霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 武乱泥(ぶらんでい)〔一二五六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻 篇:第1篇 変現乱痴 よみ(新仮名遣い):へんげんらんち
章:第2章 武乱泥 よみ(新仮名遣い):ぶらんでい 通し章番号:1256
口述日:1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月25日
概要: 舞台:浮木の森のバラモン軍の陣営 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
浮木の館の陣営の幕僚室では、アークとタールが茶を飲みながら雑談にふけっている。二人はすっかり治国別に感化されて三五教的な視点から、ランチ将軍や蠑螈別を論評している。
そのうちに治国別の姿が見えないことに話が移り、二人はもしやランチ将軍が治国別に何か危難を加えたのではないかとあやぶんでいる。
そこへランチ将軍から、三五教の女宣伝使清照姫、初稚姫という美人がやってきたので接待するようにと呼び出しがあった。二人がランチ将軍の陣営に向かう途中、蠑螈別にであった。
二人は蠑螈別からもらったブランデーで酔っ払ってしまった。そして酔った勢いで蠑螈別とちょっとした喧嘩になり、そこへお民がやってきて蠑螈別を介抱しようとする。アークは蠑螈別を水門壺に落とそうとして自分も一緒に落ち込んでしまった。
四人は騒ぎでそれぞれ気を失い、番卒たちに介抱されることになった。正気になるまで丸一日寝込んだうえ、ようやくランチ将軍の前に顔を出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-11 23:13:46 文字数:5840 OBC :rm4802
愛善世界社版:21頁 八幡書店版:第8輯 595頁 修補版: 校定版:22頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001 浮木(うきき)の館(やかた)の陣営(ぢんえい)に於(お)ける幕僚室(ばくれうしつ)には、002例(れい)のアーク、003タールの両人(りやうにん)が火鉢(ひばち)を真中(まんなか)にして、004茶(ちや)を飲(の)みながら、005雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つてゐる。006タールは切(しき)りに土瓶(どびん)の茶(ちや)を注(つ)ぎながら、
007タール『オイ、008アーク、009最前(さいぜん)から大分(だいぶん)、010天(あま)の沼矛(ぬほこ)を虐使(ぎやくし)したので、011喉(のど)がかわき、012口角(こうかく)の泡(あわ)も非常(ひじやう)に粘着性(ねんちやくせい)を帯(お)びて来(き)たぢやないか。013マア茶(ちや)なつと一杯(いつぱい)やり給(たま)へ。014茶(ちや)は鬱(うつ)を散(さん)じ、015心気(しんき)を養(やしな)ひ、016且(かつ)又(また)心魂(しんこん)をして安静(あんせい)せしむるものだからなア』
017アーク『茶(ちや)には色(いろ)がある。018色(いろ)は即(すなは)ち能(よ)くうつらふものだ……花(はな)の色(いろ)はうつりにけりな徒(いたづら)に、019わが身(み)世(よ)にふる眺(なが)めせしまに……とか未来(みらい)のナイスが言(い)つたさうだ。020俺(おれ)は茶(ちや)は嫌(きら)ひだ、021それよりも少(すこ)しも色(いろ)なき水晶(すゐしやう)の様(やう)な清水(しみづ)が好(す)きだ。022其(その)透徹振(とうてつぶり)は正(まさ)に自足(じそく)他(た)に求(もと)むるなき君子(くんし)の坦懐(たんくわい)、023道交(だうかう)を表(へう)するものだ。024かく一杯(いつぱい)の水(みづ)にも、025神(かみ)の恵(めぐみ)のこもらせ給(たま)ふ以上(いじやう)は、026ポートワインの美酒(びしゆ)も、027遂(つひ)に及(およ)び難(がた)き道味(だうみ)の淡然(たんぜん)として、028掬(きく)して尚(なほ)尽(つ)くるなきものがある。029仁者(じんしや)は山(やま)を楽(たのし)み、030智者(ちしや)は水(みづ)を楽(たのし)むとか云(い)つてな、031吾々(われわれ)には水晶(すゐしやう)の水(みづ)が霊相応(みたまさうおう)だよ。032而(しか)して山(やま)をも水(みづ)をも併(あは)せ楽(たのし)む此(この)アークさまは、033所謂(いはゆる)智者(ちしや)仁者(じんしや)の典型(てんけい)だ』
