霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 洗濯使(せんたくし)〔一四一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第1篇 奇縁万情 よみ(新仮名遣い):きえんばんじょう
章:第6章 洗濯使 よみ(新仮名遣い):せんたくし 通し章番号:1414
口述日:1923(大正12)年03月03日(旧01月16日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
フエルとアヅモスは、朝食のお膳を治国別の別宅に運んできた。元バラモン軍のエミシは、フエルの姿を認めて声をかけた。フエルは道晴別に霊縛されて、この家の蔵に放り込まれていたが、今朝この家の若主人が解放したことを話した。
鬼春別も、自分が三五教に改心したことをフエルに話した。治国別は朝飯を食べてみると、灰まみれでとても喰えたものでなく、目を白黒させている。
アヅモスとフエルは御膳を片付けて、もう一度朝飯を作り直しに炊事場に引き返してきた。すると万公がお民をつかまえて一生懸命に指図している。
アヅモスは、自分たちが飯を作るからと言って万公を治国別の別宅に戻らせた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-05-14 17:41:22 文字数:5182 OBC :rm5506
愛善世界社版:70頁 八幡書店版:第10輯 59頁 修補版: 校定版:72頁 普及版:29頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)の居間(ゐま)へはフエル、002アヅモスの両人(りやうにん)が膳部(ぜんぶ)を運(はこ)び、003叮嚀(ていねい)に辞儀(じぎ)をし乍(なが)ら、004フエルの方(はう)は慄(ふる)うてゐる。005フエルは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)とアヅモスに聞(き)いたので、006俄(にはか)に恐(おそ)ろしくなつたのである。007併(しか)し乍(なが)ら治国別(はるくにわけ)、008松彦(まつひこ)、009竜彦(たつひこ)は一面識(いちめんしき)もないので、010此(この)家(や)の下男(げなん)とのみ考(かんが)へてゐた。011フエルは鬼春別(おにはるわけ)以下(いか)三(さん)人(にん)の姿(すがた)を見(み)て、012様子(やうす)は分(わか)らず、013不思議(ふしぎ)相(さう)に俯(うつむ)いたまま横目(よこめ)で四(よ)人(にん)の顔(かほ)を見比(みくら)べてゐた。014エミシは早(はや)くもフエルの姿(すがた)を見(み)て、
015エミシ『オオお前(まへ)はフエルぢやないか。016何(ど)うして此処(ここ)へ来(き)たのだ』
017フエル『貴方(あなた)はカーネル様(さま)で厶(ござ)いましたか、018能(よ)うマア……何(ど)うしてお出(い)でになりました。019私(わたし)は貴方(あなた)の命令(めいれい)に仍(よ)つて、020シメジ峠(たうげ)に三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の閉塞隊(へいそくたい)を勤(つと)めて居(ゐ)る矢先(やさき)、021道晴別(みちはるわけ)宣伝使(せんでんし)に霊縛(れいばく)をかけられ、022当家(たうけ)の庫(くら)に放(ほ)り込(こ)まれ、023ヤツと今朝(けさ)ここの若主人(わかしゆじん)に解放(かいはう)され、024炊事(すゐじ)や掃除(さうぢ)の役(やく)を仰(おほ)せ付(つ)けられて居(を)ります』
