霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 兵舎(へいしや)の囁(ささやき)〔一二七三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻 篇:第4篇 福音輝陣 よみ(新仮名遣い):ふくいんきじん
章:第19章 兵舎の囁 よみ(新仮名遣い):へいしゃのささやき 通し章番号:1273
口述日:1923(大正12)年01月14日(旧11月28日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
コー、ワク、エムの三人の守衛たちは一室に集まって、ランチ将軍たちの蘇生の祝い酒に舌鼓をうちながら雑談にふけっている。
ランチ将軍と片彦将軍が幽冥旅行の末、三五教に改心して軍隊を解散するという噂について、コーは憤慨し自分がバラモン軍を指揮して三五教を攻撃すると息巻くが、エムがなだめている。そこへ上官のテルンスがやってきて、三人の噂は本当かと問いただした。三人は、余計な疑いを抱かれてはと心配し、あいまいな返事をした。
テルンスは、必ず真実を白状させると言い残して去って行った。エムとワクは、コーが余計なことをいうからだと責め立てた。コーは二人に自分が言ったことを言いつけられてはたいへんと剣を取って二人に切りつけた。
コーは雪の中、石につまずいて転んだところをエムとワクは必死に逃げ、テルンスの官舎に逃げ込んだ。そして、コーがランチ・片彦が三五教に転身した後は自分がバラモン軍を指揮してあくまで斎苑館に攻めこむと息巻いていることを注進した。
それを聞くとテルンスはコーを褒め、武士は人殺しと戦利品収納が商売だと説き始めた。それを聞いてエムとワクは疑問を呈した。テルンスはやにわに刀を抜くと二人を切り殺した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-04 13:42:58 文字数:4370 OBC :rm4819
愛善世界社版:271頁 八幡書店版:第8輯 688頁 修補版: 校定版:283頁 普及版:135頁 初版: ページ備考:
001 コー、002ワク、003エム三(さん)人(にん)の守衛(しゆゑい)連(れん)は陣営(ぢんえい)の一室(いつしつ)に集(あつ)まつて、004ランチ将軍(しやうぐん)以下(いか)蘇生(そせい)の祝酒(いはひざけ)に舌鼓(したつづみ)をうちながら雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
005コー『オイ、006チツと怪体(けたい)ぢやないか。007エヽーン、008本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)にしてゐよる。009俺(おれ)やモウこんな事(こと)と知(し)つたら、010こんな処(ところ)までついて来(く)るのぢやなかつたに、011えらい番狂(ばんくる)はせだ』
012ワク『オイ、013コー、014何(なに)が何(なん)と云(い)ふのぢやい。015テンと貴様(きさま)の仰有(おつしや)ることは耳(みみ)に疎通(そつう)せぬぢやないか』
016コー『きまつた事(こと)だ。017テンと意味(いみ)が疎通(そつう)せぬ事(こと)が出来(でき)たのだ。018よう考(かんが)へて見(み)よ。019ランチ、020片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)は女(をんな)の取(と)り合(あ)ひをして、021終(しま)ひにや生命(いのち)のとりあひ迄(まで)やつたぢやないか。022さうして其(その)女(をんな)と云(い)ふのはドテライお化(ばけ)さまだ。