034タール『智仁(ちじん)兼備(けんび)の聖人(せいじん)君子(くんし)の名(な)を盗(ぬす)まうとする白昼(はくちう)の野盗(やたう)、035一言(いちごん)天下(てんか)を掩有(えんいう)せむとする曲漢(きよくかん)、036そこ動(うご)くな………と一刀(いつたう)を引抜(ひきぬ)き、037切(き)つてすつべき所(ところ)なれども、038今日(けふ)はランチ将軍(しやうぐん)の帷幕(ゐばく)に参(さん)ずる顕要(けんえう)な地位(ちゐ)に上(のぼ)つた祝(いはひ)として忘(わす)れて遣(つか)はす』
039アーク『アツハヽヽ唐変木(たうへんぼく)だなア。040茶(ちや)の好(す)きな人間(にんげん)の精神(せいしん)はヤツパリ滅茶(めちや)苦茶(くちや)だ。041茶目(ちやめ)小僧(こぞう)的(てき)人格者(じんかくしや)だ。042そんなことでランチ将軍(しやうぐん)の帷幕(ゐばく)に参(さん)ずるなどとは、043サツパり茶目(ちやめ)だ、044否(いな)駄目(だめ)だよ』
045タール『吾々(われわれ)は殊更(ことさら)に山(やま)に入(い)つて山(やま)を楽(たのし)み、046水(みづ)に近付(ちかづ)いて水(みづ)を楽(たのし)まなくても、047人生(じんせい)の一切(いつさい)を客観(きやくくわん)して冷然(れいぜん)として之(これ)に対(たい)することが出来(でき)るのだから、048紅塵(こうぢん)万丈(ばんぢやう)の裡(うち)、049恩愛(おんあい)重絆(ぢゆうはん)の境域(きやうゐき)尚(なほ)其処(そこ)に、050山中(さんちう)の静寂(せいじやく)と清水(せいすゐ)の道味(だうみ)を楽(たのし)む事(こと)が出来(でき)るのだ』
051アーク『随分(ずゐぶん)小理窟(こりくつ)がうまくなつたねえ』
052タール『きまつた事(こと)だ。053治国別(はるくにわけ)さまのお仕込(しこ)みだもの、054今(いま)までの狂乱(きやうらん)痴呆(ちはう)兼備(けんび)の勇者(ゆうしや)たる乱痴(らんち)将軍(しやうぐん)の教(をしへ)とは、055天地(てんち)霄壌(せうじやう)の差(さ)があるのだからなア』
056アーク『コリヤそんな大(おほ)きな声(こゑ)で言(い)ふと、057耳(みみ)へ這入(はい)るぞ、058チツとたしなまないか』
059タール『ナーニ何程(なにほど)大(おほ)きな声(こゑ)でいつた所(ところ)で、060神格(しんかく)の内流(ないりう)を受(う)けたる証覚者(しようかくしや)の聖言(せいげん)が耳(みみ)へ通(とほ)る気遣(きづか)ひがあるかい。061ランチ将軍(しやうぐん)の耳(みみ)へ通(つう)ずる言葉(ことば)は、062虚偽(きよぎ)と計略(けいりやく)と悪欲(あくよく)と女色(ぢよしよく)位(くらゐ)なものだ。063さういふ地獄(ぢごく)的(てき)言葉(ことば)は、064何程(なにほど)小(ちひ)さい声(こゑ)で囁(ささや)いてをつても直(すぐ)に聞(きこ)えるものだ。065要(えう)するに其(その)内分(ないぶん)が塞(ふさ)がり外分(ぐわいぶん)のみが開(ひら)けて居(ゐ)るのだからなア。066世間(せけん)的(てき)罪悪(ざいあく)に充(み)ちたバラモン軍(ぐん)の統率者(とうそつしや)に、067吾々(われわれ)の聖言(せいげん)が聞(きこ)える道理(だうり)はない、068先(ま)づ安心(あんしん)し給(たま)へ。069それよりも、070あの蠑螈別(いもりわけ)を見(み)よ、071本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)にしてゐよるぢやないか。072如何(いか)に世間(せけん)の交際(かうさい)は黄金(わうごん)多(おほ)からざれば交(まじは)り深(ふか)からずと云(い)つても、073実(じつ)に呆(あき)れたものぢやないか。074今日(こんにち)の交際(かうさい)は水臭(みづくさ)いと云(い)ふよりも寧(むし)ろ銅臭(どうくさ)いものだ。