霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 金玉(きんたま)の辻(つじ)〔一二六九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻 篇:第4篇 福音輝陣 よみ(新仮名遣い):ふくいんきじん
章:第15章 金玉の辻 よみ(新仮名遣い):きんたまのつじ 通し章番号:1269
口述日:1923(大正12)年01月14日(旧11月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
治国別と玉依別(竜公)は、八衢を逍遥しながら四つ辻の辻堂の前に差し掛かった。二人はあたりの様子から、娑婆が近くなってきたことを知り、伊吹戸主神様の忠告を思い返しながら雑談にふけっている。
そこへ蠑螈別とエキスの精霊が酔っ払ってやってきた。いずれも肉体に帰ることができる精霊であるので、互いに意思疎通ができた。蠑螈別は、お民がここを通らなかったかと治国別と竜公に尋ねた。
蠑螈別は竜公が知らないと答えると、お民を隠しているに違いないと言いがかりをつけてきた。エキスはもうお民やお寅にかかわるのはこりごりだと辟易している。
蠑螈別が治国別を殴ったので、蠑螈別と竜公は喧嘩になり、蠑螈別の助太刀にはいったエキスも合せて三人とも金玉を握り合って目を回し、その場に倒れてしまった。治国別はあわてて天の数歌を上げ、鎮魂を施した。竜公は息を吹き返し、蠑螈別とエキスは起き上がると、雲を霞と逃げてしまった。
二人の耳には、アークとタールが呼ばわる声が聞こえてきた。にわかにぱっと明るくなったと思うと、治国別と竜公の身は、浮木の森の陣営のランチ将軍の居間に横たわっていた。枕元にはアークとタールが心配そうな顔をして控えていた。
アークとタールは、二人がランチと片彦の計略にかかったことに気が付き、ランチが留守の間に縄梯子を下ろして二人を引き上げ、介抱していた。四人は互いに無事を祝し、大神の前に端座して祝詞を奏上した。
治国別は蠑螈別の身の上が気にかかって探しに行き、雪が人間の形に積もって高くなっているところを発見した。治国別と竜公は、雪の中から倒れていた蠑螈別とエキスを助け出した。
治国別はさらに、ランチ、片彦両将軍をはじめお民の身の上が気にかかると、物見やぐらに向かった。蠑螈別もお民の身の上が心配だと聞いて、治国別たちと一緒に向かった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-30 16:31:29 文字数:5038 OBC :rm4815
愛善世界社版:213頁 八幡書店版:第8輯 668頁 修補版: 校定版:221頁 普及版:112頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)、002玉依別(たまよりわけ)は八衢(やちまた)をブラリブラリと逍遥(せうえう)しながら或(ある)四辻(よつつじ)の辻堂(つじだう)の前(まへ)に差掛(さしかか)つた。
003玉依別『治国別(はるくにわけ)さま、004どうやら玉依別(たまよりわけ)の称号(しやうがう)も断末魔(だんまつま)が近付(ちかづ)いたやうです。005ここは浮木(うきき)の森(もり)の十町(じつちやう)許(ばか)り手前(てまへ)の破(やぶ)れ堂(だう)ぢやありませぬか、006どうも記憶(きおく)に残(のこ)つてゐるやうです』
007治国別『成程(なるほど)、008川(かは)の水音(みづおと)迄(まで)聞(きこ)えて来(き)た。009何(なん)とはなしに娑婆(しやば)近(ちか)くなつた様(やう)だ』
010玉依別『伊吹戸主(いぶきどぬし)の神(かみ)様(さま)にキツウ釘(くぎ)をさされて来(き)ました。011本当(ほんたう)に吾々(われわれ)も何時(いつ)の間(ま)にやら、012鼻(はな)ばかり高(たか)くなつて居(を)つたと見(み)えますな。013柔(やはら)かく厳(きび)しくカツンとやられた時(とき)の恥(はづ)かしさ、014苦(くる)しさ、015今(いま)思(おも)ひ出(だ)しても冷汗(ひやあせ)が出(で)ますワ』
