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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
第1章 子宝
第2章 日出前
第3章 懸引
第4章 理妻
第5章 万違
第6章 執念
第2篇 恋愛無涯
第7章 婚談
第8章 祝莚
第9章 花祝
第10章 万亀柱
第3篇 猪倉城寨
第11章 道晴別
第12章 妖瞑酒
第13章 岩情
第14章 暗窟
第4篇 関所の玉石
第15章 愚恋
第16章 百円
第17章 火救団
第5篇 神光増進
第18章 真信
第19章 流調
第20章 建替
第21章 鼻向
第22章 凱旋
附録 神文
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
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第54巻(巳の巻)
> 第1篇 神授の継嗣 > 第4章 理妻
<<< 懸引
(B)
(N)
万違 >>>
第四章
理妻
(
りさい
)
〔一三九〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第1篇 神授の継嗣
よみ(新仮名遣い):
しんじゅのけいし
章:
第4章 理妻
よみ(新仮名遣い):
りさい
通し章番号:
1390
口述日:
1923(大正12)年02月21日(旧01月6日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
刹帝利ビクトリヤ王と現王妃のヒルナ姫は、アールの帰城に狂喜した。王は、悪神にたぶらかされて王子たちを殺そうと図ったことを懺悔し、涙と共に謝した。
アールは父王の様子を意外に思ったが、悪神のために道を誤ったことを悟り、少しも親を怨む心はなかった。そして山中の暮らしや、妹が訪ねてきて一緒に暮らすことになった経緯などを物語り、うれし涙にかきくれた。
治国別の館には数多の家来が遣わされ、残り五人の兄妹を城内に迎え取った。治国別一行も祝宴に招待され、神恩を感謝した。
ビクトリヤ王は年老いて余命がいくばくもないことを悟っており、アールに王家を継がさせた。そして兄妹五人にはビクの国を六つに分け、それぞれ領分を守らせることとした。アールはヒルナ姫に実の母親のように仕えた。
さて、長兄のアールに妃を迎える必要が迫ってきた。しかしアールは、幾たびも候補者に首を振るのみであった。アールは境遇の変化によって心身に変調を来たし、貴族生活が厭になってたまらなくなってきた。
アールは立派な服を脱ぎ棄てて、たびたび城内を抜け出して田舎をうろつくようになってしまった。そしてたびたびの左守と右守の諌めもまったく聞き入れなかった。刹帝利は困り果てて治国別に相談すると、治国別は、しばらくはアールの好きなようにさせるように、と答えた。
あるときアールが平民の服を着て城を抜け出し、ビクトル山のふもとのパイン林の木蔭に独りで休んでいた。そこへ熊手を持ち籠を背負って枯れ松葉を掻きにきた女がやってきた。女はハンナという二十ばかりの首陀の娘で、とても器量が悪かった。
アールは身分を隠してハンナと話すうち、その心根と言動に感心し、この女こそ自分の妃にするべき者だと考えた。そして、ハンナに自分は実はビクトリヤ王の長子であると明かした。
恐れ入るハンナに対し、アールはどうしても自分の妻になってくれと頼み込み、ハンナを連れて城に帰ってきた。左守はアールの話を聞いて驚き、アールを諌めるが、アールは父王や左守こそ頑迷で国家の行く末をわかっていない、と反論するありさまであった。
アールは、治国別宣伝使の裁定を仰ぐように左守に申し入れた。左守も、このまま刹帝利に報告しても反対されることは目に見えているので、アールとハンナは城内に忍んでもらって、治国別の館に急いで出かけて行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-31 17:41:55
OBC :
rm5404
愛善世界社版:
47頁
八幡書店版:
第9輯 636頁
修補版:
校定版:
46頁
普及版:
21頁
初版:
ページ備考:
001
刹帝利
(
せつていり
)
ビクトリヤ
王
(
わう
)
を
始
(
はじ
)
め、
002
アーチ・ダツチエスのヒルナ
姫
(
ひめ
)
はアールの
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのに
狂喜
(
きやうき
)
し、
003
いろいろと
優
(
やさ
)
しき
言葉
(
ことば
)
をかけ、
004
其
(
その
)
無事
(
ぶじ
)
を
祝
(
しゆく
)
し、
005
且
(
かつ
)
刹帝利
(
せつていり
)
はアールの
手
(
て
)
を
固
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
り、
006
自分
(
じぶん
)
が
悪神
(
あくがみ
)
に
誑
(
たぶら
)
かされ、
007
最愛
(
さいあい
)
の
子供
(
こども
)
を
残
(
のこ
)
らず
殺害
(
さつがい
)
せむとした
事
(
こと
)
の
不明
(
ふめい
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
謝
(
しや
)
した。
008
アールは
意外
(
いぐわい
)
に
父
(
ちち
)
の
心
(
こころ
)
の
柔
(
やはら
)
ぎし
事
(
こと
)
や、
009
又
(
また
)
吾
(
わ
)
れを
憎
(
にく
)
み
玉
(
たま
)
ひしは
悪神
(
あくがみ
)
の
為
(
ため
)
に
唆
(
そそのか
)
されたる
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
り、
010
少
(
すこ
)
しも
親
(
おや
)
を
怨
(
うら
)
む
心
(
こころ
)
なく、
011
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
の
面会
(
めんくわい
)
を
喜
(
よろこ
)
び、
012
父
(
ちち
)
の
高恩
(
かうおん
)
を
謝
(
しや
)
し、
013
且
(
かつ
)
山中
(
さんちう
)
生活
(
せいくわつ
)
の
苦
(
くる
)
しかつた
事
(
こと
)
や、
014
妹
(
いもうと
)
が
一年前
(
いちねんまへ
)
に
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
、
015
其
(
その
)
外
(
ほか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
てくれた
経緯
(
いきさつ
)
などを
細
(
こま
)
かに
物語
(
ものがた
)