023しようもない、024生(い)きたり死(し)んだりしよつて、025亡者(まうじや)ばつかり沢山(たくさん)にモジヤモジヤと本営(ほんえい)に集(あつ)まり、026亡者会(まうじやくわい)を開(ひら)き其(その)祝(いはひ)ぢやと云(い)つて……糞面白(くそおもしろ)くもない。027俺(おれ)達(たち)に味(あぢ)なくもない酒(さけ)を滅多(めつた)矢鱈(やたら)に強(し)ひよるぢやないか。028俺(おれ)やむかつくの、029むかつかないのつて、030亡者(まうじや)の酒(さけ)と思(おも)へや、031此(この)サケ如何(どう)なるかと思(おも)つて、032気(き)が揉(も)めて仕方(しかた)がないのぢや。033よく考(かんが)へて見(み)よ、034あの金(かね)を呉(く)れやがつた蠑螈別(いもりわけ)やお民(たみ)や治国別(はるくにわけ)、035竜公(たつこう)、036其(その)他(ほか)将軍(しやうぐん)に副官(ふくくわん)、037〆(し)めて八(はち)人(にん)も天(あめ)の八衢(やちまた)とか幽冥界(いうめいかい)とかへ行(い)つて来(き)て俄(にはか)に弱気(よわき)になり、038モウ明日(あす)から剣(けん)は持(も)つ事(こと)ならぬとか、039戦(いくさ)はやめだとか、040戦(いくさ)するよりも三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に拝(をが)めとか、041幽霊(いうれい)みた様(やう)な事(こと)を吐(ぬか)すぢやないか。042俺(おれ)やモウ、043それがムカムカするのだ。044斎苑(いそ)の館(やかた)へ行(い)つて天晴(あつぱれ)功名(こうみやう)手柄(てがら)を現(あら)はし、045一国(いつこく)の宰相(さいしやう)にでもならうと思(おも)つて居(を)つたのに、046サツパリ源助(げんすけ)だ。047ワク、048貴様(きさま)は之(これ)でも何(なん)ともないか、049エヽーン』
050ワク『智勇(ちゆう)兼備(けんび)のランチ将軍(しやうぐん)さまだ。051それに片彦(かたひこ)さまの様(やう)な豪傑(がうけつ)がついて厶(ござ)るのだから、052吾々(われわれ)の燕雀(えんじやく)は、053そんな事(こと)に口嘴(くちばし)を容(い)れるものぢやない。054それよりも結構(けつこう)なお酒(さけ)を頂戴(ちやうだい)したのだから、055おとなしう呑(の)んで寝(ね)たがよからうぞ』
056コー『これが如何(どう)して寝(ね)られるかい。057武装(ぶさう)撤廃(てつぱい)だとか軍備(ぐんび)廃止(はいし)だとか、058余(あま)り胸(むね)のよくない話(はなし)を聞(き)くぢやないか。059吾々(われわれ)一兵卒(いつぺいそつ)と雖(いへど)も之(これ)が黙許(もくきよ)せられるか。060貴様(きさま)も余程(よつぽど)腰抜(こしぬ)けだな』
061ワク『さうぢやないよ、062浄海(じやうかい)入道(にふだう)の法衣(ほふえ)みた様(やう)なものだ。063表面(うはべ)に法衣(ほふい)を着(き)て裏面(うらべ)に甲冑(かつちう)を装(よそほ)うて居(ゐ)る様(やう)な有様(ありさま)だ。064あゝ云(い)ふ三五教(あななひけう)の治国別(はるくにわけ)を陥穽(かんせい)を入(い)れて殺(ころ)し損(そこ)ねたり、065却(かへつ)て自分(じぶん)が死(し)ぬ様(やう)な目(め)にあひ給(たま)ひ、066治国別(はるくにわけ)や其(その)他(ほか)の者(もの)に油断(ゆだん)させるために、067軍隊(ぐんたい)一般(いつぱん)にあの様(やう)な事(こと)をお触(ふ)れになつたのだよ。068貴様(きさま)は馬鹿(ばか)正直(しやうぢき)だからな』