016治国別『余(あま)りお喋(しやべ)りが過(す)ぎたからだ。017三五教(あななひけう)の御(ご)神諭(しんゆ)にも……何(なん)にも知(し)らずに途中(とちう)の鼻高(はなだか)が、018鼻(はな)ばかり高(たか)うして偉(えら)さうに申(まを)して居(を)るが、019余(あま)り鼻(はな)が高(たか)うて上(うへ)も見(み)えず、020鼻(はな)が目(め)の邪魔(じやま)を致(いた)して、021足許(あしもと)は尚(なほ)見(み)えず、022先(さき)も見(み)えず、023気(き)の毒(どく)なものであるぞよ。024神(かみ)が鼻(はな)を捻折(ねぢを)りて改心(かいしん)さした上(うへ)、025誠(まこと)の事(こと)を聞(き)かしてやるぞよ……とお示(しめ)しになつてゐるが、026今(いま)伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)に御(ご)説教(せつけう)を聞(き)かされて、027実(じつ)に御(ご)神諭(しんゆ)の尊(たふと)い事(こと)を、028今更(いまさら)の如(ごと)く悟(さと)つたよ』
029玉依別『ハ、030さうですな。031之(これ)から現界(げんかい)へ帰(かへ)つたら、032科学(くわがく)的(てき)霊学(れいがく)研究(けんきう)などと偉(えら)さうにホラを吹(ふ)いてゐる途中(とちう)の鼻高(はなだか)の鼻(はな)つパチを捻折(ねぢを)つてやらぬ事(こと)には、033到底(たうてい)霊界(れいかい)の片鱗(へんりん)も宇宙(うちう)の真相(しんさう)もヨウ分(わ)けず、034亡者然(まうじやぜん)と威張(ゐば)つて居(ゐ)る始末(しまつ)に了(を)へぬ奴(やつ)を、035鼻(はな)を捻折(ねぢを)つて助(たす)けてやりませうかな』
036治国別『アハヽヽヽ、037自分(じぶん)の顔(かほ)は見(み)えませぬか、038玉依別(たまよりわけ)さま、039お前(まへ)さまの鼻(はな)は随分(ずいぶん)高(たか)うなりましたよ』
040玉依別『ヤア、041知(し)らぬ間(ま)に霊界(れいかい)ぢやと見(み)えて、042想念(さうねん)の延長(えんちやう)を来(きた)し、043鼻(はな)迄(まで)延長(えんちやう)してゐました、044治国別(はるくにわけ)様(さま)に折(を)つて貰(もら)つて、045これで満足(まんぞく)な顔(かほ)になりました。046アヽ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
047治国別『伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)のお諭(さと)しを忘(わす)れちやなりませぬよ』
048玉依別『モシ忘(わす)れたら、049貴方(あなた)気(き)をつけて下(くだ)さいや。050又(また)潜在(せんざい)意識(いしき)とか、051潜在(せんざい)神格(しんかく)となつて、052心内(しんない)深(ふか)く潜伏(せんぷく)致(いた)しました時(とき)にや、053副守(ふくしゆ)が跋扈(ばつこ)して、054又(また)脱線(だつせん)をするかも知(し)れませぬから、055どうぞ其(その)都度(つど)々々(つど)、056御(ご)忠告(ちうこく)を願(ねが)ひます』
057治国別『ハツハヽヽ、058玉依別(たまよりわけ)さま、059私(わたし)も何時(いつ)忘(わす)れるか知(し)れないから、060互(たがひ)に気(き)をつけ合(あ)ふ事(こと)に致(いた)しませう』
061玉依別『貴方(あなた)も私(わたくし)も一時(いつとき)に忘(わす)れて了(しま)つたら何(ど)うなりますか』
