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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第48巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 変現乱痴
第1章 聖言
第2章 武乱泥
第3章 観音経
第4章 雪雑寝
第5章 鞘当
第6章 狂転
第2篇 幽冥摸索
第7章 六道の辻
第8章 亡者苦雑
第9章 罪人橋
第3篇 愛善信真
第10章 天国の富
第11章 霊陽山
第12章 西王母
第13章 月照山
第14章 至愛
第4篇 福音輝陣
第15章 金玉の辻
第16章 途上の変
第17章 甦生
第18章 冥歌
第19章 兵舎の囁
第20章 心の鬼
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第48巻(亥の巻)
> 第1篇 変現乱痴 > 第5章 鞘当
<<< 雪雑寝
(B)
(N)
狂転 >>>
第五章
鞘当
(
さやあて
)
〔一二五九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
篇:
第1篇 変現乱痴
よみ(新仮名遣い):
へんげんらんち
章:
第5章 鞘当
よみ(新仮名遣い):
さやあて
通し章番号:
1259
口述日:
1923(大正12)年01月12日(旧11月26日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年10月25日
概要:
舞台:
浮木の森のバラモン軍の陣営
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ランチ将軍が奥の居間に帰ってみると、清照姫と初稚姫は片彦将軍を囲んで笑い語らっている。ランチ将軍は嫉妬を抑えて、将軍が女にうつつを抜かすとは何事かと自分を棚に上げてたしなめた。
しかしランチ将軍があらわれると、二人の女はどうしたことか急に片彦に冷たくなり、ランチ将軍にまとわりつきだした。片彦が何を言っても二人の女は邪険に答え、得意になったランチ将軍は、片彦に退室を命じた。
ランチ将軍は二人の女をはべらせて雪見の宴を開こうと駕籠を呼んだ。アーク、タール、エキスらも呼ぼうとしたが、彼らは泥酔して雪に埋もれたため発見できなかった。そこで二人の副官(ガリヤ、ケース)と二人の美人だけ伴って雪をかきわけ、物見やぐらに到着した。
片彦はお民をくどこうとしていたが、ランチ将軍が三五教の二人の美人を連れて物見やぐらに雪見の宴を張っていると聞くと、お民を伴って物見やぐらに進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-05-18 09:10:54
OBC :
rm4805
愛善世界社版:
63頁
八幡書店版:
第8輯 610頁
修補版:
校定版:
65頁
普及版:
32頁
初版:
ページ備考:
001
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
は
慌
(
あわただ
)
しく
奥
(
おく
)
の
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
ると、
002
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
003
初稚姫
(
はつわかひめ
)
及
(
およ
)
び
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
がニコニコとして、
004
火鉢
(
ひばち
)
を
真中
(
まんなか
)
に
三
(
み
)
つ
巴形
(
どもゑがた
)
となつて
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
を
洩
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
005
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
てやけて
耐
(
たま
)
らず、
006
忽
(
たちま
)
ち
一刀
(
いつたう
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き、
007
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
をめがけて
梨割
(
なしわり
)
にする
所
(
ところ
)
だが、
008
遉
(
さすが
)
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
にはしたない
男
(
をとこ
)
と
思
(
おも
)
はれてはとの
考
(
かんが
)
へから、
009
腹立
(
はらだち
)
をグツと
圧
(
おさ
)
へ、
010
態
(
わざ
)
と
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つた。
011
されど
其
(
その
)
唇
(
くちびる
)
と
云
(
い
)
ひ
手
(
て
)
と
云
(
い
)
ひ
足
(
あし
)
の
先
(
さき
)
迄
(
まで
)
激
(
はげ
)
しき
震動
(
しんどう
)
を
感
(
かん
)
じて
居
(
ゐ
)
た。
012
怒
(
いか
)
りの
頂上
(
ちやうじやう
)
に
達
(
たつ
)
した
時
(
とき
)
は
全身
(
ぜんしん
)
が
激
(
はげ
)
しく
動
(
うご
)
くものである。
013
片彦
(
かたひこ
)
はランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
りしを
見
(
み
)
て、
014
眥
(
まなじり
)
を
下
(
さ
)
げ、
015
片彦
『ヤア
是
(
これ
)
は
是
(
これ
)
は
将軍殿
(
しやうぐんどの
)
、
016
何処
(
どこ
)
におはせられた。
017
いやもう
二人
(
ふたり
)
のナイスに
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれ、
018
