
もう
駄目
(
だめ
)
ですわ。
107
そンなにイチヤつかさずに
早
(
はや
)
く、
108
あのオヽヽヽ
鬼娘
(
おにむすめ
)
を
退却
(
たいきやく
)
さして
下
(
くだ
)
さいな』
109
治国別
『
俺
(
わし
)
は
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つて
言霊
(
ことたま
)
を
一度
(
いちど
)
奏上
(
そうじやう
)
すると
熱湯
(
ねつたう
)
の
様
(
やう
)
な
汗
(
あせ
)
が
出
(
で
)
るから
最前
(
さいぜん
)
の
言霊
(
ことたま
)
で
最早
(
もはや
)
原料
(
げんれう
)
欠乏
(
けつぼう
)
だ。
110
お
前
(
まへ
)
は
百遍
(
ひやつぺん
)
、
111
千遍
(
せんべん
)
、
112
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
しても
体
(
からだ
)
が
弱
(
よわ
)
らない、
113
汗
(
あせ
)
一
(
ひと
)
つかかないと
云
(
い
)
つたぢやないか。
114
声量
(
せいりやう
)
タツプリ
余裕
(
よゆう
)
綽々
(
しやくしやく
)
たる
晴公
(
はるこう
)
に
頼
(
たの
)
まねば、
115
最早
(
もはや
)
治国別
(
はるくにわけ
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
停電
(
ていでん
)
だよ』
116
晴公
『あゝア、
117
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だな。
118
言霊
(
ことたま
)
の
貧乏
(
びんばふ
)
な
先生
(
せんせい
)
について
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
ると、
119
こンな
時
(
とき
)
には
仕方
(
しかた
)
がないわい。
120
オイ、
121
こら
松彦
(
まつひこ
)
、
122
竜公
(
たつこう
)
、
123
チツと
起
(
お
)
きぬかい。
124
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
場合
(
ばあひ
)
だ。
125
何
(
なに
)
をグウスウ
八兵衛
(
はちべゑ
)
と
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
るのだ。
126
味方
(
みかた
)
の
勇士
(
ゆうし
)
一団
(
いちだん
)
となつて
只今
(
ただいま
)
現
(
あら
)
はれた
強敵
(
きやうてき
)
に
向
(
むか
)
ひ
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
しようぢやないか』
127
竜公
『
俺
(
おれ
)
やまだ
三五教
(
あななひけう
)
へ
入信
(
はい
)
つてから
二日
(
ふつか
)
にもならぬのだから
言霊
(
ことたま
)
の
持合
(
もちあは
)
せがないわい。
128
兄貴
(
あにき
)
、
129
お
前
(
まへ
)
がしやうもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
130
あンな
鬼
(
おに
)
を
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
したのだから、
131
お
前
(
まへ
)
がすつ
込
(
こ
)
めて
呉
(
く
)
れねばどうも
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
132
こンな
事
(
こと
)
を
先生
(
せんせい
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
をかけると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
133
あゝ
厭
(
いや
)
らしい。
134
首筋
(
くびすぢ
)
がゾクゾクして
来
(
き
)
た。
135
竜公
(
たつこう
)
さまの
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
は
針
(
はり
)
の
様
(
やう
)
に
立
(
た
)
つて
来出
(
きだ
)
したワ』
136
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へ
俯向
(
うつむ
)
いて
了
(
しま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
137
晴公
『あゝア、
138
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も、
139
言
(
い
)
はいでもいい
言霊
(
ことたま
)
は
自然
(
しぜん
)
に
発射
(
はつしや
)
し
乍
(
なが
)
ら
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
になつて
言
(
い
)
はねばならぬ
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
する
奴
(
やつ
)
は、
140
先生
(
せんせい
)
を
始
(
はじ
)
め
一人
(
ひとり
)
も
半分
(
はんぶん
)
でもありやせぬわ。
141
えー
晴公
(
はるこう
)
さまも、
142
もう
仕方
(
しかた
)
がない。
143
これ、
144
鬼娘
(
おにむすめ
)
、
145
どうなつと
貴様
(
きさま
)
の
勝手
(
かつて
)
にしたがよいわ』
146
と
捨鉢
(
すてばち
)
になり
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
てる。
147
松彦
(
まつひこ
)
はムツクと
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
りツカツカと
鬼娘
(
おにむすめ
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
148
念入
(
ねんい
)
りに
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
