霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 凱旋(がいせん)〔一四〇八〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm5422
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 頻(しき)りに門戸(もんこ)を叩(たた)く声(こゑ)にテームスの僕(しもべ)二人(ふたり)は又(また)バラモンの雑兵(ざふひやう)が、002何(なに)か徴発(ちようはつ)に来(き)よつたに違(ちが)ひない、003うつかり開(あ)けてはならぬと、004目(め)と目(め)を見合(みあは)せ、005何程(なにほど)叩(たた)いてもウンともスンとも云(い)はずに、006閂(かんぬき)のした大門(おほもん)を御(ご)叮嚀(ていねい)に中(なか)から支(ささ)へて居(ゐ)る。007治国別(はるくにわけ)は止(や)むを得(え)ず邸内(ていない)に聞(きこ)ゆる大音声(だいおんじやう)にて宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ出(だ)した。
008治国別(はるくにわけ)『高天原(たかあまはら)に現(あ)れませる
009皇(すめ)大神(おほかみ)は御心(みこころ)を
010千々(ちぢ)に悩(なや)ませたまひつつ
011天地(てんち)を造(つく)りたまひしが
012天足(あだる)の彦(ひこ)や胞場姫(えばひめ)の
013神(かみ)の教(をしへ)に背(そむ)きしゆ
014其(その)罪咎(つみとが)は邪気(じやき)となり
015凝(こ)り固(かた)まりて鬼(おに)となり
016八岐(やまた)大蛇(をろち)や醜狐(しこぎつね)
017百(もも)の魔物(まもの)となり果(は)てて
018地上(ちじやう)に住(す)める人々(ひとびと)の
019霊(みたま)を曇(くも)らせ汚(けが)しつつ
020神(かみ)の御(おん)子(こ)と生(うま)れたる
021尊(たふと)き人(ひと)の体(からだ)をば
022曲津(まがつ)の住処(すみか)となしにけり
023バラモン教(けう)の神柱(かむばしら)
024大黒主(おほくろぬし)の曲神(まがかみ)の
025頤使(いし)に従(したが)ひ産土(うぶすな)の
026珍(うづ)の聖地(せいち)に攻(せ)め来(きた)る
027バラモン教(けう)の大軍(たいぐん)は
028河鹿(かじか)峠(たうげ)の要害(えうがい)で
029三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
030治国別(はるくにわけ)の言霊(ことたま)に
031打(う)ちやぶられて遁走(とんそう)し
032浮木(うきき)の森(もり)やビクトルの
033山(やま)の麓(ふもと)に陣(ぢん)をはり
034悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)のありだけを
035尽(つく)しゐたりし折(をり)もあれ
036神(かみ)の使(つかひ)の宣伝使(せんでんし)
037治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)が
038又(また)もや此処(ここ)に現(あら)はれて
039醜(しこ)の軍(いくさ)を追(お)ひ散(ち)らし
040ビクの国家(こくか)を救(すく)ひたり
041鬼春別(おにはるわけ)や久米彦(くめひこ)は
042三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を従(したが)へて
043雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)りて
044猪倉山(ゐのくらやま)の岩窟(がんくつ)に
045住所(すみか)を構(かま)へ遠近(をちこち)の
