霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 万面(まんめん)〔一四二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第4篇 法念舞詩 よみ(新仮名遣い):ほうねんぶし
章:第20章 万面 よみ(新仮名遣い):まんめん 通し章番号:1428
口述日:1923(大正12)年03月05日(旧01月18日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ビクトリヤ城では、左守キュービット、ハルナ、右守エクス、タルマンらが、ダイヤ姫が行方不明になった件について話し合っていた。
タルマンの霊力では、ダイヤ姫がベルツとシエールの反逆者によって窮地に陥っていることはわかったが、その場所まではわかりかねていた。タルマン、ハルナ、エクスは改めて神勅を乞いに玉の宮へ参拝に出かけていった。
後に残っていた左守の元に、三五教の万公たち一行が見えたとの報告が入った。左守はてっきり治国別や弟子たちも一緒だと思ったので喜んだが、使いのトマスが見に行くと、宣伝使は万公一人であり、玉置村から来たという三組の夫婦一行であった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4332 OBC :rm5520
愛善世界社版:260頁 八幡書店版:第10輯 128頁 修補版: 校定版:274頁 普及版:112頁 初版: ページ備考:
001 ビクトリヤ城(じやう)の評議室(ひやうぎしつ)にはタルマンを初(はじ)め左守司(さもりのかみ)のキユービツト、002ハルナ、003右守司(うもりのかみ)のエクスが首(くび)を鳩(あつ)めて秘々(ひそびそ)相談会(さうだんくわい)を始(はじ)めてゐる。
004左守(さもり)『タルマン殿(どの)、005寸善(すんぜん)尺魔(しやくま)の世(よ)の中(なか)と申(まを)してバラモン軍(ぐん)が退却(たいきやく)致(いた)し、006やれ一安心(ひとあんしん)と思(おも)ふ間(ま)もなく再(ふたた)び右守司(うもりのかみ)のベルツ、007シエールが叛逆軍(はんぎやくぐん)に取囲(とりかこ)まれ、008国家(こくか)已(すで)に危(あやふ)き所(ところ)、009尊(たふと)き三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)に助(たす)けられ、010これにてビクの国家(こくか)も刹帝利(せつていり)家(け)も大磐石(だいばんじやく)と思(おも)ふ折(をり)、011六(ろく)人(にん)の王子女(わうしぢよ)が帰(かへ)られて益々(ますます)万代(ばんだい)不易(ふえき)と喜(よろこ)んで居(を)つた所(ところ)、012此(この)度(たび)の刹帝利(せつていり)様(さま)の俄(にはか)の御(ご)病気(びやうき)、013その上(うへ)ダイヤ姫(ひめ)様(さま)が又(また)もやお行衛(ゆくゑ)が分(わか)らなくなり再(ふたた)び城内(じやうない)は黒雲(こくうん)に包(つつ)まれたも同然(どうぜん)、014貴方(あなた)は日夜(にちや)玉(たま)の宮(みや)に専仕(せんし)される以上(いじやう)は、015此(この)御(ご)病気(びやうき)の原因(げんいん)や姫(ひめ)様(さま)の御(お)行衛(ゆくゑ)がお分(わか)りで厶(ござ)いませう。016一(ひと)つ御(ご)意見(いけん)を聞(き)かして頂(いただ)き度(た)いものですな』
017タルマン『何分(なにぶん)にも神徳(しんとく)の足(た)らぬ拙者(せつしや)の事(こと)なれば、018ハツキリした事(こと)は申上(まをしあ)げ兼(か)ねますが、019刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)は生霊(いきりやう)の祟(たた)りと存(ぞん)じます』