062治国別『今(いま)から忘(わす)れる事(こと)ばかり考(かんが)へなくても宜(よろ)しい。063忘(わす)れてよい事(こと)は忘(わす)れ、064忘(わす)れてならない事(こと)は忘(わす)れない様(やう)に努(つと)めるのですな』
065 かく話(はな)す所(ところ)へ、066ヅブ六(ろく)に酔(よ)うてヒヨロリ ヒヨロリとやつて来(き)たのは蠑螈別(いもりわけ)、067エキス両人(りやうにん)の精霊(せいれい)であつた。068肉体(にくたい)のある精霊(せいれい)は、069肉体(にくたい)のなき精霊(せいれい)に言葉(ことば)をかけられる時(とき)は、070直(ただち)に煙(けむり)の如(ごと)く消失(せうしつ)するものだが、071四(よ)人(にん)共(とも)肉体(にくたい)に帰(かへ)り得(う)べき精霊(せいれい)の事(こと)とて、072どちらも元気(げんき)がよい。073蠑螈別(いもりわけ)は辻堂(つじだう)に休(やす)んでゐる二人(ふたり)の前(まへ)に現(あら)はれ来(きた)り、
074蠑螈別『モシ、075何(いづ)れの方(かた)か知(し)りませぬが、076一寸(ちよつと)御(お)尋(たづ)ね申(まを)します、077二十歳(はたち)許(ばか)りの妙齢(めうれい)の美人(びじん)が、078ここを通過(つうくわ)致(いた)しませなんだかな』
079玉依(たまより)『ウン、080ねつから女(をんな)らしい方(かた)には、081牝猫(めんねこ)一匹(いつぴき)会(あ)ひませぬよ』
082蠑螈別『ナヽ何(なん)だ、083会(あ)はぬと申(まを)すか、084大方(おほかた)其(その)方(はう)が誘拐(かどわか)して隠(かく)して居(ゐ)るのだろ。085此(この)街道(かいだう)は男(をとこ)も女(をんな)も通(とほ)る所(ところ)だ。086エヽン、087ゴテゴテぬかさずに白状(はくじやう)せぬか。088なア、089エキス、090お前(まへ)の鑑定(かんてい)は何(ど)う思(おも)ふ』
091エキス『何(なん)だか知(し)らぬが、092女(をんな)はモウ懲々(こりごり)だ、093お民(たみ)の事(こと)を言(い)ふものぢやない。094お民(たみ)の事(こと)を聞(き)くと、095すぐにお寅婆(とらばば)を聯想(れんさう)する。096あんな鬼婆(おにばば)が又(また)もや、097やつて来(き)て鼻(はな)でも捻(ね)ぢよつたら、098今度(こんど)はモウ、099サツパリだ。100言(い)ふな言(い)ふな、101女(をんな)の一疋(いつぴき)やそこら、102何(なん)だい』
103蠑螈別『貴様(きさま)にや情交(じやうかう)上(じやう)の関係(くわんけい)がないから、104そんな平気(へいき)な顔(かほ)して居(を)らりようが、105当(たう)の御(ご)亭主(ていしゆ)たる俺(おれ)には又(また)特別(とくべつ)の悲痛(ひつう)があるのだ。106恋知(こひし)らずの木狂漢(ぼくきやうかん)に英雄(えいゆう)の心事(しんじ)が分(わか)つてたまらうかい、107エヽーン、108大切(たいせつ)なる情婦(じやうふ)を片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の色魔(しきま)にチヨロまかされ、109其(その)上(うへ)色白(いろじろ)の青瓢箪(あをべうたん)男(をとこ)に自由(じいう)にされ、110どうしてこれが黙(だま)つて居(を)らりようか。111お民(たみ)の奴(やつ)、112とうと途中(とちう)で逃(に)げて了(しま)ひよつた。113キツと喋(しめ)し合(あは)せて、114どつかで会(あ)うてけつかるに違(ちがひ)ない、115俺(おれ)はどこまでも彼奴(あいつ)の所在(ありか)を突(つ)き止(と)め、116思(おも)ふ存分(ぞんぶん)やらなくちや虫(むし)がいえねえのだ。117……ヤア貴様(きさま)は治国別(はるくにわけ)ぢやないか。118こんな所(ところ)へお民(たみ)の後(あと)を追(お)うて来(き)よつたのかな。119貴様(きさま)もヤツパリ同穴(どうけつ)の貉(むじな)だらう、120サア所在(ありか)を白状(はくじやう)致(いた)せ』