025エミシ『お前(まへ)一人(ひとり)か』
026フエル『イエ、027ベツトと二人(ふたり)で厶(ござ)います。028ベツトも私(わたし)と同様(どうやう)に早朝(さうてう)から大活動(だいくわつどう)をやつて居(を)ります』
029 エミシは鬼春別(おにはるわけ)を指(ゆび)ざし、
030エミシ『オイ、031此(この)お方(かた)を知(し)つてゐるか』
032フエル『ハイ、033ゼネラル様(さま)ぢや厶(ござ)いませぬか、034どうしてマア三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)と、035かやうな所(ところ)へお出(いで)になりました。036又(また)霊縛(れいばく)にかかつてぢや厶(ござ)いませぬか』
037鬼春(おにはる)『アハハハ、038治国別(はるくにわけ)様(さま)の霊縛(れいばく)にかけられ、039たうとうゼネラルを棒(ぼう)にふつて、040今日(けふ)は三五教(あななひけう)の一兵士(いちへいし)となつたのだよ』
041フエル『思(おも)ひきやゼネラル様(さま)が此(この)家(いへ)に
042お越(こ)しあるとは夢(ゆめ)にも知(し)らず。
043夢(ゆめ)の世(よ)に夢(ゆめ)を見(み)るてふ人(ひと)の世(よ)は
044はかなきものと今(いま)や悟(さと)りぬ』
045鬼春別(おにはるわけ)『三五(あななひ)の神(かみ)の光(ひかり)に照(てら)されて
046暗(やみ)は晴(は)れけり心(こころ)の闇(やみ)も』
047治国別(はるくにわけ)『テームスの珍(うづ)の館(やかた)に落合(おちあ)ひて
048神(かみ)の恵(めぐみ)を味(あぢ)はふ今日(けふ)かな』
049アヅモス『客人(まらうど)よいと平(たひら)けく聞召(きこしめ)せ
050万公別(まんこうわけ)が献立(こんだて)の味(み)を』
051竜彦(たつひこ)『万公(まんこう)の姿(すがた)見(み)えぬと思(おも)ひしに
052早(はや)飯焚(めしたき)となりにけるかな』
053 松彦(まつひこ)は飯(めし)の少(すこ)しく色(いろ)の変(かは)つたのを見(み)て、
054松彦(まつひこ)『此(この)飯(めし)は何(なん)とはなしに色(いろ)づきぬ
055灰(はひ)カラ女(をんな)のたきしものにや』
056アヅモス『色付(いろづ)きし万公別(まんこうわけ)の献立(こんだて)と
057思(おも)へば何(なん)の不思議(ふしぎ)かはある。
058さり乍(なが)ら直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
059今日(けふ)一朝(ひとあさ)は忍(しの)ばせ玉(たま)へ』
060松彦(まつひこ)『何(なん)となくゲヂゲヂゲヂと歯(は)はきしり
061砂(すな)を噛(か)むよな飯(めし)の味(あぢ)かな』
062竜彦(たつひこ)『万公(まんこう)が主人(しゆじん)気取(きどり)となりよつて
063灰(はひ)カラ飯(めし)を炊(たき)しなるらむ』
064 治国別(はるくにわけ)は、
065治国別『皆(みな)さま、066頂戴(ちやうだい)致(いた)しませう。067お先(さき)へ御免(ごめん)』
068と云(い)ひ乍(なが)ら、069一口(ひとくち)口(くち)に含(ふく)んで目(め)を白黒(しろくろ)し、070吐(は)き出(だ)す訳(わけ)にも行(い)かず、071涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)らグツと呑(の)み込(こ)んで了(しま)つた。072白(しろ)い飯(めし)の上(うへ)に所々(ところどころ)灰(はひ)が黒(くろ)く塊(かたま)つてゐた。
