霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 公盗(こうたう)〔一四二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第3篇 玉置長蛇 よみ(新仮名遣い):たまきちょうだ
章:第15章 公盗 よみ(新仮名遣い):こうとう 通し章番号:1423
口述日:1923(大正12)年03月04日(旧01月17日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
鬼春別以下三人のバラモン組は、宣伝使と俗人の中間的立場である比丘となり、長髪を剃り落され、黒衣を仕立てて金剛杖をつきながら、照国山のビクトル山の谷あいに山伏の修業をなすべく、軍用に使っていたほら貝を吹き立てながら出立していった。
鬼春別は治道居士、久米彦は道貫居士、スパールは素道居士、エミシは求道居士という戒名が与えられた。新米の比丘たちは、治国別け一行や玉置村の人々と別れの歌を交わし、進んで行った。
一同は北の森の祠で野宿をすることになった。夜分、祠の後ろから人声がするのを聞きつけて、治道居士は耳をすませた。聞けば、解散したバラモン軍の兵士たちが、今後の身の振り方を相談しているところだった。盗賊になって一旗揚げようとする三人に反対し、二人が国へ帰ると言って逃げて行った。
治道居士はやにわに数珠をつまぐりながら声も涼しく経文を唱え始めた。三人の元兵士のなり立て盗賊たちは、声をたよりに治道居士を取り囲むと、ベル、シヤル、ヘルと名乗り、金品持ち物を出すようにと凄んだ。
治道居士は、衣類を渡すのは困るから、金をやる代わりに国へ帰って正業に就くようにと諭した。ベルは、帰りの旅費や国へ帰って商売をする元手を計算すると、一人千三百両は要ると治道居士に強要した。
治道居士は、そんな端数ではなく三人まとめて五千両やるから手を出せと言った。ベルは恐る恐る手を出したが、治道居士にぐっと掴まれてしまい、悲鳴を上げている。
治道居士は、約束した以上は金はやると安堵し、おもしろいことが起きていると他の居士たちを起こした。道貫は、実は寝ているふりをして様子をうかがっていたと笑い、自分も千両を与えた。
ベル、シヤル、ヘルの三人は、六千両を三等分し、居士たちにお礼を述べて去って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-11-02 07:12:51 文字数:5432 OBC :rm5515
愛善世界社版:188頁 八幡書店版:第10輯 103頁 修補版: 校定版:198頁 普及版:83頁 初版: ページ備考:
001 鬼春別(おにはるわけ)以下(いか)三(さん)人(にん)のバラモン組(ぐみ)は治国別(はるくにわけ)に許(ゆる)されて、002宣伝使(せんでんし)と俗人(ぞくじん)との中間(ちうかん)的(てき)比丘(びく)となりスツパリと長髪(ちやうはつ)を剃(そ)りおとされ、003テームスの心遣(こころづか)ひに依(よ)つて、004黒衣(くろごろも)を仕立(した)てて着(き)せられ、005金剛杖(こんがうづゑ)をつき乍(なが)ら、006照国山(てるくにやま)ビクトル山(さん)の谷間(たにあひ)に山伏(やまぶし)の修業(しうげふ)をなすべく、007軍用(ぐんよう)に使(つか)つた法螺(ほら)の貝(かひ)をブウブウと吹立(ふきた)て乍(なが)ら、008道々(みちみち)宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ進(すす)み行(ゆ)く。009鬼春別(おにはるわけ)には治道(ちだう)居士(こじ)、010久米彦(くめひこ)には道貫(だうくわん)居士(こじ)、011スパールには素道(そだう)居士(こじ)、012エミシには求道(きうだう)居士(こじ)といふ戒名(かいみやう)を与(あた)へた。013治道(ちだう)居士(こじ)は今(いま)や治国別(はるくにわけ)、014テームス其(その)他(た)一同(いちどう)に別(わか)れを告(つ)げむとして歌(うた)を詠(よ)んだ。
015治道(ちだう)『皇神(すめかみ)の授(さづ)け給(たま)ひし霊魂(みたま)をば
016治(をさ)めむとして教(のり)の道(みち)ゆく。
017いざさらば百(もも)の司(つかさ)よテームスよ