046人家(じんか)を掠(かす)め人(ひと)を取(と)り
047悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)の振舞(ふるまひ)を
048為(な)せしと聞(き)くより吾々(われわれ)は
049世人(よびと)の害(がい)を除(のぞ)かむと
050木花姫(このはなひめ)の神勅(みこと)もて
051此(この)家(や)の娘(むすめ)両人(りやうにん)や
052道晴別(みちはるわけ)を救(すく)はむと
053此処(ここ)迄(まで)急(いそ)ぎ来(き)つれども
054間抜(まぬけ)きつたる門番(もんばん)が
055吾(われ)等(ら)を敵(てき)とあやまりて
056力(ちから)限(かぎ)りに拒(こば)みつつ
057開門(かいもん)せざるぞうたてけれ
058此(この)家(や)の主(あるじ)テームスよ
059三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
060治国別(はるくにわけ)に相違(さうゐ)ない
061唯(ただ)一息(ひといき)も速(すみや)かに
062この門(もん)開(ひら)き給(たま)へかし
063ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
064神(かみ)に盟(ちか)ひて偽(いつは)りの
065なき言霊(ことたま)を宣(の)り伝(つた)ふ』
066 この歌(うた)に二人(ふたり)の門番(もんばん)は顔(かほ)を見合(みあは)せ、067半信(はんしん)半疑(はんぎ)の雲(くも)に包(つつ)まれ乍(なが)ら、068一人(ひとり)は門(もん)を守(まも)らせ置(お)き、069一人(ひとり)はテームスの居間(ゐま)をさして進(すす)み行(ゆ)く。
070 テームス、071ベリシナ夫婦(ふうふ)は三五教(あななひけう)の道晴別(みちはるわけ)が、072番頭(ばんとう)のシーナと共(とも)に二人(ふたり)の娘(むすめ)を救(すく)ひ出(だ)さむと勢込(いきほひこ)んで行(い)つてから今日(けふ)で三日目(みつかめ)になるのに、073何(なん)の音沙汰(おとさた)もないので頻(しき)りに神(かみ)を念(ねん)じたり、074神籤(みくじ)を引(ひ)いたりして心配(しんぱい)して居(ゐ)た。075其処(そこ)へ慌(あわ)ただしく門番(もんばん)のビクが走(はし)り来(きた)り、
076ビク『旦那(だんな)様(さま)に申上(まをしあげ)ます。077表門(をもてもん)に当(あた)つて敵(てき)か味方(みかた)か存(ぞん)じませぬが、078三五教(あななひけう)だとか治国別(はるくにわけ)だとか、079此処(ここ)の娘(むすめ)を助(たす)けに来(き)たとか云(い)つて大(おほ)きな声(こゑ)で歌(うた)つて居(ゐ)ますが、080如何(いかが)致(いた)しませうか。081うつかり開(あ)けて又(また)もやバラモンの奴(やつ)だと大変(たいへん)だと思(おも)ひ、082拒(こば)むだけ拒(こば)むで見(み)ましたが、083私(わたし)ではとんと善悪(ぜんあく)が分(わか)りませぬ。084どうぞ旦那(だんな)様(さま)、085貴方(あなた)御(ご)苦労(くらう)様(さま)ながらお調(しら)べ下(くだ)さいますまいか』
086テームス『何(なに)、087三五教(あななひけう)の治国別(はるくにわけ)様(さま)が見(み)えたと仰有(おつしや)るか、088それは間違(まちが)ひはあるまい。089何(なに)は兎(と)もあれ門口(かどぐち)迄(まで)行(い)つて考(かんが)へて見(み)よう』
090とビクを先(さき)に立(た)て、091大刀(だいたう)を腰(こし)に挟(はさ)み、092すたすたと現(あら)はれ来(きた)り大音声(だいおんじやう)にて、
093テームス『唯今(ただいま)吾(わが)門前(もんぜん)に佇(たたず)み歌(うた)はせたまふ御仁(ごじん)はいづくの何人(なにびと)で厶(ござ)いますか。094御名(みな)を聞(き)かせて下(くだ)さらば、095此(この)門(もん)を開(あ)けるで厶(ござ)りませう』
