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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
第1章 子宝
第2章 日出前
第3章 懸引
第4章 理妻
第5章 万違
第6章 執念
第2篇 恋愛無涯
第7章 婚談
第8章 祝莚
第9章 花祝
第10章 万亀柱
第3篇 猪倉城寨
第11章 道晴別
第12章 妖瞑酒
第13章 岩情
第14章 暗窟
第4篇 関所の玉石
第15章 愚恋
第16章 百円
第17章 火救団
第5篇 神光増進
第18章 真信
第19章 流調
第20章 建替
第21章 鼻向
第22章 凱旋
附録 神文
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
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第54巻(巳の巻)
> 第1篇 神授の継嗣 > 第6章 執念
<<< 万違
(B)
(N)
婚談 >>>
第六章
執念
(
しふねん
)
〔一三九二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第1篇 神授の継嗣
よみ(新仮名遣い):
しんじゅのけいし
章:
第6章 執念
よみ(新仮名遣い):
しゅうねん
通し章番号:
1392
口述日:
1923(大正12)年02月21日(旧01月6日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
治国別は松彦、竜公とともに左守のアールについての相談を聞いた。治国別は、左守の心配はもっともなれど、恋愛の中にいる両人は恋の殉教者の心境に立っているため、なるべく穏やかに治めるよう考えるのが得策だと答え、対応策を相談に入った。
万公はふすまの外から立ち聞きしてみれば、治国別が恋愛の擁護をしているようである。てっきり、師匠が自分の恋愛に助け船を出していると勘違いし、いつのまにか室内に入り込んで妙な声を出して恋愛擁護論を語りだした。
万公は、ダイヤ姫が自分に乗り移ってあんなことを言わせたのだと弁明したが、治国別は万公を注意して部屋を出て行かせた。
最後に治国別は、自分はアールの恋愛と結婚を支持する、と左守に伝えた。左守は意外の感に打たれながらも、こうなっては治国別の意見を刹帝利にぶつけてアールの縁談を結ぶ方向で進めるより仕方がないと腹を決めた。左守は治国別に礼を述べて帰って行く。
後に治国別は万公を呼び、左守に対する失礼な言動について油を搾った。竜公は、ダイヤ姫の縁談話があったかのように偽って、万公をからかう。
万公は、松彦に説明されて、ようやくアール王子と首陀の娘ハンナの結婚話が話題になっていたのだと悟った。しかし竜彦に、黄金山の御神業が終わるまで女のことから離れるよう諭されると、あくまでダイヤ姫への執着心を起こし、左守の後を追って、ダイヤ姫は他の誰とも結婚させないように頼み込んだ。
左守は、自分はアール王子の縁談を最後に、もう金輪際仲人みたいな気の揉めることはしないつもりだ、とだけ答えてさっさとビクトリヤ城の門を潜って中へ行ってしまった。
治国別は、万公がまた左守を困らせているのではないかと、松彦に言い含めて呼びにやらせた。松彦は、ビクトリヤ城の城門の前でポカンと空を眺めていた。松彦は万公をおどしたりなだめたり、やっとのことで治国別の館へ連れ帰った。
万公は、治国別の懇篤な訓戒を受けて、やってダイヤ姫に対する執着の念を断ち切りることになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5406
愛善世界社版:
75頁
八幡書店版:
第9輯 647頁
修補版:
校定版:
74頁
普及版:
36頁
初版:
ページ備考:
001
左守
(
さもり
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
み、
002
襖
(
ふすま
)
を
密閉
(
みつぺい
)
して、
003
松彦
(
まつひこ
)
、
004
竜彦
(
たつひこ
)
と
共
(
とも
)
にアールの
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
につき、
005
声
(
こゑ
)
を
潜
(
ひそ
)
めて
意見
(
いけん
)
を
聞
(
き
)
かむと、
006
有
(
あ
)
りし
顛末
(
てんまつ
)
を
物語
(
ものがた
)
つた。
007
左守
(
さもり
)
『
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
008
誠
(
まこと
)
に
心配
(
しんぱい
)
が
出来
(
でき
)
ました。
009
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
一方
(
いつぱう
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
の
家
(
いへ
)
、
010
一方
(
いつぱう
)
は
素性
(
すじやう
)
の
低
(
ひく
)
い
首陀
(
しゆだ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
011
何
(
ど
)
うしても
之
(
これ
)
は
体面
(
たいめん
)
上
(
じやう
)
成立
(
せいりつ
)
させる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なからうと
存
(
ぞん
)
じますが、
012
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いませうかな』
013
治国
(
はるくに
)
『
成程
(
なるほど
)
、
014
それはお
困
(
こま
)
りでせう、
015
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へねばなりますまい。
016
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
恋愛
(
れんあい
)
関係
(
くわんけい
)
計
(
ばか
)
りは、
017
到底
(
たうてい
)
如何
(
いか
)
なる
権威
(
けんゐ
)
を
以
(
もつ
)
てしても
制止
(
せいし
)
することは
出来
(
でき
)
ますまい。
018
凡
(
すべ
)
て
愛
(
あい
)
なるものは
自己
(
じこ
)
を
放棄
(
はうき
)
することに
依
(
よ
)
つて、
019
却
(
かへつ
)
て
自己
(
じこ
)
を
主張
(
しゆちやう
)
してゐるものですから、
020
愛
(
あい
)
の
終局
(
しうきよく
)
に
達
(
たつ
)
した
時
(
とき
)
は、
021
自己
(
じこ
)
の
地位
(
ちゐ
)
や
財産
(
ざいさん
)
などを
構
(
かま
)
ふものではない、
022
実