り、
016
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
にかきくれた。
017
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
を
始
(
はじ
)
め
内事司
(
ないじつかさ
)
のタルマンも
死
(
し
)
んだ
者
(
もの
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たやうに
喜
(
よろこ
)
んで、
018
早速
(
さつそく
)
に
神殿
(
しんでん
)
に
拝礼
(
はいれい
)
をなし、
019
直会
(
なほらひ
)
の
神酒
(
みき
)
を
頂
(
いただ
)
いて
王家
(
わうけ
)
の
万歳
(
ばんざい
)
を
祈
(
いの
)
つた。
020
それから
治国別
(
はるくにわけ
)
の
館
(
やかた
)
へ
数多
(
あまた
)
の
家来
(
けらい
)
を
遣
(
つか
)
はし、
021
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
兄妹
(
きやうだい
)
を
城内
(
じやうない
)
に
迎
(
むか
)
へ
取
(
と
)
り、
022
且
(
かつ
)
治国別
(
はるくにわけ
)
一同
(
いちどう
)
を
招待
(
せうたい
)
し、
023
祝宴
(
しゆくえん
)
を
開
(
ひら
)
き、
024
神恩
(
しんおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
した。
025
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
はアールに
比
(
くら
)
ぶれば、
026
親
(
おや
)
と
子
(
こ
)
程
(
ほど
)
年
(
とし
)
が
違
(
ちが
)
うてゐた。
027
され
共
(
ども
)
アールはヒルナ
姫
(
ひめ
)
を
真
(
しん
)
の
母
(
はは
)
の
如
(
ごと
)
くに
尊敬
(
そんけい
)
し、
028
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
も
亦
(
また
)
アール
兄妹
(
きやうだい
)
を
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
如
(
ごと
)
くに
労
(
いた
)
はり、
029
陰
(
かげ
)
になり
陽
(
ひなた
)
になり、
030
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
した。
031
刹帝利
(
せつていり
)
は
年
(
とし
)
老
(
お
)
い
余命
(
よめい
)
幾何
(
いくばく
)
もなきを
悟
(
さと
)
り、
032
アールをして
家
(
いへ
)
を
継
(
つ
)
がしめ、
033
弟妹
(
きやうだい
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
にはビクの
国
(
くに
)
を
六
(
むつ
)
つに
分
(
わ
)
け、
034
各
(
おのおの
)
其
(
その
)
領分
(
りやうぶん
)
を
定
(
さだ
)
め、
035
アールの
王家
(
わうけ
)
の
藩塀
(
はんぺい
)
となつて
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
らしめた。
036
イースにはプリンスを
授
(
さづ
)
け、
037
ウエルスにはキングスを
授
(
さづ
)
け、
038
エリナンにはカウントを
授
(
さづ
)
け、
039
オークスにはヴイコントを
授
(
さづ
)
け、
040
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
にはバアロンを
与
(
あた
)
へ、
041
国
(
くに
)
の
四方
(
しはう
)
に
領地
(
りやうち
)
を
分
(
わか
)
つて、
042
永
(
なが
)
らく
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
らしむる
事
(
こと
)
とした。
043
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
兄
(
あに
)
のアールに
妃
(
きさき
)
を
迎
(
むか
)
へる
必要
(
ひつえう
)
が
迫
(
せま
)
つて
来
(
き
)
た。
044
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
は
四方
(
しはう
)
に
奔走
(
ほんそう
)
して
適当
(
てきたう
)
な
配偶
(
はいぐう
)
を
求
(
もと
)
めたが、
045
どうしてもアールの
気
(
き
)
に
入
(
い
)
る
女
(
をんな
)
がない。
046
幾度
(
いくたび
)
も
候補者
(
こうほしや
)
を
定
(
さだ
)
めてアールに
見
(
み
)
せたけれ
共
(
ども
)
、
047
アールは
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
つて
之
(
これ
)
を
拒絶
(
きよぜつ
)
するのみであつた。
048
而
(
しか
)
して
俄
(
にはか
)
にアールは
境遇
(
きやうぐう
)
の
変化
(
へんくわ
)
と
食料
(
しよくれう
)
の
変化
(
へんくわ
)
とに
仍
(
よ
)
つて、
049
身体
(
しんたい
)
に
変調
(
へんてう
)
を
来
(
きた
)
し、
050
顕要
(
けんえう
)
な
元
(
もと
)
の
身分
(
みぶん
)
になつたものの、
051
ヤハリ
窮屈
(
きうくつ
)
な
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
が
厭
(
いや
)
になつてたまらず、
052
こんな
事
(
こと
)
なら
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るぢやなかつたに、
053
兄妹
(
きやうだい
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
が
睦
(
むつ
)
まじう
山住居
(
やまずまゐ
)
をして
勝手
(
かつて
)
気儘
(
きまま
)
に
猟
(
れふ
)
をして、
054
簡易
(
かんい
)
生活
(
せいくわつ
)
を
営
(
いとな
)
みたいものだ……と
煩悶
(
はんもん
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