075僅(わづ)かに五千(ごせん)両(りやう)の軍用金(ぐんようきん)を献納(けんなふ)しよつて、076エキスの野郎(やらう)に駕(かご)で送(おく)られ、077腐(くさ)つたやうな女(をんな)を伴(つ)れて堂々(だうだう)とランチ将軍(しやうぐん)に面会(めんくわい)を申込(まをしこ)み、078将軍(しやうぐん)も亦(また)顔(かほ)の相好(さうごう)を崩(くづ)して、079抱擁(はうよう)キツスはどうか知(し)らぬが、080固(かた)き握手(あくしゆ)を交換(かうくわん)したぢやないか。081俺(おれ)やモウ本当(ほんたう)に厭(いや)になつて了(しま)つた』
082アーク『本当(ほんたう)にさうだねえ。083黄金(わうごん)万能(ばんのう)の世(よ)の中(なか)とは能(よ)く言(い)つたものだ。084併(しか)しながら治国別(はるくにわけ)様(さま)は根(ね)つからお顔(かほ)が見(み)えぬぢやないか、085何(ど)うしたのだろ』
086タール『俺(おれ)の観察(くわんさつ)する所(ところ)に依(よ)れば、087何(なん)とはなしに余(あま)り目出度(めでた)い御(ご)境遇(きやうぐう)に居(を)られる様(やう)に思(おも)はれないがなア』
088アーク『タール、089お前(まへ)もさう思(おも)ふか、090俺(おれ)は何(なん)だか気(き)がかりになつて仕方(しかた)がないワ。091ヒヨツとしたら、092あの、093それ、094秘密牢(ひみつらう)へでも計略(けいりやく)を以(もつ)て放(はふ)り込(こ)んで了(しま)つたのぢやあるまいかな。095今(いま)まで俺(おれ)達(たち)が、096伺(うかが)つても、097喧(やかま)しい言葉(ことば)はなかつた奥座敷(おくざしき)を、098吾々(われわれ)の幕僚(ばくれう)にさへ見(み)せない様(やう)にしてゐるのだから怪(あや)しいものだぞ。099もし治国別(はるくにわけ)様(さま)が危難(きなん)にお遇(あ)ひなさる様(やう)な事(こと)があつたら、100お前(まへ)は何(ど)うする考(かんが)へだ』
101タール『一旦(いつたん)心(こころ)の中(なか)に於(おい)て師匠(ししやう)と仰(あふ)いだ以上(いじやう)は、102死(し)を以(もつ)て之(これ)を守(まも)る考(かんが)へだ。103仮令(たとへ)治国別(はるくにわけ)様(さま)の為(ため)に死(し)んでも、104敢(あへ)て厭(いと)ふ所(ところ)ではない。105士(し)は己(おの)れを知(し)る者(もの)の為(ため)に死(し)すといふからな』
106アーク『ランチ将軍(しやうぐん)だつて、107片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)だつて、108ヤツパリ吾々(われわれ)の主人(しゆじん)であり師(し)ぢやないか。109師(し)といふ段(だん)になつては、110少(すこ)しも変(かは)りはない筈(はず)だ。111そして諺(ことわざ)にも忠臣(ちうしん)二君(にくん)に仕(つか)へずといふ以上(いじやう)は、112何(ど)うしても前(さき)の主人(しゆじん)たるランチ将軍(しやうぐん)に忠義(ちうぎ)を尽(つく)さねばなろまい……ぢやないか』
113タール『そりや、114どちらも主人(しゆじん)だ。115併(しか)しながらランチ将軍(しやうぐん)に今迄(いままで)仕(つか)へて居(を)つたのは、116彼(かれ)が有(いう)する暴力(ばうりよく)と権威(けんゐ)に恐(おそ)れたが為(ため)だ。117つまり言(い)へば表面(へうめん)上(じやう)の主従(しゆじゆう)であつて、118精神(せいしん)上(じやう)から言(い)へば仇敵(きうてき)も同様(どうやう)だ。119どうして馬鹿(ばか)らしい、120精神(せいしん)的(てき)仇敵(きうてき)の為(ため)に貴重(きちよう)な生命(いのち)が捨(す)てられようか』
121アーク『さうだな、122俺(おれ)も同感(どうかん)だ。123併(しか)しタール、124まさかの時(とき)になつたら、125親(おや)の為(ため)に或(あるひ)は主(しゆ)の為(ため)に師匠(ししやう)の為(ため)に、126死(し)ぬこたア出来(でき)まい。127俺(おれ)だつてさうだ、128併(しか)しながら子孫(しそん)の為(ため)には死(し)んでみせてやる、129それも霊体(れいたい)脱離(だつり)の時期(じき)が来(き)たら……だ。130アハヽヽヽ』
