霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第三章 万民(まんみん)〔一四一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第1篇 奇縁万情 よみ(新仮名遣い):きえんばんじょう
章:第3章 万民 よみ(新仮名遣い):まんみん 通し章番号:1411
口述日:1923(大正12)年02月26日(旧01月11日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
一同は門前にて帰宅を告げたが、門番はバラモン軍の計略を警戒して開かず、テームスを門の前まで呼んできた。万公やシーナが門内に呼びかけ、シーナの声を認めたテームスは驚喜して門を開け、一同を奥の一間に迎え入れた。
鬼春別ら四人のバラモン組と万公は、怪我をしているスミエル、スガール、シーナ、道晴別四人を別室に運んで行った。
治国別たちは下女たちに案内されて別の間に息を休め、大神に祈りを捧げていた。テームスとベリシナの老夫婦は娘たちが帰った嬉しさに、怪我人たちの部屋に入り、介抱に明け暮れて治国別たちにお礼を言うのも忘れていた。
万公はすっかり婿気取りになって振る舞ってはいたが、テームスとベリシナに、治国別たちにお礼の挨拶をするように促した。そして自分はスガールの横顔をちらちらのぞきながらであったが、甲斐甲斐しく怪我人たちの介抱をやっていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-05-09 18:30:10 文字数:3869 OBC :rm5503
愛善世界社版:32頁 八幡書店版:第10輯 45頁 修補版: 校定版:32頁 普及版:12頁 初版: ページ備考:
001鬼将軍(おにしやうぐん)と世(よ)の人(ひと)に
002恐(おそ)れられたるバラモンの
003鬼春別(おにはるわけ)は漸(やうや)くに
004心(こころ)に悔悟(くわいご)の花(はな)開(ひら)き
005前非(ぜんぴ)を悔(く)いて大神(おほかみ)の
006尊(たふと)き恵(めぐみ)を覚(さと)りつつ
007瑞(みづ)の御霊(みたま)の神徳(しんとく)は
008汲(く)めども尽(つ)きぬ久米彦(くめひこ)が
009スパール、エミシと諸共(もろとも)に
010心(こころ)の空(そら)も治国別(はるくにわけ)の
011神(かみ)の命(みこと)の御教(みをしへ)に
012帰順(きじゆん)しまつり常磐木(ときはぎ)の
013動(うご)かぬ心(こころ)の松彦(まつひこ)や
014醜(しこ)の岩窟(いはや)を竜彦(たつひこ)の
015司(つかさ)と共(とも)に阪道(さかみち)を
016スタスタ帰(かへ)る神司(かむつかさ)
017道晴別(みちはるわけ)やシーナをば
018背(せな)に負(お)ぶつて許々多久(ここたく)の
019罪(つみ)や穢(けが)れの贖(あがなひ)と
020川(かは)の流(なが)れもスミエルの
021谷間(たにま)を渉(わた)り大神(おほかみ)に
022誠(まこと)を捧(ささ)げてスガール姫(ひめ)
023万公司(まんこうつかさ)に送(おく)られて
024屠所(としよ)の羊(ひつじ)のトボトボと
025悄気返(せうげかへ)りたる足許(あしもと)も
026漸(やうや)く茲(ここ)に玉木村(たまきむら)
027テームス館(やかた)の門前(もんぜん)に
028月(つき)照(て)る空(そら)の夕間暮(ゆふまぐ)れ
029首(くび)を傾(かたむ)け汗(あせ)流(なが)し
030息(いき)もせきせき帰(かへ)り着(つ)く。
031万公(まんこう)は表(おもて)に立(た)ち止(と)まり
032大音声(だいおんじやう)を張(は)り上(あ)げて
033万公『玉木(たまき)の村(むら)のテームスよ
034それに仕(つか)ふる僕(しもべ)等(たち)
035一(いち)時(じ)も早(はや)く凱旋(がいせん)の
036宣伝(せんでん)将軍(しやうぐん)迎(むか)へ入(い)れ
037歓喜(くわんぎ)の涙(なみだ)に浴(よく)すべし
