霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 公憤(こうふん)私憤(しふん)〔一六四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上 篇:第3篇 花笑蝶舞 よみ(新仮名遣い):かしょうちょうぶ
章:第11章 公憤私憤 よみ(新仮名遣い):こうふんしふん 通し章番号:1640
口述日:1923(大正12)年07月12日(旧05月29日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台:橄欖山の山頂 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-05-24 11:55:41 文字数:4767 OBC :rm64a11
愛善世界社版:121頁 八幡書店版:第11輯 422頁 修補版: 校定版:121頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 夏風(なつかぜ)に青葉(あをば)のそよぐ橄欖山(かんらんざん)の頂上(ちやうじやう)に三(さん)人(にん)のアラブが立(た)つて雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つてゐる。002キドロンの谷(たに)からは白(しろ)い煙(けぶり)のやうな雲(くも)がしづしづと橄欖山(かんらんざん)上(じやう)目(め)がけて襲(おそ)うて来(く)る。003ユダヤ人(じん)の計画(けいくわく)したシオン大学(だいがく)の基礎(きそ)工事(こうじ)は殆(ほとん)ど落成(らくせい)に近付(ちかづ)き、004樵夫(きこり)や大工(だいく)や手伝(てつだひ)が幾十(いくじふ)人(にん)となく忙(いそが)しげに活動(くわつどう)を為(な)し居(ゐ)たり。
005 アラブはテク、006トンク、007ツーロと云(い)ふ三(さん)人(にん)である。
008テク『オイ、009吾々(われわれ)は回々教(フイフイけう)のピユリタンとして朝夕(あさゆふ)忠実(ちうじつ)に神(かみ)に仕(つか)へ、010そして僅(わづか)の賃金(ちんぎん)を貰(もら)つて異教徒(いけうと)の頤使(いし)に甘(あま)んじ、011駱駝(らくだ)のやうにこき使(つか)はれてゐるのも、012余(あま)り気(き)が利(き)かぬぢやないか。013たうとうユダヤ人(じん)奴(め)、014パレスチナの本国(ほんごく)を取返(とりかへ)し、015此(この)聖地(せいち)を吾物顔(わがものがほ)に振舞(ふるま)ひ、016おれ達(たち)の仲間(なかま)を見(み)ると、017丸(まる)で奴隷(どれい)の様(やう)に虐待(ぎやくたい)するだないか、018朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)同(おな)じ様(やう)に働(はたら)いて、019ユダヤ人(じん)は一弗(いちドル)の俸給(ほうきふ)を貰(もら)ひ、020おれ達(たち)は半弗(はんドル)よりくれやがらぬのだから……本当(ほんたう)に亡国(ばうこく)の民(たみ)になりたくないものだなア』
021ツーロ『何(なん)と云(い)つても仕方(しかた)がないサ。022強(つよ)い者(もの)の強(つよ)い弱(よわ)い者(もの)の弱(よわ)い時節(じせつ)だからなア。023ユダヤ人(じん)だつて、024二千(にせん)六百(ろくぴやく)年(ねん)が間(あひだ)、025亡国(ばうこく)の民(たみ)として今迄(いままで)苦(くるし)んで来(き)たのだから仕方(しかた)がないよ。026チツとは威張(ゐば)らしてやつてもよかろ。027なア、028トンク』