096 万公(まんこう)は此(この)声(こゑ)を聞(き)きつけ大声(おほごゑ)にて、
097万公(まんこう)『吾(われ)こそは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)の家来(けらい)万公(まんこう)で厶(ござ)る。098一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)門(もん)をお開(あ)けなされ』
099治国(はるくに)『拙者(せつしや)は治国別(はるくにわけ)と申(まを)す者(もの)、100決(けつ)して怪(あや)しき者(もの)では厶(ござ)らぬ。101木花姫(このはなひめ)様(さま)の御(ご)神勅(しんちよく)に依(よ)り、102拙者(せつしや)の徒弟(とてい)道晴別(みちはるわけ)が、103当家(たうけ)の二人(ふたり)の娘御(むすめご)をバラモン軍(ぐん)に攫(さら)はれ給(たま)うたのを取(と)り還(かへ)さむため猪倉山(ゐのくらやま)に向(むか)ひし様子(やうす)、104拙者(せつしや)は一同(いちどう)の命(いのち)を救(すく)はむ為(ため)、105取(と)るものも取(と)り敢(あへ)ず此処(ここ)迄(まで)参(まゐ)つたもので厶(ござ)る。106一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)門(もん)をお開(あ)けなされ』
107 テームスは門内(もんない)より治国別(はるくにわけ)の声(こゑ)を聞(き)いて、108どこともなしに威厳(ゐげん)のある言葉(ことば)、109さうしてどうしても偽(いつは)りとは思(おも)へないので、110静(しづか)に閂(かんぬき)をはづし、111門扉(もんぴ)をパツと開(ひら)き、112怖々(こはごは)覗(のぞ)けば四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)が立(た)つてゐる。113テームスは打(う)ち喜(よろこ)び叮嚀(ていねい)に辞儀(じぎ)をしながら、
114テームス『是(こ)れは是(こ)れはお慕(した)ひ申(まをし)て居(を)りました治国別(はるくにわけ)様(さま)で厶(ござ)いますか、115誠(まこと)に失礼(しつれい)を致(いた)しました。116サア何卒(どうぞ)お入(はい)り下(くだ)さいませ』
117治国(はるくに)『ハイ有難(ありがた)う、118然(しか)らば御免(ごめん)蒙(かうむ)りませう』
119と一行(いつかう)四(よ)人(にん)は大門(おほもん)を潜(くぐ)り入(い)る。
120テームス『これビク、121何時(なんどき)バラモンの奴(やつ)が来(く)るかも知(し)れぬから此(この)門(もん)を確(しつか)り閉(と)ぢて置(お)くのだ。122さうしてお前(まへ)はここを守(まも)つて居(ゐ)るのだ』
123と言(い)ひつけ一行(いつかう)の先(さき)に立(た)ち奥(おく)に導(みちび)き行(ゆ)く。124治国別(はるくにわけ)は夫婦(ふうふ)の居間(ゐま)に請(しやう)ぜられ、125茶(ちや)を薦(すす)められながら挨拶(あいさつ)もそこそこにして、
126治国(はるくに)『承(うけたま)はれば当家(たうけ)のお嬢様(ぢやうさま)はお二人(ふたり)迄(まで)猪倉山(ゐのくらやま)のバラモンの巣窟(さうくつ)に拐(かどわか)されてお出(いで)になつたさうですな』
