霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 嬉涙(うれしなみだ)〔一四二九〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm5521
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 トマスは再(ふたた)び応接(おうせつ)の間(ま)に現(あら)はれ来(きた)り、
002トマス『ヤア、003万公別(まんこうわけ)さまを初(はじ)め御(ご)一同(いちどう)様(さま)お揃(そろ)ひの上(うへ)どうか左守(さもり)の室(へや)迄(まで)お越(こ)しを願(ねが)ひます。004左守(さもり)様(さま)も大変(たいへん)な御(ご)心配(しんぱい)が起(おこ)つて居(ゐ)る所(ところ)ですからどうか貴方(あなた)方(がた)の御(ご)経歴話(けいれきばなし)でも聞(き)かして頂(いただ)けば幾分(いくぶん)かお気(き)が紛(まぎ)れるでせう。005さア案内(あんない)致(いた)しませう。006どうかお越(こ)し下(くだ)さいませ』
007万公(まんこう)『よし、008左守(さもり)の爺(おやぢ)、009万公別(まんこうわけ)を安(やす)く買(か)ひやがつたな。010皆(みな)一緒(いつしよ)に来(こ)いなんて、011よし、012行(い)つてやらう。013サア案内(あんない)せい、014皆(みな)さま拙者(せつしや)に続(つづ)いてお出(いで)なさいませ。015三夫婦(みめをと)揃(そろ)うてビクトリヤ城(じやう)の奥(おく)の間(ま)迄(まで)、016玉置(たまき)の村(むら)の里庄(りせう)の息子(むすこ)が通(とほ)ると云(い)ふ事(こと)は異数(いすう)で厶(ござ)いますよ。017是(これ)と云(い)ふのも矢張(やつぱり)万公別(まんこうわけ)の余光(よくわう)ですからな』
018と云(い)ひ乍(なが)ら、019トマスの後(あと)に跟(つ)いて長(なが)い廊下(らうか)を潜(くぐ)り、020左守司(さもりのかみ)の居間(ゐま)に進(すす)み入(い)つた。021万公(まんこう)は左守(さもり)に向(むか)ひ、
022万公『これはこれは左守(さもり)のキユービツト殿(どの)、023暫(しばら)くお目(め)にかかりませぬ。024吾々(われわれ)は三夫婦(みめをと)揃(そろ)うて新婚(しんこん)旅行(りよかう)と出掛(でか)け、025玉(たま)の宮(みや)への参拝(さんぱい)の帰(かへ)り途(みち)、026一度(いちど)御(ご)挨拶(あいさつ)に上(あが)らないでは済(す)まないと思(おも)ひ、027門番(もんばん)がゴテつくのをやつと潜(くぐ)つて此処(ここ)迄(まで)参(まゐ)りました。028随分(ずいぶん)貴方(あなた)も年(とし)が寄(よ)りましたねえ。029白髪(しらが)がどつさり生(は)えたぢやありませぬか』
030左守(さもり)『ハハハハハ、031皆(みな)さま好(よ)くお出(いで)なさいませ。032時(とき)に万公(まんこう)さま、033拙者(せつしや)の白髪(しらが)は二十(にじふ)年前(ねんまへ)から生(は)えて居(を)るのぢや、034お前(まへ)さま今(いま)気(き)がついたか。035そして何処(どこ)に奉公(ほうこう)して居(ゐ)るか知(し)らないが、036綺麗(きれい)な娘(むすめ)さまのお伴(とも)して居(ゐ)るが、037身分(みぶん)相応(さうおう)と云(い)ふ事(こと)を考(かんが)へて今(いま)迄(まで)のやうな野心(やしん)を出(だ)さないやうにしなさい』
038 万公(まんこう)はスガールの肩(かた)に手(て)をかけ、
039万公『ヘヘヘヘヘ。040もし左守(さもり)様(さま)。041ダイヤ姫(ひめ)様(さま)とはどうで厶(ござ)いますな。042私(わたし)の女房(にようばう)は、043マアザツト此(この)通(とほ)りで厶(ござ)います』
044左守(さもり)『これこれ万公(まんこう)さま、045又(また)してもお前(まへ)さまは心得(こころえ)の悪(わる)い。046主人(しゆじん)のお嬢様(ぢやうさま)を捉(つか)まへて女房扱(にようばうあつか)ひをすると云(い)ふ事(こと)がありますか。047些(ちつ)と心得(こころえ)なさい。048』