018安(やす)くましませ千代(ちよ)に八千代(やちよ)に』
019治国別(はるくにわけ)『大神(おほかみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)を踏(ふ)みしめて
020安(やす)く行(ゆ)きませ清(きよ)めの滝(たき)へ』
021道貫(だうくわん)『玉鉾(たまほこ)の道(みち)の誠(まこと)を貫(つらぬ)きて
022神(かみ)の御楯(みたて)と仕(つか)へ奉(まつ)らむ。
023神司(かむづかさ)此(この)家(や)の主(あるじ)諸共(もろとも)に
024守(まも)らせ給(たま)へ吾(わが)身(み)の上(うへ)を』
025テームス『三五(あななひ)の誠(まこと)の道(みち)に目醒(めざ)めたる
026人(ひと)こそ神(かみ)の幸(さち)を受(う)けなむ』
027素道(そだう)『惟神(かむながら)元(もと)の心(こころ)に立返(たちかへ)り
028救(すく)ひの道(みち)を進(すす)みゆくかな。
029猪倉(ゐのくら)の山(やま)にこもりし曲神(まがかみ)も
030神(かみ)の光(ひかり)に照(てら)されて行(ゆ)く』
031松彦(まつひこ)『皇神(すめかみ)の珍(うづ)の御子(みこ)たる君(きみ)こそは
032安(やす)く行(ゆ)きませ神(かみ)のまにまに』
033求道(きうだう)『朝夕(あさゆふ)に誠(まこと)の教(のり)を求(もと)めつつ
034今日(けふ)は嬉(うれ)しき神(かみ)の道(みち)行(ゆ)く。
035諸人(もろびと)よ安(やす)くましませ吾(われ)去(さ)りし
036あとにも神(かみ)を崇(あが)めまつりて』
037竜彦(たつひこ)『皇神(すめかみ)の恵(めぐみ)を受(う)けてテームスの
038館(やかた)を出(い)づる人(ひと)ぞ尊(たふと)き』
039万公(まんこう)『いざさらば四柱(よはしら)の君(きみ)健(すこやか)に
040身(み)を守(まも)りつつ神(かみ)に仕(つか)へよ』
041道晴別(みちはるわけ)『惟神(かむながら)神(かみ)の正道(まさみち)わけゆけば
042醜(しこ)の曲津(まがつ)もさわらざらまし』
043シーナ『君(きみ)行(ゆ)かばあとに残(のこ)りし吾々(われわれ)は
044淋(さび)しさに鳴(な)く時鳥(ほととぎす)かな。
045さり乍(なが)ら治国別(はるくにわけ)がましまさば
046安(やす)く出(い)でませ心(こころ)残(のこ)さで』
047スミエル『益良夫(ますらを)が心(こころ)の駒(こま)を立直(たてなほ)し
048鞭(むち)うち進(すす)む今日(けふ)ぞ勇(いさ)まし』
049スガール『時(とき)めきし軍(いくさ)の君(きみ)も三五(あななひ)の
050神(かみ)の軍(いくさ)に仕(つか)へ玉(たま)ひぬ』
051アヅモス『皇神(すめかみ)の縁(えにし)の糸(いと)に結(むす)ばれし
052親(した)しき友(とも)を送(おく)る今日(けふ)哉(かな)』
053アーシス『テームスの館(やかた)に残(のこ)る吾(わが)身(み)こそ
054君(きみ)の行衛(ゆくゑ)を惜(をし)みつつ泣(な)く』
055お民(たみ)『国民(くにたみ)を天津(あまつ)御国(みくに)に救(すく)ふべく
056出(い)でます今日(けふ)の姿(すがた)雄々(をを)しき』
057治道(ちだう)『有難(ありがた)し百(もも)の司(つかさ)の真心(まごころ)は
058幾千代(いくちよ)迄(まで)も忘(わす)れざらまし』
059と互(たがひ)に歌(うた)もて応答(おうたふ)し乍(なが)ら、060円頂(ゑんちやう)緇衣(しえ)の四人(よにん)連(づ)れ法螺貝(ほらがひ)をブウブウ吹(ふ)きたて、061山野(さんや)の空気(くうき)を清(きよ)め乍(なが)ら、062別(わか)れを惜(を)しみ出(い)でて行(ゆ)く。
063三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を引率(いんそつ)し
064猪倉山(ゐのくらやま)に屯(たむろ)して
065暴威(ばうゐ)を揮(ふる)ひし将軍(しやうぐん)も
066忽(たちま)ち悔悟(くわいご)の花(はな)開(ひら)き
067神(かみ)の恵(めぐみ)を嬉(うれ)しみて
068治国別(はるくにわけ)に服(まつろ)ひつ
069四(よ)人(にん)の男女(なんによ)を恙(つつが)なく