069コー『それなら気(き)が利(き)いてる。070如何(どう)やら、071それらしくないぞ。072最前(さいぜん)もテルンスが云(い)つて居(ゐ)たが、073両将軍(りやうしやうぐん)並(ならび)に副官(ふくくわん)迄(まで)が一生(いつしやう)懸命(けんめい)に三五(あななひ)のお経(きやう)を唱(とな)へ、074之(これ)から軍隊(ぐんたい)を解散(かいさん)するか、075但(ただし)は一般(いつぱん)を三五教(あななひけう)の信者(しんじや)にするかと云(い)ふ了簡(れうけん)らしいぞ』
076ワク『そんな事(こと)があつたら俺(おれ)だつて此(この)儘(まま)にや済(す)ますものか。077忽(たちま)ちハルナの都(みやこ)に注進(ちゆうしん)して、078お褒(ほ)めを頂(いただ)き、079マア将軍(しやうぐん)の後釜(あとがま)にでもなるのだな。080其(その)時(とき)や貴様(きさま)も秘書官(ひしよくわん)位(くらゐ)にしてやるわ。081さうして月(つき)の国(くに)の相当(さうたう)の、082二三万(にさんまん)の人口(じんこう)ある刹帝利(せつていり)に使(つか)つてやるから、083マア楽(たのし)んで待(ま)つたがよからう』
084コー『馬鹿(ばか)云(い)ふな。085果(はた)してランチ将軍(しやうぐん)が三五教(あななひけう)に恍(とぼ)けよつたなら、086俺(おれ)が全軍(ぜんぐん)の指揮官(しきくわん)となり斎苑(いそ)の館(やかた)を蹂躙(じうりん)し、087七千(しちせん)余(よ)ケ国(こく)の月(つき)の国(くに)を少(すくな)くも五分(ごぶ)の一(いち)位(くらゐ)頂戴(ちやうだい)し、088貴様(きさま)を其(その)中(なか)の一番(いちばん)小(ちひ)さい国(くに)の刹帝利(せつていり)に使(つか)はぬ事(こと)もない。089それも貴様(きさま)の心(こころ)の持(も)ち様(やう)一(ひと)つだ。090アヽ斯(こ)んな事(こと)を思(おも)ふと腹立(はらだち)も何処(どこ)かへ消滅(せうめつ)して了(しま)つた。091ランチ将軍(しやうぐん)や片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)が三五教(あななひけう)に沈没(ちんぼつ)すれば、092却(かへつ)て吾々(われわれ)の栄進(えいしん)の道(みち)が開(ひら)くと云(い)ふものだ。093かう思(おも)へば腹立(はらだち)処(どころ)か、094双手(さうしゆ)を挙(あ)げて賛成(さんせい)すべきものだ』
095エム『何(なん)と俄(にはか)に御(ご)機嫌(きげん)が直(なほ)つたぢやないか。096然(しか)しさう世(よ)の中(なか)は思惑通(おもわくどほ)りに行(い)くものぢやないよ。097あれだけ武名(ぶめい)高(たか)き片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)だつて、098あの通(とほ)り治国別(はるくにわけ)に敗北(はいぼく)したのだからな。099マア、100そんな空想(くうさう)は止(や)めにして、101もう少(すこ)しばかりお神酒(みき)を頂(いただ)き、102果(はた)して将軍(しやうぐん)様(さま)が三五教(あななひけう)になられるか、103但(ただし)は治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)を征伐(せいばつ)なさる御(ご)計略(けいりやく)か、104トツクリと二三(にさん)日(にち)待(ま)つて調(しら)べた上(うへ)でなけりや、105ウツカリした事(こと)云(い)つて将軍(しやうぐん)の耳(みみ)にでも這入(はい)つたら大変(たいへん)だぞ』
106 かかる所(ところ)へ見廻(みまは)りに来(き)たのは、107陣中(ぢんちう)にても稍(やや)相当(さうたう)の位置(ゐち)を持(も)つてるテルンスであつた。108テルンスはツカツカと入(い)り来(きた)り、
