霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 観音経(くわんのんきやう)〔一二五七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻 篇:第1篇 変現乱痴 よみ(新仮名遣い):へんげんらんち
章:第3章 観音経 よみ(新仮名遣い):かんおんぎょう 通し章番号:1257
口述日:1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月25日
概要: 舞台:浮木の森のバラモン軍の陣営 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ランチ将軍は上機嫌で、三五教の二人の女宣伝使に言い寄られてたいへんなことだった、一方でもてない片彦将軍はすっかり気落ちしてしまったのだ、とのろけている。
蠑螈別が呼び出しの意図を尋ねると、ランチ将軍は、お民を片彦に嫁がせてやってくれないかと言い出した。蠑螈別はこれを聞いて怒りだすが、逆にランチ将軍から酒ばかり飲む役立たずだと引導を渡されてしまう。
蠑螈別は自分の法力でランチ将軍の命を取ってやると言い放ち、次の間に行って大自在天の前に数珠をもみながら端座した。大自在天やウラナイ教の神々を念じ、観音経を唱え始めた。しかしまったく効力を表さないので、観音に向かってブツブツと不平を呟くのみであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-17 10:32:38 文字数:4585 OBC :rm4803
愛善世界社版:37頁 八幡書店版:第8輯 601頁 修補版: 校定版:38頁 普及版:19頁 初版: ページ備考:
001神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
002善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
003三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
004治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)は
005怪(あや)しの森(もり)を通過(つうくわ)して
006浮木(うきき)の森(もり)に屯(たむろ)せる
007ランチ、片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の
008陣営(ぢんえい)を守(まも)る番卒(ばんそつ)に
009其(その)入口(いりぐち)に出会(しゆつくわい)し
010種々(しゆじゆ)様々(さまざま)の問答(もんだふ)を
011なせる折(をり)しも敵軍(てきぐん)の
012企(たく)みの穽(あな)におとされて
013命(いのち)危(あやふ)く見(み)えけるが
014神(かみ)の守(まも)りし神司(かむづかさ)
015危(あやふ)き穽(あな)に落(お)ちながら
016卯(う)の毛(け)の露(つゆ)の怪我(けが)もなく
017治国別(はるくにわけ)と竜公(たつこう)は
018早速(さそく)の頓智(とんち)番卒(ばんそつ)の
019アーク、タールを説(と)き伏(ふ)せて
020危難(きなん)を逃(のが)れ這(は)ひ上(あが)り
021尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)を
022いとも細(こま)かに説(と)きつれば
023もとより神(かみ)の御魂(みたま)をば
024うけたる二人(ふたり)の番卒(ばんそつ)は
025忽(たちま)ち心機(しんき)一転(いつてん)し
026悔悟(くわいご)の花(はな)も咲(さ)き満(み)ちて
027心(こころ)の底(そこ)より帰順(きじゆん)しつ
028治国別(はるくにわけ)を伴(ともな)ひて
029ランチの陣営(ぢんえい)をさして行(ゆ)く
030ランチ、片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)は
031治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)が