甘酒
(
うまざけ
)
にもりつぶされ、
019
いかい
酩酊
(
めいてい
)
を
致
(
いた
)
して
厶
(
ござ
)
る、
020
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
の
段
(
だん
)
は
平
(
ひら
)
にお
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
021
ランチ
『
別
(
べつ
)
に
尖
(
とが
)
めも
致
(
いた
)
さぬが、
022
苟
(
いやし
)
くも
将軍
(
しやうぐん
)
の
身
(
み
)
をもつて、
023
即
(
すなは
)
ち
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
する
尊
(
たふと
)
き
職権
(
しよくけん
)
を
有
(
いう
)
しながら、
024
作法
(
さはふ
)
を
弁
(
わきま
)
へず、
025
拙者
(
せつしや
)
の
不在中
(
ふざいちゆう
)
に
女
(
をんな
)
に
現
(
うつつ
)
をぬかし、
026
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
で
厶
(
ござ
)
る。
027
些
(
ち
)
とおたしなみなさい』
028
片彦
『ヤアお
説
(
せつ
)
一応
(
いちおう
)
御尤
(
ごもつと
)
も、
029
拙者
(
せつしや
)
も
部下
(
ぶか
)
に
対
(
たい
)
して
模範
(
もはん
)
を
示
(
しめ
)
さねばならない
重要
(
ぢうえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
てるもの、
030
女
(
をんな
)
なんかに
心
(
こころ
)
を
蕩
(
とろ
)
かすやうな
柔弱
(
にうじやく
)
なものでは
厶
(
ござ
)
らぬ。
031
併
(
しか
)
し
此
(
これ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
、
032
某
(
それがし
)
に
熱烈
(
ねつれつ
)
なる
恋愛
(
れんあい
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
申
(
まを
)
すにより、
033
無下
(
むげ
)
に
捨
(
す
)
つるも
男
(
をとこ
)
の
情
(
なさけ
)
ならじと、
034
迷惑
(
めいわく
)
ながら
女
(
をんな
)
に
導
(
みちび
)
かれ
此処
(
ここ
)
に
参
(
まゐ
)
つた
処
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
035
イヤ
如何
(
いか
)
に
固造
(
かたざう
)
の
かた
彦
(
ひこ
)
も、
036
女
(
をんな
)
の
魔力
(
まりよく
)
には
敵
(
てき
)
し
得
(
え
)
ず、
037
骨
(
ほね
)
も
節
(
ふし
)
もゆるみ、
038
さつぱりガタ
彦
(
ひこ
)
となつて
了
(
しま
)
ひました。
039
先程
(
さきほど
)
迄
(
まで
)
は
此
(
この
)
ナイス、
040
貴方
(
あなた
)
に
熱烈
(
ねつれつ
)
なる
愛
(
あい
)
を
捧
(
ささ
)
げて
居
(
ゐ
)
たやうですが、
041
もはや
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
042
屋外
(
をくぐわい
)
に
冷
(
つめ
)
たき
雪
(
ゆき
)
が
降
(
ふ
)
つて
居
(
を
)
りますれば、
043
貴下
(
きか
)
に
対
(
たい
)
する
両人
(
りやうにん
)
の
恋情
(
れんじやう
)
も
冷
(
ひや
)
やかになつたと
見
(
み
)
えますわい。
044
どうかして
此
(
この
)
中
(
うち
)
の
一人
(
ひとり
)
を
貴方
(
あなた
)
の
御用
(
ごよう
)
をさせたいと
思
(
おも
)
ひますが、
045
どうしたものか、
046
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
047
ランチキ
将軍
(
しやうぐん
)
のお
世話
(
せわ
)
にならうとも
又
(
また
)
お
世話
(
せわ
)
をしようとも
申
(
まを
)
しませぬ、
048
イヤもう
此
(
この
)
片彦
(
かたひこ
)
も
かた
がたもつて
迷惑
(
めいわく
)
でも
何
(
なん
)
でも
厶
(
ござ
)
らぬ。
049
アハヽヽヽ』
050
清照
(
きよてる
)
『モシ、
051
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
052
どこへ
往
(
い
)
つてゐやしたの、
053
妾
(
あたい
)
、
054
どんなに
探
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
たか
知
(
し
)
れませぬよ』
055
ランチは
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
生返
(
いきかへ
)
つたやうな
心持
(
こころもち
)
になり、
056
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
まで
勇
(
いさ
)
ましく、
057
頓
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
づき、
058
ランチ
『ヤア
清照姫
(
きよてるひめ
)
殿
(
どの
)
、
059
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませなんだ、
060
実
(
じつ
)
は
軍務
(
ぐんむ
)
上
(
じやう
)
の
件
(
けん
)
につき
調査
(
てうさ
)
すべき
事
(
こと
)
があり、
061
暫
(
しばら
)
く
席
(
せき
)
を
外
(
はづ
)
して
居
(
を
)
りました』
062
清照姫