(
じつ
)
に
猛烈
(
まうれつ
)
なものですからな。
023
其
(
その
)
恋愛
(
れんあい
)
が
益々
(
ますます
)
嵩
(
かう
)
じて
強烈
(
きやうれつ
)
の
極度
(
きよくど
)
に
達
(
たつ
)
する
時
(
とき
)
は、
024
自己
(
じこ
)
の
生命
(
せいめい
)
も
惜
(
をし
)
まずに
喜
(
よろこ
)
んで
投出
(
なげだ
)
すに
至
(
いた
)
るものですから、
025
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
については
何程
(
なにほど
)
宣伝使
(
せんでんし
)
だとて
力
(
ちから
)
は
及
(
およ
)
びますまい。
026
国家
(
こくか
)
を
愛
(
あい
)
するが
為
(
ため
)
に、
027
主君
(
しゆくん
)
を
愛
(
あい
)
するが
為
(
ため
)
に、
028
又
(
また
)
は
金銭
(
きんせん
)
を
愛
(
あい
)
するが
為
(
ため
)
に、
029
全
(
まつた
)
く
他
(
た
)
を
顧
(
かへり
)
みずして
生命
(
せいめい
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
す
者
(
もの
)
があるのは、
030
世間
(
せけん
)
に
珍
(
めづ
)
らしくない
例
(
れい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
031
殊
(
こと
)
に
燃
(
も
)
ゆるが
如
(
ごと
)
き
宗教
(
しうけう
)
信念
(
しんねん
)
の
為
(
ため
)
に、
032
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
の
祭壇
(
さいだん
)
に
生命
(
せいめい
)
を
捧
(
ささ
)
げて
悔
(
く
)
いざる
殉教者
(
じゆんけうしや
)
の
如
(
ごと
)
きも、
033
殆
(
ほとん
)
ど
恋愛
(
れんあい
)
と
同
(
おな
)
じやうなものです。
034
此
(
この
)
強烈
(
きやうれつ
)
なる
恋愛
(
れんあい
)
を
目
(
もく
)
して
狭隘
(
けふあい
)
なる
自己
(
じこ
)
的
(
てき
)
行為
(
かうゐ
)
だとのみ
非難
(
ひなん
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
035
愛
(
あい
)
の
度
(
ど
)
の
強烈
(
きやうれつ
)
なるに
比
(
くら
)
べて
益々
(
ますます
)
集中
(
しふちう
)
的
(
てき
)
となることを
免
(
まぬ
)
がれませぬ。
036
従
(
したが
)
つて
恋愛
(
れんあい
)
に
於
(
おい
)
てそれが
最
(
もつと
)
も
狭隘
(
けふあい
)
らしく
見
(
み
)
えるのは、
037
たまたま
恋愛
(
れんあい
)
が
他
(
た
)
の
如何
(
いか
)
なる
愛
(
あい
)
よりも
強烈
(
きやうれつ
)
に
集中
(
しふちう
)
的
(
てき
)
でもあり、
038
熾熱
(
しねつ
)
の
最高度
(
さいかうど
)
に
達
(
たつ
)
するものを
証
(
しよう
)
して
居
(
を
)
りまする。
039
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
の
恋
(
こひ
)
は
殉教者
(
じゆんけうしや
)
が
教
(
をしへ
)
に
殉
(
じゆん
)
じて
悔
(
く
)
いざると
同様
(
どうやう
)
の
心境
(
しんきやう
)
に
立
(
た
)
つてゐるのですから、
040
可
(
な
)
る
成
(
べ
)
く
穏
(
おだや
)
かに
治
(
をさ
)
めなさつたが
得策
(
とくさく
)
だと
考
(
かんが
)
へます』
041
万公
(
まんこう
)
は
襖
(
ふすま
)
の
外
(
そと
)
から、
042
様子
(
やうす
)
如何
(
いか
)
にと
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
立聞
(
たちぎき
)
をしてゐたが、
043
治国別
(
はるくにわけ
)
の
答弁
(
たふべん
)
を
聞
(
き
)
いて、
044
……
何
(
なん
)
ともなしに
芳
(
かん
)
ばしい
言葉
(
ことば
)
だ。
045
そしてハツキリ
分
(
わか
)
らぬけれど、
046
体面
(
たいめん
)
だとか
首陀
(
しゆだ
)
だとか
言
(
い
)
ふ
言葉
(
ことば
)
が
聞
(
きこ
)
えたからは、
047
ヤツパリ
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
に
違
(
ちが
)
ひない。
048
治国別
(
はるくにわけ
)
さまも
偉
(
えら
)
いワイ、
049
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
の
贔屓
(
ひいき
)
をして
下
(
くだ
)
さる……と
打
(
う
)
ち
喜
(
よろこ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
050
尚
(
なほ
)
も
耳
(
みみ
)
をすまして
聞
(
き
)
いてゐる。
051
話
(
はなし
)
はだんだん
声
(
こゑ
)
が
低
(
ひく
)
くなりつつ
進
(
すす
)
んでゐる。
052
万公
(
まんこう
)
は
襖
(
ふすま
)
の
外
(
そと
)
に
自分
(
じぶん
)
が
立
(
た
)
つてゐるのを、
053
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
054
五寸
(
ごすん
)
許
(
ばか
)
り
襖
(
ふすま
)
をあけてヌツと
顔
(
かほ
)
を
出
(
だ
)
した。
055
されど
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
頭
(
あたま
)
を
一緒
(
いつしよ
)
に
鳩
(
あつ
)
めて、
056
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
に
頭
(
あたま
)
を
痛
(
いた
)
めてゐるので、
057
万公
(
まんこう
)
が
覗
(
のぞ
)
いてるのに
気
(
き
)
がつかなかつた。
058
万公
(
まんこう
)
はソツと
竜彦
(
たつひこ
)
の
後
(
うしろ
)
ににじり
寄
(
よ
)
り、
059
俯
(
うつむ
)
いて
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
060
女
(
をんな
)
の
優
