霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 鬼涙(おになみだ)〔一四一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第2篇 縁三寵望 よみ(新仮名遣い):えんさんちょうぼう
章:第10章 鬼涙 よみ(新仮名遣い):おになみだ 通し章番号:1418
口述日:1923(大正12)年03月03日(旧01月16日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
続いてアーシスとお民も、治国別の媒酌を承諾し、自分たちの素性を述懐の歌で歌った。鬼春別は一杯機嫌になって、どら声を張り上げて歌い始めた。
鬼春別の歌は深い悔悟と改心の意を表していたが、テームス夫婦は疑い深く、鬼春別の心からの謝罪の歌も信じることができなかった。
この他列席していた一同もそれぞれ歌を歌った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-05-21 15:14:25 文字数:3215 OBC :rm5510
愛善世界社版:124頁 八幡書店版:第10輯 78頁 修補版: 校定版:126頁 普及版:53頁 初版: ページ備考:
001 アーシスは治国別(はるくにわけ)の歌(うた)に対(たい)し、002自分(じぶん)とお民(たみ)との結婚(けつこん)を承諾(しようだく)したりとの意(い)を歌(うた)を以(もつ)て答(こた)へたりける。003其(その)歌(うた)、
004アーシス『科戸(しなど)の風(かぜ)もフサの国(くに)
005猪倉山(ゐのくらやま)の山麓(さんろく)に
006群(むら)がり立(た)てる玉置郷(たまききやう)
007テームス館(やかた)に使(つか)はれて
008朝(あさ)な夕(ゆふ)なに家政(かせい)をば
009統轄(とうかつ)したるアーシスは
010賤(いや)しき首陀(しゆだ)の胤(たね)ならず
011由緒(ゆいしよ)も深(ふか)きビクの国(くに)
012左守(さもり)の司(かみ)のキユービツトが
013其(その)落胤(らくいん)と聞(きこ)えたる
014此(この)世(よ)を忍(しの)ぶ独身者(ひとりもの)
015治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
016神(かみ)の御言(みこと)を蒙(かうむ)りて
017ビクの国(くに)をば知召(しろしめ)す
018刹帝利(せつていり)様(さま)や左守司(さもりがみ)
019父(ちち)の危難(きなん)を救(すく)ひまし
020神(かみ)の宮居(みやゐ)を建(た)て玉(たま)ひ
021又(また)もや此処(ここ)に現(あら)はれて
022スミエル嬢(ぢやう)やスガール嬢(ぢやう)
023道晴別(みちはるわけ)やシーナ迄(まで)
024救(すく)はせ玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
025旭(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)る共(とも)
026月(つき)は盈(み)つ共(とも)虧(か)くる共(とも)
027星(ほし)は空(そら)より墜(お)つるとも
028テームス一家(いつけ)[*「家」にフリガナ「け」は底本通り。]を救(すく)はれし
029此(この)高恩(かうおん)は何時(いつ)の世(よ)か
030忘(わす)るる事(こと)のあるべきぞ
031賤(いや)しき下女(げぢよ)と住(す)み込(こ)みし
032お民(たみ)の方(かた)の系統(けいとう)も
033矢張(やつぱ)りビクの国(くに)生(うま)れ
034左守司(さもりのかみ)の家系(かけい)より
035秀(すぐ)れて高(たか)き人(ひと)の子(こ)と
036生(うま)れ出(い)でたる珍(うづ)の御子(みこ)
037チヌの里(さと)なる卓助(たくすけ)が
038里子(さとご)となりて世(よ)を送(おく)る
039果敢(はか)なき身(み)にも荒風(あらかぜ)の
040吹(ふ)き荒(すさ)び来(き)て両親(りやうしん)は
041最早(もはや)あの世(よ)の人(ひと)となり
042よるべ渚(なぎさ)の捨小舟(すてをぶね)
043彼方(あなた)此方(こなた)と彷徨(さまよ)ひて
044艱(なや)みの果(は)ては今(いま)茲(ここ)に