070テームス館(やかた)に送(おく)りつけ
071至玄(しげん)至妙(しめう)の御教(みをしへ)を
072心(こころ)に深(ふか)く刻(きざ)みこみ
073昨日(きのふ)に変(かは)る修験者(しうげんじや)
074山伏姿(やまぶしすがた)となり変(かは)り
075金剛杖(こんがうづゑ)を力(ちから)とし
076細(ほそ)き野道(のみち)を辿(たど)りつつ
077世間心(せけんごころ)や自愛心(じあいしん)
078秋(あき)の木(こ)の葉(は)の凩(こがらし)に
079散(ち)りて跡(あと)なき真心(まごころ)の
080衣(ころも)の袖(そで)を科戸辺(しなどべ)の
081風(かぜ)にフワフワいぢらせつ
082大(おほ)法螺貝(ほらがひ)を吹(ふ)き乍(なが)ら
083勇(いさ)み進(すす)んで北(きた)の森(もり)
084祠(ほこら)の前(まへ)に立寄(たちよ)りて
085暫(しば)し息(いき)をば休(やす)めける
086日(ひ)はズツポリと暮(く)れ果(は)てて
087咫尺(しせき)弁(べん)ぜぬ真(しん)の暗(やみ)
088四(よ)人(にん)はここに一夜(いちや)をば
089明(あか)さむものと蓑(みの)を布(し)き
090まどろむ折(をり)しも古(ふる)ぼけた
091祠(ほこら)の後(うしろ)に人(ひと)の声(こゑ)
092耳(みみ)にとめたる治道(ちだう)居士(こじ)
093ハテ訝(いぶ)かしと窺(うかが)へば
094濁(にご)りを帯(お)びた人(ひと)の声(こゑ)
095三(み)つ四(よ)つ五(いつ)つ聞(きこ)え来(く)る。
096 治道(ちだう)居士(こじ)は、097他愛(たあい)もなく三(さん)人(にん)の寝(ね)てゐるのを、098寝息(ねいき)にて悟(さと)り乍(なが)ら、099自分(じぶん)は四五(しご)人(にん)の怪(あや)しき声(こゑ)に眠(ねむ)られず、100耳(みみ)をすまして聞(き)いてゐた。
101 祠(ほこら)の後(うしろ)からはだんだん大(おほ)きな声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)だした。
102甲(かふ)『オイ、103サツパリ約(つ)まらぬぢやないか、104エエン、105よう考(かんが)へて見(み)よ。106折角(せつかく)俺(おれ)は軍曹(ぐんさう)にまでなつたと思(おも)へば、107肝心(かんじん)の大将(たいしやう)が腰抜(こしぬけ)だから、108あの通(とほ)り惨(みじ)めな態(ざま)になり、109三五教(あななひけう)にスツパリと兜(かぶと)を脱(ぬ)ぎ、110チツと許(ばか)りの涙金(なみだきん)位(ぐらゐ)貰(もら)つたつて、111国(くに)へ帰(かへ)つて妻子(さいし)を養(やしな)ふ訳(わけ)にもゆかず、112これからどう身(み)の振方(ふりかた)を考(かんが)へたらよからうかな』
113乙(おつ)『俺(おれ)達(たち)は斬(き)り取(と)り強盗(がうたう)の軍国(ぐんこく)主義(しゆぎ)に育(そだ)てられて来(き)たものだから、114今更(いまさら)外(ほか)の職業(しよくげう)につかうと云(い)つたつて、115何(なん)にも出来(でき)ぬぢやないか。116泥棒(どろばう)になるのも、117バラモン軍(ぐん)の兵士(へいし)になるのも、118名(な)こそ違(ちが)へ大小(だいせう)の区別(くべつ)がある丈(だけ)だ。119追剥(おひは)ぎをして人(ひと)を裸(はだか)にするのも、120沢山(たくさん)の軍隊(ぐんたい)を率(つ)れて敵国(てきこく)を蹂躙(じうりん)し、121他人(たにん)の国(くに)を併呑(へいどん)するのもヤツパリ泥棒(どろばう)だ。122幸(さいはひ)に斯(か)うして軍刀(ぐんたう)を持(も)つてゐるのだから、123一(ひと)つ馬賊団(ばぞくだん)でも組織(そしき)して大(おほい)に発展(はつてん)せうぢやないか』
124丙(へい)『オイ両人(りやうにん)、125そんな馬鹿(ばか)な事(こと)を思(おも)ふものぢやない。126将軍(しやうぐん)様(さま)が下(くだ)さつた此(この)金(かね)を倹約(しまつ)して帰(かへ)れば、127国許(くにもと)へ帰(かへ)つて何(なに)か一(ひと)つの生産(せいさん)事業(じげふ)を起(おこ)すとか、128真面目(まじめ)な商売(しやうばい)をして、129両親(りやうしん)や妻子(さいし)を喜(よろこ)ばした方(はう)が何程(なにほど)可(い)いか知(し)れぬぞ。130将軍(しやうぐん)でさへも改心(かいしん)をなさつたのだから、131俺(おれ)達(たち)も之(これ)を機会(きくわい)に善心(ぜんしん)に立返(たちかへ)らうぢやないか』
