霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 日出前(ひのでまへ)〔一三八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻 篇:第1篇 神授の継嗣 よみ(新仮名遣い):しんじゅのけいし
章:第2章 日出前 よみ(新仮名遣い):ひのでまえ 通し章番号:1388
口述日:1923(大正12)年02月21日(旧01月6日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
松彦たち三人は、深山を踏み分けて刹帝利の王子・王女たちが隠れ住んでいる洞窟にやって来た。オークスとダイヤは、松彦たちがビク国王子奉迎の旗をかざしているのを見て、父王が自分たちを捕えに寄越した捕り手かもしれないと警戒した。
そこへ兄王子たちが帰ってきた。兄王子たちは、松彦たちがビクトリヤ城からやってきたと知ると、問答無用で槍を構えて突いてかかった。三人は大木の幹を盾にして天津祝詞を奏上した。すると兄王子たち四人は身体しびれ、その場に倒れてしまった。
長兄のアールは、体がしびれながらも松彦たちを父の捕り手だとみなして口で抵抗している。松彦は千言万語を尽くして、現在のビクトリヤ城の様子や、刹帝利の改心の様を説きたてた。
四人の王子はやっと安心した様子であった。六人の王子と王女は、松彦の言を聞いて兄妹会議を開くことになった。松彦たちは四五十間ばかりかたわらの山腹に退き、六人は相談を開始した。
喧々諤々の会議の結果、六人は松彦たちを警戒しながらも信用することとし、ビクトリヤ城への帰還を決めた。六人の王子・王女たちは、松彦、竜彦、万公に導かれ、まずはビク国の治国別の館に人知れず帰還することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-03-29 17:05:50 文字数:3726 OBC :rm5402
愛善世界社版:23頁 八幡書店版:第9輯 627頁 修補版: 校定版:21頁 普及版:10頁 初版: ページ備考:
001治国別(はるくにわけ)の命令(めいれい)で
002ビクトリヤ王(わう)の御子(みこ)達(たち)を
003照国岳(てるくにだけ)の山谷(さんこく)に
004尋(たづ)ねて迎(むか)へ帰(かへ)らむと
005館(やかた)を後(あと)に竜彦(たつひこ)や
006嬉(うれ)しき便(たよ)りを松彦(まつひこ)が
007万公司(まんこうつかさ)を伴(ともな)ひて
008音(おと)に名高(なだか)きビクトリヤ
009山野(さんや)を渡(わた)り谷(たに)を越(こ)え
010猿(ましら)の声(こゑ)におどされつ
011岩(いは)の根(ね)木(き)の根(ね)踏(ふ)みさくみ
012辷(すべ)る足許(あしもと)危(あやふ)くも
013木々(きぎ)の梢(こずゑ)を掴(つか)まへて
014道(みち)なき路(みち)を辿(たど)り行(ゆ)く
015荊蕀(けいきよく)茂(しげ)る山(やま)の中(なか)
016アール、イースや外(ほか)四(よ)人(にん)
017潜(ひそ)む土窟(いはや)にやうやうと
018息(いき)もスタスタ着(つ)きにけり。
019 オークス、020ダイヤの二人(ふたり)は土窟(いはや)の入口(いりぐち)に日(ひ)なたぼつこりをして、021獣(けだもの)の皮(かは)を干(ほ)したり、022洗濯(せんたく)をしたりして、023乾(かわ)くのを待(ま)つてゐた。024忽(たちま)ち三(さん)人(にん)の姿(すがた)を見(み)るより、025驚(おどろ)きの眼(まなこ)を瞠(みは)り、026山刀(やまがたな)を手(て)にして、027何者(なにもの)の襲来(しふらい)かと身構(みがま)へした。028よくよく見(み)れば、029『刹帝利(せつていり)の御(おん)子(こ)奉迎(ほうげい)』といふ手旗(てばた)を各(おのおの)翳(かざ)してゐる。030オークスは双手(もろて)を組(く)んで、031暫(しば)し思案(しあん)にくれてゐたが、032心(こころ)の中(なか)に思(おも)ふやう、