045テームス館(やかた)の下女(げぢよ)と迄(まで)
046なり下(さが)りたる痛(いた)ましさ
047お民(たみ)の素性(すじやう)を知(し)るものは
048アーシス一人(ひとり)を除(のぞ)いては
049今(いま)迄(まで)誰(たれ)もあらざりし
050かくも尊(たふと)き人(ひと)の子(こ)と
051生(うま)れましたるお民(たみ)さま
052如何(いか)なる神(かみ)の取持(とりもち)か
053吾(わ)れと妹背(いもせ)の契(ちぎり)をば
054結(むす)ばせ玉(たま)ふ事(こと)となり
055首陀(しゆだ)の館(やかた)で合衾(がふきん)の
056いよいよ式(しき)を挙(あ)げむとは
057思(おも)ひもよらぬ二人仲(ふたりなか)
058ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
059イドムの神(かみ)が現(あら)はれて
060治国別(はるくにわけ)に懸(かか)りまし
061吾(われ)等(ら)が素性(すじやう)を委曲(まつぶさ)に
062明(あ)かさせ玉(たま)ひし尊(たふと)さよ
063さはさり乍(なが)ら吾々(われわれ)は
064世(よ)に捨(す)てられし日蔭者(ひかげもの)
065二人(ふたり)の父(ちち)は坐(ま)しませど
066名乗(なの)らむ術(すべ)もなくばかり
067歎(かこ)ち暮(くら)した苦(くる)しさも
068今(いま)は漸(やうや)く薄(うす)らぎて
069暁(あかつき)告(つ)ぐる鳥(とり)の声(こゑ)
070旭(あさひ)間近(まぢか)き心地(ここち)せり
071ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
072皇(すめ)大神(おほかみ)や治国(はるくに)の
073別(わけ)の司(つかさ)の御(おん)前(まへ)に
074畏(かしこ)み畏(かしこ)み真心(まごころ)を
075捧(ささ)げて感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る』
076 お民(たみ)は歌(うた)ふ。
077お民(たみ)『神(かみ)の恵(めぐみ)も足乳根(たらちね)の
078父(ちち)と母(はは)とはあり乍(なが)ら
079浮(う)き世(よ)の雲(くも)に隔(へだ)てられ
080名乗(なのり)もならぬ身(み)の因果(いんぐわ)
081雲井(くもゐ)に高(たか)き刹帝利(せつていり)
082ビクトリヤ王(わう)の珍(うづ)の子(こ)と
083生(うま)れ出(い)でたる吾(わが)身(み)なれ共(ども)
084后(きさい)の宮(みや)の御(おん)憤(いきどほ)り
085いと烈(はげ)しくましましければ
086母(はは)の皐月(さつき)と諸共(もろとも)に
087フサの御国(みくに)の山野里(やまのさと)
088チヌの村(むら)なる卓助(たくすけ)が
089館(やかた)に母子(おやこ)預(あづ)けられ
090悲(かな)しき浮世(うきよ)を送(おく)りしも
091月(つき)に村雲(むらくも)花(はな)には嵐(あらし)
092吹(ふ)き荒(すさ)ぶなる世(よ)の中(なか)の
093ためしに漏(も)れず養(やしな)ひの
094父(ちち)は此(この)世(よ)を早(はや)く去(さ)り
095母(はは)と妾(わらは)は味気(あぢき)なき月日(つきひ)を
096山(やま)の畔(ほとり)に送(おく)る折(をり)しも
097バラモン教(けう)の軍人(いくさびと)
098夜陰(やいん)に乗(じやう)じて入(い)り来(きた)り
099雨戸(あまど)を蹴立(けた)てて踊(をど)り入(い)り
100妾(わらは)と母(はは)を取(と)り違(ちが)へ
101凱(かちどき)あげて連(つ)れ帰(かへ)りしが
102老(お)いさらばひし母上(ははうへ)と
103知(し)るよりも
104情(なさけ)を知(し)らぬ悪神(あくがみ)は
105悔(くや)しや恋(こひ)しき母上(ははうへ)を
106野中(のなか)の井戸(ゐど)へ蹴落(けお)として
107玉(たま)の緒(を)の命(いのち)を奪(うば)ひし恨(うら)めしさ
108妾(わらは)は後(あと)に残(のこ)されて
109彼方(あなた)の家(いへ)に三日(みか)四日(よつか)
110永(なが)きは五日(いつか)と彷徨(さまよ)ひつ
111どこの家(いへ)でも追(お)ひ出(だ)され
112漸々(やうやう)ここにテームスの