109テルンス『オイ、110お前(まへ)達(たち)は今(いま)何(なに)を云(い)つてゐたか』
111コー『ハイ、112いえ別(べつ)に何(なん)にも云(い)つた覚(おぼ)えは厶(ござ)いませぬ。113治国別(はるくにわけ)を一(ひと)つ計略(けいりやく)にかけて亡(な)き者(もの)にすれば結構(けつこう)だと云(い)つたのです。114それより外(ほか)は何(なに)も云(い)ひませぬ。115のうワク、116エムさうだろ』
117テルンス『馬鹿(ばか)云(い)ふな。118貴様(きさま)はハルナの都(みやこ)へ注進(ちゆうしん)するとか、119全軍(ぜんぐん)の指揮官(しきくわん)になるとか、120大(だい)それた事(こと)を申(まを)したぢやないか』
121コー『ウン、122そりや申(まを)しました。123然(しか)し酒(さけ)の上(うへ)で一寸(ちよつと)法螺(ほら)を吹(ふ)いてみたのですよ。124よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさいませ。125テルンスと云(い)ふ上官(じやうくわん)があるのに、126貴方(あなた)を差措(さしお)いてそんな事(こと)が出来(でき)ますかな。127何卒(なにとぞ)冷静(れいせい)にお考(かんが)へ下(くだ)さい』
128テルンス『おい、129ワク、130エム、131コーが今(いま)云(い)つてる事(こと)は本当(ほんたう)か、132嘘(うそ)か、133如何(どう)だ』
134ワク『ヘー、135嘘(うそ)らしうもあり、136本当(ほんたう)らしうも厶(ござ)います。137十分(じふぶん)に酩酊(めいてい)して居(を)つたものですから、138何(なに)を云(い)つたか満足(まんぞく)に聞(きこ)えませず、139私(わたくし)だつて酒(さけ)が云(い)つたのだから、140肝腎(かんじん)の御(ご)本人(ほんにん)は何(なに)も知(し)りや知(し)りませぬ。141何卒(なにとぞ)大目(おほめ)に見(み)てやつて下(くだ)さい』
142テルンス『コリヤ其(その)方(はう)は詐(いつは)りを申(まを)しちやならないぞ。143本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)はないか』
144ワク『酒(さけ)に酔(よ)うて居(ゐ)ましたから、145酔(よ)うて居(を)つて何(なん)の覚(おぼ)えもないと云(い)ふのです。146それが事実(じじつ)ですもの』
147テルンス『ヨシ、148知(し)らぬなら知(し)らぬでよい。149明日(あす)は締木(しめき)にかけてでも白状(はくじやう)致(いた)さす。150何程(なにほど)弁解(べんかい)致(いた)しても此(この)方(はう)はシツカリ証拠(しようこ)が押(おさ)へてあるのだ』
151と云(い)ひながら戸(と)をピシヤツと荒(あら)く閉(し)め、152又(また)次(つぎ)の兵舎(へいしや)に足音(あしおと)を忍(しの)ばせ進(すす)み行(ゆ)く。
153 後(あと)に三(さん)人(にん)は小声(こごゑ)になり、
154ワク『それ見(み)よ、155コーの奴(やつ)め、156仕様(しやう)もない事(こと)を吐(ぬ)かすから俺(おれ)迄(まで)も疑(うたが)はれて了(しま)ふのだ。157俺(おれ)とエムとが貴様(きさま)の云(い)つてる事(こと)を本当(ほんたう)に証明(しようめい)しようものなら、158お前(まへ)の生命(いのち)はないのだぞ。159なあエム、160俺(おれ)だとて、161隠(かく)されるだけは隠(かく)してやるけど、162痛(いた)い目(め)や辛(つら)い目(め)に遇(あ)ふのなら、163本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)つてやらう。164それが自利(じり)上(じやう)、165否(いな)吾(わが)身(み)保全(ほぜん)の上(うへ)に於(おい)て最(もつと)も利巧(りかう)のやり方(かた)だ』