た。
055
遂
(
つひ
)
には
精神
(
せいしん
)
に
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
異状
(
いじやう
)
を
来
(
きた
)
したと
見
(
み
)
えて、
056
隙
(
すき
)
ある
毎
(
ごと
)
に
城内
(
じやうない
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
い
)
で、
057
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
田舎
(
いなか
)
をうろつくのを
以
(
もつ
)
て
楽
(
たのし
)
みとしてゐた。
058
刹帝利
(
せつていり
)
や
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
が
何程
(
なにほど
)
諫
(
いさ
)
めてもチツとも
聞入
(
ききい
)
れなかつた。
059
終
(
つひ
)
には
刹帝利
(
せつていり
)
も
困
(
こま
)
り
果
(
は
)
てて
治国別
(
はるくにわけ
)
に
教
(
をしへ
)
を
請
(
こ
)
うた。
060
治国別
(
はるくにわけ
)
は
暫
(
しばら
)
くアールの
好
(
す
)
きな
様
(
やう
)
にさしておくがよからうといふ
意味
(
いみ
)
を
答
(
こた
)
へた。
061
外
(
ほか
)
ならぬ
治国別
(
はるくにわけ
)
の
言葉
(
ことば
)
であるから、
062
刹帝利
(
せつていり
)
以下
(
いか
)
の
最高
(
さいかう
)
幹部
(
かんぶ
)
連
(
れん
)
は、
063
アールの
好
(
す
)
きな
儘
(
まま
)
にしておいた。
064
アールは
立派
(
りつぱ
)
な
服
(
ふく
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎすて、
065
ホーレージ・キヤツプを
頭
(
かしら
)
に
戴
(
いただ
)
き、
066
ベリースを
被
(
かぶ
)
つて、
067
城内
(
じやうない
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
068
漂然
(
へうぜん
)
としてビクトル
山
(
さん
)
の
麓
(
ふもと
)
のパイン
林
(
ばやし
)
の
木陰
(
こかげ
)
に
独
(
ひと
)
り
休
(
やす
)
んでゐる。
069
そして
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
雲
(
くも
)
を
眺
(
なが
)
め、
070
ああああと
溜息
(
ためいき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
071
兎
(
うさぎ
)
でも
通
(
とほ
)
つたら
獲
(
と
)
つてみたいものだと
考
(
かんが
)
へてゐると、
072
そこへ
熊手
(
くまで
)
を
持
(
も
)
ち、
073
背
(
せな
)
に
籠
(
かご
)
を
負
(
お
)
うて
枯松葉
(
かれまつば
)
を
掻
(
か
)
きに
来
(
き
)
た、
074
頑丈
(
ぐわんぢやう
)
な
二十歳
(
はたち
)
許
(
ばか
)
りの
不細工
(
ぶさいく
)
な
女
(
をんな
)
がやつて
来
(
き
)
た。
075
女
(
をんな
)
はハンナと
云
(
い
)
ふ
首陀
(
しゆだ
)
の
娘
(
むすめ
)
であつた。
076
アールの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
077
尊
(
たふと
)
き
王子
(
わうじ
)
とは
知
(
し
)
らず、
078
其
(
その
)
傍
(
かたはら
)
に
籠
(
かご
)
をおき、
079
枯松葉
(
かれまつば
)
を
頻
(
しき
)
りに
掻
(
か
)
き
集
(
あつ
)
めて
籠
(
かご
)
に
捻
(
ね
)
ぢ
込
(
こ
)
んでゐる。
080
アールは
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
つて、
081
アール『コレお
前
(
まへ
)
はどこの
女
(
をんな
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
082
俺
(
おれ
)
にも
一
(
ひと
)
つ
手伝
(
てつだ
)
はしてくれないか、
083
其
(
その
)
熊手
(
くまで
)
を
一
(
ひと
)
つかして
貰
(
もら
)
ひたい』
084
と
云
(
い
)
つた。
085
ハンナはアールを
見
(
み
)
て、
086
不思議
(
ふしぎ
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
087
ハンナ『ハイ、
088
お
貸
(
か
)
し
申
(
まを
)
さぬことはありませぬが、
089
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
れば
貴方
(
あなた
)
はどこ
共
(
とも
)
なしに
威厳
(
ゐげん
)
の
備
(
そな
)
はつた
御
(
ご
)
人格
(
じんかく
)
、
090
どうも
普通
(
ふつう
)
のお
方
(
かた
)
とは
思
(
おも
)
へませぬが、
091
なぜ
斯様
(
かやう
)
の
処
(
ところ
)
にお
一人
(
ひとり
)
お
出
(
いで
)
になつて
居
(
を
)
りますか』
092
アール『イヤ、
093
俺
(
おれ
)
はそんな
尊
(
たふと
)
い
者
(
もの
)
でない。
094
子供
(
こども
)
の
時
(
とき
)
から
手癖
(
てくせ
)
が
悪
(
わる
)
うて、
095
親
(
おや
)
を
泣
(
な
)
かせ、
096
近所
(
きんじよ
)
に
迷惑
(
めいわく
)
をかけ、
097
家
(
いへ
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
され、
098
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
がないので、
099
此
(
この
)
パインの
枝
(
えだ
)
で
首
(
くび
)
でも
吊
(
つ
)
つて
死
(
し
)
なうかと
思
(
おも
)
ひ、
100
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たのだ。
101
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