131タール『オツホヽヽヽ、132何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだい。133人(ひと)を馬鹿(ばか)にして居(ゐ)やがる。134チツと真面目(まじめ)にならないか。135エヽー』
136アーク『此(この)様(やう)な化物(ばけもの)の横行(わうかう)する世(よ)の中(なか)に、137何(ど)うして真面目(まじめ)に着実(ちやくじつ)にして居(を)れようかい。138真面目(まじめ)な正直(しやうぢき)な仁義(じんぎ)に篤(あつ)い人間(にんげん)は、139現代(げんだい)に於(おい)ては却(かへつ)て悪人(あくにん)と見做(みな)されるからなア。140天下(てんか)の為(ため)、141社会(しやくわい)の為(ため)、142人(ひと)の為(ため)だと、143うまい標語(へうご)を語(かた)つて、144何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も自己(じこ)の欲望(よくばう)を達(たつ)せむことのみを望(のぞ)んでゐる世(よ)の中(なか)だ。145俺(おれ)達(たち)はさういふ贋物(にせもの)は嫌(きら)ひだ。146清明(せいめい)無垢(むく)の小児(せうに)の如(ごと)き、147赤裸々(せきらら)の言葉(ことば)と行(おこな)ひが好(す)きなのだ』
148 かかる所(ところ)へ一人(ひとり)の従卒(じゆうそつ)現(あら)はれ来(きた)り、
149従卒『モシモシ、150只今(ただいま)ランチ将軍(しやうぐん)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)で厶(ござ)いますが、151珍客(ちんきやく)が見(み)えましたので、152御(ご)接待(せつたい)に来(き)て貰(もら)ひ度(た)いとの事(こと)で厶(ござ)います。153どうぞ速(すみやか)にお居間(ゐま)へお越(こ)し下(くだ)さいませ』
154アーク『ヨシヨシ、155只今(ただいま)参(まゐ)りますと言(い)つてくれ。156併(しか)し、157珍客(ちんきやく)といふのは、158どこからお出(い)でになつたのだ』
159従卒『ハイ、160私(わたし)にはどこの方(かた)だか分(わか)りませぬが、161随分(ずゐぶん)綺麗(きれい)な女神(めがみ)さまのやうな方(かた)が二人(ふたり)、162ズンズンと奥(おく)へお通(とほ)りになりました。163大方(おほかた)其(その)方(かた)の事(こと)で厶(ござ)いませう』
164アーク『ウン、165ヨシ、166直様(すぐさま)参(まゐ)ると申上(まをしあ)げてくれ』
167従卒『ハイ』
168と答(こた)へて従卒(じゆうそつ)は此(この)場(ば)を立去(たちさ)つた。169後(あと)に二人(ふたり)は顔(かほ)見合(みあは)せ、
170アーク『オイ、171タール、172どう思(おも)ふか、173此(この)陣屋(ぢんや)は何(なん)だか変梃(へんてこ)になつて来(き)たぢやないか。174蠑螈別(いもりわけ)がお民(たみ)をつれてやつて来(く)るかと思(おも)へば、175又(また)二人(ふたり)の美人(びじん)が来(き)たとは、176益々(ますます)合点(がてん)が行(ゆ)かぬぢやないか』
177タール『ウン、178さうだなア、179大方(おほかた)化物(ばけもの)だらうよ。180これ程(ほど)殺風景(さつぷうけい)な陣営(ぢんえい)へ、181そんな美人(びじん)が二人(ふたり)も、182大胆(だいたん)不敵(ふてき)にも侵入(しんにふ)して来(く)るとは、183何(ど)うしても解(げ)せない。184併(しか)しながら将軍(しやうぐん)の命令(めいれい)、185反(そむ)く訳(わけ)にも行(ゆ)くまい、186行(い)つたら何(ど)うだ』
187アーク『無論(むろん)行(ゆ)く積(つもり)だが、188併(しか)し大体(だいたい)の様子(やうす)を考(かんが)へた上(うへ)でなくちや、189取返(とりかへ)しのならぬ失敗(しつぱい)を演(えん)ずるかも知(し)れないぞ』
