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【新刊】「ミタマの夫婦」とは?
王仁三郎のソウルメイト論
第二四章
妖蝕
(
えうしよく
)
〔一六五三〕
インフォメーション
著者:
巻:
篇:
よみ(新仮名遣い):
章:
よみ(新仮名遣い):
通し章番号:
口述日:
口述場所:
筆録者:
校正日:
校正場所:
初版発行日:
概要:
舞台:
あらすじ
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このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
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主な登場人物
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【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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備考:
タグ:
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データ最終更新日:
OBC :
rm64a24
愛善世界社版:
八幡書店版:
修補版:
校定版:
普及版:
初版:
ページ備考:
001
お
寅
(
とら
)
外
(
ほか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
くにしてカトリックの
僧院
(
そうゐん
)
ホテルの
二階
(
にかい
)
に
宿泊
(
しゆくはく
)
する
事
(
こと
)
となつた。
002
折柄
(
をりから
)
チンチンと
鈴
(
リン
)
の
音
(
おと
)
、
003
けたたましく
配達
(
はいたつ
)
して
来
(
き
)
た
新聞
(
しんぶん
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
買
(
か
)
つて
守宮別
(
やもりわけ
)
は
読
(
よ
)
んで
見
(
み
)
た。
004
守宮別
『ヤアお
寅
(
とら
)
さま、
005
えらい
事
(
こと
)
が
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
ますよ。
006
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
再臨
(
さいりん
)
に
先立
(
さきだ
)
つて
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
からブラバーサがやつて
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
ふ
記事
(
きじ
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
ますわい。
007
随分
(
ずゐぶん
)
もてたものですわい。
008
こりやグヅグヅしてゐると
吾々
(
われわれ
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ』
009
お寅
『
何
(
なに
)
?ブラバーサの
事
(
こと
)
が
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
るのかい。
010
大方
(
おほかた
)
女
(
をんな
)
にでも
相手
(
あひて
)
になつて、
011
しくじつた
記事
(
きじ
)
ででもなからうかな』
012
守宮別
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
013
伯爵
(
はくしやく
)
の
娘
(
むすめ
)
サロメと
云
(
い
)
ふ
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
とアメリカンコロニーの
牛耳
(
ぎうじ
)
を
握
(
にぎ
)
つてるマリヤと
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
が
橄欖山
(
かんらんざん
)
の
上
(
うへ
)
でブラバーサを
引張凧
(
ひつぱりだこ
)
にしてる
記事
(
きじ
)
ですわ』
014
お寅
『
一
(
いつ
)
ぺん
読
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
さいな』
015
守宮別
『
読
(
よ
)
んでも
英語
(
えいご
)
で
書
(
か
)
いてあるのだからお
前
(
まへ
)
さまには
分
(
わか
)
りますまい。
016
バカに
褒
(
ほ
)
めて
書
(
か
)
いてあるからな。
017
エーもう
措
(
お
)
きませうかい』
018
お寅
『
分
(
わか
)
らいでもお
前
(
まへ
)
さまは、
019
そこをうまく
訳
(
やく
)
して、
020
わし
等
(
たち
)
の
耳
(
みみ
)
に
分
(
わか
)
るやうに
読
(
よ
)
むのだよ』
021
守宮別
『エー、
022
仕方
(
しかた
)
がない。
023
それでは
訳
(
やく
)
して
読
(
よ
)
みませう。
024
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
いな』
025
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
新聞
(
しんぶん
)
をお
寅
(
とら
)
の
前
(
まへ
)
におき、
026
守宮別
『エー、
027
二号
(
にがう
)
活字
(
くわつじ
)
で
見出
(
みだ
)
しが「
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
の
聖劇
(