が
松葉掻
(
まつばか
)
きをしてるのを
見
(
み
)
て、
102
羨
(
けなり
)
くてたまらず、
103
それ
故
(
ゆゑ
)
手伝
(
てつだ
)
はしてくれないかと
頼
(
たの
)
んだのだ』
104
ハンナは……
何処
(
どこ
)
ともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
男
(
をとこ
)
だなア……と
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
105
……
此
(
この
)
人
(
ひと
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
果
(
はた
)
して
本当
(
ほんたう
)
ならば
誠
(
まこと
)
に
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだ、
106
何
(
なん
)
とかして
助
(
たす
)
けてやる
工夫
(
くふう
)
はあるまいか……と、
107
同情心
(
どうじやうしん
)
にくれ
乍
(
なが
)
ら、
108
熊手
(
くまで
)
をそこに
投
(
なげ
)
すて、
109
アールの
側
(
そば
)
によつて、
110
ハンナ『モシ、
111
どこのお
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
112
貴方
(
あなた
)
は
夫
(
そ
)
れ
程
(
ほど
)
までに
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
をなさつたのならば、
113
どうです
首吊
(
くびつ
)
りをやめて、
114
私
(
わたし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
暮
(
くら
)
す
気
(
き
)
はありませぬか、
115
私
(
わたし
)
は
賤
(
いや
)
しい
首陀
(
しゆだ
)
の
娘
(
むすめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
116
兄
(
あに
)
が
跡
(
あと
)
をとつてをりますから、
117
親
(
おや
)
の
跡
(
あと
)
を
継
(
つ
)
ぐ
身
(
み
)
でもなし、
118
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
不細工
(
ぶさいく
)
な
女
(
をんな
)
でも
嫁入口
(
よめいりぐち
)
は
沢山
(
たくさん
)
に
言
(
い
)
つて
来
(
き
)
ますが、
119
どうも
私
(
わたし
)
の
気
(
き
)
に
合
(
あ
)
はないので
皆
(
みんな
)
断
(
ことわ
)
つて
居
(
を
)
ります』
120
アール『お
前
(
まへ
)
はそれ
程
(
ほど
)
沢山
(
たくさん
)
嫁入
(
よめいり
)
の
申込
(
まをしこみ
)
があるのに
何故
(
なぜ
)
、
121
俺
(
おれ
)
のやうな
極道
(
ごくだう
)
息子
(
むすこ
)
のすたれ
者
(
もの
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
にならうと
云
(
い
)
ふのか、
122
どうも
合点
(
がてん
)
のいかぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか』
123
ハンナ『
私
(
わたくし
)
は
普通
(
ふつう
)
の
男
(
をとこ
)
は
嫌
(
いや
)
です。
124
極道
(
ごくだう
)
の
味
(
あぢ
)
も
知
(
し
)
らず、
125
世間
(
せけん
)
の
味
(
あぢ
)
も
知
(
し
)
らない
坊
(
ばう
)
ちやん
計
(
ばか
)
りでは、
126
到底
(
たうてい
)
円満
(
ゑんまん
)
な
家庭
(
かてい
)
は
作
(
つく
)
れませぬ。
127
夫
(
そ
)
れよりも
十分
(
じふぶん
)
落
(
お
)
ちて
命
(
いのち
)
をすてる
所
(
ところ
)
まで
決心
(
けつしん
)
した
人
(
ひと
)
なら、
128
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
酢
(
す
)
いも
甘
(
あま
)
いも
知
(
し
)
つてるに
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
129
どうです、
130
捨
(
す
)
てる
命
(
いのち
)
を
存
(
なが
)
らへて、
131
私
(
わたし
)
と
一生
(
いつしやう
)
暮
(
くら
)
すお
考
(
かんが
)
へはありませぬか。
132
私
(
わたし
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
体
(
からだ
)
が
丈夫
(
ぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから
二人前
(
ふたりまへ
)
働
(
はたら
)
きます。
133
仮令
(
たとへ
)
貴方
(
あなた
)
が
病気
(
びやうき
)
になられても
困
(
こま
)
りませぬ。
134
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
から
結婚
(
けつこん
)
を
申込
(
まをしこ
)
んで、
135
はしたない
奴
(
やつ
)
とお
笑
(
わら
)
ひでせうが、
136
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
のやうなドン
底
(
ぞこ
)
へ
墜
(
お
)
ちた
方
(
かた
)
と、
137
夫婦
(
ふうふ
)
になりたいと、
138
朝夕
(
あさゆふ
)
神
(
かみ
)
に
念
(
ねん
)
じて
居
(
を
)
りました。
139
相当
(
さうたう
)
に
財産
(
ざいさん
)
も
親
(
おや
)
から
分
(
わ
)
けて
貰
(
もら
)
つて
居
(
を
)
りますから、
140
メツタに
難儀
(
なんぎ
)
はさせませぬ』
141
アール『
成程
(
なるほど
)
お
前
(
まへ
)
は
感心
(
かんしん
)
な
女
(
をんな
)
だ。
142
併
(
しか
)
し
随分
(
ずいぶん
)
容貌
(
きりやう
)
は
悪
(
わる
)
いのう』
143
ハンナ『
容貌
(
きりやう
)
が
悪
(
わる
)
うてお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らねば