073治国別(はるくにわけ)『黒胡麻(くろごま)のふりかけ飯(めし)と思(おも)ひきや
074目(め)も白黒(しろくろ)と麦粟(むぎあは)をふく』
075松彦(まつひこ)『麦飯(むぎめし)の色(いろ)にもまがふ灰飯(はひめし)に
076黍悪(きびわる)相(さう)に粟(あは)を吹(ふ)くかな』
077竜彦(たつひこ)『オイ番頭(ばんとう)さま、078偶々(たまたま)のお客(きやく)さまに、079こんな飯(めし)を食(く)はすといふ事(こと)があるか、080余(あま)りヒドイぢやないか』
081アヅモス『ハイ、082万公別(まんこうわけ)の若旦那(わかだんな)が御(お)指図(さしづ)で、083お炊(たき)になつたので厶(ござ)いますから、084何卒(どうぞ)今朝(けさ)丈(だけ)は御(ご)辛抱(しんばう)下(くだ)さいませ。085それはそれは炊事場(すゐじば)は偉(えら)い灰埃(はひぼこり)で厶(ござ)いました。086飯(めし)の奴(やつ)、087鍋山(なべやま)が噴火(ふんくわ)して灰(はひ)を降(ふ)らし、088そこら一面(いちめん)灰(はひ)の山(やま)となりましたので、089知(し)らず知(し)らずの間(あひだ)に厚(あつ)い鍋蓋(なべふた)を潜(くぐ)つて、090灰(はひ)が浸入(しんにふ)したので厶(ござ)いませう。091何(なん)なら鬼春別(おにはるわけ)さま、092久米彦(くめひこ)さまにあがつて頂(いただ)きまして、093お腹(なか)がすきませうが、094暫(しばら)く待(ま)つてゐて下(くだ)さいませ。095更(あらた)めておいしい御飯(ごはん)を炊(た)いて参(まゐ)りますから……』
096治国(はるくに)『イヤ、097誰(たれ)だつて同(おな)じ事(こと)だ。098併(しか)し乍(なが)ら折角(せつかく)の志(こころざし)、099無(む)にするのも済(す)まないから一度(いちど)之(これ)をスツカリ清水(せいすい)に洗(あら)つて日(ひ)に乾(かわ)かし、100お茶漬(ちやづけ)にしてよばれませう。101サ、102お膳(ぜん)を引(ひ)いて下(くだ)さい。103誰(たれ)だつて此(この)御飯(ごはん)許(ばか)りは勿体(もつたい)ない事(こと)乍(なが)ら喉(のど)へは通(とほ)りませぬから……』
104アヅモス『左様(さやう)ならば一先(ひとま)づ膳(ぜん)をひきませう
105待(ま)たせ玉(たま)へよ暫(しばら)くの間(うち)。
106フエルさまお前(まへ)も共(とも)に炊事場(すゐじば)へ
107急(いそ)ぎ御飯(ごはん)を炊(た)いてくるのよ』
108フエル『炊(た)き様(やう)に依(よ)つてお米(こめ)はフエルさまだ
109サア是(これ)からが一生(いつしやう)懸命(けんめい)。
110生命(せいめい)の綱(つな)と聞(きこ)えし此(この)飯(めし)を
111灰(はひ)にまぶせし吾(わ)れはハイカラ。
112万公別(まんこうわけ)主人(あるじ)の君(きみ)と諸共(もろとも)に
113腕(うで)に撚(より)かけむし返(かへ)しみむ』
114と云(い)ひ乍(なが)ら、115アヅモス、116フエルの両人(りやうにん)は急(いそ)いで膳部(ぜんぶ)を片付(かたづ)け、117幾度(いくたび)も謝罪(しやざい)し乍(なが)ら、118炊事場(すゐじば)に引返(ひつかへ)して来(き)た。119見(み)れば万公(まんこう)はお民(たみ)をつかまへて、120一生(いつしやう)懸命(けんめい)に指図(さしづ)をしてゐる。