121と臭(くさ)い息(いき)を吹(ふ)きかけながら、122治国別(はるくにわけ)の手(て)をグツと握(にぎ)り、123目(め)を縦(たて)にして睨(にら)みつけた。124治国別(はるくにわけ)は迷惑(めいわく)さうな顔(かほ)をしながら、
125治国別『蠑螈別(いもりわけ)さま、126見当違(けんたうちがひ)も程(ほど)がありますよ』
127蠑螈別『ナーニ、128見当違(けんたうちがひ)だと、129馬鹿(ばか)を申(まを)せ、130俺(おれ)の天眼通(てんがんつう)で、131貴様(きさま)がお民(たみ)をそそのかして居(ゐ)ることを遠隔(ゑんかく)透視(とうし)したのだ。132そして囁(ささや)いて居(を)つた事(こと)をも天耳通(てんじつう)でチヤンと調(しら)べてある。133サア何処(どこ)へかくした、134白状(はくじやう)致(いた)せ』
135治国別『アハヽヽヽ、136それ程(ほど)よく天眼通(てんがんつう)が利(き)くならば、137お民(たみ)さまの所在(ありか)は一目(ひとめ)で分(わか)りさうなものですなア』
138 蠑螈別(いもりわけ)は言葉(ことば)につまり、139酒(さけ)の酔機嫌(よひきげん)で、140拳(こぶし)を固(かた)めて治国別(はるくにわけ)の横面(よこづら)を続(つづ)けざまに三(み)つ四(よ)つなぐつた。141治国別(はるくにわけ)は頭(あたま)をかかへて抵抗(ていかう)もせず、142『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を奏上(そうじやう)しながら、143しやがんでゐる。144玉依別(たまよりわけ)はグツと癪(しやく)に障(さは)り、145蠑螈別(いもりわけ)の後(うしろ)に廻(まは)り、146睾玉(きんたま)をグツと握(にぎ)つて、147後(うしろ)へ引(ひ)いた。148此(この)体(てい)を見(み)て、149エキスは又(また)もや玉依別(たまよりわけ)の睾丸(きんたま)をグツと握(にぎ)り、150後(うしろ)へ引(ひ)いた途端(とたん)に足(あし)が前(まへ)に辷(すべ)り、151ドンと握(にぎ)つたまま仰向(あふむ)けに倒(たふ)れた。152将棋倒(しやうぎだふ)しにズルズルと玉依別(たまよりわけ)、153蠑螈別(いもりわけ)といふ順(じゆん)に三(み)つ重(がさ)ねとなつた。154エキスは玉依別(たまよりわけ)の大(おほ)きな尻(けつ)に睾丸(きんたま)をグツと押(おさ)へられ、155三(さん)人(にん)共(とも)睾丸(きんたま)を痛(いた)めて、156舌(した)をかみ出(だ)し、157目(め)を眩(まか)して了(しま)ひ、158三人揃(さんにんそろ)うて三(さん)きん交替(かうたい)の睾丸(きんたま)の江戸(えど)登城(とじやう)をやつて了(しま)つた。
159 治国別(はるくにわけ)は驚(おどろ)いて三(さん)人(にん)の手(て)を無理(むり)に放(はな)し、160一人(ひとり)々々(ひとり)地上(ちじやう)に横臥(わうぐわ)させ、161一生(いつしやう)懸命(けんめい)に数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)げ、162鎮魂(ちんこん)を以(もつ)て神霊(しんれい)注射(ちうしや)を試(こころ)みた。163玉依別(たまよりわけ)は第一着(だいいちちやく)に息(いき)を吹返(ふきかへ)し、
164玉依別『アイタヽヽ、165アー偉(えら)い目(め)に遇(あ)はしよつた。166ヤ、167先生(せんせい)、168よう助(たす)けて下(くだ)さいました。169私(わたし)は又(また)第一(だいいち)天国(てんごく)へただ一人(ひとり)上(のぼ)りかけて居(を)りましたら、170貴方(あなた)のお声(こゑ)で天(あま)の数歌(かずうた)が聞(きこ)え出(だ)しましたので、171後(あと)ふり返(かへ)り見(み)れば、172貴方(あなた)の身体(からだ)より霊光(れいくわう)が発射(はつしや)し、173其(その)光(ひかり)に包(つつ)まれたと思(おも)へば気(き)がつきました。174精霊界(せいれいかい)へ来(き)てもヤツパリ目(め)をまかしたり、175霊体(れいたい)脱離(だつり)したりするものと見(み)えますなア』