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
144
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴方
(
あなた
)
もよく
考
(
かんが
)
へなさいませ』
145
アール『イヤ、
146
俺
(
おれ
)
は
容貌
(
きりやう
)
は
決
(
けつ
)
して
好
(
この
)
まない。
147
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
心
(
こころ
)
を
持
(
も
)
つてる
女
(
をんな
)
が
欲
(
ほ
)
しいのだ。
148
俺
(
おれ
)
も
今
(
いま
)
まで
沢山
(
たくさん
)
な
美人
(
びじん
)
を
嫁
(
よめ
)
に
貰
(
もら
)
つてくれと、
149
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
言
(
い
)
はれたのだが、
150
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬので、
151
内
(
うち
)
に
居
(
を
)
つても
面白
(
おもしろ
)
からず、
152
又
(
また
)
嫁
(
よめ
)
の
話
(
はなし
)
かと、
153
うるさくて
堪
(
たま
)
らず、
154
此処迄
(
ここまで
)
やつて
来
(
き
)
たのだ。
155
併
(
しか
)
し、
156
親
(
おや
)
の
財産
(
ざいさん
)
をスツカリ
使
(
つか
)
ひ
果
(
はた
)
し、
157
おまけに
生殖器
(
せいしよくき
)
病
(
びやう
)
を
煩
(
わづら
)
ひ、
158
体中
(
からだぢう
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
疥癬
(
ひぜん
)
をかいて、
159
誰
(
たれ
)
も
彼
(
か
)
れも
俺
(
おれ
)
の
側
(
そば
)
へはよりつくものはない。
160
それにも
関
(
かかは
)
らず
沢山
(
たくさん
)
嫁入
(
よめいり
)
の
申込
(
まをしこみ
)
があるのだから
困
(
こま
)
つてゐるのだ。
161
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
162
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
から
結婚
(
けつこん
)
を
申込
(
まをしこ
)
まれ、
163
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
結婚攻
(
けつこんぜ
)
めに
会
(
あ
)
うて、
164
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
天地
(
てんち
)
に
身
(
み
)
をおく
所
(
ところ
)
がないのだ。
165
何卒
(
どうぞ
)
モウ
云
(
い
)
ふてくれな。
166
私
(
わし
)
のやうな
者
(
もの
)
を
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つた
所
(
ところ
)
で
末
(
すゑ
)
が
遂
(
と
)
げられず、
167
お
前
(
まへ
)
に
苦労
(
くらう
)
をかけねばならぬからなア』
168
ハンナ『
貴方
(
あなた
)
が
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
業病
(
がふびやう
)
をお
煩
(
わづら
)
ひになつてると
聞
(
き
)
けば、
169
猶更
(
なほさら
)
見捨
(
みす
)
てる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
170
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたし
)
に
世話
(
せわ
)
をさして
下
(
くだ
)
さいませ。
171
キツと
貞節
(
ていせつ
)
に
仕
(
つか
)
へますから』
172
アールはハンナの
言葉
(
ことば
)
に……
何
(
なん
)
とマア
親切
(
しんせつ
)
な
心
(
こころ
)
の
美
(
うる
)
はしい
女
(
をんな
)
があるものだなア……と
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
つて
感
(
かん
)
に
打
(
う
)
たれてゐた。
173
女
(
をんな
)
は
又
(
また
)
もや
熊手
(
くまで
)
を
手
(
て
)
にし、
174
枯松葉
(
かれまつば
)
を
集
(
あつ
)
めながら、
175
ハンナ『モシ
貴方
(
あなた
)
、
176
どうしても
私
(
わたし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
聞
(
き
)
けませぬか、
177
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
の
美貌
(
びばう
)
に
恋着
(
れんちやく
)
してるのぢやありませぬ、
178
貴方
(
あなた
)
の
今後
(
こんご
)
のお
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
案
(
あん
)
じて
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
熱心
(
ねつしん
)
に
申上
(
まをしあ
)
げるのですから、
179
何卒
(
どうぞ
)
ウンと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
180
貴方
(
あなた
)
が
何程
(
なにほど
)
極道
(
ごくだう
)
でも
業病人
(
がふびやうにん
)
でも
私
(
わたくし
)
は
覚悟
(
かくご
)
の
前
(
まへ
)
です。
181
何
(
いづ
)
れ
貴方
(
あなた
)
を
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つと
云
(
い
)
へば、
182
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
や
親戚
(
しんせき
)
が
小言
(
こごと
)
を
申
(
まを
)
しませうが、
183
それも
覚悟
(
かくご
)
の
前
(
まへ
)
です』
184
と
熱心
(
ねつしん
)
