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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
第1章 子宝
第2章 日出前
第3章 懸引
第4章 理妻
第5章 万違
第6章 執念
第2篇 恋愛無涯
第7章 婚談
第8章 祝莚
第9章 花祝
第10章 万亀柱
第3篇 猪倉城寨
第11章 道晴別
第12章 妖瞑酒
第13章 岩情
第14章 暗窟
第4篇 関所の玉石
第15章 愚恋
第16章 百円
第17章 火救団
第5篇 神光増進
第18章 真信
第19章 流調
第20章 建替
第21章 鼻向
第22章 凱旋
附録 神文
余白歌
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(B)
(N)
理妻 >>>
第三章
懸引
(
かけひき
)
〔一三八九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第1篇 神授の継嗣
よみ(新仮名遣い):
しんじゅのけいし
章:
第3章 懸引
よみ(新仮名遣い):
かけひき
通し章番号:
1389
口述日:
1923(大正12)年02月21日(旧01月6日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
治国別は神示により、未明に松彦たちが王子・王女を連れて帰ってくることを悟り、門口を開けて湯を沸かし、座布団を並べるなどして準備して待っていた。
長年の山暮らしで髯も伸びきった王子たちに、治国別は湯を勧めた。王子たちは、三五教の宣伝使たちがビク国を救ってくれたことにお礼を述べた。王子たちは代わる代わる垢を落とし身なりを整えた。すると戻ってきたときの山男の風体とは打って変わり、みな貴公子然たる男ばかりであった。
身なりを整えたダイヤ姫は、治国別の前に手をついて再生の恩を感謝した。万公は、ダイヤ姫の美しさに心を奪われ、一同の前で姫の美貌をほめそやし、惚れてしまったと公言するありさまであった。
松彦と竜彦にたしなめられ、万公は客人の炊事の支度をすることになった。松彦と竜彦は、王子たちを無事に連れ帰ったことを王城に報告に行く役目があるので、万公一人で王子たちの世話をすることになった。
万公は、一人では手に余るのでぜひダイヤ姫に手伝いをしてほしいと頼み込んだ。治国別はまた万公に注意を与えたが、結局万公が炊事をしてダイヤ姫がその他の雑事を手伝うことになった。
松彦と竜彦は城に到着した。知らせを待っていたタルマンは、早速首尾を尋ねた。いたずら好きの竜公は、話をじらして脚色して、タルマンをやきもきさせた。
左守と右守はこの場にやってきて、タルマンの顔が土色になっているが、松彦と竜彦がニコニコと笑っているので、奉迎がうまくいったことを悟った。
一同が話していると、治別と万公に付き添われて長兄のアール王子が駕籠に乗ってやってきた。左守と右守はアールの姿を見ると、うれし涙がこみあげて一言も発せず、左右の手を取って刹帝利の居間へ案内して行った。
竜公にからかわれてやきもきしていたタルマンもようやく胸をなでおろし、アールの後を追って刹帝利の居間へ急いだ。治国別は後に残した五人が気にかかり、万公を連れてすぐに館に戻って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-30 19:01:05
OBC :
rm5403
愛善世界社版:
33頁
八幡書店版:
第9輯 631頁
修補版:
校定版:
32頁
普及版:
14頁
初版:
ページ備考:
001
暁
(
あかつき
)
の
空
(
そら
)
は
茜
(
あかね
)
さし、
002
百鳥
(
ももどり
)
の
声
(
こゑ
)
は
千代
(
ちよ
)
千代
(
ちよ
)
とビクの
国家
(
こくか
)
の
繁栄
(
はんゑい
)
を
祝
(
しゆく
)
し、
003
又
(
また
)
ビクトリヤ
王
(
わう
)
が
親子
(
おやこ
)
対面
(
たいめん
)
の
慶事
(
けいじ
)
を
寿
(
ことほ
)
ぐ
如
(
ごと
)
く、
004
今朝
(
けさ
)
は
何
(
なん
)
となく
勇
(
いさ
)
ましく
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
さへ
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
005
治国別
(
はるくにわけ
)
は
神示
(
しんじ
)
に
仍
(
よ
)
つて、
006
今朝
(
こんてう
)
未明
(
みめい
)
に
松彦
(
まつひこ
)
一行
(
いつかう
)
の
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
り、
007
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
け
放
(
はな
)
ち、
008
湯
(
ゆ
)
などを
沸
(
わ
)
かし、
009
座蒲団
(
ざぶとん
)
を
並
(
なら
)
べて
待
(
ま
)
つてゐた。
010
そこへ
八男
(
はちなん
)
一女
(
いちによ
)
はイソイソとして
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
011
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男兄弟
(
をとこきやうだい
)
は
熊
(
くま
)
のやうに
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
に
鬚
(
ひげ
)
ムシヤムシヤと
生
(
は
)
やしてゐる。
012
一見
(
いつけん
)
した
所
(
ところ
)
では、
013
どうしても
人間
(
にんげん
)
らしく
見
(
み
)
えなかつた。
014
而
(
しか
)
して
永
(
なが
)
らく
山住居
(
やまずまゐ
)
をしてゐたので、
015
体中
(
からだぢう
)
苔
(
こけ
)
が
生
(
は
)
えたと
疑
(
うたが
)
はるる
許
(
ばか
)
りに
垢
(
あか
)
がたまつてゐる。
016
松彦
(
まつひこ
)
『
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
、
017
お
蔭
(
かげ
)
に
依
(
よ
)
りまして、
018
漸
(
やうや
)
く
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
御
(
ご
)
兄妹
(
きやうだい
)
をお
迎
(
むか
)
へして
帰
(
かへ
)
りました』
019
治国
(
はるくに
)
『ああ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
020
サアサア
六人
(
ろくにん
)
様
(
さま
)
、
021
こちらへお
上