121万公(まんこう)『オイお民(たみ)、122火消壺(ひけしつぼ)の蓋(ふた)は何時(いつ)もキチンと出来(でき)てるか、123底(そこ)の方(はう)に火(ひ)がまわりはせぬかと能(よ)く気(き)をつけるのだぞ。124コンロの下(した)の灰(はひ)を一遍(いつぺん)々々(いつぺん)捨(す)てる事(こと)を忘(わす)れるな。125井戸(ゐど)の水(みづ)はどんなとこへ使(つか)へば危険(きけん)でないか。126煮物(にもの)、127炊物(たきもの)、128沸(わ)かして呑(の)む水(みづ)等(など)の外(ほか)、129決(けつ)して生水(なまみづ)は呑(の)んでは可(い)かぬぞ。130此(この)頃(ごろ)は梅雨(つゆ)だから、131水(みづ)に塩気(しほけ)があつて、132妙(めう)な黴菌(ばいきん)が生(わ)いてゐるから充分(じゆうぶん)に沸(たぎ)らして、133水(みづ)が呑(の)みたけりや冷(ひや)して呑(の)め、134生水(なまみづ)を使(つか)ふのは手洗水(てうづ)か雑巾水(ざふきんみづ)より外(ほか)にはならぬぞ』
135お民(たみ)『流(なが)しを洗(あら)うたり、136食器類(しよくきるゐ)や爼板(まないた)を洗(あら)ふのは何(ど)うしたら可(い)いのですか。137ヤツパリ之(これ)も湯(ゆ)を沸(わ)かすのですか』
138万公(まんこう)『エー、139そんな事(こと)迄(まで)指図(さしづ)せなくちや分(わか)らぬのかナ、140其奴(そいつ)ア水(みづ)で辛抱(しんばう)するのだ。141そして水壺(みづつぼ)に何時(いつ)も水(みづ)を用意(ようい)して、142非常(ひじやう)の時(とき)の用意(ようい)に備(そな)へておくのだ。143そして毎日(まいにち)新(あたら)しい水(みづ)と取(とり)かへるのだぞ。144柄杓(ひしやく)などを水(みづ)の中(なか)へつけておくと、145水(みづ)の味(あぢ)もかわるし、146杓(しやく)もホトびて損(いた)むから、147一遍(いつぺん)々々(いつぺん)外(そと)へ出(だ)して乾(かわ)かしておくのだよ。148そして井戸(ゐど)は使(つか)つたあとは蓋(ふた)をしておくのだ。149釣瓶縄(つるべなは)の新(あたら)しいのを使(つか)う時(とき)は、150ようスゴいて使(つか)はないと、151クロロを脱線(だつせん)するから気(き)をつけよ』
152お民(たみ)『贋旦那(にせだんな)さま、153指図(さしづ)計(ばか)りして居(を)らずと、154貴方(あなた)も一(ひと)つ手伝(てつだ)うて下(くだ)さいナ。155ここは井戸(ゐど)ぢやありませぬよ。156水道(すいだう)の水(みづ)を使(つか)つて居(ゐ)るのですよ』
157万公(まんこう)『水道(すいだう)でも井戸(ゐど)でも同(おんな)じ事(こと)だ。158痳病(りんびやう)やみが小便(せうべん)をたれるやうに、159いつもジヨウジヨウと洩(もら)しておいては公徳(こうとく)上(じやう)すまないから、160水道(すいだう)の栓(せん)は、161使(つか)つたら固(かた)く締(し)めておくのだ。162そして朝(あさ)水道(すいだう)の水(みづ)はバケツに一杯(いつぱい)丈(だけ)は使水(つかひみづ)とし、163余(あま)りは滌(すす)ぎ水(みづ)にして外(ほか)へ利用(りよう)するのだ。164お水(みづ)を粗末(そまつ)にすると、165月(つき)の大神(おほかみ)さまの神罰(しんばつ)が当(あた)るぞ』
166お民(たみ)『ハイハイ。167能(よ)うゴテゴテと構(かま)ふ人(ひと)ですな。168そんな事(こと)位(ぐらひ)知(し)らいで、169大家(たいけ)の下女(げぢよ)が勤(つと)まりますか』
170万公(まんこう)『コリヤ主人(しゆじん)に口答(くちごたへ)するといふ事(こと)があるか。171何(なん)だ灰(はひ)だらけの飯(めし)を炊(たき)やがつて、172おまけに火(ひ)のいつた黒(くろ)い黒(くろ)い飯(めし)を沢山(たくさん)拵(こしら)へたぢやないか』