049万公(まんこう)『ヘン、050済(す)みまへんなア、051おいスガール、052左守(さもり)様(さま)に疑(うたがひ)の晴(は)れるやうにお前(まへ)から言(い)つて呉(く)れ。053本当(ほんたう)に誰(たれ)も彼(かれ)も俺(おれ)を安(やす)く買(か)つて馬鹿(ばか)にして居(を)るからな』
054スガール『左守(さもり)様(さま)、055初(はじ)めてお目(め)に懸(かか)ります。056私(わたくし)は玉置(たまき)の村(むら)のテームスが妹娘(いもうとむすめ)スガールと申(まを)すもので厶(ござ)います。057バラモン軍(ぐん)に捉(とら)へられ猪倉山(ゐのくらやま)の岩窟(がんくつ)で苦(くる)しんで居(ゐ)ました所(ところ)を、058治国別(はるくにわけ)様(さま)一行(いつかう)がお出(いで)なさつてお助(たす)け下(くだ)さつたのです。059中(なか)にもこの万公(まんこう)さまは実(じつ)は万公別(まんこうわけ)様(さま)と申(まをし)まして治国別(はるくにわけ)様(さま)のお師匠(ししやう)さまですが、060ワザとに部下(ぶか)と化(ば)けて剽軽(へうきん)の事(こと)許(ばか)り云(い)つてお出(いで)なさるので厶(ござ)います。061私(わたし)は治国別(はるくにわけ)様(さま)の御(ご)媒酌(ばいしやく)によつて万公別(まんこうわけ)の宣伝使(せんでんし)と夫婦(ふうふ)になり、062玉(たま)の宮(みや)へお礼(れい)に参(まゐ)りましたその帰(かへ)りがけ、063夫(をつと)と共(とも)にお伺(うかが)ひしました。064何卒(どうぞ)お見捨(みす)てなく今後(こんご)はお心易(こころやす)く願(ねが)ひます。065そして此(この)方(かた)はシーナさまと申(まを)し、066スミエルと云(い)ふ此(この)姉(あね)の夫(をつと)で厶(ござ)います。067も一組(ひとくみ)はアーシスさま、068お民(たみ)さまと申(まを)しましてこれも新夫婦(しんふうふ)で厶(ござ)います』
069左守(さもり)『イヤ、070どうも見違(みちが)ひを致(いた)して居(を)りました。071万公別(まんこうわけ)の宣伝使(せんでんし)さま、072よくマアお尋(たづ)ね下(くだ)さいました。073併(しか)し折入(をりい)つてお願(ねが)ひ申(まをし)度(た)い事(こと)で厶(ござ)いますが、074聞(き)いては下(くだ)さいますまいか』
075万公(まんこう)『刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)とダイヤ様(さま)の行衛(ゆくゑ)が分(わか)らないので御(ご)心配(しんぱい)なさつて居(を)るのでせうがな』
076 左守(さもり)は驚(おどろ)いて、
077左守(さもり)『ハイ、078お察(さつ)しの通(とほ)りで厶(ござ)います。079どうしてマアそんな事(こと)がお分(わか)りになりましたか』
080万公(まんこう)『何(なん)と云(い)つても三五教(あななひけう)切(き)つての大(だい)宣伝使(せんでんし)万公別(まんこうわけ)で厶(ござ)います。081千(せん)里(り)先方(むかふ)の事(こと)でも斯(か)うして居(を)つてチヤンと分(わか)つて居(を)るのですからなア。082併(しか)し乍(なが)ら此(この)事(こと)は城下(じやうか)で一寸(ちよつと)聞(き)いて来(き)たのですよ。083アハハハハ、084本当(ほんたう)の事(こと)云(い)へば薄紙(うすがみ)を顔(かほ)に当(あ)てて物(もの)を見(み)る位(くらゐ)より分(わか)りませぬわい』
085左守(さもり)『冗談(じようだん)はさておいて、086万公別(まんこうわけ)さま刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)はどうお考(かんが)へですか』