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さい。
022
そして
湯
(
ゆ
)
を
沸
(
わか
)
しておきましたから、
023
お
兄
(
にい
)
さまから
順々
(
じゆんじゆん
)
に
湯浴
(
ゆあ
)
みをして
下
(
くだ
)
さい』
024
アール『イヤ、
025
何
(
なん
)
共
(
とも
)
御
(
お
)
礼
(
れい
)
の
申上
(
まをしあげ
)
やうが
厶
(
ござ
)
いませぬ。
026
父
(
ちち
)
が
大変
(
たいへん
)
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
に
預
(
あづ
)
かつたさうで
厶
(
ござ
)
います。
027
其
(
その
)
上
(
うへ
)
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
兄妹
(
きやうだい
)
をお
救
(
すく
)
ひ
下
(
くだ
)
さるとは、
028
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のやうに
存
(
ぞん
)
じます』
029
と
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
に
似
(
に
)
ず、
030
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
してゐる。
031
治国
(
はるくに
)
『
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
はれては
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
ります。
032
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
に
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
いたので
厶
(
ござ
)
いますから、
033
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なく
御
(
お
)
湯
(
ゆ
)
をお
召
(
め
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
034
オイ
万公
(
まんこう
)
、
035
御
(
お
)
湯場
(
ゆば
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
致
(
いた
)
せ。
036
そして
垢
(
あか
)
をおとして
上
(
あ
)
げるのだよ』
037
万公
(
まんこう
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
038
サ、
039
アールさま、
040
貴方
(
あなた
)
からお
入
(
はい
)
りなさい。
041
背中
(
せなか
)
を
流
(
なが
)
しませう』
042
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
湯殿
(
ゆどの
)
へ
案内
(
あんない
)
した。
043
松彦
(
まつひこ
)
、
044
竜彦
(
たつひこ
)
は
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
兄妹
(
きやうだい
)
を
湯浴
(
ゆあ
)
みさせ、
045
親切
(
しんせつ
)
に
洗
(
あら
)
うてやり、
046
それからスツカリと
鬚
(
ひげ
)
を
剃
(
そ
)
りおとし、
047
ホーフスから
預
(
あづか
)
つた
六人分
(
ろくにんぶん
)
の
衣類
(
いるゐ
)
を
着替
(
きか
)
へさせた。
048
何
(
いづ
)
れも
斯
(
か
)
うなつてみると、
049
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
貴公子
(
きこうし
)
然
(
ぜん
)
たる
男
(
をとこ
)
計
(
ばか
)
りである。
050
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
は
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
とて、
051
男
(
をとこ
)
が
背
(
せ
)
を
流
(
なが
)
す
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
052
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
湯浴
(
ゆあみ
)
をなし、
053
念入
(
ねんい
)
りに
身体
(
からだ
)
の
垢
(
あか
)
をおとし、
054
ラブロックを
整理
(
せいり
)
し、
055
美
(
うる
)
はしき
小袖
(
こそで
)
に
身
(
み
)
を
纒
(
まと
)
ひ、
056
ニコニコし
乍
(
なが
)
ら
治国別
(
はるくにわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
をついて、
057
再生
(
さいせい
)
の
恩
(
おん
)
を
感謝
(
かんしや
)
した。
058
万公
(
まんこう
)
はダイヤ
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
059
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
060
万公
(
まんこう
)
『ヤア、
061
これはこれはと
許
(
ばか
)
り
花
(
はな
)
の
吉野山
(
よしのやま
)
、
062
女
(
をんな
)
は
化物
(
ばけもの
)
だと
聞
(
き
)
いてゐたが、
063
コラまアどうした
事
(
こと
)
だ。
064
小北山
(
こぎたやま
)
のお
菊
(
きく
)
から
比
(
くら
)
べてみると
雲泥
(
うんでい
)
の
相違
(
さうゐ
)
だ。
065
何
(
なん
)
とマア
立派
(
りつぱ
)
なシヤンだなア、
066
エヘヘヘ』
067
松彦
(
まつひこ
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
、
068
ヤツパリお
菊
(
きく
)
が
恋
(
こひ
)
しいか、
069
困
(
こま
)
つた
男
(
をとこ
)
だなア。
070
それではモンクになつても
駄目
(
だめ
)
だぞ』
071
万公
(
まんこう
)
『イヤ、
072
もう
文句
(
もんく
)
も
何
(
なに
)
もありませぬ。
073
素的
(
すてき
)
滅法界
(
めつぱふかい
)
惚
(
ほれ
)
ました、
074
ああ
惚
(
ほれ
)
た
惚
(
ほれ
)
た。
075