せいげき
)
」と
書
(
か
)
いてありますわい』
028
お寅
『
聖劇
(
せいげき
)
と
云
(
い
)
ふのは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ぢやい?それを
細
(
こま
)
こう
説
(
と
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
029
守宮別
『
聖劇
(
せいげき
)
といつたら
聖劇
(
せいげき
)
ぢやありませぬか。
030
一旦
(
いつたん
)
日本語
(
にほんご
)
に
訳
(
やく
)
して
又
(
また
)
日本語
(
にほんご
)
に
訳
(
やく
)
さねばならぬと
大変
(
たいへん
)
手間
(
てま
)
がとれますからな』
031
お寅
『ソンナ
聖劇
(
せいげき
)
なんて……それは、
032
英語
(
えいご
)
でせう。
033
日本
(
やまと
)
言葉
(
ことば
)
にソンナ
言葉
(
ことば
)
はない
筈
(
はず
)
だ』
034
守宮別
『エー、
035
仕方
(
しかた
)
がないな。
036
お
寅
(
とら
)
さま、
037
聖劇
(
せいげき
)
と
云
(
い
)
ふのは
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
さまのお
芝居
(
しばゐ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ』
038
お寅
『
成程
(
なるほど
)
、
039
さうすると
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
に
降
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ぢやな』
040
守宮別
『マア
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
041
エー、
042
○
月
(
ぐわつ
)
○
日
(
にち
)
の
夜
(
よ
)
、
043
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
て
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
の
聖劇
(
せいげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられた、
044
その
登場
(
とうぢやう
)
役者
(
やくしや
)
と
云
(
い
)
ふのは
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
に
先
(
さき
)
だつて
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
より
派遣
(
はけん
)
されたる
神力
(
しんりき
)
無双
(
むそう
)
の
神人
(
しんじん
)
、
045
ブラバーサと
云
(
い
)
ふ
紳士
(
しんし
)
、
046
ルートバハーの
宣伝使
(
せんでんし
)
として
聖地
(
せいち
)
エルサレムに
数十
(
すうじふ
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
に
到着
(
たうちやく
)
され、
047
今
(
いま
)
はシオン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
び
聖業
(
せいげふ
)
を
朝夕
(
あさゆふ
)
修行
(
しうぎやう
)
せるもの、
048
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
は
基督教
(
キリストけう
)
の
有名
(
いうめい
)
なる
宣伝使
(
せんでんし
)
、
049
ヤコブと
云
(
い
)
ふ
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
の
青年
(
せいねん
)
である。
050
女
(
をんな
)
は
某
(
ぼう
)
伯爵
(
はくしやく
)
の
令嬢
(
れいぢやう
)
サロメ
姫
(
ひめ
)
の
君
(
きみ
)
にて、
051
基督
(
キリスト
)
再臨
(
さいりん
)
を
前知
(
ぜんち
)
し、
052
ヨルダン
川
(
がは
)
の
辺
(
ほとり
)
に
建
(
た
)
てるバハイ
教
(
けう
)
のチヤーチに
参詣
(
さんけい
)
し、
053
バハーウラー
聖師
(
せいし
)
の
教
(
をしへ
)
を
受
(
う
)
け
居
(
を
)
れる
淑女
(
しゆくぢよ
)
である。
054
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
はアメリカンコロニーの
牛耳
(
ぎうじ
)
を
執
(
と
)
れるマリヤと
云
(
い
)
ふサロメ
姫
(
ひめ
)
に
劣
(
おと
)
らぬ
容色
(
ようしよく
)
端麗
(
たんれい
)
なる
美人
(
びじん
)
である。
055
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
日出島
(
ひのでじま
)
より
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
降臨
(
かうりん
)
する
事
(
こと
)
を
前知
(
ぜんち
)
し、
056
深夜
(
しんや
)
に
期
(
き
)
せずして、
057
橄欖山
(
かんらんざん
)
(
霊山
(
れいざん
)
会場
(
ゑぢやう
)
の
蓮華台
(
れんげだい
)
)に
現
(
あら
)
はれ、
058
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
大神業
(
だいしんげふ
)
を
修
(
しう
)
されたり。
059
是
(
これ
)
等
(
ら
)
の
二男
(
になん