166エム『さうとも、167俺(おれ)だとて、168痛(いた)い目(め)や苦(くる)しい目(め)までしてコーの保護(ほご)してやつた所(ところ)で別(べつ)に喜(よろこ)ぶでもなし、169何時(いつ)も組頭顔(くみがしらがほ)をしやがつて俺(おれ)達(たち)を頭抑(あたまおさ)へに抑(おさ)へやがるから、170いい敵討(かたきう)ちの時(とき)が到来(たうらい)したのだよ。171こらコー、172恐(おそ)れ入(い)つたか』
173と稍(やや)巻舌(まきじた)になりながら後前(あとさき)を見(み)ずに喋(しやべ)り出(だ)した。174コーは二人(ふたり)に素破抜(すつぱぬ)かれちや大変(たいへん)だと思(おも)ひ、175傍(かたはら)の剣(けん)を執(と)るより早(はや)く二人(ふたり)に向(むか)つて斬(き)りつけた。176二人(ふたり)は手早(てばや)く身(み)を躱(かは)し、177コーの両足(りやうあし)をグツとさらへて仰向(あふむ)けにドタンと倒(たふ)した。178コーは大(おほ)いに怒(いか)り、
179コー『己(おの)れ、180両人(りやうにん)、181もはや了簡(れうけん)はならぬ。182もう斯(か)うなる上(うへ)は死物狂(しにものぐる)ひだ、183覚悟(かくご)をせよ』
184と大刀(だいたう)を提(ひつさ)げ斬(き)つてかかる。185ワク、186エムの両人(りやうにん)は表(おもて)にバラバラと駆(か)け出(だ)し、187雪道(ゆきみち)を転(こ)け惑(まど)ふ。188コーは狂気(きやうき)になつて追駆(おつか)け廻(まは)る。189忽(たちま)ちコーは雪(ゆき)に包(つつ)まれた捨石(すていし)に膝頭(ひざがしら)を打(う)ち、
190コー『アイタツタ』
191と云(い)つたきり目(め)を廻(まは)し、192抜刀(ぬきみ)の儘(まま)雪(ゆき)の上(うへ)に倒(たふ)れて了(しま)つた。193エム、194ワクの両人(りやうにん)は狼狽(うろた)へてテルンスの営舎(えいしや)へ走(はし)り行(ゆ)き、195息(いき)を喘(はづ)ませながら、
196ワク『テヽヽヽテルンス様(さま)、197何卒(どうぞ)タヽヽヽ助(たす)けて下(くだ)さいませ』
198と云(い)ひながらエムと共(とも)に転(ころ)げ込(こ)んだ。199テルンスは二人(ふたり)の慌(あわただ)しき勢(いきほひ)に不審(ふしん)を抱(いだ)き、
200テルンス『其(その)方(はう)はワク、201エムの両人(りやうにん)ぢやないか。202何(なに)を騒々(さうざう)しく夜中(よなか)にやつて来(く)るのだ。203何(なに)か変事(へんじ)が突発(とつぱつ)したのか』
204ワク『タヽヽヽヽ大変(たいへん)が出来(でき)ました。205コーの奴(やつ)、206喋(しやべ)つた事(こと)を貴方(あなた)に素破(すつぱ)ぬくと申(まを)したら、207怒(おこ)つて大刀(だいたう)を振上(ふりあ)げ、208ソレ…そこに追駆(おつか)けて来(き)ます。209いつもなら私(わたし)はあんな奴(やつ)の三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)恐(おそ)れはしませぬが、210何分(なにぶん)足(あし)も充分(じうぶん)運(はこ)べぬやうに酩酊(めいてい)してるものですから、211如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ませぬ。212何卒(どうぞ)彼奴(あいつ)を掴(つか)まへて下(くだ)さい』
213テルンス『アー、214さうか、215コーは何(なん)と申(まを)して居(を)つた』