132乙(おつ)『ヘン馬鹿(ばか)云(い)ふない。133詐偽(さぎ)本位(ほんゐ)の産業(さんげふ)や算盤持(そろばんも)てば人(ひと)を騙(だま)さうとする商売(しやうばい)が、134それが何(なに)尊(たふと)いのだ。135産業(さんげふ)立国(りつこく)とか云(い)つて、136ゼントルメンとやらが、137盛(さかん)に議論(ぎろん)をしてるやうだが、138ヤツパリ彼奴(あいつ)等(ら)も体(てい)のよい泥棒(どろばう)だ。139大会社(だいぐわいしや)だつて、140大商人(だいしやうにん)だつて、141皆(みな)詐偽(さぎ)と泥坊(どろばう)の体(てい)のいい奴(やつ)だ。142寧(むし)ろ陰悪(いんあく)主義(しゆぎ)の実行者(じつかうしや)だ。143泥棒(どろばう)様(さま)は堂々(だうだう)たる陽悪(やうあく)を行(おこな)ふのだから、144同(おな)じ罪悪(ざいあく)といつても気(き)が利(き)いてるぢやないか。145善(ぜん)の仮面(かめん)を被(かぶ)つて世(よ)の中(なか)を誑(たぶら)かし、146私利(しり)私欲(しよく)を企(たく)む位(くらゐ)、147陰険(いんけん)な卑怯(ひけふ)な悪魔(あくま)はないぢやないか』
148丙(へい)『さう云(い)へばさうかも知(し)れぬなア、149そんなら俺(おれ)も損者(そんじや)三友(さんいう)といふ事(こと)があるが、150損(そん)か得(とく)か知(し)らぬが、151今(いま)迄(まで)の交際(つきあい)上(じやう)、152お前(まへ)達(たち)に共鳴(きようめい)して、153泥棒(どろばう)会社(くわいしや)の重役(ぢうやく)にでもならうかなア』
154乙(おつ)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、155吾々(われわれ)は益友(えきいう)だ。156益者(えきしや)三友(さんいう)だ。157オイ、158丁(てい)、159戊(ぼう)、160汝(きさま)は何(ど)うだ。161此(この)方(はう)の意見(いけん)に共鳴(きようめい)するか。162今日(こんにち)只今(ただいま)より泥棒(どろばう)の開業(かいげふ)だ。163汝(きさま)不服(ふふく)とあれば泥棒(どろばう)の初商(はつあきな)ひに、164持物(もちもの)一切(いつさい)を剥(は)ぎ取(と)つてやるから有難(ありがた)く思(おも)へ』
165丁(てい)『そ、166そ、167そんな無茶(むちや)な事(こと)を言(い)ふものでない、168泥棒(どろばう)をしたい者(もの)は親(おや)や子(こ)のある者(もの)のすることぢやない。169俺(おれ)達(たち)は親(おや)もあれば子(こ)もあるのだから、170何卒(どうぞ)此(この)儘(まま)に助(たす)けてくれ。171なア戊(ぼう)、172お前(まへ)もさうだらう』
173戊(ぼう)『ウン、174私(わし)も老母(らうぼ)が一人(ひとり)残(のこ)つてるのだから、175親(おや)一人(ひとり)子(こ)一人(ひとり)だ。176「毎日(まいにち)日日(ひにち)バラモン大神(おほかみ)に……吾(わが)子(こ)が立派(りつぱ)な人間(にんげん)になりますやうに、177人(ひと)の物(もの)が欲(ほ)しいといふやうな根性(こんじやう)になりませぬやうに……と祈(いの)つてるから、178悪(わる)い心(こころ)は出(だ)してくれな」と家(うち)を出(で)る時(とき)に俺(おれ)の袖(そで)にすがつて意見(いけん)したのだから、179これ丈(だけ)は御免(ごめん)蒙(かうむ)りたいなア』
180乙(おつ)『アハハハハ、181腰抜(こしぬけ)だな。182そんなら今日(けふ)は開業祝(かいげふいはひ)に、183汝(きさま)等(ら)両人(りやうにん)は大目(おほめ)に見(み)てやる。184其(その)代(かは)りに懐(ふところ)に持(も)つてゐる金(かね)を半分(はんぶん)許(ばか)り此方(こちら)へよこせ。185大難(だいなん)を小難(せうなん)にまつりかへてやるのだから……』