032思(おも)はぬここに来(きた)りしを
033眺(なが)めて笑壺(ゑつぼ)に入(い)りながら
034表面(うはべ)を飾(かざ)る柔言葉(やさことば)
035和睦(わぼく)の酒(さけ)と云(い)ひながら
036二人(ふたり)を酔(よ)はせ奥(おく)の間(ま)の
037秘密(ひみつ)の場所(ばしよ)へ誘(いざな)ひて
038燕返(つばめがへ)しの計略(けいりやく)に
039千尋(ちひろ)の深(ふか)き暗窟(あんくつ)へ
040落(おと)し込(こ)みしぞ忌々(ゆゆ)しけれ
041治国別(はるくにわけ)や竜公(たつこう)は
042忽(たちま)ち正気(しやうき)を失(うしな)ひて
043其(その)霊魂(れいこん)は宙(ちう)に飛(と)び
044精霊界(せいれいかい)に踏(ふ)み迷(まよ)ひ
045一人(ひとり)の守衛(しゆゑい)に教(をし)へられ
046狭(せま)き谷道(たにみち)攀(よ)ぢのぼり
047漸(やうや)う此処(ここ)に八衢(やちまた)の
048関所(せきしよ)の前(まへ)にと着(つ)きにけり
049善(ぜん)と悪(あく)との精霊(せいれい)が
050集(あつ)まり来(きた)り八衢(やちまた)の
051審判(さばき)を受(う)くる有様(ありさま)を
052心(こころ)をひそめて眺(なが)めつつ
053現幽(げんいう)二界(にかい)の真諦(しんたい)を
054おぼろげながら感得(かんとく)し
055伊吹戸主(いぶきどぬし)の御館(みやかた)に
056暫(しばら)く息(いき)を休(やす)めつつ
057外面(とのも)の景色(けしき)を眺(なが)め居(ゐ)る
058時(とき)しもあれや中天(ちうてん)を
059照(て)らして来(きた)る大火団(だいくわだん)
060二人(ふたり)が前(まへ)に顛落(てんらく)し
061火花(ひばな)を四方(しはう)に散乱(さんらん)し
062暫(しばら)く雲(くも)に包(つつ)まれて
063四辺(あたり)も見(み)えずなりにけり
064二人(ふたり)は益々(ますます)怪(あや)しみて
065きつと目(め)をすゑ眺(なが)め入(い)る
066忽(たちま)ち一柱(ひとり)の神人(しんじん)が
067容貌(ようばう)衣服(いふく)を輝(かがや)かし
068治国別(はるくにわけ)に打向(うちむか)ひ
069我(われ)は言依別(ことよりわけ)の神(かみ)
070不思議(ふしぎ)な処(ところ)で会(あ)ひました
071皇(すめ)大神(おほかみ)の御言(みこと)もて
072今(いま)は媒介(ばいかい)天人(てんにん)と
073重(おも)き使命(しめい)を任(ま)けられぬ
074いざ之(これ)よりは天国(てんごく)を
075巡覧(じゆんらん)召(め)され吾(われ)は今(いま)
076汝(なれ)が命(みこと)を案内(あない)せむ
077又(また)竜公(たつこう)は証覚(しようかく)の
078まだ開(ひら)けざる身(み)なれども
079特(とく)にお供(とも)を許(ゆる)すべし
080之(これ)を被(かぶ)れと云(い)ひながら
081懐中(くわいちう)探(さぐ)り被面布(ひめんぷ)を
082とり出(だ)し竜公(たつこう)にかけ給(たま)ふ
083此処(ここ)に二人(ふたり)は勇(いさ)み立(た)ち
084最下(さいか)天国(てんごく)の其(その)一部(いちぶ)
085巡覧(じゆんらん)し終(を)へ中間(ちうかん)の
086天国(てんごく)さして昇(のぼ)り行(ゆ)く
087木花姫(このはなひめ)の現(あら)はれて
088種々(いろいろ)雑多(ざつた)と両人(りやうにん)が
089心(こころ)を戒(いまし)め給(たま)ひつつ
090珍彦館(うづひこやかた)に導(みちび)きて
091尊(たふと)き神(かみ)の経綸(けいりん)の
092其(その)大略(たいりやく)を示(しめ)すべく
093此処(ここ)に言霊別(ことたまわけ)の神(かみ)
094治国別(はるくにわけ)の徒弟(とてい)なる
095五三公(いそこう)さまと現(あら)はれて
096又(また)もや尊(たふと)き教訓(けうくん)を
097授(さづ)け給(たま)ひし尊(たふと)さよ
098之(これ)より二人(ふたり)は五三公(いそこう)の
099案内(あない)につれて天国(てんごく)の
100各団体(かくだんたい)を巡歴(じゆんれき)し