127テームス『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。128実(じつ)の所(ところ)は三日前(みつかまへ)に治国別(はるくにわけ)の徒弟(とてい)だと仰有(おつしや)つて、129道晴別(みちはるわけ)と云(い)ふ立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)がお出(い)で下(くだ)さつて、130番頭(ばんとう)のシーナと共(とも)に軍服姿(ぐんぷくすがた)に身(み)を窶(やつ)し、131二人(ふたり)を取(と)り返(かへ)して来(く)ると言(い)つてお出(いで)なさつたきり、132今(いま)に何(なん)の便(たよ)りも厶(ござ)いませぬので、133夫婦(ふうふ)の者(もの)が心配(しんぱい)致(いた)して居(を)ります。134何卒(どうぞ)貴方(あなた)の御(ご)神力(しんりき)によつて助(たす)けて下(くだ)さるわけには参(まゐ)りますまいかな』
135治国(はるくに)『アア其(その)事(こと)について急(いそ)ぎ参(まゐ)つたので厶(ござ)います。136余(あま)り愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)して居(を)れば、137何(なん)だか深(ふか)い陥穽(おとしあな)に放(ほ)り込(こ)まれて居(ゐ)るさうですから、138命(いのち)が危(あやふ)う厶(ござ)いませう。139拙者(せつしや)はこれより時(とき)を移(うつ)さず猪倉山(ゐのくらやま)に立(た)ち向(むか)ひ、140千騎(せんき)一騎(いつき)の言霊(ことたま)を発射(はつしや)し敵(てき)を帰順(きじゆん)させ、141四(よ)人(にん)を立派(りつぱ)に救(すく)ひ出(だ)して帰(かへ)る心算(つもり)です。142私(わたし)に確信(かくしん)が厶(ござ)いますれば必(かなら)ず必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なされますな』
143 テームス、144ベリシナの両人(りやうにん)は、
145テームス、ベリシナ『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います』
146と両手(りやうて)を合(あは)せ涙(なみだ)に声(こゑ)も得(え)あげず泣(な)き伏(ふ)して居(ゐ)る。
147 これより治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)はテームスの門(もん)を出(い)で足(あし)にまかせて、148日(ひ)の西山(せいざん)に舂(うすづ)き給(たま)ふ頃(ころ)、149足(あし)を速(はや)めて進(すす)み行(ゆ)く。
150 谷(たに)を飛(と)び越(こ)え岩間(いはま)を伝(つた)ひ、151漸(やうや)くにして、152昼(ひる)猶(な)ほ暗(くら)き森林(しんりん)を神(かみ)の恵(めぐみ)に守(まも)られて黒白(あやめ)も分(わか)ぬ闇(やみ)の道(みち)、153却(かへつ)てこれ幸(さいはひ)と息(いき)を凝(こ)らしながら漸(やうや)くにして岩窟(がんくつ)の前(まへ)に辿(たど)りついた。154夜分(やぶん)の事(こと)とて、155数多(あまた)の兵士(へいし)は何(いづ)れも武装(ぶさう)を解(と)きテントの中(なか)や仮小屋(かりごや)の中(なか)に転(ころ)がつて居(ゐ)た。156馬(うま)は彼方(あちら)此方(こちら)の木(き)に繋(つな)がれ盛(さかん)に嘶(いなな)いて居(ゐ)る。157治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は其処辺(そこら)に脱(ぬ)ぎ捨(す)てある軍服(ぐんぷく)を手早(てばや)く闇(やみ)を幸(さいは)ひ身(み)につけ、158素知(そし)らぬ顔(かほ)をしながら、159足音(あしおと)を忍(しの)ばせ、160四辺(あたり)に気(き)をつけ、161長(なが)き隧道(すいだう)を辿(たど)つて行(ゆ)く。162不思議(ふしぎ)にもこの時(とき)計(ばか)り神(かみ)の御(お)守(まも)りで暗夜(あんや)の道(みち)がよく目(め)についたのである。