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
063
そりや
嘘
(
うそ
)
でせう。
064
妾
(
あたい
)
がイヤになつたものだから、
065
何処
(
どこ
)
かへ
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
やしやつたのでせう、
066
妾
(
あたい
)
残念
(
ざんねん
)
ですわ、
067
アンアンアン、
068
オンオンオン』
069
ランチ
『エヘヽヽヽ、
070
オイ
片彦
(
かたひこ
)
殿
(
どの
)
、
071
如何
(
どう
)
で
厶
(
ござ
)
る、
072
可愛
(
かあい
)
いもので
厶
(
ござ
)
らうがな』
073
片彦
『コレコレ
清照姫
(
きよてるひめ
)
殿
(
どの
)
、
074
貴女
(
あなた
)
は
又
(
また
)
変心
(
へんしん
)
をしましたか』
075
清照姫
『ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
さまが、
076
あの
大
(
おほ
)
きな
目
(
め
)
をむいて
私
(
わたし
)
に
電波
(
でんぱ
)
、
077
イヤ
電信
(
でんしん
)
を
送
(
おく
)
つて
下
(
くだ
)
さつたから、
078
どうしても
返信
(
へんしん
)
(
変心
(
へんしん
)
)をすべき
義務
(
ぎむ
)
があるぢやありませぬか、
079
ホヽヽヽヽ』
080
片彦
『アヽどうも
仕方
(
しかた
)
がない。
081
どうせ
片彦
(
かたひこ
)
が
二人
(
ふたり
)
の
美女
(
びぢよ
)
を
左右
(
さいう
)
に
侍
(
はべ
)
らせ、
082
ナイスを
一人
(
ひとり
)
で
独占
(
どくせん
)
して
居
(
ゐ
)
ても
仕方
(
しかた
)
がない。
083
清照姫
(
きよてるひめ
)
が
変心
(
へんしん
)
したのも
天
(
てん
)
の
配剤
(
はいざい
)
だらう、
084
イヤ
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
085
拙者
(
せつしや
)
は
寛大
(
くわんだい
)
なる
勇猛心
(
ゆうまうしん
)
を
発揮
(
はつき
)
して、
086
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
にお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
す。
087
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
片彦
(
かたひこ
)
の
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
り、
088
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
に
貞節
(
ていせつ
)
を
尽
(
つく
)
したがよからう』
089
清照姫
『オホヽヽヽ、
090
あの
片彦
(
かたひこ
)
さまの
虫
(
むし
)
のよい
事
(
こと
)
、
091
自惚
(
うぬぼれ
)
もよい
加減
(
かげん
)
にして
置
(
お
)
かんせいなア。
092
思
(
おも
)
ひもかけぬものに
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
れとは、
093
マア
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
自惚者
(
うぬぼれもの
)
だらう。
094
好
(
す
)
かぬたらしい。
095
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
096
ほんとに
自惚
(
うぬぼれ
)
の
強
(
つよ
)
いものだよ』
097
片彦
『ランチ
殿
(
どの
)
、
098
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
らうのう、
099
エーン、
100
エーン、
101
拙者
(
せつしや
)
は
大
(
おほい
)
に
譲歩
(
じやうほ
)
致
(
いた
)
して、
102
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
い
初稚姫
(
はつわかひめ
)
で
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
す、
103
どうか
拙者
(
せつしや
)
の
雅量
(
がりやう
)
を
認
(
みと
)
めて
下
(
くだ
)
さい』
104
ランチ
『
何
(
なん
)
なりと
勝手
(
かつて
)
に
仰有
(
おつしや
)
い、
105
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
拙者
(
せつしや
)
の
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
るぞ。
106
ヘン
馬鹿
(
ばか
)
々々
(
ばか
)
しい、
107
拙者
(
せつしや
)
が
黙言
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
るかと
思
(
おも
)
つてよい
気
(
き
)
になり、
108
図々
(
づづ
)
しいにも
程
(
ほど
)
がある』
109
片彦
『
仰
(
おほ
)
せられなランチ
殿
(
どの
)
、
110
拙者
(
せつしや
)
が
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
したのでもない、
111
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
から
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
り、
112
女
(
をんな
)
に
頼
(
たの
)
まれて
約束
(
やくそく
)
致
(
