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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
第1章 心転
第2章 道謡
第3章 万民
第4章 真異
第5章 飯の灰
第6章 洗濯使
第2篇 縁三寵望
第7章 朝餉
第8章 放棄
第9章 三婚
第10章 鬼涙
第3篇 玉置長蛇
第11章 経愕
第12章 霊婚
第13章 蘇歌
第14章 春陽
第15章 公盗
第16章 幽貝
第4篇 法念舞詩
第17章 万巌
第18章 音頭
第19章 清滝
第20章 万面
第21章 嬉涙
第22章 比丘
余白歌
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真善美愛(第49~60巻)
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第55巻(午の巻)
> 第1篇 奇縁万情 > 第5章 飯の灰
<<< 真異
(B)
(N)
洗濯使 >>>
第五章
飯
(
めし
)
の
灰
(
はひ
)
〔一四一三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第1篇 奇縁万情
よみ(新仮名遣い):
きえんばんじょう
章:
第5章 飯の灰
よみ(新仮名遣い):
めしのはい
通し章番号:
1413
口述日:
1923(大正12)年03月03日(旧01月16日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
テームス夫婦は四人の介抱に全力を尽くしていた。そして治国別に、道晴別が全快するまでは家に留まるように懇願した。治国別は別宅に入り、バラモン組の連中に、三五教の教理を説き諭していた。
万公は台所に回って、下女のお民を主人気取りで使役していた。お民から、バラモン軍の兵士・フエルとベットが蔵に閉じ込められていると聞いて、手伝いをさせるために二人を解放した。
万公は三人を口やかましく使役していたが、フエルは手桶の水をかまどの下へぶちあけてしまった。灰が一面に立ち上がり、炊事場は真っ黒になってしまった。
テームス家の二の番頭アヅモスが炊事場の様子を見にやってくると、一面に灰煙が立っている。怪訝に思ったが、万公に怒鳴られてすごすごと退散した。フエル、ベット、お民は鍋蓋の間から入った飯の上の灰を杓子で削り取っていた。
一同はおかしな歌を歌いながら、灰まみれの全部をこしらえて慌ただしく朝飯を病室に運んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-05-13 20:55:55
OBC :
rm5505
愛善世界社版:
58頁
八幡書店版:
第10輯 54頁
修補版:
校定版:
59頁
普及版:
23頁
初版:
ページ備考:
001
テームス
夫婦
(
ふうふ
)
は
下僕
(
しもべ
)
のアーシスと
共
(
とも
)
に、
002
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
介抱
(
かいほう
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
して
居
(
ゐ
)
た。
003
治国別
(
はるくにわけ
)
以下
(
いか
)
八
(
はち
)
人
(
にん
)
のお
客
(
きやく
)
に
対
(
たい
)
してはアヅモスを
以
(
もつ
)
て
接待係
(
せつたいがかり
)
となし、
004
治国別
(
はるくにわけ
)
の
急
(
いそ
)
ぎ
此処
(
ここ
)
を
出立
(
しゆつたつ
)
せむとするを
聞
(
き
)
いて
打驚
(
うちおどろ
)
き、
005
せめて
道晴別
(
みちはるわけ
)
の
病気
(
びやうき
)
全快
(
ぜんくわい
)
する
迄
(
まで
)
、
006
吾
(
わが
)
家
(
や
)
にとどまり
玉
(
たま
)
はむ
事
(
こと
)
をと、
007
頻
(
しき
)
りに
懇願
(
こんぐわん
)
した。
008
治国別
(
はるくにわけ
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
009
四方
(
しはう
)
庭先
(
にはさき
)
をめぐらした、
010
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
き
別宅
(
べつたく
)
に
入
(
い
)
りて、
011
バラモン
組
(
ぐみ
)
の
連中
(
れんぢう
)
に
三五
(
あななひ
)
の
教理
(
けうり
)
を
日夜
(
にちや
)
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
してゐた。
012
万公
(
まんこう
)
は
此
(
この
)
家
(
いへ
)
に
到着
(
たうちやく
)
し
一度
(
いちど
)
顔
(
かほ
)
を
合
(
あは
)
したきり、
013
台所
(
かつて
)
の
方
(
はう
)
に
廻
(
まは
)
つて、
014
下女
(
げぢよ
)
のお
民
(
たみ
)
を
主人
(
しゆじん
)
気取
(
きどり
)
で
使役
(
しえき
)
し、
015
家事
(
かじ
)
万端
(
ばんたん
)
に
注意
(
ちうい
)
を
与
(
あた
)
へてゐた。
016
万公
(
まんこう
)
『オイお
民
(
たみ
)
、
017
汝
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
の
家
(
うち
)
へ
来
(
き
)
てからまだ
間
(
ま
)
もないのだから、
018
勝手
(
かつて
)
も
分
(
わか
)
るまい、
019
そして
田舎出
(
いなかで
)
のホヤホヤで、