087万公(まんこう)『ヤア実(じつ)の所(ところ)は玉(たま)の宮様(みやさま)に参拝(さんぱい)致(いた)し祈願(きぐわん)の最中(さいちう)隆靖彦(たかやすひこ)、088隆光彦(たかてるひこ)と云(い)ふ二人(ふたり)のエンゼルが拙者(せつしや)の前(まへ)に下(くだ)らせ給(たま)ひ、089「刹帝利(せつていり)様(さま)はベルツ、090シエールの怨霊(をんりやう)が悩(なや)めて居(ゐ)るから早(はや)く汝(なんぢ)はホーフスに入(い)り、091お助(たす)け申(まを)せ。092さうしてダイヤ姫(ひめ)様(さま)は両人(りやうにん)の為(ため)に苦(くる)しめられお命(いのち)も危(あやふ)い所(ところ)、093四(よ)人(にん)の修験者(しうげんじや)に助(たす)けられ、094やがてお帰(かへ)りになるから御(ご)心配(しんぱい)なさらぬやう、095お知(し)らせ申(まを)せ……」との事(こと)で厶(ござ)います。096夫(それ)故(ゆゑ)失礼(しつれい)をも顧(かへり)みず六人(ろくにん)連(づ)れでお邪魔(じやま)を致(いた)したので厶(ござ)います』
097左守(さもり)『成程(なるほど)タルマンの伺(うかが)ひにも左様(さやう)の事(こと)を申(まをし)て居(を)りました。098夫(それ)に間違(まちが)ひは厶(ござ)いますまい。099ああ有難(ありがた)う厶(ござ)いました。100何卒(どうぞ)直様(すぐさま)、101御(ご)苦労(くらう)様(さま)ながら、102刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)平癒(へいゆ)のため御(ご)鎮魂(ちんこん)をお願(ねが)ひ申(まを)す訳(わけ)には参(まゐ)りますまいか』
103万公(まんこう)『拙者(せつしや)が別(べつ)に刹帝利(せつていり)様(さま)のお居間(ゐま)に参(まゐ)らずとも万公別(まんこうわけ)此(この)城(しろ)に入(い)るや否(いな)や神徳(しんとく)に恐(おそ)れ二人(ふたり)の怨霊(をんりやう)は雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ失(う)せました。104やがてニコニコとして此処(ここ)にお出(いで)になるでせう。105又(また)ダイヤ姫(ひめ)様(さま)も修験者(しうげんじや)に送(おく)られて此処(ここ)へお帰(かへ)りなさりませうから、106先(ま)づ悠(ゆつく)り落付(おちつ)きなさいませ』
107左守(さもり)『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。108それで一寸(ちよつと)安心(あんしん)を致(いた)しました。109時(とき)にアーシスさまとやら貴方(あなた)はどこともなしに伜(せがれ)のハルナに似(に)て居(ゐ)るやうだが、110貴方(あなた)の生(お)ひ立(たち)を聞(き)かして貰(もら)う事(こと)は出来(でき)ますまいかな』
111アーシス『ハイ』
112と云(い)つたきり、113早(はや)くも涙(なみだ)をハラハラと流(なが)して居(ゐ)る。
114万公(まんこう)『エエ アーシスさま気(き)の弱(よわ)い、115何(なに)を泣(な)いて居(ゐ)るのだ。116何故(なぜ)堂々(だうだう)とお名乗(なの)りなさらぬか』
117アーシス『ハイ、118それでも何(なん)だか云(い)ひかねます』
119万公(まんこう)『モシ左守(さもり)さま、120貴方(あなた)のお子(こ)さまと云(い)ふのはハルナさま只(ただ)お一人(ひとり)ですか』
121左守(さもり)『ハイ、122まアまア一人(ひとり)で厶(ござ)います』
123万公(まんこう)『まアまア一人(ひとり)とは、124チツと瞹昧(あいまい)ぢやありませぬか。125奥様(おくさま)の目(め)を盗(ぬす)んで、126下女(げぢよ)の部屋(へや)へ○○して腹(はら)を膨(ふく)らせた事(こと)はありませぬか』
127左守(さもり)『ハイ何分(なにぶん)若(わか)き時(とき)にはいろいろの不仕鱈(ふしだら)の事(こと)も厶(ござ)いました。128余(あま)り恥(はづ)かしうてお話(はなし)が出来(でき)ませぬ』
129万公(まんこう)『もし貴方(あなた)の落胤(おとしだね)が今(いま)無事(ぶじ)で生(い)きて居(を)られたら貴方(あなた)は喜(よろこ)んで面会(めんくわい)しますか。130イヤ親子(おやこ)の名乗(なの)りをしますか。131先決(せんけつ)問題(もんだい)として聞(き)いて置(お)きたいものです』