033オークス『あの手旗(てばた)には自分(じぶん)等(たち)を迎(むか)へに来(き)たやうに記(しる)してあるが、034父(ちち)と云(い)ひ、035近侍(きんじ)の頑固(ぐわんこ)連(れん)が自分(じぶん)達(たち)の所在(ありか)を探(さぐ)り、036奉迎(ほうげい)と佯(いつ)はつて、037召捕(めしと)らへに来(き)たのではあるまいか。038之(これ)はウツカリ名乗(なの)る訳(わけ)には行(ゆ)かぬ』
039と心(こころ)を定(さだ)め、040妹(いもうと)のダイヤに目配(めくば)せした。041ダイヤはオークスの意思(いし)を早(はや)くも悟(さと)り、042さあらぬ態(てい)にて細谷川(ほそたにがは)の水(みづ)をいぢり、043あどけない態(てい)にて、044ワザとに遊(あそ)んでゐた。045そこへ近付(ちかづ)いたのは迎(むか)ひの三(さん)人(にん)、046松彦(まつひこ)は両手(りやうて)をついて、
047松彦(まつひこ)『一寸(ちよつと)お尋(たづ)ね致(いた)します。048貴方(あなた)は、049ビクトリヤ城(じやう)の刹帝利(せつていり)様(さま)のお子様(こさま)では厶(ござ)いませぬか』
050 オークスはワザと空呆(そらとぼ)けて、
051オークス『俺(おれ)は此(この)山(やま)に昔(むかし)から住居(ぢうきよ)をしてをる山男(やまをとこ)だ。052そんな尊(たふと)い者(もの)ではない。053此(この)谷(たに)には左様(さやう)な方(かた)は一人(ひとり)もみえたことはないから、054外(ほか)を尋(たづ)ねて貰(もら)ひたいものだなア』
055松彦(まつひこ)『ヤ、056何(なん)と仰(おほ)せられましても、057貴方(あなた)はお子様(こさま)に間違(まちがひ)ありませぬ。058サ、059何卒(どうぞ)私(わたくし)と一緒(いつしよ)に城内(じやうない)までお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。060キツと貴方(あなた)のお為(ため)に悪(わる)い事(こと)は致(いた)しませぬ』
061 ダイヤは側(そば)へ寄(よ)つて来(き)て、
062ダイヤ『どこの方(かた)か知(し)りませぬが、063妾(わたし)はここに二人(ふたり)夫婦暮(ふうふぐら)しをしてゐる山男(やまをとこ)山女(やまをんな)で厶(ござ)います。064決(けつ)して左様(さやう)な者(もの)ぢやありませぬから、065外(ほか)をお尋(たづ)ね下(くだ)さいませ』
066松彦(まつひこ)『何(なん)と仰(おほ)せられても、067吾々(われわれ)の目(め)では刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)子女(しぢよ)に違(ちが)ひはありませぬ。068左様(さやう)な事(こと)を仰(おほ)せられずに、069吾々(われわれ)の申(まを)す通(とほ)りに城内(じやうない)へ御(お)帰(かへ)りを願(ねが)ひたい』