020
どこ
共
(
とも
)
なしに
土臭
(
つちくさ
)
い。
021
これから
家事
(
かじ
)
万端
(
ばんたん
)
の
事
(
こと
)
を、
022
若主人
(
わかしゆじん
)
の
万公別
(
まんこうわけ
)
が
教
(
をし
)
へてやるから、
023
其
(
その
)
心算
(
つもり
)
で、
024
何事
(
なにごと
)
もハイハイと
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
すのだぞ』
025
お
民
(
たみ
)
『
万公別
(
まんこうわけ
)
さまとやら、
026
根
(
ね
)
ツから
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
の
話
(
はなし
)
も
聞
(
きき
)
ませぬし、
027
一体
(
いつたい
)
何方
(
どなた
)
のお
婿
(
むこ
)
さまになられたのですか。
028
何
(
なん
)
だか
主人
(
しゆじん
)
の
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がせなくてなりませぬワ。
029
又
(
また
)
大家
(
たいけ
)
の
主人
(
しゆじん
)
たる
者
(
もの
)
が
炊事場
(
すゐじば
)
へやつて
来
(
き
)
て、
030
下女
(
げぢよ
)
をつかまへて
指図
(
さしづ
)
をするといふやうな
卑劣
(
けち
)
な
事
(
こと
)
では、
031
下男
(
げなん
)
や
下女
(
げぢよ
)
はケチ
臭
(
くさ
)
い
主人
(
しゆじん
)
だと
云
(
い
)
つて、
032
排斥
(
はいせき
)
しますよ』
033
万公
(
まんこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
言
(
い
)
ふな。
034
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
迄
(
まで
)
気
(
き
)
がつかなくては、
035
一家
(
いつけん
)
の
主人
(
あるじ
)
たる
資格
(
しかく
)
がない。
036
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
のやうな
主人面
(
しゆじんづら
)
をして
居
(
を
)
つては、
037
之
(
これ
)
丈
(
だけ
)
税金
(
ぜいきん
)
のかかる
時節
(
じせつ
)
、
038
どうしても
会計
(
くわいけい
)
が
持
(
も
)
てぬぢやないか、
039
それだから
上下
(
しやうか
)
一致
(
いつち
)
して、
040
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
家内
(
かない
)
の
整理
(
せいり
)
を
按排
(
あんばい
)
し、
041
而
(
しか
)
して
後
(
のち
)
外部
(
ぐわいぶ
)
の
仕事
(
しごと
)
にかかるのだ』
042
お
民
(
たみ
)
『お
嬢
(
ぢやう
)
さまを
始
(
はじ
)
めお
客
(
きやく
)
さまの
病気
(
びやうき
)
で、
043
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
は
御
(
お
)
手
(
て
)
が
引
(
ひ
)
けず、
044
アヅモス、
045
アーシスのお
二人
(
ふたり
)
は
病人
(
びやうにん
)
やお
客
(
きやく
)
さまに
係
(
かか
)
つてゐるなり、
046
さう
八釜
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つても、
047
何程
(
なにほど
)
千手
(
せんじゆ
)
観音
(
くわんおん
)
さまだつて、
048
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
で、
049
こんな
広
(
ひろ
)
い
内
(
うち
)
がどう
甘
(
うま
)
く
行
(
ゆ
)
きますものか。
050
チツと
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
051
アオスから
晩
(
ばん
)
まで、
052
独楽
(
こま
)
の
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
にあはされてキリキリ
舞
(
まひ
)
をしてゐるのですよ、
053
喧
(
やか
)
ましう
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
054
お
前
(
まへ
)
さまは
贋主人
(
にせしゆじん
)
でせう。
055
そんなこと
云
(
い
)
つてもあきませぬよ』
056
万公
(
まんこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
057
汝
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
で
忙
(
いそが
)
しいから
俺
(
おれ
)
が
主人
(
しゆじん
)
の
身
(
み
)
をも
省
(
かへり
)
みず、
058
汝
(
きさま
)
の
苦衷
(
くちう
)
を
察
(
さつ
)
して
手伝
(
てつだひ
)
に
来
(
き
)
てやつたのだ。
059
チツとそこらの
掃除
(
さうぢ
)
をせぬかい、
060
此
(
この
)
散
(
ち
)
らけ
様
(
やう
)
は
何
(
なん
)
だ』
061
お
民
(
たみ
)
『
掃除
(
さうぢ
)
どもする
間
(
ま
)
がありますか、
062