029トンク『彼奴(あいつ)ア、030世界(せかい)統一(とういつ)を夢(ゆめ)みてゐやがつたのだが、031到頭(たうとう)時節(じせつ)が到来(たうらい)して神(かみ)の選(えら)まれたパレスチナの本国(ほんごく)を吾(わが)手(て)に入(い)れたのだから、032何(なん)といつても世界(せかい)の覇者(はしや)だ。033長(なが)い物(もの)に巻(ま)かれ……と云(い)ふのだから、034おれ達(たち)の身(み)の安全(あんぜん)を計(ばか)らうと思(おも)へばマア辛抱(しんばう)するのだな。035半分(はんぶん)でも月給(げつきふ)くれるのはまだしも得(とく)だよ、036贅沢(ぜいたく)さへしなけりや、037生活(せいくわつ)を続(つづ)けて行(ゆ)けるのだからなア。038さう不平(ふへい)を云(い)ふものだないワ、039何事(なにごと)も有難(ありがた)い有難(ありがた)いで暮(くらし)さへすれば世(よ)の中(なか)は無事(ぶじ)泰平(たいへい)だ。040神(かみ)様(さま)の為(ため)に働(はたら)くと思(おも)へば何程(なにほど)月給(げつきふ)が安(やす)くても待遇(たいぐう)に差別(さべつ)があつても構(かま)はぬぢやないか。041それを忍(しの)ぶのが回々教(フイフイけう)のピユリタンたる務(つと)めだからなア』
042テク『何(なん)と云(い)つても、043おれは不平(ふへい)でたまらないワ。044おれは自分(じぶん)一人(ひとり)の生活(せいくわつ)が何(ど)うだのかうだのと云(い)つて、045ソンナケチなことをボヤクのだない、046アラブ一党(いつたう)の為(ため)に此(この)差別(さべつ)的(てき)待遇(たいぐう)を憤慨(ふんがい)するのだ。047不平(ふへい)にも色々(いろいろ)の色合(いろあひ)があつて、048公憤(こうふん)と私憤(しふん)がある。049おれたちのは決(けつ)して私憤(しふん)ではない天下(てんか)の公憤(こうふん)だよ』
050ツーロ『何程(なんぼ)公憤(こうふん)だと云(い)つても、051蚯蚓(みみづ)が土中(どちう)でないてるよなもので、052何(なん)の影響(えいきやう)も及(およ)ぼすまい、053おれ達(たち)だつてテクの言(ことば)位(ぐらゐ)には興奮(こうふん)し、054大(おほい)にアラブの為(ため)に気焔(きえん)を吐(は)く所(ところ)迄(まで)は行(ゆ)かない。055何事(なにごと)も時節(じせつ)だからなア』
056テク『貴様(きさま)はそれだから、057何時迄(いつまで)もラクダの尻叩(けつたた)き計(ばか)りして居(を)らねばならぬのだ。058公憤(こうふん)のないやうな人間(にんげん)は最早(もはや)人間(にんげん)の資格(しかく)がないのだ』
059ツーロ『ヘン、060汝(おまへ)のは余(あま)り公憤(こうふん)でもあるまいぢやないか。061大体(だいたい)の問題(もんだい)が僅(わづか)半弗(はんドル)の喰違(くひちが)ひから起(おこ)つたのだらう、062そんな所(ところ)へ公憤(こうふん)を使(つか)つて貰(もら)つちや、063公憤(こうふん)が落涙(らくるい)するだらう。064抑(そもそ)も公憤(こうふん)とは社会(しやくわい)とか団体(だんたい)とか、065国家(こくか)とか云(い)ふ大問題(だいもんだい)に対(たい)して、066自分(じぶん)の主張(しゆちやう)を充(み)たすに到(いた)らない場合(ばあひ)に起(おこ)す意気(いき)の発動(はつどう)であつて、067極(きは)めて愉快(ゆくわい)な面白(おもしろ)い男性(だんせい)的(てき)気分(きぶん)を有(いう)したものでなくてはなるまい。068自己(じこ)の欲望(よくばう)を満(み)たすに足(た)りないと云(い)つて、069発動(はつどう)する所(ところ)の感情(かんじやう)の動作(どうさ)といふものは所謂(いはゆる)私憤(しふん)だ。070そんな女性(ぢよせい)的(てき)気分(きぶん)に充(み)たされたことを云(い)ふと、071ユダヤ人(じん)が聞(き)いたら馬鹿(ばか)にするぞ。