霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
第1章 心転
第2章 道謡
第3章 万民
第4章 真異
第5章 飯の灰
第6章 洗濯使
第2篇 縁三寵望
第7章 朝餉
第8章 放棄
第9章 三婚
第10章 鬼涙
第3篇 玉置長蛇
第11章 経愕
第12章 霊婚
第13章 蘇歌
第14章 春陽
第15章 公盗
第16章 幽貝
第4篇 法念舞詩
第17章 万巌
第18章 音頭
第19章 清滝
第20章 万面
第21章 嬉涙
第22章 比丘
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第55巻(午の巻)
> 第2篇 縁三寵望 > 第8章 放棄
<<< 朝餉
(B)
(N)
三婚 >>>
第八章
放棄
(
はうき
)
〔一四一六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第2篇 縁三寵望
よみ(新仮名遣い):
えんさんちょうぼう
章:
第8章 放棄
よみ(新仮名遣い):
ほうき
通し章番号:
1416
口述日:
1923(大正12)年03月03日(旧01月16日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
アヅモスは炊事場に戻ると、お民に小言を言い始めた。アヅモスとお民は口げんかになった。お民はフエルにも矛先を向け、柄杓を水に汲んで二人にぶっかけた。アヅモスとフエルは鉄拳を振るってお民を叩きつけた。
お民の悲鳴を聞いて、番頭の一人・アーシスが走り来たり、お民からアヅモスを引き離した。フエルは逃げてしまった。アヅモスはアーシスを箒で叩きつけて、逃げてしまった。
アーシスは、お民の態度をたしなめて注意を与えた。アーシスはふと、お民に素性を尋ねた。お民は自分の母がビクトリヤ城に奉公に行っていた間に刹帝利のお手がかかって生まれたのだ、と明かした。一方アーシスも、自分は左守キュービットの落とし子だと明かした。
二人は出生の秘密を明かしたからには夫婦となろうと言いあった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-05-18 17:36:08
OBC :
rm5508
愛善世界社版:
99頁
八幡書店版:
第10輯 69頁
修補版:
校定版:
101頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
アヅモスはフエルと
共
(
とも
)
に
炊事場
(
すゐじば
)
に
帰
(
かへ
)
り、
002
下女
(
げぢよ
)
のお
民
(
たみ
)
を
捉
(
つか
)
まへてそろそろ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
003
アヅモス『オイ、
004
お
民
(
たみ
)
、
005
貴様
(
きさま
)
が
確
(
しつか
)
りしないものだから
大変
(
たいへん
)
な
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
いたぢやないか。
006
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
に
炊事
(
すゐじ
)
の
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
007
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
飯焚
(
めした
)
きが
肝腎
(
かんじん
)
だ。
008
折角
(
せつかく
)
の
珍客
(
ちんかく
)
さまに
灰
(
はひ
)
まぶれの
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
はさうとしたぢやないか、
009
ちと
心得
(
こころえ
)
ないと
当家
(
ここ
)
には
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬぞ』
010
お
民
(
たみ
)
『アヅモスの
番頭
(
ばんとう
)
さま、
011
さう
注文通
(
ちうもんどほり
)
に
御飯
(
ごはん
)
が
焚
(
た
)
けるものぢやありませぬよ、
012
今日
(
こんにち
)
の
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
でも
照
(
て
)
つたり
曇
(
くも
)
つたり
遊
(
あそ
)
ばすぢやありませぬか、
013
…………
014
朝夕
(
あさゆふ
)
の
飯
(
めし
)
さへこわし
柔
(
やはら
)
かし
015
兎角
(
とかく
)
まま
にはならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
……
016
と
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
さへあるぢやありませぬか。
017
さう
小言
(
こごと
)
を
仰有
(
おつしや
)
ると
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
から
尻
(
しり
)
をからげて「
左様
(
さやう
)
なら」と
出
(
で
)
かけませうか。
018
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
彼方
(
あちら
)
や
此方
(
こちら
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
工場
(
こうぢやう
)
が
出来
(
でき
)
て
女
(
をんな
)
は
払底
(
ふつてい
)
ですよ。
019
こんな
月給
(
げつきふ
)
の
安
(
やす
)
い
下女
(
げぢよ
)
になるものは
滅多
(
めつた
)
にありませぬよ。
020
私
(
わたし
)
が
此家
(
ここ
)
の
下女
(
げぢよ
)
に
来
(
き