いた
)
せし
迄
(
まで
)
の
事
(
こと
)
、
113
其
(
その
)
女
(
をんな
)
を
拙者
(
せつしや
)
が
貴下
(
あなた
)
にお
任
(
まか
)
せしようと
云
(
い
)
ふのだから、
114
吾々
(
われわれ
)
は
感謝
(
かんしや
)
をこそ
受
(
う
)
くべけれ、
115
そのやうな、
116
榎
(
えのき
)
で
鼻
(
はな
)
をこすつたやうな
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
は
承
(
うけたま
)
はりたくない、
117
コレ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
殿
(
どの
)
、
118
こんな
分
(
わか
)
らない
将軍
(
しやうぐん
)
の
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
らうよりも、
119
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
に
参
(
まゐ
)
りませう、
120
貴女
(
あなた
)
は
永久
(
えいきう
)
に
愛
(
あい
)
します』
121
初稚姫
『エヽすかぬたらしい、
122
私
(
わたし
)
がいつ
貴方
(
あなた
)
を
好
(
す
)
きました。
123
私
(
わたし
)
は
姉
(
ねえ
)
さまが
好
(
す
)
きな
人
(
ひと
)
が
好
(
す
)
きなのです、
124
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
125
片彦
『
何
(
なん
)
だか
外
(
そと
)
の
陽気
(
やうき
)
が
変
(
かは
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
126
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
の
鼻息
(
はないき
)
までが
変
(
かは
)
つて
来
(
き
)
たわい、
127
ハヽ、
128
ウン、
129
分
(
わか
)
つた、
130
恥
(
はづ
)
かしいのだな、
131
人前
(
ひとまへ
)
を
作
(
つく
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだな。
132
ウンウンヨシヨシ
可愛
(
かあい
)
いものだな』
133
と
口
(
くち
)
の
奥
(
おく
)
で
呟
(
つぶや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
134
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
鋭敏
(
えいびん
)
な
耳
(
みみ
)
に
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
き
知
(
し
)
り、
135
初稚姫
『モシ、
136
片彦
(
かたひこ
)
さま、
137
「
可愛
(
かあい
)
いものだ」などと
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さいますな、
138
妾
(
あて
)
、
139
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
くなりました』
140
ランチ
『アハヽヽヽ、
141
片彦
(
かたひこ
)
殿
(
どの
)
、
142
如何
(
どう
)
で
厶
(
ござ
)
る、
143
色
(
いろ
)
は
年増
(
としま
)
が
艮刺
(
とどめさ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
御存
(
ごぞん
)
じかな。
144
アハヽヽヽ』
145
片彦
『チヨツ、
146
エーエイ』
147
ランチ
『
片彦
(
かたひこ
)
殿
(
どの
)
、
148
チヨツ、
149
エーエイとは
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか、
150
上官
(
じやうくわん
)
の
命令
(
めいれい
)
だ、
151
この
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
めされ』
152
片彦
(
かたひこ
)
は
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
、
153
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
154
片彦
『ヘーエ』
155
と
嫌
(
いや
)
さうな
返事
(
へんじ
)
をしながら
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
し、
156
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
157
襖
(
ふすま
)
の
外
(
そと
)
から
上下
(
うへした
)
の
歯
(
は
)
を
喰
(
く
)
ひ
締
(
し
)
めたまま
唇
(
くちびる
)
をパツと
開
(
ひら
)
き、
158
片彦
『イーン』
159
と
云
(
い
)
ひながら、
160
拳骨
(
げんこつ
)
で
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つ
空
(
くう
)
を
打
(
う
)
ち、
161
片彦
『チヨツ、
162
上官
(
じやうくわん
)
の
命令
(
めいれい
)
だなんて、
163
チヨツ、
164
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
る、
165
併
(
しか
)
し
仕方
(
しかた
)
がない、
166
俺
(
おれ
)
も
上燗
(
じやうかん
)
で
一杯
(
いつぱい
)
やる
事
(
こと
)
にしよう、
167
お
民
(
たみ
)
でも
相手
(
あひて
)
にして』