101最高一(さいかういち)の天国(てんごく)や
102霊国(れいごく)までも巡拝(じゆんぱい)し
103月(つき)の御神(みかみ)や日(ひ)の御神(みかみ)
104其(その)他(ほか)百(もも)のエンゼルに
105清(きよ)き教(をしへ)を伝(つた)へられ
106智慧(ちゑ)証覚(しようかく)を拝受(はいじゆ)して
107再(ふたた)びもとの肉体(にくたい)に
108かへり来(きた)りてバラモンの
109醜(しこ)の司(つかさ)を悉(ことごと)く
110言向和(ことむけやは)す物語(ものがたり)
111語(かた)るにつけて面白(おもしろ)く
112益々(ますます)深(ふか)く真(しん)に入(い)り
113其(その)妙奥(めうおう)に達(たつ)すべく
114守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
115神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎ奉(まつ)る。
116 蠑螈別(いもりわけ)、117お民(たみ)、118アーク、119タールの四(よ)人(にん)は一(いち)日(にち)の間(あひだ)酔(よひ)をさまし、120何(なに)喰(く)はぬ顔(かほ)してランチ将軍(しやうぐん)の前(まへ)にヌツと顔(かほ)を突(つ)き出(だ)した。121ランチ将軍(しやうぐん)は常(つね)にないニコニコとした笑顔(ゑがほ)を見(み)せ、
122ランチ『ヤア四(よ)人(にん)の御(お)歴々(れきれき)、123御(ご)壮健(さうけん)で御(お)目出度(めでた)う。124何(なに)か御用(ごよう)で厶(ござ)るかな』
125と脱線振(だつせんぶり)を発揮(はつき)してゐる。126察(さつ)するにランチは珍客(ちんきやく)に余程(よほど)同情(どうじやう)ある待遇(たいぐう)をされ、127精神(せいしん)の一部(いちぶ)に狂(くる)ひを生(しやう)じて居(ゐ)たと見(み)える。128蠑螈別(いもりわけ)は亦(また)平素(へいそ)から少(すこ)しく精神(せいしん)上(じやう)に欠陥(けつかん)のある男(をとこ)だが、129今(いま)ランチ将軍(しやうぐん)の顔(かほ)を見(み)てニコニコ笑(わら)ひながら、
130蠑螈別『モシ将軍殿(しやうぐんどの)、131昨夜(さくや)は嘸(さぞ)御(お)疲(つか)れでしただらう。132お察(さつ)し申(まを)します。133何(なん)と云(い)つても世(よ)の中(なか)は異性(いせい)が居(を)らなくては威勢(いせい)の悪(わる)いものですよ。134空(そら)を飛(と)ぶ小雀(こすずめ)だつて、135蝶々(てふてふ)だつて、136蜻蛉(とんぼ)だつて、137蝉(せみ)だつて、138土窠蜂(どかばち)だつて、139矢張(やつぱ)り男女(だんぢよ)同棲(どうせい)して天与(てんよ)の真楽(しんらく)を楽(たの)しんで居(ゐ)るのですからな。140昔(むかし)の世間(せけん)に暗(くら)い軍人(ぐんじん)は、141陣中(ぢんちう)に女(をんな)は一切(いつさい)無用(むよう)だなどと云(い)つて我慢(がまん)をしたものですが、142最早(もはや)今日(こんにち)となつては軍人(ぐんじん)も一種(いつしゆ)の商売(しやうばい)ですから、143女(をんな)がなくちややりきれませぬわい。144ウツフヽヽヽ、145モシ将軍(しやうぐん)さま、146大変(たいへん)な爽快(さうくわい)な面持(おももち)で厶(ござ)りますな』
147ランチ『ハイ、148何(なん)と云(い)つても双方(さうはう)から速射砲(そくしやはう)的(てき)に襲撃(しふげき)を受(う)けたものですから、149耳(みみ)はひツかかれる、150頬(ほほ)は抓(つめ)られる、151腕(うで)は左右(さいう)からぬける程(ほど)引(ひ)つ張(ぱ)られるものだから、152イヤもうきつい迷惑(めいわく)を致(いた)しました。153エツヘヽヽヽ、154其(その)為(た)め全身(ぜんしん)の細胞(さいばう)や繊維(せんゐ)が稍(やや)倦怠(けんたい)気分(きぶん)となり、155各部(かくぶ)に同盟(どうめい)罷工(ひこう)をやつたと見(み)えて、156思(おも)ふ様(やう)に足(あし)が動(うご)かなくなりました』
