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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
第1章 子宝
第2章 日出前
第3章 懸引
第4章 理妻
第5章 万違
第6章 執念
第2篇 恋愛無涯
第7章 婚談
第8章 祝莚
第9章 花祝
第10章 万亀柱
第3篇 猪倉城寨
第11章 道晴別
第12章 妖瞑酒
第13章 岩情
第14章 暗窟
第4篇 関所の玉石
第15章 愚恋
第16章 百円
第17章 火救団
第5篇 神光増進
第18章 真信
第19章 流調
第20章 建替
第21章 鼻向
第22章 凱旋
附録 神文
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第54巻(巳の巻)
> 第4篇 関所の玉石 > 第16章 百円
<<< 愚恋
(B)
(N)
火救団 >>>
第一六章
百円
(
ひやくゑん
)
〔一四〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第4篇 関所の玉石
よみ(新仮名遣い):
せきしょのぎょくせき
章:
第16章 百円
よみ(新仮名遣い):
ひゃくえん
通し章番号:
1402
口述日:
1923(大正12)年02月23日(旧01月8日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
次に妖仙という医者の爺がやってきた。赤の守衛に見立て違いや薬の押し売りを責められたが、これも理屈をこねて自分が正しいを言い張り、白の守衛に審判庭に引き込まれてしまった。
続いて、人尾威四郎と名乗る弁護士がやってきた。赤の守衛は、小作人を扇動して騒ぎを起こし、逮捕された者の弁護を請け負うという人尾の罪を責めたが、人尾は自分が霊界の裁判官の目を覚ましてやると言って堂々と審判庭に入って行く。
次にやってきた要助という男は、女にだまされて父親の金を貢ぎ、父親に追いかけられてライオン川に投身したという。守衛は、要助の寿命はまだ残っていたが、父親が引き上げた要助の身体を埋葬してしまったので、要助に中有界で四十年ほどの修業を命じた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-04-14 16:25:28
OBC :
rm5416
愛善世界社版:
195頁
八幡書店版:
第9輯 691頁
修補版:
校定版:
197頁
普及版:
91頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
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:
出口王仁三郎著作集 > 第二巻 変革と平和 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 百円
001
懐
(
ふところ
)
の
寒
(
さむ
)
きが
故
(
ゆゑ
)
に
藪医者
(
やぶいしや
)
は
002
薬
(
くすり
)
にまでも
風
(
かぜ
)
ひかせけり
003
(病井妖仙)
『あああ、
004
どつかそこらに
香
(
かん
)
ばしい
病人
(
びやうにん
)
がないかと
捜
(
さが
)
してみたが、
005
野
(
の
)
たれ、
006
行倒
(
ゆきだふ
)
れ
計
(
ばか
)
りで、
007
根
(
ね
)
つから
金
(
かね
)
をくれさうな
奴
(
やつ
)
もなし、
008
こんな
所
(
ところ
)
へ
迷
(
まよ
)
つて
来
(
き
)
た。
009
これだから、
010
内
(
うち
)
の
嬶
(
かか
)
が
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
むな
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
むなといつも
言
(
い
)
ひよるのだけれど、
011
医者
(
いしや
)
の
養生
(
やうじやう
)
知
(
し
)
らずといつて、
012
どうも
節制
(
せつせい
)
が
守
(
まも
)
れないものだ。
013
余
(
あま
)
り
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
が
賢
(
かしこ
)
うなつて、
014
衛生
(
ゑいせい
)
とか
運動
(
うんどう
)
とかに
注意
(
ちうい
)
をし
出
(
だ
)
したので、
015
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
壮健
(
さうけん
)
になり、
016
妖仙
(
えうせん
)
さまの
懐
(
ふところ
)
は
益々
(
ますます
)
御
(
ご
)
衰弱
(
すゐじやく
)
遊
(
あそ
)
ばす、
017
困
(
こま
)
つたことだなア。
018
去年
(
きよねん
)
仕入
(
しい
)
れた
薬
(
くすり
)
は
風
(
かぜ
)
を
引
(
ひ
)
く、
019
だと
云
(
い
)
つて、
020
ヤツパリ
元
(
もと
)
がかかつてゐるのだから、
021
病人
(
びやうにん
)
に
呑
(
のま
)
して
金
(
かね
)
にせなくちや
会計
(
くわいけい
)
は
立
(
た
)
たず、
022
呑
(
の
)
ましても
呑
(
の
)
ましても
直
(
なほ
)
らぬものだから、
023
彼奴
(
あいつ
)
ア
竹
(
たけ
)
の
子
(
こ
)
だ、
024
藪医
(
やぶい
)
竹庵
(
ちくあん
)
だ、
025
と
仕様
(
しやう
)
もない
噂
(
うはさ
)
を
立
(
た
)
てられ
門前
(
もんぜん
)
雀羅
(
じやくら
)
を
張
(
は
)
つて、
026
実
(
じつ
)
に
惨
(
みじめ
)
なものだ、
027
どこぞ
好
(
よ
)
い
患者
(
くわんじや
)
があれば、
028
一
(
ひと
)
つ
取
(
と
)
つつかまへたいものだなア』
029
と
独言
(
ひとりご
)
ちつつ、
030
八衢
(
やちまた
)
の
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
らうとする
茶瓶爺
(
ちやびんおやぢ
)
があつた。
031
赤
(
あか
)
『コレヤコレヤ
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
て、
032
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
何者
(
なにもの
)
だ』
033
医
(
い
)
(病井妖仙)
『ハイ、
034
拙者
(
せつしや
)
は
仁術
(
じんじゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
家業
(
かげふ
)
と
致
(
いた
)
す
国手
(
こくしゆ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
035
何
(
なん
)
ぞ
用
(
よう
)
が
厶
(
ござ
)
るかな。
036
病気
(
びやうき
)
とあらば
拙者
(
せつしや
)
が
脈
(
みやく
)
をみてやらうかな』
037
赤
(
あか
)
『
俺
(
おれ
)
は
至極
(
しごく
)
健全
(
けんぜん
)
だ、
038
医者
(
いしや
)
なんかに