176治国別『アヽさうと見(み)えるなア、177不思議(ふしぎ)なものだ。178併(しか)し蠑螈別(いもりわけ)さまとエキスさまが、179睾丸(きんたま)を損(そこ)ねてまだ気(き)がつかない。180早(はや)く助(たす)けてやらねばならぬ。181玉依別(たまよりわけ)さま、182一(ひと)つ貴方(あなた)、183神(かみ)様(さま)に願(ねが)つて復活(ふくくわつ)さしてやつて下(くだ)さい』
184玉依別『成程(なるほど)、185揃(そろ)ひも揃(そろ)うて睾丸(かうぐわん)病者(びやうしや)ばかりですな。186一(ひと)つ願(ねが)つて見(み)ませうか。187併(しか)し先生(せんせい)、188此奴(こいつ)ア、189貴方(あなた)の横(よこ)つ面(つら)を擲(なぐ)つた悪人(あくにん)ですから、190放(ほ)つといてやりませうかい』
191治国別『神(かみ)の道(みち)は人(ひと)を救(すく)ふのが勤(つと)めだ。192霊界(れいかい)へ来(き)てそんな心(こころ)では可(い)けませぬぞ。193天国(てんごく)には恨(うらみ)もなければ憎(にく)みもない、194只(ただ)愛(あい)あるのみですよ』
195玉依別『そらさうです、196併(しか)しここは天国(てんごく)ぢやありませぬぞえ。197中有界(ちううかい)ですから、198善(ぜん)も居(を)れば悪(あく)も居(を)ります。199悪人(あくにん)は悪人(あくにん)で懲(こら)してやるが社会(しやくわい)の為(ため)ですよ』
200治国別『ソリヤいけませぬ。201貴方(あなた)は仮令(たとへ)身(み)は中有界(ちううかい)に居(を)るとも、202其(その)内分(ないぶん)には最高(さいかう)天国(てんごく)が開(ひら)けてゐるぢやありませぬか。203其(その)心(こころ)を以(もつ)て御(お)助(たす)けなさい』
204玉依別『伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)が中有界(ちううかい)は中有界(ちううかい)、205現界(げんかい)は現界(げんかい)相応(さうおう)の理(り)を守(まも)れ、206妄(みだ)りに天界(てんかい)の秘密(ひみつ)を、207訳(わけ)の分(わか)らぬ人間(にんげん)に示(しめ)すと、208却(かへつ)て神(かみ)を冒涜(ばうとく)する……と仰有(おつしや)つたぢやありませぬか』
209治国別『ハツハヽヽ、210益々(ますます)分(わか)らぬやうになりますねえ』
211玉依別『さうでせうとも、212すでに竜公(たつこう)に還元(くわんげん)の間際(まぎは)ですからなア。213大(おほい)に愛善(あいぜん)と証覚(しようかく)が衰(おとろ)へました。214否(いな)内分(ないぶん)が塞(ふさ)がりましたやうです』
215 かく言(い)ふ折(をり)しも、216蠑螈別(いもりわけ)、217エキスはムクムクと起上(おきあが)り、218二人(ふたり)の顔(かほ)を睨(にら)みながら、219怖(こは)さうに後向(うしろむ)けに歩(ある)き出(だ)し、220五六間(ごろくけん)の距離(きより)を保(たも)つた時(とき)、221何(なに)を思(おも)うたか、222一生(いつしやう)懸命(けんめい)に雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ出(だ)して了(しま)つた。
223玉依別『ハツハヽヽ、224とうとう吾々(われわれ)の霊光(れいくわう)に打(う)たれ、225雲(くも)を霞(かすみ)と消(き)え失(う)せよつたな、226ヤツパリ吾々(われわれ)はどことはなしに御(ご)神力(しんりき)が備(そな)はつたとみえるワイ、227あゝ愉快(ゆくわい)々々(ゆくわい)』