)
て
上
(
あ
)
げたのは、
021
恩恵
(
おんけい
)
的
(
てき
)
に
社会
(
しやくわい
)
奉仕
(
ほうし
)
の
一端
(
いつたん
)
だと
思
(
おも
)
うて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのですよ。
022
万公別
(
まんこうわけ
)
と
云
(
い
)
ひ、
023
お
前
(
まへ
)
さまと
云
(
い
)
ひ
全然
(
まるきり
)
女
(
をんな
)
の
腐
(
くさ
)
つた
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
だな。
024
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
を
構
(
かま
)
ふ
腰抜
(
こしぬ
)
けは
目
(
め
)
なつと
噛
(
か
)
んで
死
(
し
)
んだがよろしいわいなア、
025
これでも
家政
(
かせい
)
学校
(
がくかう
)
を
卒業
(
そつげふ
)
した
シヤン
ですからねえ、
026
ヘン
余
(
あま
)
り
構
(
かま
)
うて
貰
(
もら
)
ひますまいかい』
027
アヅモス『
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るが、
028
今朝
(
けさ
)
の
料理
(
れうり
)
の
仕方
(
しかた
)
は
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だ。
029
あんな
加減
(
かげん
)
の
悪
(
わる
)
いものが
食
(
く
)
へると
思
(
おも
)
ふか、
030
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない』
031
お
民
(
たみ
)
『
食
(
く
)
へなけりや
食
(
く
)
はいでもよいぢやないか。
032
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
料理法
(
れうりはふ
)
を
知
(
し
)
らないものだからゴテゴテ
云
(
い
)
ふのだらう、
033
下司口
(
げすぐち
)
だからなア。
034
松魚節
(
かつを
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
035
昆布
(
こぶ
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
036
雑魚
(
ざこ
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
037
味
(
あぢ
)
の
素
(
もと
)
を
使
(
つか
)
つたか
弁別
(
べんべつ
)
のつかないやうな
下司口
(
げすぐち
)
が、
038
料理
(
れうり
)
の
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
がありますか』
039
アヅモス『
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない、
040
何
(
なん
)
だその
風
(
ふう
)
は、
041
のめのめと
売女
(
ばいた
)
の
出来損
(
できぞこな
)
い
見
(
み
)
たやうな
風
(
ふう
)
をしやがつて、
042
そんな
事
(
こと
)
で
立派
(
りつぱ
)
な
料理
(
れうり
)
が
出来
(
でき
)
ると
思
(
おも
)
ふか。
043
抑
(
そもそも
)
料理
(
れうり
)
に
取
(
と
)
りかかるには
襷
(
たすき
)
をかけるか、
044
エプロンを
着
(
つ
)
けるかして
身仕度
(
みじたく
)
をきちんとして
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
もバラバラせぬやうに、
045
そして
苔
(
こけ
)
の
生
(
は
)
えたやうな
手
(
て
)
を、
046
曹達
(
さうだ
)
ででも
洗
(
あら
)
つて
清潔
(
せいけつ
)
にしなければ、
047
折角
(
せつかく
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
黴菌
(
ばいきん
)
が
伝染
(
うつ
)
るぢやないか。
048
そして
米
(
こめ
)
を
磨
(
と
)
ぐにも
砂
(
すな
)
を
注意
(
ちうい
)
して
取
(
と
)
るのだ、
049
クレクレと
揺
(
ゆす
)
つて
居
(
を
)
ると
砂
(
すな
)
は
底
(
そこ
)
にイサルから
容易
(
ようい
)
なものだ。
050
今朝
(
けさ
)
のやうに
灰
(
はひ
)
や
砂
(
すな
)
の
混
(
まじ
)
つた
飯
(
めし
)
は
誰
(
たれ
)
だつて
食
(
く
)
はれぬぢやないか。
051
さうして
洗
(
あら
)
ふにもお
米
(
こめ
)
を
砕
(
くだ
)
かないやうにして、
052
水
(
みづ
)
が
澄
(
す
)
みきり
白水
(
しろみづ
)
がないとこ
迄
(
まで
)
洗
(
あら
)
ふのだぞ』
053
お
民
(
たみ
)
『エエ
八釜
(
やかま
)
しい
番頭
(
ばんとう
)
ぢやな。
054
お
前
(
まへ
)
さまは
何処
(
どこか
)
でボーイでもやつて
居
(
ゐ
)
たのかな、
055
好
(
よ
)
うこせこせと
釜
(
かま
)
の
下
(
した
)
までゴテづく
吝嗇坊
(
けちんばう
)
だなア』
056
アヅモス『
別
(
べつ
)
に
構
(
かま
)
ひたい
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いけれど、
057
余
(
あま
)
り
貴様
(
きさま
)
が
分
(
わか
)
らぬから、
058
一応
(
いちおう
)
料理法
(
れうりはふ
)
を
