霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 暗窟(あんくつ)〔一四〇〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻 篇:第3篇 猪倉城寨 よみ(新仮名遣い):いのくらじょうさい
章:第14章 暗窟 よみ(新仮名遣い):あんくつ 通し章番号:1400
口述日:1923(大正12)年02月22日(旧01月7日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
久米彦は何食わぬ顔で戻ってきて、鬼春別に、スミエルとスガールは暗窟に放り込んで殺したと報告した。鬼春別は、二人の女は久米彦の部屋にいるだろうと言いだして、訪問したいと言いだした。
鬼春別は久米彦と言い争いになったが、鬼春別は上官の権限で捜索すると言って久米彦の居間に進んでしまった。聞き耳を立てていたが、外からは姉妹の声が聞こえなかった。久米彦は鬼春別けに追いついて、鬼春別を非難し、二人はまたも言い争いになった。
そこへ士官のマルタがやってきて、三千の兵士たちが狂乱の態となってしまったことを報告しにやってきた。両将軍はあわてて岩窟の入り口に駆け出した。兵士たちは八九分どおり裸になって訳のわからないことをさえずりながら、建物を壊している。
両将軍が大喝すると、兵士たちは我先にと群がり来って将軍たちに乱暴狼藉をなしたため、鬼春別と久米彦はほとんど息の根も絶え絶えになってしまった。
道晴別とシーナはこの騒ぎにまぎれて岩窟に入り込み、スミエルとスガールを探して歩いた。ようやく妖瞑酒の効き目が醒めた兵士たちは我に返って将軍たちを助け起こし、介抱した。道晴別とシーナはスミエルとスガールがいる部屋を探り当てて門扉を叩き割った。
しかし二人を助けて室内から逃げ出そうとするとき、前後左右から集まってきたバラモン軍に捕縛され、四人は別々に暗い岩窟の中に落とし込まれてしまった。
久米彦は姉妹を逃がそうとした二人の軍人を三五教の間者と疑ったが、鬼春別はこれだけ厳重な砦に間者が入ってきたところで何もできないだろうと一笑に付した。
一同は、スミエルとスガールを閉じ込めてから兵士たちの狂態が回復したことから、二人は猪倉山に巣食うという妖怪妖幻坊一派の化身ではないかと疑い、また陣中に女を引き入れたことを大自在天がこういう形で戒めたのだろうと、互いに軍規軍律を気を付け合ってこの要害を守ることとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-04-12 18:08:56 文字数:3807 OBC :rm5414
愛善世界社版:169頁 八幡書店版:第9輯 681頁 修補版: 校定版:170頁 普及版:78頁 初版: ページ備考:
001 鬼春別(おにはるわけ)は双手(もろて)を組(く)み、002失望(しつばう)落胆(らくたん)の色(いろ)を浮(うか)べて何(なに)か思案(しあん)に沈(しづ)んでゐる。003そこへ潔(いさぎよ)くやつて来(き)たのは久米彦(くめひこ)であつた。
004久米(くめ)『将軍殿(しやうぐんどの)将軍殿(しやうぐんどの)』
005と呼(よ)ぶ声(こゑ)にハツと気(き)がつき、
006鬼春(おにはる)『ヤア久米彦(くめひこ)殿(どの)、007如何(いかが)で厶(ござ)つたかな』
008久米(くめ)『いやもう、009何(ど)うにも、010斯(か)うにも仕方(しかた)のない阿婆摺(あばず)れ女(をんな)で実(じつ)に手古摺(てこず)りました。011止(や)むを得(え)ず最(もつと)も深(ふか)い暗窟(あんくつ)へ放(ほ)り込(こ)みました。012定(さだ)めて今頃(いまごろ)は斃(くたば)つて居(ゐ)るでせう』
013鬼春(おにはる)『それは惜(をし)い事(こと)を致(いた)したものだ。014そして姉(あね)のスミエルは如何(いかが)なさつたか』
015久米(くめ)『彼奴(あいつ)も荒縄(あらなは)で括(くく)つて暗窟(あんくつ)に一緒(いつしよ)に放(ほ)り込(こ)みました。016扨(さて)も扨(さて)も心地(ここち)のよい事(こと)で厶(ござ)いましたワイ。017アハハハハ』