168
と
云
(
い
)
ひながら、
169
すごすごと
帰
(
かへ
)
り
往
(
ゆ
)
く。
170
ランチは
片彦
(
かたひこ
)
を
室外
(
しつぐわい
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
171
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
の
中央
(
まんなか
)
に
色男
(
いろをとこ
)
気取
(
きど
)
りで
胡床
(
あぐら
)
をかき、
172
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くしながら、
173
ランチ
『これは
清照姫
(
きよてるひめ
)
殿
(
どの
)
、
174
其方
(
そなた
)
は
此
(
この
)
ランチの
眼
(
め
)
をよけて、
175
いつの
間
(
ま
)
にか
片彦
(
かたひこ
)
と
以心
(
いしん
)
伝心
(
でんしん
)
とやらをやつて
居
(
ゐ
)
たのぢやないか』
176
清照姫
『ハイ
別
(
べつ
)
に
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
はありませぬ。
177
併
(
しか
)
しながら
貴方
(
あなた
)
も
好
(
す
)
きですが、
178
片彦
(
かたひこ
)
さまの
抱持
(
はうぢ
)
さるる
思想
(
しさう
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りましたから、
179
それで
私
(
わたし
)
は
片彦
(
かたひこ
)
さまは
何
(
ど
)
うでも
宜敷
(
よろし
)
いが、
180
新
(
あたら
)
しい
思想
(
しさう
)
だと
思
(
おも
)
つて、
181
其
(
その
)
思想
(
しさう
)
に
惚
(
ほ
)
れ
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
ます。
182
貴方
(
あなた
)
が、
183
私
(
わたし
)
の
思想
(
しさう
)
と
同
(
おな
)
じ
思想
(
しさう
)
をもつて
下
(
くだ
)
さらば、
184
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
はありませぬ。
185
実
(
じつ
)
は
貴方
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
しては
肉体美
(
にくたいび
)
を
愛
(
あい
)
し、
186
片彦
(
かたひこ
)
さまに
対
(
たい
)
しては
其
(
その
)
思想
(
しさう
)
を
愛
(
あい
)
して
居
(
ゐ
)
るのですよ』
187
ランチ
『
片彦
(
かたひこ
)
の
新思想
(
しんしさう
)
とはどんな
思想
(
しさう
)
だ、
188
俺
(
おれ
)
だつて
思想
(
しさう
)
については、
189
先繰
(
せんぐ
)
り
新
(
あたら
)
しい
書物
(
しよもつ
)
をあさつて
居
(
ゐ
)
るから、
190
片彦
(
かたひこ
)
には
負
(
ま
)
けない
積
(
つも
)
りだ、
191
一体
(
いつたい
)
どんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
るのだな』
192
清照姫
『ハイ、
193
片彦
(
かたひこ
)
さまの
思想
(
しさう
)
はどうかと
存
(
ぞん
)
じまして
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
ました
所
(
ところ
)
、
194
本当
(
ほんたう
)
に
惚
(
ほ
)
れ
惚
(
ぼ
)
れするやうな
思想
(
しさう
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
195
かいつまんで
申
(
まを
)
せば、
196
軍備
(
ぐんび
)
不必要
(
ふひつえう
)
論者
(
ろんじや
)
です、
197
武備
(
ぶび
)
撤廃
(
てつぱい
)
論者
(
ろんじや
)
ですよ、
198
そして
平和
(
へいわ
)
な
耽美
(
たんび
)
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
りたいと
云
(
い
)
ふ、
199
ほんとに
新
(
あたら
)
しい
思想
(
しさう
)
ですよ』
200
ランチ
『
片彦
(
かたひこ
)
身
(
み
)
軍籍
(
ぐんせき
)
にありながら
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
したかな、
201
それは
中々
(
なかなか
)
もつて
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
……ぢやない、
202
吾
(
わが
)
意
(
い
)
を
得
(
え
)
たる、
203
マヽヽヽ
思想
(
しさう
)
だ。
204
ウン、
205
さうして
武術
(
ぶじゆつ
)
の
事
(
こと
)
については、
206
何
(
ど
)
う
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
たな』
207
清照姫
『
武術家
(
ぶじゆつか
)
は
臆病者
(
おくびやうもの
)
だと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
られました。
208
臆病者
(
おくびやうもの
)
なるが
故
(
ゆゑ
)
に
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
恐
(
おそ
)
ろしくなり、
209
疑心
(
ぎしん
)
暗鬼
(
あんき
)
を
生
(
しやう
)
じ、
210
敵
(
てき
)
なきに
敵
(
てき
)
を
作
(
つく
)
り、
211
何人
(
なにびと
)
か
自分
(
じぶん
)
を
害
(
がい
)
するものはなきかと、
212
心中
(
しんちう
)