)
二女
(
にぢよ
)
は
天下
(
てんか
)
に
先立
(
さきだ
)
つて
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
を
前知
(
ぜんち
)
したる
聖哲
(
せいてつ
)
なれば、
060
決
(
けつ
)
してその
言
(
げん
)
に
詐
(
いつは
)
りあるべしとも
思
(
おも
)
はれず、
061
品行
(
ひんかう
)
極
(
きは
)
めて
方正
(
はうせい
)
にして
万人
(
ばんにん
)
の
模範
(
もはん
)
となるべき
人格者
(
じんかくしや
)
である。
062
ブラバーサの
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
を
綜合
(
そうがふ
)
すれば
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
も
最早
(
もはや
)
遠
(
とほ
)
からずとの
事
(
こと
)
なり、
063
神縁
(
しんえん
)
深
(
ふか
)
きエルサレムの
市民
(
しみん
)
は
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
努力
(
どりよく
)
に
感謝
(
かんしや
)
せざるべからず。
064
実
(
じつ
)
に
稀代
(
きだい
)
の
神人
(
しんじん
)
と
云
(
い
)
ふべし。
065
因
(
ちなみ
)
に
云
(
い
)
ふ。
066
ブラバーサは
今
(
いま
)
やシオンの
山麓
(
さんろく
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
び、
067
神業
(
しんげふ
)
に
修行
(
しうぎやう
)
されつつあるは
前記
(
ぜんき
)
の
如
(
ごと
)
し。
068
またサロメ
姫
(
ひめ
)
はバハイ
教
(
けう
)
のバハーウラーの
別室
(
べつしつ
)
に
著述
(
ちよじゆつ
)
に
耽
(
ふけ
)
りつつあり。
069
ヤコブは
今
(
いま
)
や
僧院
(
そうゐん
)
ホテルに
滞在中
(
たいざいちう
)
なり。
070
マリヤはアメリカンコロニーにあつて
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
を
教養
(
けうやう
)
しつつあり。
071
基督
(
キリスト
)
再臨
(
さいりん
)
に
就
(
つ
)
いて
教
(
をしへ
)
を
乞
(
こ
)
はむとするものは
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
居所
(
きよしよ
)
を
訪
(
たづ
)
ねらるべし』
072
と
読
(
よ
)
み
終
(
をは
)
り、
073
守宮別
『お
寅
(
とら
)
さま、
074
何
(
なん
)
とブラバーサは
偉
(
えら
)
い
信用
(
しんよう
)
を
受
(
う
)
けたものぢやありませぬか。
075
もう
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
も
斯
(
か
)
うなつちや
駄目
(
だめ
)
ですよ』
076
お寅
『
何
(
なに
)
、
077
それが
御
(
お
)
仕組
(
しぐみ
)
だよ。
078
これからそのサロメ、
079
マリヤとやらを、
080
うまく
説
(
と
)
き
伏
(
ふ
)
せ、
081
ブラバーサの
所在
(
ありか
)
をつきとめて、
082
ウーンと
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
往生
(
わうじやう
)
さしておけば、
083
ブラバーサが
救世主
(
きうせいしゆ
)
は
此
(
この
)
お
方
(
かた
)
ですと
云
(
い
)
へば、
084
何
(
なに
)
もかも
埒
(
らち
)
が
明
(
あ
)
くのだよ。
085
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
と
云
(
い
)
ふものは
凶
(
きよう
)
を
変
(
へん
)
じて
吉
(
きち
)
となし、
086
過
(
くわ
)
を
転
(
てん
)
じて
福
(
ふく
)
となし、
087
敵
(
てき
)
を
味方
(
みかた
)
にするのが
一厘
(
いちりん
)
の
仕組
(
しぐみ
)
だよ』
088
守宮別
『さう、
089
貴方
(
あなた
)
の
考
(
かんが
)
へ
通
(
どほ
)
り、
090
うまく
行
(
ゆ
)
くでせうかな』
091
お寅
『
行
(
ゆ
)
かいでかな。
092
「
成
(
な
)
せば
成
(
な
)
る、
093
成
(
な
)
さねばならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にならぬと
思
(
おも
)
ふ
人
(
ひと
)
の
愚
(
おろか
)
さ」と
云
(
い
)
ふ
古歌
(
こか
)
があるだらう。
094
さあこれから
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
活動
(
くわつどう
)
だ。
095
時
(
とき
)
おくれては
一大事
(
いちだいじ
)
だ。
096
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
097
アメリカンコロニーとやらに
行
(
い
)
つて、
098
そのマリヤに
会
(
あ
)
ふて
来
(
こ
)
やう。
099
さうすればブラバーサの
様子
(
やうす
)
が
大概
(
たいがい
)
分
(
わか
)
るだらう』
100
守宮別
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまなら、
101
その
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
は
尋
(