186甲(かふ)『オイ乙(おつ)、187此奴(こいつ)等(ら)五(ご)人(にん)は今(いま)迄(まで)兄弟(きやうだい)同様(どうやう)にしてゐたのだから、188スツパリと許(ゆる)してやれ、189又(また)此処(ここ)に居(を)れば沢山(たくさん)人(ひと)が通(とほ)るから、190幾(いく)らでも商売(しやうばい)は出来(でき)るからのう』
191乙(おつ)『オイ、192丁(てい)、193戊(ぼう)両人(りやうにん)、194今日(けふ)は見逃(みのが)してやる。195汝(きさま)に軍刀(ぐんたう)を持(も)たしておくと、196気違(きちが)ひに刃物(はもの)を持(も)たしたやうなものだ。197なまじひ、198道徳(だうとく)に捉(とら)はれて、199天下(てんか)の為(ため)に害悪(がいあく)を除(のぞ)くのだなどと、200気(き)が狂(くる)ひ、201俺(おれ)等(たち)の寝首(ねくび)をかくかも知(し)れないから、202軍刀(ぐんたう)を此方(こちら)へよこせ』
203丁(てい)戊(ぼう)『これは故郷(こきやう)へ土産(みやげ)に持(も)つて帰(かへ)り、204家(いへ)の宝(たから)とするのだから、205決(けつ)してお前(まへ)達(たち)の首(くび)を狙(ねら)ふ気遣(きづか)ひはない。206何卒(どうぞ)、207スツパリと今日(けふ)は見逃(みのが)してくれ』
208乙(おつ)『エ、209そんなら、210汝(きさま)と俺(おれ)とは今日(けふ)から国交(こくかう)断絶(だんぜつ)だ。211サ、212一時(いつとき)も早(はや)く公使館(こうしくわん)を引上(ひきあ)げるのだ。213シーツ シーツ シーツ』
214丁(てい)『居留民(きよりうみん)は何(ど)う致(いた)しませうかな』
215乙(おつ)『エー、216キヨル(居留(きよりう))キヨルせずに、217早(はや)く退却(たいきやく)せぬかい、218汝(きさま)は最早(もはや)敵国(てきこく)の人民(じんみん)だ。219シーツ シーツ シーツ』
220 丁戊(ていぼう)は暗(やみ)の道(みち)を無性(むしやう)矢鱈(やたら)に、221星影(ほしかげ)を力(ちから)にし乍(なが)ら、222命(いのち)カラガラ逃(に)げて行(ゆ)く。
223 治道(ちだう)居士(こじ)は此(この)囁(ささや)きを聞(き)いて、224数珠(じゆず)をつまぐり乍(なが)ら声(こゑ)も涼(すず)しく、
225治道(ちだう)『或(わく)被(ひ)悪(あく)人(にん)逐(ちく) 堕(だ)落(らく)金(こん)剛(がう)山(せん) 念(ねん)彼(ぴ)観(くわん)音(のん)力(りき) 不(ふ)能(のう)損(そん)一(いち)毛(まう)
226 或(わく)値(ち)怨(をん)賊(ぞく)繞(ねう) 各(かく)執(しふ)刀(たう)加(か)害(がい) 念(ねん)彼(ぴ)観(くわん)音(のん)力(りき) 咸(げん)即(そく)起(き)慈(じ)心(しん)[※底本では漢文に返り点が付いているが、ここでは省略した。これは観音経の一部。訓読文は「或は悪人に逐はれて、金剛山より墜落せんに、彼の観音の力を念ずれば、一毛をも損すること能はず。或は怨賊の遶(めぐ)るに値(あ)ひ。各々刀を執つて害を加へられんに、彼の観音の力を念ずれば、咸(み)な即ち慈心を起さむ」釈宗演・述『観音経講話』大正7年、261頁より(https://dl.ndl.go.jp/pid/943693/1/145)]』
227と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に念(ねん)じ出(だ)した。
228甲(かふ)『オイ、229何(なん)だか気(き)にくわぬ事(こと)を言(い)ふぢやないか。230観音(くわんのん)の力(ちから)を念(ねん)じたら、231賊(ぞく)が忽(たちま)ち改心(かいしん)すると云(い)つてゐやがるやうだ。232オイ何(なん)だか幸先(さいさき)を折(を)られたやうで、233余(あま)り気持(きもち)が宜(よ)うないぢやないか、234チツとコラ、235思案(しあん)をしなほさななるまいぞ』