用
(
よう
)
はない』
039
医
(
い
)
(病井妖仙)
『ああさうかな、
040
さうすれば
私
(
わたし
)
に
用
(
よう
)
のない
人
(
ひと
)
だ。
041
私
(
わたし
)
と
親密
(
しんみつ
)
な
交際
(
かうさい
)
をする
者
(
もの
)
は
病家
(
びやうか
)
計
(
ばか
)
りだ。
042
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
何
(
なん
)
だか
三五教
(
あななひけう
)
とかいふ
邪教
(
じやけう
)
が
蔓延
(
まんえん
)
して
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
病気
(
びやうき
)
を
直
(
なほ
)
し、
043
非常
(
ひじやう
)
な
商売
(
しやうばい
)
の
妨害
(
ばうがい
)
を
致
(
いた
)
すので
聊
(
いささ
)
か
困
(
こま
)
つてゐるのだ。
044
ああ
医者
(
いしや
)
もモウ
世
(
よ
)
の
末
(
すゑ
)
かなア』
045
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
姓名
(
せいめい
)
は
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
すか』
046
医
(
い
)
(病井妖仙)
『ハイ
病井
(
やまい
)
妖仙
(
えうせん
)
とも
云
(
い
)
ひ
藪医
(
やぶい
)
竹庵
(
ちくあん
)
とも
申
(
まを
)
します』
047
赤
(
あか
)
『どちらも
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
綽名
(
あだな
)
だな、
048
本名
(
ほんみやう
)
は
何
(
なん
)
といふか』
049
妖仙
(
えうせん
)
『あまり
商売
(
しやうばい
)
が
忙
(
いそが
)
しいので、
050
本名
(
ほんみやう
)
は
忘
(
わす
)
れました。
051
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
私
(
わたし
)
の
前
(
まへ
)
では、
052
先生
(
せんせい
)
々々
(
せんせい
)
といひますから、
053
マア
先生
(
せんせい
)
が
本名
(
ほんみやう
)
で
厶
(
ござ
)
いませうかい』
054
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
一生
(
いつしやう
)
の
間
(
あひだ
)
に
病人
(
びやうにん
)
を
幾
(
いく
)
ら
助
(
たす
)
けたか』
055
妖仙
(
えうせん
)
『
助
(
たす
)
けたのも
沢山
(
たくさん
)
厶
(
ござ
)
いますが、
056
寿命
(
じゆみやう
)
のない
者
(
もの
)
は、
057
神
(
かみ
)
さまだつて、
058
医者
(
いしや
)
だつて
叶
(
かな
)
ひませぬから……
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
医者
(
いしや
)
と
南瓜
(
かぼちや
)
はひねたが
可
(
い
)
いと
申
(
まを
)
しまして、
059
一人前
(
いちにんまへ
)
の
医者
(
いしや
)
にならうと
思
(
おも
)
へば、
060
どうしても
経験
(
けいけん
)
上
(
じやう
)
千
(
せん
)
人
(
にん
)
位
(
ぐらゐ
)
を
殺
(
ころ
)
さなくちやなりませぬからなア』
061
赤
(
あか
)
『
汝
(
きさま
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
診察
(
しんさつ
)
しても、
062
病気
(
びやうき
)
の
原因
(
げんいん
)
や
医療法
(
いれうはふ
)
が
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
るのか』
063
妖仙
(
えうせん
)
『
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
064
分
(
わか
)
り
相
(
さう
)
な
事
(
こと
)
はありませぬが、
065
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
先人
(
せんじん
)
の
作
(
つく
)
つておいた
医書
(
いしよ
)
と
首
(
くび
)
つ
引
(
ぴき
)
して
薬
(
くすり
)
の
調合
(
てうがふ
)
致
(
いた
)
します。
066
そして
問診
(
もんしん
)
と
云
(
い
)
つて、
067
介抱人
(
かいほうにん
)
や
家族
(
かぞく
)
の
者
(
もの
)
に
病
(
やまひ
)
の
経過
(
けいくわ
)
を
聞
(
き
)
き、
068
食欲
(
しよくよく
)
の
有無
(
うむ
)
を
問
(
と
)
ひ
糺
(
ただ
)
し、
069
又
(
また
)
望診
(
ばうしん
)
と
云
(
い
)
つて、
070
病人
(
びやうにん
)
の
様子
(
やうす
)
を
望
(
のぞ
)
み、
071
顔
(
かほ
)
の
黄色
(
きいろ
)
い
病人
(
びやうにん
)
は
黄疸
(
わうだん
)
と
断定
(
だんてい
)
し、
072
赤
(
あか
)
い
奴
(
やつ
)
は
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よひ
)
と
断定
(
だんてい
)
し、
073
夫
(
そ
)
れ
相当
(
さうたう
)
の
薬
(
くすり
)
を
与
(
あた
)
へます。
074
其
(
その
)
上
(
うへ
)
血液
(
けつえき
)
循環
(
じゆんかん
)
の
様子
(
やうす
)
や、
075
呼吸器
(
こきふき
)
、
076
神経
(
しんけい
)
系統
(
けいとう
)
などを、
077
念入
(
ねんい
)
りに
調
(
しら
)
べる
為
(
ため
)
、
078
打診
(
だしん
)
、
079
聴診
(
ちやうしん
)
、
080
触診
(
しよくしん
)
など、
081
所在
(
あらゆる
)
手段
(
しゆだん
)
を
尽
(
つく
)
し、
082
どうしても
分
(
わか
)
らない
時
(
とき
)
は、
083
可
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
な
名
(
な
)
をつけて、
084
マア
胡魔化
(
ごまくわ
)
すのですな。
085
沢山
(
たくさん
)
に
医者
(
いしや
)
も
居
(
を
)
りますが、
086
実際
(
じつさい
)
の
病気
(
びやうき
)
をつかんだ
医者
(
いしや
)
は、
087
恐
(
おそ
)
らくは
一人
(
ひとり
)
もありますまい。
088
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はマアこんなものですよ』
089
赤
(
あか
)
『
不届
(
ふとどき
)
な
藪医者
(
やぶいしや
)
奴
(
め
)
、
090
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
薬違