教
(
をし
)
へて
置
(
お
)
くのだ。
059
総
(
すべ
)
て
小鳥
(
ことり
)
や
魚
(
さかな
)
を
串
(
くし
)
にさして
焼
(
や
)
く
時
(
とき
)
は
火
(
ひ
)
を
遠
(
とほ
)
くし、
060
そして
強火
(
つよび
)
にした
方
(
はう
)
が、
061
美味
(
おい
)
しう
焼
(
や
)
けるものだ。
062
魚
(
さかな
)
は
身
(
み
)
の
方
(
はう
)
から、
063
小鳥
(
ことり
)
は
皮
(
かは
)
の
方
(
はう
)
から
焼
(
や
)
くのだよ。
064
昔
(
むかし
)
から
魚身
(
ぎよしん
)
鳥皮
(
てうひ
)
といふからなア、
065
充分
(
じゆうぶん
)
焼
(
や
)
いてから
裏
(
うら
)
がへさないと
不味
(
まづく
)
なる。
066
さうして
網
(
あみ
)
や
串
(
くし
)
の
焼
(
や
)
けた
後
(
あと
)
で
肉
(
にく
)
を
載
(
の
)
せるのだ。
067
それから
煮
(
に
)
る
時
(
とき
)
には
醤油
(
しやうゆ
)
や
水
(
みづ
)
を
十分
(
じふぶん
)
煮立
(
にた
)
たして
置
(
お
)
いて、
068
其
(
その
)
後
(
あと
)
に
入
(
い
)
れないと
甘
(
うま
)
い
汁
(
しる
)
が
出
(
で
)
て
仕舞
(
しま
)
ふのだ。
069
野菜
(
やさい
)
は
真青
(
まつさを
)
に
茹
(
ゆで
)
るには
湯
(
ゆ
)
に
塩
(
しほ
)
を
少
(
すこ
)
し
入
(
い
)
れて
蓋
(
ふた
)
をせずに
茹
(
ゆで
)
ると
其
(
その
)
儘
(
まま
)
の
色
(
いろ
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
070
さうして
茹
(
ゆだ
)
つたら
直
(
すぐ
)
冷
(
つめ
)
たい
水
(
みづ
)
に
入
(
い
)
れるのだ。
071
牛蒡
(
ごばう
)
や、
072
蕗
(
ふき
)
や、
073
筍
(
たけのこ
)
や、
074
百合根
(
ゆりね
)
等
(
など
)
の
灰汁
(
あく
)
の
強
(
つよ
)
いものは
一
(
いつ
)
たん
湯掻
(
ゆが
)
いてから
煮
(
た
)
くのだ。
075
さうして
使
(
つか
)
うた
道具
(
だうぐ
)
はいつも
定
(
きま
)
つた
場所
(
ばしよ
)
へキチンと
置
(
お
)
いて
置
(
お
)
くのだ、
076
清潔
(
きれい
)
に
磨
(
みが
)
いて
元
(
もと
)
の
所
(
ところ
)
へちやんと
戻
(
もど
)
して
置
(
お
)
かぬとまさかの
時
(
とき
)
に
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はぬぞ。
077
棚
(
たな
)
の
上
(
うへ
)
に
塵
(
ちり
)
が
溜
(
たま
)
つて
居
(
を
)
るか
居
(
を
)
らぬかそれも
考
(
かんが
)
へて
網
(
あみ
)
や
串
(
くし
)
や、
078
薄鍋
(
うすなべ
)
を
置
(
お
)
いて
置
(
お
)
くのだ。
079
そして
余
(
あま
)
つた
食物
(
たべもの
)
は
蠅不入
(
はいいらず
)
に
入
(
い
)
れるか、
080
布巾
(
ふきん
)
をかけて
置
(
お
)
くのだぞ』
081
お
民
(
たみ
)
『エエ
矢釜
(
やかま
)
しい、
082
お
前
(
まへ
)
さまは
土方
(
どかた
)
の
飯焚
(
めした
)
きでも
仕
(
し
)
て
居
(
ゐ
)
たのだらう。
083
余
(
あま
)
り
喋
(
しやべ
)
るとお
里
(
さと
)
が
見
(
み
)
えますぞや』
084
アヅモス『これやお
民
(
たみ
)
、
085
土方
(
どかた
)
の
飯焚
(
めした
)
きとは
何
(
なん
)
だ。
086
女
(
をんな
)
と
思
(
おも
)
うて
容赦
(
ようしや
)
をすれば
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
087
不調法
(
ぶてうはふ
)
しておきやがつて
何
(
なに
)
を
口答
(
くちごた
)
へをするのぢや、
088
これでも
一家
(
いつか
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
だぞ』
089
お
民
(
たみ
)
『ホホホホ。
090
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
なんて
尻
(
けつ
)
が
呆
(
あき
)
れますわい。
091
当家
(
たうけ
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
はシーナさまぢやありませぬか、
092
お
前
(
まへ
)
さまは
二
(
に
)
の
番頭
(
ばんとう
)
だ。
093
そこらの
隅
(
すみ
)
くたを
掃除
(
さうぢ
)
大臣
(
だいじん
)
だ。
094
ごたごた
云
(
い
)
はずと
箒
(
はうき
)
なともつて
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
を
掃
(
は
)
いて
来
(
き
)
なさい。
095
万公山
(
まんこうやま
)
が
破裂
(
はれつ
)
して
大変
(
たいへん
)
な
灰
(
はひ
)
が
降
(
ふ
)
つて
居
(
ゐ
)
ますぞよ。
096
箒
(
はうき
)
を
使
(
つか
)
つたらチヤンと
釘
(
くぎ
)
にかけて
置
(
お
)
くのですよ。
097
其処辺
(
そこら
)
に
立
(
た
)
てて
置
(
お
)
くと
箒
(
はうき
)
の
先
(
さき
)
がサツパリ
薙刀
(
なぎなた
)
のやうになつて
仕舞
(
しま
)
ひますぞや。
098
そしてハタキは