236乙(おつ)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、237念(ねん)彼(ぴ)観(くわん)音(のん)力(りき)もあつたものかい。238そんなこた、239屁(へ)でもないワイ。240尻喰(けつくら)へ観音力(くわんのんりき)だ。241そんな弱(よわ)い事(こと)で、242生存(せいぞん)競争(きやうそう)の泥棒(どろばう)社会(しやくわい)に紳士(しんし)として立(た)つて行(ゆ)く事(こと)が出来(でき)るか、243馬鹿(ばか)だなア。244どこの糞坊主(くそばうず)か知(し)らぬが、245俺(おれ)達(たち)が怖(こは)さに慄(ふる)ひ上(あが)つて、246仕様(しやう)もない無形(むけい)無声(むせい)の観音(くわんのん)を拝(をが)んだつて、247天教山(てんけうざん)の木花姫(このはなひめ)はメツタに降臨(かうりん)遊(あそ)ばす気遣(きづか)ひはないワ。248サア、249幸(さいはひ)いい鳥(とり)が来(き)よつたのだから、250彼奴(あいつ)だつて、251チツと位(ぐらゐ)旅費(りよひ)は持(も)つてるだらう。252商売初(しやうばいはじ)めだ。253コリヤ、254甲(かふ)、255丙(へい)、256チツと勉強(べんきやう)せぬかい。257ああ大商店(だいしやうてん)の主人(しゆじん)になると、258気(き)の揉(も)める事(こと)だワイ。259人(ひと)を使(つか)へば苦(く)を使(つか)ふ。260命掛(いのちがけ)の商売(しやうばい)をせうと思(おも)へば、261どうしても乾分(こぶん)に確(しつか)りした奴(やつ)がゐなくちや駄目(だめ)だ』
262と小声(こごゑ)に呟(つぶや)き乍(なが)ら、263治道(ちだう)居士(こじ)の声(こゑ)を目当(めあて)に近(ちか)より行(ゆ)く。264始(はじ)めての泥棒(どろばう)の事(こと)とて、265強(つよ)い事(こと)を口(くち)で云(い)つてゐても、266何処(どこ)ともなしに手足(てあし)がワナワナと慄(ふる)へてゐた。267甲(かふ)丙(へい)両人(りやうにん)も同(おな)じく慄(ふる)ひ乍(なが)ら乙(おつ)の後(うしろ)に跟(つ)いて行(ゆ)く。268祠(ほこら)の前(まへ)には雷(らい)の如(ごと)き鼾(いびき)が聞(きこ)えて居(ゐ)る。
269乙(おつ)『コココラ、270キキキサマは、271ドドドドコの奴(やつ)ぢやい。272ササ最前(さいぜん)から、273観音(くわんのん)を、274拝(をが)んでゐよつたが、275そんな事(こと)で、276ビクつくやうな泥棒(どろばう)さまぢやないぞ。277サア、278持物(もちもの)一切(いつさい)を、279綺麗(きれい)、280サツパリと、281此処(ここ)で脱(ぬ)いで……下(くだ)さいませぬか……ウン、282違(ちが)ふ違(ちが)ふ、283脱(ぬ)いで、284渡(わた)さぬかい。285厭(いや)ぢやなんぞと吐(ぬか)すが最後(さいご)、286汝(きさま)の素(そ)ツ首(くび)ひつつかまへ、287笠(かさ)の台(だい)をチヨン切(ぎ)つて炊(た)いて食(く)て了(しま)うてやるぞ。288俺(おれ)を何方(どなた)と心得(こころえ)てる。289バラモン教(けう)に於(おい)て驍名(げうめい)かくれなき鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)の部下(ぶか)ベル、290シャル、291ヘル三(さん)人(にん)だ。292サ、293綺麗(きれい)サツパリと脱(ぬ)いだり脱(ぬ)いだり。294コラ、295シャル、296ヘル、297汝(きさま)もチツと加勢(かせい)を致(いた)さぬかい……千騎(せんき)一騎(いつき)の場合(ばあひ)だぞ。298親方(おやかた)許(ばか)りに働(はたら)かすといふ事(こと)があるか』
299ヘル『さうだから、300こんな商売(しやうばい)は止(や)めといふのだよ』
301ベル『乗(の)りかけた舟(ふね)だ。302今(いま)となつて卑怯(ひけふ)未練(みれん)にやめられるかい。303鬼春別(おにはるわけ)様(さま)の顔(かほ)に泥(どろ)を塗(ぬ)るやうなものだ。304鬼春別(おにはるわけ)様(さま)は堂々(だうだう)と三千(さんぜん)の軍隊(ぐんたい)を引率(いんそつ)して、305強盗(がうたう)強姦(がうかん)放火(つけび)まで遊(あそ)ばしたでないか。306運(うん)がよければ人(ひと)の国(くに)まで占領(せんりやう)せうと云(い)ふ大泥棒(おほどろばう)さまだ。307それの乾児(こぶん)たる俺(おれ)達(たち)が、308そんな弱(よわ)い事(こと)でどうならうかい』