132左守(さもり)『女房(にようばう)には死別(しにわか)れ、133此(この)通(とほ)り年(とし)は寄(よ)り、134一人(ひとり)の伜(せがれ)のハルナに女房(にようばう)をもたせ、135今(いま)では一寸(ちよつと)一安心(ひとあんしん)したものの、136ハルナの兄(あに)に当(あた)る、137モンテスと云(い)ふ伜(せがれ)があつた筈(はず)で厶(ござ)います。138世間(せけん)の手前(てまへ)、139或(ある)田舎(いなか)へ金(かね)をつけて子(こ)にやつた所(ところ)、140不幸(ふかう)な伜(せがれ)で両親(りやうしん)は無(な)くなり、141何処(どこ)へ行(い)つたか分(わか)らぬと云(い)ふ噂(うはさ)を聞(き)いて居(を)りますが、142今(いま)となつて思(おも)へば実(じつ)に残念(ざんねん)な事(こと)をしました。143斯(か)う年(とし)が寄(よ)つて何時(いつ)天国参(てんごくまゐ)りをするか分(わか)らぬ身(み)の上(うへ)、144せめて生前(せいぜん)に一度(いちど)其(その)伜(せがれ)に遇(あ)ひ度(た)いと神(かみ)様(さま)を念(ねん)じて居(を)ります。145どうか貴方(あなた)の御(ご)神力(しんりき)で伜(せがれ)の所在(ありか)を見(み)て頂(いただ)く訳(わけ)には参(まゐ)りますまいかなア』
146と鼻汁(はな)を啜(すす)りながらグタリと萎(しほ)れる。
147万公(まんこう)『もし左守(さもり)さま、148貴方(あなた)の御(ご)賢息(けんそく)モンテス様(さま)は立派(りつぱ)な奥(おく)さまを持(も)つて、149立派(りつぱ)に暮(くら)して居(を)られますよ。150その又(また)奥(おく)さまが一通(ひととほ)りの人(ひと)ではありませぬ。151「提灯(ちやうちん)に釣鐘(つりがね)」と云(い)ふやうな、152身分(みぶん)から云(い)へば懸隔(けんかく)のある御(ご)夫婦(ふうふ)で厶(ござ)います』
153左守(さもり)『何(なに)、154伜(せがれ)が立派(りつぱ)に暮(くら)して居(を)りますか、155それは有難(ありがた)い事(こと)で厶(ござ)います。156さうして何処(どこ)に居(を)りますかな』
157万公(まんこう)『ハイ只今(ただいま)の所在(ありか)はビクの国(くに)、158ビクトリヤ城内(じやうない)、159左守(さもり)の室内(しつない)に、160お民(たみ)の方(かた)と云(い)ふ奥様(おくさま)と万公別(まんこうわけ)に従(したが)ひお出(いで)になつて居(を)ります。161それ、162このお方(かた)ですよ』
163とアーシスを指(ゆび)ざす。164左守(さもり)はアーシスの顔(かほ)を熟視(じゆくし)し乍(なが)ら、
165左守『アーお前(まへ)は伜(せがれ)であつたか。166どこともなしにハルナに似(に)て居(ゐ)ると思(おも)うて最前(さいぜん)から不審(ふしん)を抱(いだ)いて居(ゐ)たのだ。167まア無事(ぶじ)で居(ゐ)てくれたか。168さうしてお前(まへ)の嫁(よめ)と云(い)ふのはどのお方(かた)か』
169アーシス『アアお父(とう)さまで厶(ござ)いましたか。170何卒(どうぞ)一度(いちど)お目(め)に懸(かか)り度(た)いと、171寝(ね)ても醒(さ)めても忘(わす)れる暇(ひま)は厶(ござ)いませなんだ。172されど賤(いや)しき首陀(しゆだ)に落(お)ちて居(ゐ)る身(み)の上(うへ)、173到底(たうてい)尊(たふと)い左守(さもり)様(さま)に御(ご)面会(めんくわい)は叶(かな)ふまいと諦(あきら)めて居(を)りました』
174と男泣(をとこなき)に泣(な)く。175左守(さもり)も両眼(りやうがん)に袖(そで)を当(あ)て、176夕立(ゆふだち)の如(ごと)き涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ひながら嬉(うれ)しさ余(あま)つて一言(ひとこと)も発(はつ)し得(え)ず、177アーシスの身体(からだ)に抱(だ)きつき嘘唏泣(しやくりな)きして居(ゐ)る。
178 お民(たみ)は両人(りやうにん)の背(せな)を両手(りやうて)で撫(な)でながら、
179お民(たみ)『お父(とう)さま、180旦那(だんな)様(さま)、181何卒(どうぞ)潔(いさぎ)ようして下(くだ)さいませ。182私(わたくし)迄(まで)が悲(かな)しくなりますからな』
183左守(さもり)『アーお前(まへ)が伜(せがれ)の嫁(よめ)であつたか、184好(よ)う来(き)て呉(く)れた。185まアまア綺麗(きれい)な女(をんな)だな。186伜(せがれ)も嘸(さぞ)喜(よろこ)んで居(を)るだらう。187私(わし)も嬉(うれ)しい……』