020左守(さもり)『何(なに)、021生霊(いきりやう)とは何者(なにもの)の怨霊(をんりやう)で厶(ござ)るかな』
022タルマン『察(さつ)する所(ところ)、023前(ぜん)右守司(うもりのかみ)のベルツ、024シエールが怨霊(おんりやう)と察(さつ)します。025拙者(せつしや)が神殿(しんでん)に於(おい)て祈願(きぐわん)の最中(さいちう)、026煙(けぶり)の如(ごと)く両人(りやうにん)が現(あら)はれ鬼(おに)の様(やう)な顔(かほ)をして刹帝利(せつていり)様(さま)を睨(ね)めつけて居(を)りました。027屹度(きつと)彼奴(あいつ)の生霊(いきりやう)に間違(まちがひ)厶(ござ)いますまい』
028左守(さもり)『して、029その両人(りやうにん)の所在(ありか)は分(わか)つて居(を)りますかな』
030タルマン『ハイ、031何処(どこ)だかハツキリは分(わか)りませぬが、032拙者(せつしや)の霊眼(れいがん)に映(えい)じた所(ところ)によれば、033沢山(たくさん)な魔神(まがみ)に誑惑(きやうわく)され、034深山(しんざん)の谿谷(けいこく)に分(わ)け入(い)り大瀑布(だいばくふ)にうたれて刹帝利(せつていり)様(さま)を呪詛(じゆそ)の荒行(あらぎやう)を致(いた)して居(を)る様(やう)で厶(ござ)います』
035左守(さもり)『その地名(ちめい)は分(わか)りませぬか。036地名(ちめい)が分(わか)らねば、037せめて此(この)城内(じやうない)から何方(どちら)に当(あた)ると云(い)ふ方角(はうがく)位(ぐらゐ)は分(わか)るでせうな。038さうして姫(ひめ)様(さま)の行衛(ゆくゑ)はまだ見当(けんたう)がつきませぬか』
039タルマン『ハイ、040何(なん)でも姫(ひめ)様(さま)もその滝(たき)へソツと刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)を癒(なほ)さむため荒行(あらぎやう)においでになつた所(ところ)、041ベルツ、042シエールの両人(りやうにん)が左右(さいう)より姫(ひめ)様(さま)を打殺(うちころ)さむと大刀(だいたう)を揮(ふる)つて攻(せ)めかけてゐる。043姫(ひめ)様(さま)は大木(たいぼく)の幹(みき)を楯(たて)にとり飛鳥(ひてう)の如(ごと)く防(ふせ)ぎ戦(たたか)うてゐなさる場面(ばめん)が霊眼(れいがん)に映(えい)じました。044併(しか)し乍(なが)ら地名(ちめい)と方角(はうがく)はまだ分(わか)りませぬ。045ああ斯(か)ふ云(い)ふ時(とき)に治国別(はるくにわけ)様(さま)か、046お弟子(でし)の一人(ひとり)でも居(ゐ)て下(くだ)さつたらハツキリ分(わか)るであらうに、047……ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。048心(こころ)の曇(くも)りたるタルマンに、049何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)霊眼(れいがん)を開(ひら)かせ下(くだ)さいまして、050ハツキリした事(こと)をお知(し)らせ下(くだ)さいます様(やう)、051三五(あななひ)の大神(おほかみ)様(さま)、052慎(つつし)み畏(かしこ)みお願(ねが)ひ申(まを)します』
053と両手(りやうて)を合(あは)せて祈願(きぐわん)して居(ゐ)る。054然(しか)し如何(どう)しても地名(ちめい)や方角(はうがく)はタルマンの霊力(れいりよく)では感知(かんち)する事(こと)が出来(でき)なかつた。