018鬼春(おにはる)『ヤア、019それは惜(をし)い事(こと)を致(いた)したものだ。020然(しか)しここでは何(なん)だか気持(きもち)が悪(わる)い。021一度(いちど)貴殿(きでん)の御(お)居間(ゐま)へ伺(うかが)はうと思(おも)つてゐた所(ところ)だ。022之(これ)から何(なに)かの御(ご)相談(さうだん)があるから貴殿(きでん)の室(しつ)まで参(まゐ)りませう』
023 久米彦(くめひこ)は自分(じぶん)の室(しつ)に二人(ふたり)の姉妹(しまい)を隠(かく)して置(お)き乍(なが)ら、024暗(くら)き陥穽(おとしあな)へ放(ほ)り込(こ)んで殺(ころ)して了(しま)つたと詐(いつは)つたのだから、025鬼春別(おにはるわけ)に来(こ)られては忽(たちま)ち露顕(ろけん)の惧(おそれ)がある。026はて困(こま)つた事(こと)が出来(でき)たワイ……と思(おも)うたが流石(さすが)は曲物(くせもの)、027故意(わざ)と平気(へいき)な顔(かほ)をして、
028久米(くめ)『吾々(われわれ)の如(ごと)き者(もの)の穢(むさ)くるしい家(うち)へお越(こ)し下(くだ)さるのは、029実(じつ)に恐(おそ)れ入(い)ります。030何(ど)うか貴方(あなた)の御(お)居間(ゐま)で伺(うかが)はして貰(もら)ふ訳(わけ)には参(まゐ)りますまいかな』
031鬼春(おにはる)『いや拙者(せつしや)の居間(ゐま)は男(をとこ)ばかりで、032何(なに)かにつけて不都合(ふつがふ)で厶(ござ)る。033貴殿(きでん)の居間(ゐま)へ参(まゐ)れば女手(をんなで)が二人(ふたり)も揃(そろ)うてゐるのだから、034誠(まこと)に以(もつ)て都合(つがふ)が好(よ)いと存(ぞん)じ、035それで貴殿(きでん)の居間(ゐま)を拝借(はいしやく)しようと申(まを)したのだ』
036 久米彦(くめひこ)はハツと顔(かほ)を赤(あか)らめ、037……鬼春別(おにはるわけ)は何時(いつ)の間(ま)にか自分(じぶん)の居間(ゐま)に二人(ふたり)が隠(かく)してあるのを悟(さと)つたのかな、038こいつア大変(たいへん)だ……と胸(むね)を躍(をど)らせ乍(なが)ら故意(わざ)と空恍(そらとぼ)けて、
039久米(くめ)『ハハハハハ将軍殿(しやうぐんどの)は随分(ずいぶん)疑(うたがひ)の深(ふか)い方(かた)で厶(ござ)るな。040吾々(われわれ)もバラモン軍(ぐん)の統率者(とうそつしや)、041左様(さやう)な卑怯(ひけふ)な事(こと)は致(いた)しませぬ。042何卒(どうぞ)人格(じんかく)を見損(みそこな)はない様(やう)にして頂(いただ)き度(た)いものですな』
043鬼春(おにはる)『ハハハハハ今(いま)迄(まで)貴殿(きでん)の人格(じんかく)を見損(みそこな)つてゐたのだ。044今日(こんにち)愈(いよいよ)人格(じんかく)の程度(ていど)が分(わか)つたので厶(ござ)る。045さう仰(おほ)せらるるなれば拙者(せつしや)の疑(うたがひ)を晴(は)らすために、046一度(いちど)貴殿(きでん)の居間(ゐま)を明(あ)けて見(み)せて貰(もら)ひませう』
047久米(くめ)『拙者(せつしや)の居間(ゐま)は拙者(せつしや)の権利(けんり)の中(うち)で厶(ござ)る。048如何(いか)に上官(じやうくわん)だつて捜索(そうさく)する訳(わけ)には参(まゐ)りますまい。049こればかりは平(ひら)にお断(ことわ)り申(まを)します』
050鬼春(おにはる)『いや、051何(なん)と云(い)はれても拙者(せつしや)の権利(けんり)を以(もつ)て室内(しつない)捜索(そうさく)を致(いた)す』
052と云(い)ひ乍(なが)らスタスタと隧道(すゐだう)を潜(くぐ)つて久米彦(くめひこ)の居間(ゐま)に進(すす)み行(ゆ)く。
053 久米彦(くめひこ)は……今(いま)露顕(あらは)れたが最後(さいご)、054一悶錯(ひともんさく)が起(おこ)るか、055但(ただし)は自分(じぶん)は首(くび)にならねばなるまい。056一層(いつそう)の事(こと)、057鬼春別(おにはるわけ)を後(うしろ)から一思(ひとおも)ひにやつつけて了(しま)はうか。058いやいや将軍(しやうぐん)にも股肱(ここう)の家来(けらい)が沢山(たくさん)ある。059うつかり手出(てだ)しも出来(でき)まい、060ぢやと云(い)つて吾(わが)居間(ゐま)を覗(のぞ)かれたが最後(さいご)、061忽(たちま)ち露顕(ろけん)するのだ。062はて、063如何(どう)したら宜(よ)からうか……と刻々(こくこく)に迫(せま)る胸(むね)の苦(くるし)みを抑(おさ)へて、064見(み)え隠(かく)れに跟(つ)いて行(ゆ)く。