163 傍(かたはら)の岩窟(がんくつ)の中(なか)に何(なん)だか人声(ひとごゑ)がするので、164岩壁(がんぺき)に耳(みみ)を当(あ)て考(かんが)へて居(ゐ)ると、165鬼春別(おにはるわけ)が久米彦(くめひこ)其(その)外(ほか)の幕僚(ばくれう)を集(あつ)めて、166ひそびそ相談会(さうだんくわい)を開(ひら)いて居(ゐ)る。
167鬼春(おにはる)『久米彦(くめひこ)殿(どの)、168折角(せつかく)の美人(びじん)を無雑作(むざふさ)にあのやうな所(ところ)へ放(ほ)り込(こ)むと云(い)ふ事(こと)があるか、169何(なん)とかして助(たす)けやうが無(な)いものかなア』
170久米(くめ)『到底(たうてい)駄目(だめ)でせう。171今日(けふ)で二日目(ふつかめ)ですから屹度(きつと)死(し)んでゐるでせう』
172鬼春(おにはる)『貴殿(きでん)にも似合(にあは)ぬ残酷(ざんこく)な事(こと)を致(いた)すぢやないか。173貴殿(きでん)は、174カルナ姫(ひめ)に説(と)き立(た)てられ未来(みらい)が怖(おそ)ろしいと云(い)うて、175ビクトリヤ王(わう)迄(まで)も救(すく)うて、176置(お)いた身(み)でありながら、177人(ひと)の命(いのち)を取(と)るやうな、178なぜ残酷(ざんこく)の事(こと)を致(いた)さるるのか』
179久米(くめ)『実(じつ)の所(ところ)は四(よ)人(にん)の体(からだ)の周囲(ぐるり)に鉄板(てつぱん)を廻(まは)して放(ほ)り込(こ)みましたから、180怪我(けが)は致(いた)して居(を)りますまい。181さうしてその鉄板(てつぱん)は桶(をけ)のやうになつて居(を)り、182太(ふと)い綱(つな)が通(とほ)してあります。183何程(なにほど)深(ふか)い井戸(ゐど)の底(そこ)でも綱(つな)さへ手操(たぐ)れば容易(ようい)に救(すく)ひ上(あ)げる事(こと)が出来(でき)ます。184幸(さいは)ひ此処(ここ)には岩(いは)より湧(わ)き出(で)る起死(きし)回生(くわいせい)の薬(くすり)がありますから、185これを含(ふく)ますれば二日(ふつか)や三日(みつか)息(いき)が絶(た)へて居(ゐ)ても回復(くわいふく)は大丈夫(だいぢやうぶ)でせう』
186鬼春(おにはる)『何(なん)と貴殿(きでん)も腹(はら)が悪(わる)いぢやないか。187よもや貴殿(きでん)が左様(さやう)な殺伐(さつばつ)な事(こと)は致(いた)すまいと睨(にら)んで置(お)いたのだ。188サア一時(いつとき)も早(はや)く四(よ)人(にん)の者(もの)を救(すく)ひ出(だ)し此処(ここ)へ連(つ)れて厶(ござ)れ』
189久米(くめ)『それに先(さき)だつて将軍(しやうぐん)に一(ひと)つ相談(さうだん)が厶(ござ)ります。190外(ほか)でも厶(ござ)らぬが、191きつとスガールを拙者(せつしや)にお渡(わた)し下(くだ)さるでせうなア』
192鬼春(おにはる)『アハハハハ又(また)しても左様(さやう)な我慢(がまん)な事(こと)を云(い)ふものではありませぬぞ。193久米彦(くめひこ)殿(どの)はスミエルで暫(しばら)く御(ご)辛抱(しんばう)なされ、194スガールは拙者(せつしや)が世話(せわ)を致(いた)すで厶(ござ)らう。195オイ、196スパール其(その)方(はう)は早(はや)く、197男(をとこ)は兎(と)も角(かく)も女(をんな)二人(ふたり)を救(すく)ひ出(だ)し、198スミエルは久米彦(くめひこ)殿(どの)の居間(ゐま)に送(おく)り置(お)き、199スガールの方(はう)を此方(こなた)に連(つ)れて来(こ)い。200鬼春別(おにはるわけ)が手(て)づから気付(きつけ)を遣(つか)はし呼(よ)び生(い)けてやらう』
201 スパールは、
202スパール『ハイ承知(しようち)致(いた)しました』
203とドアを押(お)し飛(と)び出(だ)さうとするのを久米彦(くめひこ)はグツと襟(えり)を掴(つか)み、