から
足
(
あし
)
の
下
(
した
)
迄
(
まで
)
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
149
松彦
『ハヽア、
150
頭
(
あたま
)
に
三徳
(
さんとく
)
を
冠
(
かむ
)
り
蝋燭
(
らふそく
)
を
三本
(
さんぼん
)
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
るな。
151
何
(
なん
)
だ、
152
顔
(
かほ
)
に
青
(
あを
)
いものや
赤
(
あか
)
いものを
塗
(
ぬ
)
り、
153
口
(
くち
)
を
大
(
おほ
)
きく
見
(
み
)
せて
役者
(
やくしや
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
154
何
(
なん
)
だい、
155
光
(
ひか
)
つたものをブラブラとつりよつて、
156
長
(
なが
)
い
尾
(
を
)
を
引
(
ひ
)
き
摺
(
ず
)
り、
157
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
狐
(
きつね
)
と
枉鬼
(
まがおに
)
と
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
と、
158
つきまぜた
様
(
やう
)
な
凄
(
すさま
)
じき
形相
(
ぎやうさう
)
をやつてゐるな。
159
何
(
なん
)
だい、
160
懐剣
(
くわいけん
)
を
振
(
ふ
)
り
上
(
あ
)
げたまま
金仏
(
かなぶつ
)
の
様
(
やう
)
にカンカンになつてゐよる。
161
要
(
えう
)
するに
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
勇士
(
ゆうし
)
の
面影
(
おもかげ
)
を
拝
(
はい
)
しビツクリして
立往生
(
たちわうじやう
)
をしよつたのか。
162
エー
弱
(
よわ
)
い
鬼
(
おに
)
だな。
163
此奴
(
こいつ
)
アよく
人
(
ひと
)
の
云
(
い
)
ふ
丑
(
うし
)
の
時
(
とき
)
詣
(
まゐ
)
りかも
知
(
し
)
れぬぞ。
164
おい
娘
(
むすめ
)
、
165
お
前
(
まへ
)
は
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
此
(
この
)
厭
(
いや
)
らしい
人里
(
ひとざと
)
離
(
はな
)
れた
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
へやつて
来
(
く
)
るのは、
166
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
仔細
(
しさい
)
があるだらう。
167
もう
斯
(
か
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は
有態
(
ありてい
)
に
白状
(
はくじやう
)
して
了
(
しま
)
へ。
168
俺
(
おれ
)
の
力
(
ちから
)
で
叶
(
かな
)
ふ
事
(
こと
)
なら
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いてやる』
169
女
(
をんな
)
は
強直
(
きやうちよく
)
したまま
首
(
くび
)
から
上
(
うへ
)
は
自由
(
じいう
)
になるを
幸
(
さいは
)
ひ、
170
両眼
(
りやうがん
)
より
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
し、
171
女(楓)
『ザヽヽヽ
残念
(
ざんねん
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
172
私
(
わたし
)
の
両親
(
りやうしん
)
はバラモン
教
(
けう
)
のランチ
将軍
(
しやうぐん
)
と
云
(
い
)
ふ
悪人
(
あくにん
)
に
捕
(
とら
)
へられ
今
(
いま
)
は
浮木
(
うきき
)
ケ
原
(
はら
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
で
嬲
(
なぶ
)
り
殺
(
ころし
)
にあつたと
云
(
い
)
ふことで
厶
(
ござ
)
ります。
173
それ
故
(
ゆゑ
)
三
(
さん
)
週間
(
しうかん
)
以前
(
いぜん
)
からこの
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
へ
丑
(
うし
)
の
時
(
とき
)
詣
(
まゐ
)
りをして
親
(
おや
)
の
敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
たむと
思
(
おも
)
ひ
森
(
もり
)
の
大杉
(
おほすぎ
)
に
呪
(
のろ
)
ひ
釘
(
くぎ
)
を
打
(
う
)
ち、
174
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
を
祈
(
いの
)
つてゐるもので
厶
(
ござ
)
ります。
175
どうやら
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
のお
方
(
かた
)
と
見
(
み
)
えますが
何卒
(
どうぞ
)
お
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ』
176
とワツと
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
177
治国別
(
はるくにわけ
)
は「ウン」と
一声
(
ひとこゑ
)
霊縛
(
れいばく
)
を
解
(
と
)
いた。
178
女
(
をんな
)
は
忽
(
たちま
)
ち
身体
(
しんたい
)
自由
(
じいう
)
となり、
179
治国別
(
はるくにわけ
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて
合掌
(
がつしやう
)
し
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