173お民(たみ)『あんたが出(で)て来(き)て喧(やか)ましう差出(さしで)なさるものだから、174つい気(き)を取(と)られてお前(まへ)さまの顔(かほ)計(ばか)り見(み)て居(を)つたら、175焦(こ)げついたのですよ』
176万公(まんこう)『ヘヘヘヘ、177気(き)を取(と)られて俺(おれ)の顔(かほ)計(ばか)りみとつたといふのか、178其奴(そいつ)ア駄目(だめ)だ。179諦(あきら)めたがよからう、180下女(げぢよ)を女房(にようばう)にする訳(わけ)にも行(ゆ)かず、181又(また)汝(きさま)の赤(あか)い頬(ほほ)ぺたでは、182如何(いか)に物食(ものぐ)ひのよい万公別(まんこうわけ)でも、183一寸(ちよつと)は三舎(さんしや)を避(さ)けるからのう』
184お民(たみ)『ホツホホホ、185誰(たれ)が主人(しゆじん)だつて、186貴方(あなた)の様(やう)なお顔(かほ)に惚(ほれ)ますか。187余(あま)り奇妙(きめう)な顔(かほ)だと思(おも)つて、188気(き)を取(と)られてゐたのですよ。189モウ可(い)いかげん彼方(あちら)へ行(い)つて下(くだ)さいな』
190万公(まんこう)『今日(けふ)はどうやら日和(ひより)もよささうだから、191お客(きやく)さまの着物(きもの)が大分(だいぶん)汗(あせ)じゆんでゐる。192着替(きがへ)を出(だ)して着(き)て貰(もら)つて、193其(その)お装束(しやうぞく)を洗濯(せんたく)するのだな』
194お民(たみ)『ハイハイ飯(めし)を焚(た)かねばならず、195洗濯(せんたく)もせにやならず、196本当(ほんたう)に忙(いそが)しい事(こと)だ。197私(わたし)はここへ飯焚(めした)き女(をんな)に雇(やと)はれて来(き)たのだから、198洗濯(せんたく)は約束(やくそく)以外(いぐわい)ですワ、199洗濯(せんたく)さすのなら二人前(ににんまへ)の給料(きふれう)をくれますか。200お前(まへ)さまは俄主人(にはかしゆじん)だから私(わたし)の約束(やくそく)を知(し)らぬのだらう。201庭掃(にはは)きとも座敷(ざしき)の掃除番(さうぢばん)とも云(い)つて、202雇(やと)はれて来(き)たのぢや厶(ござ)りませぬよ』
203万公(まんこう)『下女(げぢよ)と云(い)ふ者(もの)は家(いへ)の内(うち)一切(いつさい)を構(かま)ふものだ。204飯焚(めした)きといへば一切(いつさい)の事(こと)が含(ふく)んでをるのだ。205融通(ゆうづう)の利(き)かぬ奴(やつ)だなア』
206お民(たみ)『そんなこた分(わか)つてをりますよ。207併(しか)し余(あま)り融通(ゆうづう)を利(き)かすと、208忙(いそが)しい計(ばか)りで身体(からだ)が疲(つか)れて損(そん)ですワ。209目(め)のない主人(しゆじん)に使(つか)はれて居(を)つては、210何程(なにほど)骨(ほね)を折(を)つても椽(えん)の下(した)の舞(まひ)だから、211マアやめておきませうかい。212お前(まへ)さま若主人(わかしゆじん)だなんて、213勝手(かつて)にきめてるのだらう、214そんなこたチヤンとお民(たみ)の目(め)に映(うつ)つてをりますよ。215宣伝使(せんでんし)の褌持(ふんどしもち)ぢやありませぬか、216オホホホホ、217チツと何(ど)うかしてますねえ』
218万公(まんこう)『エー、219お上(かみ)の事(こと)が下(しも)に分(わか)るものかい。220サア是(これ)から洗濯(せんたく)だ。221洗濯(せんたく)の仕方(しかた)は分(わか)つとるかなア』
