霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 鼻向(はなむけ)〔一四〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻 篇:第5篇 神光増進 よみ(新仮名遣い):しんこうぞうしん
章:第21章 鼻向 よみ(新仮名遣い):はなむけ 通し章番号:1407
口述日:1923(大正12)年02月23日(旧01月8日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
治国別一行は、刹帝利の催した直会に臨み、盛大な酒宴に一夜を明かした。
あくる朝未明のうちに、刹帝利をはじめ一同はビクトル山の神殿に初詣をした。竜彦はたちまち神懸りになって天教山の木花姫命の霊を宿し、ビク国はすでに安泰となったこと、バラモン軍にとらわれた庄屋の娘の救出に向かった晴公が危難に陥っていることを伝えた。
治国別は刹帝利に、神勅のとおり舎弟を救出に向かうために暇乞いをした。刹帝利は馬の用意を申し出た。出立にあたって刹帝利は別れの盃に涙を流し見送りの歌を歌った。ビク国の重臣たちもそれぞれ名残を惜しみ、治国別一行も返歌を返し、名残を惜しんだ。
治国別一行は代わる代わる宣伝歌や進行歌を歌いながら、玉木の里のテームス館に着いた。治国別は万公の軽口を戒め、松彦がテームスの表門を叩いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-09-25 10:06:18 文字数:3731 OBC :rm5421
愛善世界社版:261頁 八幡書店版:第9輯 713頁 修補版: 校定版:267頁 普及版:117頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は刹帝利(せつていり)の催(もよほ)したホーフスの直会(なほらひ)の会(くわい)に臨(のぞ)み、002盛大(せいだい)なる酒宴(しゆえん)を終(をは)り一夜(いちや)をここに明(あ)かした。003朝未明(あさまだき)よりビクトル山(さん)の神殿(しんでん)に王(わう)を始(はじ)め一同(いちどう)は初詣(はつまゐり)をした。004竜彦(たつひこ)は忽(たちま)ち神懸(かむがかり)となつて云(い)ふ。
005竜彦(たつひこ)『吾(われ)は天教山(てんけうざん)の木花姫(このはなひめの)命(みこと)である。006汝(なんぢ)治国別(はるくにわけ)、007最早(もはや)ビクの国(くに)は風塵(ふうぢん)治(をさ)まり後顧(こうこ)の憂(うれ)ひなければ、008一刻(いつこく)も早(はや)く西(にし)に向(むか)つて出立(しゆつたつ)せよ。009汝(なんぢ)が徒弟(とてい)道晴別(みちはるわけ)は玉木村(たまきむら)の里庄(りしやう)テームスの娘(むすめ)スミエル、010スガールの両人(りやうにん)が、011バラモン軍(ぐん)のゼネラル、012鬼春別(おにはるわけ)、013久米彦(くめひこ)一派(いつぱ)に奪(うば)はれたるを救(すく)はむとして、014却(かへつ)て、015岩窟内(がんくつない)の深(ふか)き穴(あな)に墜(おと)し入(い)れられむとして居(ゐ)るから、016一時(いちぢ)も早(はや)く猪倉山(ゐのくらやま)に立向(たちむか)ふべし。017時(とき)遅(おく)れては一大事(いちだいじ)、018松彦(まつひこ)、019竜彦(たつひこ)、020万公(まんこう)も共(とも)に救援(きうゑん)に向(むか)ふべし』
021と宣(の)らせ給(たま)ひ神上(かむあ)がり玉(たま)うた。
022 治国別(はるくにわけ)は此(この)神勅(しんちよく)を聞(き)いて吾(わが)徒弟(とてい)の晴公(はるこう)が道晴別(みちはるわけ)となり憐(あは)れなる女(をんな)を救(すく)はむが為(ため)に敵(てき)の術中(ぢゆつちう)に陥(おちい)りたる事(こと)を覚(さと)り、023此(この)由(よし)を刹帝利(せつていり)に告(つ)げて時(とき)を移(うつ)さず出立(しゆつたつ)する事(こと)となつた。