したり。
180
治国別
『やア
何処
(
どこ
)
のお
女中
(
ぢよちう
)
か
知
(
し
)
らぬが
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
けば
実
(
じつ
)
に
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
話
(
はなし
)
だ。
181
まアここへ
来
(
き
)
て
坐
(
すわ
)
りなさい。
182
トツクリと
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はう。
183
都合
(
つがふ
)
によつたらお
前
(
まへ
)
の
力
(
ちから
)
になつてやろまいものでもないから』
184
と
親切
(
しんせつ
)
相
(
さう
)
に
云
(
い
)
ふ。
185
万公
(
まんこう
)
は、
186
万公
『アヽもしもし
先生
(
せんせい
)
、
187
ナヽヽヽ
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
188
あンな
鬼娘
(
おにむすめ
)
が
側
(
そば
)
へやつて
来
(
き
)
て
堪
(
たま
)
りますか。
189
早
(
はや
)
く
追
(
お
)
ひ
散
(
ち
)
らして
下
(
くだ
)
さいな』
190
治国別
『アハヽヽヽ
何
(
なん
)
と
強
(
つよ
)
い
男
(
をとこ
)
ばつかり
寄
(
よ
)
つたものだな。
191
まるで
幽霊
(
いうれい
)
の
様
(
やう
)
な
代物
(
しろもの
)
ばつかりだワイ』
192
万公
『おい、
193
晴公
(
はるこう
)
、
194
五三公
(
いそこう
)
、
195
竜公
(
たつこう
)
、
196
貴様
(
きさま
)
もチツと
確
(
しつか
)
りして、
197
何
(
なん
)
とか
彼奴
(
あいつ
)
を
追
(
お
)
ひ
捲
(
まく
)
つて
呉
(
く
)
れ、
198
万公
(
まんこう
)
の
一生
(
いつしやう
)
のお
願
(
ねがひ
)
だ』
199
晴公
『
何
(
なに
)
、
200
こンな
時
(
とき
)
には
先生
(
せんせい
)
に
任
(
まか
)
しておけばよいのだ。
201
先生
(
せんせい
)
がよい
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さるわ。
202
なア
五三公
(
いそこう
)
、
203
竜公
(
たつこう
)
、
204
さうぢやないか』
205
五三公
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
206
先生
(
せんせい
)
は
先生
(
せんせい
)
だ。
207
松彦
(
まつひこ
)
さまもヤツパリ
御
(
ご
)
兄弟
(
きやうだい
)
だけあつて
肝
(
きも
)
が
太
(
ふと
)
いわい、
208
五三公
(
いそこう
)
さまも
感心
(
かんしん
)
仕
(
つかまつ
)
つたよ』
209
竜公
『
何
(
なん
)
と
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
恐
(
おそ
)
ろしいものだのう、
210
俺
(
おれ
)
やもう
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
ると
一生
(
いつしやう
)
女房
(
にようばう
)
持
(
も
)
たうとは
思
(
おも
)
はぬわ。
211
睾玉
(
きんたま
)
も
何
(
なに
)
も
何処
(
どこ
)
か
洋行
(
やうかう
)
して
了
(
しま
)
つたワ。
212
もう
立上
(
たちあが
)
る
勇気
(
ゆうき
)
もなし、
213
腰
(
こし
)
は
変
(
へん
)
になる、
214
最早
(
もはや
)
人力
(
じんりよく
)
の
如何
(
いかん
)
ともする
所
(
ところ
)
でない。
215
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
、
216
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
217
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも、
218
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも、
219
竜公
(
たつこう
)
さまに
取
(
と
)
つてこンな
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
が
又
(
また
)
と
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
にあるものか。
220
おゝゝゝ
恐
(
おそ
)
ろしい……もゝゝゝ
森
(
もり
)
だな』
221
松彦
『これ、
222
娘
(
むすめ
)
さま、
223
そンな
顔
(
かほ
)
して
居
(
を
)
つては
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんちう
)
が
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
して
困
(
こま
)
るから
一
(
ひと
)
つ
顔
(
かほ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
髪
(
かみ
)
を
撫
(
な
)
で
上
(
あ
)
げ、
224
もとの
人間
(
にんげん
)
に
還元
(
くわんげん
)
して、
225
それから
詳
(
くは
)
しい
物語
(
ものがたり
)
をこの
松彦
(
まつひこ
)
に
聴
(
き
)
かしたらどうだい。
226
此
(
この
)
側
(
わき
)
に
清水
(
しみづ
)
が
湧
(
わ
)
いてゐる。
227
さアここで
一
(
ひと
)
つ
蝋燭
(
らふそく
)
の
火
(
ひ
)
があるのを
幸
(
さいは
)
ひ
顔
(
かほ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
身繕
(
みつくろ
)
ひを
改
(
あらた
)
めなさい』
228
女(楓)
『ハイ、
229