038そも吾々(われわれ)は三五(あななひ)の
039神(かみ)の教(をしへ)の宣伝使(せんでんし)
040治国別(はるくにわけ)の一(いち)の弟子(でし)
041万公別(まんこうわけ)の命(みこと)ぞや
042猪倉山(ゐのくらやま)に立籠(たてこ)もる
043バラモン軍(ぐん)のゼネラルと
044羽振(はぶ)り利(き)かした大将(たいしやう)を
045箒木(はうき)で蝶(てふ)を叩(たた)く様(やう)に
046いと容易(やすやす)と生捕(いけど)つて
047芽出度(めでた)く凱旋(がいせん)なしにけり
048くめども尽(つ)きぬ久米彦(くめひこ)の
049悪業(あくごふ)多(おほ)き身魂(みたま)をば
050尊(たふと)き神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
051谷(たに)の流(なが)れに洗(あら)はれて
052今(いま)は誠(まこと)の人(ひと)となり
053スツパリもとの生身魂(いくみたま)
054スパール、エミシのカーネルが
055万公別(まんこうわけ)のお伴(とも)して
056二人(ふたり)の姫(ひめ)を送(おく)りつつ
057此処(ここ)にお詫(わび)を致(いた)さむと
058いと殊勝(しゆしよう)にも来(きた)りけり
059治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
060松彦(まつひこ)、竜彦(たつひこ)諸共(もろとも)に
061尊(たふと)き司(つかさ)にましませど
062万公別(まんこうわけ)が居(を)らなけりや
063如何(どう)しても斯(か)うしても此(この)戦(いくさ)
064これ程(ほど)うまく行(ゆ)きはせぬ
065喜(よろこ)び玉(たま)へテームスよ
066ベリシナ姫(ひめ)のお婆(ば)アさま
067早(はや)く此(この)門(もん)開(あ)けなされ
068吾(わが)師(し)の君(きみ)を何時(いつ)迄(まで)も
069これ程(ほど)蚊(か)の喰(く)ふ門(もん)の前(まへ)
070立(た)たせて置(お)くは失礼(しつれい)ぢや
071万公別(まんこうわけ)もちと困(こま)る
072開(ひら)けよ開(ひら)け表門(おもてもん)
073常夜(とこよ)の暗(やみ)も一時(いつとき)に
074明(あ)け放(はな)れたる岩戸口(いはとぐち)
075歌舞(かぶ)音楽(おんがく)を調(ととの)へて
076吾(われ)等(ら)一行(いつかう)の英雄(えいゆう)を
077早(はや)く歓迎(くわんげい)致(いた)すべし
078ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
079神(かみ)に代(かは)りて万公別(まんこうわけ)
080館(やかた)の主(あるじ)に気(き)をつける』
081と歌(うた)ひ乍(なが)ら門(もん)の戸(と)が割(わ)れる程(ほど)殴(なぐ)つて居(ゐ)る。082門番(もんばん)の乙(おつ)丙(へい)は万公(まんこう)の歌(うた)を聞(き)いて胸(むね)を轟(とどろ)かせ、083バラモン教(けう)の悪神(あくがみ)が、084又(また)もや、085あんな事(こと)を云(い)つて門(もん)を開(ひら)かせ倉(くら)につないで置(お)いた両人(りやうにん)を奪還(とりかへ)しに来(き)たのではあるまいかと案(あん)じ案(あん)じ奥(おく)の間(ま)に駆(か)け込(こ)んで、086テームスの前(まへ)に……数多(あまた)の人々(ひとびと)が門外(もんぐわい)へ押寄(おしよ)せ来(き)たれり……、087と報告(はうこく)した。088テームスは……物騒(ぶつそう)な世(よ)の中(なか)油断(ゆだん)はならぬ……と身仕度(みじたく)をなし槍(やり)を小脇(こわき)に抱(かか)へ乍(なが)ら、089兎(と)も角(かく)様子(やうす)を窺(うかが)はむと密(ひそ)かに門口(かどぐち)に立現(たちあら)はれ、090門(もん)の戸(と)に隔(へだ)てられて一行(いつかう)の姿(すがた)は見(み)えねども……何(なん)だか娘(むすめ)の帰(かへ)つた様(やう)な気配(けはい)がする、091治国別(はるくにわけ)様(さま)が娘(むすめ)を助(たす)けて帰(かへ)つて下(くだ)さつたのではあるまいか。