072国家(こくか)社会(しやくわい)を憂慮(いうりよ)する念(ねん)最(もつと)も強(つよ)しと雖(いへど)も、073時代(じだい)は其(その)意志(いし)を容(い)れてくれず、074感慨(かんがい)措(お)く能(あた)はずして切腹(せつぷく)する如(ごと)き、075或(あるひ)は社会(しやくわい)を思(おも)ふの情(じやう)急激(きふげき)にして刻苦(こくく)勉励(べんれい)能(よ)く其(その)用(よう)をなし、076社会(しやくわい)に尽(つく)す如(ごと)き、077時(とき)に自分(じぶん)が他人(たにん)に冷笑(れいせう)されて大(おほい)に憤慨(ふんがい)する所(ところ)あり、078日夜(にちや)自分(じぶん)の向上(こうじやう)に勉励(べんれい)して、079以(もつ)て能(よ)く社会(しやくわい)的(てき)立場(たちば)を作(つく)る如(ごと)き、080此(これ)等(ら)は皆(みな)公憤(こうふん)に属(ぞく)するもので男(をとこ)らしい面白(おもしろ)い不平(ふへい)だ。081天(てん)の配剤(はいざい)其(その)妙(めう)を得(え)ず嬶(かかあ)の待遇(たいぐう)其(その)当(たう)を得(え)ざるに憤激(ふんげき)し、082吾(わが)家(や)を飛出(とびだ)し、083青楼(せいろう)に上(のぼ)つて、084酒(さけ)と女(をんな)で其(その)不平(ふへい)を忘(わす)れむとする如(ごと)き、085又(また)夕食(ゆふしよく)の膳部(ぜんぶ)がお粗末(そまつ)だといつて、086膳(ぜん)を投(な)げたり、087茶碗(ちやわん)を破壊(はくわい)する如(ごと)き、088或(あるひ)は自分(じぶん)のズボラを棚(たな)に上(あ)げ他人(ひと)の賃金(ちんぎん)の多(おほ)きに反感(はんかん)を抱(いだ)き不平(ふへい)を起(おこ)す如(ごと)き、089又(また)は主人(しゆじん)の乱倫(らんりん)に不平(ふへい)を起(おこ)し、090妻君(さいくん)が役者狂(やくしやぐるひ)をする如(ごと)き、091又(また)妻君(さいくん)の乱行(らんぎやう)に主人(しゆじん)が自暴(じばう)自棄(じき)となり、092芸者買(げいしやがひ)をなすが如(ごと)き、093或(あるひ)は世人(せじん)に冷笑(れいせう)嘲罵(てうば)されて不平(ふへい)のやり所(どころ)なく、094自宅(うち)へ帰(かへ)つて、095嬶(かかあ)の頭(あたま)や窓硝子(まどがらす)を叩(たた)きわるが如(ごと)きは、096皆(みな)私憤(しふん)に属(ぞく)するものだ。097それよりも怒(おこ)るなら、098ドツトはり込(こ)んで天地(てんち)の怒(いか)りを発(はつ)したら何(ど)うだ。099汝(おまへ)のやうにホイト坊主(ばうず)が貰(もら)ひ酒(ざけ)をこぼしたやうに、100あはれつぽい声(こゑ)を出(だ)して涙(なみだ)交(まじ)りにボヤいてをるやうなことでどうならうかい。101卑屈(ひくつ)極(きは)まる行動(かうどう)だ。102それだからおれ達(たち)は時勢(じせい)を見(み)るの明(めい)があるから、103ここ暫(しばら)くは隠忍(いんにん)してゐるのだ。104何(いづ)れ日出島(ひのでじま)から救世主(きうせいしゆ)が降臨(かうりん)になれば、105上下(じやうか)運否(うんぷ)のなき様(やう)桝(ます)かけ引(ひき)ならして、106おれ達(たち)迄(まで)も安心(あんしん)さして下(くだ)さるのだからなア』
107テク『実際(じつさい)そんな事(こと)があるだらうか。108おれ達(たち)はキリストの再臨(さいりん)を、109聖書(せいしよ)に仍(よ)つて先祖(せんぞ)代々(だいだい)から待(ま)ちあぐみ、110到頭(たうとう)此(この)聖地(せいち)で年(とし)をよらして了(しま)つたのだが、111これ丈(だけ)の不公平(ふこうへい)の世(よ)の中(なか)を神(かみ)様(さま)がなぜ公憤(こうふん)を起(おこ)して、112早(はや)く平等(べうどう)な愛(あい)の世界(せかい)にして下(くだ)さらぬのだらう……と私(ひそ)かに公憤(こうふん)をもらして居(を)つたのだ』