070ダイヤ『ホホホホ何(なん)とマア分(わか)らぬ人(ひと)だこと、071木樵(きこり)の娘(むすめ)が堕落(だらく)して、072村(むら)の男(をとこ)と手(て)に手(て)を取(と)つて、073斯様(かやう)な処(ところ)へ逃(に)げ来(きた)り、074山男(やまをとこ)山女(やまをんな)となつて、075恋(こひ)を味(あぢ)はつてゐるのに、076畏(おそ)れ多(おほ)くも刹帝利(せつていり)様(さま)の娘(むすめ)だなどとは、077勿体(もつたい)ない罰(ばち)が当(あた)りますぞや。078妾(わたし)が左様(さやう)な尊(たふと)い方(かた)の娘(むすめ)なれば、079どうしてこんな所(ところ)へ出(で)て来(き)ませうか、080誰(たれ)がこんな不便(ふべん)な山住居(やまずまゐ)を致(いた)しませうか。081よく考(かんが)へて御覧(ごらん)なさいませ』
082松彦(まつひこ)『貴女(あなた)は今(いま)、083ここへ男(をとこ)と駆落(かけおち)をしたと仰有(おつしや)るが、084比較(ひかく)的(てき)体(からだ)は大(おほ)きうても、085まだお年(とし)は十(じつ)才(さい)か十一(じふいつ)才(さい)位(ぐらゐ)にしか見(み)えませぬ。086そんな事(こと)云(い)つたつて、087此(この)松彦(まつひこ)は騙(だま)されませぬよ。088刹帝利(せつていり)様(さま)が大変(たいへん)後悔(こうくわい)遊(あそ)ばして、089六(ろく)人(にん)の子女(しぢよ)を恋慕(こひした)ひ……あああの時(とき)は悪神(あくがみ)に誑惑(けうわく)されて居(を)つたのだ。090追々(おひおひ)年(とし)はよつてくるなり、091あの六(ろく)人(にん)の子女(しぢよ)が居(を)つてくれたらどれ丈(だけ)嬉(うれ)しいだらう……と、092朝夕(あさゆふ)お悔(くや)みなさるので、093新参者(しんざんもの)の吾々(われわれ)が、094王(わう)様(さま)の命令(めいれい)を受(う)けてお迎(むか)ひに参(まゐ)りました、095何(なん)とお隠(かく)しなされましても間違(まちが)ひありませぬ、096そして四(よ)人(にん)の御(ご)兄弟(きやうだい)はどちらへお出(い)でになりました。097何卒(どうぞ)それを御(お)知(し)らせ願(ねが)ひたいものです』
098オークス『決(けつ)して決(けつ)して、099何(なん)と仰有(おつしや)つても、100左様(さやう)な者(もの)ぢや厶(ござ)いませぬ。101外(ほか)を尋(たづ)ねて下(くだ)さいませ』
102と言(い)つてる所(ところ)へ四(よ)人(にん)の兄(あに)は猪(いのしし)を担(かつ)いで、103きつい谷路(たにみち)を下(くだ)つて来(き)た。104余(あま)り足元(あしもと)に気(き)を取(と)られて居(を)つたので、105三(さん)人(にん)が此処(ここ)に来(き)て弟妹(きやうだい)と話(はなし)をしてるのに気(き)がつかなかつた。106入口(いりぐち)の前(まへ)に猪(しし)を下(お)ろし、107汗(あせ)を拭(ぬぐ)ひ拭(ぬぐ)ひ、108三(さん)人(にん)の男(をとこ)が地上(ちじやう)に平伏(へいふく)してるのを見(み)て、109四(よ)人(にん)は驚(おどろ)いた。
110 アールはオークスに向(むか)ひ、
111アール『オイ、112此処(ここ)へ来(き)てゐる三(さん)人(にん)の男(をとこ)は何者(なにもの)だ』
113オークス『ビクトリヤ城(じやう)の刹帝利(せつていり)様(さま)から、114お迎(むか)へに来(き)たのだ。115貴方(あなた)は其(その)御(ご)子女(しぢよ)に違(ちが)ひないからお迎(むか)ひに来(き)たのだ……と云(い)つて聞(き)かないのですよ。116親方(おやかた)何(ど)う致(いた)しませうかね』
117アール『どうも斯(か)うもない、118吾々(われわれ)の規定(きてい)通(どほ)り実行(じつかう)すれば可(い)いぢやないか』
119オークス『それは一寸(ちよつと)待(ま)つて頂(いただ)きたう厶(ござ)います』
120アール『ナニ、121グヅグヅしてゐると発覚(はつかく)する虞(おそれ)がある、122此奴(こいつ)等(ら)三(さん)人(にん)をやつつけて了(しま)へ』