(
くすりちがひ
)
によつて、
091
あるべき
命
(
いのち
)
を
棄
(
す
)
てたる
者
(
もの
)
が
幾人
(
いくにん
)
あるか
分
(
わか
)
らぬぞ、
092
人殺
(
ひとごろし
)
の
大罪人
(
だいざいにん
)
奴
(
め
)
』
093
妖仙
(
えうせん
)
『
医者
(
いしや
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
しても、
094
別
(
べつ
)
に
法律
(
はふりつ
)
には
触
(
ふ
)
れませぬよ。
095
それが
医者
(
いしや
)
の
特権
(
とくけん
)
です。
096
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
が
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
せば、
097
忽
(
たちま
)
ち
死刑
(
しけい
)
の
処分
(
しよぶん
)
を
受
(
う
)
けねばなりますまい。
098
医者
(
いしや
)
は
堕胎
(
だたい
)
をしようが
手足
(
てあし
)
を
切
(
き
)
らうが、
099
堕胎罪
(
だたいざい
)
にもならず、
100
傷害罪
(
しやうがいざい
)
にもならず、
101
一種
(
いつしゆ
)
の
特権
(
とくけん
)
階級
(
かいきふ
)
だから、
102
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
に
大罪人
(
だいざいにん
)
呼
(
よ
)
ばはりをされる
筈
(
はず
)
がない、
103
構
(
かま
)
うて
下
(
くだ
)
さるな。
104
ヘン、
105
お
前
(
まへ
)
さまは
顔
(
かほ
)
が
赤
(
あか
)
い、
106
チツと
逆上
(
のぼ
)
せて
厶
(
ござ
)
るな。
107
チツと
古
(
ふる
)
いけれどセメンエンでも
上
(
あ
)
げませうか。
108
陳皮
(
ちんぴ
)
に
茯苓
(
ぶくりやう
)
、
109
ケンチアナ
末
(
まつ
)
に、
110
アマ
仁油
(
にんゆ
)
、
111
重曹
(
ぢうさう
)
に
牡蠣
(
ぼれい
)
、
112
何
(
なん
)
なら
一服
(
いつぷく
)
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
つたら
何
(
ど
)
うだい』
113
赤
(
あか
)
『バカツ、
114
汝
(
きさま
)
は
医者
(
いしや
)
の
押売
(
おしうり
)
を
致
(
いた
)
すのか』
115
妖仙
(
えうせん
)
『さうですとも、
116
生存
(
せいぞん
)
競争
(
きやうそう
)
の
烈
(
はげ
)
しき
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
117
医者
(
いしや
)
だと
云
(
い
)
つて、
118
ジツとして
居
(
を
)
れば
誰
(
たれ
)
も
来
(
き
)
ませぬ。
119
大新聞
(
だいしんぶん
)
に
広告
(
くわうこく
)
をしたり、
120
記者
(
きしや
)
に
提灯
(
ちやうちん
)
を
持
(
もた
)
せたり、
121
金
(
かね
)
を
出
(
だ
)
して
博士
(
はかせ
)
の
称号
(
しやうがう
)
を
取
(
と
)
つたり、
122
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
と
体裁
(
ていさい
)
を
飾
(
かざ
)
り
立
(
た
)
てなくては、
123
乞食
(
こじき
)
だつて
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つてくれといふ
者
(
もの
)
がありませぬワ』
124
赤
(
あか
)
『
此
(
この
)
帳面
(
ちやうめん
)
に、
125
よく
調
(
しら
)
べてみると、
126
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
に
水
(
みづ
)
を
混
(
ま
)
ぜて、
127
大変
(
たいへん
)
高貴
(
かうき
)
な
薬
(
くすり
)
だと
申
(
まを
)
し、
128
病人
(
びやうにん
)
にのませ、
129
非常
(
ひじやう
)
にボツた
事
(
こと
)
があらうな』
130
妖仙
(
えうせん
)
『そらさうですとも、
131
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
のボルのは
一服
(
いつぷく
)
五銭
(
ごせん
)
十銭
(
じつせん
)
と
小
(
ちひ
)
さくボツて
行
(
ゆ
)
くのです。
132
一口
(
ひとくち
)
に
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
万
(
まん
)
円
(
ゑん
)
とボツてゐる
奴
(
やつ
)
は、
133
世界
(
せかい
)
に
幾
(
いく
)
らあるか
知
(
し
)
れませぬよ。
134
四百四
(
しひやくし
)
病
(
びやう
)
の
中
(
うち
)
でも
直
(
なほ
)
る
病
(
やまひ
)
もあれば、
135
どうしても
直
(
なほ
)
らない
病
(
やまひ
)
がありますが、
136
それでも
病人
(
びやうにん
)
が
薬
(
くすり
)
をくれといへばやらぬ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
137
又
(
また
)
此方
(
こちら
)
もボルことが
出来
(
でき
)
ぬから、
138
あかぬとは
知
(
し
)
りつつ、
139
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
に
水
(
みづ
)
をまぜて
慰安
(
ゐあん
)
の
為
(
ため
)
呑
(
の
)
ましてをります。
140
之
(
これ
)
が
所謂
(
いはゆる
)
医者
(
いしや
)
の
正
(
まさ
)
に
尽
(
つく
)
すべき
道徳律
(
だうとくりつ
)
ですから、
141
さう
貴方
(
あなた
)
のやうに
一口
(
ひとくち
)
に
貶
(
けな
)
すものぢやありませぬ』
142
赤
(
あか
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
難物
(
なんぶつ
)
だ。
143
到底
(
たうてい
)
モルヒネ
注射
(
ちうしや
)
位
(
ぐらゐ
)
では
気
(
き
)
がつくまいが、
144
今
(
いま
)
に
荒料理
(
あられうり
)
をしてやるから、
145
マア
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて
順番
(
じゆんばん
)
の
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つてゐるが
可
(
い
)
いワ』
146
妖仙
(
えうせん
)
『
貴方
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
、
147
荒料理
(
あられうり
)
をしてやると
云
(
い
)
つたが、
148
それは
外科
(
げくわ
)
的
(