055左守(さもり)『はて、056困(こま)つた事(こと)だ。057如何(どう)したら王(わう)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)が全快(ぜんくわい)致(いた)し、058姫(ひめ)様(さま)が無事(ぶじ)にお帰(かへ)り下(くだ)さるであらう』
059ハルナ『皆様(みなさま)、060これから吾々(われわれ)一同(いちどう)が玉(たま)の宮(みや)へ参拝(さんぱい)致(いた)し、061兎(と)も角(かく)無事(ぶじ)で姫(ひめ)様(さま)がお帰(かへ)りになる様(やう)、062刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)全快(ぜんくわい)遊(あそ)ばす様(やう)、063一生(いつしやう)懸命(けんめい)願(ねが)はうぢやありませぬか』
064左守(さもり)『ヤ、065それは誠(まこと)に結構(けつこう)で厶(ござ)る。066第一(だいいち)左守(さもり)、067右守(うもり)が命(いのち)を神(かみ)様(さま)に捧(ささ)げて、068刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)の平癒(へいゆ)を祈(いの)らねばなるまい。069之(これ)が臣(しん)たるものの道(みち)だ。070さア右守殿(うもりどの)、071貴方(あなた)も用意(ようい)なされ』
072右守(うもり)『ハイ、073承知(しようち)致(いた)しました。074私(わたくし)の考(かんが)へでは、075王(わう)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)も日(ひ)ならず御(ご)全快(ぜんくわい)遊(あそ)ばし、076姫(ひめ)様(さま)も近日(きんじつ)無事(ぶじ)にお帰(かへ)り遊(あそ)ばす様(やう)な気分(きぶん)が致(いた)します。077併(しか)し乍(なが)ら左守(さもり)様(さま)は御(ご)老体(らうたい)、078ハルナ様(さま)が御(ご)名代(みやうだい)としてお詣(まゐ)りになれば宜(よろ)しからう。079貴方(あなた)はビクトリヤ家(け)の柱石(ちうせき)、080王(わう)様(さま)のお側(そば)をお離(はな)れになつてはいけませぬ。081吾々(われわれ)三(さん)人(にん)が参拝(さんぱい)致(いた)し御(ご)祈願(きぐわん)を凝(こ)らす事(こと)に致(いた)しませう』
082左守(さもり)『然(しか)らば拙者(せつしや)は王(わう)様(さま)のお側(そば)を守(まも)つて居(を)りませう。083御(ご)苦労(くらう)乍(なが)ら早(はや)く玉(たま)の宮(みや)へ御(ご)参詣(さんけい)を願(ねが)ひます』
084 タルマンは『畏(かしこ)まりました』とハルナ、085右守(うもり)と共(とも)に急(いそ)ぎ玉(たま)の宮(みや)へ参拝(さんぱい)と出掛(でか)けた。
086 後(あと)に左守(さもり)は只(ただ)一人(ひとり)双手(もろて)を組(く)んで思案(しあん)にくれてゐる。
087 そこへ慌(あわ)ただしく受付(うけつけ)のトマスは、088襖(ふすま)をソツと開(ひら)き両手(りやうて)をつき乍(なが)ら、
089トマス『左守(さもり)様(さま)に申上(まをしあ)げます。090只(ただ)今(いま)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)をして来(こ)られた万公(まんこう)さまが、091六人(ろくにん)連(づ)れで玉(たま)の宮(みや)へ御(ご)参拝(さんぱい)になり、092左守(さもり)様(さま)に一度(いちど)お目(め)にかかり度(た)いと云(い)つてお越(こ)しになりました。093如何(どう)致(いた)したら宜(よろ)しう厶(ござ)りませうかな』