222お民(たみ)『洗濯(せんたく)と云(い)つたら、223河(かは)へ持(も)つて行(い)つて、224浅瀬(あさせ)に石(いし)を一々(いちいち)乗(の)せて、225漬(つ)けておけば可(い)いのでせう。226そして十日(とをか)程(ほど)して行(ゆ)けば自然(しぜん)に垢(あか)が除(と)れてますワ。227万公(まんこう)さま、228ここに古(ふる)い褌(まわし)や湯巻(ゆまき)の古手(ふるて)が沢山(たくさん)つつ込(こ)んであるから、229お前(まへ)さま抱(かか)えて猪倉川(ゐのくらがは)迄(まで)持(も)つて来(き)て下(くだ)さらぬか』
230万公(まんこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、231主人(しゆじん)候補者(こうほしや)の俺(おれ)に向(むか)つて、232チツと失礼(しつれい)ぢやないか。233ここの背戸口(せとぐち)で盥(たらひ)に水(みづ)や湯(ゆ)を汲(く)んでバサバサとやれば可(い)いのだ。234きめの粗(あら)い水(みづ)だとみた時(とき)は、235始(はじ)めに曹達(さうだ)を能(よ)く溶(と)かして使(つか)へばキツト美(うつく)しうおちる、236さうすると石鹸(せつけん)と時間(じかん)とが経済(けいざい)になる。237そして滌(すす)ぎ水(みづ)は奇麗(きれい)に濁(にご)らなくなる迄(まで)何遍(なんべん)も変(か)へないといふと、238生地(きぢ)が早(はや)くいたむぞ。239そして水(みづ)で洗(あら)うて可(い)いものと、240湯(ゆ)で洗(あら)うて可(い)いものとある。241それを第一(だいいち)心得(こころえ)ておかないと洗濯婆(せんたくばば)にはなれぬぞ。242俺(おれ)は世界(せかい)の人民(じんみん)の霊(みたま)を洗濯(せんたく)する三五教(あななひけう)の洗濯使(せんたくし)だ。243併(しか)し乍(なが)ら今日(けふ)は譲歩(じやうほ)して、244汝(おまへ)に衣類(いるゐ)の洗濯(せんたく)方法(はうはふ)を教(をしへ)てやるのだから、245能(よ)く忘(わす)れぬやうに覚(おぼ)えておけ。246洗方(あらひかた)に注意(ちゆうい)せないと、247折角(せつかく)の結構(けつこう)な衣類(いるゐ)が台無(だいな)しになつて了(しま)ふものだ。248絹物(きぬもの)や毛織物(けおりもの)や色物(いろもの)は熱(あつ)い湯(ゆ)につけて洗(あら)うと駄目(だめ)だ。249又(また)毛織物(けおりもの)は冷(つめ)たい水(みづ)に漬(つ)けても悪(わる)い。250そして絹物(きぬもの)、251毛織物(けおりもの)、252麻織物(あさおりもの)は強(つよ)く揉(も)んでは駄目(だめ)だぞ。253曹達(さうだ)(灰汁(あく))や悪(わる)い石鹸(せつけん)で、254絹物(きぬもの)はキツと洗(あら)つてはならない、255色物(いろもの)は猶更(なほさら)だ。256そして色物(いろもの)は皆(みな)陰干(かげぼし)にせなくては、257日向(ひなた)に出(だ)したら皆(みな)色(いろ)が褪(あ)せて了(しま)ふ。258干(ほ)す時(とき)は竿(さを)か縄(なは)を通(とほ)して、259木(き)から木(き)へ掛(か)けておくのだ。260白(しろ)い物(もの)を色物(いろもの)の竿(さを)にかけると、261色(いろ)がついて台(だい)なしになつて了(しま)ふぞ。262あああ宣伝使(せんでんし)も何(なに)から何(なに)迄(まで)知(し)つてをらねば勤(つと)まらぬ、263本当(ほんたう)に難(むつか)しい職掌(しよくしやう)だなア』