024治国(はるくに)『只今(ただいま)お聞(き)きの通(とほ)り神勅(しんちよく)が下(さが)りましたから、025長(なが)らくお世話(せわ)に預(あづ)かりましたが、026之(これ)でお暇(いとま)を致(いた)します』
027刹帝(せつてい)『長(なが)らくお世話(せわ)に預(あづ)かりましてお礼(れい)の申上(まをしあげ)様(やう)も厶(ござ)いませぬ。028併(しか)し乍(なが)ら此(この)儘(まま)お別(わか)れ申(まを)すのは実(じつ)に本意(ほい)無(な)う厶(ござ)りますれば、029兎(と)も角(かく)一度(いちど)ホーフスにお帰(かへ)りの上(うへ)、030袂別(べいべつ)の盃(さかづき)を取交(とりかは)し度(た)う厶(ござ)ります。031あまり廻(まは)り道(みち)でもありませぬからお寄(よ)り下(くだ)さい。032又(また)お急(いそ)ぎとならば馬(うま)の用意(ようい)も致(いた)さねばなりませぬから』
033治国(はるくに)『然(しか)らば折角(せつかく)の思召(おぼしめし)、034此(この)まま徒歩(とほ)で急(いそ)ぐよりもお馬(うま)を拝借(はいしやく)すれば非常(ひじやう)に便利(べんり)が宜(よろ)しう厶(ござ)います。035然(しか)らば今(いま)一応(いちおう)お世話(せわ)になりませう』
036と一行(いつかう)四(よ)人(にん)は刹帝利(せつていり)以下(いか)の役員(やくゐん)と共(とも)に急(いそ)ぎホーフスに帰(かへ)つた。037左守司(さもりのかみ)は部下(ぶか)に命(めい)じ名馬(めいば)を四頭(しとう)選(え)り出(だ)して、038一行(いつかう)が出立(しゆつたつ)の用意(ようい)を急(いそ)いでゐる。039刹帝利(せつていり)は別(わか)れを惜(をし)み涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、040自(みづか)ら盃(さかづき)をとつて治国別(はるくにわけ)に渡(わた)し、041酒(さけ)をなみなみと酌(つ)いで袂別(べいべつ)の式(しき)を挙(あ)げた。
042刹帝利(せつていり)『何時(いつ)迄(まで)も君(きみ)の御影(みかげ)を拝(をが)まむと
043思(おも)ひし事(こと)の水泡(みなわ)となりぬる。
044さりながら君(きみ)の残(のこ)せし勲功(いさをし)は
045万代(よろづよ)迄(まで)も朽(く)つる事(こと)なし。
046かねてより斯(か)くある事(こと)と知(し)り乍(なが)ら
047今更(いまさら)の如(ごと)悲(かな)しかりけり』
048治国別(はるくにわけ)『七十路(ななそじ)を越(こ)えさせ玉(たま)ふ身(み)なれども
049健(まめ)やかに在(ま)す御姿(みすがた)ぞ嬉(うれ)しき。
050村肝(むらきも)の心(こころ)を後(あと)に残(のこ)しつつ
051進(すす)みて行(ゆ)かむ神(かみ)の大道(おほぢ)に。
052ヒルナ姫(ひめ)治国別(はるくにわけ)は只今(ただいま)ゆ
053君(きみ)に別(わか)れて旅(たび)に出(い)でむとす。
054願(ねが)はくば国王(こきし)の君(きみ)を朝夕(あさゆふ)に
055心(こころ)配(くば)らせ守(まも)らせ玉(たま)へ』
056ヒルナ姫(ひめ)『なつかしき治国別(はるくにわけ)の神司(かむつかさ)
057別(わか)れむとして涙(なみだ)こぼるる。
058吾(わが)君(きみ)の身(み)に附(つ)き添(そ)ひて朝夕(あさゆふ)に
059守(まも)り守(まも)らむ神(かみ)の恵(めぐ)みに。
060治国(はるくに)の別(わけ)の司(つかさ)よ松彦(まつひこ)よ
061竜彦(たつひこ)万公(まんこう)健(まめ)やかに在(ま)せ』
062松彦(まつひこ)『千代(ちよ)八千代(やちよ)動(うご)かぬビクの国柱(くにばしら)
063立(た)てさせ玉(たま)へ神(かみ)を祈(いの)りて。
064いざさらば吾(わが)師(し)の君(きみ)と諸共(もろとも)に
065駒(こま)に鞭(むちう)ち別(わか)れ行(ゆ)かなむ』