309ヘル『それでも、310将軍(しやうぐん)様(さま)は神(かみ)様(さま)の為(ため)、311国家(こくか)の危急(ききふ)を救(すく)ふ為(ため)に、312敵(てき)を亡(ほろ)ぼすべくお出(い)でになつたのだ。313つまり云(い)へば天下(てんか)公共(こうきよう)の為(ため)の泥棒(どろばう)だ。314一身(いつしん)一家(いつか)の利害(りがい)の為(ため)になさるのぢやないから、315一概(いちがい)には云(い)へまいぞ。316そんな事(こと)思(おも)うてると、317却(かへつ)て将軍(しやうぐん)様(さま)の顔(かほ)に泥(どろ)を塗(ぬ)るやうなものだぞ』
318ベル『エー、319弱(よわ)い奴(やつ)だな。320コリヤ修験者(しうげんじや)……か何(なに)か知(し)らぬが、321くたばつたとみえて、322念彼(ねんぴ)観音力(くわんのんりき)もほざかぬやうになつたでないか。323サア、324とつとと持物(もちもの)を渡(わた)したり渡(わた)したり』
325治道(ちだう)『拙者(せつしや)は治道(ちだう)と申(まを)す修験者(しうげんじや)で厶(ござ)る。326併(しか)し乍(なが)ら衣類(いるゐ)を渡(わた)す訳(わけ)にはいかぬ。327ここに金(かね)があるから、328之(これ)を其(その)方(はう)に遣(つか)はす。329一(いち)時(じ)も早(はや)く国元(くにもと)へ帰(かへ)り、330泥棒(どろばう)を思(おも)ひ切(き)つて、331正業(せいげふ)についたが宜(よ)からうぞ』
332ベル『ヤア、333此奴(こいつ)、334中々(なかなか)気(き)の利(き)いた事(こと)を言(い)ひやがるワイ、335オイ百(ひやく)両(りやう)や二百金(にひやくきん)の目腐(めくさ)れ金(がね)で、336遠(とほ)い道(みち)を歩(ある)いて国(くに)へ帰(かへ)れば、337後(あと)にや何(なん)にも残(のこ)らない。338一体(いつたい)幾(いく)ら渡(わた)すといふのだい』
339治道(ちだう)『これつきり、340泥棒(どろばう)をせないといふのならば、341相当(さうたう)に金(かね)を渡(わた)してやらぬ事(こと)はない。342幾(いく)らくれと云(い)ふのだ』
343ベル『ウーン、344一寸(ちよつと)待(ま)つてくれ。345一(ひと)つ計算(けいさん)をせぬと分(わか)らぬワイ。346……これからハルナの近在(きんざい)まで帰(かへ)る迄(まで)には、347何程(なにほど)倹約(けんやく)致(いた)しても一人前(いちにんまへ)百(ひやく)両(りやう)の金(かね)が入(い)る。348それから母者人(ははじやびと)の土産(みやげ)に百(ひやく)両(りやう)、349女房(にようばう)の土産(みやげ)に二百(にひやく)両(りやう)、350子供(こども)の土産(みやげ)に百(ひやく)両(りやう)、351都合(つがふ)五百(ごひやく)両(りやう)だ。352併(しか)しそれでは無一文(むいちもん)で商売(しやうばい)は出来(でき)ない。353何程(なにほど)ちつぽけな八百屋(やほや)店(みせ)を出(だ)しても、354八百屋(はつぴやくや)だから八百(はつぴやく)両(りやう)はいる。355さうすると一人前(ひとりまへ)千三百(せんさんびやく)両(りやう)、356都合(つがふ)三千(さんぜん)九百(きうひやく)両(りやう)だ。357そこへ千(せん)円(ゑん)は着物代(きものだい)として此方(こちら)へ綺麗(きれい)サツパリと渡(わた)せばよし、358四(し)の五(ご)の吐(ぬか)すと命(いのち)も共(とも)にバラして了(しま)ふぞ。359バラすのはバラモンの特色(とくしよく)だ』
360ヘル『モシモシ旅(たび)のお方(かた)、361余(あま)り厚(あつ)かましう申(まを)しますけれど、362此奴(こいつ)は云(い)ひかけたら聞(き)かぬ奴(やつ)ですから、363何卒(どうぞ)半分(はんぶん)でも宜(よろ)しいから恵(めぐ)んで下(くだ)さいますまいかな。364のうシャル、365皆(みな)貰(もら)ふのは余(あま)り厚(あつ)かましいぢやないか』