092但(ただ)しは敵(てき)に捕(と)らはれ玉(たま)ひ悲惨(ひさん)な憂目(うきめ)に会(あ)はせ玉(たま)うたのではなからうか。093敵(てき)は勢(いきほひ)に乗(じやう)じて吾(わが)館(やかた)を打滅(うちほろぼ)さむと押寄(おしよ)せ来(きた)りしには非(あら)ずや……と、094とつおいつ思案(しあん)に暮(く)れて暫(しば)し佇(たたず)み考(かんが)へてゐる。
095 シーナは傷(きず)だらけの頭(あたま)をふり乍(なが)ら、096苦(くる)しさうな声(こゑ)で、
097シーナ『旦那(だんな)様(さま)、098シーナで厶(ござ)ります。099治国別(はるくにわけ)様(さま)のお助(たす)けによつてお嬢(ぢやう)さまと共(とも)に無事(ぶじ)に皈(かへ)りました。100何卒(どうぞ)此(この)門(もん)開(あ)けて下(くだ)さいませ』
101と呶鳴(どな)つて見(み)たが、102どうしても厚(あつ)い門扉(もんぴ)に隔(へだ)てられて中(なか)へは聞(きこ)えなかつた。103万公(まんこう)はもどかしがり大声(おほごゑ)にて、
104万公(まんこう)『吾(われ)こそは、105三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)の片腕(かたうで)と仕(つか)へまつる、106天下(てんか)無双(むさう)の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、107万公別(まんこうわけの)命(みこと)で厶(ござ)る。108館(やかた)の主(あるじ)テームス殿(どの)、109一(いち)時(じ)も早(はや)く表門(おもてもん)を開(ひら)かれよ。110某(それがし)の申(まを)す言葉(ことば)に間違(まちがひ)は厶(ござ)らぬ』
111と呶鳴(どな)り立(た)てた。112テームスは万公(まんこう)の声(こゑ)を聞(き)いてヤツと安心(あんしん)し、113急(いそ)ぎ門扉(もんぴ)を開(ひら)き、114半信(はんしん)半疑(はんぎ)乍(なが)らよくよく見(み)れば月夜(つきよ)の事(こと)とて、115ハツキリは分(わか)らねど、116どうやら、117シーナを始(はじ)め二人(ふたり)の娘(むすめ)が背(せな)に負(お)はれて皈(かへ)つて来(き)た様子(やうす)に思(おも)はず知(し)らず門外(もんぐわい)へ走(はし)り出(い)でた。118シーナは背中(せなか)から、
119シーナ『もし旦那(だんな)様(さま)、120お蔭(かげ)で助(たす)けて頂(いただ)きました。121御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
122と云(い)ふ声(こゑ)に、123テームスは驚喜(きやうき)し乍(なが)ら、
124テームス『やア皆様(みなさま)、125御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)りました。126さア何卒(どうぞ)奥(おく)へお這入(はい)り下(くだ)さいませ。127まあまあ治国別(はるくにわけ)様(さま)、128よう娘(むすめ)をあの峻(きつ)い阪(さか)を負(お)うて帰(かへ)つて来(き)て下(くだ)さいました。129嘸(さぞ)お疲(つか)れで厶(ござ)りませう』
130と嬉(うれ)し涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)する。131治国別(はるくにわけ)は一同(いちどう)の先(さき)に立(た)つて門内(もんない)に入(い)る。132十二(じふに)人(にん)はテームスの後(あと)に従(したが)ひ僕(しもべ)に灯火(あかり)を以(もつ)て案内(あんない)され、133奥(おく)の広(ひろ)き一間(ひとま)に進(すす)み入(い)る。