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
230
えらい
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました』
231
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
232
女
(
をんな
)
は
傍
(
かたはら
)
の
水溜
(
みづたま
)
りで
念入
(
ねんい
)
りに
彩
(
ゑど
)
つた
顔
(
かほ
)
をスツカリ
洗
(
あら
)
ひ
落
(
おと
)
し、
233
胸
(
むね
)
にかけた
鏡
(
かがみ
)
や
鋏
(
はさみ
)
を
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
棄
(
す
)
て、
234
髪
(
かみ
)
を
撫
(
な
)
で
上
(
あ
)
げ
白衣
(
びやくい
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
てた。
235
見
(
み
)
れば
十七八
(
じふしちはつ
)
才
(
さい
)
と
覚
(
おぼ
)
しき
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
である。
236
松彦
『やア、
237
見
(
み
)
かけによらぬ
立派
(
りつぱ
)
なナイスだ。
238
おい
竜公
(
たつこう
)
、
239
松彦
(
まつひこ
)
がきいて
居
(
を
)
れば、
240
貴様
(
きさま
)
は
今
(
いま
)
一生
(
いつしやう
)
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
たぬと
云
(
い
)
つたが、
241
これなら
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
るだらう、
242
アハヽヽヽ』
243
竜公
『
女
(
をんな
)
は
化物
(
ばけもの
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
たが
本当
(
ほんたう
)
に
恐
(
おそ
)
ろしいものだな。
244
いやもうどンなナイスでも
竜公
(
たつこう
)
さまは
女
(
をんな
)
と
来
(
き
)
ちや
一生
(
いつしやう
)
御免
(
ごめん
)
だ。
245
一
(
ひと
)
つ
違
(
ちが
)
へばあれだからなア。
246
俺
(
おれ
)
やもう
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るなり
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
程
(
ほど
)
寿命
(
じゆみやう
)
を
縮
(
ちぢ
)
めて
了
(
しま
)
つたよ』
247
松彦
『アハヽヽヽ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だな』
248
と
松彦
(
まつひこ
)
は
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し
笑
(
わら
)
ふ。
249
女
(
をんな
)
はチヤンと
身繕
(
みつくろ
)
ひをし
乍
(
なが
)
ら
治国別
(
はるくにわけ
)
の
側
(
そば
)
へ
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
250
土下坐
(
どげざ
)
し
乍
(
なが
)
ら
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
にて、
251
女(楓)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
252
誠
(
まこと
)
にお
寝
(
やす
)
み
中
(
ちう
)
を
驚
(
おどろ
)
かせまして
申訳
(
まをしわけ
)
が
厶
(
ござ
)
りませぬ。
253
私
(
わたし
)
はライオン
河
(
がは
)
の
辺
(
ほとり
)
に
住
(
す
)
む
首陀
(
しゆだ
)
の
娘
(
むすめ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
254
私
(
わたし
)
の
両親
(
りやうしん
)
はライオン
川
(
がは
)
に
釣魚
(
つり
)
をする
時
(
とき
)
、
255
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
部下
(
ぶか
)
がやつて
来
(
き
)
まして「
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
間諜者
(
まわしもの
)
だらう」と
云
(
い
)
つて
高手
(
たかて
)
小手
(
こて
)
に
縛
(
いま
)
しめ
陣屋
(
ぢんや
)
へ
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り
嬲殺
(
なぶりごろし
)
にしたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
256
もとはアーメニヤの
生
(
うま
)
れで
厶
(
ござ
)
りますが
大騒動
(
おほさうどう
)
以来
(
いらい
)
、
257
兄
(
あに
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
は
分
(
わか
)
らなくなり、
258
年
(
とし
)
老
(
お
)
いたる
両親
(
りやうしん
)
と
私
(
わたし
)
は、
259
そこら
中
(
ぢう
)
を
乞食
(
こじき
)
巡礼
(
じゆんれい
)
となつて
経巡
(
へめぐ
)
り、
260
漸
(
やうや
)
くライオン
川
(
がは
)
の
片辺
(
かたほとり
)
に
小
(
ちひ
)
さき
庵
(
いほり
)
を
結
(
むす
)
び
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
山
(
やま
)
に
入
(
い
)
つて
果実
(
このみ
)
を
採
(
と
)
り
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
つてゐました
処
(
ところ
)
、
261
黄金姫
(