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
を
)
るバラモンのお
客
(
きやく
)
さまには
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでやらねばならず、
063
水
(
みづ
)
を
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かねばならず、
064
夫
(
そ
)
れに
俄
(
にはか
)
の
沢山
(
たくさん
)
のお
客
(
きやく
)
さま、
065
チツとお
前
(
まへ
)
さまも
手伝
(
てつだ
)
ひなされ』
066
万公
(
まんこう
)
『ナニ、
067
バラモンのお
客
(
きやく
)
さまが
庫
(
くら
)
に
居
(
を
)
るとは
此奴
(
こいつ
)
ア
妙
(
めう
)
だ、
068
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
だ』
069
お
民
(
たみ
)
『
何
(
なん
)
でもフエルとかベツトとかいふ
男
(
をとこ
)
ですよ』
070
万公
(
まんこう
)
『ウン
其奴
(
そいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
071
臨時
(
りんじ
)
其奴
(
そいつ
)
を
下男
(
げなん
)
として
使
(
つか
)
つてやらう。
072
さうすればベツト、
073
フエルも
喜
(
よろこ
)
ぶだらう、
074
オイお
民
(
たみ
)
、
075
庫
(
くら
)
の
鍵
(
かぎ
)
を
貸
(
か
)
せ』
076
お
民
(
たみ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
万公
(
まんこう
)
さま、
077
貴方
(
あなた
)
は
若主人
(
わかしゆじん
)
ですか。
078
主人
(
しゆじん
)
に
間違
(
まちが
)
ひなければ
鍵
(
かぎ
)
を
渡
(
わた
)
します。
079
サア
之
(
これ
)
を
持
(
も
)
つてお
行
(
ゆ
)
きやす。
080
東
(
ひがし
)
から
三
(
みつ
)
つ
目
(
め
)
の
庫
(
くら
)
ですよ』
081
と
庫
(
くら
)
の
鍵
(
かぎ
)
を
抽出
(
ひきだし
)
から
取出
(
とりだ
)
して
万公
(
まんこう
)
に
渡
(
わた
)
した。
082
万公
(
まんこう
)
はイソイソとして
鍵
(
かぎ
)
を
携
(
たづさ
)
へ、
083
庫
(
くら
)
の
戸
(
と
)
をあけ、
084
怖
(
こは
)
相
(
さう
)
に
中
(
なか
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いてみると、
085
フエル、
086
ベツトも
又
(
また
)
ブルブルもので
庫
(
くら
)
の
隅
(
すみ
)
に
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
うて
縮
(
ちぢ
)
かみゐる。
087
万公
(
まんこう
)
『オイ、
088
バラモンの
大将
(
たいしやう
)
、
089
俺
(
おれ
)
は
当家
(
たうけ
)
の
若主人
(
わかしゆじん
)
だ。
090
今日
(
けふ
)
は
許
(
ゆる
)
してやるから
下男
(
げなん
)
の
代
(
かは
)
りに
家内
(
かない
)
の
掃掃除
(
はきさうぢ
)
をするのだ。
091
随分
(
ずいぶん
)
お
客
(
きやく
)
が
俄
(
にはか
)
に
殖
(
ふ
)
えたのだから……ヨモヤ
厭
(
いや
)
とは
申
(
まを
)
すまいな』
092
フエル『ハイ、
093
若主人
(
わかしゆじん
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
仁慈
(
じんじ
)
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
094
どんな
事
(
こと
)
でも
致
(
いた
)
しますから、
095
何卒
(
どうぞ
)
お
使
(
つか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいませ』
096
二人
(
ふたり
)
は
万公
(
まんこう
)
を
本当
(
ほんたう
)
の
若主人
(
わかしゆじん
)
だと
信
(
しん
)
じて
了
(
しま
)
つた。
097
万公
(
まんこう
)
『サ、
098
先
(
ま
)
づ
座敷
(
ざしき
)
の
掃除
(
さうぢ
)
からやるのだ。
099
オイ、
100
フエル、
101
ベツトの
両人
(
りやうにん
)
、
102
随分
(
ずいぶん
)
広
(
ひろ
)
い
間
(
ま
)
だから
一寸
(
ちよつと
)
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れるぞ。
103
骨
(
ほね
)
折
(
を
)
ると
云
(
い
)
つても
障子
(
しやうじ
)
の
骨
(
ほね
)
折
(
を
)
つちや、
104
忽
(
たちま
)
ち
幾分
(
いくぶん
)
かの
損害
(
そんがい
)
だから、
105
充分
(
じゆうぶん
)
注意
(
ちゆうい
)
をして
貰
(
もら
)
はねばならぬ、
106
先
(
ま
)
づ
掃除
(
さうぢ
)
の
仕方
(
しかた
)
から
教
(
をし
)
へてやらう、
107
……
一番
(
いちばん
)
に
戸障子
(
としやうじ
)
を
開
(
あ
)
け
放
(
はな
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