に
口説
(
くど
)
き
立
(
た
)
てる。
185
アールはこれこそ
自分
(
じぶん
)
の
女房
(
にようばう
)
にすべき
者
(
もの
)
だと
心
(
こころ
)
に
決
(
けつ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
186
猶
(
なほ
)
も
念
(
ねん
)
の
為
(
ため
)
に
心
(
こころ
)
を
試
(
ため
)
しみむと
忽
(
たちま
)
ち
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
をあけ、
187
ワザと
涎
(
よだれ
)
をたらし
乍
(
なが
)
ら、
188
「ああああああ」と
唖
(
おし
)
の
真似
(
まね
)
をし
出
(
だ
)
した。
189
ハンナは
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て、
190
俄
(
にはか
)
に
心気
(
しんき
)
興奮
(
こうふん
)
し、
191
唖
(
おし
)
になつたのかなアと、
192
心配
(
しんぱい
)
し
乍
(
なが
)
ら
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
……どこの
人
(
ひと
)
かは
知
(
し
)
らぬが、
193
本当
(
ほんたう
)
に
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なお
方
(
かた
)
だ。
194
益々
(
ますます
)
自分
(
じぶん
)
が
身
(
み
)
を
犠牲
(
ぎせい
)
にしてでも
此
(
この
)
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
けてやらねばなるまい……と
後
(
うしろ
)
へまはり、
195
背中
(
せなか
)
を
撫
(
な
)
でたり、
196
神
(
かみ
)
を
祈
(
いの
)
つたりして
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
病気
(
びやうき
)
全快
(
ぜんくわい
)
せむ
事
(
こと
)
を
願
(
ねが
)
つた。
197
アールは
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
帯
(
おび
)
をといて、
198
松
(
まつ
)
の
枝
(
えだ
)
にパツとかけた。
199
女
(
をんな
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
抱
(
だ
)
きとめようとする。
200
アールは
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに、
201
アール『ヤ、
202
お
女中
(
ぢよちう
)
、
203
私
(
わし
)
の
体
(
からだ
)
は
疥癬
(
ひぜん
)
かきだ。
204
お
前
(
まへ
)
に
伝染
(
うつ
)
ると
大変
(
たいへん
)
だ』
205
と
叫
(
さけ
)
ぶのを、
206
ハンナは、
207
ハンナ『イエイエ、
208
何程
(
なにほど
)
疥癬
(
ひぜん
)
が
伝染
(
うつ
)
らうが、
209
貴方
(
あなた
)
の
命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
を、
210
どうして
見逃
(
みのが
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう』
211
と
剛力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せて、
212
グツと
腰
(
こし
)
の
辺
(
あた
)
りを
抱
(
だ
)
きしめて
放
(
はな
)
さぬ。
213
アールは
何程
(
なにほど
)
もがいても、
214
女
(
をんな
)
の
剛力
(
がうりき
)
を
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
215
アールは
始
(
はじ
)
めて
素性
(
すじやう
)
を
明
(
あか
)
さむと
思
(
おも
)
ひ、
216
アール『イヤ、
217
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
拙者
(
せつしや
)
はビクトリヤ
王
(
わう
)
の
長子
(
ちやうし
)
アールと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
だ。
218
何卒
(
どうぞ
)
放
(
はな
)
してくれ。
219
お
前
(
まへ
)
の
美
(
うつく
)
しい
心
(
こころ
)
は
骨身
(
ほねみ
)
にこたへた。
220
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
疥癬
(
ひぜん
)
かきでも
瘡毒
(
ひえ
)
かきでもない』
221
と
事実
(
じじつ
)
を
述
(
の
)
ぶれば、
222
ハンナは
驚
(
おどろ
)
いて、
223
二三間
(
にさんげん
)
許
(
ばか
)
り
飛下
(
とびさが
)
り、
224
地
(
ち
)
に
頭
(
かしら
)
をすりつけ
乍
(
なが
)
ら、
225
ハンナ『どこ
共
(
とも
)
なしに
変
(
かは
)
つたお
方
(
かた
)
と
存
(
ぞん
)
じましたが、
226
左様
(
さやう
)
な
尊
(
たふと
)
いお
方
(
かた
)
とは
知
(
し
)
らず、
227
誠
(
まこと
)
に
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました。
228
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたし
)
の
罪
(
つみ
)
幾重
(
いくへ
)
にも
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
229
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
女房
(
にようばう
)
としてくれなどと、
230
不都合
(
ふつがふ
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
してすみませぬ』
231
と
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
詫入
(
わびい
)
つた。
232
アールは
言葉
(
ことば
)