094左守(さもり)『ウン、095三五教(あななひけう)の万公(まんこう)さまが見(み)えたか。096ヤ、097それは有難(ありがた)い。098併(しか)し乍(なが)ら治国別(はるくにわけ)様(さま)は御(お)出(い)でにはなつてゐないか。099治国別(はるくにわけ)様(さま)や松彦(まつひこ)、100竜彦(たつひこ)様(さま)ならば斯(か)ふ云(い)ふ場合(ばあひ)に助(たす)けて下(くだ)さるであらうが万公(まんこう)さまでは心(こころ)許(もと)ない。101そして其(その)お連(つ)れと申(まを)すのは何(ど)んなお方(かた)かな』
102トマス『ハイ、103男(をとこ)が三(さん)人(にん)、104女(をんな)が三(さん)人(にん)、105どうも三夫婦(みめをと)らしう厶(ござ)います。
106島田(しまだ)潰(つぶ)して丸髷(まるまげ)結(ゆ)うて
107主(ぬし)と二人(ふたり)で宮詣(みやまゐ)り
108と云(い)ふ様(やう)な陽気(やうき)な様子(やうす)で厶(ござ)いますよ』
109左守(さもり)『その三(さん)人(にん)の男(をとこ)と云(い)ふのは治国別(はるくにわけ)さまか、110竜彦(たつひこ)さまの中(うち)であらう。111モシ、112さうであつたならば万公(まんこう)さまはどうも八釜(やかま)しくて困(こま)るから……治国別(はるくにわけ)さまか竜彦(たつひこ)さまに、113一寸(ちよつと)お目(め)にかかりたいと申(まを)して呉(く)れ。114そして外(ほか)のお方(かた)は応接間(おうせつま)にお茶(ちや)でも出(だ)して大切(たいせつ)に待(ま)たして置(お)くのだ』
115トマス『ハイ、116承知(しようち)致(いた)しました。117直様(すぐさま)治国別(はるくにわけ)様(さま)を呼(よ)んで参(まゐ)りませう』
118と急(いそ)ぎ此(この)場(ば)を立(た)つて玄関口(げんくわんぐち)に現(あら)はれ、
119トマス『さア、120皆(みな)さま、121お待(ま)ち遠(どお)う厶(ござ)いました。122何卒(どうぞ)応接間(おうせつま)の方(はう)へお通(とほ)り下(くだ)さい。123暫(しば)らくして左守(さもり)がお目(め)にかかります。124時(とき)に治国別(はるくにわけ)様(さま)か、125竜彦(たつひこ)の宣伝使(せんでんし)は此処(ここ)に交(まじ)つて居(を)られますかな。126根(ね)ツから万公(まんこう)さまでは八釜(やかま)しくて……一寸(ちよつと)取込(とりこ)んでゐるから都合(つがふ)が悪(わる)い……と左守(さもり)様(さま)が云(い)つて居(を)られました。127何卒(どうぞ)万公(まんこう)さまは此処(ここ)に御(ご)婦人(ふじん)の方(かた)と一緒(いつしよ)に待(ま)つてゐて下(くだ)さい。128さアお二人(ふたり)の中(うち)何方(どなた)でも宜(よろ)しい、129お一人(ひとり)さま、130左守(さもり)の居間(ゐま)へ行(い)つて下(くだ)さいませ』
131シーナ『拙者(せつしや)は玉置村(たまきむら)の者(もの)でシーナと申(まを)すもの、132実(じつ)は治国別(はるくにわけ)様(さま)の媒酌(ばいしやく)によつて里庄(りしやう)の娘(むすめ)スミエル姫(ひめ)と結婚式(けつこんしき)を挙(あ)げ、133今日(けふ)は玉(たま)の宮様(みやさま)へ礼詣(れいまゐ)りを致(いた)したので厶(ござ)います』
134トマス『ヘー、135それは、136マアマアお目出度(めでた)う厶(ござ)います。137一寸(ちよつと)新婚(しんこん)旅行(りよかう)とお洒落遊(しやれあそ)ばした所(ところ)ですな。138アハ……も一人(ひとり)のお方(かた)、139貴方(あなた)は宣伝使(せんでんし)ぢや厶(ござ)いませぬか』