わうごんひめ
)
様
(
さま
)
とか
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
がお
通
(
とほ
)
りになり、
262
一寸
(
ちよつと
)
休
(
やす
)
ンで
下
(
くだ
)
さいまして「お
前
(
まへ
)
はこンな
川
(
かは
)
べりに
一軒家
(
いつけんや
)
を
建
(
た
)
てて
何
(
なに
)
をして
居
(
を
)
るか」と
仰有
(
おつしや
)
いましたので
私
(
わたし
)
の
両親
(
りやうしん
)
はいろいろと
来歴
(
らいれき
)
を
申上
(
まをしあ
)
げた
処
(
ところ
)
、
263
その
黄金姫
(
わうごんひめ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るには「お
前
(
まへ
)
はこれから
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
信仰
(
しんかう
)
せよ。
264
さうすれば
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
何
(
なに
)
も
恐
(
おそ
)
るべきものはない」と
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいました。
265
それ
故
(
ゆゑ
)
朝晩
(
あさばん
)
三五教
(
あななひけう
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
祈念
(
きねん
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
266
さうするとランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
手下
(
てした
)
の
者
(
もの
)
がドカドカと
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
来
(
きた
)
り「
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
今
(
いま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
唱
(
とな
)
へて
居
(
を
)
つた
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
267
大方
(
おほかた
)
敵
(
てき
)
の
間諜
(
まわしもの
)
だらう」と
云
(
い
)
つて
両親
(
りやうしん
)
を
捕
(
とら
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
ひました。
268
私
(
わたし
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
廁
(
かはや
)
に
這入
(
はい
)
つて
居
(
を
)
りましたので
命
(
いのち
)
だけは
助
(
たす
)
かりました。
269
それからテームス
峠
(
たうげ
)
をソツと
渡
(
わた
)
り
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
せむと
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
270
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
中
(
なか
)
程
(
ほど
)
にバラモン
教
(
けう
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
が
張
(
は
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
なので
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
ゆる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず
此
(
この
)
森
(
もり
)
の
片隅
(
かたすみ
)
に
洞穴
(
ほらあな
)
のあるのを
幸
(
さいは
)
ひ、
271
そこに
身
(
み
)
を
忍
(
しの
)
び
夜中
(
よなか
)
丑満
(
うしみつ
)
の
刻
(
こく
)
を
考
(
かんが
)
へ、
272
どうぞして
両親
(
りやうしん
)
の
敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
ち
恋
(
こひ
)
しい
一人
(
ひとり
)
の
兄
(
あに
)
に
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいと、
273
今日
(
けふ
)
で
二十一
(
にじふいち
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
お
詣
(
まゐ
)
りを
致
(
いた
)
しました。
274
実
(
じつ
)
に
不仕合
(
ふしあは
)
せな
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
275
何卒
(
どうぞ
)
お
憐
(
あは
)
れみ
下
(
くだ
)
さいませ』
276
とワツとばかりに
大地
(
だいち
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げ
棄
(
す
)
てて
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ
其
(
その
)
いぢらしさ。
277
治国別
(
はるくにわけ
)
を
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は、
278
娘
(
むすめ
)
の
物語
(
ものがたり
)
を
聞
(
き
)
いて
悲嘆
(
ひたん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれゐたりける。
279
(
大正一一・一二・八
旧一〇・二〇
北村隆光
録)
280
(昭和九・一二・二七 王仁校正)
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