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
で、
061
万公
(
まんこう
)
『
恋愛
(
れんあい
)
の
心境
(
しんきやう
)
に
於
(
おい
)
てのみ、
062
人間
(
にんげん
)
は
最
(
もつと
)
も
完全
(
くわんぜん
)
なる
人
(
ひと
)
であり
得
(
う
)
るのです。
063
それに
一生
(
いつしやう
)
の
間
(
あひだ
)
、
064
一度
(
いちど
)
も
恋
(
こひ
)
を
味
(
あぢ
)
はつた
事
(
こと
)
のないやうな
人間
(
にんげん
)
、
065
又
(
また
)
終身
(
しうしん
)
全
(
まつた
)
く
異性
(
いせい
)
に
接
(
せつ
)
しないやうな
人間
(
にんげん
)
には、
066
人
(
ひと
)
として
必
(
かなら
)
ずどこかに
大
(
だい
)
なる
欠陥
(
けつかん
)
のあるものですよ。
067
ねえ
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
068
一切
(
いつさい
)
の
人間愛
(
にんげんあい
)
の
源泉
(
げんせん
)
が
性欲
(
せいよく
)
にあるのは、
069
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
の
神律
(
しんりつ
)
でせう、
070
性欲
(
せいよく
)
がなければ
恋愛
(
れんあい
)
はありませぬ。
071
恋愛
(
れんあい
)
がなければ
一切
(
いつさい
)
の
愛
(
あい
)
なる
者
(
もの
)
はありませぬよ』
072
治国別
(
はるくにわけ
)
一同
(
いちどう
)
は
俄
(
にはか
)
に
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がして
来
(
き
)
たと、
073
一度
(
いちど
)
に
顔
(
かほ
)
を
上
(
あ
)
げて
見
(
み
)
れば、
074
竜彦
(
たつひこ
)
の
後
(
うしろ
)
に
小
(
ちひ
)
さくなつて
万公
(
まんこう
)
が
慄
(
ふる
)
うてゐる。
075
左守
(
さもり
)
は
早
(
はや
)
くも
自分
(
じぶん
)
の
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
万公
(
まんこう
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
076
左守
(
さもり
)
『オツホホホホ、
077
万公
(
まんこう
)
さまが
秘密
(
ひみつ
)
会議
(
くわいぎ
)
の
席上
(
せきじやう
)
へおみえになつて
居
(
を
)
ります。
078
これ
万公
(
まんこう
)
さま
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
079
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さまのことぢやありませぬからなア』
080
治国
(
はるくに
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
さま、
081
何
(
なん
)
だ、
082
妙
(
めう
)
な
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
したぢやないか。
083
なぜあちらに
番
(
ばん
)
をしてゐないのか』
084
万公
(
まんこう
)
『ハイ、
085
何
(
なん
)
だか
存
(
ぞん
)
じませぬが、
086
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
さまが
私
(
わたくし
)
にパツとのり
憑
(
うつ
)
り、
087
こんな
所
(
ところ
)
へ
引摺
(
ひきず
)
つて
来
(
き
)
たのです。
088
そしてあんな
優
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
で
何
(
なん
)
だか
仰有
(
おつしや
)
いました』
089
治国
(
はるくに
)
『
馬鹿
(
ばか
)
に
致
(
いた
)
すな、
090
サ、
091
早
(
はや
)
く
彼方
(
あちら
)
へ
行
(
ゆ
)
け、
092
グヅグヅしてゐると
尻尾
(
しつぽ
)
が
見
(
み
)
えるぞ』
093
万公
(
まんこう
)
は
不承
(
ふしよう
)
無承
(
ぶしよう
)
に
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
りふり
返
(
かへ
)
り
表
(
おもて
)
へ
厭
(
いや
)
相
(
さう
)
に
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
094
治国
(
はるくに
)
『ハハハ、
095
左守
(
さもり
)
さま、
096
困
(
こま
)
つたものですよ。
097
彼奴
(
あいつ
)
は
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
春情立
(
にわだ
)
つて
居
(
を
)
りますので、
098
困
(
こま
)
りますよ。
099
併
(
しか
)
しアールさまの
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
は
大体
(
だいたい
)
に
於
(
おい
)
て
私
(
わたくし
)
は
賛成
(
さんせい
)
致
(
いた
)
します。
100
何卒
(
どうぞ
)
其処
(
そこ
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
によく
取持
(
とりも
)
つて、
101
此
(
この
)
話
(
はなし
)
をつけて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さい』
102
左守
(
さもり
)
は
案外
(
あんぐわい
)
な
治国別
(
はるくにわけ
)
の
挨拶
(
あいさつ
)
に
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
103
万一
(
まんいち
)
刹帝利
(
せつていり
)
が
不服
(
ふふく
)
を
称
(
とな
)
へられた
時
(
とき
)
は、
104
治国別
(
はるくにわけ
)
さまを
頭
(
あたま
)
にふりかざし、
105
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
を
結
(
むす
)
ぶより
仕方
(
しかた
)
あるまいと
決心
(
けつしん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