てき
)
大手術
(
だいしゆじゆつ
)
の
事
(
こと
)
でせう。
149
貴方
(
あなた
)
は
医者
(
いしや
)
の
鑑札
(
かんさつ
)
を
持
(
も
)
つてゐますか。
150
そんな
事
(
こと
)
をなさると
医師法
(
いしはふ
)
違反
(
ゐはん
)
で
告発
(
こくはつ
)
しますぞ。
151
サ、
152
何
(
なん
)
といふ
姓名
(
せいめい
)
だ、
153
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひませう。
154
此方
(
こちら
)
にも
考
(
かんが
)
へがあるから、
155
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
のやうな
素人
(
しろうと
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
縄張
(
なはばり
)
を
荒
(
あ
)
らされては、
156
到底
(
たうてい
)
、
157
医者
(
いしや
)
として
立
(
た
)
つていけるものぢやない。
158
鎮魂
(
ちんこん
)
だの、
159
祈祷
(
きたう
)
だの、
160
心理
(
しんり
)
療法
(
れうはふ
)
だのと、
161
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
敵
(
てき
)
が
沢山
(
たくさん
)
現
(
あらは
)
れて、
162
商売
(
しやうばい
)
の
妨害
(
ばうがい
)
をするから、
163
全国
(
ぜんこく
)
医師
(
いし
)
大会
(
たいくわい
)
を
開
(
ひら
)
いて、
164
政府
(
せいふ
)
に
抗議
(
かうぎ
)
を
申込
(
まをしこ
)
み
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
輩
(
ともがら
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
せむと、
165
筍会議
(
たけのこくわいぎ
)
で
定
(
き
)
めてあるのだ。
166
それに
素人
(
しろうと
)
のお
前
(
まへ
)
が、
167
大手術
(
だいしゆじゆつ
)
を
医者
(
いしや
)
の
私
(
わし
)
に
向
(
むか
)
つて、
168
してやらうなどとは、
169
法治国
(
はふちこく
)
の
人民
(
じんみん
)
として、
170
実
(
じつ
)
に
怪
(
け
)
しからぬものだ。
171
サア、
172
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
かしなさい』
173
と
懐
(
ふところ
)
から
手帳
(
てちやう
)
を
出
(
だ
)
し、
174
鉛筆
(
えんぴつ
)
を
舐
(
ねぶ
)
つて、
175
姓名
(
せいめい
)
を
書
(
か
)
き
留
(
と
)
めようとしてゐる。
176
白
(
しろ
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
は
妖仙
(
えうせん
)
の
腕
(
うで
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
177
厭
(
いや
)
がるのを
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
に
引張
(
ひつぱ
)
つて、
178
門内
(
もんない
)
に
隠
(
かく
)
れた。
179
目
(
め
)
のクルリとした、
180
鼻
(
はな
)
に
角
(
かど
)
のある、
181
腮鬚
(
あごひげ
)
を
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
計
(
ばか
)
り
生
(
は
)
やした
一癖
(
ひとくせ
)
有
(
あり
)
さうな
男
(
をとこ
)
、
182
此
(
この
)
街道
(
かいだう
)
は
俺
(
おれ
)
のものだといふやうな
調子
(
てうし
)
で、
183
大手
(
おほて
)
を
振
(
ふ
)
つてのそりのそりとやつて
来
(
く
)
る。
184
赤
(
あか
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
は、
185
赤
(
あか
)
『オイ
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
て、
186
取調
(
とりしら
)
べる
事
(
こと
)
がある』
187
と
呶鳴
(
どな
)
つた
声
(
こゑ
)
に、
188
彼
(
か
)
の
男
(
をとこ
)
は
立
(
たち
)
どまり、
189
厭
(
いや
)
らしい
目
(
め
)
で
赤
(
あか
)
の
顔
(
かほ
)
を
睨
(
ね
)
めつけ
乍
(
なが
)
ら、
190
男
(
をとこ
)
(人尾)
『
何
(
なん
)
だ、
191
天下
(
てんか
)
の
大道
(
だいだう
)
を
自由
(
じいう
)
に
濶歩
(
かつぽ
)
するのは
吾々
(
われわれ
)
の
自由
(
じいう
)
の
権利
(
けんり
)
だ、
192
待
(
ま
)
てとは
何
(
なん
)
だ。
193
他人
(
たにん
)
の
権利
(
けんり
)
を
妨害
(
ばうがい
)
し、
194
仮令
(
たとへ
)
一刻
(
いつこく
)
でも
暇取
(
ひまど
)
らせるならば、
195
それ
丈
(
だけ
)
の
損害
(
そんがい
)
賠償
(
ばいしやう
)
を
請求
(
せいきう
)
するぞ。
196
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
人間
(
にんげん
)
の
権利
(
けんり
)
義務
(
ぎむ
)
といふ
事
(
こと
)
を
弁
(
わきま
)
へてるか、
197
エエン』
198
赤
(
あか
)
『ここは
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
だ。
199
汝
(
きさま
)
の
生前
(
せいぜん
)
のメモアルを
査
(
しら
)
べ、
200
天国
(
てんごく
)
へやるか、
201
地獄
(
ぢごく
)
へ
墜
(
おと
)
すか、
202
……といふ
分水嶺
(
ぶんすゐれい
)
だ。
203
汝
(
きさま
)
のネームは
何
(
なん
)
といふか』
204
男
(
をとこ
)
(人尾)
『
拙者
(
せつしや
)
は
人尾
(
ひとを
)
威四郎
(
おどしらう
)
といふ
有名
(
いうめい
)
な
弁護士
(
べんごし
)
だ。
205
そして
特許
(
とくきよ
)
弁理士
(
べんりし
)
を
兼
(
か
)
ねてゐるのだ。
206
これでも
法科
(
はふくわ
)
大学
(
だいがく
)
の
卒業生
(
そつげふせい
)
だ。
207
守衛
(
しゆゑい
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
吾々
(
われわれ
)
を
取調
(
とりしら
)
べる
権能
(
けんのう
)
がどこにあるツ』
208
赤
(
あか
)
『いかにも
汝
(
きさま
)
は
人間
(
にんげん
)
の
生血
(
いきち
)
を
絞
(
しぼ
)
る
悪党
(
あくたう