157蠑螈別『足(あし)ばかりぢやありますまい。158腰部(えうぶ)は如何(いかが)です、159腰部(えうぶ)は天国(てんごく)に於(お)ける夫婦(ふうふ)の愛(あい)と相応(さうおう)する最要部(さいえうぶ)で厶(ござ)りますからな』
160ランチ『成程(なるほど)、161夜前(やぜん)はあまり乱痴気(らんちき)将軍(しやうぐん)をやつたものだから、162少々(せうせう)ばかり今日(けふ)は二日酔(ふつかよ)ひの気味(きみ)で厶(ござ)る。163それに就(つ)いても可憐(かはい)さうなのは片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)だ』
164蠑螈別『あの二人(ふたり)の美人(びじん)は一人(ひとり)づつ貴方(あなた)等(がた)のお相手(あひて)になさつたのぢやありませぬか』
165ランチ『イヤ、166それがさうぢやて、167……困(こま)つた事(こと)には二人(ふたり)ながらランチ ランチと云(い)ひやがつて……エヘヽヽヽヽ此(この)一人(ひとり)の男(をとこ)を双方(さうはう)から襲撃(しふげき)し、168気(き)の毒(どく)千万(せんばん)にも片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)には目(め)もくれないのだ。169そこで此(この)ランチが聊(いささ)か同情(どうじやう)の念(ねん)を以(もつ)て片彦(かたひこ)に靡(なび)かせむと、170種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)と心(こころ)を揉(も)んだでもないし、171揉(も)まぬでもなかつたが、172矢張(やつぱり)恋愛(れんあい)と云(い)ふものは合縁(あひえん)奇縁(きえん)で仕方(しかた)のないものだ。173凡(すべ)て恋愛(れんあい)は一方(いつぱう)に偏重(へんちよう)する性質(せいしつ)のものだから、174大変(たいへん)に都合(つがふ)の悪(わる)い事(こと)もあるが、175然(しか)しそこが男子(だんし)に取(と)つて非常(ひじやう)に妙味(めうみ)のある所(ところ)だ。176イツヒヽヽヽ』
177蠑螈別『さうして片彦(かたひこ)さまは如何(どう)なつたのですか』
178ランチ『ウン、179片彦(かたひこ)は歯(は)ぎしりを噛(か)んで怒(いか)り出(だ)し、180歯(は)をガタガタ云(い)はせ、181ガタガタ慄(ぶる)ひをして到頭(たうとう)ガタ彦(ひこ)となつて了(しま)つた。182何(ど)うも斯(か)うガタピシヤになつては陣中(ぢんちう)の平和(へいわ)が保(たも)たれないので、183聊(いささ)か困(こま)つてるのですよ。184斯(か)うなつて来(く)ると、185此(この)ランチを女(をんな)にチヤホヤされる男(をとこ)らしい男(をとこ)に生(う)んでくれた親(おや)が怨(うら)めしい様(やう)に、186根(ね)つから厶(ござ)らぬわい、187エツヘヽヽヽ。188そこで一(ひと)つ蠑螈別(いもりわけ)殿(どの)に相談(さうだん)がある。189聞(き)いては下(くだ)されますまいかな』
190蠑螈別『其(その)御(ご)相談(さうだん)とは何事(なにごと)で厶(ござ)いますか』
191ランチ『外(ほか)でもござらぬ、192其方(そなた)の最愛(さいあい)のお民(たみ)さまを暫(しばら)く此(この)ランチに自由(じいう)にさして頂(いただ)きたいのだ』
193 お民(たみ)は、
194お民『アレ、195まアー』
196と袖(そで)に顔(かほ)を隠(かく)す。
197蠑螈別『コリヤお民(たみ)、198何(なん)だ其(その)スタイルは……細(ほそ)い目(め)をしやがつて………「アレ、199マア」等(など)とランチ将軍(しやうぐん)に秋波(しうは)を送(おく)つてゐるのか』
200と呶鳴(どな)りつけた。201お民(たみ)は泣声(なきごゑ)になり、
202お民『コレ、203モシ蠑螈別(いもりわけ)さま、204お情(なさけ)ない事(こと)を云(い)つて下(くだ)さいますな。205貴方(あなた)はまだ私(わたし)の心(こころ)が分(わか)らないのですか』
206蠑螈別『ウン、207分(わか)らぬでもない、208が然(しか)しあまり妙(めう)な素振(そぶり)をすると、209俺(おれ)も聊(いささ)か気(き)にならない事(こと)はないからなあ』