108
どうしても
動
(
うご
)
かす
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ぬ
大切
(
たいせつ
)
な
品物
(
しなもの
)
は
被物
(
おほひ
)
をかけておくのだ。
109
それから
払塵
(
はたき
)
のかけ
方
(
かた
)
は
天井
(
てんじやう
)
のスミズミから
戸障子
(
としやうじ
)
腰張
(
こしば
)
りといふ
順序
(
じゆんじよ
)
に、
110
上
(
うへ
)
からダンダンと
払塵
(
はたき
)
の
先
(
さき
)
で
品
(
しな
)
よくハタくやうにするのだ。
111
一寸
(
ちよつと
)
今
(
いま
)
俺
(
おれ
)
が
標本
(
へうほん
)
を
見
(
み
)
せてやる……コレ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ。
112
腕
(
うで
)
をニユツと
伸
(
の
)
ばし、
113
手首
(
てくび
)
を
下向
(
したむ
)
けるやうにしてやりさへすれば、
114
棧
(
さん
)
に
柄
(
え
)
が
当
(
あた
)
らず、
115
埃
(
ほこり
)
は
甘
(
うま
)
く
散
(
ち
)
つて
了
(
しま
)
ふ。
116
ハタキが
済
(
す
)
むと
今度
(
こんど
)
は
箒
(
はうき
)
を
使
(
つか
)
ふのだ』
117
フエル『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
118
箒
(
はうき
)
使
(
つか
)
ふ
位
(
くらゐ
)
はよく
知
(
し
)
つてゐます。
119
オイ、
120
ベツト、
121
汝
(
きさま
)
も
此
(
この
)
箒
(
はうき
)
を
以
(
もつ
)
て
掃
(
は
)
くのだ』
122
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
両人
(
りやうにん
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
畳
(
たたみ
)
を
掃
(
は
)
き
出
(
だ
)
した。
123
万公
(
まんこう
)
『コラコラそんな
掃
(
は
)
き
様
(
やう
)
があるか。
124
箒
(
はうき
)
の
使方
(
つかひかた
)
は
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
に
添
(
そ
)
うて
掃
(
は
)
かないと、
125
塵
(
ちり
)
がスツカリ
畳
(
たたみ
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ふぢやないか、
126
汝
(
きさま
)
のやうに
箒
(
はうき
)
の
先
(
さき
)
を
上
(
あ
)
げよつて
使
(
つか
)
ひよると、
127
埃
(
ほこり
)
がそこらへ
飛
(
と
)
びさがして、
128
箒
(
はうき
)
は
損
(
いた
)
むなり、
129
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
障子
(
しやうじ
)
の
棧
(
さん
)
へ
止
(
と
)
まつて
了
(
しま
)
ふぢやないか。
130
そんな
中央
(
まんなか
)
の
方
(
はう
)
斗
(
ばか
)
り
掃
(
は
)
いたつて
何
(
なん
)
になる、
131
隅々
(
すみずみ
)
をよく
掃
(
は
)
きさへすれば、
132
中央
(
まんなか
)
は
独
(
ひと
)
り
美
(
うつく
)
しうなるのだ。
133
そして
掃掃除
(
はきさうぢ
)
が
済
(
す
)
んだら、
134
箒
(
はうき
)
を
吊
(
つ
)
つておくのだ、
135
立
(
た
)
てておくと、
136
すぐに
薙刀
(
なぎなた
)
の
穂先
(
ほさき
)
のやうに
曲
(
まが
)
つて
了
(
しま
)
ふぞ。
137
掃除
(
さうぢ
)
がスツカリすんだ
後
(
あと
)
は、
138
先
(
さき
)
に
付
(
つ
)
いてをる
塵
(
ちり
)
を
除
(
と
)
つておくのだ』
139
フエル『モシ、
140
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
、
141
随分
(
ずいぶん
)
貴方
(
あなた
)
は
能
(
よ
)
う
気
(
き
)
がつきますな、
142
丸
(
まる
)
で
女
(
をんな
)
みた
様
(
やう
)
ですワ』
143
万公
(
まんこう
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ、
144
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
瑞霊
(
みづのみたま
)
だ、
145
サ、
146
之
(
これ
)
から
水
(
みづ
)
の
御用
(
ごよう
)
だ。
147
箒
(
はうき
)
がすんだら、
148
雑巾
(
ざふきん
)
がけをやるのだ。
149
雑巾
(
ざふきん
)
は
能
(
よ
)
く
水
(
みづ
)
につけ
揉
(
も
)
み
出
(
だ
)
して、
150
可
(
か
)
なり
固
(
かた
)
く
絞
(
しぼ
)
り、
151
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて
拭
(
ふ
)
かないと、
152
却
(
かへつ
)
て
縁板
(
えんいた
)
が
汚
(
きたな
)
くなるぞ。
153
バケツの
水
(
みづ
)
も
度々
(
たびたび
)
取替
(
とりか