216エム『ヘー、217ハルナの都(みやこ)へランチ将軍(しやうぐん)、218片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の三五教(あななひけう)に惚(とぼ)けた事(こと)を早馬(はやうま)に乗(の)つて注進(ちゆうしん)し、219自分(じぶん)が全軍(ぜんぐん)の指揮官(しきくわん)になり、220月(つき)の国(くに)の刹帝利(せつていり)になるとか云(い)つて居(を)りましたよ。221私(わたくし)とワクとは、222もしもそんな事(こと)になつたら、223テルンスさまを将軍(しやうぐん)に仰(あふ)ぐと云(い)ひましたら、224大変(たいへん)に怒(いか)つて大刀(だいたう)を引(ひ)き抜(ぬ)き私(わたし)を殺(ころ)しにかかつたのです。225あんな悪人(あくにん)はお為(ため)になりませぬ。226何卒(どうぞ)捕手(とりて)を出(だ)して捕(つかま)へて下(くだ)さい』
227と虚実(きよじつ)交々(こもごも)まぜて述(の)べ立(た)てた。
228テルンス『何(なに)、229コーが左様(さやう)の事(こと)を申(まを)して居(を)つたか。230中々(なかなか)以(もつ)て気骨(きこつ)のある奴(やつ)だ。231大(おほい)に見込(みこ)みがある。232其(その)方(はう)は之(これ)からコーを拙者(せつしや)の命令(めいれい)だと云(い)つて呼(よ)んで来(こ)い。233相談(さうだん)し度(た)い事(こと)があるから』
234ワク『オヽヽオイ、235エム、236お前(まへ)行(い)つて来(こ)い。237俺(おれ)や足(あし)がチツとも動(うご)かないわ』
238エム『俺(おれ)だつて酒(さけ)に足(あし)を取(と)られてゐるのだから、239一足(ひとあし)も歩(ある)けぬぢやないか』
240テルンス『一足(ひとあし)も歩(ある)けぬと申(まを)すか、241此処(ここ)まで如何(どう)して来(き)たのだ』
242エム『ハイ、243雪(ゆき)の中(なか)を転(ころ)げて来(き)ました』
244テルンス『然(しか)らば転(ころ)げて呼(よ)んで来(こ)い。245それで結構(けつこう)だ』
246エム『へー、247それだけは何卒(なにとぞ)御免(ごめん)下(くだ)さいませな』
248テルンス『イヤ、249ならぬ。250上官(じやうくわん)の命令(めいれい)だ』
251エム『上官(じやうくわん)の命令(めいれい)と仰有(おつしや)つても、252あんな危険(きけん)の奴(やつ)の所(ところ)へ行(ゆ)かうものなら、253私(わたくし)の首(くび)がなくなります』
254テルンス『首(くび)がなくなつた所(ところ)で別(べつ)に俺(おれ)の損害(そんがい)になるでもなし、255構(かま)はぬぢやないか。256貴様(きさま)等(ら)の小童(こわつぱ)武者(むしや)の一人(ひとり)位(くらゐ)死(し)んでも何(なに)かい。257武士(ぶし)は戦場(せんぢやう)に屍(かばね)を曝(さら)すが名誉(めいよ)だ』
258エム『オイ、259ワク、260貴様(きさま)御(ご)苦労(くらう)だが御用(ごよう)に行(い)つて呉(く)れないか』
261ワク『アイタヽヽ俄(にはか)に腰(こし)が痛(いた)くなつた。262オイ、263エム、264一(ひと)つ撫(な)でてくれ。265息(いき)がつまりさうだ。266アー、267痛(いた)い痛(いた)い痛(いた)い』
268テルンス『アハヽヽヽ、269ナマクラの奴(やつ)ばつかりだな、270卑怯者(ひけふもの)奴(め)が。271何(なん)のために貴様(きさま)の様(やう)な奴(やつ)を飼(か)うてあるのだ。272マサカの時(とき)に生命(いのち)を捨(す)てさす為(ため)に、273高(たか)いパンを食(く)はしておいてあるぢやないか』