われ
乍
(
なが
)
らよう
惚
(
ほれ
)
たものだ』
076
松彦
(
まつひこ
)
『アハハハハ、
077
彫刻師
(
てうこくし
)
か
井戸掘
(
ゐどほり
)
の
検査
(
けんさ
)
のやうに
言
(
い
)
つてゐやがるな。
078
困
(
こま
)
つた
男
(
をとこ
)
だなア。
079
それぢや
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
万公
(
まんこう
)
で
行
(
ゆ
)
かねばなるまい』
080
万公
(
まんこう
)
『
万公
(
まんこう
)
の
同情
(
どうじやう
)
を
寄
(
よ
)
せて、
081
此
(
この
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
をお
迎
(
むか
)
へして
来
(
き
)
たのだから、
082
何
(
いづ
)
れ
此
(
この
)
……
何
(
なん
)
でせう、
083
お
兄
(
にい
)
さまがあるのだから、
084
刹帝利
(
せつていり
)
家
(
け
)
を
継
(
つ
)
がれる
筈
(
はず
)
はなし、
085
どこかへ○○をなさるお
身分
(
みぶん
)
だから、
086
ねえ
松彦
(
まつひこ
)
さま、
087
モウお
菊
(
きく
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
りますワ、
088
エヘヘヘヘ』
089
松彦
(
まつひこ
)
『アハハハハ、
090
身分
(
みぶん
)
不相応
(
ふさうおう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つてゐるか、
091
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だなア』
092
万公
(
まんこう
)
『
門閥
(
もんばつ
)
や、
093
財産
(
ざいさん
)
や、
094
地位
(
ちゐ
)
や、
095
名望
(
めいばう
)
や、
096
そんな
物
(
もの
)
が
何
(
なん
)
になりますか。
097
そんな
物
(
もの
)
を
以
(
もつ
)
て
神聖
(
しんせい
)
なる
恋愛
(
れんあい
)
を
制肘
(
せいちう
)
せられちや
堪
(
たま
)
りませぬワ、
098
キツと
私
(
わたし
)
のものですよ。
099
貴方
(
あなた
)
だつて、
100
万公
(
まんこう
)
にやるのは
惜
(
を
)
しいでせうが、
101
そこは
部下
(
ぶか
)
を
愛
(
あい
)
するといふ
神心
(
かみごころ
)
を
以
(
もつ
)
て、
102
私
(
わたし
)
に
媒介
(
ばいかい
)
して
下
(
くだ
)
さるでせうなア。
103
否
(
いな
)
キツと
子弟
(
してい
)
を
愛
(
あい
)
する
慈悲
(
じひ
)
深
(
ぶか
)
いお
心
(
こころ
)
から、
104
周旋
(
しうせん
)
をして
下
(
くだ
)
さるだらうと
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
ります。
105
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
だつて、
106
一旦
(
いつたん
)
ない
者
(
もの
)
と
定
(
き
)
めて
厶
(
ござ
)
つたから、
107
つまり
云
(
い
)
へば
拾
(
ひろ
)
ひ
者
(
もの
)
ですワ。
108
さうだから、
109
キツと
吾々
(
われわれ
)
がお
迎
(
むか
)
へにいつた
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
として、
110
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
周旋
(
しうせん
)
の
如何
(
いかん
)
に
仍
(
よ
)
つて、
111
万公
(
まんこう
)
に
与
(
あた
)
へると
仰有
(
おつしや
)
るでせう。
112
キツと
抜目
(
ぬけめ
)
なく、
113
先生
(
せんせい
)
、
114
頼
(
たの
)
みますで……』
115
ダイヤ『ホホホホ、
116
あのマア
万公
(
まんこう
)
さまとやら、
117
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
能
(
よ
)
う
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいます。
118
併
(
しか
)
し
私
(
わたし
)
には
既
(
すで
)
に
業
(
すで
)
に
夫
(
をつと
)
が
厶
(
ござ
)
います。
119
年
(
とし
)
は
十一
(
じふいつ
)
才
(
さい
)
でも
女
(
をんな
)
として
一人前
(
いちにんまへ
)
の
心得
(
こころえ
)
は
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りますからねえ』
120
万公
(
まんこう
)
『これはしたり、
121
貴方
(
あなた
)
の
夫
(
をつと
)
といふのは
何方
(
どなた
)
ですか。
122
まさか
兄妹
(
きやうだい
)
同士
(
どうし
)
、
123
そんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
はなさいますまいし……』
124
ダイヤ『ハイ、
125
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
し、
126
父
(
ちち
)
に
掛合
(
かけあ
)
つて
頂
(
いただ
)
いて、
127
左守司
(
さもりのかみ
)
の
息子
(
むすこ
)
ハルナさまと、
128
二三
(
にさん
)
年
(
ねん
)
したら
結婚
(
けつこん
)
するやうに
願
(
ねが
)
つて
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います。
129
私
(
わたし
)
はハルナさまが
一番
(
いちばん
)
好
(
す
)
きなので
厶
(
ござ
)
いますからねえ』
130
万公
(
まんこう
)
は
首
(
くび
)
を
頻
(
しき
)
りにふり、
131
万公
(
まんこう
)
『
折角
(
せつかく
)
乍
(
なが
)
ら、
132
ハルナさまは
駄目
(
だめ
)
ですよ。
133
既
(
すで
)
に
業
(
すで
)
にカルナ
姫
(
ひめ
)
といふ
立派
(
りつぱ
)
な
奥
(
おく
)
さまが
出来
(
でき
)
ました。
134
そして
貴女
(
あなた
)
とは
年
(
とし
)
が
違
(
ちが
)
ふのですからそんな
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つたが
