霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 真異(まちがひ)〔一四一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第1篇 奇縁万情 よみ(新仮名遣い):きえんばんじょう
章:第4章 真異 よみ(新仮名遣い):まちがい 通し章番号:1412
口述日:1923(大正12)年02月26日(旧01月11日) 口述場所:竜宮館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
テームスとベリシナは、治国別たちの居る部屋ではなく、鬼春別たち元バラモン軍指揮官たちのいる部屋に来てしまった。そしてほの暗い行灯の光に、治国別ではないと気付かず、丁寧に娘たち救出のお礼を述べた。
鬼春別は自分がこの事件の張本人であり、心苦しさに自分が鬼春別本人であることを伝えることができなかった。そこで春別と名乗ってその場をごまかそうとした。
テームスは三五教の宣伝使一行だと思って、バラモン軍の悪行を並べ立てたので、鬼春別と久米彦らは慙愧の念に堪えず、しばし油をしぼられた。
そこへ治国別、松彦、竜彦が下女に案内されて部屋にやってきた。治国別は挨拶をなし、ここにいるのは元バラモン軍の鬼春別、久米彦たち本人だとテームスとベリシナに告げた。テームスは驚いたが、治国別は彼ら四人はもう自分の弟子になったことを説明し、テームスたちを安堵させた。
一同はそれぞれ挨拶と述懐の歌を交わした。テームス夫婦はその場を下がり、怪我人の看病に戻って行った。
後には下女が治国別たちの御膳をしつらえた。そこへ万公が戻ってきて、自分の膳がないことに不平を洩らした。竜彦は、スガールの顔が万公にとっての御馳走だろうとからかった。
それでも一人前の食欲がある、と万公が不平を鳴らすので、竜彦はさらにからかって、お前はテームス家の婿になるのだから主人側だろう、給仕をする側だと持ち上げた。万公はすっかり乗せられてその気になり、客人たちをもっともてなす御馳走を出すのだと、慌てて炊事場に進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4182 OBC :rm5504
愛善世界社版:45頁 八幡書店版:第10輯 49頁 修補版: 校定版:45頁 普及版:17頁 初版: ページ備考:
001バラモン教(けう)のゼネラルと
002羽振(はぶり)利(き)かした久米彦(くめひこ)や
003鬼春別(おにはるわけ)を初(はじ)めとし
004スパール、エミシの四人(よにん)連(づ)れ
005玉木(たまき)の村(むら)の里庄(りしやう)の家(いへ)に
006四(よ)人(にん)の手負(ておひ)を送(おく)りつけ
007心(こころ)を痛(いた)め声(こゑ)潜(ひそ)め
008悔悟(くわいご)の涙(なみだ)に暮果(くれは)てて
009青息(あをいき)吐息(といき)吐(つ)きながら
010三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)
011唱(とな)ふる声(こゑ)も口(くち)の中(うち)
012悄気(せうげ)かへり居(を)る其(その)席上(せきじやう)へ
013廊下(らうか)の板(いた)の間(ま)轟(とどろ)かし
014現(あら)はれ来(きた)るテームスは
015日影(ひかげ)も細(ほそ)き部屋(へや)の内(うち)
016鬼春別(おにはるわけ)の敵将(てきしやう)が
017帰順(きじゆん)し来(きた)るを知(し)らずして
018娘(むすめ)二人(ふたり)を救(すく)ひたる
019治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)と