)
へぬと
駄目
(
だめ
)
だ。
154
雑巾
(
ざふきん
)
のかけ
方
(
かた
)
は
板
(
いた
)
の
目
(
め
)
に
添
(
そ
)
うて、
155
雑巾
(
ざふきん
)
をよく
折返
(
をりかへ
)
して
拭
(
ふ
)
くのだよ。
156
椽
(
えん
)
の
隅
(
すみ
)
は
雑巾
(
ざふきん
)
を
三角形
(
さんかくがた
)
に
折
(
を
)
つて
拭
(
ふ
)
くと、
157
スミ
迄
(
まで
)
綺麗
(
きれい
)
になる。
158
ニス、
159
漆
(
うるし
)
の
上等
(
じやうとう
)
の
材木
(
ざいもく
)
などは、
160
湿
(
しめ
)
つた
雑巾
(
ざふきん
)
をかけては
却
(
かへつ
)
て
悪
(
わる
)
くなるものだ。
161
乾
(
かわ
)
いた
雑巾
(
ざふきん
)
を
根
(
こん
)
に
任
(
まか
)
して
使
(
つか
)
ふのだ。
162
朝晩
(
あさばん
)
の
拭掃除
(
ふきさうぢ
)
も
門掃
(
かどはき
)
も
硝子研
(
がらすみが
)
きも、
163
雑巾掛
(
ざふきんがけ
)
も
皆
(
みな
)
人格
(
じんかく
)
の
修養
(
しうやう
)
だ、
164
そして
社会
(
しやくわい
)
奉仕
(
ほうし
)
の
一
(
ひと
)
つだ。
165
あああ
主人
(
しゆじん
)
になつても、
166
並
(
なみ
)
や
大抵
(
たいてい
)
の
事
(
こと
)
ぢやないわい。
167
コリヤコリヤ、
168
バケツの
水
(
みづ
)
が
汚
(
よご
)
れてゐるぢやないか、
169
なぜ
新
(
あたら
)
しいのと
汲
(
く
)
み
替
(
か
)
へぬのだ。
170
そんな
泥
(
どろ
)
のやうな
水
(
みづ
)
で
雑巾
(
ざふきん
)
を
絞
(
しぼ
)
るものだから、
171
これみい、
172
板
(
いた
)
の
間
(
ま
)
に
白
(
しろ
)
い
筋
(
すぢ
)
がついてるぞ』
173
フエル『オイ、
174
ベツト、
175
難
(
むつか
)
しい
主人
(
しゆじん
)
だな、
176
やり
切
(
き
)
れぬぢやないか』
177
万公
(
まんこう
)
『
一寸
(
ちよつと
)
主人
(
しゆじん
)
に
跟
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い、
178
之
(
これ
)
から
飯焚
(
めしたき
)
を
仰付
(
おほせつ
)
けてやる』
179
フエル『ヘーヘー、
180
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
181
永
(
なが
)
らく
庫
(
くら
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
182
折角
(
せつかく
)
外
(
そと
)
へ
出
(
だ
)
して
貰
(
もら
)
うたと
思
(
おも
)
へば、
183
煙草
(
たばこ
)
一服
(
いつぷく
)
せぬ
前
(
さき
)
に、
184
下男
(
げなん
)
や
下女
(
げぢよ
)
の
役目
(
やくめ
)
を
仰付
(
おほせつ
)
けられ、
185
実
(
じつ
)
に
光栄
(
くわうえい
)
です』
186
万公
(
まんこう
)
『ゴテゴテ
申
(
まを
)
さず、
187
俺
(
おれ
)
の
後
(
うしろ
)
へ
跟
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るのだ』
188
と
大手
(
おほて
)
をふり
乍
(
なが
)
らお
民
(
たみ
)
の
飯焚場
(
めしたきば
)
へやつて
来
(
き
)
た。
189
万公
(
まんこう
)
『オイお
民
(
たみ
)
、
190
鍵
(
かぎ
)
をしまつておいてくれ、
191
サア
之
(
こ
)
れだ。
192
新参者
(
しんざんもの
)
の
男衆
(
をとこしう
)
が
二人
(
ふたり
)
出来
(
でき
)
たから
汝
(
きさま
)
も
心易
(
こころやす
)
うしてやつてくれ。
193
但
(
ただし
)
心易
(
こころやす
)
うせいと
云
(
い
)
つても
程度
(
ていど
)
問題
(
もんだい
)
だ。
194
併
(
しか
)
し
汝
(
きさま
)
の
頬
(
ほほ
)
ベタは
赤
(
あか
)
いから、
195
いかな
物好
(
ものずき
)
でも、
196
つまみ
喰
(
ぐ
)
ひする
奴
(
やつ
)
はあるまいから、
197
マア
安心
(
あんしん
)
だ』
198
お
民
(
たみ
)
『ヘン、
199
放
(
ほ
)
つといて
下
(
くだ
)
さいませ、
200
怪
(
け
)
ツ
体
(
たい
)
な
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
だなア』
201
万公
(
まんこう
)
『オイお
民
(
たみ
)
、
202
四
(
よつ
)
つも
五
(
いつ
)
つも
一度
(
いちど
)
に
竃
(
かま
)
に
火
(
ひ
)
をつけてるが、
203
一体
(
いつたい
)
何
(
なに
)
を
焚
(
た
)
いてるのだ』
204
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
205
鍋
(
なべ
)
の
蓋
(
ふた
)
を
一々
(
いちいち
)
取
(
と
)
つてみて、
206
万公
(
まんこう
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
飯
(
めし
)
だ、
207
……
此奴
(
こいつ
)
ア
副食物
(
おかず
)
だ、
208
……コリヤコリヤお