264お民(たみ)『ハハア、265さうするとお前(まへ)さまは若(わか)い時(とき)から洗濯屋(せんたくや)の番頭(ばんとう)をして居(を)つたのだなア。266男(をとこ)の癖(くせ)にそんな事(こと)を知(し)つて居(ゐ)るものは、267首陀(しゆだ)の内(うち)だつてありませぬワ。268モウ余(あま)り喋(しやべ)りなさるな、269お里(さと)が見(み)えると、270折角(せつかく)の縁談(えんだん)もフイになりますよ。271ホツホホホホ』
272万公(まんこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、273女子(ぢよし)大学(だいがく)家政科(かせいくわ)の卒業生(そつげふせい)だ。274それだから何(なに)もかも知(し)つてるのだ』
275お民(たみ)『ホホホホ、276女子(ぢよし)大学(だいがく)へ男(をとこ)が行(ゆ)くのですか。277さうするとお前(まへ)さまは男(をとこ)の腐(くさ)つた女(をんな)の屑(くず)だな。278道理(だうり)でクヅクヅ云(い)うと思(おも)つてゐた』
279万公(まんこう)『女(をんな)は口(くち)を慎(つつし)むが第一(だいいち)だ。280男子(だんし)に抗弁(かうべん)するといふ事(こと)が何処(どこ)にあるか、281らしうせよといふ言(こと)を知(し)つてゐるか』
282お民(たみ)『其(その)位(くらゐ)のこた、283とうの昔(むかし)に御存(ごぞん)じのお民(たみ)ですよ。284主人(しゆじん)は主人(しゆじん)らしう、285奴(やつこ)は奴(やつこ)らしう、286下女(げぢよ)は下女(げぢよ)らしう、287宣伝使(せんでんし)は宣伝使(せんでんし)らしう、288居候(ゐさふらふ)は居候(ゐさふらふ)らしうせよと云(い)ふ事(こと)でせうがな。289お前(まへ)さまも若主人(わかしゆじん)なら、290なぜ若主人(わかしゆじん)らしうせぬのだい。291私(わたし)が一寸(ちよつと)考(かんが)へてみると、292お前(まへ)さまは、293馬鹿(ばか)らしう、294ケレ又(また)らしう、295自惚(うぬぼれ)男(をとこ)らしう、296腰抜(こしぬけ)らしう、297デレ助(すけ)らしう、298雲雀(ひばり)らしう、299九官鳥(きうくわんてう)らしう、300まだも違(ちが)うたら鸚鵡(おうむ)らしうみえますよ、301ホツホホホホ』
302 かかる所(ところ)へアヅモス、303フエルの両人(りやうにん)はツマらぬ顔(かほ)をして、304入(い)り来(きた)り、
305アヅモス『オイ、306お民(たみ)、307何(なん)といふ飯(めし)を炊(た)きやがるのだ。308偶々(たまたま)のお客(きやく)さまに灰飯(はひめし)を食(く)はしやがつて、309マ一遍(いつぺん)炊(た)き直(なほ)さぬかい。310サ、311早(はや)う、312何(なに)をグズグズしてゐるのだ。313ハハア此(この)お客(きやく)さまにうつつをぬかしやがつて、314飯(めし)の焦(こげ)たのも知(し)らず、315灰(はひ)の這入(はい)つたのも気(き)がつかなかつたのだなア』
316お民(たみ)『モシ二(に)の番頭(ばんとう)さま、317此(この)人(ひと)、318どつかへ伴(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい、319蕪(かぶら)から大根(だいこん)菜種(なたね)のはしに至(いた)る迄(まで)ゴテゴテ云(い)つて構(かま)ふのですもの、320骨折(ほねを)つて炊事(すゐじ)も出来(でき)やしませぬワ』
321アヅモス『ヤア貴方(あなた)は夜前(やぜん)のお客様(きやくさま)、322何卒(どうぞ)奥(おく)へお入(はい)り下(くだ)さいませ。323先生(せんせい)が御(お)待(ま)ち兼(かね)で厶(ござ)います』