宜
(
よろ
)
しからう』
135
ダイヤ『あれマア、
136
ハルナさまとした
事
(
こと
)
が、
137
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
の
間
(
ま
)
にチヤンと
奥
(
おく
)
さまを
持
(
も
)
たれたのですか。
138
私
(
わたし
)
、
139
どうしませう』
140
万公
(
まんこう
)
『ハハハ、
141
さうだから、
142
それ
丈
(
だけ
)
年
(
とし
)
の
違
(
ちが
)
ふ
男
(
をとこ
)
にラブしても
駄目
(
だめ
)
だと
云
(
い
)
ふのですよ』
143
ダイヤ『ハルナさまと
私
(
わたし
)
と
年
(
とし
)
が
違
(
ちが
)
うといつても、
144
僅
(
わづ
)
か
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
りですよ。
145
貴方
(
あなた
)
は
三十
(
さんじふ
)
年
(
ねん
)
も
違
(
ちが
)
ふぢやありませぬか。
146
そんな
方
(
かた
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつたら、
147
世間
(
せけん
)
の
人
(
ひと
)
がお
半
(
はん
)
長右衛門
(
ちやううゑもん
)
だと
云
(
い
)
つて
笑
(
わら
)
ひますがな。
148
ホホホホ、
149
あのマアいけ
好
(
す
)
かないお
顔
(
かほ
)
』
150
とプリンと
背中
(
せなか
)
を
向
(
む
)
ける。
151
万公
(
まんこう
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
失敗
(
しくじ
)
つた。
152
どうしたら
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
くなるだらうかなア。
153
なぜ
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
も
後
(
あと
)
から
生
(
うま
)
れて
来
(
こ
)
なかつただらう』
154
松彦
(
まつひこ
)
『アハハハハ』
155
竜彦
(
たつひこ
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
、
156
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はずに、
157
早
(
はや
)
くお
客
(
きやく
)
さまの
御飯
(
ごはん
)
の
用意
(
ようい
)
をするのだ。
158
貴様
(
きさま
)
は
之
(
これ
)
からボーイを
命
(
めい
)
ずる。
159
早
(
はや
)
く
台所
(
だいどころ
)
へ
行
(
い
)
つて
襷
(
たすき
)
がけになつて
活動
(
くわつどう
)
せぬかい』
160
万公
(
まんこう
)
『ヘー、
161
承知
(
しようち
)
しました。
162
併
(
しか
)
し、
163
これ
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
のお
客
(
きやく
)
さまだから、
164
万公
(
まんこう
)
一人
(
ひとり
)
では
手
(
て
)
が
廻
(
まは
)
りませぬ。
165
炊事
(
すゐじ
)
に
女
(
をんな
)
がなくてはなりませぬから、
166
一
(
ひと
)
つダイヤさまに
手伝
(
てつだ
)
つて
貰
(
もら
)
ひませうかい。
167
それが
厭
(
いや
)
なら、
168
竜彦
(
たつひこ
)
さまも
水汲
(
みづく
)
みなつとして
貰
(
もら
)
ひませう』
169
治国
(
はるくに
)
『イヤ、
170
松彦
(
まつひこ
)
、
171
竜彦
(
たつひこ
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御用
(
ごよう
)
がある。
172
之
(
これ
)
から
種々
(
いろいろ
)
の
準備
(
じゆんび
)
を
整
(
ととの
)
へホーフスへ
参
(
まゐ
)
り、
173
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
にいろいろと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
に
行
(
ゆ
)
かねばならぬ。
174
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
万公
(
まんこう
)
、
175
お
前
(
まへ
)
今日
(
けふ
)
丈
(
だけ
)
一人
(
ひとり
)
でやつてくれ。
176
ダイヤ
様
(
さま
)
は
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
でもあり、
177
暫
(
しばら
)
く
手伝
(
てつだ
)
つて
頂
(
いただ
)
けば
此方
(
こちら
)
も
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
し、
178
お
前
(
まへ
)
も
喜
(
よろこ
)
ぶだらうが、
179
どうも
万公
(
まんこう
)
では
険難
(
けんのん
)
で、
180
さうする
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず
困
(
こま
)
つた
者
(
もの
)
だ』
181
万公
(
まんこう
)
『
先生
(
せんせい
)
、
182
そんな
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
はいりませぬ、
183
私
(
わたし
)
も
男
(
をとこ
)
です。
184
滅多
(
めつた
)
に
不調法
(
ぶてうはふ
)
はしませぬから、
185
何卒
(
どうぞ
)
、
186
仮令
(
たとへ
)
半時
(
はんとき
)
でも
一緒
(
いつしよ
)
に
仕事
(
しごと
)
をさして
下
(
くだ
)
さい。
187
きつい
山坂
(
やまさか
)
を
荊
(
いばら
)
を
分
(
わ
)
けて
往来
(
わうらい
)
し、
188
ヤツと
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
帰
(
かへ
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
189
三助
(
さんすけ
)
をやらされる、
190
又
(
また
)
炊事
(
すゐじ
)
まで
命
(
めい
)
ぜられる……といふのだから、
191
チツと
御
(
ご
)
推量
(
すゐりやう
)
下
(
くだ
)
さつてもよささうなものですな』
192
ダイヤ『
妾
(
わたし
)