210ランチ『実(じつ)は蠑螈別(いもりわけ)さま、211其(その)お民(たみ)さまを貸(か)して頂(いただ)きたいと云(い)ふのは、212片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)に綺麗(きれい)サツパリとやつて貰(もら)ひたいのだ。213それでなければ軍規(ぐんき)の統一(とういつ)が保(たも)たれないので、214此(この)ランチが折入(をりい)つてお願(ねが)ひ申(まを)すのだ』
215蠑螈別『これは怪(け)しからぬ。216何事(なにごと)かと思(おも)へば吾々(われわれ)の女房(にようばう)を片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)に与(あた)へよなどとは以(もつ)ての外(ほか)のお言葉(ことば)で厶(ござ)る。217さう蕪(かぶら)か大根(だいこん)の様(やう)にチヤクチヤクと人(ひと)に与(や)る事(こと)が出来(でき)ますか。218拙者(せつしや)は命(いのち)がけの芸当(げいたう)をやつて、219漸(やうや)くお民(たみ)を此処(ここ)まで連(つ)れ出(だ)した所(ところ)、220左様(さやう)なお言葉(ことば)を聞(き)くとは意外(いぐわい)千万(せんばん)だ。221斯様(かやう)な処(ところ)に長居(ながゐ)は恐(おそ)れだ。222オイ、223お民(たみ)、224一時(いつとき)も早(はや)うここを帰(かへ)らう』
225お民『ハイ、226有難(ありがた)う厶(ござ)んす。227それなら何卒(どうぞ)こんな恐(おそ)ろしい処(ところ)は嫌(いや)になりましたから、228貴方(あなた)の好(す)きな処(ところ)へ連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい。229然(しか)し蠑螈別(いもりわけ)さま、230ここを立(た)ち去(さ)るとなれば忽(たちま)ち困(こま)るのはお金(かね)でせう。231貴方(あなた)がエキスさまの手(て)を通(とほ)してランチさまにお渡(わた)しなさつた五千(ごせん)両(りやう)の金(かね)をスツカリ返(かへ)して貰(もら)つて下(くだ)さい。232それを路銀(ろぎん)にして二人(ふたり)が睦(むつま)じう暮(く)らさうぢやありませぬか』
233蠑螈別『ウン、234然(しか)し男(をとこ)が一旦(いつたん)出(だ)したものを返(かへ)してくれなんて、235そんな卑怯(ひけふ)未練(みれん)な事(こと)が云(い)はれようか』
236お民『エーエ、237お前(まへ)さまはそれだからいつも駄目(だめ)だと云(い)ふのよ。238此(この)先(さき)ここを立(た)ち出(で)て乞食(こじき)でもする積(つも)りで御座(ござ)んすかい』
239蠑螈別『成行(なりゆき)なら仕方(しかた)がないぢやないか。240あの金(かね)だつて俺(おれ)が働(はたら)いて造(つく)つた金(かね)ぢやなし、241お寅婆(とらばば)が信者(しんじや)をチヨロまかして貯(た)めた金(かね)を何々(なになに)して来(き)たのだから、242そんな執着心(しふちやくしん)は持(も)つものぢやない。243サア行(ゆ)かう』
244とお民(たみ)の手(て)をとり引(ひ)き立(た)てようとする。245お民(たみ)は首(くび)を左右(さいう)にふり、246金切(かなき)り声(ごゑ)を出(だ)して、
247お民『イエイエ此(この)陣営(ぢんえい)に置(お)いて貰(もら)ふのならばお金(かね)は必要(ひつえう)はありませぬが、248忽(たちま)ち今日(けふ)から乞食(こじき)をせねばなりませぬ。249なんぼ私(わたし)だつて、250貴方(あなた)と一緒(いつしよ)に乞食(こじき)する位(くらゐ)なら片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)のお妾(めかけ)にでもなりますわ。251ほんに気(き)の利(き)かぬ人(ひと)だな。252エー口惜(くや)しい、253オーン オーン オーン』