手首
(
てくび
)
を
下
(
さ
)
げて、
099
天井裏
(
てんじやううら
)
から
障子
(
しやうじ
)
の
棧
(
さん
)
と
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
へパタパタとはたくのですよ。
100
どうしても
動
(
うご
)
かせない
道具
(
だうぐ
)
は
被物
(
おほひ
)
をしておいて
隅
(
すみ
)
から
掃
(
は
)
いて
来
(
く
)
るのです。
101
そして
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
に
逆
(
さか
)
らうと、
102
塵埃
(
ほこり
)
が
皆
(
みんな
)
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
に
滲
(
にじ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ひますよ。
103
箒
(
はうき
)
の
先
(
さき
)
を
跳
(
は
)
ねんやうにしてソツソツと
掃
(
は
)
くのですよ、
104
それが
済
(
す
)
んだら
椽側
(
えんがは
)
の
掃除
(
さうぢ
)
をしなさい。
105
雑巾
(
ざふきん
)
を
緩
(
ゆる
)
う
堅
(
かた
)
う
絞
(
しぼ
)
つて、
106
板
(
いた
)
の
目
(
め
)
なりに
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて
拭
(
ふ
)
くのだよ。
107
角
(
すみ
)
の
所
(
ところ
)
は
雑巾
(
ざふきん
)
を
三角
(
さんかく
)
にして
拭
(
ふ
)
けば
綺麗
(
きれい
)
になりますわ。
108
夫
(
それ
)
からニス、
109
漆
(
うるし
)
や、
110
桧
(
ひのき
)
の
柱
(
はしら
)
は
乾布巾
(
からぶきん
)
で
念入
(
ねんい
)
れに
拭
(
ふ
)
くのですよ。
111
きつと
濡
(
ぬ
)
れた
雑巾
(
ざふきん
)
で
拭
(
ふ
)
いてはなりませぬぞえ』
112
アヅモス『これお
民
(
たみ
)
、
113
何
(
なん
)
だ
下女
(
げぢよ
)
の
癖
(
くせ
)
に
番頭
(
ばんとう
)
に
指揮
(
さしづ
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか』
114
お
民
(
たみ
)
『ヘン
私
(
わたし
)
が
下女
(
げぢよ
)
なら、
115
お
前
(
まへ
)
は
下男
(
げなん
)
ぢや、
116
余
(
あま
)
り
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
ひますまいか。
117
これこれフエルさま お
前
(
まへ
)
が
灰撒
(
はひまき
)
の
発頭人
(
ほつとうにん
)
だ。
118
何
(
なに
)
をグヅグヅして
居
(
ゐ
)
るのだ、
119
早
(
はや
)
くアヅモスの
下男
(
げなん
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
掃除
(
さうぢ
)
をしなさらぬかいなア』
120
フエル『さう
矢釜
(
やかま
)
しゆ
云
(
い
)
ふない。
121
俺
(
おれ
)
だつて
今朝
(
けさ
)
迄
(
まで
)
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
へ
罪人
(
ざいにん
)
同様
(
どうやう
)
突込
(
つつこ
)
まれて
居
(
ゐ
)
たのだから、
122
些
(
ちつ
)
とは
休養
(
きうやう
)
しなければやりきれぬぢやないか』
123
お
民
(
たみ
)
は、
124
お民
『エエこの
女郎
(
めらう
)
男
(
をとこ
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
奴
(
め
)
』
125
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
柄杓
(
ひしやく
)
に
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
んで
二人
(
ふたり
)
にぶツかけた。
126
アヅモス、
127
フエルは
真赤
(
まつか
)
になつて、
128
アヅモス、フエル
『これやお
民
(
たみ
)
、
129
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるな、
130
これを
喰
(
くら
)
へ』
131
と
双方
(
さうはう
)
から
鉄拳
(
てつけん
)
を
振
(
ふる
)
つて
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
を
叩
(
たた
)
き
付
(
つ
)
けて
居
(
ゐ
)
る。
132
お
民
(
たみ
)
は
荒男
(
あらをとこ
)
二人
(
ふたり
)
に
叩
(
たた
)
きつけられ、
133
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げて『
人殺
(
ひとごろし
)
ー
人殺
(
ひとごろし
)
ー』と
叫
(
さけ
)
び
出
(
だ
)
した。
134
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いてアーシスは
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
135
いきなりアヅモスの
首
(
くび
)
に
手拭
(
てぬぐ
)
ひを
後
(
うしろ
)
からパツと
引
(
ひ
)
つかけグツと
引
(
ひ
)
き
倒
(
たふ
)
した。
136
フエルはこの
権幕
(
けんまく