066タルマン『天地(あめつち)の神(かみ)の力(ちから)を身(み)に受(う)けて
067進(すす)ませ玉(たま)へ月(つき)の御国(みくに)へ。
068治国(はるくに)の別(わけ)の命(みこと)は神(かみ)にませば
069如何(いか)なる曲(まが)もさやらざるらむ。
070吾(わが)君(きみ)は云(い)ふも更(さら)なり此(この)国(くに)の
071司(つかさ)や民(たみ)は如何(いか)に嘆(なげ)かむ。
072さり乍(なが)ら心(こころ)安(やす)けく思召(おぼしめ)せ
073吾(わが)師(し)の教(をしへ)厚(あつ)く守(まも)れば』
074治国別(はるくにわけ)『有難(ありがた)し別(わか)れに臨(のぞ)み一言(ひとこと)の
075言(こと)の葉(は)さへも出(い)でぬ悲(かな)しさ。
076さり乍(なが)ら神(かみ)の賜(たま)ひし魂(たましひ)は
077これの御国(みくに)にとどまりて守(まも)る』
078左守(さもり)『治国(はるくに)の別(わけ)の命(みこと)よ心(こころ)して
079進(すす)ませ玉(たま)へ醜野(しこの)ケ原(はら)を。
080バラモンの又(また)もや醜(しこ)の軍人(いくさびと)
081払(はら)はむとして出(い)でます君(きみ)よ。
082健気(けなげ)なる教(をしへ)の司(つかさ)の首途(いでたち)を
083見送(みおく)る吾(われ)ぞ涙(なみだ)こぼるる』
084治国別(はるくにわけ)『大神(おほかみ)の厚(あつ)き恵(めぐ)みに抱(いだ)かれて
085進(すす)みて行(ゆ)かむ心(こころ)安(やす)かれ』
086右守(うもり)『常暗(とこやみ)の世(よ)を照(て)らします神司(かむつかさ)
087今(いま)は果敢(あへ)なく別(わか)れむとする。
088今(いま)暫(しば)し輿(ひつぎ)を止(とど)め玉(たま)へかしと
089頼(たの)む甲斐(かひ)なき今日(けふ)の首途(いでまし)。
090君(きみ)往(ゆ)かばこれのホーフスは忽(たちま)ちに
091火(ひ)の消(き)えしごと淋(さび)しくならむ』
092治国別(はるくにわけ)『仮令(たとへ)吾(われ)ビクの御国(みくに)を去(さ)るとても
093神(かみ)ましませば淋(さび)しからまじ。
094願(ねが)はくば右守(うもり)の司(かみ)よ国王(こきし)の君(きみ)に
095誠心(まごころ)捧(ささ)げ仕(つか)へ玉(たま)はれ。
096三五(あななひ)の神(かみ)の大道(おほぢ)を夢(ゆめ)にだに
097忘(わす)れ玉(たま)ふな夢(ゆめ)にも現(うつつ)にも』
098竜彦(たつひこ)『いざさらば君(きみ)の館(やかた)を竜彦(たつひこ)も
099神(かみ)のまにまに別(わか)れ行(ゆ)かなむ。
100刹帝利(せつていり)百(もも)の司(つかさ)の人々(ひとびと)に
101袂(たもと)を分(わか)ち行(ゆ)くぞ悲(かな)しき。
102さり乍(なが)ら道晴別(みちはるわけ)を救(すく)はずば
103神(かみ)の司(つかさ)の道(みち)が立(た)たねば』
104右守(うもり)『竜彦(たつひこ)の神(かみ)の司(つかさ)の御(おん)言葉(ことば)
105聞(き)くにつけても勇(いさ)ましきかな』
106万公(まんこう)『万代(よろづよ)もいと健(すこや)かにましませと
107祈(いの)るは誠心(まことごころ)なりけり』
108ハルナ『吾国(わがくに)の艱難(なやみ)を払(はら)ひ吾(わが)君(きみ)を
109助(たす)け玉(たま)ひし人(ひと)ぞ尊(たふと)き。
110万代(よろづよ)も御側(みそば)に仕(つか)へまつらむと
111思(おも)ひし甲斐(かひ)なく別(わか)れむとぞする。
112願(ねが)はくば三五教(あななひけう)の神司(かむつかさ)
113ビクの御国(みくに)を忘(わす)れ玉(たま)ふな』
114治国別(はるくにわけ)『いかにして神(かみ)のまします神国(かみくに)を
115神(かみ)の司(つかさ)の忘(わす)れるべきかは』
116カルナ姫(ひめ)『大神(おほかみ)の恵(めぐ)みの露(つゆ)に霑(うるほ)ひし