190タール『ナーニ刹那心(せつなしん)だ、191構(かま)ふものかい』
192 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ、193酒(さけ)にズブ六(ろく)に酔(よ)うて、194ヒヨロリ ヒヨロリと千鳥(ちどり)をふみながらやつて来(き)たのは蠑螈別(いもりわけ)であつた。195蠑螈別(いもりわけ)は狐(きつね)と兎(うさぎ)と猫(ねこ)との目(め)をつき交(ま)ぜた様(やう)な妙(めう)な目付(めつき)をしながら、196臭(くさ)い息(いき)を吹(ふ)きつつ、
197蠑螈別『ヤア、198お歴々(れきれき)、199何(なん)ぞ面白(おもしろ)い話(はなし)が厶(ござ)るかな。200一(ひと)つ私(わし)にも聞(き)かして下(くだ)さい』
201アーク『コレハコレハ、202蠑螈別(いもりわけ)の御(おん)大将(たいしやう)、203大変(たいへん)な上機嫌(じやうきげん)と見(み)えますなア、204お話(はなし)も承(うけたま)はりたいなり、205又(また)しみじみと御(ご)懇談(こんだん)も申上(まをしあ)げたいのだが、206只今(ただいま)将軍(しやうぐん)よりお呼(よ)び出(だ)しになりましたので、207生憎(あひにく)ゆつくり話(はなし)の交換(かうくわん)も出来(でき)ませぬ。208失礼(しつれい)ながら御免(ごめん)を蒙(かうむ)りませう』
209蠑螈別『ヤア、210実(じつ)の所(ところ)はランチ将軍(しやうぐん)様(さま)の使(つかひ)で来(き)たのだ。211今(いま)三五教(あななひけう)の清照姫(きよてるひめ)、212初稚姫(はつわかひめ)といふ頗(すこぶ)る付(つき)のシヤンが、213突然(とつぜん)降(ふ)つて来(き)たので、214両将軍(りやうしやうぐん)の恐悦(きようえつ)斜(ななめ)ならず、215従卒(じゆうそつ)を以(もつ)て、216アーク、217タールの幕僚(ばくれう)をお呼(よび)よせになつた所(ところ)、218今(いま)来(こ)られちや、219肝腎(かんじん)の性念場(しやうねんば)が台(だい)なしになるといふので……蠑螈別(いもりわけ)殿(どの)、220彼奴(あいつ)等(ら)両人(りやうにん)は中々(なかなか)口(くち)の達者(たつしや)な理窟(りくつ)つぽい奴(やつ)だから、221そなた行(い)つて、222うまく喰(く)ひとめて来(き)て下(くだ)され……とのお頼(たの)みだ。223それ故(ゆゑ)実(じつ)の所(ところ)は一時(ひととき)ばかり暇取(ひまど)らせ、224其(その)間(あひだ)に両将軍(りやうしやうぐん)がシツポリと要領(えうりやう)を得(え)ようといふ段取(だんどり)だ。225アハヽヽヽヽ』
226アーク『ヤア、227そりや勿怪(もつけ)の幸(さいは)ひだ。228なア、229タール、230一(ひと)つここで蠑螈別(いもりわけ)のローマンスでも聞(き)かして貰(もら)はうかい』
231タール『所望(しよまう)だ所望(しよまう)だ』
232蠑螈別『ナニ、233俺(おれ)のローマンスを聞(き)きたいといふのかアー。234聞(き)きたくば聞(き)かしてやらう。235併(しか)しながら余(あま)り口数(くちかず)が多(おほ)いので、236どの方面(はうめん)から糸口(いとぐち)をたぐつたらいいか分(わか)らない。237アーア、238困(こま)つた註文(ちうもん)を受(う)けたものだ。239エヘヽヽヽヽ』
240アーク『モシモシ、241涎(よだれ)がおちますよ』
242蠑螈別(いもりわけ)『エヘヽヽヽヽ、243イツヒツヒ』
244タール『大分(だいぶん)に嬉(うれ)しかつたと見(み)えますね。245智者(ちしや)は対者(たいしや)の一言(いちごん)を聞(き)いて、246其(その)生涯(しやうがい)を知(し)るとか云(い)ひましてなア、247このタールは蠑螈別(いもりわけ)さまの其(その)顔面(がんめん)筋肉(きんにく)の動(うご)き方(かた)と、248エヘヽヽイヒヽヽの言霊(ことたま)によつて、249貴方(あなた)の歓喜(くわんき)生活(せいくわつ)の生涯(しやうがい)をほぼ悟(さと)る事(こと)を得(え)ました』