民
(
たみ
)
、
209
飯
(
めし
)
が
煮
(
に
)
え
立
(
た
)
つた
後
(
あと
)
は、
210
火
(
ひ
)
をズーツと
弱
(
よわ
)
めるのだぞ。
211
そして
白
(
しろ
)
い
泡
(
あわ
)
を
外
(
そと
)
へこぼさない
様
(
やう
)
にするのだ、
212
米
(
こめ
)
の
甘味
(
あまみ
)
がスツカリ
帰
(
い
)
んで
了
(
しま
)
ふからな。
213
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
く
時
(
とき
)
には
仕事
(
しごと
)
の
手順
(
てじゆん
)
を
考
(
かんが
)
へて、
214
ズツと
続
(
つづ
)
けて
用
(
もち
)
ふる
方
(
はう
)
が、
215
火力
(
くわりよく
)
の
経済
(
けいざい
)
となるから、
216
汝
(
きさま
)
のやうに
一遍
(
いつぺん
)
に
冷
(
つめ
)
たい
竃
(
かま
)
をぬくめようとすると、
217
大変
(
たいへん
)
な
損
(
そん
)
だぞ。
218
余
(
あま
)
つた
火
(
ひ
)
を
次
(
つぎ
)
へ
廻
(
まは
)
しまわしすれば、
219
何程
(
なにほど
)
経済
(
けいざい
)
上
(
じやう
)
利益
(
りえき
)
かも
知
(
し
)
れぬ。
220
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
く
時
(
とき
)
はよく
調節
(
てうせつ
)
して、
221
炎
(
ほのほ
)
の
先
(
さき
)
が
鍋
(
なべ
)
の
底
(
そこ
)
に
当
(
あた
)
る
程度
(
ていど
)
のものにしておけば、
222
それ
以上
(
いじやう
)
外
(
そと
)
へ
火
(
ひ
)
がねぶる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
焚物
(
たきもの
)
が
無駄
(
むだ
)
になる。
223
オイ、
224
フエル、
225
ベツト、
226
汝
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をよう
聞
(
き
)
いておけ。
227
第一
(
だいいち
)
テームス
家
(
け
)
の
損
(
そん
)
になる
事
(
こと
)
だからな。
228
奉公人
(
ほうこうにん
)
根性
(
こんじやう
)
と
云
(
い
)
つて、
229
主人
(
しゆじん
)
の
居
(
を
)
らぬ
時
(
とき
)
にや、
230
不経済
(
ふけいざい
)
な
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
りしよるから、
231
今
(
いま
)
までとはチツと
違
(
ちが
)
うぞ。
232
今度
(
こんど
)
の
主人
(
しゆじん
)
は
経済
(
けいざい
)
学者
(
がくしや
)
だからなア』
233
お
民
(
たみ
)
『ホホホホ
主人
(
しゆじん
)
が
鍋
(
なべ
)
の
蓋
(
ふた
)
をあけて
調
(
しら
)
べる
様
(
やう
)
になつたら、
234
最早
(
もはや
)
其
(
その
)
家
(
いへ
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ。
235
余程
(
よほど
)
家
(
いへ
)
の
財政
(
ざいせい
)
が
苦
(
くる
)
しいとみえますなア』
236
万公
(
まんこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
237
冥加
(
みやうが
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らんか。
238
オイ、
239
ベツト、
240
フエル、
241
お
前
(
まへ
)
はこれからお
客
(
きやく
)
が
多
(
おほ
)
いのだから、
242
お
民
(
たみ
)
の
仕事
(
しごと
)
を
手伝
(
てつだ
)
つてやつてくれ。
243
第一
(
だいいち
)
経済
(
けいざい
)
を
重
(
おも
)
んじて、
244
薪
(
たきぎ
)
や
炭
(
すみ
)
を
粗末
(
そまつ
)
にせない
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
むぞ。
245
よく
乾
(
かわ
)
いた
薪
(
たきぎ
)
を
用
(
もち
)
ゐ、
246
無暗
(
むやみ
)
に
沢山
(
たくさん
)
釜
(
かま
)
の
下
(
した
)
へ
捻
(
ね
)
ぢ
込
(
こ
)
むと、
247
却
(
かへつ
)
て
燃
(
も
)
えが
悪
(
わる
)
く、
248
燻
(
くすぶ
)
つて
了
(
しま
)
ふ。
249
割木
(
わりき
)
なら、
250
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
を
四本
(
しほん
)
位
(
ぐらゐ
)
くべるのだ。
251
そして
薪
(
たきぎ
)
と
薪
(
たきぎ
)
とが
重
(
かさ
)
ならぬやうに
組合
(
くみあは
)
さないと、
252
燃
(
も
)
えにくいぞ。
253
そして
物
(
もの
)
が
煮
(
に
)
え
上
(
あが
)
つたら、
254
使
(
つか
)
ひさしの
薪
(
たきぎ
)
はすぐに
消
(
け
)
すのだ。
255
火消壺
(
ひけしつぼ
)
へつつ
込
(
こ
)
むか
水
(
みづ
)
をかけるかしてなア……』
256
フエル『ハイハイ
畏
(
かしこ
)
まりました。
257
オイ、
258
お
民
(
たみ
)
さま、