065 鬼春別(おにはるわけ)は已(すで)に已(すで)にドアーの入口(いりぐち)に着(つ)いた。066そしてドアーに耳(みみ)を寄(よ)せて中(なか)の様子(やうす)を考(かんが)へてゐる。067スミエル、068スガールの姉妹(おとどひ)は、069そんな事(こと)とは夢(ゆめ)にも知(し)らず、070両親(りやうしん)のことや、071自分(じぶん)の身(み)の不運(ふうん)を歎(なげ)いて涙(なみだ)に袖(そで)を霑(うるほ)し乍(なが)ら、072一生(いつしやう)懸命(けんめい)に盤古(ばんこ)大神(だいじん)救(すく)ひ玉(たま)へ、073助(たす)け玉(たま)へと祈(いの)つてゐる。
074 鬼春別(おにはるわけ)は鍵(かぎ)を持(も)つてゐないので、075開(あ)けて這入(はい)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、076又(また)部下(ぶか)に命(めい)じて開(あ)けさしては却(かへつ)て自分(じぶん)の人格(じんかく)や声望(せいばう)を落(おと)す虞(おそ)れがあるので、077恋(こひ)の奴(やつこ)となつた彼(かれ)は、078一生(いつしやう)懸命(けんめい)に首(くび)を傾(かたむ)けて室内(しつない)の様子(やうす)を聞(き)いてゐる。079されど何(なん)だかワンワンと響(ひび)きがするばかりで少(すこ)しも聞(き)きとれなかつた。
080 久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は漸(やうや)くここに現(あら)はれ、
081久米(くめ)『鬼春別(おにはるわけ)様(さま)、082拙者(せつしや)の室内(しつない)には何(なに)か怪(あや)しきものが居(ゐ)る様子(やうす)ですかな』
083鬼春(おにはる)『確(たしか)に怪(あや)しう厶(ござ)る。084さア早(はや)く鍵(かぎ)を出(だ)してここをお開(あ)け召(め)され。085さすれば貴殿(きでん)の疑(うたがひ)も晴(は)れ、086両人(りやうにん)の間(あひだ)の確執(かくしつ)も解(と)けて結構(けつこう)で厶(ござ)らう』
087久米(くめ)『なるほど、088それは結構(けつこう)で厶(ござ)いますが、089生憎(あいにく)鍵(かぎ)を落(おと)しましたので、090這入(はい)る訳(わけ)にもゆきませぬ』
091鬼春(おにはる)『鍵(かぎ)がなくても叩(たた)き破(やぶ)れば宜(よ)いのだ。092金鎚(かなづち)か何(なに)か持(も)つて来(き)なさい』
093久米(くめ)『之(これ)は怪(け)しからぬ。094拙者(せつしや)の居間(ゐま)を金鎚(かなづち)を以(もつ)て叩(たた)き破(やぶ)るとは、095決(けつ)して武士(ぶし)の取(と)るべき道(みち)では厶(ござ)るまい。096いざ戦場(せんぢやう)と云(い)ふ場合(ばあひ)は兎(と)も角(かく)、097平常(へいじやう)に於(おい)て他人(ひと)の居室(ゐま)を叩(たた)き破(やぶ)るとは実(じつ)に乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)と申(まを)すもの、098之(これ)ばかりは如何(いか)に上官(じやうくわん)の命(めい)とても、099久米彦(くめひこ)承知(しようち)する事(こと)は出来(でき)ませぬ』
100鬼春(おにはる)『さうすると、101ヤツパリ疑(うたが)はしい物臭(ものぐさ)い事(こと)をしてゐられると見(み)える。102拙者(せつしや)の命令(めいれい)をお肯(き)きなくば、103只今(ただいま)より上官(じやうくわん)の職権(しよくけん)を以(もつ)て将軍職(しやうぐんしよく)を免(めん)じますから其(その)覚悟(かくご)をなさい』