は
山中
(
さんちう
)
に
於
(
おい
)
て
不便
(
ふべん
)
な
生活
(
せいくわつ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
193
六人分
(
ろくにんぶん
)
の
炊事
(
すゐじ
)
をやつて
来
(
き
)
ました
経験
(
けいけん
)
が
厶
(
ござ
)
います。
194
妾
(
わたし
)
一人
(
ひとり
)
が、
195
そんなら
炊事場
(
すゐじば
)
を
預
(
あづか
)
りませう。
196
万公
(
まんこう
)
さまはお
休
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
197
万公
(
まんこう
)
『
滅相
(
めつさう
)
もない、
198
お
年
(
とし
)
のいかぬ
若
(
わか
)
い
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に、
199
コーカー・マスターをさせては、
200
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ。
201
又
(
また
)
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
に
聞
(
きこ
)
えてもすみませぬから、
202
夫婦
(
ふうふ
)
……オツトドツコイ
男女
(
だんぢよ
)
共稼
(
ともかせぎ
)
で、
203
コーカー・マスターを
勤
(
つと
)
めませう。
204
ねえ
先生
(
せんせい
)
、
205
それで
差支
(
さしつかへ
)
ありますまい』
206
治国
(
はるくに
)
『ダイヤ
様
(
さま
)
さへ
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
なればよからう。
207
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
は
飯炊役
(
めしたきやく
)
、
208
ダイヤ
様
(
さま
)
はバトラーになつて
貰
(
もら
)
はう』
209
万公
(
まんこう
)
『エエ
仕方
(
しかた
)
がない。
210
君命
(
くんめい
)
に
従
(
したが
)
ふ
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう』
211
と
万公
(
まんこう
)
はいろいろの
食料品
(
しよくれうひん
)
を
集
(
あつ
)
め、
212
炊事
(
すゐじ
)
に
襷
(
たすき
)
がけで
取掛
(
とりかか
)
つた。
213
ダイヤは
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
き、
214
茶
(
ちや
)
を
沸
(
わか
)
し、
215
チヤンと
準備
(
じゆんび
)
が
整
(
ととの
)
うて、
216
膳部
(
ぜんぶ
)
を
運
(
はこ
)
び、
217
一々
(
いちいち
)
毒味
(
どくみ
)
を
了
(
をは
)
り
座敷
(
ざしき
)
に
並
(
なら
)
べた。
218
之
(
これ
)
より
一同
(
いちどう
)
は
朝飯
(
あさはん
)
を
喫
(
きつ
)
し、
219
ゆるゆると
山中
(
さんちう
)
生活
(
せいくわつ
)
の
話
(
はなし
)
や、
220
又
(
また
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
の
苦労話
(
くらうばなし
)
や、
221
愉快
(
ゆくわい
)
な
話
(
はなし
)
を
交換
(
かうくわん
)
し、
222
ビクトリヤ
城内
(
じやうない
)
の
戦争談
(
せんそうだん
)
などを
始
(
はじ
)
めて、
223
一時
(
いつとき
)
許
(
ばか
)
り
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
時
(
とき
)
をうつした。
224
治国別
(
はるくにわけ
)
の
内命
(
ないめい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
225
松彦
(
まつひこ
)
、
226
竜彦
(
たつひこ
)
両人
(
りやうにん
)
は、
227
衣紋
(
えもん
)
を
繕
(
つく
)
ろひ、
228
ホーフスに
参入
(
さんにふ
)
した。
229
内事司
(
ないじつかさ
)
のタルマンは
二人
(
ふたり
)
を
叮嚀
(
ていねい
)
に
向
(
むか
)
へ、
230
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
通
(
とほ
)
し、
231
茶菓
(
さくわ
)
を
饗応
(
きやうおう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
232
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
子女
(
しぢよ
)
の
消息
(
せうそく
)
を
待
(
ま
)
ち
兼
(
かね
)
た
様
(
やう
)
に
尋
(
たづ
)
ね
出
(
だ
)
した。
233
タルマン『
大変
(
たいへん
)
にお
待
(
ま
)
ち
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
りましたが、
234
お
子様
(
こさま
)
の
消息
(
せうそく
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか』
235
竜彦
(
たつひこ
)
は
早速
(
さつそく
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
つたと
云
(
い
)
つては、
236
余
(
あま
)
り
興味
(
きようみ
)
がない、
237
ここは
一
(
ひと
)
つ
内事司
(
ないじつかさ
)
をぢらしてやらうと、
238
徒好
(
いたづらずき
)
の
竜彦
(
たつひこ
)
はワザと
心配相
(
しんぱいさう
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
239
ナフキンで
唇
(
くちびる
)
の
唾
(
つばき
)
をふき
乍
(
なが
)
ら、
240
咳払
(
せきばらひ
)
を
七
(
なな
)
つも
八
(
やつ
)
つもつづけ、
241
言
(
い
)
ひにくさうにモヂモヂして
揉手
(
もみで
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
242
竜彦
(
たつひこ
)
『エー、
243
折角
(
せつかく
)
、
244
参
(
まゐ
)
りましたが、
245
中々
(
なかなか
)
以
(
もつ
)
て、
246
容易
(
ようい
)
の
事
(
こと