)
だ。
209
随分
(
ずいぶん
)
金
(
かね
)
を
能
(
よ
)
く
絞
(
しぼ
)
り
取
(
と
)
つたものだなア』
210
人尾
(
ひとを
)
『
人
(
ひと
)
が
憂
(
うれ
)
ひの
涙
(
なみだ
)
に
沈
(
しづ
)
み、
211
首
(
くび
)
もまはらぬやうになつてゐる
所
(
ところ
)
を、
212
聊
(
いささ
)
か
慰安
(
ゐあん
)
を
与
(
あた
)
へるのが
拙者
(
せつしや
)
の
職掌
(
しよくしやう
)
だ。
213
其
(
その
)
報酬
(
はうしう
)
として
労金
(
らうきん
)
を
請求
(
せいきう
)
するのは
商売
(
しやうばい
)
上
(
じやう
)
の
権利
(
けんり
)
ぢやないか、
214
請求
(
せいきう
)
すべき
物
(
もの
)
を
請求
(
せいきう
)
したのが
何
(
なに
)
が
悪
(
わる
)
い』
215
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
始
(
はじめ
)
からの
弁護士
(
べんごし
)
ではあるまい。
216
今
(
いま
)
は
人尾
(
ひとを
)
威四郎
(
おどしらう
)
と
申
(
まを
)
してゐるが、
217
以前
(
いぜん
)
は
二股
(
ふたまた
)
検事
(
けんじ
)
と
云
(
い
)
つて、
218
随分
(
ずいぶん
)
悪辣
(
あくらつ
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
した
者
(
もの
)
だなア。
219
無謀
(
むぼう
)
な
検挙
(
けんきよ
)
を
致
(
いた
)
して、
220
失敗
(
しくじ
)
つた
揚句
(
あげく
)
、
221
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
弁護士
(
べんごし
)
になつたであらう』
222
人尾
(
ひとを
)
『
構
(
かま
)
つて
下
(
くだ
)
さるな、
223
自由
(
じいう
)
の
権利
(
けんり
)
だ。
224
お
前
(
まへ
)
は
吾々
(
われわれ
)
を
辱
(
はづかし
)
める
積
(
つも
)
りか、
225
ヨーシ
現行
(
げんかう
)
法律
(
はふりつ
)
に
仍
(
よ
)
つて
誹毀罪
(
ひきざい
)
に
訴
(
うつた
)
へてやる。
226
事実
(
じじつ
)
の
有無
(
うむ
)
に
関
(
くわん
)
せず、
227
人
(
ひと
)
の
悪事
(
あくじ
)
を
非難
(
ひなん
)
致
(
いた
)
した
者
(
もの
)
は、
228
新刑法
(
しんけいはふ
)
の
条項
(
でうかう
)
に
照
(
てら
)
し
相当
(
さうたう
)
の
処分
(
しよぶん
)
がある
筈
(
はず
)
だ。
229
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
出様
(
でやう
)
によつては
取消
(
とりけ
)
さない
事
(
こと
)
もない、
230
賠償金
(
ばいしやうきん
)
を
幾
(
いく
)
ら
出
(
だ
)
すか』
231
赤
(
あか
)
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ、
232
ここは
霊界
(
れいかい
)
だ。
233
霊界
(
れいかい
)
へ
現界
(
げんかい
)
の
法律
(
はふりつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
ても
通用
(
つうよう
)
致
(
いた
)
さぬぞ。
234
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
少
(
すこ
)
しくボレ
相
(
さう
)
な
大事件
(
だいじけん
)
は
残
(
のこ
)
らず
有名
(
いうめい
)
な
弁護士
(
べんごし
)
に
取
(
と
)
られて
了
(
しま
)
ひ、
235
糊口
(
ここう
)
に
窮
(
きう
)
し、
236
小作人
(
こさくにん
)
を
煽動
(
せんどう
)
し、
237
労働者
(
らうどうしや
)
を
煽
(
おだ
)
てあげて、
238
沢山
(
たくさん
)
の
入監者
(
にふかんしや
)
を
作
(
つく
)
り、
239
自分
(
じぶん
)
が
弁護
(
べんご
)
の
得意先
(
とくいさき
)
を
製造
(
せいざう
)
致
(
いた
)
す、
240
しれ
者
(
もの
)
であらうがな』
241
人尾
(
ひとを
)
『
成程
(
なるほど
)
、
242
それに
間違
(
まちが
)
ひはない。
243
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
煽動
(
せんどう
)
する
者
(
もの
)
が
悪
(
わる
)
いのぢやない、
244
其
(
その
)
煽動
(
せんどう
)
にのる
奴
(
やつ
)
が
悪
(
わる
)
いのだ。
245
拙者
(
せつしや
)
は
拙者
(
せつしや
)
として
商売
(
しやうばい
)
繁昌
(
はんじやう
)
の
為
(
ため
)
に
所在
(
あらゆる
)
手段
(
しゆだん
)
を
尽
(
つく
)
し、
246
活動
(
くわつどう
)
してゐるのだ。
247
此
(
この
)
権利
(
けんり
)
を
侵害
(
しんがい
)
する
者
(
もの
)
は、
248
何程
(
なにほど
)
霊界
(
れいかい
)
だつてあらう
筈
(
はず
)
がない。
249
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
をいはずにスツ
込
(
こ
)
んだがよからう。
250
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
と
聞
(
き
)
く
上
(
うへ
)
は
定
(
さだ
)
めて
審判所
(
しんぱんしよ
)
もあるだらう。
251
ヨシ、
252
裁判
(
さいばん
)
はお
手
(
て
)
のものだ。
253
これから
滔々
(
たうたう
)
と
弁論
(
べんろん
)
をまくし
立
(
た
)
て
判官
(
はんぐわん
)
の
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
ましてやらう。
254
第一審
(
だいいつしん
)
でいけなければ
第二審
(
だいにしん
)
、
255
第二審
(
だいにしん
)
で
可
(
い
)
かなければ
第三審
(
だいさんしん
)
、
256
美事
(
みごと
)
勝
(
か
)
つてみせよう。
257
そして
天国
(
てんごく
)
の
永住権
(
えいぢうけん
)
を
獲得
(
くわくとく
)
し、
258
人生
(
じんせい
)
特有
(
とくいう
)
の
権利
(
けんり
)
を
遺憾
(
ゐかん
)
なく
発揮
(
はつき
)
する
心段
(
つもり
)
だ、
259
オツホン』
260
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
261
反身
(
そりみ
)
になつて
自
(
みづか
)
ら
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
り、
262