戦々
(
せんせん
)
兢々
(
きようきよう
)
として
安
(
やす
)
らかならず、
213
常
(
つね
)
に
自己
(
じこ
)
保護
(
ほご
)
の
迷夢
(
めいむ
)
に
襲
(
おそ
)
はれ、
214
武術
(
ぶじゆつ
)
を
練
(
ね
)
り、
215
柔術
(
じうじゆつ
)
などを
稽古
(
けいこ
)
するのだと
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
られました。
216
ほんとに
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
愛善
(
あいぜん
)
の
徳
(
とく
)
さへあれば、
217
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
でも
悦服
(
えつぷく
)
して、
218
決
(
けつ
)
して
其
(
その
)
人
(
ひと
)
に
敵
(
てき
)
するものではありませぬ。
219
況
(
ま
)
して
人間
(
にんげん
)
に
於
(
おい
)
てをやです、
220
私
(
わたし
)
はこの
思想
(
しさう
)
が
大
(
おほい
)
に
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りました。
221
心
(
こころ
)
に
邪悪
(
じやあく
)
分子
(
ぶんし
)
を
含
(
ふく
)
んで
居
(
ゐ
)
るものは、
222
徒
(
いたづら
)
に
人
(
ひと
)
を
怖
(
こは
)
がり
人
(
ひと
)
を
恐
(
おそ
)
るるものです。
223
かかる
人間
(
にんげん
)
が
身
(
み
)
を
護
(
まも
)
るために
剣術
(
けんじゆつ
)
柔術
(
じうじゆつ
)
を
学
(
まな
)
ぶものです。
224
地獄界
(
ぢごくかい
)
に
籍
(
せき
)
を
有
(
いう
)
し、
225
八衢
(
やちまた
)
に
彷徨
(
さまよ
)
うて
居
(
ゐ
)
るものが
武術
(
ぶじゆつ
)
を
志
(
こころざ
)
すものです、
226
低脳児
(
ていなうじ
)
や
殺人狂
(
さつじんきやう
)
の
徒
(
と
)
が
喜
(
よろこ
)
んで
人命
(
じんめい
)
を
奪
(
うば
)
ひ
財産
(
ざいさん
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
227
或
(
あるひ
)
は
人
(
ひと
)
の
国土
(
こくど
)
を
奪
(
うば
)
ひ
或
(
あるひ
)
は
人
(
ひと
)
の
子女
(
しぢよ
)
を
辱
(
はづ
)
かしめ、
228
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
限
(
かぎり
)
を
尽
(
つく
)
して
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
と
誇
(
ほこ
)
り、
229
其
(
その
)
驕慢券
(
けうまんけん
)
とも
云
(
い
)
ふべき
窘笑
(
くんせう
)
を、
230
胸
(
むね
)
にブラブラ
下
(
さ
)
げて
居
(
ゐ
)
るのは、
231
本当
(
ほんたう
)
に
時代後
(
じだいおく
)
れだと
片彦
(
かたひこ
)
さまが
仰有
(
おつしや
)
いましたよ』
232
ランチ
『それだと
云
(
い
)
うて、
233
世界
(
せかい
)
に
国家
(
こくか
)
として
存在
(
そんざい
)
する
以上
(
いじやう
)
は
軍備
(
ぐんび
)
は
必要
(
ひつえう
)
だ。
234
仮令
(
たとへ
)
ミロクの
世
(
よ
)
となつても
軍備
(
ぐんび
)
の
撤廃
(
てつぱい
)
は
出来
(
でき
)
ない、
235
さう
新思想
(
しんしさう
)
にかぶれて
仕舞
(
しま
)
つては
駄目
(
だめ
)
だ。
236
一方
(
いつぱう
)
に
偏
(
へん
)
せず
片寄
(
かたよ
)
らず、
237
其
(
その
)
中庸
(
ちうよう
)
を
往
(
ゆ
)
くのが
最
(
もつと
)
も
安全
(
あんぜん
)
の
道
(
みち
)
だらうよ』
238
初稚姫
『
姉
(
ねえ
)
さま、
239
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
は、
240
本当
(
ほんたう
)
に
間然
(
かんぜん
)
する
所
(
ところ
)
ありませぬが、
241
併
(
しか
)
しながら
三五教
(
あななひけう
)
の
治国別
(
はるくにわけ
)
さまとやらを、
242
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
へ
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
み
遊
(
あそ
)
ばしたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をチラリと
聞
(
き
)
きましたが、
243
それを
聞
(
き
)
くと、
244
本当
(
ほんたう
)
にゾツと
致
(
いた
)
しますね』
245
清照姫
『さう、
246
さうなの、
247
アヽいやらしい、
248
何
(
なん
)
とランチさまも
甚
(
ひど
)
い
事
(
こと
)
をなさいます、
249
私
(
わたし
)
それを
聞
(
き
)
いて
俄
(
にはか
)
にこの
人
(
ひと
)
がどことはなしに
嫌
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
ましたよ。
250
矢張
(
やつぱり
)
片彦
(
かたひこ
)
さまがお
優
(
やさ
)
しくて、
251
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
が
新
(
あたら
)
しうて、
252
胸
(
むね
)
の
琴線
(
きんせん
)
に
触
(
ふ
)
れるやうですわ』
253
ランチは
慌
(
あわ
)
てて、
254
ランチ
『イヤイヤ
決