140アーシス『ハイ、141拙者(せつしや)は矢張(やは)り玉置(たまき)の村(むら)の者(もの)でアーシスと申(まを)します。142一度(いちど)左守(さもり)様(さま)にお目(め)にかかり度(た)いと存(ぞん)じ、143今度(こんど)女房(にようばう)を持(も)つたお礼(れい)に玉(たま)の宮様(みやさま)へ参拝(さんぱい)を致(いた)し、144一寸(ちよつと)御(ご)面倒(めんだう)を致(いた)しました』
145トマス『ハハア、146それはお目出度(めでた)う、147新夫(しんぷ)新婦(しんぷ)が二組(ふたくみ)もお揃(そろ)ひになつたのですな。148ヤ、149万公(まんこう)さま、150お前(まへ)さまは到頭(たうとう)治国別(はるくにわけ)様(さま)に暇(ひま)を出(だ)され、151どつかの家(うち)で奉公(ほうこう)でもしてゐると見(み)えますな』
152万公(まんこう)『エエ八釜(やかま)しく云(い)ふな。153之(これ)でも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)万公別(まんこうわけ)だ。154治国別(はるくにわけ)様(さま)から此(この)度(たび)新(あらた)に万公別(まんこうわけ)の宣伝使(せんでんし)と名(な)を頂(いただ)いたのだ。155神徳(しんとく)無限(むげん)の神司(かむつかさ)だ。156取(と)り込(こ)んでゐる事(こと)があるとは一体(いつたい)何事(なにごと)か知(し)らぬが、157此(この)宣伝使(せんでんし)に御(ご)相談(さうだん)あれば直様(すぐさま)解決(かいけつ)をつけて上(あ)げると、158左守(さもり)様(さま)にさう仰有(おつしや)るがよからう』
159トマス『ヘー相変(あひかは)らず大変(たいへん)な馬力(ばりき)ですな。160左守(さもり)様(さま)が何(なん)と仰有(おつしや)るか知(し)りませぬが、161一寸(ちよつと)奥(おく)へ伝(つた)へて来(き)ます。162暫時(しばらく)待(ま)つて下(くだ)さいませ』
163と早(はや)くも此(この)場(ば)を立(た)つて左守(さもり)の居間(ゐま)へ引返(ひつかへ)した。
164トマス『左守(さもり)様(さま)、165一寸(ちよつと)調(しら)べて参(まゐ)りましたが、166玉置村(たまきむら)の若夫婦(わかふうふ)が新婚(しんこん)旅行(りよかう)を兼(か)ね、167玉(たま)の宮様(みやさま)へ参拝(さんぱい)を致(いた)し帰(かへ)り道(みち)、168万公(まんこう)さまに連(つ)れられて、169お訪(たづ)ねをしたのだと云(い)つて居(ゐ)ます。170そして万公(まんこう)さまは治国別(はるくにわけ)様(さま)から新(あらた)に宣伝使(せんでんし)号(がう)を頂(いただ)き万公別(まんこうわけ)となり、171無限(むげん)の神力(しんりき)を与(あた)へられたと云(い)つて居(を)られますが、172此方(こちら)へお通(とほ)し申(まを)しませうか』
173左守(さもり)『今日(こんにち)の場合(ばあひ)、174誰彼(たれかれ)の容赦(ようしや)はない。175万公別(まんこうわけ)なんて法螺(ほら)を吹(ふ)いて居(ゐ)るのだらう。176併(しか)し乍(なが)ら万公(まんこう)のチヨカさまも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の伴(とも)に歩(ある)いて居(を)つたのだから、177何処(どこ)かに見込(みこみ)があるだらう。178兎(と)も角(かく)「膝(ひざ)とも談合(だんがふ)」と云(い)ふ事(こと)がある。179早(はや)く此方(こちら)へお越(こ)し下(くだ)さいと云(い)つて御(ご)案内(あんない)して来(こ)い。180さうして他(ほか)のお客(きやく)さまは珈琲(コーヒー)でも出(だ)して鄭重(ていちやう)に用(よう)の済(す)むまで待(ま)つて頂(いただ)くのだ。181失策(ておち)のない様(やう)にして置(お)くのだぞ』