のそりのそりと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
263
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
は
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
264
白
(
しろ
)
『
彼奴
(
あいつ
)
アどしても
地獄墜
(
ぢごくお
)
ちですなア、
265
法律家
(
はふりつか
)
といふ
者
(
もの
)
は
実
(
じつ
)
に
味
(
あぢはひ
)
のない
者
(
もの
)
ですなア』
266
赤
(
あか
)
『
冷酷
(
れいこく
)
無残
(
むざん
)
の
獣
(
けだもの
)
とは
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
の
事
(
こと
)
だ。
267
法律
(
はふりつ
)
にのみ
精神
(
せいしん
)
を
傾注
(
けいちう
)
してゐる
現界
(
げんかい
)
の
奴
(
やつ
)
は、
268
口
(
くち
)
では
権利
(
けんり
)
義務
(
ぎむ
)
を
叫
(
さけ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
269
人
(
ひと
)
の
権利
(
けんり
)
を
侵害
(
しんがい
)
し、
270
義務
(
ぎむ
)
を
踏
(
ふ
)
みたたくる
位
(
くらゐ
)
は
何
(
なん
)
とも
思
(
おも
)
つてゐない。
271
厚顔
(
こうがん
)
無恥
(
むち
)
の
精神
(
せいしん
)
病者
(
びやうしや
)
計
(
ばか
)
りだから、
272
可哀相
(
かあいさう
)
なものだ。
273
あああ
可
(
い
)
いかげんに
守衛
(
しゆゑい
)
もお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
かねば
堪
(
たま
)
らなくなつてきた。
274
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
自分
(
じぶん
)
と
雖
(
いへど
)
も、
275
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
く
資格
(
しかく
)
もなし、
276
外
(
ほか
)
に
之
(
これ
)
といふ
芸
(
げい
)
もないのだから、
277
ヤツパリ
厭
(
いや
)
な
守衛
(
しゆゑい
)
を
勤
(
つと
)
めねばならないのかなア』
278
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ、
279
又
(
また
)
もや
向方
(
むかふ
)
の
方
(
かた
)
より、
280
三十
(
さんじふ
)
恰好
(
かつかう
)
のハイカラ
男
(
をとこ
)
がそそり
[
※
「そそり」とは浮かれ騒いで歌う歌のこと。そそり節。そそり歌。
]
を
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
281
千鳥足
(
ちどりあし
)
にて
大道
(
だいだう
)
狭
(
せま
)
しとやつて
来
(
く
)
る。
282
(要助)
『
冬
(
ふゆ
)
の
日
(
ひ
)
の
283
うす
日
(
ひ
)
をうけて
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
284
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
を
彷徨
(
さまよ
)
ひ
来
(
きた
)
る。
285
冬
(
ふゆ
)
の
日
(
ひ
)
は
286
空
(
そら
)
にふるうて
照
(
て
)
りわたる
287
烏
(
からす
)
の
皺枯声
(
しわがれごゑ
)
がする。
288
何
(
なん
)
となく
289
あとの
心
(
こころ
)
の
淋
(
さび
)
しさよ
290
今
(
いま
)
は
世
(
よ
)
になき
恋人
(
こひびと
)
思
(
おも
)
へば。
291
なれそめて
292
君
(
きみ
)
におびえぬ
鳥
(
とり
)
ありと
293
悲
(
かな
)
しき
事
(
こと
)
を
書
(
か
)
ける
文
(
ふみ
)
。
294
島田
(
しまだ
)
つぶして
丸髷
(
まるまげ
)
結
(
ゆ
)
うて
295
嬉
(
うれ
)
しやお
宮
(
みや
)
へ
礼参
(
れいまゐ
)
り……と、
296
あああ
酔
(
よ
)
うた
酔
(
よ
)
うた、
297
一体
(
いつたい
)
ここはどこだい。
298
何
(
なん
)
だか
無粋
(
ぶすゐ
)
な
奴
(
やつ
)
が
山門
(
さんもん
)
の
仁王然
(
にわうぜん
)
と
立
(
た
)
つてゐやがるぢやないか。
299
二世
(
にせ
)
や
三世
(
さんせ
)
は
何
(
ど
)
うでもよいが
300
せめて
一夜
(
いちや
)
の
縁
(
えん
)
なりと………とけつかるわい。
301
ウーエ、
302
何
(
なん
)
と
淋
(
さび
)
しい
街道
(
かいだう
)
だな。
303
ソロソロ
酔
(
よひ
)
が
醒
(
さ
)
め
出
(
だ
)
したやうだ。
304
こんな
所
(
ところ
)
で
醒
(
さ
)
められちや、
305
やり
切
(
き
)
れない。
306
モウ
暫
(
しばら
)
く
持続
(
ぢぞく
)
する
為
(
ため
)
に
歌
(
うた
)
でも
唄
(
うた
)
つて
騒
(
さわ
)
いでやらうかな、
307
……
308
何
(
なん
)
とするかと
狸寝
(
たぬきね
)
すれば
309
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
したり
笑
(
わら
)
つたり……と、
310
アハハハハ、
311
お
徳
(
とく
)
の
奴
(
やつ
)
、
312
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
晩
(
ばん
)
も
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐやがる、
313
浮気
(
うはき
)
聞
(
き
)
いても
気
(
き
)
になる
人
(
ひと
)
が
314
出雲参
(
いづもまゐ
)
りを
誰
(
たれ
)
とした……か、
315
二世
(
にせ
)
を
契
(
ちぎ
)
つたあなたの
前
(
まへ
)
で
316
切
(
き
)
れて
気
(
き
)
になる
三味
(
しやみ
)
の
糸
(
いと
)
。
317
切
(
き
)
れた
切
(
き
)
れたは
世間
(
せけん
)
の
噂
(
うはさ
)
318
水
(
みづ
)
に
萍
(
うきぐさ
)
根
(
ね
)
は
切
(
き
)
れぬ………と
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
319
お
徳
(
とく
)
はお
徳
(
とく
)
だ、
320
要助
(
えうすけ
)
さまには、
321
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても……
切
(
き
)
れはせぬ……と
吐
(
ぬか
)
すんだから、
322
大
(
たい
)
したものだ』
323