(
けつ
)
して
私
(
わたし
)
がしたのではない、
255
片彦
(
かたひこ
)
の
計
(
はか
)
らひで
致
(
いた
)
したのだ。
256
彼奴
(
あいつ
)
は
偽善者
(
きぜんしや
)
だから、
257
其
(
その
)
方
(
はう
)
達
(
たち
)
の
前
(
まへ
)
でそんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るのだ。
258
彼奴
(
あいつ
)
は
武断派
(
ぶだんは
)
の
隊長
(
たいちやう
)
、
259
軍国
(
ぐんこく
)
主義
(
しゆぎ
)
の
張本
(
ちやうほん
)
だ。
260
併
(
しか
)
しながらあの
治国別
(
はるくにわけ
)
及
(
およ
)
び
竜公
(
たつこう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
261
どうしても
許
(
ゆる
)
す
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ない
奴
(
やつ
)
だ。
262
これを
許
(
ゆる
)
さうものなら、
263
バラモン
軍
(
ぐん
)
は
根底
(
こんてい
)
より
破壊
(
はくわい
)
せられなくてはならない、
264
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大棟梁
(
だいとうりやう
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
ない、
265
又
(
また
)
竜公
(
たつこう
)
とやら、
266
吾
(
わが
)
軍
(
ぐん
)
の
秘書役
(
ひしよやく
)
を
勤
(
つと
)
めながら
敵
(
てき
)
に
裏返
(
うらがへ
)
つたのだから、
267
陥穽
(
おとしあな
)
に
陥
(
おちい
)
つて
斃
(
くたば
)
るのも
自業
(
じごふ
)
自得
(
じとく
)
だ、
268
仮令
(
たとへ
)
愛
(
あい
)
する
汝
(
なんぢ
)
のためなればとて、
269
是
(
これ
)
ばかりは
赦
(
ゆる
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない』
270
清照姫
『
妾
(
あて
)
この
館
(
やかた
)
に
左様
(
さやう
)
の
人
(
ひと
)
が
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
苦
(
くるし
)
みをしてゐらしやるかと
思
(
おも
)
へば、
271
恐
(
おそ
)
ろしくて
仕方
(
しかた
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
272
どうか
何処
(
どこ
)
かへ
雪見
(
ゆきみ
)
にでも
連
(
つ
)
れて
往
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
273
ランチ
『アハヽヽヽ、
274
遉
(
さすが
)
は
女
(
をんな
)
だな。
275
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものだ。
276
併
(
しか
)
し
其
(
その
)
弱
(
よわ
)
いのが
女
(
をんな
)
の
特色
(
とくしよく
)
だ、
277
女
(
をんな
)
の
可愛
(
かあい
)
い
所
(
ところ
)
なのだ。
278
さらば、
279
これより
早速
(
さつそく
)
雪見
(
ゆきみ
)
の
宴
(
えん
)
を
催
(
もよほ
)
すため、
280
入口
(
いりぐち
)
の
風景
(
ふうけい
)
の
佳
(
よ
)
き
物見
(
ものみ
)
へ
往
(
い
)
つて、
281
酒
(
さけ
)
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
しながら
楽
(
たの
)
しむ
事
(
こと
)
と
致
(
いた
)
さう』
282
清照姫
『ハイ、
283
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
284
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
285
サア
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
286
将軍
(
しやうぐん
)
の
後
(
あと
)
について、
287
少
(
すこ
)
し
遠
(
とほ
)
うは
厶
(
ござ
)
いますが、
288
物見櫓
(
ものみやぐら
)
までお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しませう』
289
ランチ
『この
積雪
(
せきせつ
)
に、
290
女
(
をんな
)
の
足
(
あし
)
では
行歩
(
かうほ
)
になやむだらう。
291
幸
(
さいは
)
ひ
駕籠
(
かご
)
があるから、
292
従卒
(
じゆうそつ
)
に
舁
(
かつ
)
がしてやる』
293
初稚姫
『
姉
(
ねえ
)
さま、
294
さう
願
(
ねが
)
ひませうかな』
295
清照姫
『
此
(
これ
)
丈
(
だけ
)
の
雪
(
ゆき
)
の
中
(
なか
)
、
296
どうせ
駕籠
(
かご
)
で
送
(
おく
)
つて
貰
(
もら
)
はねば、
297
とても
歩
(
ある
)
けませぬわ』
298
ランチはポンポンと
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つた。
299
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
た
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
は
慌
(
あわただ
)
しく
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り、
300
二人の副官