250アーク『ナヽ何(なに)を吐(ぬか)しよるのだ。251よう囀(さへづ)る奴(やつ)だな。252貴様(きさま)がそれ程(ほど)分(わか)つてゐるなら、253蠑螈別(いもりわけ)さまに代(かは)つて、254ここで俺(おれ)に聞(き)かしたら何(ど)うだ』
255タール『御(ご)本人(ほんにん)の前(まへ)で、256御(ご)本人(ほんにん)の講談(かうだん)は如何(いか)なる名人(めいじん)でも行(や)りにくいからなア。257講談師(かうだんし)見(み)て来(き)た様(やう)な嘘(うそ)をつき……と何程(なにほど)真実(ほんたう)を語(かた)つても、258頭(あたま)から相場(さうば)をきめられちや、259折角(せつかく)の骨折(ほねをり)が無駄(むだ)になる。260それよりも直接(ちよくせつ)御(ご)本人(ほんにん)から承(うけたま)はつた方(はう)が、261愚昧(ぐまい)な貴様(きさま)の頭(あたま)には、262余程(よほど)有難(ありがた)く感(かん)ずるだらう。263』
264蠑螈別(いもりわけ)『実(じつ)の所(ところ)は、265ウーン、266今(いま)伴(つ)れて来(き)たお民(たみ)といふ女(をんな)、267随分(ずゐぶん)別嬪(べつぴん)でせう。268エヘヽ、269貴方(あなた)も御覧(ごらん)になりましたか』
270アーク『一寸(ちよつと)横顔(よこがほ)を拝(をが)まして貰(もら)ひましたが、271随分(ずゐぶん)稀体(きたい)の尤物(いうぶつ)らしいですなア。272併(しか)しそんなお惚気話(のろけばなし)を聞(き)かして貰(もら)ふのは、273実(じつ)ア、274有難(ありがた)迷惑(めいわく)だ。275一杯(いつぱい)奢(おご)つて貰(もら)はなくちや約(つま)らないですからなア』
276蠑螈別『真面目(まじめ)に聞(き)いて貰(もら)へるなら、277此(この)ブランデーを進(しん)ぜる』
278と云(い)ひながら、279懐(ふところ)からガラガラ言(い)はせながら、280峻烈(しゆんれつ)な酒(さけ)を盛(も)つた二個(にこ)の瓶(びん)を取出(とりだ)し、281二人(ふたり)に一個(いつこ)づつ渡(わた)した。282二人(ふたり)は話(はなし)はそつちのけにして、283グビリグビリと喉(のど)をならして呑(の)み始(はじ)めた。284蠑螈別(いもりわけ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に惚気話(のろけばなし)を虚実(きよじつ)交々(こもごも)相交(あひまじ)へて喋(しやべ)り立(た)てる。285二人(ふたり)は馬耳(ばじ)東風(とうふう)と聞(き)き流(なが)し、286ブランデーに気(き)を取(と)られて、
287(アークかタール)『アーア、288よう利(き)く酒(さけ)だ、289エヽー、290何(なん)と甘(うま)いぢやないか』
291(アークかタール)『あゝ甘(うま)い甘(うま)い、292何(なん)と気分(きぶん)がいいなア』
293と酒(さけ)ばかりほめてゐる。294蠑螈別(いもりわけ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)にお民(たみ)との情交(じやうかう)関係(くわんけい)を喋(しやべ)り立(た)ててゐる。295そして二人(ふたり)の声(こゑ)を耳(みみ)に挟(はさ)み、
296蠑螈別『本当(ほんたう)にお前(まへ)の言(い)ふ通(とほ)り、297ウマイものだらう。298聞(き)いても気分(きぶん)がいいだらう』
299 アークは額(ひたい)を切(しき)りに叩(たた)きながら、
300アーク『あゝ酔(よ)うた酔(よ)うた、301実(じつ)に感謝(かんしや)の至(いた)りだ』
302蠑螈別『本当(ほんたう)に完全(くわんぜん)な恋(こひ)のローマンスを聞(き)いて、303酔(よ)うただらう。304頭(あたま)を叩(たた)いて感心(かんしん)せなくちや居(ゐ)られまい、305本当(ほんたう)にこんな取(と)つとき話(ばなし)を拝聴(はいちやう)して、306お前(まへ)も嬉(うれ)しかろ、307感謝(かんしや)すると云(い)つたねえ』
308タール『エーエ、309俺(おれ)もモ一本(いつぽん)欲(ほ)しいものだなア、310本当(ほんたう)に気分(きぶん)のいいものだ。311蠑螈別(いもりわけ)さま、312モ一(ひと)つ下(くだ)さいな』
313 蠑螈別(いもりわけ)はうつつになり、