134 テームス、135ベリシナの夫婦(ふうふ)は余(あま)りの嬉(うれ)しさに、136下女(げぢよ)や下男(げなん)に命(めい)じ、137座敷(ざしき)を掃(は)いたり座布団(ざぶとん)を出(だ)したり、138煙草盆(たばこぼん)を並(なら)べなどしてキリキリ舞(ま)ひをしてゐる。
139万公(まんこう)『テームス殿(どの)、140必(かなら)ずお構(かま)ひ下(くだ)さいますな。141まア御緩(ごゆつく)りなさいませ。142吾々(われわれ)が勝手(かつて)にそこらを片(かた)づけて休息(きうそく)させて頂(いただ)きます。143もう斯(か)うなれば親子(おやこ)も同然(どうぜん)ですから……』
144と早(はや)くも養子(やうし)になつた気分(きぶん)に馴々(なれなれ)しく云(い)ひ出(だ)した。
145テームス『ハイ、146貴方(あなた)様(さま)は命(いのち)の親(おや)で厶(ござ)ります。147御(お)礼(れい)は何(ど)う申(まを)してよいやら分(わか)りませぬ』
148万公(まんこう)『いや舅殿(しうとどの)、149若(わか)いものが控(ひか)えて居(を)りますれば、150貴方(あなた)は御(ご)老体(らうたい)、151何卒(どうぞ)緩(ゆつく)りとなさいませ。152併(しか)し乍(なが)ら道晴別(みちはるわけ)、153シーナ、154スミエル様(さま)を始(はじ)めスガールが深(ふか)い陥穽(おとしあな)に堕(おと)され余程(よほど)体(からだ)を痛(いた)めて居(を)りますから何卒(どうぞ)寝床(ねどこ)を拵(こしら)へてやり度(た)いものです。155夜具(やぐ)や蚊帳(かや)の用意(ようい)をせねばなりませぬが、156何分(なにぶん)私(わたし)はホヤホヤで今(いま)来(き)た所(ところ)ですから家(いへ)の勝手(かつて)は分(わか)りませぬから一寸(ちよつと)教(をし)へて下(くだ)さいませ』
157テームス『ハイ、158勿体(もつたい)ない。159左様(さやう)な事(こと)を貴方(あなた)にさせて済(す)みますか。160何卒(どうぞ)御緩(ごゆつく)りして下(くだ)さいませ』
161万公(まんこう)『舅殿(しうとどの)、162そりや何(なに)を仰有(おつしや)る。163若(わか)いものが働(はたら)かいで誰(たれ)が働(はたら)くものですか。164治国別(はるくにわけ)、165松彦(まつひこ)、166竜彦(たつひこ)の宣伝使(せんでんし)には私(わたし)が名代(みやうだい)として十分(じふぶん)にお礼(れい)を申(まを)して置(お)きます。167おい春(はる)チヤン、168久米(くめ)チヤン、169スーチヤン、170エーチヤン、171病人(びやうにん)を……いや負傷者(ふしやうしや)を早(はや)く卸(おろ)して下(くだ)さい。172お前(まへ)さまも御(ご)苦労(くらう)でした。173こんな時(とき)や図体(づうたい)の大(おほ)きい奴(やつ)は重宝(ちようほう)なものだな』
174 四(よ)人(にん)は下女(げぢよ)の案内(あんない)によつて負傷者(ふしやうしや)を一室(ひとま)に連(つ)れ行(ゆ)き夜具(やぐ)を敷(し)いて其(その)上(うへ)にソツと寝(ね)かせ、175下女(げぢよ)に介抱(かいほう)を頼(たの)みおき、176もとの居間(ゐま)へ帰(かへ)つて来(き)た。177治国別(はるくにわけ)は松彦(まつひこ)、178竜彦(たつひこ)と共(とも)に離(はな)れの間(ま)に下女(げぢよ)に案内(あんない)され、179一先(ひとま)づ息(いき)を休(やす)め、180大神(おほかみ)に感謝(かんしや)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、181終(をは)つて茶菓(さくわ)を喫(きつ)し息(いき)を休(やす)めてゐた。182鬼春別(おにはるわけ)、183久米彦(くめひこ)、184スパール、185エミシ、186万公(まんこう)は、187奥(おく)の一室(ひとま)にグツタリとして足(あし)を伸(の)ばせ自分(じぶん)按摩(あんま)を頻(しき)りにやつてゐる。188四(よ)人(にん)は況(ま)して重(おも)い人間(にんげん)を背負(せお)つて来(き)たのだから、189足(あし)も疲(つか)れ体(からだ)も弱(よわ)り、190縄(なは)の様(やう)になつて腕枕(うでまくら)に横(よこ)たはつて居(ゐ)る。