113トンク『アハヽヽヽ』
114ツーロ『私(ひそ)かの公憤(こうふん)が聞(き)いて呆(あき)れるワイ。115併(しか)し乍(なが)ら天道(てんだう)様(さま)の不平(ふへい)といふのは、116暴風(ばうふう)を起(おこ)し、117豪雨(がうう)を降(ふ)らして大洪水(だいこうずゐ)とし、118地(ち)の不平(ふへい)は地震(ぢしん)を起(おこ)して、119山川(さんせん)草木(さうもく)を転覆(てんぷく)させ、120悪人(あくにん)を亡(ほろ)ぼし、121大掃除(おほさうぢ)をなさるのが、122天地(てんち)の公憤(こうふん)だ、123汝(きさま)の公憤(こうふん)とは大分(だいぶ)違(ちが)うだろ。124窓硝子(まどがらす)の一(いち)枚(まい)位(ぐらゐ)壊(め)いでみた所(ところ)で、125余(あま)り世界(せかい)の改造(かいざう)も出来(でき)ぬぢやないか』
126テク『一体(いつたい)此(この)シオン大学(だいがく)とか云(い)ふのは何(なに)をするのだらうな。127又(また)してもユダヤ人(じん)が頭(あたま)をもちやげて、128おれ達(たち)を圧迫(あつぱく)する機関(きくわん)だあるまいか。129それだとすれば、130世界(せかい)人類(じんるゐ)の為(ため)におれ達(たち)は節義(せつぎ)を重(おも)んじ、131仮令(たとへ)半日(はんにち)でも人足(にんそく)に使(つか)はれる訳(わけ)には行(ゆ)かぬだないか、132鷹(たか)は飢(うゑ)ても穂(ほ)をつまぬといふからなア』
133ツーロ『世界(せかい)の所在(あらゆる)哲学者(てつがくしや)を集(あつ)めて神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の基礎(きそ)を固(かた)めるのだ。134此(この)シオンの国(くに)は太陽(たいやう)の天(てん)に冲(ちう)した真下(ました)に当(あた)る霊国(れいごく)だから、135云(い)はば時計(とけい)の竜頭(りうづ)のやうなものだ。136茲(ここ)に於(おい)て世界(せかい)を支配(しはい)するのは最(もつと)も天地(てんち)の経綸(けいりん)上(じやう)適当(てきたう)の場所(ばしよ)だから、137さう心配(しんぱい)するには及(およ)ばないよ、138おれ達(たち)だつて、139やつぱり其(その)恩恵(おんけい)に浴(よく)する時(とき)が来(く)るのだから、140辛抱(しんばう)せい、141回々教(フイフイけう)だとか基督教(キリストけう)だとか猶太教(ユダヤけう)だとか、142自分(じぶん)の心(こころ)の中(なか)に障壁(しやうへき)を設(まう)けてひがむから妙(めう)な不平(ふへい)が起(おこ)るのだ。143誠(まこと)の神(かみ)様(さま)は唯一柱(ただひとはしら)よりないのだ。144人間(にんげん)を相手(あひて)にする必要(ひつえう)はない。145何事(なにごと)も皆(みな)神(かみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)だからなア』
146テク『それでも余(あま)りユダヤ人(じん)がイバリちらすだないか。147それが俺(おれ)は気(き)にくはないのだ。148チツタ不平(ふへい)も起(おこ)らうかい』
149ツーロ『ユダヤ人(じん)にも種々(いろいろ)あつて、150ポンポンぬかす奴(やつ)ア、151カスピンのコンマ以下(いか)の代物(しろもの)だよ。152丁度(ちやうど)おれ達(たち)と同(おな)じ様(やう)な境遇(きやうぐう)にゐる劣等(れつとう)人種(じんしゆ)が威張(ゐば)るのだ。153あんな者(もの)を数(かず)に入(い)れて不平(ふへい)をもらすやうな馬鹿(ばか)があるかい。154キリスト再臨(さいりん)の近付(ちかづ)いた今日(こんにち)、155そんな偏狭(へんけふ)な心(こころ)はスツカリ放擲(はうてき)して天空(てんくう)海濶(かいくわつ)日月(じつげつ)と心(こころ)を斉(ひと)しうする襟度(きんど)にならぬか。156アラブの為(ため)にいい面汚(つらよご)しだぞ。157所(ところ)は世界(せかい)の中心地(ちうしんち)、158エルサレムの橄欖山(かんらんざん)上(じやう)に身(み)をおき乍(なが)ら不平(ふへい)を云(い)ふ奴(やつ)がどこにあるかい。159のうトンク』