106
叮嚀
(
ていねい
)
に
礼
(
れい
)
を
述
(
の
)
べ、
107
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
108
後
(
あと
)
に
治国別
(
はるくにわけ
)
は
万公
(
まんこう
)
を
近
(
ちか
)
く
招
(
まね
)
き、
109
治国
(
はるくに
)
『
万公
(
まんこう
)
、
110
お
前
(
まへ
)
は
左守司
(
さもりのかみ
)
を
相手
(
あひて
)
に
大変
(
たいへん
)
吹
(
ふ
)
いてゐたぢやないか。
111
チツと
心得
(
こころえ
)
て
貰
(
もら
)
はぬと
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
顔
(
かほ
)
に
係
(
かか
)
はるぢやないか』
112
万公
(
まんこう
)
『ヘー、
113
そらさうでせうが
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
一生
(
いつしやう
)
一代
(
いちだい
)
の
私
(
わたくし
)
に
取
(
と
)
つて
大問題
(
だいもんだい
)
ですから、
114
チツとは
火花
(
ひばな
)
も
散
(
ち
)
らしたでせう。
115
何
(
ど
)
うです、
116
都合好
(
つがふよ
)
く
話
(
はなし
)
をして
下
(
くだ
)
さいましたかな』
117
治国
(
はるくに
)
『ウーン』
118
竜彦
(
たつひこ
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
、
119
先生
(
せんせい
)
が
千言
(
せんげん
)
万語
(
まんご
)
を
費
(
つひや
)
し、
120
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
に
非常
(
ひじやう
)
に
斡旋
(
あつせん
)
の
労
(
らう
)
をとられたが、
121
肝心
(
かんじん
)
の
所
(
ところ
)
へ
襖
(
ふすま
)
をあけて
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
122
ダイヤ
様
(
さま
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つたり
致
(
いた
)
すものだから、
123
左守司
(
さもりのかみ
)
もたうとう
愛想
(
あいさう
)
をつかし……
見下
(
みさ
)
げ
果
(
は
)
てたる
男
(
をとこ
)
だ。
124
何程
(
なにほど
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
がラブされても
私
(
わたし
)
の
目
(
め
)
の
黒
(
くろ
)
い
内
(
うち
)
は
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
は
結
(
むす
)
ばせない。
125
本当
(
ほんたう
)
に
下劣
(
げれつ
)
な
人格者
(
じんかくしや
)
だ……と
云
(
い
)
つて、
126
愛想
(
あいさう
)
をつかして
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
127
それで
虻蜂取
(
あぶはちと
)
らずになつて
了
(
しま
)
つた。
128
貴様
(
きさま
)
も
下劣
(
へた
)
な
事
(
こと
)
をしたものだなア』
129
万公
(
まんこう
)
『ヤア、
130
其奴
(
そいつ
)
は
困
(
こま
)
つた。
131
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
当人
(
たうにん
)
と
当人
(
たうにん
)
との
精神
(
せいしん
)
が
結合
(
けつがふ
)
してゐるのだから、
132
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
133
竜彦
(
たつひこ
)
さま
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい、
134
キツと、
135
コリヤ、
136
早
(
はや
)
かれ
遅
(
おそ
)
かれ
成功
(
せいこう
)
しますからなア』
137
竜彦
(
たつひこ
)
『お
前
(
まへ
)
、
138
妻君
(
さいくん
)
を
貰
(
もら
)
うてどうする
心算
(
つもり
)
だ。
139
先生
(
せんせい
)
は
吾々
(
われわれ
)
と、
140
此
(
この
)
お
宮
(
みや
)
が
落成
(
らくせい
)
と
共
(
とも
)
に、
141
黄金山
(
わうごんざん
)
に
向
(
むか
)
つてお
越
(
こ
)
しになるのだから、
142
貴様
(
きさま
)
もお
伴
(
とも
)
をせねばなるまい。
143
あんな
子供
(
こども
)
を
女房
(
にようばう
)
だと
云
(
い
)
つて
伴
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
は
許
(
ゆる
)
されまい。
144
貴様
(
きさま
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
はやめる
心算
(
つもり
)
かなア』
145
万公
(
まんこう
)
『
妻君
(
さいくん
)
を
持
(
も
)
つたが
為
(
ため
)
に、
146
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
が
出来
(
でき
)
ぬと
云
(
い
)
う
事
(
こと
)
があるかい、
147
よく
考
(
かんが
)
へてみよ、
148
先生
(
せんせい
)
だつて、
149
松彦
(
まつひこ
)
さまだつて
皆
(
みな
)
立派
(
りつぱ
)
な
奥
(
おく
)
さまがあるぢやないか。
150
俺
(
おれ
)
に
妻君
(
さいくん
)
があるからと
云
(
い
)
つてお
伴
(
とも
)
をささぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
151
そらチト
得手
(
えて
)
勝手
(
かつて
)
だ。
152
貴様
(
きさま
)
の
悋気
(
りんき
)
で
言
(
い
)
ふのだらう』
153
松彦
(
まつひこ
)
『アハハハハ、
154
オイ
万公
(
まんこう
)
、
155
お
門
(
かど
)
が
違
(
ちが
)
ふのだ。
156
お
前
(
まへ
)
の
話
(
はなし
)
だない、
157
アールさまの
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