228治国別『玉依別(たまよりわけ)さま、229先方(むかふ)の方(はう)から何(なん)だか、230人声(ひとごゑ)がするぢやないか』
231 玉依別(たまよりわけ)は耳(みみ)をすませ、
232玉依別『いかにも、233あれはアーク、234タールの声(こゑ)ですよ、235こんな所(ところ)へ彼奴(あいつ)も亦(また)迷(まよ)つて来(き)よつたのですかなア』
236 二人(ふたり)の声(こゑ)は益々(ますます)高(たか)く聞(きこ)えて来(き)た。237俄(にはか)にパツと際立(きはだ)つて明(あか)くなつたと思(おも)へば、238治国別(はるくにわけ)、239竜公(たつこう)の身(み)は浮木(うきき)の森(もり)の陣営(ぢんえい)のランチ将軍(しやうぐん)が居間(ゐま)に横(よこ)たはつてゐた。240さうして枕許(まくらもと)にはアーク、241タールの両人(りやうにん)が心配(しんぱい)さうな顔(かほ)をして坐(すわ)つてゐた。
242治国(はるくに)『あゝ、243アークさま、244タールさま、245此処(ここ)はどこだなア』
246アーク『治国別(はるくにわけ)様(さま)、247確(しつか)りなさいませ。248貴方(あなた)は片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)等(ら)の企(たく)みの罠(わな)に陥(おちい)り、249暗(くら)い井戸(ゐど)の底(そこ)で、250一旦(いつたん)亡(な)くなつてゐられたのですよ。251吾々(われわれ)両人(りやうにん)がランチ将軍(しやうぐん)、252片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の出(で)て行(い)つたのを幸(さいは)ひ、253漸(やうや)く縄梯子(なはばしご)を吊(つ)りおろし、254此処(ここ)までお二人(ふたり)の肉体(にくたい)を持(も)ち運(はこ)び、255いろいろと介抱(かいほう)を致(いた)しましたら、256漸(やうや)くお気(き)がついたのです』
257竜公(たつこう)『ヤア有難(ありがた)い、258何時(いつ)の間(ま)に睾丸握(きんたまにぎり)の喧嘩(けんくわ)から、259こんな所(ところ)へ帰(かへ)つたのだらうな、260アイタ、261ヤツパリ睾丸(きんたま)が痛(いた)いワイ』
262と顔(かほ)をしかめてゐる。
263 さて四(よ)人(にん)は互(たがひ)に無事(ぶじ)を祝(しゆく)し、264大神(おほかみ)の前(まへ)に端坐(たんざ)して、265例(かた)の如(ごと)く祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、266終(をは)つて治国別(はるくにわけ)は、267蠑螈別(いもりわけ)の身(み)の上(うへ)が気(き)に掛(かか)り、268四(よ)人(にん)一度(いちど)に陣内(ぢんない)を隈(くま)なく探(さぐ)り、269漸(やうや)く酒房(さかぐら)の前(まへ)に行(い)つた。270雪(ゆき)は一(いつ)尺(しやく)以上(いじやう)も降(ふ)り積(つ)もり、271二人(ふたり)の寝(ね)てゐる所(ところ)は際立(きはだ)つて高(たか)くなつてゐる。272アーク、273タールの両人(りやうにん)は態(わざ)とに治国別(はるくにわけ)に知(し)らさなかつた。274治国別(はるくにわけ)はこの場(ば)に現(あら)はれ、275人間(にんげん)の形(かたち)に雪(ゆき)が高(たか)くなつてゐるのを見(み)て、
276治国別『アークさま、277あの雪(ゆき)はチツと変(へん)ぢやありませぬか、278丁度(ちやうど)人間(にんげん)が寝(ね)てゐるやうに高(たか)く積(つも)つてゐるでせう』
279アーク『彼奴(あいつ)あ、280ユキ倒(だふ)れかも知(し)れませぬよ』