160トンク『ウン、161そらさうだ。162人(ひと)は何事(なにごと)も思(おも)ひ様(やう)が肝腎(かんじん)だ。163おれ達(たち)のやうな労働者(らうどうしや)は労働者(らうどうしや)らしくして居(を)つたらいいのだ、164紳士(しんし)の真似(まね)をせうたつて、165到底(たうてい)出来(でき)ないからな、166あの紳士(しんし)だつて、167元(もと)は俺(おれ)達(たち)と同様(どうやう)労働者(らうどうしや)だつたのだ、168精神(せいしん)的(てき)労働(らうどう)をやるか、169肉体(にくたい)的(てき)労働(らうどう)をやるか丈(だけ)の違(ちが)ひだ。170仮令(たとへ)アラブでも紳士(しんし)紳商(しんせう)となればユダヤ人(じん)を頤(あご)で使(つか)ふことが出来(でき)るからなア』
171テク『俺(おれ)は紳士(しんし)なんか大嫌(だいきら)ひだ。172本物(ほんもの)の紳士(しんし)は今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)には一人(ひとり)もない。173皆(みな)我利(がり)々々(がり)紳士(しんし)ばかりだよ。174虚偽(きよぎ)的(てき)生活(せいくわつ)に甘(あま)んじて紳士(しんし)なんて云(い)つてる奴(やつ)の面(つら)を見(み)るとなぐり度(た)くなつてくるワ、175先(ま)づ今日(こんにち)紳士(しんし)といふ奴(やつ)は第一(だいいち)、176美装(びさう)をなすこと、177第二(だいに)、178大(だい)建造物(けんざうぶつ)に住居(ぢうきよ)すること、179第三(だいさん)、180一箇所(いつかしよ)以上(いじやう)の別荘(べつさう)を有(いう)すること、181第四(だいし)、182妾宅(せふたく)を設(まう)くる事(こと)、183第五(だいご)、184物見(ものみ)遊山(ゆさん)のしげきこと、185第六(だいろく)、186一切(いつさい)の労働(らうどう)を禁(きん)じ、187茶(ちや)一(ひと)つ自分(じぶん)の手(て)より汲(く)まぬこと、188第七(だいしち)、189一(いち)日(にち)に何回(なんくわい)となく宴会(えんくわい)に列(れつ)して、190妖婦(えうふ)を枕頭(ちんとう)に侍(はべ)らし、191妖婦(えうふ)の膝(ひざ)を枕(まくら)に痛飲(つういん)馬食(ばしよく)して、192其(その)胃袋(ゐぶくろ)に差支(さしつか)へなき程度(ていど)のものたること……此(この)位(くらゐ)のものだ。193どこに紳士(しんし)の本領(ほんりやう)があるかい』
194ツーロ『そりや汝(きさま)の云(い)ふ紳士(しんし)と、195俺(おれ)の云(い)ふ紳士(しんし)とは大(おほい)に趣(おもむき)が違(ちが)ふ。196俺(おれ)の云(い)ふ紳士(しんし)は……第一(だいいち)、197人格(じんかく)の最(もつと)も高(たか)きこと、198第二(だいに)、199慈悲心(じひしん)に富(と)めること、200第三(だいさん)、201礼儀(れいぎ)を守(まも)ること、202第四(だいし)、203政治欲(せいぢよく)を断(た)ち社会(しやくわい)の為(ため)に私財(しざい)を擲(なげう)つて貢献(こうけん)すること、204第五(だいご)、205一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)の制(せい)を遵奉(じゆんぽう)すること、206第六(だいろく)、207沢山(たくさん)な住宅(ぢうたく)を有(も)ち無料(むれう)にて他人(ひと)に自由(じいう)に使用(しよう)せしむること、208第七(だいしち)、209神(かみ)を信(しん)じ、210家内(かない)睦(むつま)じく感謝(かんしや)の生活(せいくわつ)を送(おく)ること……マアこんなものだ。211これを称(しよう)して紳士(しんし)といふのだ』