でお
越
(
こ
)
しになつたのだから
心配
(
しんぱい
)
するな。
158
そして
此
(
この
)
竜彦
(
たつひこ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
嘘
(
うそ
)
だよ。
159
お
前
(
まへ
)
が
余
(
あま
)
り
逆上
(
のぼ
)
せてゐるから
揶揄
(
からか
)
はれるのだ』
160
万公
(
まんこう
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ、
161
天国
(
てんごく
)
迄
(
まで
)
探険
(
たんけん
)
した
竜彦
(
たつひこ
)
とあるものが、
162
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
つてすむか。
163
オイ
竜彦
(
たつひこ
)
、
164
どうだ。
165
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
け、
166
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
に
仍
(
よ
)
つて
俺
(
おれ
)
にも
考
(
かんが
)
へがある』
167
竜彦
(
たつひこ
)
『
考
(
かんが
)
へがあるとは、
168
何
(
ど
)
うすると
云
(
い
)
ふのだ。
169
俺
(
おれ
)
が
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
つたと
云
(
い
)
つて、
170
貴様
(
きさま
)
はせめるが、
171
貴様
(
きさま
)
も
随分
(
ずいぶん
)
左守司
(
さもりのかみ
)
に
歌
(
うた
)
迄
(
まで
)
うたつて、
172
上手
(
じやうず
)
に
嘘
(
うそ
)
を
並
(
なら
)
べ、
173
内兜
(
うちかぶと
)
を
見
(
み
)
すかされ、
174
屁古垂
(
へこた
)
れたでないか』
175
万公
(
まんこう
)
『ウーン、
176
ソラさうだ。
177
そんならモウ、
178
此奴
(
こいつ
)
ア
帳消
(
ちやうけ
)
しにしよう。
179
併
(
しか
)
しアールさまの
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
とは、
180
一方
(
いつぱう
)
は
誰
(
たれ
)
だ。
181
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
かしてくれないか』
182
竜彦
(
たつひこ
)
『
余
(
あま
)
りハンナ……りせぬ
話
(
はなし
)
だが、
183
縁
(
えん
)
は
何
(
ど
)
うやらアールと
見
(
み
)
えるワイ、
184
アハハハハ。
185
万公
(
まんこう
)
お
前
(
まへ
)
も
熱心
(
ねつしん
)
が
届
(
とど
)
いたら、
186
又
(
また
)
お
菊
(
きく
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になれるかも
知
(
し
)
れぬから、
187
余
(
あま
)
り
落胆
(
らくたん
)
せずに、
188
黄金山
(
わうごんざん
)
の
御用
(
ごよう
)
がすむ
迄
(
まで
)
、
189
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はないやうにしたらどうだ』
190
万公
(
まんこう
)
『ヘン、
191
馬鹿
(
ばか
)
にして
貰
(
もら
)
ふまいかい。
192
お
菊
(
きく
)
なんて、
193
古
(
ふる
)
めかしいワ、
194
俺
(
おれ
)
は
何
(
ど
)
うしてもダイヤ
姫
(
ひめ
)
だ。
195
一番
(
いちばん
)
がけに
俺
(
おれ
)
が
手
(
て
)
をかけて
助
(
たす
)
けた
女
(
をんな
)
だからな。
196
どうしても
向
(
むか
)
ふは
俺
(
おれ
)
に
対
(
たい
)
しては、
197
何者
(
なにもの
)
かが
残
(
のこ
)
つてゐるのだ。
198
それをば
無下
(
むげ
)
に
放棄
(
はうき
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
199
男
(
をとこ
)
として
人情
(
にんじやう
)
を
弁
(
わきま
)
へぬと
云
(
い
)
ふものだから、
200
仮令
(
たとへ
)
三年先
(
さんねんさき
)
でも
十年先
(
じふねんさき
)
でも
構
(
かま
)
はぬ、
201
男
(
をとこ
)
の
一心
(
いつしん
)
岩
(
いは
)
でもつきぬく
程
(
てい
)
の
大
(
だい
)
金剛心
(
こんがうしん
)
を
以
(
もつ
)
て、
202
どこ
迄
(
まで
)
もやりぬく
心算
(
つもり
)
だ』
203
竜彦
(
たつひこ
)
『
何
(
なん
)
とエライ
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
したものだなア、
204
其
(
その
)
しやつ
面
(
つら
)
で、
205
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
のバチュウンカ(
旦那
(
だんな
)
)にならうとは
余
(
あま
)
り
虫
(
むし
)
が
好
(
よ
)
すぎるぞ。
206
そんな
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ふよりも、
207
なぜ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
励
(
はげ
)
まないのか』
208
万公
(
まんこう
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ。
209
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
と
人
(
ひと
)
の
愛
(
あい
)
とは
又
(
また
)
別
(
べつ
)
だ、
210
神
(
かみ
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
てば
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
、
211
人
(
ひと
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
てば
人
(
ひと
)
の
愛
(
あい
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
遂行
(
すゐかう
)
するのが
人間
(
にんげん
)
の
道