182トマス『ハイ、183そんな事(こと)に抜目(ぬけめ)が厶(ござ)いませうか。184直様(すぐさま)呼(よ)んで参(まゐ)ります。185エーエ』
186と云(い)ひ乍(なが)ら襖(ふすま)をピシヤリと締(し)め、
187トマス『エーエ、188忙(いそが)しい事(こと)だ。189彼(あ)ツ方(ちや)へ行(い)つたり、190此(こ)ツ方(ちや)へ行(い)つたり、191キリキリ舞(ま)ひだ。192之(これ)だから、193すまじきものは宮仕(みやづか)へと云(い)ふのだ。194ぢやと云(い)うて外(ほか)に何(なに)もこれと云(い)ふ芸能(げいのう)はなし、195先(ま)づ玄関番(げんくわんばん)で辛抱(しんばう)するより仕方(しかた)がないな』
196と一人(ひとり)呟(つぶや)き乍(なが)ら応接室(おうせつしつ)に慌(あわ)ただしく入(い)り来(きた)り、
197トマス『イヤ、198皆(みな)さま、199お待(ま)たせ申(まを)しました。200何卒(どうぞ)珈琲(コーヒー)なつとドサリ召(あが)つて、201……五(ご)人(にん)の方(かた)は此処(ここ)に待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。202……万公別(まんこうわけ)なんて、203宜(い)い加減(かげん)法螺(ほら)を吹(ふ)いてゐるのだらう。204あの万公(まんこう)は鈴(すず)の様(やう)に八釜(やかま)しくて、205おまけにデレ助(すけ)で仕方(しかた)の無(な)い奴(やつ)だけど、206治国別(はるくにわけ)様(さま)の丁稚役(でつちやく)をしてゐたのだから少(すこ)しは霊術(れいじゆつ)も利(き)いて居(ゐ)るだらう。207膝(ひざ)とも談合(だんがふ)だ。208空腹(ひもじ)い時(とき)には不味(まづい)ものなし、209万公(まんこう)でも宜(い)いから呼(よ)んで来(こ)い……と仰有(おつしや)いました。210さア万公別(まんこうわけ)さま、211このトマスに跟(つ)いて左守(さもり)の居間(ゐま)迄(まで)お越(こ)しを願(ねが)ひます』
212万公(まんこう)『何(なん)だ、213川獺(とます)の様(やう)な顔(かほ)しやがつて失敬(しつけい)ぢやないか。214今日(こんにち)の万公(まんこう)さまは玉置(たまき)の村(むら)の里庄(りしやう)テームス家(け)の若旦那(わかだんな)だぞ。215これ見(み)い、216此(この)様(やう)なナイスを女房(にようばう)に持(も)つて新婚(しんこん)旅行(りよかう)を兼(か)ね、217玉(たま)の宮(みや)へ参拝(さんぱい)をしたのだ。218チツと羨(けな)るい事(こと)はないか。219エー、220ダイヤ姫(ひめ)と何方(どちら)が美(うつく)しいと見(み)えるか、221ヒヒヒヒヒ』
222トマス『エヘヘヘヘヘ犬(いぬ)も歩(ある)けば棒(ぼう)に当(あた)るとか云(い)つて、223到頭(たうとう)治国別(はるくにわけ)さまに暇(ひま)を出(だ)され玉置(たまき)の村(むら)の里庄(りしやう)の宅(うち)の門掃(かどはき)男(をとこ)となり、224お嬢(ぢやう)さまのお伴(とも)をして詣(まゐ)つて来(き)たのだな。225お前(まへ)のスタイルでそんなナイスが女房(にようばう)に持(も)てるものかい。226遠(とほ)い所(ところ)で分(わか)らぬと云(い)つて、227此(この)トマスが一目(ひとめ)チヤンと見(み)たら決(けつ)して、228はづれツこは無(な)いワイ。229ウツフフフフ』