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
裏口
(
うらぐち
)
から
細
(
ほそ
)
くなつて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
しけり。
137
お
民
(
たみ
)
『アーシスさま
好
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
138
此奴
(
こいつ
)
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
やがつて
仕方
(
しかた
)
がないので
水
(
みづ
)
をかけてやりましたら、
139
男
(
をとこ
)
らしうもない、
140
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
に
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
が
鉄拳
(
てつけん
)
を
振
(
ふる
)
つて
喧嘩
(
けんくわ
)
を
買
(
か
)
ひに
来
(
き
)
よつたのですよ』
141
アーシス『
本当
(
ほんたう
)
に
無茶
(
むちや
)
の
事
(
こと
)
をする
男
(
をとこ
)
ですね。
142
オイ、
143
アヅモス
何
(
なん
)
だ、
144
下女
(
げぢよ
)
を
捉
(
つか
)
まへて
余
(
あま
)
り
大人気
(
おとなげ
)
ないぢやないか』
145
アヅモス『エーチヨツ、
146
横合
(
よこあひ
)
から
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
やがつて
ちよつかい
を
出
(
だ
)
しやがるものだから、
147
折角
(
せつかく
)
の
折檻
(
せつかん
)
がワヤになつて
仕舞
(
しま
)
つた。
148
コリヤ、
149
アーシス、
150
俺
(
おれ
)
の
喉
(
のど
)
を
締
(
し
)
めてどうするのだ、
151
これ
見
(
み
)
よ、
152
痕
(
かた
)
がついて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
153
アーシス『
喧嘩
(
けんくわ
)
の
結末
(
かた
)
がついたらそれでよいぢやないか。
154
アー
偉
(
えら
)
い
畳中
(
たたみぢう
)
が
灰
(
はひ
)
だらけだ。
155
ちと
箒
(
はうき
)
なと
持
(
も
)
つて
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
を
掃除
(
さうぢ
)
して
来
(
こ
)
い。
156
これだけお
客
(
きやく
)
さまで
忙
(
いそが
)
しいのに、
157
女
(
をんな
)
を
相手
(
あひて
)
にして
居
(
ゐ
)
る
所
(
どころ
)
かい』
158
アヅモス『
此奴
(
こいつ
)
もお
民
(
たみ
)
が
感染
(
かんせん
)
したと
見
(
み
)
えて
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
て
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
てと
吐
(
ぬか
)
しやがるな。
159
箒
(
はうき
)
に
憚
(
はばか
)
りさまだ』
160
アーシス『
貴様
(
きさま
)
は
何時
(
いつ
)
も
ほうき
の
守
(
かみ
)
だといつて
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
ゐ
)
たぢやないか。
161
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
つのは
貴様
(
きさま
)
の
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うて
居
(
ゐ
)
るわ。
162
サア
早
(
はや
)
く
掃
(
は
)
いたり
掃
(
は
)
いたり』
163
アヅモスは
庭箒
(
にははうき
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
164
アーシスの
頭
(
かしら
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
165
アヅモス『コリヤ、
166
伯耆
(
はうき
)
の
守
(
かみ
)
さまが、
167
貴様
(
きさま
)
の
頭
(
かしら
)
を
播磨
(
はりま
)
の
守
(
かみ
)
さまだ』
168
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らピシヤピシヤと
撲
(
なぐ
)
りつけ
尻
(
しり
)
に
帆
(
ほ
)
をかけて
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つた。
169
アーシスは
怒
(
いか
)
つてアヅモスの
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つ
駆
(
か
)
けようとするのを、
170
お
民
(
たみ
)
はグツと
抱
(
だ
)
き
止
(
と
)
め
声
(
こゑ
)
を
慄
(
ふる
)
はして、
171
お
民
(
たみ
)
『もしもし
貴方
(
あなた
)
、
172
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ、
173
これだけ
沢山
(
たくさん
)
のお
客
(
きやく
)
さまでお
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
みでもあり、
174
病人
(
びやうにん
)
さまもあるのに、
175
番頭
(
ばんとう
)
同士
(
どうし
)
が
喧嘩
(
けんくわ
)
なさつては
家
(
うち