254蠑螈別『あゝ、255それなら仕方(しかた)がない。256ランチさま、257何卒(どうぞ)私(わたし)をここに置(お)いて下(くだ)さい。258其(その)代(かは)りにお民(たみ)を片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)に渡(わた)す事(こと)だけはお断(ことわ)りを申(まを)します』
259ランチ『実(じつ)の所(ところ)はウラナイ教(けう)の教主(けうしゆ)蠑螈別(いもりわけ)さまは、260千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の妖術(えうじゆつ)を使(つか)ひ、261神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)でさへも、262ウラナイ教(けう)に一指(いつし)をも染得(そめえ)ざるは蠑螈別(いもりわけ)の教主(けうしゆ)あるためだと聞(き)いて居(を)つた所(ところ)、263此(この)間(あひだ)より様子(やうす)を考(かんが)へて居(を)れば、264見(み)かけ倒(だふ)しの芸(げい)なし猿(ざる)、265女(をんな)に目(め)を細(ほそ)うして朝(あさ)から晩(ばん)まで酒(さけ)を喰(くら)ふばかりが芸当(げいたう)で、266何一(なにひと)つ取柄(とりえ)が厶(ござ)らぬ。267もはや此(この)陣中(ぢんちう)に於(おい)てはお前(まへ)さまの如(ごと)き偽豪傑(にせがうけつ)はチツトも必要(ひつえう)は厶(ござ)らぬ。268然(しか)しながら其方(そなた)の連(つ)れ添(そ)うて厶(ござ)るお民(たみ)は比較(ひかく)的(てき)気(き)の利(き)いた女(をんな)、269加(くは)ふるに十人並(じふにんなみ)優(すぐ)れた美人(びじん)と云(い)ひ、270片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の女房(にようばう)には最(もつと)も適当(てきたう)と認(みと)めるによつて、271お民(たみ)をここに残(のこ)し、272とつとと帰(かへ)つて下(くだ)され』
273蠑螈別『これは怪(け)しからぬ。274一旦(いつたん)貴方(あなた)の幕僚(ばくれう)と任命(にんめい)をされた以上(いじやう)は、275其(その)様(やう)な理由(りいう)によつて立去(たちさ)る事(こと)は出来(でき)ませぬ。276万一(まんいち)たつて立去(たちさ)れと仰有(おつしや)るならば、277之(これ)から拙者(せつしや)の法力(ほふりき)を以(もつ)て此(この)陣営(ぢんえい)をメチヤメチヤに破壊(はくわい)し、278其方(そなた)の生命(いのち)を刃(やいば)を用(もち)ゐずして奪(と)つて見(み)ませう』
279ランチ『アハヽヽヽヽ、280何(なん)とえらい勢(いきほひ)で厶(ござ)るな。281見(み)ると聞(き)くとは大違(おほちが)ひ、282今迄(いままで)ならば其(その)嚇(おど)しは利(き)くだらうが、283もはや今日(こんにち)となつては内兜(うちかぶと)を見透(みすか)した此(この)方(はう)、284そんな嚇(おど)し文句(もんく)は、285いつかな いつかな喰(く)ひませぬぞや。286何(なん)なつと業力(ごふりき)を出(だ)してランチ将軍(しやうぐん)の息(いき)の根(ね)をとめて御覧(ごらん)、287それが出来(でき)れば拙者(せつしや)の役目(やくめ)をお譲(ゆづ)り申(まを)す約束(やくそく)を今(いま)からしてもよろしい。288マサカ其(その)神力(しんりき)は厶(ござ)るまい。289現在(げんざい)お民(たみ)に秋風(あきかぜ)を吹(ふ)かされて居(ゐ)る様(やう)な今(いま)の体裁(ていさい)、290これお民(たみ)殿(どの)、291今(いま)其方(そなた)は蠑螈別(いもりわけ)と乞食(こじき)する位(くらゐ)なら片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)のお妾(めかけ)になると云(い)つたな。292ウツフヽヽ出来(でか)した出来(でか)した天晴(あつぱれ)天晴(あつぱれ)、293女丈夫(ぢよぢやうふ)の亀鑑(きかん)、294貞女(ていぢよ)の鑑(かがみ)、295名(な)を末代(まつだい)に伝(つた)ふであらう』
296と脱線(だつせん)だらけの業託(ごふたく)を吐(は)いてゐる。
297 蠑螈別(いもりわけ)は躍気(やくき)となり、