を
改
(
あらた
)
めて、
233
アール『ヤ、
234
其方
(
そなた
)
は
首陀
(
しゆだ
)
の
娘
(
むすめ
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
235
実
(
じつ
)
に
見上
(
みあ
)
げた
婦人
(
ふじん
)
だ。
236
何卒
(
どうぞ
)
俺
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
になつてくれまいか、
237
お
前
(
まへ
)
とならば
喜
(
よろこ
)
んで
一生
(
いつしやう
)
を
送
(
おく
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るであらう』
238
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
にハンナは
身
(
み
)
を
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
239
ハンナ『
私
(
わたし
)
如
(
ごと
)
き
賤
(
いや
)
しき
者
(
もの
)
が、
240
どうして
左様
(
さやう
)
な
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう、
241
何卒
(
どうぞ
)
これ
許
(
ばか
)
りは
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
242
と
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
つて
謝
(
あやま
)
り
入
(
い
)
る。
243
アールは
千言
(
せんげん
)
万語
(
ばんご
)
を
費
(
つひ
)
やし、
244
漸
(
やうや
)
くにしてハンナを
納得
(
なつとく
)
させ、
245
手
(
て
)
を
携
(
たづさ
)
へて、
246
嬉
(
うれ
)
しげにホーフスに
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
247
左守司
(
さもりのかみ
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
大
(
おほい
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
248
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らし
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
くし
乍
(
なが
)
ら、
249
左守
『モシ、
250
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
何時
(
いつ
)
も
城内
(
じやうない
)
を
勝手
(
かつて
)
に
飛出
(
とびだ
)
し
遊
(
あそ
)
ばし、
251
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をして
厶
(
ござ
)
るのに、
252
チツともお
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
きませぬか。
253
それに
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
254
左様
(
さやう
)
な
賤
(
いや
)
しい
女
(
をんな
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
城内
(
じやうない
)
へお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばすとは、
255
お
気
(
き
)
が
違
(
ちが
)
つたのぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
256
アール『ウン、
257
チツとは
気
(
き
)
も
違
(
ちが
)
つてゐる。
258
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
259
此
(
この
)
気違
(
きちが
)
ひは
発狂者
(
はつきやうしや
)
ではない。
260
俺
(
わし
)
は
今
(
いま
)
ビクトリヤ
城
(
じやう
)
の
大黒柱
(
だいこくばしら
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
来
(
き
)
たのだ。
261
これでなくては
此
(
この
)
国
(
くに
)
は
治
(
をさ
)
まらない。
262
何
(
ど
)
うぢや
左守
(
さもり
)
、
263
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
俺
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
にする
様
(
やう
)
、
264
父上
(
ちちうへ
)
に
申上
(
まをしあ
)
げてくれ』
265
左守
(
さもり
)
『それは
又
(
また
)
異
(
い
)
なる
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はります。
266
御
(
ご
)
粋狂
(
すいきやう
)
にも
程
(
ほど
)
がある。
267
どうして
父上
(
ちちうへ
)
が
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しになりませう。
268
サ、
269
早
(
はや
)
くどつかへ
追出
(
おひだ
)
しなさりませ』
270
アール『
頑固
(
ぐわんこ
)
な
父
(
ちち
)
と
云
(
い
)
ひ、
271
頑固
(
ぐわんこ
)
な
左守
(
さもり
)
と
云
(
い
)
ひ、
272
困
(
こま
)
つた
者
(
もの
)
だなア。
273
貴族
(
きぞく
)
だとか
平民
(
へいみん
)
だとか
下
(
くだ
)
らぬ
形式
(
けいしき
)
に
捉
(
とら
)
はれて、
274
国家
(
こくか
)
の
大事
(
だいじ
)
を
思
(
おも
)
はぬお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
実
(
じつ
)
に
不忠
(
ふちゆう
)
不義
(
ふぎ
)
な
者
(
もの
)
だ。
275
なぜ
俺
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かないのか』