(
みち
)
だ。
212
一寸
(
ちよつと
)
先生
(
せんせい
)
、
213
俄
(
にはか
)
に
便
(
べん
)
が
催
(
もよほ
)
しましたから
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します』
214
と
万公
(
まんこう
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
外
(
はづ
)
し、
215
裏口
(
うらぐち
)
から
左守司
(
さもりのかみ
)
の
後
(
あと
)
を
逐
(
お
)
うて、
216
抜
(
ぬ
)
け
道
(
みち
)
から
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
217
左守司
(
さもりのかみ
)
は
老
(
おい
)
の
足許
(
あしもと
)
トボトボと
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
漸
(
やうや
)
く
城門前
(
じやうもんまへ
)
の
馬場
(
ばば
)
に
着
(
つ
)
いた。
218
万公
(
まんこう
)
はチヤンと
先
(
さき
)
へ
廻
(
まは
)
つて、
219
万公
(
まんこう
)
『ヤア
之
(
こ
)
れは
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
220
遠方
(
ゑんぱう
)
の
所
(
ところ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
221
エエ
承
(
うけたま
)
はりますれば、
222
アール
様
(
さま
)
と、
223
ハンナとかいふお
方
(
かた
)
との
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
がととのうたやうな
塩梅
(
あんばい
)
で、
224
さぞさぞ
貴方
(
あなた
)
も
御
(
お
)
骨折
(
ほねをり
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
225
人間
(
にんげん
)
は
一生
(
いつしやう
)
に
一度
(
いちど
)
は
何
(
ど
)
うしても
仲介人
(
なかうど
)
をせなくては、
226
人間
(
にんげん
)
の
役
(
やく
)
がすまぬと
云
(
い
)
う
事
(
こと
)
ですが、
227
それは
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
の
事
(
こと
)
、
228
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもビク
一国
(
いつこく
)
の
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
229
到底
(
たうてい
)
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
の
仲介人
(
なかうど
)
では、
230
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
御
(
ご
)
責任
(
せきにん
)
がすみますまい。
231
ついては
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
御
(
ご
)
兄妹
(
きやうだい
)
様
(
さま
)
、
232
皆
(
みな
)
貴方
(
あなた
)
が
御
(
お
)
仲介人
(
なかうど
)
を
遊
(
あそ
)
ばすに
違
(
ちが
)
ひ
厶
(
ござ
)
いますまい。
233
何卒
(
どうぞ
)
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
丈
(
だけ
)
は、
234
まだお
年
(
とし
)
も
若
(
わか
)
いなり、
235
どこから
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
来
(
き
)
ましても
何卒
(
どうぞ
)
取合
(
とりあは
)
ないやうにしておいて
下
(
くだ
)
さいませ。
236
それ
丈
(
だけ
)
神勅
(
しんちよく
)
に
仍
(
よ
)
つて、
237
ソツと
万公
(
まんこう
)
が
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
を
申
(
まを
)
しておきます』
238
左守
(
さもり
)
『アハハハハ、
239
宜
(
よろ
)
しい
宜
(
よろ
)
しい、
240
まだ
年
(
とし
)
も
若
(
わか
)
いなり、
241
又
(
また
)
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くでせう。
242
私
(
わたし
)
はモウ
此
(
この
)
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
が
纒
(
まと
)
まつたら、
243
縁談
(
えんだん
)
の
仲介人
(
なかうど
)
は
之
(
こ
)
れぎり
御
(
お
)
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
す
心算
(
つもり
)
だ。
244
こんな
心配
(
しんぱい
)
な
事
(
こと
)
はないからなア』
245
と
体
(
てい
)
よくつつ
放
(
ぱな
)
し、
246
サツサと
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
り
入
(
い
)
る。
247
万公
(
まんこう
)
は
後姿
(
うしろすがた
)
を
見送
(
みおく
)
り、
248
ポカンとして
口
(
くち
)
をあけたままテレ
臭
(
くさ
)
いやうな
顔
(
かほ
)
して
立
(
た
)
つてゐる。
249
治国別
(
はるくにわけ
)
は
万公
(
まんこう
)
の
便所
(
べんじよ
)
へ
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
たきり、
250
どこにも
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えぬので、
251
……
大方
(
おほかた
)
左守
(
さもり
)
の
後
(
あと
)
を
逐
(
お
)
うて、
252
せうもない
事
(
こと
)
を
頼
(
たの
)
みに
行
(
い
)
つたのではあらうまいか、
253
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ、
254
コレヤ
誰
(
たれ
)
か