と
袖懐
(
そでふところ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
324
ドンと
門
(
もん
)
に
行当
(
ゆきあた
)
り、
325
頭
(
あたま
)
がフラフラした
拍子
(
ひやうし
)
にバツタリ
此処
(
ここ
)
に
倒
(
たふ
)
れた。
326
守衛
(
しゆゑい
)
は
背中
(
せなか
)
を
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
続
(
つづ
)
け
打
(
うち
)
に
打
(
う
)
つた。
327
要助
(
えうすけ
)
はハツと
気
(
き
)
がつき、
328
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よひ
)
も
醒
(
さ
)
め、
329
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
になり、
330
二人
(
ふたり
)
の
顔
(
かほ
)
をギロギロと
見詰
(
みつ
)
めてゐる。
331
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
何者
(
なにもの
)
だ』
332
要助
(
えうすけ
)
『ヘヘ、
333
私
(
わたし
)
は
有名
(
いうめい
)
な
好色
(
かうしよく
)
男子
(
だんし
)
要助
(
えうすけ
)
と
申
(
まを
)
します。
334
私
(
わたし
)
をお
呼
(
よ
)
び
止
(
と
)
めになつて、
335
何
(
なに
)
か
要助
(
えうすけ
)
が
厶
(
ござ
)
いますかな。
336
余
(
あま
)
りお
徳
(
とく
)
にならぬ
事
(
こと
)
はお
尋
(
たづ
)
ねなさらぬが
宜
(
よろ
)
しい。
337
お
徳
(
とく
)
変
(
へん
)
じてお
損
(
そん
)
となつては
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
ですからな』
338
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
お
徳
(
とく
)
といふのは
何処
(
どこ
)
の
女
(
をんな
)
だ』
339
要助
(
えうすけ
)
『エヘヘヘ、
340
一寸
(
ちよつと
)
申上
(
まをしあ
)
げ
難
(
にく
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
341
ベコ
助
(
すけ
)
の
女房
(
にようばう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
342
赤
(
あか
)
『ベコ
助
(
すけ
)
の
女房
(
にようばう
)
に、
343
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
関係
(
くわんけい
)
をしたのか』
344
要助
(
えうすけ
)
『
関係
(
くわんけい
)
があるといへばあります。
345
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
へばない
様
(
やう
)
なものですが……』
346
赤
(
あか
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
はお
徳
(
とく
)
に
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされたぢやないか。
347
そして
沢山
(
たくさん
)
な
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
られただらう』
348
要助
(
えうすけ
)
『ヘエ、
349
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はエー、
350
お
徳
(
とく
)
の
要求
(
えうきう
)
に
応
(
おう
)
じ、
351
爺
(
おやぢ
)
の
貯金
(
ちよきん
)
を
引
(
ひつ
)
ぱり
出
(
だ
)
し、
352
饂飩屋
(
うどんや
)
の
資本金
(
もとで
)
にするといふものですから、
353
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
許
(
ばか
)
り
貸
(
か
)
してやりました。
354
そして
酒
(
さけ
)
を
一杯
(
いつぱい
)
すすめられ、
355
寝
(
ね
)
た
振
(
ふり
)
をしてみて
居
(
を
)
りますと、
356
お
徳
(
とく
)
の
奴
(
やつ
)
、
357
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
したり、
358
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
を
見
(
み
)
て、
359
イインをしたり、
360
笑
(
わら
)
つたりしてをるのですよ、
361
……
何
(
なに
)
をするかと
狸寝
(
たぬきね
)
すれば、
362
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
したり
笑
(
わら
)
つたり……、
363
マアこんな
調子
(
てうし
)
でした、
364
何分
(
なにぶん
)
にもお
徳
(
とく
)
にはレコがあるものですから、
365
どうしても
要助
(
えうすけ
)
と
完全
(
くわんぜん
)
に
意志
(
いし
)
を
疎通
(
そつう
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬので、
366
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いたり、
367
仕方
(
しかた
)
をしたり、
368
それはそれは
苦心
(
くしん
)
をして
居
(
を
)
りますよ。
369
併
(
しか
)
しまだ
一度
(
いちど
)
も
姦通
(
かんつう
)
などはして
居
(
を
)
りませぬから、
370
二人
(
ふたり
)
の
仲
(
なか
)
は
潔白
(
けつぱく
)
なものです』
371
赤
(
あか
)
『
仮令
(
たとへ
)
肉体
(
にくたい
)
の
上
(
うへ
)
に
姦通
(
かんつう
)
はしなくても、
372
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
心
(
こころ
)
で
姦通
(
かんつう
)
したぢやないか』
373
要助
(
えうすけ
)
『サ、
374
夫
(
そ
)
れが
判然
(
はつきり
)
分
(
わか
)
りませぬので、
375
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
では、
376
心
(
こころ
)
で
已
(
すで
)
に
姦通
(
かんつう
)
せむとして
居
(
を
)
りますが、
377
トツクリ
話
(
はなし
)
をする
間
(
ま
)
がないものですから、
378
向
(
むか
)
ふの
意志
(
いし
)
は
十分
(
じふぶん
)
に
分
(
わか
)
りませぬ。
379
出刃
(
でば
)