274エム『まるで鶏(にはとり)か豚(ぶた)を飼(か)ふ様(やう)に仰有(おつしや)いますな。275そりやあまりです。276チツとは情(なさけ)と云(い)ふ事(こと)を考(かんが)へて下(くだ)さいませ』
277テルンス『馬鹿(ばか)申(まを)せ。278慈悲(じひ)や情(なさけ)に構(かま)つて居(を)つて、279こんな人殺(ひとごろ)し商売(しやうばい)が出来(でき)るか。280残忍(ざんにん)の上(うへ)にも残忍性(ざんにんせい)を発揮(はつき)するために、281毎日(まいにち)日日(ひにち)剣術(けんじゆつ)をやつたり柔術(じうじゆつ)を稽古(けいこ)してるぢやないか』
282エム『それは吾(わが)身(み)を保護(ほご)する為(ため)の稽古(けいこ)ぢやありませぬか』
283テルンス『馬鹿(ばか)申(まを)せ、284吾(わが)身(み)を保護(ほご)する為(ため)なら、285こんなに沢山(たくさん)の軍隊(ぐんたい)がかたまる必要(ひつえう)がないぢやないか。286かく迄(まで)大部隊(だいぶたい)を引率(いんそつ)して将軍(しやうぐん)がお出(い)でたのは敵(てき)を鏖(みなごろ)しにするためだ。287その為(ため)に槍(やり)や剣(けん)を持(も)たしてあるのだ。288槍(やり)や剣(けん)は決(けつ)して猪(しし)や狸(たぬき)を斬(き)るためぢやないぞ。289人斬(ひとき)り庖丁(ばうちやう)と云(い)つて人(ひと)を斬(き)るためだ。290そんな事(こと)が分(わか)らずに武士(ぶし)の本分(ほんぶん)が尽(つく)せるものか』
291エム『それでも、292軍人(ぐんじん)は平和(へいわ)の守(まも)り神(がみ)と云(い)ふぢやありませぬか』
293テルンス『或(ある)時(とき)は平和(へいわ)の守(まも)り神(がみ)となり、294或(ある)時(とき)は天下(てんか)の攪乱者(かくらんしや)となり、295血河(けつか)屍山(しざん)を築(きづ)き、296以(もつ)て敵国(てきこく)を占領(せんりやう)し、297戦利品(せんりひん)を沢山(たくさん)に収納(しうなふ)するのが武士(ぶし)の本領(ほんりやう)だ』
298エム『まるで強盗(がうたう)みた様(やう)なものですな』
299テルンス『貴様(きさま)は余程(よほど)よい頓馬(とんま)だな。300軍隊(ぐんたい)の必要(ひつえう)とならば人家(じんか)も焼(や)かねばならず、301人命(じんめい)もとらねばならず、302米麦(べいばく)、303金銭(きんせん)は申(まを)すに及(およ)ばず、304豚(ぶた)鶏(とり)、305大根(だいこん)蕪(かぶら)、306凡(すべ)て必要品(ひつえうひん)は無断(むだん)徴集(ちようしふ)するのだ。307それでなくては、308何(なん)で軍隊(ぐんたい)の維持(ゐぢ)が保(たも)たれるか』
309エム『おい、310ワク、311テルンスさまの仰有(おつしや)る事(こと)あ、312チツと道理(だうり)に叶(かな)はぬぢやないか。313二(ふた)つ目(め)には、314斬(き)るの、315盗(ぬす)むのと、316そんな武士(ぶし)があるものだらうかな』
317ワク『そら、318さうだな』
319 テルンスは抜(ぬ)く手(て)も見(み)せず雪(ゆき)にひらめく氷(こほり)の刃(やいば)、320忽(たちま)ちエムの首(くび)を薙(な)ぎ落(おと)し、321返(かへ)す刀(かたな)にワクの頭(かうべ)を無残(むざん)にも斬(き)り落(おと)し、322雪(ゆき)の庭(には)は忽(たちま)ち紅(くれなゐ)に化(くわ)した。
323(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 北村隆光録)
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