020老(おい)の眼(まなこ)に見誤(みあやま)り
021四(よ)人(にん)の前(まへ)に手(て)をついて
022いと慇懃(いんぎん)に挨拶(あいさつ)を
023初(はじ)めかけしぞ可笑(をか)しけれ。
024 仄暗(ほのぐら)き行灯(あんどう)の光(ひかり)に主(あるじ)のテームスは、025鬼春別(おにはるわけ)一行(いつかう)とは知(し)らず、026叮嚀(ていねい)に両手(りやうて)を支(つか)へ、
027テームス『これはこれは皆様(みなさま)よくまア助(たす)けてやつて下(くだ)さいました。028さうして貴方(あなた)は誰人(どなた)で厶(ござ)いましたかなア』
029と鬼春別(おにはるわけ)の顔(かほ)をそつと覗(のぞ)いた。030鬼春別(おにはるわけ)は言句(げんく)につまり、031頭(あたま)を掻(か)き乍(なが)ら、
032鬼春(おにはる)『ハイ、033私(わたし)は……春別(はるわけ)で厶(ござ)いまする。034イヤ、035もう偉(えら)い御(ご)心配(しんぱい)をかけました』
036テームス『どう致(いた)しまして、037此方(こなた)の方(はう)から甚(えら)い心配(しんぱい)をかけ何(なん)とも申訳(まをしわけ)が厶(ござ)いませぬ。038貴方(あなた)は治国別(はるくにわけ)さまと承(うけたま)はりましたが、039今(いま)承(うけたま)はれば春別(はるわけ)と仰有(おつしや)いました。040アアこれはこれは失礼(しつれい)致(いた)しました。041何分(なにぶん)年(とし)がよつて記憶(きおく)が悪(わる)いので人(ひと)の名(な)迄(まで)忘(わす)れます。042いやもう年(とし)は取(と)り度(た)くはありませぬ。043時(とき)に春別(はるわけ)様(さま)、044随分(ずいぶん)苦心(くしん)で厶(ござ)いましたでせうなア。045お骨折(ほねをり)お察(さつ)し申(まを)します』
046鬼春(おにはる)『いやもう其(その)御(ご)挨拶(あいさつ)には痛(いた)み入(い)ります』
047テームス『何(なん)と云(い)つてもバラモン教(けう)の悪神(あくがみ)、048鬼春別(おにはるわけ)、049久米彦(くめひこ)と云(い)ふ鬼(おに)のやうな悪党(あくたう)に捕(とら)へられたのですから、050嘸(さぞ)娘(むすめ)もえぐい目(め)に遇(あ)つたで厶(ござ)いませう。051さうして、052奥眼(おくめ)とか久米彦(くめひこ)とか云(い)ふ狒々(ひひ)のやうな男(をとこ)がついて居(ゐ)るのだから定(さだ)めし娘(むすめ)は操(みさを)を汚(けが)されたで厶(ござ)いませうなア』
053鬼春(おにはる)『いや決(けつ)して其(その)御(ご)心配(しんぱい)は要(い)りませぬ。054仲々(なかなか)貴方(あなた)の娘(むすめ)さまだけあつて確(しつか)りしたものです。055それは私(わたし)が保証(ほしよう)致(いた)します』
056テームス『仮令(たとへ)身(み)を汚(けが)されても命(いのち)さへ持(も)つて帰(かへ)れば結構(けつこう)だと思(おも)うて居(を)りましたが、057少々(せうせう)怪我(けが)をして居(を)りますけれど肝腎(かんじん)のものに別状(べつじやう)さへなくば、058こんな嬉(うれ)しい事(こと)は厶(ござ)いませぬ。059何分(なにぶん)養子(やうし)をせねばならぬ娘(むすめ)ですから、060親(おや)としても随分(ずいぶん)心配(しんぱい)で厶(ござ)います』
061鬼春(おにはる)『成程(なるほど)御(ご)心配(しんぱい)お察(さつ)し致(いた)します。062実(じつ)は拙者(せつしや)はあの何(なん)で厶(ござ)います……。063やつぱり……春別(はるわけ)で厶(ござ)いました。064兎(と)も角(かく)無事(ぶじ)に治(をさ)まつたので厶(ござ)いますから、065これも神(かみ)様(さま)の何彼(なにか)の思召(おぼしめ)しとお諦(あきら)めなさるがよろしう厶(ござ)いませう』