298蠑螈別『然(しか)らば此(この)方(はう)の法力(ほふりき)によつて此(この)陣中(ぢんちう)をたたき破(やぶ)り、299先(ま)づ第一(だいいち)に気(き)の毒(どく)ながらランチ将軍(しやうぐん)の息(いき)の根(ね)をとめてくれむ。300後(あと)で後悔(こうくわい)召(め)さるな』
301と云(い)ひ放(はな)ち、302次(つぎ)の間(ま)へ行(い)つて大自在天(だいじざいてん)の前(まへ)に数珠(じゆず)をもみながらキチンと端坐(たんざ)し、303先(ま)づバラモン大自在天(だいじざいてん)を念(ねん)じ、304次(つぎ)に惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)を奏上(そうじやう)し、305大広木(おほひろき)正宗(まさむね)殿(どの)、306義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)と称(とな)へ終(をは)り、307ソロソロ得意(とくい)の観音経(くわんのんきやう)を誦(しよう)じ初(はじ)めた。
308蠑螈別『真(しん)観(くわん)清(しやう)浄(じやう)観(くわん)
309広(くわう)大(だい)智(ち)慧(ゑ)観(くわん)
310悲(ひ)観(くわん)及(ぎう)慈(じ)観(くわん)
311常(じやう)願(ぐわん)常(じやう)瞻(せん)仰(ごう)
312無(む)垢(く)清(しやう)浄(じやう)光(くわう)
313慧(ゑ)日(にち)破(は)諸(せう)闇(あん)
314能(のう)伏(ふく)災(さい)風(ふう)火(くわ)
315普(ふ)明(みやう)照(せう)世(せ)間(けん)
316悲(ひ)体(たい)戒(かい)雷(らい)震(しん)
317慈(じ)意(い)妙(めう)大(だい)雲(うん)
318樹(じゆ)甘(かん)露(ろ)法(ほふ)雨(う)
319滅(めつ)除(ぢよ)煩(ぼん)悩(なう)炎(えん)
320諍(ぜう)証(しよう)経(きやう)官(くわん)処(しよ)
321怖(ふ)畏(ゐ)軍(ぐん)陣(ぢん)中(ぢう)
322念(ねん)彼(ぴ)観(くわん)音(のん)力(りき)
323衆(しう)怨(をん)悉(しつ)退(たい)散(さん)
324妙(めう)音(おん)観(くわん)世(ぜ)音(おん)
325梵(ぼん)音(おん)海(かい)潮(てう)音(おん)
326勝(しよう)彼(ひ)世(せ)間(けん)音(おん)
327是(ぜ)故(こ)須(しゆ)常(じやう)念(ねん)
328念(ねん)々(ねん)勿(もつ)生(しやう)疑(ぎ)
329観(くわん)世(ぜ)音(おん)浄(じやう)聖(しやう)
330於(お)苦(く)悩(なう)死(し)厄(やく)
331能(のう)為(ゐ)作(さ)依(え)怙(こ)』
332 かく一生(いつしやう)懸命(けんめい)に汗(あせ)をタラタラ流(なが)しながら観音(くわんのん)を念(ねん)じてゐる。333されど観音(くわんのん)の感応(かんのう)はありさうもなく、334仏(ぶつ)が法(ほふ)とも尻喰(けつくら)へ観音(くわんのん)とも仏(ほとけ)が云(い)はぬので、335蠑螈別(いもりわけ)は業(ごふ)を煮(に)やし、
336蠑螈別『エー、337仏(ほとけ)と云(い)ふ奴(やつ)は、338立派(りつぱ)な能書(のうが)きばかり並(なら)べよつて、339マサカの時(とき)はチツとも間(ま)に合(あ)はぬものぢやな。340もう之(これ)から貴様(きさま)の様(やう)な奴(やつ)は拝(をが)んでやらぬわい。341之(これ)からはこつちから尻喰(けつくら)へ観音(くわんのん)ぢや』
342とブツブツ呟(つぶや)いて居(ゐ)る其(その)可笑(をか)しさ。343猫(ねこ)が折角(せつかく)くはへた松魚節(かつをぶし)を犬(いぬ)にふんだくられた時(とき)の様(やう)な不足(ふそく)さうな面(つら)をして洟(はな)をすすつてゐる。
344(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六[※第1章から第7章の口述日は、版によって相違がある。詳細はオニペディアの「霊界物語第48巻の諸本相違点」を見よ] 北村隆光録)
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