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
はねばなるまい……と
松彦
(
まつひこ
)
をソツと
招
(
まね
)
き
耳打
(
みみうち
)
した。
255
松彦
(
まつひこ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にビクトリヤ
城
(
じやう
)
を
指
(
さ
)
して
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
256
門前
(
もんぜん
)
に
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
ると、
257
万公
(
まんこう
)
が
奴拍子
(
どびやうし
)
のぬけた
顔
(
かほ
)
して、
258
烏
(
からす
)
や
鳶
(
とび
)
の
中空
(
なかぞら
)
に
舞
(
ま
)
うてゐるのをポカンと
眺
(
なが
)
めてゐる。
259
松彦
(
まつひこ
)
は
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
万公
(
まんこう
)
の
側
(
そば
)
によつて、
260
『オイ』と
一声
(
ひとこゑ
)
、
261
肩
(
かた
)
に
手
(
て
)
をかけて
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つゆすつた。
262
万公
(
まんこう
)
は
吃驚
(
びつくり
)
して、
263
万公
(
まんこう
)
『
誰
(
たれ
)
ぢやい、
264
人
(
ひと
)
をおどかしやがつて……』
265
と
振返
(
ふりかへ
)
りみれば
松彦
(
まつひこ
)
であつた。
266
松彦
(
まつひこ
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
、
267
偉
(
えら
)
い
遠
(
とほ
)
い
雪隠
(
せつちん
)
だなア』
268
万公
(
まんこう
)
『ナアニ、
269
別
(
べつ
)
に
遠
(
とほ
)
い
事
(
こと
)
もありませぬ、
270
雪隠
(
せつちん
)
の
窓
(
まど
)
から
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
を
)
つたら、
271
鳶
(
とび
)
と
烏
(
からす
)
がつるんでをつたので、
272
此奴
(
こいつ
)
、
273
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
だなア、
274
大方
(
おほかた
)
刹帝利
(
せつていり
)
の
娘
(
むすめ
)
と
首陀
(
しゆだ
)
の
息子
(
むすこ
)
とが
婚礼
(
こんれい
)
をする
前兆
(
ぜんてう
)
だと
思
(
おも
)
つたものですから、
275
突止
(
つきと
)
めやうとここ
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
、
276
たうとうここでパツと
放
(
はな
)
れ、
277
あの
通
(
とほ
)
り
中空
(
ちうくう
)
を
翔
(
かけ
)
つてをるのですよ。
278
何
(
なん
)
とマア
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
があるものですなア』
279
松彦
(
まつひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
280
鳶
(
とび
)
と
烏
(
からす
)
がさかるといふ
事
(
こと
)
があるかい』
281
万公
(
まんこう
)
『サ、
282
それが
不思議
(
ふしぎ
)
だから、
283
かうして
見
(
み
)
てゐるのです。
284
天
(
てん
)
がかうして
標本
(
へうほん
)
を
見
(
み
)
せてる
以上
(
いじやう
)
は、
285
キツと
首陀
(
しゆだ
)
の
息子
(
むすこ
)
に
刹帝利
(
せつていり
)
の
娘
(
むすめ
)
が
結婚
(
けつこん
)
を
申込
(
まをしこ
)
み、
286
目出
(
めで
)
たく
合衾
(
がふきん
)
の
式
(
しき
)
をあげるやうになるかも
知
(
し
)
れませぬで。
287
松彦
(
まつひこ
)
さま、
288
お
前
(
まへ
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
奥
(
おく
)
さまがあるから
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
に
付
(
つ
)
いては
門外漢
(
もんぐわいかん
)
だ。
289
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
研究中
(
けんきうちう
)
だから
邪魔
(
じやま
)
をしないやうにして
下
(
くだ
)
さい。
290
既婚者
(
きこんしや
)
と
未婚者
(
みこんしや
)
と
同一
(
どういつ
)
に
扱
(
あつか
)
つちや
困
(
こま
)
りますからな』
291
松彦
(
まつひこ
)
『エエ
困
(
こま
)
つた
男
(
をとこ
)
だなア。
292
お
前
(
まへ
)
はそんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
293
左守
(
さもり
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ、
294
恥
(
はぢ
)
をかかされたのだらう、
295
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
一行
(
いつかう
)
の
好
(
よ
)
い
面汚
(
つらよご
)
しだ。
296
これから
暇
(
ひま
)
をやるから、
297
小北山
(
こぎたやま
)
へなと
帰
(
かへ
)
つて、
298
お
菊
(
きく
)
さまの
弄物
(
おもちや
)
にでもなつて
来
(
こ
)
い。
299
治国別
(
はるくにわけ
)
さまが、
300
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
師弟
(
してい
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
ると
云
(
い
)
つて、
301
大変
(
たいへん
)
に
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
だぞ』
302
万公
(
まんこう
)
『ああどうも
粋
(
すゐ
)
の
利
(
き
)
かぬ
先生
(
せんせい
)
についてゐると、
303
面白
(
おもしろ
)
くないなア。
304