314蠑螈別『本当(ほんたう)に気分(きぶん)のいい女(をんな)だらう、315一目(ひとめ)見(み)ても恍惚(くわうこつ)として酔(よ)うたらう。316併(しか)し下(くだ)さいと云(い)つても、317お民(たみ)ばかりはやる事(こと)は出来(でき)ないよ。318それ丈(だけ)は御免(ごめん)だ。319蠑螈別(いもりわけ)の命(いのち)の親(おや)だからなア』
320タール『本当(ほんたう)に百薬(ひやくやく)の長(ちやう)だ、321命(いのち)の親(おや)だ、322それだから欲(ほ)しいといふのだ。323なア、324アーク、325エーエン、326本当(ほんたう)に心持(こころもち)がよくなつたぢやないか。327こりや何(ど)うしても此(この)儘(まま)でしまふこたア出来(でき)ない、328お民(たみ)さまにでもついで貰(もら)つて、329二次会(にじくわい)でもやらうかなア』
330蠑螈別『お民(たみ)を何(ど)うするといふのだ。331酒(さけ)をつがさうと云(い)つても、332お民(たみ)の手(て)は、333さう易々(やすやす)と貴様(きさま)の酒(さけ)ア、334つがないぞ、335エヽン、336此(この)蠑螈別(いもりわけ)様(さま)一人(ひとり)に限(かぎ)つて、337お酒(さけ)をつぐ為(ため)に製造(せいざう)してある雪(ゆき)の様(やう)なお手々(てて)だ。338身(み)の程(ほど)知(し)らぬもキリがあるぞよツ』
339と呶鳴(どな)りながら、340ブランデーの空瓶(あきびん)で、341アークの前頭部(ぜんとうぶ)をカツンとやつた。342アーク、343タールの両人(りやうにん)はヒヨロヒヨロになつた儘(まま)、344蠑螈別(いもりわけ)に向(むか)つて又(また)もやブランデーの空瓶(あきびん)をふり上(あ)げ、345打(う)つてかかる。346されど三(さん)人(にん)が三(さん)人(にん)共(とも)キツい酒(さけ)に足(あし)を取(と)られ、347彼方(あちら)へヒヨロヒヨロ此方(こちら)へヒヨロヒヨロとヒヨロつきまはつた途端(とたん)に、348三(みつ)つの頭(あたま)が一所(ひとところ)に機械(きかい)的(てき)に集(あつ)まり、349烈(はげ)しき衝突(しようとつ)を来(きた)し、350パチン、351ピカピカピカと目(め)から霊光(れいくわう)を発射(はつしや)し、352ウンとばかり其(その)場(ば)に倒(たふ)れて了(しま)つた。353此(この)時(とき)お民(たみ)は、354蠑螈別(いもりわけ)の所在(ありか)を尋(たづ)ねて、355現(あら)はれ来(きた)り、356此(この)態(てい)を見(み)て打驚(うちおどろ)き、
357お民『アレ、358マア蠑螈別(いもりわけ)さま』
359と云(い)ひながら、360抱起(だきおこ)さうとする。361蠑螈別(いもりわけ)は眼(まなこ)眩(くら)み、362アークをお民(たみ)と間違(まちが)へ、
363蠑螈別『コレお民(たみ)、364すまなかつた、365お前(まへ)の何時(いつ)もの言葉(ことば)を軽(かろ)んじ、366内証(ないしよう)でブランデーをやつたものだから、367足腰(あしこし)が立(た)たぬやうになつた。368こんな所(ところ)を将軍(しやうぐん)さまに見(み)られちや大変(たいへん)だから、369どつかへ隠(かく)してくれないか。370チツト酔(よ)ひが醒(さ)めるまで……』
371 お民(たみ)は蠑螈別(いもりわけ)の顔(かほ)の疵(きず)を見(み)て、
372お民『アツ』
373と驚(おどろ)き、374殆(ほとん)ど失心(しつしん)状態(じやうたい)になつてゐたので、375蠑螈別(いもりわけ)がアークをお民(たみ)と間違(まちが)へてる事(こと)に気(き)がつかなかつた。376タールは目(め)まひが来(き)て、377お民(たみ)の傍(かたはら)にリの字形(じがた)になつて倒(たふ)れてゐる。378アークは蠑螈別(いもりわけ)が自分(じぶん)をお民(たみ)と間違(まちが)へてゐるなア……と早(はや)くも悟(さと)り、379舌(した)のまはらぬ口(くち)から女(をんな)の作(つく)り声(ごゑ)をして、