366ベル『エー、367傍(そば)から茶々(ちやちや)を入(い)れやがつて、368主人(しゆじん)の商売(しやうばい)を番頭(ばんとう)が邪魔(じやま)するといふ事(こと)があるか、369気(き)の利(き)かない奴(やつ)だなア』
370治道(ちだう)『四千(しせん)九百(くひやく)円(ゑん)は四(し)と九(く)がついて、371面白(おもしろ)くない。372ドツと張込(はりこ)んで五千(ごせん)両(りやう)やるから、373之(これ)を持(も)つて早(はや)く国許(くにもと)へ帰(かへ)り正業(せいげふ)に就(つ)いたが可(い)いぞ。374そして鬼春別(おにはるわけ)、375久米彦(くめひこ)其(その)他(た)のカーネルは、376何(いづ)れも三五教(あななひけう)の誠(まこと)の道(みち)に帰順(きじゆん)したのだから、377お前(まへ)達(たち)も国(くに)へ帰(かへ)つたら神(かみ)様(さま)を信仰(しんかう)し、378仮(か)りにも人(ひと)の物(もの)を盗(ぬす)んだり、379今(いま)迄(まで)のやうな殺伐(さつばつ)な事(こと)はキツとするでないぞ。380サ、381手(て)を出(だ)せ、382此処(ここ)に五千(ごせん)両(りやう)の包(つつ)みがある、383検(あらた)めて受取(うけと)つたがよからうぞ』
384 ベルは怖(おそ)れ乍(なが)ら、385声(こゑ)を知(し)るべに手(て)をニユツと出(だ)した。386鬼春別(おにはるわけ)の治道(ちだう)は、387其(その)手(て)をグツと握(にぎ)つた。
388ベル『アイタタタタ、389オイ皆(みな)の奴(やつ)、390大変(たいへん)手(て)の利(き)いた奴(やつ)だ。391チツと来(き)て加勢(かせい)をしてくれぬかい、392中々(なかなか)金(かね)をくれさうにないぞ』
393治道(ちだう)『アハハハハ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、394泥棒(どろばう)の失敗(しつぱい)も又(また)旅情(りよじやう)を慰(なぐさ)むるには一興(いつきよう)だ。395併(しか)し乍(なが)ら俺(おれ)も男(をとこ)だ。396五千(ごせん)両(りやう)恵(めぐ)んでやると云(い)つた以上(いじやう)は、397メツタに後(あと)へは引(ひ)かぬ。398道貫(だうくわん)、399素道(そだう)、400求道殿(きうだうどの)、401貴方(あなた)もいいかげんに目(め)を醒(さ)ましなさい。402面白(おもしろ)い事(こと)が出来(でき)て居(を)りますよ』
403道貫(だうくわん)『ハハハハ、404イヤ最前(さいぜん)から、405吾々(われわれ)三(さん)人(にん)は鼾(いびき)をかいて様子(やうす)を考(かんが)へて居(を)りました。406随分(ずいぶん)困(こま)つた奴(やつ)ですな。407三千(さんぜん)人(にん)の中(なか)では、408こんな奴(やつ)もタマには出来(でき)るでせう。409併(しか)し乍(なが)ら貴方(あなた)は五千(ごせん)両(りやう)やりますか、410然(しか)らば私(わたし)も一千(いつせん)両(りやう)やりませう』
411ベル『イヤ、412何処(どこ)の何方(どなた)か知(し)りませぬが、413有難(ありがた)う厶(ござ)ります。414何卒(なにとぞ)御(ご)姓名(せいめい)をお聞(き)かせ下(くだ)さいませ』
415治道(ちだう)『ウン、416俺(おれ)は治道(ちだう)といふ修験者(しうげんじや)だ。417お前(まへ)に千(せん)両(りやう)やらうといふは道貫(だうくわん)といふ男(をとこ)だ。418一(いち)時(じ)も早(はや)く国許(くにもと)へ帰(かへ)つて正業(せいげふ)に就(つ)いたがよからうぞ』
419 『ハイ有難(ありがた)う』と幾度(いくたび)も礼(れい)を云(い)ひ乍(なが)ら、420ベル、421シャル、422ヘルの三(さん)人(にん)は、423六千(ろくせん)両(りやう)の金(かね)を二千(にせん)両(りやう)づつ分配(ぶんぱい)し、424喜(よろこ)び勇(いさ)んで此(この)祠(ほこら)を暗(やみ)に紛(まぎ)れて立去(たちさ)りにける。
425(大正一二・三・四 旧一・一七 於竜宮館 松村真澄録)
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