たづ
)
ねなくても
様子
(
やうす
)
が
分
(
わか
)
りさうなものですな』
102
お寅
『エー、
103
やかましいわいな。
104
又
(
また
)
しても
小理窟
(
こりくつ
)
を
云
(
い
)
ふのかいな。
105
サーサ、
106
行
(
ゆ
)
きませう。
107
ブラバーサに
先
(
さき
)
にしてやられちや
駄目
(
だめ
)
ですよ』
108
曲彦
(
まがひこ
)
はそばより、
109
曲彦
『これお
寅
(
とら
)
さま、
110
天
(
てん
)
からきまつた
救世主
(
きうせいしゆ
)
なら、
111
さう
騒
(
さわ
)
がなくても
向
(
む
)
かふから
歓迎
(
くわんげい
)
してくれますよ。
112
此方
(
こちら
)
から
自家
(
じか
)
広告
(
くわうこく
)
しても
人
(
ひと
)
が
用
(
もち
)
ゐなければ
駄目
(
だめ
)
ですがな』
113
お寅
『コリヤ
曲彦
(
まがひこ
)
、
114
そりや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
115
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
自家
(
じか
)
広告
(
くわうこく
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だよ。
116
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
自分
(
じぶん
)
で
現
(
あら
)
はさねば、
117
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
誰
(
たれ
)
も
認
(
みと
)
めて
呉
(
く
)
れませぬよ。
118
死
(
し
)
んでから
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
経
(
た
)
つて
認
(
みと
)
めて
呉
(
く
)
れても
駄目
(
だめ
)
だからな。
119
これ、
120
お
花
(
はな
)
さま、
121
お
前
(
まへ
)
もシツカリして
下
(
くだ
)
さらぬと、
122
ここは
戦場
(
せんぢやう
)
ですよ』
123
かかる
処
(
ところ
)
へボーイが
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た。
124
守宮別
(
やもりわけ
)
はボーイに「ビールを
一打
(
いちダース
)
ばかり
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い」と
命
(
めい
)
じた。
125
暫
(
しばら
)
くすると、
126
沢山
(
たくさん
)
の
皿
(
さら
)
やコツプや、
127
ビールを
先繰
(
せんぐ
)
り
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
る。
128
守宮別
(
やもりわけ
)
は
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし
乍
(
なが
)
ら、
129
涎
(
よだれ
)
をくつてビールの
喇叭飲
(
ラツパの
)
みをやつて
居
(
ゐ
)
る。
130
お
寅
(
とら
)
は
今迄
(
いままで
)
喰
(
く
)
つた
事
(
こと
)
のない
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
見
(
み
)
て
顔
(
かほ
)
をしかめ
乍
(
なが
)
ら、
131
先繰
(
せんぐ
)
り
先繰
(
せんぐ
)
り
喰
(
く
)
つてしまひ、
132
お寅
『あゝ、
133
バタ
臭
(
くさ
)
い、
134
コンナ
聖地
(
せいち
)
に
牛
(
うし
)
の
乳
(
ちち
)
を
飲
(
の
)
ましたり、
135
牛肉
(
ぎうにく
)
を
喰
(
く
)
はしたりするから
駄目
(
だめ
)
だわい。
136
もう
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り、
137
皆
(
みな
)
さま
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
喰
(
く
)
はぬ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
されや。
138
宜
(
よろ
)
しいかな。
139
何
(
なん
)
だか
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
ましたよ。
140
人間
(
にんげん
)
は
人間
(
にんげん
)
の
喰
(
く
)
ふもの、
141
馬
(
うま
)
は
馬
(
うま
)
の
喰
(
く
)
ふもの、
142
猫
(
ねこ
)
は
猫
(
ねこ
)
の
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
ときまつてゐるのだ。
143
馬
(
うま
)
や
猫
(
ねこ
)
の
喰
(
く
)
ふものを
人間
(
にんげん
)
が
喰
(
く
)
ふのはチツと
無理
(
むり
)
だわい。
144
まして
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
にはこんなものは
喰
(
く
)
はれませぬわい。
145
コレ、
146
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
147
もつと
清潔
(
せいけつ
)
な
食物
(
くひもの
)
を
次
(
つぎ
)
から
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
る
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