117人(ひと)の悉(ことごと)さぞや嘆(なげ)かむ。
118吾(われ)も亦(また)今日(けふ)の別(わか)れを何(なん)となく
119涙(なみだ)ぐまれぬ惜(をし)まれにける』
120 斯(か)く互(たがひ)に歌(うた)を取(と)り交(かは)し、121早(はや)くも刹帝利(せつていり)より賜(たま)はつた駿馬(しゆんめ)に跨(またが)り、122轡(くつわ)を並(なら)べて四(よ)人(にん)の師弟(してい)は別(わか)れを告(つ)げ鞭(むち)を上(あ)げて一目散(いちもくさん)に大原野(だいげんや)を駆(かけ)り行(ゆ)く。123後(あと)見送(みおく)つて一同(いちどう)は両手(りやうて)を合(あは)せ感謝(かんしや)の涙(なみだ)に声(こゑ)を曇(くも)らせてゐた。
124治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)は
125神(かみ)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
126ビクの国王(こきし)や司(つかさ)等(ら)に
127暇(いとま)を告(つ)げて潔(いさぎよ)く
128心(こころ)尽(つく)しの駒(こま)に乗(の)り
129轡(くつわ)を並(なら)べ戞々(かつかつ)と
130青葉(あをば)茂(しげ)れる露(つゆ)の道(みち)
131初夏(しよか)の微風(びふう)に面(おもて)をば
132なめられ乍(なが)ら進(すす)み行(ゆ)く
133瞬(またた)く間(うち)に五十(ごじふ)里(り)の
134原野(げんや)を踏(ふ)み越(こ)え猪倉(ゐのくら)の
135魔神(まがみ)の籠(こも)る峰続(みねつづ)き
136シメジ峠(たうげ)の麓(ふもと)まで
137早(はや)くも無事(ぶじ)に着(つ)きにけり
138ここに四(よ)人(にん)は蹄(ひづめ)をば
139とどめて大地(だいち)に飛(と)び下(お)りつ
140馬首(ばしゆ)をば東(ひがし)に差向(さしむ)けて
141一鞭(ひとむち)あつればさしもの名馬(めいば)
142もと来(き)し道(みち)へ引返(ひつかへ)し
143名残(なごり)惜(をし)げに嘶(いなな)きつ
144一目散(いちもくさん)に帰(かへ)り行(ゆ)く
145治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)は
146シメジ峠(たうげ)の急坂(きふはん)を
147エンヤラヤツと登(のぼ)りつめ
148暫(しば)し汗(あせ)をばいれ乍(なが)ら
149四方(よも)の景色(けしき)を打眺(うちなが)め
150絵(ゑ)に見(み)る様(やう)な風色(ふうしよく)に
151旅(たび)の疲(つか)れを癒(い)やしけり
152少時(しばらく)ありて一行(いつかう)は
153立板(たていた)なせる坂道(さかみち)を
154行進歌(かうしんか)をば歌(うた)ひつつ
155注意(ちうい)し乍(なが)ら降(くだ)り行(ゆ)く。
156 万公(まんこう)は先(さき)に立(た)ち一歩(ひとあし)々々(ひとあし)調子(てうし)をとつて歌(うた)ひ出(だ)した。
157万公(まんこう)『バラモン軍(ぐん)の将軍(しやうぐん)と
158威張(ゐば)り散(ち)らした両人(りやうにん)が
159ビクの国(くに)をば退(やら)はれて
160命(いのち)からがらドツコイシヨ
161卑怯(ひけふ)未練(みれん)に猪倉(ゐのくら)の
162山(やま)に漸(やうや)う落延(おちの)びて
163土竜(むぐら)の様(やう)な穴住(あなず)まひ
164三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を引率(いんそつ)し
165さも強(つよ)さうに構(かま)へゐる
166その権幕(けんまく)と反対(はんたい)に
167僅(わづ)か四(よ)人(にん)の神司(かむづかさ)
168打出(うちだ)す厳(いづ)の言霊(ことたま)に
169恐(おそ)れて逃(に)げ出(だ)す卑怯(ひけふ)さよ
170いざ之(これ)よりはフサの国(くに)