066久米(くめ)『初(はじ)めてお目(め)にかかります。067貴方(あなた)は此(この)家(や)の主様(あるじさま)で厶(ござ)いますか。068誠(まこと)に申訳(まをしわけ)のない事(こと)を致(いた)しました。069治国別(はるくにわけ)様(さま)のお蔭(かげ)により神(かみ)様(さま)の道(みち)に救(すく)はれ、070こんな嬉(うれ)しい事(こと)は厶(ござ)いませぬ。071貴方(あなた)も嘸(さぞ)お喜(よろこ)び、072お目出度(めでた)う厶(ござ)います』
073テームス『イヤ貴方(あなた)の仰有(おつしや)る通(とほ)り、074第一(だいいち)春別(はるわけ)様(さま)のお骨折(ほねを)り、075次(つぎ)には貴方(あなた)方(がた)のお助(たす)けによりて、076あの意地(いぢ)の悪(わる)い鬼春別(おにはるわけ)や、077久米彦(くめひこ)の、078泥棒(どろばう)将軍(しやうぐん)に拐(かどわ)かされた所(ところ)を助(たす)けて頂(いただ)き、079天(てん)にも昇(のぼ)る心持(こころもち)で厶(ござ)います。080もし春別(はるわけ)様(さま)、081娘(むすめ)をお助(たす)け下(くだ)さいまして実(じつ)にお礼(れい)の申(まを)しやうが厶(ござ)りませぬが、082又(また)あの泥棒(どろばう)将軍(しやうぐん)が、083貴方(あなた)のお帰(かへ)りになつた後(あと)は沢山(たくさん)の雑兵(ざふひやう)を引(ひ)き連(つ)れ、084娘(むすめ)を取(と)り返(かへ)しに来(く)るやうな事(こと)は厶(ござ)いますまいか、085それが第一(だいいち)気(き)にかかります』
086久米(くめ)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。087治国別(はるくにわけ)さま、088松彦(まつひこ)さま、089竜彦(たつひこ)さま、090万公(まんこう)さまが、091すつかり岩窟(いはや)退治(たいぢ)を遊(あそ)ばし、092二人(ふたり)の頭(かしら)に大鉄槌(だいてつつい)を喰(くら)はし、093三千(さんぜん)の軍隊(ぐんたい)を解散(かいさん)し、094後顧(こうこ)の患(うれひ)のなきやうにして此処(ここ)にお帰(かへ)りになりましたから、095御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
096テームス『遉(さすが)は春別(はるわけ)様(さま)、097其(その)外(ほか)のお弟子(でし)様(さま)、098実(じつ)に御(ご)神徳(しんとく)と云(い)ふものは偉(えら)いもので厶(ござ)いますな。099神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て分(わ)けると仰有(おつしや)いましたが、100やつぱり善(ぜん)は最後(さいご)までゆけば勝(か)つもので厶(ござ)います。101そして鬼春別(おにはるわけ)や、102久米彦(くめひこ)の泥棒(どろばう)人足(にんそく)は、103首(くび)でも吊(つ)つて死(し)にましたか、104但(ただ)しは切腹(せつぷく)でも致(いた)しましたか、105それが一(ひと)つお土産話(みやげばなし)に聞(き)かして頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)います』
106 鬼春別(おにはるわけ)は頭(かしら)を掻(か)き乍(なが)ら、