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
301
何
(
なに
)
か
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
302
ランチ
『ウン、
303
今日
(
けふ
)
は
稀
(
まれ
)
なる
大雪
(
おほゆき
)
だ。
304
四方
(
しはう
)
は
一面
(
いちめん
)
の
銀世界
(
ぎんせかい
)
、
305
雪見
(
ゆきみ
)
の
宴
(
えん
)
を
催
(
もよほ
)
すから、
306
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
も
供
(
とも
)
をせい。
307
そして
駕籠
(
かご
)
を
五六挺
(
ごろくちやう
)
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れ』
308
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
は、
309
二人の副官
『ハイ』
310
と
云
(
い
)
つたきり
早々
(
さうさう
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
出
(
い
)
でて
往
(
ゆ
)
く。
311
ランチは、
312
アーク、
313
タール、
314
エキス、
315
蠑螈別
(
いもりわけ
)
等
(
など
)
の
所在
(
ありか
)
を
従卒
(
じゆうそつ
)
に
命
(
めい
)
じ
探
(
さが
)
さしめ、
316
雪見
(
ゆきみ
)
に
伴
(
ともな
)
ひ
往
(
ゆ
)
かむとしたが、
317
折柄
(
をりから
)
の
積雪
(
せきせつ
)
に
埋
(
うづ
)
もつて
居
(
ゐ
)
たため
発見
(
はつけん
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
318
此
(
この
)
時
(
とき
)
お
民
(
たみ
)
は
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
居間
(
ゐま
)
に
招
(
まね
)
かれて、
319
いろいろと
片彦
(
かたひこ
)
の
意味
(
いみ
)
ありげな
話
(
はなし
)
に、
320
膝
(
ひざ
)
をモヂモヂさせながら
苦
(
くる
)
しさうに
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
して
居
(
ゐ
)
た。
321
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
の
見
(
み
)
えざるに、
322
どこか
雪見
(
ゆきみ
)
でもする
積
(
つも
)
りで
郊外
(
かうぐわい
)
に
往
(
い
)
つたのだらうと
思
(
おも
)
ひ、
323
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
と
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
324
五人
(
ごにん
)
連
(
づ
)
れ
駕籠
(
かご
)
に
揺
(
ゆ
)
られながら
物見櫓
(
ものみやぐら
)
をさして
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く。
325
地上
(
ちじやう
)
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
りの
積雪
(
せきせつ
)
に、
326
駕籠舁
(
かごかき
)
の
足音
(
あしおと
)
はザク、
327
ザク、
328
ザクと
馬丁
(
ばてい
)
が
押切
(
おしき
)
りにて
馬糧
(
まぐさ
)
を
切
(
き
)
るやうな
音
(
おと
)
をさせ、
329
綺麗
(
きれい
)
な
雪道
(
ゆきみち
)
にスバル
星
(
せい
)
を
数多
(
あまた
)
印
(
いん
)
しながら、
330
漸
(
やうや
)
くにして
物見櫓
(
ものみやぐら
)
に
安着
(
あんちやく
)
した。
331
此処
(
ここ
)
に
炭火
(
すみび
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
332
酒
(
さけ
)
の
燗
(
かん
)
をなし、
333
雪見
(
ゆきみ
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
を
催
(
もよほ
)
す
事
(
こと
)
となつた。
334
一方
(
いつぱう
)
片彦
(
かたひこ
)
はランチ
将軍
(
しやうぐん
)
が
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
335
物見櫓
(
ものみやぐら
)
に
雪見
(
ゆきみ
)
の
宴
(
えん
)
を
張
(
は
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
336
従卒
(
じゆうそつ
)
の
内報
(
ないはう
)
によつて
聞
(
き
)
き
知
(
し
)
り、
337
大方
(
おほかた
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
も
同伴
(
どうはん
)
せしならむと、
338
二挺
(
にちやう
)
の
駕籠
(
かご
)
を
命
(
めい
)
じ、
339
お
民
(
たみ
)
と
共
(
とも
)
に
宙
(
ちう
)
を
飛
(
と
)
んで
物見櫓
(
ものみやぐら
)
をさして
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く。
340
(
大正一二・一・一二
旧一一・一一・二六
加藤明子
録)
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(B)
(N)
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