)
ではありませぬ。
247
夫
(
そ
)
れは
夫
(
そ
)
れは、
248
意外
(
いぐわい
)
にも
深山
(
しんざん
)
幽谷
(
いうこく
)
で
荊蕀
(
いばら
)
茂
(
しげ
)
り、
249
鳥
(
とり
)
も
通
(
かよ
)
はないやうな
難所
(
なんしよ
)
で
厶
(
ござ
)
いましたよ』
250
タルマン『ヘー、
251
成程
(
なるほど
)
、
252
大変
(
たいへん
)
お
困
(
こま
)
りで
厶
(
ござ
)
いましただらうな。
253
そして
御
(
ご
)
子女
(
しぢよ
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
りになりましたか』
254
竜彦
(
たつひこ
)
『サ、
255
そこが、
256
ウン、
257
何
(
なん
)
です。
258
誠
(
まこと
)
に
早
(
はや
)
、
259
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
りましたよ。
260
月花
(
つきはな
)
の
友
(
とも
)
は
次第
(
しだい
)
に
雪
(
ゆき
)
と
消
(
き
)
え
261
光明
(
くわうみやう
)
は
三日
(
みつか
)
の
月
(
つき
)
のあとへさし
262
藪医者
(
やぶいしや
)
は
験
(
けん
)
より
変
(
へん
)
を
見
(
み
)
せるなり』
263
タルマン『エ、
264
何
(
なん
)
と
仰
(
おほ
)
せられます。
265
御
(
ご
)
子女
(
しぢよ
)
はゐられなかつたので
厶
(
ござ
)
いますか』
266
竜彦
(
たつひこ
)
『ヘー、
267
居
(
を
)
られるはゐられました。
268
それがサ、
269
中々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
に、
270
ウンと
仰有
(
おつしや
)
らぬので、
271
猪突槍
(
ししつきやり
)
を
以
(
もつ
)
て
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取囲
(
とりかこ
)
み、
272
蟻
(
あり
)
の
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
る
隙間
(
すきま
)
のなき
迄
(
まで
)
に、
273
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
其
(
その
)
猛烈
(
まうれつ
)
さ。
274
僅
(
わづか
)
に
血路
(
けつろ
)
を
開
(
ひら
)
いて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
り
候
(
さふらふ
)
……といふやうな
為体
(
ていたらく
)
で
厶
(
ござ
)
いましたよ。
275
あああ、
276
是非
(
ぜひ
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬ』
277
タルマン『
向
(
むか
)
ふは
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
さま、
278
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
だとか、
279
蟻
(
あり
)
も
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
る
隙間
(
すきま
)
もない……とか、
280
そんな
御
(
ご
)
冗談
(
じやうだん
)
仰有
(
おつしや
)
らずに、
281
早
(
はや
)
く
吉報
(
きつぱう
)
を
御
(
お
)
聞
(
き
)
かし
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います』
282
松彦
(
まつひこ
)
はニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
283
黙
(
だま
)
つて
二人
(
ふたり
)
の
問答
(
もんだふ
)
を
聞
(
き
)
いてゐる。
284
そして
時々
(
ときどき
)
「プープー」と
噴
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
してゐた。
285
タルマンは
気
(
き
)
を
焦
(
いら
)
ち、
286
膝
(
ひざ
)
をすりよせ
乍
(
なが
)
ら、
287
タルマン『エ、
288
焦
(
ぢ
)
らさずに
早
(
はや
)
く
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
289
キツと
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
られたのでせう』
290
竜彦
(
たつひこ
)
『
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
がヤツと
格闘
(
かくとう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
291
到底
(
たうてい
)
生捕
(
いけどり
)
にして
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
292
首
(
くび
)
をチヨン
切
(
ぎ
)
つて、
293
漸
(
やうや
)
く
凱旋
(
がいせん
)
致
(
いた
)
しました。
294
やがて
首実検
(
くびじつけん
)
に
供
(
そな
)
へませう。
295
毛
(
け
)
は
熊
(
くま
)
の
如
(
ごと
)
くに
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
に
生
(
は
)
えて
居
(
を
)
りますから、
296
御
(
お
)
見違
(
みちが
)
ひのない
様
(
やう
)
にお
検
(
あらた
)
めを
願
(
ねが
)
ひます。
297
今
(
いま
)
治国別
(
はるくにわけ
)
さまの
館
(
やかた
)
で
仮令
(
たとへ
)
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
でも
疎
(
おろそか
)
には
出来
(
でき
)
ませぬから、
298
輿
(
こし
)
を
作
(
つく
)
つて
舁
(
かつ
)
いで
参
(
まゐ
)
りますからよくお
検
(
あらた
)
め
下
(
くだ
)
さいませ』
299
タルマン『
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
誰
(
たれ
)
が
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