107鬼春(おにはる)『ヘイ将軍(しやうぐん)としての鬼春別(おにはるわけ)、108久米彦(くめひこ)は最早(もはや)消滅(せうめつ)致(いた)しました。109やがて生(うま)れ変(かは)つて貴方(あなた)にお目(め)にかかりに来(く)るでせう。110其(その)時(とき)は悪人(あくにん)と憎(にく)まず言葉(ことば)をかけてやつて下(くだ)さいませ』
111テームス『貴方(あなた)のお言葉(ことば)なれば背(そむ)く訳(わけ)にはゆきませぬが、112彼(あ)のやうな悪党(あくたう)が何程(なにほど)天地(てんち)が覆(かへ)つて、113謝罪(あやま)つて来(き)ましても一口(ひとくち)言葉(ことば)をかける所(どころ)か、114門内(もんない)にも入(い)れませぬ。115肉(にく)を削(けづ)り血(ち)を啜(すす)り、116骨(ほね)をはたいて食(く)つても虫(むし)の納(をさま)らない悪党(あくたう)で厶(ござ)いますが、117何(なん)とかして神(かみ)様(さま)のお力(ちから)で痕跡(あとかた)もなく亡(ほろ)ぼしたいもので厶(ござ)います』
118 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ治国別(はるくにわけ)、119松彦(まつひこ)、120竜彦(たつひこ)は下女(げぢよ)の案内(あんない)によつて現(あら)はれ来(きた)り、
121治国(はるくに)『イヤ、122テームス殿(どの)、123私(わたし)は治国別(はるくにわけ)で厶(ござ)います。124悠(ゆつく)りと休(やす)まして頂(いただ)きました。125何(ど)うですかな、126四(よ)人(にん)共(とも)少(すこ)しく気分(きぶん)はよいやうですか』
127テームス『ヤ、128貴方(あなた)は治国別(はるくにわけ)様(さま)、129ハテナ、130今(いま)此処(ここ)に厶(ござ)るお方(かた)を貴方(あなた)様(さま)と思(おも)つて御(ご)挨拶(あいさつ)を申上(まをしあ)げた所(ところ)で厶(ござ)います。131ハテナ、132どうも合点(がてん)が行(ゆ)かぬ事(こと)だなア』
133治国(はるくに)『此(この)方(かた)は有名(いうめい)な鬼春別(おにはるわけ)、134久米彦(くめひこ)の両将軍(りやうしやうぐん)及(および)スパール、135エミシのカーネルさまですよ』
136 テームスは倒(こ)けぬ許(ばか)りに驚(おどろ)いて、137顔(かほ)を真青(まつさを)にしながら慄(ふる)ひ声(ごゑ)を出(だ)し、
138テームス『モシ治国別(はるくにわけ)様(さま)、139早(はや)く何処(どこ)かへ帰(い)なして下(くだ)さいませ。140何故(なぜ)こんな奴(やつ)が知(し)らぬ間(ま)に入(はい)つて来(き)たのでせう』
141治国(はるくに)『此(この)四(よ)人(にん)の方(かた)が、142すつかり御(ご)改心(かいしん)の結果(けつくわ)、143貴方(あなた)方(がた)のお嬢(ぢやう)さまを背中(せなか)に負(お)うて此処(ここ)迄(まで)送(おく)つて来(こ)られたのですよ。144もはや今(いま)迄(まで)の将軍(しやうぐん)では厶(ござ)いませぬ、145治国別(はるくにわけ)の弟子(でし)ですから御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
146 テームスはやつと胸(むね)を撫(な)で、
147テームス『ヤアそれで一寸(ちよつと)安心(あんしん)致(いた)しました。148モシ春別(はるわけ)様(さま)、149随分(ずいぶん)貴方(あなた)は腹(はら)が悪(わる)いですな。150なぜ鬼春別(おにはるわけ)だと仰有(おつしや)つて下(くだ)さらぬのです』