123と言(い)ふより早(はや)く一同(いちどう)の兄弟(きやうだい)に目配(めくば)せした。124一同(いちどう)は猪突槍(ゐつきやり)を持(も)つて、125物(もの)をも言(い)はず三(さん)人(にん)に突(つ)いてかかる。126オークス、127ダイヤの両人(りやうにん)は双方(さうはう)の中(なか)に割(わ)つて入(い)り、
128オークス、ダイヤ『兄(にい)さま待(ま)つて下(くだ)さい……お兄(にい)さま暫(しばら)く』
129と両人(りやうにん)が制止(せいし)するを聞(き)かばこそ、130四(よ)人(にん)の兄(あに)は、
131四人『エエ邪魔(じやま)ひろぐと其(その)方(はう)も犠牲(ぎせい)にするぞ』
132と云(い)ひ乍(なが)ら、133バラバラと三(さん)人(にん)を囲(かこ)んだ。134三(さん)人(にん)は大木(たいぼく)の幹(みき)を楯(たて)に取(と)り、135天津(あまつ)祝詞(のりと)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に奏上(そうじやう)するや、136猛(たけ)り狂(くる)うた四(よ)人(にん)は身体(しんたい)痺(しび)れ、137其(その)場(ば)にドツト尻餅(しりもち)を搗(つ)いた。138そして首(くび)計(ばか)り振(ふ)つてゐる。
139アール『其(その)方(はう)は吾々(われわれ)六(ろく)人(にん)を刹帝利(せつていり)の迎(むか)へと佯(いつは)り、140甘(うま)く城内(じやうない)につれ帰(かへ)り、141生命(せいめい)を奪(うば)はむとの企(たく)みであらう。142左様(さやう)な事(こと)を真(ま)に受(う)けて、143うまうまと計略(けいりやく)に乗(の)る様(やう)な吾々(われわれ)でない。144サ早(はや)く帰(かへ)つたがよからう』
145と手足(てあし)も動(うご)かぬくせに流石(さすが)は刹帝利(せつていり)の胤(たね)丈(だけ)あつて、146気丈夫(きぢやうぶ)なものである。147松彦(まつひこ)は、148千言(せんげん)万語(まんご)を費(つひや)して、149刹帝利(せつていり)の真心(まごころ)や或(あるひ)はホーフス(宮中(きうちう))の様子(やうす)を細々(こまごま)と述(の)べ立(た)てた。150四(よ)人(にん)は漸(やうや)くにしてヤツと安心(あんしん)した。
151アール『それに間違(まちがひ)なくば、152吾々(われわれ)兄妹(きやうだい)は茲(ここ)でラートを開(ひら)き、153其(その)結果(けつくわ)御(ご)返事(へんじ)を致(いた)しませう。154少時(しばら)く御(ご)猶予(いうよ)を願(ねが)ふ』
155松彦(まつひこ)『ヤ、156早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、157可成(なるべく)早(はや)くラートをお開(ひら)きの上(うへ)、158吾々(われわれ)と一緒(いつしよ)にホーフスへ御(お)帰(かへ)り下(くだ)さいませ』
159アール『然(しか)らば暫(しばら)くここを遠(とほ)ざかつて貰(もら)ひたい、160決(けつ)して逃(に)げも隠(かく)れも致(いた)しませぬ』
161 松彦(まつひこ)は『宜(よろ)しい』と四五十(しごじつ)間(けん)許(ばか)り傍(かたはら)の山腹(さんぷく)に退(しりぞ)き、162六(ろく)人(にん)の様子(やうす)を監視(かんし)してゐた。163六(ろく)人(にん)は声(こゑ)を秘(ひそ)めて、164相談会(さうだんくわい)を開(ひら)いた。