しましたか、
300
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
の
乱暴
(
らんばう
)
、
301
首
(
くび
)
計
(
ばか
)
り
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
何
(
なん
)
になりますか。
302
貴方
(
あなた
)
は
人殺
(
ひとごろし
)
の
大罪人
(
だいざいにん
)
、
303
これから、
304
何程
(
なにほど
)
神徳
(
しんとく
)
の
高
(
たか
)
きモンクだと
云
(
い
)
つても、
305
許
(
ゆる
)
す
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ、
306
覚悟
(
かくご
)
をなされ』
307
と
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へて
怒
(
おこ
)
り
出
(
だ
)
した。
308
竜彦
(
たつひこ
)
は
平然
(
へいぜん
)
として、
309
竜彦
(
たつひこ
)
『アハハハ、
310
大
(
おほ
)
きな
体
(
からだ
)
を
引抱
(
ひつかか
)
へて
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
311
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
れば
大変
(
たいへん
)
軽便
(
けいべん
)
だと
思
(
おも
)
ひ、
312
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
意志
(
いし
)
に
従
(
したが
)
つて、
313
ビクの
国家
(
こくか
)
を
乱
(
みだ
)
さむとする、
314
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
御
(
ご
)
子女
(
しぢよ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼし
帰
(
かへ
)
つたのが、
315
何
(
なに
)
がお
不足
(
ふそく
)
で
厶
(
ござ
)
るか。
316
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
子供
(
こども
)
が
顔
(
かほ
)
さへ
見
(
み
)
せてくれさへすれやよいと
仰有
(
おつしや
)
つたでせう。
317
別
(
べつ
)
に
胴体
(
どうたい
)
を
見
(
み
)
せいとも、
318
手足
(
てあし
)
を
見
(
み
)
せいとも
仰有
(
おつしや
)
らなかつたでせう。
319
さやうな
不足
(
ふそく
)
は、
320
吾々
(
われわれ
)
は
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
は
持
(
も
)
ちませぬ、
321
アハハハハ』
322
タルマンは
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
に
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
323
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をして
唇
(
くちびる
)
を
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
324
恨
(
うら
)
めしげに
竜彦
(
たつひこ
)
の
顔
(
かほ
)
を
睨
(
にら
)
んでゐる。
325
ここへ、
326
レーブ・アン・ルームにあつて、
327
治国別
(
はるくにわけ
)
の
返辞
(
へんじ
)
を
待
(
ま
)
つてゐた、
328
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
はどうやら
竜彦
(
たつひこ
)
の
声
(
こゑ
)
がする
様
(
やう
)
だと、
329
ドアを
排
(
はい
)
し、
330
廊下
(
らうか
)
を
伝
(
つた
)
うて
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
331
見
(
み
)
ればタルマンは
顔色
(
かほいろ
)
土
(
つち
)
の
如
(
ごと
)
くなつて
慄
(
ふる
)
うてゐる。
332
二人
(
ふたり
)
はニコニコとして
笑
(
わら
)
うてゐた。
333
左守
(
さもり
)
のキユービツトは
此
(
この
)
体
(
てい
)
をみて、
334
……ハハア、
335
タルマンの
奴
(
やつ
)
、
336
予言者
(
よげんしや
)
だ、
337
宣伝使
(
せんでんし
)
だと
威張
(
ゐば
)
つてゐるから、
338
懲戒
(
みせしめ
)
の
為
(
ため
)
に
油
(
あぶら
)
を
取
(
と
)
られてゐるのだ、
339
此奴
(
こいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い……と
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
340
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
341
左守
(
さもり
)
『
今
(
いま
)
喫煙室
(
きつえんしつ
)
に
於
(
おい
)
て
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
けば、
342
どうやら、
343
不成功
(
ふせいこう
)
に
終
(
をは
)
つた
様子
(
やうす
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
344
イヤもう
何
(
なん
)
でも
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
345
アールさまさへ
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さらば、
346
ビクの
城中
(
じやうちう
)
は
磐石
(
ばんじやく
)
の
如
(
ごと
)
くで
厶
(
ござ
)
います。
347
ヤ、
348
誠
(
まこと
)
にお
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らせました、
349
何卒
(
どうぞ
)
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
へ
宜
(
よろ
)
しくお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
して