259
俺
(
おれ
)
も
少
(
すこ
)
しは
陣中
(
ぢんちう
)
で
飯焚
(
めしたき
)
もやつた
事
(
こと
)
がある。
260
チツと
俺
(
おれ
)
が
標本
(
へうほん
)
をみせてやらう』
261
お
民
(
たみ
)
『アタ
暑
(
あつ
)
いのに
困
(
こま
)
つてをつた
所
(
ところ
)
ですよ。
262
マア、
263
チツと
此処
(
ここ
)
で
腰
(
こし
)
でも
下
(
おろ
)
してお
前
(
まへ
)
のお
手際
(
てぎわ
)
を
拝見
(
はいけん
)
しませう』
264
万公
(
まんこう
)
『オイ、
265
お
民
(
たみ
)
、
266
焦
(
こ
)
げ
臭
(
くさ
)
いぢやないか、
267
早
(
はや
)
く
焚物
(
たきもの
)
を
引
(
ひ
)
かぬかい』
268
お
民
(
たみ
)
『
余
(
あま
)
り
俄旦那
(
にはかだんな
)
さまが
喧
(
やかま
)
しう
仰有
(
おつしや
)
るものだから、
269
外
(
ほか
)
へ
気
(
き
)
を
取
(
と
)
られてお
飯
(
まんま
)
が
焦
(
こ
)
げついたのですよ、
270
黒
(
くろ
)
くなつたら、
271
フエル、
272
ベツトに
食
(
く
)
はしたら
宜
(
よろ
)
しいワ、
273
ホホホホ』
274
万公
(
まんこう
)
『オイ
両人
(
りやうにん
)
、
275
何
(
なん
)
とかせぬかい、
276
鍋
(
なべ
)
がペチペチ
云
(
い
)
ふとるぢやないか』
277
フエルは
手桶
(
てをけ
)
の
水
(
みづ
)
を
慌
(
あわ
)
てて
竃
(
かまど
)
の
下
(
した
)
へぶちやけた
拍子
(
ひやうし
)
に、
278
ブーと
灰
(
はひ
)
が
一面
(
いちめん
)
に
立上
(
たちあが
)
り、
279
炊事場
(
すゐじば
)
は
真黒
(
まつくろ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
280
そして
体中
(
からだぢう
)
灰
(
はひ
)
まぶれになり、
281
鼻
(
はな
)
をつまんで、
282
四
(
よ
)
人
(
にん
)
とも
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
283
空気
(
くうき
)
を
吸
(
す
)
うてゐる。
284
アヅモスは
朝飯
(
あさめし
)
が
遅
(
おそ
)
いので
腹
(
はら
)
をへらし、
285
炊事場
(
すゐじば
)
の
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へに
来
(
く
)
ると、
286
そこら
一面
(
いちめん
)
灰煙
(
はひけむり
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
287
アヅモスは
大声
(
おほごゑ
)
で、
288
……『お
民
(
たみ
)
お
民
(
たみ
)
』と
呼
(
よ
)
んだ。
289
お
民
(
たみ
)
は
外
(
そと
)
から……
290
お
民
(
たみ
)
『ハイ、
291
二
(
に
)
の
番頭
(
ばんとう
)
さまですか、
292
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
ですかい』
293
アヅモス『
何
(
なに
)
をキヨロキヨロしてゐるのだ、
294
早
(
はや
)
く
御飯
(
ごはん
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
んかい、
295
皆
(
みな
)
お
客
(
きやく
)
さまがお
腹
(
なか
)
がすいてるぢやないか』
296
お
民
(
たみ
)
『エ、
297
お
前
(
まへ
)
は
男
(
をとこ
)
の
癖
(
くせ
)
に、
298
喧
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
ふものぢやありませぬ。
299
今
(
いま
)
若旦那
(
わかだんな
)
さまと
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に、
300
御飯
(
ごはん
)
をたいてゐた
所
(
ところ
)
ですよ』
301
アヅモス『
当家
(
たうけ
)
に
若旦那
(
わかだんな
)
のある
筈
(
はず
)
がない、
302
何
(
なに
)
を
呆
(
とぼ
)
けてゐるのだ。
303
此処辺
(
ここら
)
スツカリ
灰
(
はひ
)
まぶれぢやないか、
304
チツと
掃除
(
さうぢ
)
をせぬかい』
305
万公
(
まんこう
)
は
裏口
(
うらぐち
)
から
灰
(
はひ
)
だらけの
炊事場
(
すゐじば
)
へ
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
306
万公
(
まんこう
)
『ア、
307
お
前
(
まへ
)
はアヅモスか、
308
俺
(
おれ
)
は
若主人
(
わかしゆじん
)
の
万公別
(
まんこうわけ
)
だ。
309
今
(
いま
)
お
民
(
たみ
)
に
炊事
(
すゐじ
)
の
教授
(
けうじゆ
)
をしてゐた
所
(
ところ
)
だ。
310
たつた
今
(
いま
)
調理
(
てうり
)
して
新参者
(
しんざんもの
)
のフエル、
311
ベツトに
膳部
(
ぜんぶ
)
を
運
(
はこ
)
ばすから、
312
病人
(
びやうにん
)
の
介抱
(
かいほう
)
を
神妙
(
しんめう
)
にして
来
(
こ
)
い。
313
そして
舅姑殿
(
しうとしうとめどの
)
にもチツと
遅
(
おそ
)