104久米(くめ)『拙者(せつしや)は決(けつ)して貴殿(きでん)の命令(めいれい)によつて将軍(しやうぐん)になつたのでは厶(ござ)らぬ、105大黒主(おほくろぬし)様(さま)より命(めい)を受(う)けて将軍(しやうぐん)に任(にん)ぜられたのだから、106いかいお世話(せわ)で厶(ござ)る。107公務(こうむ)上(じやう)の事(こと)は兎(と)も角(かく)、108私行(しかう)上(じやう)に迄(まで)上官(じやうくわん)を振(ふ)り廻(まは)す理由(りいう)はありますまい。109久米彦(くめひこ)、110断(だん)じて此(この)室内(しつない)は開(あ)けさせませぬ』
111 かく両人(りやうにん)が争(あらそ)ふ所(ところ)へ、112慌(あわ)ただしく走(はし)つて来(き)たのはカーネルのマルタであつた。
113マルタ『将軍(しやうぐん)様(さま)、114大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました』
115鬼春(おにはる)『大変(たいへん)とは何(なん)だ』
116マルタ『ハイ、117三千(さんぜん)の兵士(へいし)、118一人(ひとり)も残(のこ)らず真裸体(まつぱだか)となり、119何(なん)だか訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を申(まを)しまして事務所(じむしよ)を叩(たた)き破(やぶ)り槍剣(さうけん)を捨(す)て石(いし)を投(な)げ乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)に及(およ)んでゐます。120愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐれば此(この)室内(しつない)にも入(はい)るかも知(し)れませぬから何卒(なにとぞ)両将軍(りやうしやうぐん)様(さま)の御(ご)威勢(ゐせい)によりまして御(ご)鎮圧(ちんあつ)を願(ねが)ひます、121到底(たうてい)吾々(われわれ)の力(ちから)には及(およ)びませぬ。122思(おも)ふに三五教(あななひけう)の奴(やつ)が魔法(まはふ)を使(つか)つて吾(わが)軍(ぐん)を悩(なや)ますものと考(かんが)へます』
123 此(この)注進(ちうしん)に鬼春別(おにはるわけ)、124久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)は私行(しかう)上(じやう)の争論(いさかひ)はケロリと忘(わす)れ、125一目散(いちもくさん)に岩窟(いはや)の入口(いりぐち)に駆(か)け出(だ)し、126四辺(あたり)を見(み)れば三千(さんぜん)の軍隊(ぐんたい)は八九分(はちくぶ)通(どほ)り真裸体(まつぱだか)となり、127訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)をガヤガヤ囀(さへづ)り乍(なが)ら、128半永久(はんえいきう)的(てき)の建物(たてもの)を小口(こぐち)から、129メリメリメリ バチバチバチと叩(たた)き潰(つぶ)してゐる。130両将軍(りやうしやうぐん)は大喝(たいかつ)一声(いつせい)『コラツ』と云(い)ひ乍(なが)ら大勢(おほぜい)の中(なか)に飛(と)び込(こ)んだ。131妖瞑酒(えうめいしゆ)に侵(をか)された一同(いちどう)は両将軍(りやうしやうぐん)の姿(すがた)を見(み)るより吾先(われさき)にと群(むら)がり来(きた)り、132『ヨイシヨ ヨイシヨ』と云(い)ひ乍(なが)ら胴上(どうあ)げをしたり、133地上(ちじやう)に投(な)げたり、134あらむ限(かぎ)りの乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)をなし、135遂(つひ)に両将軍(りやうしやうぐん)は大勢(おほぜい)の者(もの)に身体中(からだぢう)を踏(ふ)み蹂(にじ)られ、136殆(ほと)んど息(いき)の根(ね)も絶(た)えむばかりになつてゐた。
