霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 荒武事(あらぶごと)〔一六四三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上 篇:第3篇 花笑蝶舞 よみ(新仮名遣い):かしょうちょうぶ
章:第14章 荒武事 よみ(新仮名遣い):あらぶごと 通し章番号:1643
口述日:1923(大正12)年07月12日(旧05月29日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台:アメリカンコロニーの奥の一室、橄欖山の中腹 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:オリオン(オレゴン) データ凡例: データ最終更新日:2019-02-22 00:15:58 文字数:4675 OBC :rm64a14
愛善世界社版:160頁 八幡書店版:第11輯 437頁 修補版: 校定版:160頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 アメリカンコロニーの奥(おく)の一室(いつしつ)には、002スバツフオードとマリヤが煙草盆(たばこぼん)を中(なか)において、003ヒソビソ話(はなし)に耽(ふけ)つてゐる。
004スバッフォード『マリヤさま、005あなた此(この)頃(ごろ)は何(なん)となしにソハソハしてゐるぢやありませぬか。006沈着(ちんちやく)な貴女(あなた)に似(に)ず、007此(この)頃(ごろ)の様子(やうす)と云(い)つたら、008丸(まる)で恋(こひ)に狂(くる)ふた野良犬(のらいぬ)のやうだと、009団体員(だんたいゐん)が言(い)つてゐましたよ。010チと心得(こころえ)て貰(もら)はないと、011コロニーの統一(とういつ)が出来(でき)ないだありませぬか。012私(わたくし)はかうして老人(らうじん)であるし、013何時(いつ)昇天(しようてん)するか知(し)れませぬ。014さうするとあなたが一人(ひとり)でコロニーを背負(せお)つて立(た)たねばなりませぬ。015噂(うはさ)に聞(き)けば貴女(あなた)は日出島(ひのでじま)から来(き)てる聖師(せいし)に大変(たいへん)恋慕(れんぼ)してゐられるさうだが、016あの方(かた)はお国(くに)に妻子(さいし)があるといふことだ。017妻子(さいし)のある方(かた)に恋慕(れんぼ)したつて、018目的(もくてき)は達(たつ)しませぬよ。019今迄(いままで)何程(なにほど)よい縁(えん)があつても、020神政(しんせい)成就(じやうじゆ)迄(まで)は夫(をつと)は持(も)たない、021男(をとこ)に目(め)はくれないと、022独身(どくしん)生活(せいくわつ)を主張(しゆちやう)した貴女(あなた)に似合(にあ)はず、023変(へん)だと皆(みな)の者(もの)がヒソビソ話(はな)してゐますよ。024何程(なにほど)強(つよ)いことを言(い)ふてもヤハリ女(をんな)といふ者(もの)は弱(よわ)い者(もの)ですな。025狐独(こどく)の淋(さび)しみに堪(た)へられないと見(み)えますワイ。026モウ少時(しばらく)の所(ところ)だから、027チツと辛抱(しんばう)をして貰(もら)はねばなりますまい。028キツと貴女(あなた)のお気(き)に入(い)る適当(てきたう)な夫(をつと)が現(あら)はれて来(く)るでせう。029神(かみ)様(さま)は最後(さいご)迄(まで)忍(しの)ぶ者(もの)は救(すく)はるべし……と仰有(おつしや)るだありませぬか』
030マリヤ『ハイ、031妾(わたし)は最後(さいご)迄(まで)忍(しの)んで来(き)たのですよ。032モウ此(この)上(うへ)忍(しの)ぶ事(こと)は生命(いのち)に関(くわん)しますもの……そんなこと仰有(おつしや)るのは、033チト残酷(ざんこく)ですワ。034妾(わたし)は神(かみ)様(さま)の御(ご)摂理(せつり)によつて夫(をつと)を定(さだ)めましたから、035どうぞ御(ご)承諾(しようだく)を願(ねが)ひたう御座(ござ)います』
036スバッフォード『さうすると、037人(ひと)の噂(うはさ)といふものはバカにならぬものだなア。038そして其(その)夫(をつと)といふのはどこの何(なん)と云(い)ふ方(かた)だなア、039ヨモヤ、040妻子(さいし)のある日出島(ひのでじま)の聖師(せいし)ではあろまいなア』
041マリヤ『あの……妾(わたし)は……聖師(せいし)……否々(いえいえ)生死(せいし)を共(とも)にせうと約(やく)したお方(かた)が御座(ござ)います。042併(しか)し乍(なが)らネームを告(つ)げる丈(だけ)は少時(しばらく)猶予(いうよ)を願(ねが)ひたう御座(ござ)います』
043スバッフォード『心機(しんき)一転(いつてん)も甚(はなは)だしいぢやありませぬか。044お前(まへ)さまはブラバーサ様(さま)に恋(こひ)してゐるのだらう。045何(なん)と云(い)つても其(その)顔(かほ)に現(あら)はれてゐる、046年寄(としより)の目(め)で睨(にら)んだら、047メツタに間違(まちが)ひはありますまい。048左様(さやう)なことをなさつては、049アメリカンコロニーも破滅(はめつ)に陥(おちい)らねばなるまい。050あゝ何(なん)とした悪魔(あくま)が魅入(みい)れたものだらうなア』