204久米(くめ)『アハハハハ拙者(せつしや)が隠(かく)して置(お)いたる以上(いじやう)は、205これだけ沢山(たくさん)の陥穽(おとしあな)貴殿(きでん)が何程(なにほど)気張(きば)つた所(ところ)で、206見当(みあた)ることは厶(ござ)らぬ。207やつぱり拙者(せつしや)が放(ほ)り込(こ)んだのだから拙者(せつしや)が行(ゆ)かねば駄目(だめ)だ。208まづ気(き)を落付(おちつ)けなされ、209そのかはり先(ま)づスガールは屹度(きつと)拙者(せつしや)がお預(あづか)り申(まを)す』
210 鬼春別(おにはるわけ)は気(き)を焦(いら)ち、
211鬼春(おにはる)『オイ、212スパール、213久米彦(くめひこ)の言葉(ことば)を聞(き)くに及(およ)ばぬ。214サア早(はや)く救(すく)ひ出(だ)して来(こ)い。215久米彦(くめひこ)殿(どの)スパールの襟(えり)を放(はな)しておやりなさい。216上官(じやうくわん)の命令(めいれい)をお聞(きき)なさらぬか』
217久米(くめ)『然(しか)らば拙者(せつしや)が救(すく)ひ上(あ)げて参(まゐ)りませう。218オイ、219エミシ某(それがし)に続(つづ)け』
220と云(い)ひ乍(なが)ら、221ドアを押(お)し開(あ)け飛(と)び出(だ)した。222隧道(すいだう)の所々(しよしよ)には肥松(こえまつ)を焚(た)き乍(なが)ら明(あかり)をとつてある。223パツと写(うつ)つた四(よ)人(にん)の顔(かほ)、224久米彦(くめひこ)は声(こゑ)を尖(とが)らし、
225久米(くめ)『ヤア其(その)方(はう)は番兵(ばんへい)ではないか、226最前(さいぜん)から吾々(われわれ)の話(はなし)を立(た)ち聞(ぎ)き致(いた)して居(を)つたのだな。227不都合(ふつがふ)千万(せんばん)の奴(やつ)だ。228サア一(いち)時(じ)も早(はや)く彼方(あちら)に立去(たちさ)れ』
229治国(はるくに)『拙者(せつしや)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)で厶(ござ)る。230拙者(せつしや)の徒弟(とてい)道晴別(みちはるわけ)を初(はじ)めシーナ、231及(および)スミエル、232スガールが大変(たいへん)なお世話(せわ)になつたさうだ。233一言(ひとこと)お礼(れい)を申(まを)さなくてはならないと思(おも)ひ、234態々(わざわざ)お尋(たづ)ね申(まを)しましたのだ。235アハハハハハ』
236久米(くめ)『イヤ、237これはこれは治国別(はるくにわけ)様(さま)で厶(ござ)いましたか。238何卒(どうぞ)言霊(ことたま)は一寸(ちよつと)暫(しばら)くお見合(みあは)せを願(ねが)ひます。239唯今(ただいま)直(すぐ)にお渡(わた)し申(まを)しますから、240一寸(ちよつと)此処(ここ)に待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さいませ』
241治国(はるくに)『イヤイヤ決(けつ)して決(けつ)して左様(さやう)な御(ご)心配(しんぱい)は入(い)り申(まを)さぬ。242拙者(せつしや)が自(みづか)ら救(すく)ひ出(だ)さねばならぬ義務(ぎむ)が厶(ござ)る。243貴方(あなた)方(がた)はマア悠(ゆつく)りと御(ご)休息(きうそく)をなされませ。244四(よ)人(にん)の所在(ありか)はビクトル山(さん)から既(すで)に霊眼(れいがん)で見(み)て置(お)きました』
245久米(くめ)『イヤどうも治国別(はるくにわけ)様(さま)の慧眼(けいがん)には恐(おそ)れ入(い)りました。246今日(けふ)限(かぎ)りバラモンの将軍職(しやうぐんしよく)をやめますから、247どうぞ命(いのち)計(ばか)りは御(ご)救助(きうじよ)を願(ねが)ひます』