191 テームス、192ベリシナの夫婦(ふうふ)は娘(むすめ)の帰(かへ)つた嬉(うれ)しさに治国別(はるくにわけ)に礼(れい)云(い)ふ事(こと)も忘(わす)れ、193室内(しつない)をウロウロし乍(なが)ら四(よ)人(にん)の負傷者(ふしやうしや)が寝(ね)て居(ゐ)る居間(ゐま)へ駆(か)け込(こ)み、194ベリシナは二人(ふたり)の娘(むすめ)の介抱(かいほう)にかかり、195テームスは道晴別(みちはるわけ)、196シーナの枕許(まくらもと)に坐(すわ)つて体(からだ)を擦(さす)り労(いたは)つて居(ゐ)る。197何(いづ)れも深(ふか)い穴(あな)へ吊(つ)り下(お)ろされ体(からだ)を何処(どこ)ともなく痛(いた)めて思(おも)ふやうに動(うご)かないのを、198やつと安心(あんしん)したので気(き)も緩(ゆる)みグツタリとなつて、199物(もの)をも云(い)はずベツドの上(うへ)で苦(くる)しげな息(いき)を吐(つ)いて居(ゐ)る。200両親(りやうしん)は能(あた)ふ限(かぎ)りの親切(しんせつ)を尽(つく)して介抱(かいほう)に余念(よねん)なく、201治国別(はるくにわけ)の事(こと)を殆(ほとん)ど忘(わす)れて居(ゐ)た。202万公(まんこう)は老夫婦(らうふうふ)が娘(むすめ)二人(ふたり)と道晴別(みちはるわけ)、203シーナを何処(どこ)かへ連(つ)れて行(い)つたきり、204顔(かほ)をも出(だ)さぬのでチツとばかり癪(しやく)に触(さは)つたと見(み)え、205大(おほ)きな声(こゑ)でそこらにウロウロしてゐる下女(げぢよ)を捉(とら)まへ、206『茶(ちや)を汲(く)め、207足(あし)を揉(も)め、208何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐるか』と早(はや)くも若主人(わかしゆじん)気取(きどり)になつて呶鳴(どな)りまはして居(ゐ)る。
209万公(まんこう)『肝腎(かんじん)の娘(むすめ)番頭(ばんとう)を助(たす)けられ
210テームス老爺(おやぢ)礼(れい)さへ云(い)はず。
211愛(いと)し娘(ご)の帰(かへ)りたるより狼狽(うろた)へて
212俺(おれ)やお客(きやく)を忘(わす)れよつたか。
213万公(まんこう)はスガール姫(ひめ)の主人公(しゆじんこう)
214神(かみ)が許(ゆる)した仲(なか)と知(し)らぬか。
215僕(しもべ)共(ども)早(はや)く主人(あるじ)を呼(よ)んで来(き)て
216吾(わが)師(し)の君(きみ)に愛相(あいさう)せぬかい。
217此(この)様(やう)な大(おほ)きな家(いへ)に住(す)み乍(なが)ら
218何故(なぜ)俺(おれ)等(たち)を馬鹿(ばか)にするのか』
219下女(げぢよ)『テームスの主人(あるじ)の君(きみ)は姉妹(おとどい)の
220姿(すがた)眺(なが)めて狼狽(うろた)へ玉(たま)ひぬ。
221今(いま)少時(しば)し待(ま)たせ玉(たま)へよ神司(かむづかさ)
222水(みづ)の出鼻(でばな)は詮術(せんすべ)もなし』
223万公(まんこう)『それだとて義理(ぎり)人情(にんじやう)は知(し)るだらう
224救(すく)ひの神(かみ)を袖(そで)にするのか』
225下女(げぢよ)『私(わたくし)はお民(たみ)と申(まを)す賤女(はしため)よ
226そんなむつかしい事(こと)は知(し)らない。
227三四(さんよつ)日前(かまへ)に出(で)て来(き)た下女(げぢよ)なれば、
228宅(うち)の様子(やうす)が分(わか)りませうか。
229その様(やう)な駄々(だだ)を捏(こ)ねずに今晩(こんばん)は
230おとなしうして寝(やす)み遊(あそ)ばせ。