151鬼春(おにはる)『余(あま)りお恥(はづ)かしうて合(あは)す顔(かほ)がありませぬので春別(はるわけ)と申(まを)しました。152併(しか)し最早(もはや)鬼(おに)は取(と)れましたから矢張(やつぱり)春別(はるわけ)で厶(ござ)います。153随分(ずいぶん)私(わたし)の悪(あく)を並(なら)べられた時(とき)には五臓(ござう)六腑(ろつぷ)を抉(えぐ)られるやうに苦(くる)しう厶(ござ)いました。154此処(ここ)に居(ゐ)るのは久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)、155スパール、156エミシの改心党(かいしんたう)で厶(ござ)います。157何卒(どうぞ)今(いま)迄(まで)の恨(うらみ)を去(さ)つて、158通常(あたりまへ)の人間(にんげん)として御(ご)交際(かうさい)を願(ねが)ひます』
159テームス『治国別(はるくにわけ)様(さま)の厶(ござ)る間(あひだ)は御(ご)交際(かうさい)をさして頂(いただ)きませうが、160又(また)何時(なんどき)引(ひつ)くりかへらるるやら分(わか)りませぬから、161成(な)るべくは帰(かへ)つて頂(いただ)き度(た)いもので厶(ござ)います』
162治国(はるくに)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。163此(この)方方(かたがた)の腹(はら)の底(そこ)迄(まで)見透(みす)かして居(を)りますから、164最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)で厶(ござ)います』
165鬼春別(おにはるわけ)『醜神(しこがみ)に取(と)り憑(つ)かれたる鬼春別(おにはるわけ)も
166神(かみ)の恵(めぐみ)に人(ひと)となりぬる。
167テームスの里庄(りしやう)の君(きみ)よ惟神(かむながら)
168神(かみ)のまにまに赦(ゆる)したまはれ』
169久米彦(くめひこ)『大神(おほかみ)の恵(めぐみ)は深(ふか)し瑞御霊(みづみたま)
170河瀬(かはせ)の水(みづ)を久米彦(くめひこ)の吾(われ)に。
171汲(く)めど汲(く)めど尽(つ)きせぬ神(かみ)の御恵(みめぐみ)は
172流(なが)れて霊(たま)を洗(あら)ひましぬる』
173テームス『有難(ありがた)や醜雲(しこぐも)四方(よも)に晴(は)れ渡(わた)り
174今日(けふ)は嬉(うれ)しき月(つき)を見(み)るかな。
175三五(あななひ)の月(つき)の教(をしへ)を守(まも)りつつ
176いや永久(とこしへ)に神(かみ)に仕(つか)へませ』
177鬼春別(おにはるわけ)『曲鬼(まがおに)の霊(みたま)を隈(くま)なく追(お)ひ散(ち)らし
178空晴別(そらはるわけ)となりし今日(けふ)なり。
179猪(ゐ)の倉(くら)の砦(とりで)に潜(ひそ)む曲神(まがかみ)も
180神(かみ)の伊吹(いぶき)に吹(ふ)き散(ち)りにけり。
181曲神(まがかみ)の去(さ)りにし後(あと)の久米彦(くめひこ)は
182心(こころ)真澄(ますみ)の空(そら)の月(つき)かも』
183スパール『バラモンの軍(いくさ)の君(きみ)に従(したが)ひて
184カーネルとなりし吾(われ)ぞうたてき。
185大神(おほかみ)の救(すく)ひの喇叭(らつぱ)に醒(さま)されて
186今(いま)は誠(まこと)の道(みち)に覚(さ)めける』
187テームス『有難(ありがた)き神(かみ)の恵(めぐみ)は醜草(しこぐさ)も
188薙(な)ぎ払(はら)はずに救(すく)ひますかも』
189エミシ『吾(われ)こそはエミシの司(つかさ)三五(あななひ)の
190光(ひかり)を浴(あ)びてエミシ吾(われ)なり。
191姉妹(おとどひ)の二人(ふたり)の御子(みこ)をいろいろと