うなつてすみませぬが、
314
たつた
今
(
いま
)
、
315
持
(
も
)
つて
参
(
まゐ
)
りますと……さう
云
(
い
)
つといてくれ』
316
アヅモス『ヘーエ、
317
妙
(
めう
)
ですな。
318
貴方
(
あなた
)
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
御
(
ご
)
養子
(
やうし
)
になられたのですか』
319
万公
(
まんこう
)
『そんなこた
尋
(
たづ
)
ねる
丈
(
だけ
)
野暮
(
やぼ
)
だ。
320
スガールに
聞
(
き
)
いてみよ、
321
それで
分
(
わか
)
らな、
322
今度
(
こんど
)
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
家来
(
けらい
)
の
竜彦
(
たつひこ
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
りや
分
(
わか
)
るのだ。
323
エエ
男
(
をとこ
)
が
炊事場
(
すゐじば
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るものぢやない、
324
若主人
(
わかしゆじん
)
の
言
(
い
)
ひ
付
(
つけ
)
だ、
325
早
(
はや
)
く
彼方
(
あちら
)
へ
行
(
ゆ
)
け』
326
アヅモスは
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
をしてスゴスゴと
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
り、
327
病室
(
びやうしつ
)
に
引返
(
ひきかへ
)
した。
328
万公
(
まんこう
)
、
329
お
民
(
たみ
)
、
330
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は
箒
(
はうき
)
や
雑巾
(
ざふきん
)
やハタキで
再
(
ふたた
)
び
大掃除
(
おほさうぢ
)
をなし、
331
鍋蓋
(
なべぶた
)
の
隙
(
すき
)
から、
332
這入
(
はい
)
つた
飯
(
めし
)
の
上
(
うへ
)
の
灰
(
はひ
)
を
杓子
(
しやくし
)
で
削
(
けづ
)
り
取
(
と
)
り、
333
水桶
(
みづをけ
)
の
中
(
なか
)
へ
落
(
おと
)
して
洗
(
あら
)
ひ、
334
万公
(
まんこう
)
『
此
(
この
)
家
(
うち
)
は
俄
(
にはか
)
に
客
(
きやく
)
がフエールの
335
飯焚
(
めしたき
)
男
(
をとこ
)
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
くなり。
336
泡
(
あわ
)
ふいた
飯
(
めし
)
も
知
(
し
)
らずに
焦
(
こ
)
げつかし
337
心
(
こころ
)
を
焦
(
こ
)
がす
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れかな』
338
フエル『
若主人
(
わかしゆじん
)
掃除
(
さうぢ
)
万端
(
ばんたん
)
指図
(
さしづ
)
して
339
飛
(
と
)
び
廻
(
まは
)
りたる
灰神楽
(
はひかぐら
)
かな。
340
灰神楽
(
はひかぐら
)
かぶつて
体
(
からだ
)
は
泥
(
どろ
)
まぶれ
341
飯
(
めし
)
の
灰
(
はひ
)
をば
払
(
はら
)
ふ
可笑
(
をか
)
しさ。
342
払
(
はら
)
うても
又
(
また
)
払
(
はら
)
うても
飛
(
と
)
んで
来
(
く
)
る
343
灰
(
はひ
)
は
四隅
(
よすみ
)
に
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
りつつ。
344
お
民
(
たみ
)
さま
胸
(
むね
)
を
焦
(
こ
)
がして
居
(
ゐ
)
るとみえ
345
飯
(
めし
)
の
焦
(
こ
)
げたも
知
(
し
)
らぬ
熱情
(
ねつじやう
)
。
346
若夫婦
(
わかふうふ
)
、
夫婦
(
ふうふ
)
々々
(
ふうふ
)
と
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
く
347
声
(
こゑ
)
聞付
(
ききつ
)
けて
飯
(
めし
)
を
焦
(
こ
)
がしつ。
348
胸
(
むね
)
焦
(
こ
)
がし
飯
(
めし
)
を
焦
(
こ
)
がして
灰
(
はひ
)
まぶれ
349
此
(
この
)
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
配膳
(
はいぜん
)
と
云
(
い
)
ふ』
350
斯
(
か
)
く
馬鹿口
(
ばかぐち
)
を
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
351
灰
(
はひ
)
まぶれの
膳部
(
ぜんぶ
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
352
慌
(
あわ
)
ただしく
朝飯
(
あさめし
)
を
客間
(
きやくま
)
と
病室
(
びやうしつ
)
に
持運
(
もちはこ
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
353
(
大正一二・三・三
旧一・一六
於竜宮館
松村真澄
録)
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