165アール『オイ、166弟(おとうと)、167お前(まへ)達(たち)はどう思(おも)ふか。168あの三(さん)人(にん)は父(ちち)の家来(けらい)だと云(い)つたが、169どうも体(からだ)の様子(やうす)を考(かんが)へてみると、170モンク(修道師(しうだうし))の様(やう)だ。171あんな事(こと)を云(い)つて、172父(ちち)の命(めい)を受(う)け吾々(われわれ)の兄妹(きやうだい)の此処(ここ)にゐる事(こと)を恐(おそ)れて、173甘(うま)くゴマかし、174連(つ)れ帰(かへ)り、175牢獄(らうごく)へブチ込(こ)む考(かんが)へではあるまいか、176ここは余程(よほど)考(かんが)へねばなるまいぞ』
177イース『あれは決(けつ)してモンクではありますまい。178父(ちち)の命(めい)を受(う)けてやつて来(き)たグレナジアーでせう。179さうでなければ、180吾々(われわれ)猪(いのしし)武者(むしや)が六(ろく)人(にん)居(ゐ)る所(ところ)へ、181只(ただ)の三(さん)人(にん)位(ぐらゐ)で来(こ)られるものぢやありませぬワ』
182オークス『兄上(あにうへ)様(さま)のお考(かんが)へも一応(いちおう)尤(もつと)も乍(なが)ら、183私(わたし)が夜前(やぜん)夢(ゆめ)を見(み)ましたのには、184或(ある)尊(たふと)い神(かみ)様(さま)のプロパガンデストが三(さん)人(にん)吾々(われわれ)をホーフスへ迎(むか)へ帰(かへ)り、185大切(たいせつ)にしてくれる事(こと)をみましたが、186夢(ゆめ)の事(こと)だから当(あて)にならないと思(おも)うて、187実(じつ)の所(ところ)はお話(はなし)もせずに居(を)つたのです。188そした所(ところ)が夢(ゆめ)にみたと同様(どうやう)のモンクがやつて来(き)ました。189キツと間違(まちが)ひありますまい。190そんな事(こと)仰有(おつしや)らずに三(さん)人(にん)に従(したが)つて帰(かへ)らうぢやありませぬか、191父(ちち)も老年(らうねん)に及(およ)び、192余程(よほど)気(き)も弱(よわ)つて居(を)りませうから、193滅多(めつた)な事(こと)は厶(ござ)いますまい』
194アール『あれ丈(だけ)頑固(ぐわんこ)な迷信(めいしん)深(ふか)い父上(ちちうへ)だから、195何(なん)とも安心(あんしん)する訳(わけ)には行(ゆ)くまい。196のうウエルス、197お前(まへ)は何(ど)う思(おも)ふか』
198ウエルス『ハイ、199私(わたし)の考(かんが)へでは、200どうも当(あた)り前(まへ)の人間(にんげん)とは思(おも)ひませぬ。201又(また)父(ちち)の命令(めいれい)で来(き)たのとも考(かんが)へませぬ。202妖幻坊(えうげんばう)といふモンスターが此(この)辺(へん)を徘徊(はいくわい)するといふ事(こと)は、203昔(むかし)から聞(き)いて居(を)りますが、204其奴(そいつ)が化(ば)けて来(き)たのではありますまいか。205ホーフスだと思(おも)うて泥田(どろた)の中(なか)へでも突(つ)つ込(こ)まれるやうな事(こと)はありますまいかな。206コレヤ、207うつかりして居(を)つたら、208どんな目(め)に会(あ)ふか知(し)れませぬぞ』
209アール『ヤ、210決(けつ)してモンスターではあるまい。211兎(と)も角(かく)危(あやふ)きに近(ちか)よらずと云(い)ふ事(こと)があるから、212ここで能(あた)ふ限(かぎ)りの抵抗(ていかう)を試(こころ)み、213どうしてもゆかねば住家(すみか)を変(か)へるより、214仕様(しやう)がないぢやないか』