113主人(あるじ)の君(きみ)に助(たす)けられ
114水仕(みづし)奉公(ぼうこう)を励(はげ)む折(をり)
115天(あめ)の八重雲(やへぐも)かき分(わ)けて
116降(くだ)りましたる神(かみ)の教(をしへ)の司(つかさ)たち
117主人(あるじ)の家(いへ)の愛娘(まなむすめ)
118スミエル姫(ひめ)やスガール姫(ひめ)を
119救(すく)ひやらむと雄健(をたけ)びし
120魔神(まがみ)のたけぶ猪倉山(ゐのくらやま)を駆(か)け登(のぼ)り
121出(い)で行(ゆ)きませし其(その)後(あと)に
122妾(わらは)は両手(りやうて)を合(あは)しつつ
123凱(かちどき)あげて帰(かへ)ります
124生日(いくひ)の吉(よ)き日(ひ)を待(ま)つ折(をり)もあれ
125軍(いくさ)の君(きみ)を引率(ひきつ)れて
126四人(よたり)の人(ひと)を助(たす)けつつ
127帰(かへ)らせ玉(たま)ひし嬉(うれ)しさよ
128神(かみ)の司(つかさ)の其(その)中(なか)で
129恋(こひ)に心(こころ)を焦(こが)したる
130万公別(まんこうわけ)の神司(かむづかさ)
131神(かみ)の仕組(しぐみ)か知(し)らね共(ども)
132忽(たちま)ち主人(しゆじん)となりすまし
133上(うへ)から下(した)まで気(き)を付(つ)けて
134竃(かまど)の下(した)や鍋(なべ)の蓋(ふた)
135彼方(あなた)此方(こなた)の拭掃除(ふきさうぢ)
136火(ひ)を焚(た)くわざ迄(まで)懇(ねもごろ)に
137教(をし)へ玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
138うるさい事(こと)はなけれ共(ども)
139何(なん)だか知(し)らぬがゴテゴテと
140言(い)はるる度(たび)に気(き)が立(た)ちて
141遂(つひ)には思(おも)はぬ灰神楽(はひかぐら)
142どこも彼処(かしこ)も泥(どろ)の海(うみ)
143足(あし)踏(ふ)む場所(ばしよ)もなき迄(まで)に
144汚(よご)れたるこそ是非(ぜひ)なけれ
145折角(せつかく)心(こころ)を尽(つく)し身(み)を尽(つく)し
146漸(やうや)く煮(に)えた飯(めし)さへも
147喉(のど)を通(とほ)らぬ灰(はひ)まぶれ
148ハツと顔(かほ)をば赤(あか)らめて
149胸(むね)を痛(いた)むる折(をり)もあれ
150アヅモス司(つかさ)現(あら)はれて
151又(また)いろいろと御(ご)教訓(けうくん)
152虫(むし)の居所(ゐどころ)悪(わる)かりしか
153フエル奴(やつこ)と謀(はか)らひて
154栄螺(さざえ)の如(ごと)き拳(こぶし)を固(かた)め
155所(ところ)かまはず打(う)ち据(す)ゑ
156嘖(さいな)み居(ゐ)たる折(をり)もあれ
157アーシス司(つかさ)は忽(たちま)ちに
158此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)りまし
159荒(あ)れ狂(くる)ひゐたる両人(りやうにん)を
160手(て)もなくグツと押(おさ)へつけ
161救(すく)ひ玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
162情(なさけ)は人(ひと)の為(ため)ならずと
163世(よ)の諺(ことわざ)も目(ま)のあたり
164夫(そ)れより妾(わらは)はアーシスの
165司(つかさ)を尊(たふと)み敬(うやま)ひて
166世(よ)が世(よ)であらば吾(わが)夫(つま)と
167仕(つか)へむものと村肝(むらきも)の
168胸(むね)をば焦(こ)がす折(をり)もあれ
169今日(けふ)は嬉(うれ)しき三五(あななひ)の
170神(かみ)の司(つかさ)の治国別(はるくにわけ)が
171尊(たふと)き聖(きよ)き勅(みことの)り
172妹背(いもせ)の道(みち)を契(ちぎ)れよと
173教(をし)へ玉(たま)ひし言(こと)の葉(は)を
174慎(つつし)み畏(かしこ)み諾(うべな)ひて
175いとしき司(つかさ)のアーシスと
176茲(ここ)に目出(めで)たく婚姻(こんいん)の
177儀式(みのり)を結(むす)ぶ事(こと)の由(よし)
178確(たしか)に諾(うべな)ひ奉(たてまつ)る
179ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