380アーク『コレ、381蠑螈別(いもりわけ)さま、382お前(まへ)さまは、383本当(ほんたう)にヒドイ人(ひと)だよ、384いつもいつも私(わたし)にこれ丈(だけ)心配(しんぱい)かけて、385それ程(ほど)私(わたし)が憎(にく)いの、386サアもうお暇(ひま)を下(くだ)さい、387今日(けふ)限(かぎ)りモウ私(わたし)はアカの他人(たにん)ですよ。388エヽ憎(にく)らしい』
389といつては耳(みみ)を引掻(ひつか)き、390横面(よこづら)をピシヤピシヤとなぐり、391鼻(はな)をつまもうとすれど、392アークも余(あま)り酔(よ)ひつぶれてゐるので、393手(て)が何(ど)うしても命令(めいれい)を聞(き)かず、394蠑螈別(いもりわけ)の鼻(はな)をこすつたり、395頬(ほほ)べたを撫(な)でたり、396耳(みみ)を引張(ひつぱ)つてゐる。397蠑螈別(いもりわけ)は余(あま)りアークの手(て)がキツクさはらないので、398ますますお民(たみ)の手(て)と信(しん)じ、
399蠑螈別『アヽお民(たみ)、400すまなかつた、401どつかへ一(ひと)つ酔(よひ)の醒(さ)める迄(まで)かくしてくれ』
402と叫(さけ)ぶ。403アークは又(また)作(つく)り声(ごゑ)で、
404アーク『サ、405蠑螈別(いもりわけ)さま、406次(つぎ)の間(ま)の押入(おしいれ)の中(なか)へかくして上(あ)げませう。407酔(よひ)のさめる迄(まで)静(しづ)かにお休(やす)みなさいませ』
408蠑螈別『流石(さすが)はお民(たみ)だ、409親切(しんせつ)な女(をんな)だなア。410是(これ)だから蠑螈別(いもりわけ)が命(いのち)迄(まで)投込(なげこ)むのも無理(むり)もない。411お前(まへ)になら仮令(たとへ)どんな所(ところ)へ連込(つれこ)まれても満足(まんぞく)だ。412ゲーガラガラガラ ウツプー、413あゝ苦(くる)しい苦(くる)しい』
414 アークはニタニタしながら、415蠑螈別(いもりわけ)を肩(かた)にかけ、416水門壺(すゐもんつぼ)の前(まへ)まで行(い)つて、
417アーク『蠑螈別(いもりわけ)さま、418ここが押入(おしいれ)だよ』
419と言(い)ふより早(はや)く、420水門壺(すゐもんつぼ)へ蠑螈別(いもりわけ)を突(つ)きおとさうとした。421蠑螈別(いもりわけ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に腕(うで)を握(にぎ)つてはなさない。422押(お)した勢(いきほひ)に二人(ふたり)はヒヨロヒヨロとヨロめいて、423水門壺(すゐもんつぼ)の中(なか)へドブンと一緒(いつしよ)におち込(こ)んで了(しま)つた。424此(この)物音(ものおと)に驚(おどろ)いて、425外面(そと)の見廻(みまは)りをしてゐた二三(にさん)の番卒(ばんそつ)は駆(か)けより、426二人(ふたり)を水門壺(すゐもんつぼ)より救(すく)ひ上(あ)げ、427火(ひ)を焚(た)きなどして二人(ふたり)の気(き)をつけた。428そして蠑螈別(いもりわけ)は依然(いぜん)としてお民(たみ)と一緒(いつしよ)に落込(おちこ)んだものと信(しん)じてゐた。429アークもタールも、430蠑螈別(いもりわけ)もお民(たみ)も一度(いちど)に正気(しやうき)を失(うしな)つて了(しま)つたのだから、431番卒(ばんそつ)共(ども)の介抱(かいほう)は少(すこ)しも知(し)らず、432気(き)がついたのは何(いづ)れも同時(どうじ)であつた為(ため)に、433知(し)らぬ神(かみ)に祟(たた)りなしで、434アーク、435蠑螈別(いもりわけ)の間(あひだ)に、436此(この)事(こと)に関(くわん)しては少(すこ)しの紛擾(ふんぜう)も起(おこ)らなかつた。
437 茲(ここ)に四(よ)人(にん)はスツカリ酔(よひ)がさめ、438正気(しやうき)になる迄(まで)一(いち)日(にち)ばかり寝(ね)た上(うへ)、439其(その)翌日(よくじつ)になつて、440昼狐(ひるぎつね)を追出(おひだ)したやうな顔(かほ)をして、441ランチ将軍(しやうぐん)の前(まへ)にヌツクリと顔(かほ)を出(だ)した。
442(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 松村真澄録)
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