137 そこへチュウニック姿(すがた)のデク、138シーナの両人(りやうにん)は厳(いかめ)しく剣(けん)を吊(つ)り乍(なが)ら悠々(いういう)として現(あら)はれ来(きた)り、139遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく岩窟内(がんくつない)に忍(しの)び入(い)り、140スミエル、141スガール両人(りやうにん)の所在(ありか)は何処(いづこ)ぞと探(さが)してゐる。142岩窟内(がんくつない)に潜(ひそ)んでゐた数多(あまた)のバラモン軍(ぐん)は二人(ふたり)の服装(ふくさう)を見(み)て別(べつ)に怪(あや)しみもせず、143各(おのおの)軍務(ぐんむ)に従事(じゆうじ)してゐる。144又(また)もや真裸体(まつぱだか)の半狂乱(はんきやうらん)軍(ぐん)はドヤドヤと岩窟内(がんくつない)に入(い)り来(きた)り、145当(あた)るを幸(さいは)ひ暴狂(あれくる)ふ。146漸(やうや)くにして妖瞑酒(えうめいしゆ)の酔(よ)ひも醒(さ)め、147一同(いちどう)の軍人(ぐんじん)は正気(しやうき)に復(ふく)し、148捨(す)てた剣(けん)を拾(ひろ)い上(あ)げたり、149谷川(たにがは)に流(なが)した衣類(いるゐ)の彼方(あちら)此方(こちら)に掛(かか)つてゐるのを拾(ひろ)ひあげ、150日光(につくわう)に干(ほ)し乾(かわ)かし両将軍(りやうしやうぐん)を助(たす)けて元(もと)の居間(ゐま)に送(おく)り届(とど)けた。151一(いち)時(じ)妖瞑酒(えうめいしゆ)の勢(いきほひ)で狂態(きやうたい)を演(えん)じた数多(あまた)の軍隊(ぐんたい)も愈(いよいよ)目(め)が覚(さ)めて一層(いつそう)軍規(ぐんき)を厳重(げんぢう)にする事(こと)となつた。152道晴別(みちはるわけ)のデク、153及(およ)びシーナは漸(やうや)くにしてスミエル、154スガールの所在(ありか)を探(さぐ)り、155門扉(もんぴ)を叩(たた)き割(わ)つて中(なか)に押(お)し入(い)り、156両人(りやうにん)を助(たす)けて室内(しつない)を遁(に)げ出(だ)さうとする時(とき)、157前後(ぜんご)左右(さいう)の隧道(すゐだう)より集(あつ)まり来(きた)つたバラモン軍(ぐん)に脆(もろ)くも縛(しば)られ、158四(よ)人(にん)は別々(べつべつ)に暗(くら)い岩窟(いはや)の中(なか)に落(おと)し込(こ)まれて了(しま)つた。
159 鬼春別(おにはるわけ)、160久米彦(くめひこ)を初(はじ)めスパール、161エミシ、162シヤム、163マルタの幹部(かんぶ)連(れん)は、164岩窟内(いはやない)の最(もつとも)広(ひろ)き将軍(しやうぐん)事務室(じむしつ)に集(あつま)つて、165今度(こんど)の変事(へんじ)に就(つ)き種々(しゆじゆ)と其(その)原因(げんいん)を調(しら)べてゐる。
166鬼春(おにはる)『三千(さんぜん)の軍隊(ぐんたい)が殆(ほとん)ど九分(くぶ)九厘(くりん)迄(まで)真裸体(まつぱだか)になり、167斯(かく)の如(ごと)き狂態(きやうたい)を演(えん)じたのは決(けつ)して普通(ふつう)の事(こと)ではあるまい。168之(これ)には何(なに)かの原因(げんいん)があるだらう。169汝(なんぢ)等(ら)よく調査(てうさ)をして、170再(ふたた)びかかる不始末(ふしまつ)がない様(やう)に注意(ちうい)して呉(く)れたがよからうぞ』
171スパール『左様(さやう)で厶(ござ)います。172何(なん)とも合点(がつてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)ばかり、173大方(おほかた)三五教(あななひけう)の治国別(はるくにわけ)一派(いつぱ)が、174妖術(えうじゆつ)でも使(つか)つて吾(わが)軍営(ぐんえい)を攪乱(かくらん)させ、175将軍(しやうぐん)を生捕(いけどり)にする計劃(けいくわく)ではあるまいかと存(ぞん)じて居(を)ります』
176エミシ『初(はじ)めの間(うち)は僅(わづ)かの四五(しご)人(にん)の発狂者(はつきやうしや)でありましたが、177次第(しだい)々々(しだい)に伝染(でんせん)してあの様(やう)になつたのです。178三五教(あななひけう)には妖術(えうじゆつ)等(など)はありませぬ。179恐(おそ)らく此(この)山(やま)に住(す)む妖幻坊(えうげんばう)の一味(いちみ)がなせしもので厶(ござ)りませう。180先(ま)づ第一(だいいち)にバラモン神(がみ)を祀(まつ)り一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)を凝(こ)らさねば、181又(また)斯様(かやう)の事(こと)が出来(でき)ては危険(きけん)ですからな』