148
今度
(
こんど
)
はこれで
宜
(
い
)
いが、
149
もう、
150
こんな
汚
(
きたな
)
いものは
喰
(
く
)
ひませぬからな』
151
守宮別
『ソンナ
事
(
こと
)
云
(
い
)
つたつて、
152
ここではこれより
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
がないのですよ。
153
辛抱
(
しんばう
)
しなさい』
154
お寅
『あゝ
仕方
(
しかた
)
がない、
155
ソンナラこれからサア
皆
(
みな
)
さま、
156
コロニーとかへ
行
(
ゆ
)
きませう。
157
さうして、
158
ヤコブやマリヤに
会
(
あ
)
ふて
一
(
ひと
)
つブラバーサの
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
きませう』
159
曲彦
『ブラバーサはシオン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
にゐると
書
(
か
)
いてあるぢやありませぬか。
160
ソンナ
処
(
ところ
)
に
行
(
ゆ
)
かずに、
161
直
(
すぐ
)
にブラバーサの
処
(
ところ
)
に
行
(
い
)
つては
如何
(
どう
)
ですか』
162
お寅
『ハーテ
分
(
わか
)
らぬ
曲
(
まが
)
だな。
163
なぜ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りになさらぬのかい。
164
サーサ、
165
小荷物
(
こにもつ
)
をここに
預
(
あづ
)
けて
出掛
(
でかけ
)
ませう。
166
これ
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
167
いい
加減
(
かげん
)
に
飲
(
の
)
んでおきなさい。
168
また
酔
(
よ
)
ひつぶれては
肝腎
(
かんじん
)
の
通弁
(
つうべん
)
が
出来
(
でき
)
ませぬぢやありませぬか』
169
守宮別
『ママ
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
170
このうまいビールを
飲
(
の
)
まずには
行
(
ゆ
)
けませぬ。
171
折角
(
せつかく
)
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
から
来
(
き
)
たのですから、
172
ユツクリして
明日
(
あす
)
又
(
また
)
訪
(
たづ
)
ねる
事
(
こと
)
にしませう』
173
お寅
『エー
仕方
(
しかた
)
のない、
174
ド
倒
(
たふ
)
しものだな。
175
褌
(
ふんどし
)
の
川流
(
かはなが
)
れぢやないが
くひ
にかかつたら、
176
チツとも
離
(
はな
)
れはせぬわ』
177
守宮別
(
やもりわけ
)
はお
寅
(
とら
)
の
言葉
(
ことば
)
を
耳
(
みみ
)
にもかけず、
178
グイグイと
喇叭飲
(
ラツパの
)
みを
初
(
はじ
)
め、
179
十二本
(
じふにほん
)
のビールをスツカリ
飲
(
の
)
んで
了
(
しま
)
ひ、
180
又
(
また
)
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つてボーイを
呼
(
よ
)
んだ。
181
ボーイは
慌
(
あわた
)
だしく、
182
段梯子
(
だんばしご
)
を
上
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
た。
183
ボーイ
『お
客
(
きやく
)
さま、
184
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
ですか』
185
守宮別
(
やもりわけ
)
は
英語
(
えいご
)
で、
186
守宮別
『ビール、
187
もう
一打
(
いちダース
)
もつて
来
(
こ
)
い、
188
初
(
はじ
)
めはおいしかつたが、
189
後
(
のち
)
ほどまづい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て、
190
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
191
もつとうまい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い』
192
ボーイ
『うまいのなら
何程
(
なんぼ
)
でもありますがチツと
高価
(
たか
)
いですよ』
193
守宮別
『
高
(
たか
)
いと
云
(
い
)
つても
知
(
し
)
れたものだ。
194
うまい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
195
兵站部
(
へいたんぶ
)
はお
寅
(
とら
)
さまがついてゐるからな。
196
滅多
(
めつた
)
に
逃
(
に
)
げも
隠
(
かく
)
れもせぬわい。
197
あゝ
酔
(
よ
)
うた
酔
(
よ
)
うた
早
(
はや
)
く
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
198
おい
曲彦
(
まがひこ
)
、
199
貴様
(
きさま
)
もチツとやつたらどうだ。
200
そんな
貧相
(
ひんさう
)
な
顔
(
かほ
)
してると
誰
(
たれ
)
も
買手
(
かひて
)
がなくて
貧乏神
(
びんばふがみ
)
と
間違
(
まちが
)
へられるぞ』
201
と
酔
(
よ
)
ふてソロソロ
ワヤ
口
(
ぐち
)
をたたき
初
(
はじ
)
めける。
202
(
大正一二・七・一三
旧五・三〇
北村隆光
録)
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