180上(かみ)は大国治立(おほくにはるたち)の大神(おほかみ)を始(はじ)めとし
181縁(えにし)を結(むす)びの神柱(かむばしら)
182金勝要(きんかつかね)の大御神(おほみかみ)
183イドムの神(かみ)と現(あ)れませる
184神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
185貴(うづ)の恵(めぐみ)を慎(つつし)みて
186感謝(かんしや)の詞(ことば)奉(たてまつ)る
187ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
188御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を賜(たま)へかし』
189 鬼春別(おにはるわけ)は一杯(いつぱい)機嫌(きげん)になつて、190今(いま)迄(まで)遠慮(ゑんりよ)してゐた心(こころ)が稍(やや)太(ふと)くなつたと見(み)え、191銅羅声(どらごゑ)を張上(はりあ)げて歌(うた)ひ始(はじ)めたり。
192鬼春別『吾(わ)れは大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)
193大国別(おほくにわけ)に仕(つか)へたる
194バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)
195大黒主(おほくろぬし)の部下(ぶか)となり
196三五教(あななひけう)の本陣(ほんぢん)と
197世(よ)に聞(きこ)えたる斎苑(いそ)館(やかた)
198只(ただ)一戦(いつせん)に屠(ほふ)らむと
199数多(あまた)の軍兵(ぐんぴよう)引率(いんそつ)し
200山野(さんや)を渡(わた)り谷川(たにがは)を
201越(こ)えて漸(やうや)く枯尾花(かれをばな)
202茂(しげ)り合(あ)ひたる浮木(うきき)の里(さと)に
203広(ひろ)き陣屋(ぢんや)を造(つく)りつつ
204久米彦(くめひこ)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)を
205先鋒(せんぽう)に立(た)てて戦況(せんきやう)を
206窺(うかが)ひゐたる折(をり)もあれ
207治国別(はるくにわけ)の神司(かむづかさ)
208厳(いづ)の御水火(みいき)に打出(うちいだ)す
209其(その)言霊(ことたま)に肝(きも)打(う)たれ
210脆(もろ)くも破(やぶ)れ逃(に)げ帰(かへ)る
211其(その)浅(あさ)ましき態(ざま)を見(み)て
212とても叶(かな)はぬ此(この)戦(いくさ)
213進(すす)みもならず退(しりぞ)きも
214ならぬ苦(くる)しき破目(はめ)となり
215三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を従(したが)へて
216浮木(うきき)の陣屋(ぢんや)を立(た)ち別(わか)れ
217ライオン河(がは)を横切(よこぎ)りて
218古(ふる)き尊(たふと)きビクの国(くに)
219ビクトル山(さん)の麓(ふもと)にて
220又(また)も陣屋(ぢんや)を構(かま)へつつ
221軍(いくさ)を進(すす)むる折(をり)もあれ
222魔性(ましやう)の女(をんな)に欺(あざむ)かれ
223遠(とほ)く逃(に)げ行(ゆ)く大原野(だいげんや)
224シメジ峠(たうげ)を乗越(のりこ)えて
225猪倉山(ゐのくらやま)の岩窟(がんくつ)に
226城(しろ)を構(かま)へて遠近(をちこち)の
227国(くに)を従(したが)へ靡(なび)かせつ
228バラモン国(こく)を建設(けんせつ)し
229一旗(ひとはた)挙(あ)げむと思(おも)ふ折(をり)
230心(こころ)の曲(まが)に誘(さそ)はれて
231テームス館(やかた)の二人(ふたり)の娘(むすめ)を
232家来(けらい)の者(もの)に言(い)ひつけて
233攫(さら)ひ帰(かへ)らせいろいろと
234脅(おど)しつすかしつ掛合(かけあ)へど
235気丈(きぢやう)の女(をんな)どこ迄(まで)も
236操(みさを)汚(けが)さぬけなげさに
237舌(した)を巻(ま)きつつ久米彦(くめひこ)は
238執念深(しふねんぶか)くも吾(わが)物(もの)と