212トンク『そんな紳士(しんし)が今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)に一人(ひとり)でも半分(はんぶん)でもあるだらうかな』
213ツーロ『ないから尊(たふと)いのだ。214ダイヤモンドだつて金(きん)だつて、215ヨルダン河(がは)の砂礫(しやれき)のやうにそこらにごろついてあつてみよ、216誰(たれ)だつて貴重品(きちようひん)扱(あつか)ひはしてくれないよ。217無(な)いから尊(たふと)いよ、218太陽(たいやう)だつて一(ひと)つだから皆(みな)が拝(をが)むのだよ。219あの星(ほし)みい、220誰(たれ)も一(ひと)つホシイといふ奴(やつ)がないだないか』
221テク『オイ、222ツーロ、223ソンナ ツーロくせぬことをいふない。224それよりも現代(げんだい)の紳士(しんし)を標準(へうじゆん)として考(かんが)へるのが適確(てきかく)だ、225其(その)紳士(しんし)といふ奴(やつ)を、226俺(おれ)達(たち)が労働(らうどう)総同盟(そうどうめい)でも起(おこ)して、227警告(けいこく)を与(あた)へ改良(かいりやう)さしてやるのだなア。228今日(こんにち)の紳士(しんし)の資格(しかく)を考(かんが)へてみると、229妾宅(せふたく)の数(かず)如何(いかん)に仍(よ)つて、230紳士(しんし)仲間(なかま)の等級(とうきふ)に差別(さべつ)を生(しやう)じ、231宴会(えんくわい)の度数(どすう)と妖婦(えうふ)相識(さうしき)の数(すう)如何(いかん)は人気(にんき)に大(だい)なる関係(くわんけい)を及(およ)ぼすのだ。232これが今日(こんにち)の所謂(いはゆる)紳士(しんし)規定(きてい)だ。233何(なん)と不道理(ふだうり)な見解(けんかい)だないか。234今日(こんにち)の彼(かれ)等(ら)が健康(けんかう)状態(じやうたい)は日夜(にちや)刻々(こくこく)に害(がい)されつつあるのだ。235殊(こと)に性欲(せいよく)の随時(ずいじ)随所(ずいしよ)でみたさるるその半面(はんめん)を考(かんが)へて見(み)よ。236幾多(いくた)の忌(いま)はしい病毒(びやうどく)の為(ため)に睾丸内(かうぐわんない)に発生(はつせい)する精虫(せいちう)は追々(おひおひ)と減殺(げんさつ)され、237子孫(しそん)は漸次(ぜんじ)減少(げんせう)するに至(いた)るの種(たね)を蒔(ま)いてゐるのだ。238彼奴(きやつ)等(ら)の乱淫(らんいん)乱行(らんかう)は益々(ますます)民力(みんりよく)を減殺(げんさつ)せしむるのみならず、239家庭(かてい)の妻女(さいぢよ)は其(その)反動(はんどう)で、240狂気(きやうき)的(てき)に異性(いせい)の男子(だんし)を求(もと)め、241性欲(せいよく)の満足(まんぞく)と反感(はんかん)の慰安(ゐあん)に家(うち)を外(よそ)にして飛出(とびだ)し、242役者(やくしや)部屋(べや)へ這(は)ひ込(こ)むのだ。243紳士(しんし)の家庭(かてい)の妻女(さいぢよ)といふものに婦徳(ふとく)や貞節(ていせつ)は薬(くすり)にしたくも無(な)い位(くらゐ)だ。244そして冷(つめた)い深窓(しんそう)に、245男(をとこ)も女(をんな)も呻吟(しんぎん)してゐるのだ。246体質(たいしつ)の貧弱(ひんじやく)なる彼奴(きやつ)等(ら)の子孫(しそん)は世(よ)の中(なか)に立(た)つて何事(なにごと)もなすの力(ちから)なく、247遂(つひ)には子孫(しそん)が滅亡(めつぼう)するより途(みち)は無(な)い。248だと云(い)つて之(これ)も自業(じごふ)自得(じとく)だから仕方(しかた)があるまい。