が
切
(
き
)
れるとか、
380
菜刀
(
ながたな
)
が
切
(
き
)
れるとか、
381
今日
(
けふ
)
は
金
(
かね
)
が
切
(
き
)
れたとか、
382
饂飩
(
うどん
)
の
原料
(
げんれう
)
が
断
(
き
)
れたとか、
383
仕舞
(
しま
)
ひの
果
(
はて
)
にや……
切
(
き
)
れた
切
(
き
)
れたは
世間
(
せけん
)
の
噂
(
うはさ
)
、
384
水
(
みづ
)
に
萍
(
うきぐさ
)
根
(
ね
)
は
切
(
き
)
れぬ……などと
唄
(
うた
)
つてるものですから、
385
実際
(
じつさい
)
私
(
わたし
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてるのか、
386
商売
(
しやうばい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてるのか、
387
まだスツカリ
判断
(
はんだん
)
がつかないのです。
388
そした
所
(
ところ
)
、
389
家
(
うち
)
の
爺
(
おやぢ
)
奴
(
め
)
が、
390
私
(
わたし
)
が
貯金
(
ちよきん
)
を
引張出
(
ひつぱりだ
)
し
饂飩屋
(
うどんや
)
のお
徳
(
とく
)
にやつたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて、
391
怒
(
おこ
)
るの
怒
(
おこ
)
らぬのつて、
392
矢庭
(
やには
)
に
手斧
(
てをの
)
を
振
(
ふり
)
かざし……コーラ
極道伜
(
ごくだうせがれ
)
奴
(
め
)
……と
鬼
(
おに
)
のやうな
顔
(
かほ
)
して
追
(
おひ
)
かけて
来
(
く
)
るものですから、
393
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずライオン
河
(
がは
)
へ
投身
(
とうしん
)
をしたと
思
(
おも
)
へば、
394
ヤツパリ
夢
(
ゆめ
)
だつたか、
395
こんな
所
(
ところ
)
へ
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
うて
来
(
き
)
ました。
396
何分
(
なにぶん
)
酒
(
さけ
)
のまはつてる
最中
(
さいちう
)
に
追
(
お
)
ひかけられたものですから、
397
どこをどう
通
(
とほ
)
つて
来
(
き
)
たのか、
398
川
(
かは
)
へはまつたのが
本当
(
ほんたう
)
か、
399
テンと
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
りませぬワ』
400
赤
(
あか
)
は
生死簿
(
せいしぼ
)
を
繰
(
く
)
り
乍
(
なが
)
ら、
401
赤
(
あか
)
『ヤ、
402
其
(
その
)
方
(
はう
)
はまだ
四十
(
しじふ
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
り
命
(
いのち
)
が
残
(
のこ
)
つてゐる。
403
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
肉宮
(
にくみや
)
は
爺
(
おやぢ
)
が
川
(
かは
)
から
引上
(
ひきあ
)
げて、
404
「
此
(
この
)
極道
(
ごくだう
)
奴
(
め
)
」と
言
(
い
)
つて、
405
矢庭
(
やには
)
に
土
(
つち
)
の
中
(
なか
)
へ
埋
(
い
)
け
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ひよつたので、
406
最早
(
もはや
)
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
まい。
407
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
四十
(
しじふ
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
り、
408
此
(
この
)
中有界
(
ちううかい
)
で
修業
(
しうげふ
)
を
致
(
いた
)
したがよからう』
409
要助
(
えうすけ
)
『ハイ、
410
ソリヤ
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
411
併
(
しか
)
しお
徳
(
とく
)
は
何処
(
どこ
)
に
居
(
を
)
りますか、
412
一寸
(
ちよつと
)
知
(
し
)
らせて
下
(
くだ
)
さいな。
413
別
(
べつ
)
に
向
(
むか
)
ふに
思召
(
おぼしめし
)
のないのに、
414
無理
(
むり
)
に
要求
(
えうきう
)
に
応
(
おう
)
じてくれとは
申
(
まを
)
しませぬ。
415
只
(
ただ
)
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
貸
(
か
)
した
為
(
ため
)
に、
416
こんな
顛末
(
てんまつ
)
になつたといふ
事
(
こと
)
丈
(
だけ
)
を
云
(
い
)
つてやりたう
厶
(
ござ
)
いますから、
417
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
(
逆縁
(
ぎやくえん
)
)も、
418
もらさで
救
(
すく
)
ふ
願
(
ぐわん
)
なれば
419
導
(
みちび
)
き
玉
(
たま
)
へ
弥陀
(
みだ
)
の
浄土
(
じやうど
)
へ……
420
といふ、
421
どこやらの
観音
(
くわんおん
)
様
(
さま
)
の、
422
詠歌
(
えいか
)
が
厶
(
ござ
)
いましたなア、
423
あの
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
さへ
私
(
わたし
)
の
手
(
て
)
へ
返
(
かへ
)
されば、
424
極楽
(
ごくらく
)
浄土
(
じやうど
)
へ
救
(
すく
)
うて
下
(
くだ
)
さるでせうから、
425
果
(
はた
)
してここが
冥土
(
めいど
)
とあれば、
426
仮令
(
たとへ
)
幽霊
(
いうれい
)
になつてでもあの
金
(
かね
)
をお
徳
(
とく
)
から
取返
(
とりかへ
)
し、
427
極楽行
(
ごくらくゆき
)
がしたう
厶
(
ござ
)
いますからなア』
428
赤
(
あか
)
は、
429
赤の守衛
『エエ
八釜
(
やかま
)
しい、
430
そちらへ
行
(
ゆ
)
けツ』
431
と
力
(
ちから
)
に
任
(
まか
)
して
突飛
(
つきと
)
ばせば、
432
要助
(
えうすけ
)
は
細
(
ほそ
)
くなつて、
433
東北
(
とうほく
)
の
方
(
はう
)
を
目
(
め
)
がけて
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
434
(
大正一二・二・二三
旧一・八
於竜宮館
松村真澄
録)
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