281竜公(たつこう)『こんな所(ところ)に行(ゆ)き倒(だふ)れがあつてたまるかい。282行(ゆ)き倒(だふ)れといふ奴(やつ)ア、283道端(みちばた)で乞食(こじき)が野倒死(のたれじに)したのを言(い)ふのだ』
284アーク『それでも、285あこに蠑螈別(いもりわけ)が倒(たふ)れて其(その)上(うへ)へ雪(ゆき)が積(つ)もつたら、286ヤツパリユキ倒(だふ)れだ……ウソと思(おも)ふなら、287お前(まへ)行(い)つて調(しら)べて来(こ)い。288彼奴(あいつ)アな、289食(く)ひしん坊(ばう)だから、290酒盗(さけぬす)みに行(ゆ)きよつて、291酒房(さかぐら)の外(そと)で酔(よ)ひつぶれてるのかも知(し)れないよ』
292竜公(たつこう)『今(いま)幽界(いうかい)で蠑螈別(いもりわけ)、293エキスの両人(りやうにん)に面会(めんくわい)し、294睾丸(きんたま)の掴(つか)み合(あ)ひをして来(き)た所(ところ)だ。295大方(おほかた)それから考(かんが)へると、296最早(もはや)肉体(にくたい)は冷(つめ)たくなつて、297現界(げんかい)の人(ひと)ではないかも知(し)れないよ』
298タール『ナニ、299俺(おれ)達(たち)と今(いま)一緒(いつしよ)に倒(たふ)れた所(ところ)だ、300彼奴(あいつ)ア酒(さけ)の量(りやう)が多(おほ)いのでよく寝(ね)てるのだ。301俄(にはか)にブチヤケるやうな雪(ゆき)が降(ふ)つて、302瞬間(またたくま)に一(いつ)尺(しやく)も積(つも)つたのだ。303本当(ほんたう)に不思議(ふしぎ)な雪(ゆき)だつたよ。304何(なに)はともあれ、305竜公(たつこう)さま、306お前(まへ)は冥土(めいど)の知己(ちき)だから、307一(ひと)つ気(き)をつけてやり給(たま)へ。308亡者(まうじや)卒業生(そつげふせい)だからなア、309亡者(まうじや)が亡者(まうじや)に対(たい)するのは、310身魂(みたま)相応(さうおう)の理(り)によるものだからなア、311アツハツハヽヽ』
312 竜公(たつこう)は足(あし)で雪(ゆき)を掻(か)き分(わ)けて見(み)ると、313蠑螈別(いもりわけ)はムクムクと起上(おきあが)り、314雪(ゆき)の中(なか)に胡坐(あぐら)をかき目(め)をつぶつてゐる。315エキスも亦(また)竜公(たつこう)に足(あし)で雪(ゆき)を取除(とりのぞ)かれ、316頭(あたま)を蹴(け)られた途端(とたん)に気(き)がつき、317目(め)を塞(ふさ)いだまま、318雪(ゆき)の中(なか)に坐(すわ)つて、319口(くち)をムシヤ ムシヤ動(うご)かしてゐる。320蠑螈別(いもりわけ)は夢中(むちう)になつて奴拍子(どびやうし)の抜(ぬ)けた声(こゑ)で、
321蠑螈別『片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)、322お民(たみ)を返(かへ)せ、323コラ色白(いろじろ)の小童(こわつぱ)、324俺(おれ)の女(をんな)を何(ど)うしよつた。325早(はや)く此(この)場(ば)へ出(だ)さぬか、326……ヤお寅(とら)が来(き)よつたな、327痛(いた)いわい痛(いた)いわい……睾丸(きんたま)を引張(ひつぱ)りよつて、328イヽ痛(いた)い、329息(いき)が切(き)れる、330エキス、331コラ、332竜公(たつこう)の睾丸(きんたま)を引張(ひつぱ)つてくれ!』
333などと千切(ちぎ)れ千切(ちぎ)れに喋(しやべ)り立(た)ててゐる。334エキスはエキスで又(また)拍子抜(へうしぬ)けのした声(こゑ)で、
335エキス『アヽヽア、336痛(いた)い痛(いた)い痛(いた)い、337睾丸(きんたま)がツヽ潰(つぶ)れる潰(つぶ)れる』
338と喚(わめ)いてゐる。339アークは首(くび)を傾(かたむ)けながら、