)
の
親方
(
おやかた
)
に
済
(
す
)
みませぬ。
176
又
(
また
)
スガールさまやスミエルさまの
病気
(
びやうき
)
に
障
(
さは
)
るといけませぬからなア』
177
アーシス『さうだと
云
(
い
)
つて
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にする
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬぢやないか、
178
後
(
のち
)
の
為
(
ため
)
にならぬからなア』
179
お
民
(
たみ
)
『まアまア
今日
(
けふ
)
は
辛抱
(
しんばう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ、
180
親方
(
おやかた
)
や
娘
(
むすめ
)
さまが
心配
(
しんぱい
)
なさいますからな』
181
アーシス『ウンそれもさうだ。
182
そんならお
前
(
まへ
)
の
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
つて
今日
(
けふ
)
は
忘
(
わす
)
れる
事
(
こと
)
にせう。
183
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
も
此
(
この
)
家
(
うち
)
へ
来
(
き
)
たらチツと
言葉
(
ことば
)
を
改
(
あらた
)
めて
呉
(
く
)
れぬと
困
(
こま
)
るよ。
184
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
を
親方
(
おやかた
)
と
云
(
い
)
つたり、
185
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
の
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
んだりすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか』
186
お
民
(
たみ
)
『そんなら
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたらよいのですか』
187
アーシス『お
上
(
かみ
)
の
方
(
かた
)
をお
呼
(
よ
)
びするには
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
を
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
188
奥様
(
おくさま
)
はお
部屋
(
へや
)
様
(
さま
)
とか
奥様
(
おくさま
)
とか
云
(
い
)
つてよい。
189
さうして
御
(
ご
)
老人
(
らうじん
)
は
御
(
ご
)
隠居
(
いんきよ
)
様
(
さま
)
とか、
190
大旦那
(
おほだんな
)
様
(
さま
)
とか
申上
(
まをしあげ
)
るのだよ。
191
男
(
をとこ
)
のお
子様
(
こさま
)
なれば
坊
(
ばう
)
様
(
さま
)
、
192
女
(
をんな
)
のお
子
(
こ
)
はお
嬢様
(
ぢやうさま
)
、
193
或
(
あるひ
)
は
坊
(
ばう
)
ちやま、
194
お
嬢
(
ぢやう
)
さまなど
云
(
い
)
つたらよい。
195
二人
(
ふたり
)
以上
(
いじやう
)
の
時
(
とき
)
は
大
(
おほ
)
きな
坊
(
ばう
)
ちやま、
196
小
(
ちひ
)
さいお
嬢様
(
ぢやうさま
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
197
そして
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
私
(
わたくし
)
と
云
(
い
)
ひ、
198
ウチ
だとか、
199
アテ
だとか、
200
ワタシ
などは
見
(
み
)
つともないから
云
(
い
)
はぬがいい。
201
さうして
受
(
う
)
け
答
(
ごた
)
へは
ヘエ
なんと
云
(
い
)
つてはいけない、
202
ハイ
と
云
(
い
)
ふのだよ。
203
朝
(
あさ
)
起
(
お
)
きたらお
上
(
かみ
)
へ
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
をするのに「お
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
います」と
云
(
い
)
ひ、
204
晩
(
ばん
)
は「お
寝
(
やす
)
み
遊
(
あそ
)
ばせ」、
205
外出
(
ぐわいしゆつ
)
の
時
(
とき
)
には「
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります」、
206
自分
(
じぶん
)
の
用事
(
ようじ
)
で
外出
(
ぐわいしゆつ
)
する
時
(
とき
)
は「
一寸
(
ちよつと
)
やつて
頂
(
いただ
)
きます」と
云
(
い
)
ふのだ。
207
帰宅
(
きたく
)
の
時
(
とき
)
は「
唯今
(
ただいま
)
帰
(
かへ
)
りました」、
208
御飯
(
ごはん
)
の
時
(
とき
)
は「
頂
(
いただ
)
きます」とか、
209
「
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します」とか
云
(
い
)
ふのだ。
210
そして
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
外出
(
ぐわいしゆつ
)
の
時
(
とき
)
は「
行
(
い
)
つていらつしやいませ」、
211
お
帰
(
かへ
)
りになつた
時
(
とき
)
には「お