171玉木(たまき)の村(むら)に立向(たちむか)ひ
172始終(しじう)の様子(やうす)を探索(たんさく)し
173吾(わが)師(し)の君(きみ)に従(したが)ひて
174魔神(まがみ)の住(す)まへる岩窟(がんくつ)に
175一大(いちだい)騒動(さうどう)起(おこ)すべく
176進(すす)みて行(ゆ)かむ楽(たの)しさよ
177ア、ウントコドツコイ危(あぶ)ないぞ
178松彦(まつひこ)さまよ、竜彦(たつひこ)よ
179貴方(あなた)は足(あし)が弱(よわ)い故(ゆゑ)
180用心(ようじん)なさるが宜(よろ)しかろ
181これこれ御覧(ごらん)この坂(さか)は
182一方(いつぱう)は断岩(だんがん)屹立(きつりつ)し
183一方(いつぱう)は千尋(ちひろ)の谷(たに)の底(そこ)
184岩石(がんせき)起伏(きふく)の間(あひだ)をば
185飛沫(ひまつ)を飛(と)ばす水(みづ)の音(おと)
186見(み)るさへ胆(たん)が寒(さむ)くなる
187命(いのち)あつての物種(ものだね)だ
188必(かなら)ず怪我(けが)の無(な)い様(やう)に
189大神(おほかみ)様(さま)に太祝詞(ふとのりと)
190唱(とな)へ上(あ)げつつ下(くだ)りませ
191ア、ウントコドツコイドツコイシヨ
192これ程(ほど)難所(なんしよ)が又(また)と世(よ)に
193如何(どう)してあらうか親不知(おやしらず)
194子不知(こしらず)峠(たうげ)を行(ゆ)く様(やう)だ
195命知(いのちし)らずの宣伝使(せんでんし)
196とは云(い)ふものの肉体(にくたい)が
197なくては神業(しんげふ)勤(つと)まらぬ
198人(ひと)の体(からだ)は神(かみ)様(さま)の
199御(ご)使用(しよう)遊(あそ)ばす傀儡(からくり)だ
200此(この)傀儡(からくり)を何処(どこ)までも
201立派(りつぱ)に保護(ほご)し奉(たてまつ)り
202大黒主(おほくろぬし)が三五(あななひ)の
203教(をしへ)の道(みち)に服(まつろ)ひて
204誠心(まことごころ)に復(かへ)るまで
205大必要(だいひつえう)の此(この)体(からだ)
206守(まも)らせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
207神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる
208朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
209月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
210仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
211神(かみ)の任(よさ)しの使命(しめい)をば
212果(はた)さにやおかぬ益良夫(ますらを)の
213赤(あか)き心(こころ)を臠(みそなは)し
214猪倉山(ゐのくらやま)は云(い)ふも更(さら)
215黄金山(わうごんざん)や大雲山(だいうんざん)
216寄(よ)り来(く)る曲津(まがつ)を言向(ことむ)けて
217太(ふと)しき勲功(いさを)を万代(よろづよ)に
218立(た)てさせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
219亀(かめ)の齢(よはひ)の万公(まんこう)が
220真心(まごころ)こめて願(ね)ぎまつる
221ウントコドツコイ ドツコイシヨ
222皆(みな)さま気(き)をつけなさいませ
223シメジ峠(たうげ)で第一(だいいち)の
224ここが難所(なんしよ)と云(い)ふ事(こと)だ
225足許(あしもと)大切(だいじ)に頼(たの)みます
226ア、ウントコドツコイ、アイタツタ
227あんまり歌(うた)に気(き)をとられ
228注意(ちうい)を与(あた)へた万公(まんこう)が
229第一番(だいいちばん)に転(こ)けよつた