215エリナン『兄上(あにうへ)に申上(まをしあ)げます。216私(わたし)はどう考(かんが)へても、217彼(かれ)等(ら)三(さん)人(にん)は妖怪(えうくわい)でもなければ悪人(あくにん)でもない、218オークスの云(い)つた様(やう)に、219父(ちち)が改心(かいしん)の結果(けつくわ)吾々(われわれ)を迎(むか)へに来(き)てくれた者(もの)と考(かんが)へます。220取越(とりこし)苦労(くらう)をせずに、221兎(と)も角(かく)跟(つ)いて行(い)つたら如何(どう)でせう。222怪(あや)しとみたら又(また)其(その)時(とき)の処置(しよち)を取(と)れば可(い)いぢやありませぬか』
223ダイヤ『五(ご)人(にん)の兄(にい)さま、224私(わたし)はどうもあの方(かた)は本当(ほんたう)だと思(おも)ひます。225一層(いつそう)の事(こと)、226帰(かへ)らうぢやありませぬか』
227 アールは思(おも)ひ切(き)つて、
228アール『エエ怖(こは)い所(ところ)へ行(ゆ)かねば熟柿(じゆくし)はくへぬと云(い)ふ事(こと)だ、229運(うん)を天(てん)に任(まか)して帰(かへ)ることにしようかい。230併(しか)し乍(なが)らヒルナ姫(ひめ)とやら云(い)ふハイエナ・イン・ベテコーツが扣(ひか)へてゐるから、231余程(よほど)気(き)をつけて帰(かへ)らなくてはなるまいぞ。232サア思(おも)ひ切(き)つて帰(かへ)る事(こと)にしよう』
233といよいよ評議(ひやうぎ)一決(いつけつ)して、234三(さん)人(にん)を手招(てまね)きした。235三(さん)人(にん)は喜(よろこ)んで六(ろく)人(にん)の前(まへ)に駆(か)け来(きた)り、
236松彦(まつひこ)『いよいよ御(お)帰(かへ)りと決定(けつてい)した様子(やうす)で厶(ござ)います。237吾々(われわれ)も大慶(たいけい)に存(ぞん)じます。238サ、239帰(かへ)りませう。240お察(さつ)しの通(とほ)り、241拙者(せつしや)は三五教(あななひけう)のプロパガンデストで厶(ござ)います。242実(じつ)の所(ところ)はビクトリヤ城(じやう)は右守司(うもりのかみ)のベルツの為(ため)に殆(ほとん)ど落城(らくじやう)せむとする間際(まぎは)に、243吾(わが)師(し)の君(きみ)治国別(はるくにわけ)宣伝使(せんでんし)が吾(われ)等(ら)をつれて現(あら)はれ、244お救(すく)ひ申(まを)し、245城内(じやうない)は稍(やや)小康(せうかう)を得(え)た所(ところ)で厶(ござ)います。246刹帝利(せつていり)様(さま)も貴方(あなた)方(がた)の命(いのち)を取(と)らむとした事(こと)を非常(ひじやう)に後悔(こうくわい)して、247吐息(といき)を洩(も)らしてお歎(なげ)き遊(あそ)ばしたので、248吾(わが)師(し)の君(きみ)が、249貴方(あなた)方(がた)がここにゐられる事(こと)を看破(かんぱ)し、250刹帝利(せつていり)様(さま)にお話(はなし)になつて、251吾々(われわれ)を遣(つか)はされたので厶(ござ)います。252必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばすな、253サ、254帰(かへ)りませう』
255 此(この)言葉(ことば)に六(ろく)人(にん)の兄妹(きやうだい)はやつと安心(あんしん)し、256松彦(まつひこ)、257竜彦(たつひこ)、258万公(まんこう)の後(あと)に従(したが)ひ、259八男(はちなん)一女(いちによ)の道連(みちづ)れは山(やま)を越(こ)え、260谷(たに)を渡(わた)り、261漸(やうや)くにしてフオール・ゾンネン・アウフ・ガンダの時刻(じこく)に治国別(はるくにわけ)の館(やかた)にソツと帰(かへ)り来(き)たりける。
262(大正一二・二・二一 旧一・六 於竜宮館 松村真澄録)
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