239なさむとあせり一室(いつしつ)に
240しまひおきたる時(とき)もあれ
241道晴別(みちはるわけ)の神司(かむづかさ)
242シーナを従(したが)へ出(い)で来(きた)り
243言霊車(ことたまぐるま)押出(おしだ)せば
244流石(さすが)の勇士(ゆうし)も驚(おどろ)いて
245右往(うわう)左往(さわう)に散乱(さんらん)し
246周章(しうしやう)狼狽(らうばい)其(その)果(は)ては
247一先(ひとま)づ四(よ)人(にん)を岩窟(がんくつ)の
248千尋(ちひろ)の底(そこ)に投(な)げ堕(おと)し
249言(い)ふにいはれぬ無礼(ぶれい)をば
250加(くは)へし事(こと)の恥(はづ)かしさ
251治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)に
252またも攻(せ)められ吾々(われわれ)は
253執着心(しふちやくしん)の夢(ゆめ)も醒(さ)め
254三千(さんぜん)余(よ)騎(き)の兵士(つはもの)を
255瞬(またた)く内(うち)に解散(かいさん)し
256四(よ)人(にん)の真人(まびと)を送(おく)りつつ
257漸(やうや)く此処(ここ)に来(き)て見(み)れば
258豈計(あにはか)らむやフエル、ベツトの両人(りやうにん)が
259御庫(みくら)の中(なか)に押込(おしこ)まれ
260苦(くるし)みゐたるぞ不思議(ふしぎ)なれ
261悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)の将軍(しやうぐん)も
262神(かみ)の光(ひかり)に照(てら)されて
263今(いま)は誠(まこと)の人(ひと)となり
264此(この)家(や)に仇(あだ)せし身(み)乍(なが)らも
265治国別(はるくにわけ)の御(お)影(かげ)にて
266目出(めで)たき今日(けふ)の宴席(えんせき)に
267恥(はぢ)を忍(しの)びて列(つらな)るも
268縁(えにし)の糸(いと)のどこ迄(まで)も
269結(むす)ぼれゐたる為(ため)ならむ
270ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
271直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
272宣(の)り直(なほ)されてテームスよ
273ベリシナ姫(ひめ)よ二人(ふたり)の姫御子(ひめみこ)
274汝(なれ)に加(くは)へし嘖(さいな)みの
275罪(つみ)を赦(ゆる)させ玉(たま)へかし
276旭(あさひ)はてる共(とも)曇(くも)るとも
277月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くる共(とも)
278一旦(いつたん)神(かみ)に目醒(めざ)めたる
279鬼春別(おにはるわけ)はどこ迄(まで)も
280誠(まこと)の為(ため)に身(み)を尽(つく)し
281世人(よびと)を救(すく)ふ真心(まごころ)に
282復(かへ)りてテームス夫婦(ふうふ)が身(み)の幸(さち)を
283朝(あさ)な夕(ゆふ)なに祈(いの)るべし
284赦(ゆる)させ玉(たま)へ惟神(かむながら)
285神(かみ)に誓(ちか)ひて詫(わ)びまつる』
286と歌(うた)ひ了(をは)り、287一同(いちどう)に向(むか)つて恭(うやうや)しく感謝(かんしや)した。288されど疑深(うたがひぶか)きテームス夫婦(ふうふ)は、289鬼春別(おにはるわけ)が心(こころ)の底(そこ)よりの悔悟(くわいご)も謝罪(しやざい)も信(しん)ずる事(こと)が出来(でき)なかつた。290それ故(ゆゑ)夫婦(ふうふ)は此(この)歌(うた)に対(たい)しても、291一言(いちごん)の答(こたへ)さへせなかつた。292此(この)外(ほか)久米彦(くめひこ)、293スパール、294エミシなどの歌(うた)も沢山(たくさん)あれ共(ども)、295余(あま)り長(なが)ければ是(こ)れにて言霊車(ことたまぐるま)を停止(ていし)する。296ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
297(大正一二・三・三 旧一・一六 於竜宮館 松村真澄録)
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