188と又(また)もや両眼(りやうがん)に涙(なみだ)を湛(たた)へて泣(な)きじやくる。
189万公(まんこう)『エー見(み)つともない、190チツと確(しつか)りなさいませ。191万公(まんこう)迄(まで)が悲(かな)しくなつて来(き)ました。192もしもし左守(さもり)さま、193此(この)お民(たみ)さまは誰人(どなた)の娘(むすめ)だと考(かんが)へて居(ゐ)なさるか。194勿体(もつたい)なくも刹帝利(せつていり)様(さま)の落胤(おとしご)玉手姫(たまてひめ)様(さま)で厶(ござ)いますぞ。195チヌの村(むら)の卓助(たくすけ)の家(うち)へお下(くだ)しになつた王女(わうぢよ)様(さま)で、196今(いま)はお民(たみ)と名乗(なの)つて居(を)られます』
197 左守(さもり)はこれを聞(き)くより驚(おどろ)いて五足(いつあし)六足(むあし)退(しりぞ)き、198両手(りやうて)をつかへ畳(たたみ)に頭(かしら)を下(さ)げ、
199左守『ハハア貴女(あなた)様(さま)が王女(わうぢよ)様(さま)で厶(ござ)いましたか。200存(ぞん)ぜぬ事(こと)とて御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。201ああ勿体(もつたい)ない。202賤(いや)しき吾々(われわれ)が伜(せがれ)の女房(にようばう)とおなり下(くだ)され、203冥加(みやうが)に尽(つ)きはせぬかと心配(しんぱい)で厶(ござ)います。204何卒(どうぞ)お許(ゆる)し下(くだ)さいませ』
205お民(たみ)『お父(とう)さま、206何(なに)を仰有(おつしや)います。207そんな事(こと)を云(い)うて下(くだ)さると私(わたくし)は苦(くる)しう厶(ござ)います。208何卒(どうぞ)、209「お民(たみ)お民(たみ)」と呼(よ)び付(つ)けにして下(くだ)さいませ』
210万公(まんこう)『サアサア親子(おやこ)の名乗(なのり)が済(す)んだ上(うへ)は涙(なみだ)は禁物(きんもつ)だ、211些(ち)つと歌(うた)でも歌(うた)ひませう』
212 斯(か)く云(い)ふ所(ところ)へ、213カルナ姫(ひめ)は襖(ふすま)をそつと押(お)し開(ひら)き叮嚀(ていねい)に辞儀(じぎ)をしながら、
214カルナ姫『お客様(きやくさま)、215よくお出(いで)下(くだ)さいました。216何卒(どうぞ)御悠(ごゆつく)りと御(ご)休息(きうそく)を願(ねが)ひます。217時(とき)にお父上(ちちうへ)様(さま)、218刹帝利(せつていり)様(さま)が俄(にはか)に御(ご)気分(きぶん)がよくなり、219御(お)元気(げんき)におなりなさいました。220「左守(さもり)が心配(しんぱい)して居(ゐ)るだらうから、221早(はや)く知(し)らせて来(こ)い」との君(きみ)の仰(おほ)せ、222何卒(どうぞ)お喜(よろこ)び下(くだ)さいませ』
223左守(さもり)『何(なに)、224刹帝利(せつていり)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)が御(ご)快癒(くわいゆ)なされたとな。225ああ有難(ありがた)い有難(ありがた)い、226これと云(い)ふのも全(まつた)く三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)の御(ご)守護(しゆご)、227ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、228惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
229と嬉(うれ)し涙(なみだ)に又(また)掻(か)き曇(くも)る、230カルナは早々(さうさう)に此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)り刹帝利(せつていり)の居間(ゐま)に急(いそ)ぎ[※愛善世界社版では「ぐ」になっているが御校正本では「ぎ」]行(ゆ)く。
231(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 加藤明子録)
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