276
左守
(
さもり
)
『ぢやと
申
(
まを
)
してビクトリヤ
家
(
け
)
の
名誉
(
めいよ
)
にも
関係
(
くわんけい
)
致
(
いた
)
しますし、
277
又
(
また
)
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
汚
(
きたな
)
い
女
(
をんな
)
を
后
(
きさき
)
になさいましては、
278
第一
(
だいいち
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
権威
(
けんゐ
)
が
地
(
ち
)
に
堕
(
お
)
ち、
279
引
(
ひ
)
いては
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
の
侮
(
あなど
)
りを
受
(
う
)
け、
280
どうして
国家
(
こくか
)
が
治
(
をさ
)
まりませうか、
281
それ
計
(
ばか
)
りは
何卒
(
どうぞ
)
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へ
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひたいものです。
282
丸
(
まる
)
きり
気違
(
きちが
)
ひの
沙汰
(
さた
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
283
アール『ウン、
284
俺
(
わし
)
は
気違
(
きちが
)
ひ、
285
お
前
(
まへ
)
は
取違
(
とりちが
)
ひだ。
286
竹
(
たけ
)
に
鶯
(
うぐひす
)
、
287
梅
(
うめ
)
には
雀
(
すずめ
)
、
288
それは
木違
(
きちが
)
ひ、
289
鳥違
(
とりちが
)
ひといふぢやないか、
290
時代
(
じだい
)
の
趨勢
(
すうせい
)
を
考
(
かんが
)
へ、
291
上下
(
しやうか
)
一致
(
いつち
)
して
天下
(
てんか
)
の
経綸
(
けいりん
)
を
行
(
おこな
)
はねばならぬ
刹帝利
(
せつていり
)
の
身
(
み
)
で
在
(
あ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
292
下
(
くだ
)
らぬ
形式
(
けいしき
)
に
捉
(
とら
)
はれて、
293
貴族
(
きぞく
)
結婚
(
けつこん
)
を
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
能事
(
のうじ
)
としてるやうな
事
(
こと
)
で、
294
どうして
国家
(
こくか
)
が
治
(
をさ
)
まるか。
295
チツと
考
(
かんが
)
へてみよ』
296
左守
(
さもり
)
『あああ
困
(
こま
)
つた
問題
(
もんだい
)
が
突発
(
とつぱつ
)
したものだ。
297
こんな
事
(
こと
)
を
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げようものなら
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
叱
(
しか
)
られるか
分
(
わか
)
つたものでない。
298
為
(
す
)
まじき
者
(
もの
)
は
宮仕
(
みやづかへ
)
なりけりだ。
299
どうしたらよからうかな』
300
と
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
両眼
(
りやうがん
)
より
涙
(
なみだ
)
を
垂
(
た
)
らしてゐる。
301
アール『
父上
(
ちちうへ
)
やお
前
(
まへ
)
のやうな
頑固
(
ぐわんこ
)
連
(
れん
)
には
俺
(
おれ
)
の
精神
(
せいしん
)
は
分
(
わか
)
るものでない。
302
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
裁断
(
さいだん
)
を
請
(
こ
)
う
事
(
こと
)
にしてくれ、
303
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
なら、
304
いかに
頑固
(
ぐわんこ
)
な
父
(
ちち
)
でも
聞
(
き
)
くであらう』
305
左守
(
さもり
)
『
成程
(
なるほど
)
、
306
然
(
しか
)
らば
仰
(
おほせ
)
に
従
(
したが
)
ひ、
307
父上
(
ちちうへ
)
に
申上
(
まをしあ
)
げても、
308
只
(
ただ
)
一口
(
ひとくち
)
に
突飛
(
つきと
)
ばされますから、
309
之
(
これ
)
より
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
館
(
やかた
)
へ
参
(
まゐ
)
つて
伺
(
うかが
)
つて
参
(
まゐ
)
りませう。
310
そして
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
が
可
(
よ
)
いと
仰有
(
おつしや
)
れば、
311
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
に
掛合
(
かけあ
)
つて
頂
(
いただ
)
きませう。
312
何卒
(
どうぞ
)
それまでは
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
居間
(
ゐま
)
にお
忍
(
しの
)
びを
願
(
ねが
)
ひます、
313
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
様
(
さま
)
』
314
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
315
足早
(
あしばや
)
に
玄関口
(
げんくわんぐち
)
を
立出
(
たちい
)
で、
316
治国別
(
はるくにわけ
)
の
館
(
やかた
)
に
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く、
317
二人
(
ふたり
)
はアールの
居間
(
ゐま
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
しける。
318
(
大正一二・二・二一
旧一・六
於竜宮館
松村真澄
録)
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