182久米(くめ)『あの怪(あや)しき二人(ふたり)の軍人(ぐんじん)、183牢獄(らうごく)に投(とう)じて置(お)いた奴(やつ)、184もしや三五教(あななひけう)の間諜(まはしもの)では厶(ござ)るまいか』
185鬼春(おにはる)『ハハハハハ、186これだけ沢山(たくさん)の軍隊(ぐんたい)を以(もつ)て固(かた)めた所(ところ)へ、187一人(ひとり)や二人(ふたり)の間諜(まはしもの)が這入(はい)つて来(き)た所(ところ)で何(なに)が出来(でき)るものか。188此(この)方(はう)が察(さつ)する所(ところ)によれば、189玉木村(たまきむら)の豪農(がうのう)テームスの家(いへ)から攫(さら)つて来(き)たと云(い)ふスミエル、190スガールの二人(ふたり)の女(をんな)こそ怪(あや)しきものだと思(おも)ふ。191その証拠(しようこ)には彼(かれ)を牢獄(らうごく)へぶち込(こ)んだ最後(さいご)、192味方(みかた)の兵士(へいし)の狂態(きやうたい)が恢復(くわいふく)したではないか』
193エミシ『成程(なるほど)、194さう承(うけたま)はればさうに間違(まちが)ひは厶(ござ)りませぬ。195陣中(ぢんちう)に女(をんな)を引入(ひきい)れる如(ごと)きは神(かみ)の許(ゆる)し給(たま)はざる所(ところ)なれば、196大自在天(だいじざいてん)様(さま)が戒(いまし)めの為(た)めに、197ああ云(い)ふ手続(てつづ)きを採(と)り吾々(われわれ)一同(いちどう)に気(き)をつけて下(くだ)さつたのかも知(し)れませぬ。198それについても、199あの二人(ふたり)の兵士(へいし)は吾(わが)軍(ぐん)の服装(ふくさう)をして居(を)りますれど、200あれも何(なん)だか怪(あや)しいものです。201此(この)山(やま)の主(ぬし)が化(ばけ)てゐるのかも分(わか)りますまい』
202鬼春(おにはる)『決(けつ)して彼(かれ)等(ら)四(よ)人(にん)に相手(あひて)になつてはならぬぞ。203ああして押込(おしこ)めて置(お)けば、204再(ふたた)び悪戯(いたづら)は致(いた)しますまい。205久米彦(くめひこ)殿(どの)如何(いかが)で厶(ござ)る。206御(ご)意見(いけん)を承(うけたま)はり度(た)い』
207久米(くめ)『成程(なるほど)、208どう考(かんが)へても合点(がつてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)で厶(ござ)る。209将軍(しやうぐん)の仰(おほ)せの如(ごと)く彼(かれ)等(ら)はいらはぬ事(こと)と致(いた)して、210兎(と)も角(かく)軍隊(ぐんたい)の緊粛(きんしゆく)を図(はか)り、211如何(いか)なる敵(てき)が寄(よ)せ来(きた)るとも、212天与(てんよ)の要害(えうがい)を扼(やく)し之(これ)だけの味方(みかた)があれば大丈夫(だいぢやうぶ)ですから、213軍隊(ぐんたい)一般(いつぱん)に注意(ちうい)を与(あた)ふる事(こと)と致(いた)しませう』
214 さていろいろと積(つ)んだり崩(くづ)したり、215ラートの結果(けつくわ)互(たがひ)に相戒(あひいまし)めて変(かは)つたものが来(き)たら近(ちか)づけない事(こと)に定(き)めて一先(ひとま)づ会議(くわいぎ)を閉(と)ぢた。216それより互(たがひ)に相戒(あひいまし)め軍規(ぐんき)を厳粛(げんしゆく)に此(この)要害(えうがい)を上下(しようか)一致(いつち)の上(うへ)死守(ししゆ)する事(こと)となつた。
217(大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 北村隆光録)
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