340アーク『何(なん)とマア不思議(ふしぎ)な事(こと)があるものだな。341竜公(たつこう)さまが気(き)がつくが早(はや)いか、342睾丸(きんたま)が痛(いた)いといふかと思(おも)へば、343蠑螈別(いもりわけ)が又(また)睾丸(きんたま)々々(きんたま)といひ出(だ)す、344エキスの奴(やつ)までお附合(つきあひ)に睾丸(きんたま)々々(きんたま)とほざいてゐよる。345此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い。346エヘヽヽヽ、347コラ睾丸(きんたま)の大将(たいしやう)、348早(はや)う起(お)きぬかい、349確(しつか)りせい』
350と蠑螈別(いもりわけ)の鼻(はな)を力(ちから)に任(まか)して捻(ね)ぢた。
351蠑螈別『イヽヽヽ痛(いた)い痛(いた)い、352又(また)してもお寅(とら)の奴(やつ)、353俺(おれ)の鼻(はな)を摘(つま)みやがつて……許(ゆる)せ許(ゆる)せ』
354アーク『ハツハヽヽ、355オイ、356蠑螈別(いもりわけ)、357俺(おれ)だ俺(おれ)だ、358目(め)をあけぬかい。359どこだと思(おも)つてゐるのだ』
360蠑螈別『何処(どこ)でもないワイ、361辻堂(つじだう)の前(まへ)だ。362早(はや)く俺(おれ)を浮木(うきき)の陣営(ぢんえい)へ連(つ)れて行(い)つてくれ』
363アーク『ここが浮木(うきき)の森(もり)の陣営(ぢんえい)だ、364余(あま)り酒(さけ)を喰(くら)ふものだから、365目(め)を眩(まか)しよつたのだろ』
366と頬(ほほ)を平手(ひらて)でピシヤピシヤと擲(なぐ)る。367蠑螈別(いもりわけ)はハツと気(き)が付(つ)き四辺(あたり)を見(み)れば、368エキスが側(そば)に真白気(まつしろけ)になつて坐(すわ)つてゐる。369そして治国別(はるくにわけ)、370竜公(たつこう)の其処(そこ)に立(た)つてゐるのを見(み)て、371不思議(ふしぎ)さうに手(て)を組(く)み、
372蠑螈別『ハテ ハテ』
373と云(い)ひながら、374穴(あな)のあく程(ほど)二人(ふたり)の顔(かほ)を覗(のぞ)き込(こ)んだ。
375治国(はるくに)『蠑螈別(いもりわけ)さま、376エキスさま、377此処(ここ)は浮木(うきき)の森(もり)の陣営(ぢんえい)ですよ。378私(わたし)も暫(しばら)く魂(たましひ)が肉体(にくたい)を放(はな)れ、379八衢(やちまた)旅行(りよかう)をやつて来(き)ました。380お前(まへ)さまも八衢(やちまた)で会(あ)ひましたね。381併(しか)しモウ現界(げんかい)へ帰(かへ)つたのですから、382安心(あんしん)なさいませ。383それよりもランチ将軍(しやうぐん)、384片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)初(はじ)めお民(たみ)さまの身(み)の上(うへ)が、385どうも気(き)にかかります。386物見櫓(ものみやぐら)の方(はう)に何(なに)か変事(へんじ)が突発(とつぱつ)してゐるかも知(し)れませぬ。387サア参(まゐ)りませう』
388 蠑螈別(いもりわけ)はお民(たみ)の危急(ききふ)と聞(き)いて、389酔(よひ)も醒(さ)め、390本気(ほんき)に立帰(たちかへ)り、391陣営(ぢんえい)の駒(こま)に打(う)ち乗(の)り、392治国別(はるくにわけ)、393竜公(たつこう)他(ほか)四(よ)人(にん)は馬首(ばしゆ)を揃(そろ)へてカツカツカツと蹄(ひづめ)の音(おと)も勇(いさ)ましく、394物見櫓(ものみやぐら)を指(さ)して雪(ゆき)に馬足(ばそく)を印(いん)しながら走(はし)り行(ゆ)く。
395(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 松村真澄録)
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