249今(いま)の内(うち)に彼奴(きやつ)等(ら)が目(め)をさまし、250共同(きようどう)の友(とも)や同族(どうぞく)の友(とも)と共(とも)に働(はたら)くの妙味(めうみ)を見出(みいだ)し、251貧民(ひんみん)と共(とも)に今迄(いままで)の態度(たいど)を改(あらた)めて社会(しやくわい)に活動(くわつどう)する様(やう)にならなくちや、252彼奴(きやつ)等(ら)も最早(もはや)世(よ)の終(をは)りだ。253いつ迄(まで)も世(よ)は持切(もちき)りにはさせぬと、254どこやらの神(かみ)さまが仰有(おつしや)つたからなア』
255トンク『オイ、256俺(おれ)達(たち)はまだ時間(じかん)が来(き)てゐないのに、257此(この)木(き)の小蔭(こかげ)でさぼつてゐるのだから、258ユダヤ人(じん)と同(おな)じよに月給(げつきふ)をくれないといつて不平(ふへい)を云(い)ふ訳(わけ)に行(ゆ)かない。259ユダヤ人(じん)は勤勉(きんべん)だから、260仕事(しごと)の能率(のうりつ)が倍(ばい)以上(いじやう)になるのだから、261汝(きさま)たちのやうに俸給(ほうきふ)の額(たか)のみで不平(ふへい)を云(い)つたつて駄目(だめ)だ。262サア、263チツト働(はたら)かう。264土木(どぼく)監督(かんとく)に見付(みつか)つたら大変(たいへん)だぞ』
265テク『エヽ仕方(しかた)がないなア、266食(く)はぬが悲(かな)しさかい』
267とスコツプを手(て)に提(さ)げ乍(なが)ら、268作事場(さくじば)の方(はう)へ厭(いや)相(さう)に進(すす)んで行(ゆ)く。269日(ひ)は漸(やうや)く暮(く)れ果(は)て、270労働(らうどう)終結(しうけつ)のラツパが橄欖山(かんらんざん)の峰(みね)に轟(とどろ)いて来(き)た。271三(さん)人(にん)はスコツプをかたげた儘(まま)逸早(いちはや)く団子石(だんごいし)のゴロゴロした坂路(さかみち)を嬉(うれ)しさうに下(くだ)つて行(ゆ)く。
272 数多(あまた)の大工(だいく)や手伝(てつだひ)人足(にんそく)は、273単縦陣(たんじうぢん)を張(は)つて黒蟻(くろあり)のやうに各(かく)家路(いへぢ)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。274此(これ)等(ら)の連中(れんちう)は皆(みな)エルサレムの街(まち)に寄宿(きしゆく)してゐる。2741ユダヤ人(じん)が大多数(だいたすう)を占(し)めてゐた。275そこへ金剛杖(こんがうづゑ)をついて上(のぼ)つて来(く)る一人(ひとり)の男(をとこ)があつた。276これは日出島(ひのでのしま)から遥々(はるばる)聖地(せいち)へ、277キリスト再臨(さいりん)の先駆(せんく)としてやつて来(き)た、278ルートバハーの宣伝使(せんでんし)ブラバーサであつた。279ブラバーサは山上(さんじやう)の最(もつと)も見(み)はらしよき地点(ちてん)に停立(ていりつ)し、280居柄(をりから)輝(かがや)く八日(やうか)の月(つき)を眺(なが)め、
281ブラバーサ『仰(あふ)ぎ見(み)れば、月(つき)は真空(まそら)を稍(やや)過(す)ぎて
282あたり輝(かがや)く星(ほし)のかずかず
283たまさかの月(つき)の夜(よ)なればこもりゐの
284たへ難(がた)くして登(のぼ)り来(きた)りぬ』
285 かく歌(うた)ひて、286月(つき)の光(ひかり)にエルサレムの街(まち)を見(み)おろし乍(なが)ら懐郷(くわいきやう)の念(ねん)に駆(か)られてゐる。287そこへ慌(あわた)だしく上(のぼ)り来(き)たる一(ひと)つの影(かげ)がある。288果(はた)して何人(なにびと)ならむか。
289(大正一二・七・一二 旧五・二九 松村真澄録)
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