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らこんな
所
(
ところ
)
でつつ
放
(
ぱな
)
されちや、
305
こつちも
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
たず、
306
マア
辛抱
(
しんばう
)
して、
307
黄金山
(
わうごんざん
)
迄
(
まで
)
お
伴
(
とも
)
をさして
頂
(
いただ
)
かうかなア』
308
松彦
(
まつひこ
)
『ソレヤならぬ、
309
どうしてもお
前
(
まへ
)
は
師弟
(
してい
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
ると、
310
一旦
(
いつたん
)
仰有
(
おつしや
)
つたからは、
311
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
駄目
(
だめ
)
だ、
312
サ、
313
ここに
旅費
(
りよひ
)
を
預
(
あづ
)
かつて
来
(
き
)
たから、
314
之
(
これ
)
を
持
(
も
)
つて
小北山
(
こぎたやま
)
迄
(
まで
)
帰
(
かへ
)
れ』
315
万公
(
まんこう
)
『
竜彦
(
たつひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
316
甘
(
うま
)
く
先生
(
せんせい
)
の
喉
(
のど
)
の
下
(
した
)
へ
這入
(
はい
)
りやがつて、
317
俺
(
おれ
)
の
恋人
(
こひびと
)
をせしめやうと
企
(
たく
)
んでゐるのだなア、
318
さうだらう。
319
万公
(
まんこう
)
さまが
居
(
を
)
ると
一寸
(
ちよつと
)
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
いから……』
320
松彦
(
まつひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
云
(
い
)
ふな、
321
竜彦
(
たつひこ
)
はそんな
男
(
をとこ
)
ぢやないぞ。
322
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
323
御用
(
ごよう
)
の
途中
(
とちう
)
に
女
(
をんな
)
に
目
(
め
)
をくれるやうな
腐
(
くさ
)
れ
男
(
をとこ
)
ぢやない。
324
そんな
事
(
こと
)
をいうと
竜彦
(
たつひこ
)
に
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でたまらないワイ。
325
自分
(
じぶん
)
の
卑
(
いや
)
しい
心
(
こころ
)
を
土台
(
どだい
)
にして
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
忖度
(
そんたく
)
しようとは、
326
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬにも
程
(
ほど
)
があるぢやないか』
327
万公
(
まんこう
)
『ヘン、
328
仰有
(
おつしや
)
いますわい、
329
治国別
(
はるくにわけ
)
の
貴方
(
あなた
)
は
弟
(
おとうと
)
なり、
330
竜彦
(
たつひこ
)
さまは
義理
(
ぎり
)
の
弟
(
おとうと
)
、
331
兄弟
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
肚
(
はら
)
を
合
(
あは
)
して、
332
他人
(
たにん
)
の
万公
(
まんこう
)
さまを
体
(
てい
)
よく
排斥
(
はいせき
)
する
心算
(
つもり
)
だなア。
333
口
(
くち
)
で
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つても、
334
ヤツパリ
身贔屓
(
みびいき
)
をなさると
見
(
み
)
えるワイ。
335
ドーレ、
336
之
(
これ
)
から
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
つてお
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
不公平
(
ふこうへい
)
な
処置
(
しよち
)
を
一切
(
いつさい
)
合切
(
がつさい
)
陳情
(
ちんじやう
)
するから、
337
其
(
その
)
心算
(
つもり
)
でをれ。
338
こんな
旅費
(
りよひ
)
は
要
(
い
)
らぬワイ』
339
と
松彦
(
まつひこ
)
の
渡
(
わた
)
した
金
(
かね
)
を
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
投
(
な
)
げつけてしまつた。
340
松彦
(
まつひこ
)
は
身贔屓
(
みびいき
)
すると
言
(
い
)
はれて
大
(
おほい
)
に
弱
(
よわ
)
り、
341
一応
(
いちおう
)
治国別
(
はるくにわけ
)
に
頼
(
たの
)
んで
再
(
ふたた
)
び
万公
(
まんこう
)
の
罪
(
つみ
)
を
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
き、
342
黄金山
(
わうごんざん
)
まで
御用
(
ごよう
)
のお
伴
(
とも
)
にさしてやらうと
決心
(
けつしん
)
し、
343
いろいろと
宥
(
なだ
)
めて
万公
(
まんこう
)
をたらしつ、
344
賺
(
すか
)
しつ、
345
治国別
(
はるくにわけ
)
の
館
(
やかた
)
へ
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
となつた。
346
そして
万公
(
まんこう
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
の
懇篤
(
こんとく
)
なる
訓戒
(
くんかい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
347
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
に
対
(
たい
)
する
執着
(
しふちやく
)
の
念
(
ねん
)
をヤツと
断
(
た
)
ち
切
(
き
)
る
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
たりける。
348
(
大正一二・二・二一
旧一・六
於竜宮館
松村真澄
録)
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