231姫(ひめ)様(さま)が千騎(せんき)一騎(いつき)の苦(くる)しみを
232如何(どう)して親(おや)が見捨(みす)てられよか。
233テームスの主人(あるじ)の君(きみ)は愛(いと)し娘(ご)に
234心(こころ)悩(なや)ませ煩(わづら)ひ玉(たま)ふ。
235お前(まへ)さま屈強(くつきやう)な身(み)をば持(も)ち乍(なが)ら
236チツとハキハキ働(はたら)きなされ。
237俺(わし)だとて之(これ)程(ほど)広(ひろ)い家中(いへなか)を
238手(て)の廻(まは)りさうな事(こと)がないぞえ。
239緩(ゆつく)りと今夜(こんや)は此処(ここ)に落着(おちつ)いて
240夜(よ)が明(あ)けたなら噪(はつしや)ぎなされ』
241万公(まんこう)『こりやお民(たみ)女(をんな)の癖(くせ)に益良夫(ますらを)を
242嘲弄(てうろう)致(いた)すか迂愚者(うつけもの)奴(め)が』
243お民(たみ)『此(この)家(いへ)に来(く)ると匆々(さうさう)若主人(わかしゆじん)
244気取(きど)りて厶(ござ)る人(ひと)の可笑(をか)しき。
245心(こころ)よきお嬢(ぢやう)さまだと云(い)つたとて
246お好(す)き遊(あそ)ばす筈(はず)はないぞや。
247何故(なぜ)なればお前(まへ)の姿(すがた)は阿呆面(あはうづら)
248顔(かほ)の紐(ひも)まで解(ほど)けてる故(ゆゑ)』
249万公(まんこう)『賤女(はしため)の癖(くせ)にべらべらたたく奴(やつ)
250腮(あご)外(はづ)さうか神(かみ)の力(ちから)で』
251 万公(まんこう)は斯(こ)んな下女(げぢよ)に相手(あひて)になつて居(を)つてもつまらない、252兎(と)も角(かく)主人(しゆじん)を引張(ひつぱ)り出(だ)し、253吾(わが)師(し)の君(きみ)に挨拶(あいさつ)をさせなくちや済(す)まないと、254お民(たみ)を案内(あんない)させて、255四(よ)人(にん)の寝(ね)て居(ゐ)る居間(ゐま)に進(すす)み行(ゆ)く。256見(み)れば夫婦(ふうふ)は四(よ)人(にん)の負傷者(ふしやうしや)を交(かは)る代(がは)る親切(しんせつ)に介抱(かいほう)してゐる。
257万公(まんこう)『やア御(ご)主人(しゆじん)、258介抱(かいほう)は私(わたし)が引受(ひきう)けてやります。259何卒(どうぞ)吾(わが)師(し)の君(きみ)御(ご)一行(いつかう)にお礼(れい)の御(ご)挨拶(あいさつ)に御(お)入来(いで)下(くだ)さいませ。260彼処(あちら)に待(ま)つて居(ゐ)られますから』
261テームス『ハイ、262有難(ありがた)う厶(ござ)ります。263あまり嬉(うれ)しいのと、264娘(むすめ)の介抱(かいほう)に気(き)をとられ、265肝腎(かんじん)の命(いのち)の親様(おやさま)に一言(ひとこと)の御(お)礼(れい)を申(まを)すのも忘(わす)れてゐました』
266ベリシナ『誠(まこと)に済(す)まない事(こと)で厶(ござ)りました。267そんなら老爺(おやぢ)どの、268あなた、269済(す)まないけれど治国別(はるくにわけ)様(さま)御(ご)一行(いつかう)に、270取敢(とりあへ)ずお礼(れい)を云(い)つて来(き)て下(くだ)さい。271私(わたし)はここで介抱(かいほう)して居(を)りますから』
272 テームスは肯(うなづ)き乍(なが)ら、273慌(あわ)ただしく廊下(らうか)を渡(わた)つて治国別(はるくにわけ)の居間(ゐま)に進(すす)み行(ゆ)く。274万公(まんこう)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)にスガールの横顔(よこがほ)を覗(のぞ)き乍(なが)ら、275道晴別(みちはるわけ)、276シーナの介抱(かいほう)を甲斐(かひ)々々(がひ)しくやつて居(ゐ)た。
277(大正一二・二・二六 旧一・一一 於竜宮館 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→