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしませ」と、
212
かう
叮嚀
(
ていねい
)
に
云
(
い
)
ふのだよ。
213
総
(
すべ
)
て
言葉使
(
ことばづかひ
)
はハツキリと
叮嚀
(
ていねい
)
にさうして
柔
(
やさ
)
しみのあるやうに
注意
(
ちゆうい
)
するのだ。
214
使
(
つかひ
)
に
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
たら、
215
必
(
かなら
)
ず
直様
(
すぐさま
)
復命
(
ふくめい
)
しなくてはならない。
216
後
(
あと
)
から
序
(
ついで
)
に
申上
(
まをしあげ
)
ますと
云
(
い
)
ふやうな
懶惰事
(
ずるいこと
)
をやつて
居
(
を
)
ると
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
肝腎
(
かんじん
)
の
用
(
よう
)
を
忘
(
わす
)
れて
仕舞
(
しま
)
ふからなア』
217
お
民
(
たみ
)
『
何
(
なん
)
とまア
此処
(
ここ
)
の
内
(
うち
)
の
男衆
(
をとこしう
)
は
俄
(
にはか
)
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
を
初
(
はじ
)
め、
218
誰人
(
たれ
)
も
彼
(
か
)
れも
女
(
をんな
)
みたやうな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
が
集
(
よ
)
つたものだ、
219
オホホホホ、
220
これで
私
(
わたし
)
も
大分
(
だいぶん
)
に
勉強
(
べんきやう
)
を
致
(
いた
)
しました』
221
アーシス『お
民
(
たみ
)
さま、
222
お
前
(
まへ
)
はどこともなしに
下女
(
げぢよ
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
垢抜
(
あかぬけ
)
がして
居
(
ゐ
)
るが、
223
実際
(
じつさい
)
は
何処
(
どこ
)
から
来
(
き
)
たのだ。
224
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだな』
225
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
はビクの
城下
(
じやうか
)
に
生
(
うま
)
れた
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
226
一寸
(
ちよつと
)
様子
(
やうす
)
があつて
親
(
おや
)
の
名
(
な
)
を
名乗
(
なの
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのですよ』
227
アーシス『ウンさうすると
父
(
てて
)
なし
子
(
ご
)
だな』
228
お
民
(
たみ
)
『まアそんなものでせう。
229
併
(
しか
)
し
父親
(
てておや
)
なしに
出来
(
でき
)
る
子
(
こ
)
は
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
もありますまいから
何処
(
どこ
)
かにあるでせう』
230
アーシス『お
前
(
まへ
)
の
父親
(
てておや
)
と
云
(
い
)
ふのは
一体
(
いつたい
)
誰
(
たれ
)
だ』
231
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
は
血沼
(
ちぬ
)
の
村
(
むら
)
の
卓助
(
たくすけ
)
と
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
に
育
(
そだ
)
てられた
者
(
もの
)
ですが、
232
私
(
わたし
)
のお
父
(
とう
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
です。
233
私
(
わたし
)
の
母
(
はは
)
が
奉公
(
ほうこう
)
に
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
つて
腹
(
おなか
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
234
奥様
(
おくさま
)
が
八釜
(
やかま
)
しいので
父
(
ちち
)
が
金
(
かね
)
をつけて
卓助
(
たくすけ
)
の
家
(
うち
)
にやつたのださうですが、
235
養家
(
やうか
)
の
両親
(
りやうしん
)
も
既
(
すで
)
に
亡
(
な
)
くなつて
仕舞
(
しま
)
ひ、
236
只
(
ただ
)
の
一人
(
ひとり
)
ぼつちで
仕方
(
しかた
)
がないので
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
を
奉公
(
ほうこう
)
し
歩
(
ある
)
き、
237
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
に
此処
(
ここ
)
に
雇
(
やと
)
はれたのです』
238
アーシス『
実
(
じつ
)
の
事
(
こと
)
は
俺
(
おれ
)
もビクトリヤ
城下
(
じやうか
)
の
生
(
うま
)
れだが、
239
そいつは
妙
(
めう
)
だなア』
240
お
民
(
たみ
)
『ヘエ
貴方
(
あなた
)
もビクトリヤ
城下
(
じやうか
)
ですか、
241
さうしてお
父
(
とう
)
さまは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
です』
242
アーシス『これは
秘密
(
ひみつ
)