下
(
くだ
)
さい』
350
松彦
(
まつひこ
)
『
漸
(
やうや
)
くの
事
(
こと
)
で、
351
いろいろと
事情
(
じじやう
)
を
申上
(
まをしあ
)
げ、
352
お
一人
(
ひとり
)
丈
(
だけ
)
お
連
(
つ
)
れ
申
(
まを
)
すことに
致
(
いた
)
しました。
353
やがて
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
が
駕籠
(
かご
)
にお
乗
(
の
)
せ
申
(
まを
)
して
御
(
お
)
送
(
おく
)
りになるでせう、
354
何卒
(
どうぞ
)
御
(
お
)
受取
(
うけと
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
355
左守
(
さもり
)
『
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
356
さぞ
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
も
満足
(
まんぞく
)
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
でせう。
357
そして
其
(
その
)
お
一人
(
ひとり
)
と
申
(
まを
)
すのは
何方
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
358
竜彦
(
たつひこ
)
は
松彦
(
まつひこ
)
の
返答
(
へんたふ
)
せぬ
内
(
うち
)
に、
359
竜彦
(
たつひこ
)
『アイヤ、
360
余
(
あま
)
り
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
に
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
えてゐるので、
361
男
(
をとこ
)
とも
女
(
をんな
)
とも
兄
(
あに
)
とも
弟
(
おとうと
)
共
(
とも
)
見当
(
けんたう
)
がつきませぬ。
362
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
363
エ、
364
一人
(
ひとり
)
丈
(
だけ
)
やうやうと
引張
(
ひつぱつ
)
て
帰
(
かへ
)
りました。
365
何卒
(
どうぞ
)
、
366
よくお
調
(
しら
)
べ
下
(
くだ
)
さいませ』
367
かく
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
駕籠
(
かご
)
に
舁
(
かつ
)
がれて
万公
(
まんこう
)
が
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
368
やつて
来
(
き
)
たのは
総領
(
そうりやう
)
息子
(
むすこ
)
のアールであつた。
369
松彦
(
まつひこ
)
は、
370
松彦
(
まつひこ
)
『ヤ、
371
今
(
いま
)
お
帰
(
かへ
)
りになりました。
372
サ、
373
皆
(
みな
)
さまお
迎
(
むか
)
へ
致
(
いた
)
しませう』
374
と
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
出迎
(
でむか
)
へた。
375
駕籠
(
かご
)
は
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
横
(
よこ
)
づけとなつた。
376
中
(
なか
)
からヌツと
現
(
あら
)
はれた、
377
髭
(
ひげ
)
をそりおとし、
378
立派
(
りつぱ
)
な
衣装
(
いしやう
)
をつけた
貴公子
(
きこうし
)
は
総領
(
そうりやう
)
息子
(
むすこ
)
のアールであつた。
379
タルマン
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
はアツと
許
(
ばか
)
りに
驚
(
おどろ
)
いて、
380
暫
(
しば
)
し
言葉
(
ことば
)
も
出
(
で
)
なかつた。
381
治国
(
はるくに
)
『
皆
(
みな
)
さま、
382
此
(
この
)
方
(
かた
)
が
御
(
ご
)
総領
(
そうりやう
)
のアールさまで
厶
(
ござ
)
います』
383
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
は
俄
(
にはか
)
に
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
がこみ
上
(
あ
)
げて
来
(
き
)
て、
384
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
も
発
(
はつ
)
し
得
(
え
)
ず、
385
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
386
刹帝利
(
せつていり
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
案内
(
あんない
)
して
行
(
ゆ
)
く。
387
タルマンもヤツと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
でおろし、
388
タルマン『
竜彦
(
たつひこ
)
さま
覚
(
おぼ
)
えてゐなさい。
389
キツと
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しますから……』
390
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
391
アールの
後
(
うしろ
)
に
従
(
したが
)
ひ、
392
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
393
治国別
(
はるくにわけ
)
は
万公
(
まんこう
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
逸早
(
いちはや
)
く
刹帝利
(
せつていり
)
にもあはず、
394
吾
(
わが
)
住家
(
すみか
)
に
残
(
のこ
)
した
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
気
(
き
)
にかかるので
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
395
(
大正一二・二・二一
旧一・六
於竜宮館
松村真澄
録)
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