248万公(まんこう)『先生(せんせい)、249こんな事(こと)云(い)つて又(また)計略(けいりやく)にかけるのですよ。250四(よ)人(にん)放(ほ)り込(こ)みやがつた穴(あな)へ鬼春別(おにはるわけ)も久米彦(くめひこ)も何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も放(ほ)り込(こ)んでやりませうか、251アハハハハ、252面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、253エヘン。254どんなものだ、255鬼春別(おにはるわけ)、256久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)、257この万公(まんこう)が現(あら)はれた以上(いじやう)は到底(たうてい)駄目(だめ)だぞ』
258松彦(まつひこ)『万公(まんこう)、259何(なに)を云(い)ふのだ。260お前(まへ)は篏口令(かんこうれい)を布(し)かれて居(ゐ)るぢやないか』
261万公(まんこう)『万公(まんこう)末代(まつだい)云(い)はない心算(つもり)だつたが、262あまりむかづくのでつい口(くち)が辷(すべ)りました。263それよりも早(はや)く四(よ)人(にん)を救(すく)ひ出(だ)さうぢやありませぬか……これや久米彦(くめひこ)、264貴様(きさま)が放(ほ)り込(こ)んだのだから貴様(きさま)が救(すく)ひ出(だ)して来(こ)い。265万一(まんいち)一人(ひとり)でも命(いのち)がなくなつて居(ゐ)たら、266先生(せんせい)が何(なん)と仰有(おつしや)つても、267この万公(まんこう)が承知(しようち)せぬぞ。268ヘン馬鹿(ばか)にして居(ゐ)やがる、269将軍(しやうぐん)も何(なに)もあつたものか。270先生(せんせい)の前(まへ)に来(き)たら猫(ねこ)に出会(であ)うた鼠(ねづみ)のやうな塩梅(あんばい)式(しき)ぢやないか。271醜態(ざま)を見(み)やがれ、272イヒヒヒヒ』
273松彦(まつひこ)『万公(まんこう)さま又(また)忘(わす)れたのか、274エエ久米彦(くめひこ)殿(どの)早(はや)く案内(あんない)なされ』
275万公(まんこう)『これや早(はや)く案内(あんない)を致(いた)さぬか、276何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るのか、277そして鬼春別(おにはるわけ)はどこに居(を)るのか』
278と虎(とら)の威(ゐ)をかる糞喰(くそくら)ひ狐(ぎつね)のやうに無暗(むやみ)矢鱈(やたら)に噪(はしや)いで居(ゐ)る。279竜彦(たつひこ)は此(こ)の間(ま)に天眼通(てんがんつう)により四(よ)人(にん)の所在(ありか)を知(し)り、280手早(てばや)く一人(ひとり)々々(ひとり)を穴(あな)の底(そこ)から引(ひ)き上(あ)げ、281鎮魂(ちんこん)を施(ほどこ)し、282漸(やうや)く四(よ)人(にん)共(とも)息(いき)を吹(ふ)きかへさせた。
283 茲(ここ)に鬼春別(おにはるわけ)、284久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)は土下座(どげざ)をしながら、285慄(ふる)ひ慄(ふる)ひ治国別(はるくにわけ)に罪(つみ)を謝(しや)した。286治国別(はるくにわけ)はいろいろと誠(まこと)の教(をしへ)を説(と)き諭(さと)し、287且(か)つ鬼春別(おにはるわけ)、288久米彦(くめひこ)、289スパール、290エミシの高級(かうきふ)武官(ぶくわん)に一人(ひとり)づつ態(わざ)と背負(せお)はしめ、291凱歌(がいか)を奏(そう)しつつ一先(ひとま)づ玉木村(たまきむら)のテームスの家(いへ)をさして神恩(しんおん)を感謝(かんしや)しながら帰(かへ)り行(ゆ)く。
292(大正一二・二・二三 旧一・八 於竜宮館 加藤明子録)
293(昭和一〇・六・一三 王仁校正)
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