だから
云
(
い
)
はれないのだが、
243
人
(
ひと
)
に
云
(
い
)
はなければ
知
(
し
)
らしてやらう。
244
俺
(
おれ
)
も
実
(
じつ
)
はこの
村
(
むら
)
へ、
245
そつと
里子
(
さとご
)
にやられたのだ。
246
俺
(
おれ
)
の
父
(
ちち
)
といふのは
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
のキユービツトと
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
だ。
247
何
(
なん
)
でも
下女
(
げぢよ
)
との
中
(
なか
)
に
俺
(
おれ
)
が
生
(
うま
)
れたので、
248
藁
(
わら
)
の
上
(
うへ
)
から
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
首陀
(
しゆだ
)
の
家
(
うち
)
へやつて
仕舞
(
しま
)
つたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
249
どうかして
一遍
(
いつぺん
)
遇
(
あ
)
ひたいのだけれど、
250
名乗
(
なの
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかず
困
(
こま
)
つたものだよ。
251
さうして
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
は
誰
(
たれ
)
の
子
(
こ
)
だい』
252
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
のお
母
(
かあ
)
さまは
皐月
(
さつき
)
と
云
(
い
)
ひました。
253
ビクトリヤ
城内
(
じやうない
)
へ
御
(
ご
)
奉公
(
ほうこう
)
に
上
(
あが
)
つて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
、
254
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
のお
手
(
て
)
が
掛
(
か
)
かつて
腹
(
おなか
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
255
それが
為
(
ため
)
にそつと
卓助
(
たくすけ
)
の
家
(
うち
)
へ
下
(
くだ
)
されたのださうです。
256
こんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
うと
私
(
わたし
)
の
命
(
いのち
)
が
無
(
な
)
くなりますから、
257
どうぞ
秘密
(
ひみつ
)
に
頼
(
たの
)
みますよ』
258
アーシス『
成程
(
なるほど
)
道理
(
だうり
)
でどこともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
がある。
259
ヤア
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました』
260
お
民
(
たみ
)
『
斯
(
か
)
う
双方
(
さうはう
)
から
何事
(
なにごと
)
も
打
(
う
)
ち
合
(
あ
)
けた
以上
(
いじやう
)
は、
261
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
貴方
(
あなた
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつたらどうでせう、
262
さうすれば
互
(
たがひ
)
に
秘密
(
ひみつ
)
が
守
(
まも
)
れますからなア』
263
アーシス『そりや
有難
(
ありがた
)
いが
何
(
なん
)
だか
勿体
(
もつたい
)
無
(
な
)
いやうな
気
(
き
)
がしてならないわ、
264
世
(
よ
)
が
世
(
よ
)
ならお
前
(
まへ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
王女
(
わうぢよ
)
様
(
さま
)
だ。
265
私
(
わたし
)
は
臣
(
けらい
)
の
身分
(
みぶん
)
だからなア』
266
お
民
(
たみ
)
『そんな
斟酌
(
しんしやく
)
が
要
(
い
)
りますか、
267
サア
手
(
て
)
つ
取
(
と
)
り
早
(
ばや
)
く
相談
(
さうだん
)
を
定
(
き
)
めやうぢやありませぬか』
268
斯
(
か
)
く
二人
(
ふたり
)
が
話
(
はな
)
して
居
(
を
)
る
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
何人
(
なにびと
)
とも
知
(
し
)
れず
足音
(
あしおと
)
がスウスウと
次第
(
しだい
)
に
細
(
ほそ
)
く
消
(
き
)
えてゆく。
269
これはアヅモスが
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
立
(
た
)
ち
聞
(
ぎ
)
きして
居
(
ゐ
)
たのである。
270
(
大正一二・三・三
旧一・一六
於竜宮館
加藤明子
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 朝餉
(B)
(N)
三婚 >>>
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第55巻(午の巻)
> 第2篇 縁三寵望 > 第8章 放棄
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第8章 放棄|第55巻|真善美愛|霊界物語|/rm5508】
合言葉「みろく」を入力して下さい→