192悩(なや)ませまつりし吾(われ)ぞうたてき。
193ゼネラルや、スパール司(つかさ)の罪(つみ)ならず
194エミシ一人(ひとり)が犯(おか)せし醜業(しこわざ)』
195鬼春別(おにはるわけ)『友垣(ともがき)の罪(つみ)をかくして一人(ひとり)負(お)ふ
196エミシの司(つかさ)は真人(まびと)なりけり』
197久米彦(くめひこ)『村肝(むらきも)の心(こころ)の罪(つみ)に責(せ)められて
198吾(われ)は言(い)ふべき言(こと)の葉(は)もなし』
199治国別(はるくにわけ)『猪(ゐ)の倉(くら)の山(やま)の黒雲(くろくも)空(そら)晴(は)れて
200立(た)ちも及(およ)ばぬ谷(たに)の川霧(かはぎり)』
201松彦(まつひこ)『松(まつ)の世(よ)の魁(さきがけ)として現(あ)れませる
202木花姫(このはなひめ)の恵(めぐみ)かしこし。
203木(こ)の花姫(はなひめ)神(かみ)の命(みこと)の在(まさ)ざらば
204いかで救(すく)へむこの姉妹(おとどひ)を』
205竜彦(たつひこ)『大神(おほかみ)の宣(のり)のまにまにビクの国(くに)
206早(は)や竜彦(たつひこ)の今日(けふ)の嬉(うれ)しさ。
207大空(おほぞら)に輝(かがや)きわたる月(つき)見(み)れば
208吾(わが)師(し)の君(きみ)の御霊(みたま)とぞ思(おも)ふ』
209鬼春別(おにはるわけ)『許々多久(ここたく)の罪(つみ)や汚(けが)れを委曲(まつぶさ)に
210宣(の)り直(なほ)したる治国別(はるくにわけ)の司(つかさ)。
211天(あめ)が下(した)四方(よも)の国(くに)には仇(あだ)もなし
212神(かみ)の教(をしへ)に任(まか)す身(み)なれば』
213テームス『治国別(はるくにわけ)司(つかさ)を初(はじ)め百人(ももびと)よ
214今宵(こよひ)は早(はや)く寛(くつろ)ぎませよ。
215吾(あ)が娘(むすめ)父(ちち)をたづねて待(ま)つならむ
216許(ゆる)させたまへ出(い)で行(ゆ)く吾(われ)を』
217治国別(はるくにわけ)『親(おや)と子(こ)の情(なさけ)を思(おも)ふ益良雄(ますらを)は
218いかでとがめむ汝(なれ)の言葉(ことば)を』
219テームス『有難(ありがた)し百(もも)の司(つかさ)よいざさらば
220くつろぎたまへ心(こころ)安(やす)けく』
221と挨拶(あいさつ)しながら、222後(あと)に心(こころ)を残(のこ)しつつ、223奥(おく)の一間(ひとま)に馳(か)けて行(ゆ)く。224お民(たみ)は下女(げぢよ)下男(げなん)の調理(てうり)せし膳部(ぜんぶ)を運(はこ)び来(きた)り、225酒(さけ)なぞを添(そ)へて一同(いちどう)の前(まへ)に据(す)ゑ、
226お民(たみ)『皆様(みなさま)、227お嬢様(ぢやうさま)が、228いかいお世話(せわ)になられまして有難(ありがた)う存(ぞん)じます。229何分(なにぶん)私(わたし)は此処(ここ)へ雇(やと)はれて参(まゐ)りまして、230まだ日日(ひにち)も浅(あさ)う厶(ござ)いまして家(いへ)の勝手(かつて)も分(わか)りませず、231不都合(ふつがふ)だらけですが「どうぞ悠(ゆつく)り召(め)し上(あが)つて貰(もら)へ」との主人(しゆじん)の云(い)ひつけで厶(ござ)います。232何(なに)も厶(ござ)いませぬが何卒(どうぞ)腹(はら)一杯(いつぱい)召(め)し上(あが)り下(くだ)さいませ』
233竜彦(たつひこ)『お取(と)り込(こ)みの中(なか)、234御(ご)叮嚀(ていねい)な御(ご)馳走(ちそう)、235イヤもう大変(たいへん)なお骨折(ほねをり)で厶(ござ)いませう。236然(しか)らば遠慮(ゑんりよ)なく頂戴(ちやうだい)致(いた)しませう。237サア先生(せんせい)、238春別(はるわけ)様(さま)、239皆様(みなさま)頂戴(ちやうだい)致(いた)しませうか』