230万公(まんこう)『エー、231馬鹿(ばか)にすない。232左守(さもり)の奴(やつ)、233ダイヤ姫(ひめ)と俺(おれ)との縁談(えんだん)をチヤチヤ入(い)れやがつたものだから此(この)爺(おやぢ)、234仕方(しかた)の無(な)い奴(やつ)だ……と実(じつ)の所(ところ)怨(うら)んでゐたのだ。235そした所(ところ)、236此(この)通(とほ)り古今(ここん)無双(むさう)のナイスが……ヘヘヘ此(この)万公(まんこう)さまに首(くび)ツたけラバーしたものだから、237嫌(いや)でもない縁談(えんだん)を……俺(おれ)もチツとはスヰートハートして居(ゐ)たものだから両方(りやうはう)からピツタリと意思(いし)投合(とうがふ)の結果(けつくわ)お粗末(そまつ)乍(なが)ら……ヘン……合衾(がふきん)の式(しき)を挙(あ)げ新婚(しんこん)旅行(りよかう)と洒落(しやれ)てゐるのだよ。238万公別(まんこうわけ)の腕前(うでまへ)には如何(どう)だ、239獺(かはうそ)のトマス、240感服(かんぷく)しただらう』
241スガール『もし、242万公別(まんこうわけ)さま、243そんな事(こと)云(い)つて下(くだ)さいますな。244妾(わたし)恥(はづか)しう厶(ござ)いますわ』
245万公(まんこう)『何(なに)が恥(はづか)しい。246天下(てんか)晴(は)れての夫婦(ふうふ)ぢやないか。247エヘヘヘヘヘ、248これから左守司(さもりのかみ)にアフンとさしてやるのだ。249ああ愉快(ゆくわい)々々(ゆくわい)』
250トマス『此(この)様子(やうす)では、251も一度(いちど)左守(さもり)様(さま)に伺(うかが)つて来(こ)なくちや直様(すぐさま)お会(あわ)せ申(まを)す訳(わけ)には行(ゆ)きませぬワイ。252ま一遍(いつぺん)伺(うかが)つて来(く)るまで一寸(ちよつと)此処(ここ)に待(ま)つてゐて下(くだ)さいや。253そして御(ご)主人(しゆじん)のお嬢(ぢやう)さまを大切(たいせつ)に守(まも)つてゐて下(くだ)さいや。254うかうかすると「此(この)下男(げなん)は気(き)が利(き)かぬ」と云(い)つて又(また)放(ほ)り出(だ)されますよ』
255と云(い)ひ乍(なが)ら、256又(また)もや左守司(さもりのかみ)の居間(ゐま)に踵(くびす)を返(かへ)し急(いそ)ぎ行(ゆ)く。
257万公(まんこう)『ハハハハハ、258スガールの美貌(びばう)に肝(きも)を潰(つぶ)し魂(たましひ)を有頂天(うちやうてん)にして居(ゐ)やがるワイ。259さア此(こ)れからが三段目(さんだんめ)だ。260オイ、261スガール、262今日(けふ)は俺(おれ)の男(をとこ)を左守(さもり)の前(まへ)で売(う)つて見(み)せるのだから、263お前(まへ)も辛(つら)からうがチツと意茶(いちや)ついて見(み)せて呉(く)れぬと困(こま)るよ。264夫(をつと)が妻(つま)に対(たい)する一生(いつしやう)の願(ねがひ)だからな』
265スガール『ホホホホホ、
266キツと引締(ひきし)め三筋(みすぢ)の糸(いと)で
267主(ぬし)のお好(す)きに紫檀竿(したんざを)。
268焚(た)いて喰(く)はうと焼(や)いて喰(く)はうと万公(まんこう)さまのお勝手(かつて)ですわ』
269万公(まんこう)『ヘヘヘヘヘそれでこそ三国一(さんごくいち)の花嫁(はなよめ)だ。270万公別(まんこうわけ)、271万歳(ばんざい)』
272(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 北村隆光録)
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