324万公(まんこう)『ウン、325お前(まへ)が番頭(ばんとう)のアヅモスだなア。326スガールやシーナが病気(びやうき)で伏(ふ)せつて居(を)るので、327お前(まへ)も忙(いそが)しい事(こと)だらう。328併(しか)し乍(なが)らここ二三(にさん)日(にち)辛抱(しんばう)してくれ、329其(その)代(かは)りに褒美(はうび)は又(また)此(この)若主人(わかしゆじん)がドツサリ使(つか)はすから』
330アヅモス『ヘーエ、331妙(めう)ですな。332貴方(あなた)何時(いつ)の間(ま)にここの主人(しゆじん)になられましたか』
333万公(まんこう)『遠(とほ)き神代(かみよ)の昔(むかし)から、334霊(みたま)の因縁(いんねん)でここの主人(しゆじん)ときまつて居(を)るのだ。335俺(おれ)は今(いま)の主人(しゆじん)の父親(てておや)のテームスの生(うま)れ変(がは)りだぞ』
336アヅモス『ヘーエ、337貴方(あなた)のお年(とし)は、338一寸(ちよつと)見(み)た所(ところ)で四十(しじふ)近(ちか)いぢやありませぬか、339御(ご)主人(しゆじん)のお父(とう)さまは亡(な)くなつてから、340まだ五六(ごろく)年(ねん)よりなりませぬがな』
341万公(まんこう)『其(その)モ一(ひと)つ親(おや)だ、342親(おや)と云(い)つたら先祖(せんぞ)をすべて親(おや)といふのだ。343それで遠津(とほつ)御祖(みおや)代々(よよ)の親(おや)等(たち)と祝詞(のりと)にもいうてあるぢやないか。344祖父(ぢい)さまだの、345曾祖父(ひぢい)さまだのと、346人間(にんげん)は云(い)ふか知(し)らぬが、347神(かみ)の方(はう)では一口(ひとくち)に親(おや)と云(い)へば、348それで可(い)いのだ。349ゴテゴテ言(い)はずに、350お民(たみ)に飯(めし)の炊方(たきかた)から洗濯(せんたく)の方法(はうはふ)まで教(をし)へてあるから、351能(よ)く聞(き)いて早(はや)く膳部(ぜんぶ)を拵(こしら)へ、352珍客(ちんきやく)さまを待遇(もてな)すやうに致(いた)さぬか』
353アヅモス『モシ、354若旦那(わかだんな)の候補生(こうほせい)様(さま)、355之(これ)から吾々(われわれ)が骨(ほね)を折(を)つて御飯(ごはん)を拵(こしら)へますから、356何卒(どうぞ)治国別(はるくにわけ)さまのお居間(ゐま)へいつて、357暫(しばら)くお客(きやく)さまの待遇(もてなし)をして居(を)つて下(くだ)さいませぬか』
358万公(まんこう)『主人(しゆじん)が番頭(ばんとう)の言(い)ひ付(つけ)を聞(き)く法(はふ)はないけれ共(ども)、359暫(しばら)く折角(せつかく)のお客様(きやくさま)だから、360主人(しゆじん)が出(で)ないのも却(かへつ)て失礼(しつれい)になる、361そんなら能(よ)く気(き)をつけて万事(ばんじ)抜目(ぬけめ)のないやうにやつてくれ。362……お民(たみ)、363汝(きさま)も、364今度(こんど)は性念(しやうねん)入(い)れて飯(めし)を焚(た)くのだぞ』
365と言(い)ひ捨(す)て、366広(ひろ)い家(いへ)を迷(まよ)ひさがし乍(なが)ら、367漸(やうや)くにして治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)の陣取(ぢんど)つてゐる庭園内(ていゑんない)の建物(たてもの)を見(み)つけて走(はし)り行(ゆ)く。
368(大正一二・三・三 旧一・一六 於竜宮館 松村真澄録)
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