230アイタタタツタこれや如何(どう)ぢや
231お尻(けつ)の皮(かは)が剥(む)けた様(やう)だ
232これも全(まつた)く神(かみ)様(さま)の
233私(わたし)の体(からだ)に降(ふ)り来(きた)る
234大厄難(だいやくなん)を小難(せうなん)に
235見直(みなほ)しましたお蔭(かげ)だろ
236ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
237御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
238 治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は交(かは)る交(がは)る宣伝歌(せんでんか)や進行歌(しんかうか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、239漸(やうや)くにして玉木(たまき)の里(さと)のテームスの館(やかた)に着(つ)いた。240邸内(ていない)は老木(らうぼく)鬱蒼(うつさう)として際限(さいげん)もなく広(ひろ)く、241立派(りつぱ)な建物(たてもの)が沢山(たくさん)に立並(たちなら)んでゐた。242されども何処(どこ)ともなく此(この)館(やかた)の内(うち)に憂事(うれひごと)が包(つつ)まれて居(ゐ)る様(やう)な気配(けはい)がしてゐる。
243万公(まんこう)『もし先生(せんせい)、244ここが木花姫(このはなひめ)様(さま)がお示(しめ)しになつた、245玉木(たまき)の村(むら)の里庄(りしやう)テームスの館(やかた)と見(み)えますな。246二人(ふたり)の娘(むすめ)が捕(とら)はれて居(ゐ)るので心配(しんぱい)があると見(み)え、247立派(りつぱ)な家(いへ)の棟(むね)までが何(なん)だか力無(ちからな)げに俯向(うつむ)いて嘆(なげ)いてゐる様(やう)に見(み)えますな。248何時(いつ)も先生(せんせい)は人(ひと)の家(いへ)の屋根(やね)を見(み)たら其処(そこ)の宅(うち)は栄(さか)える家(いへ)か、249衰(おとろ)へる家(いへ)か、250喜(よろこ)びがあるか、251悲(かな)しみがあるか、252分(わか)るものだと仰有(おつしや)いましたが、253如何(いか)にも其(その)通(とほ)り、254何(なん)とはなしに家(いへ)迄(まで)が心配(しんぱい)にしてゐるぢやありませぬか』
255治国(はるくに)『万公(まんこう)、256こんな処(ところ)で左様(さやう)な事(こと)を云(い)ふものでない。257之(これ)からテームスの館(やかた)へ行(ゆ)けば決(けつ)して喋(しやべ)つてはいかぬぞ。258治国別(はるくにわけ)が命令(めいれい)する迄(まで)普通(ふつう)一般(いつぱん)の挨拶(あいさつ)だけしたら黙(だま)つてゐるのだ。259脱線(だつせん)だらけの事(こと)を喋(しやべ)り立(た)てると却(かへつ)てお前(まへ)の人格(じんかく)を軽(かる)く見(み)られ、260ひいては私(わし)迄(まで)が恥(はづか)しい目(め)をせなくてはならぬから屹度(きつと)慎(つつし)んでくれよ』
261万公(まんこう)『はい、262慎(つつし)みます。263万口(まんこう)と云(い)へば万(まん)の口(くち)ですから一口(ひとくち)づつ云(い)つても万口(まんくち)並(なら)べ様(やう)と思(おも)へば、264随分(ずいぶん)量(りやう)が多(おほ)うなりますからな』
265松彦(まつひこ)『アハハハハハさア先生(せんせい)の御(お)言葉(ことば)の通(とほ)り、266これから万口(まんこう)ぢやない、267篏口令(かんこうれい)だ』
268と云(い)ひ乍(なが)ら表門(おもてもん)に立(た)ちトントンと拳(こぶし)を以(もつ)て訪(おとづ)れた。
269(大正一二・二・二三 旧一・八 於竜宮館 北村隆光録)
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