240治国(はるくに)『御(ご)叮嚀(ていねい)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。241此方(こちら)は勝手(かつて)に頂戴(ちやうだい)致(いた)しますから、242何卒(どうぞ)お民(たみ)さまとやらお構(かま)ひ下(くだ)さいますな』
243お民(たみ)『ハイ不調法(ぶしよう)者(もの)がお給仕(きふじ)を致(いた)すよりも御(ご)自由(じいう)にして下(くだ)さる方(はう)が結構(けつこう)で厶(ござ)います』
244と挨拶(あいさつ)もそこそこに御(ご)馳走(ちそう)を並(なら)べ終(をは)り炊事場(すゐじば)へさして急(いそ)ぎ行(ゆ)く。245万公(まんこう)はテームスと交替(かうたい)に、246道晴別(みちはるわけ)、247シーナの介抱(かいほう)より離(はな)れ空腹(くうふく)を抱(かか)へて声(こゑ)をしるべに現(あら)はれ来(きた)り、
248万公(まんこう)『ああ先生(せんせい)、249大変(たいへん)な御(ご)馳走(ちそう)が出(で)て居(を)りますなア。250一(ひと)つ二(ふた)つ三(み)つ四(よ)つ五(いつ)つ六(む)つ七(なな)つヤ一膳(いちぜん)足(た)らぬぞ。251万公司(まんこうつかさ)のお膳(ぜん)はどこにあるのかなア』
252竜彦(たつひこ)『オイ万公(まんこう)、253お前(まへ)は既(すで)に御(ご)馳走(ちそう)を頂戴(ちやうだい)しただらう。254スガールさまのお顔(かほ)さへ見(み)て居(を)れば無上(むじやう)の御(ご)馳走(ちそう)だ。255飯(めし)の一(いち)日(にち)や二日(ふつか)食(く)はなくても辛抱(しんばう)が出来(でき)るだらう』
256万公(まんこう)『ヘン大(おほ)きに憚(はばか)り様(さま)、257木仏(きぶつ)金仏(かなぶつ)でない限(かぎ)り、258矢張(やつぱり)食欲(しよくよく)が一人前(いちにんまへ)は厶(ござ)いますから、259何(なん)ならお前(まへ)の分(ぶん)を拙者(せつしや)が頂戴(ちやうだい)致(いた)しませうかい』
260竜彦(たつひこ)『ヤお前(まへ)は別(べつ)に席(せき)が拵(こしら)へてあるのだらう、261主人側(しゆじんがは)だからなア。262俺(おれ)達(たち)はお客(きやく)さまだ何(なん)と云(い)つてもテームス家(け)の新養子(しんやうし)様(さま)だから、263些(ちつ)と俺(おれ)達(たち)にお給仕(きふじ)でもしたらよからう』
264万公(まんこう)『ウンさうだつた。265お前(まへ)もさう思(おも)うて居(ゐ)るか、266さうすると俺(おれ)の考(かんが)へもちつとも違(ちが)はぬ、267それでは気楽(きらく)にお客(きやく)さま面(づら)もして居(を)れまい、268下女(げぢよ)に云(い)ひつけ沢山(どつさり)御(ご)馳走(ちそう)をして上(あ)げる。269………何分(なにぶん)取込(とりこ)んで居(ゐ)るので御(ご)馳走(ちそう)をして上(あ)げたいと思(おも)ひましたが俄(にはか)には出来(でき)ませぬ。270又(また)明日(あす)になつたら、271何(なん)とか小甘(こうま)いものでもして上(あ)げませう。272まアお客様(きやくさま)御悠(ごゆつ)くり召(め)し上(あが)り下(くだ)さいませ』
273と慌(あわて)て柱(はしら)や襖(ふすま)にゆき当(あた)りながら炊事場(すゐじば)さして進(すす)み行(ゆ)く。
274(大正一二・二・二六 旧一・一一 於竜宮館 加藤明子録)
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