051マリヤ『ソリヤ何(なに)を仰有(おつしや)います。052女(をんな)が夫(をつと)をもてないと云(い)ふ道理(だうり)が何処(どこ)に御座(ござ)いませう。053妾(わたし)も最早(もはや)三十(さんじふ)、054いい加減(かげん)に夫(をつと)を有(も)たなくちや御子生(みこう)みの御(ご)神業(しんげふ)が勤(つと)まらぬぢやありませぬか、055グヅグヅしてゐると、056歳月(さいげつ)は妾(わたし)をすてて省(かへり)みず、057年(とし)がよつてから、058何程(なにほど)夫(をつと)をあさつてみた所(ところ)で、059乞食(こじき)だつて来(き)てくれは致(いた)しませぬワ。060花(はな)も半開(はんかい)の中(うち)が値打(ねうち)があるのです。061妾(わたし)の花(はな)は最早(もはや)満開(まんかい)、062一(ひと)つ風(かぜ)が吹(ふ)いても散(ち)らうとしてる所(ところ)です。063散(ち)らない中(うち)に夫(をつと)を持(も)たなくちや人生(じんせい)の本分(ほんぶん)を、064何(ど)うして尽(つく)すことが出来(でき)ませう』
065スバッフォード『モウ永(なが)いことぢやない。066やがてキリストの再臨(さいりん)があるのだから、067そこ迄(まで)待(ま)つても余(あま)りおそくはあらうまい。068あのサロメさまを御覧(ごらん)なさい。069貴族(きぞく)の家(いへ)に生(うま)れ、070どんな夫(をつと)と添(そ)はうとママな身(み)を持(も)ち乍(なが)ら、071キリストの再臨(さいりん)を待(ま)ちかね、072独身(どくしん)生活(せいくわつ)をつづけてゐられるだありませぬか』
073マリヤ『あの方(かた)は再臨(さいりん)のキリストを理想(りさう)の夫(をつと)として空想(くうさう)を画(ゑが)いてをるのですから、074別物(べつもの)ですよ。075妾(わたし)は左様(さやう)な野心(やしん)は御座(ござ)いませぬから、076相当(さうたう)の夫(をつと)を有(も)たうと思(おも)ふので御座(ござ)います。077そんな開(ひら)けないことを言(い)はずに、078コロニーの連中(れんちう)に、079あなたから一口(ひとくち)、080神界(しんかい)の都合(つがふ)に依(よ)つて、081斯(か)う斯(か)うだと発表(はつぺう)して下(くだ)さいませ。082さうすれば、083団体員(だんたいゐん)は仏(ぶつ)が法(ほふ)とも小言(こごと)を云(い)ふ者(もの)は御座(ござ)いますまい』
084スバッフォード『コレ、085マリヤさま、086お前(まへ)さまも天(てん)の選民(せんみん)たるユダヤ人(じん)の女(をんな)だないか。087なぜ今(いま)となつて、088モウ一息(ひといき)といふ所(ところ)の辛抱(しんばう)が出来(でき)ないのですか』
089マリヤ『ハイ、090之(これ)から七十(しちじふ)日(にち)が間(あひだ)辛抱(しんばう)致(いた)します。091七十(しちじふ)日(にち)経(た)ちさへすれば、092仮令(たとへ)貴師(あなた)が何(なん)と仰有(おつしや)らうとも、093大神(おほかみ)様(さま)がお姿(すがた)を現(あら)はしてお叱(しか)り遊(あそ)ばさう共(とも)、094最早(もはや)私(わたし)の意志(いし)の自由(じいう)に致(いた)す考(かんが)へで御座(ござ)います。095どうぞ広(ひろ)き心(こころ)に見直(みなほ)して御(ご)承諾(しようだく)を願(ねが)ひたいもので御座(ござ)いますワ』
096スバッフォード『七十(しちじふ)日(にち)? ソレヤ又(また)何(ど)うしてさう云(い)ふ日限(にちげん)を切(き)つたのだなア、097人(ひと)の噂(うはさ)も七十五(しちじふご)日(にち)と聞(き)いてゐるが、098七十(しちじふ)日(にち)とは何(なに)か意味(いみ)があり相(さう)だ。099コレ、100マリヤさま、101七十(しちじふ)日(にち)の因縁(いんねん)を聞(き)かして下(くだ)さい』
102マリヤ『百(ひやく)日(にち)の行(ぎやう)の上(あが)りに夫婦(ふうふ)になつてやらうと仰有(おつしや)いました。103それで七十(しちじふ)日(にち)と云(い)つたので御座(ござ)います』
104スバッフォード『ハヽヽヽヽ、105てつきり、106日出島(ひのでじま)の聖師(せいし)と約束(やくそく)をしたのだなア。107いかにも聖師(せいし)は百(ひやく)日(にち)の行(ぎやう)をすると仰有(おつしや)つたが已(すで)に三十(さんじふ)日(にち)を経過(けいくわ)した。108併(しか)し乍(なが)ら聖師(せいし)ともあらう者(もの)が、109そんなことを約束(やくそく)さるる道理(だうり)が……ないがなア、110コレ、111マリヤさま、112お前(まへ)だまされてゐるのだなからうな』
113マリヤ『決(けつ)して決(けつ)して、114大磐石(だいばんじやく)ですよ。115妾(わたし)も女(をんな)のはしくれ、116男(をとこ)に欺(あざむ)かれるやうなヘマは致(いた)しませぬ』
117スバッフォード『ハーテナ、118合点(がつてん)の行(ゆ)かぬことを云(い)ふぢやないか。119貴女(あなた)は何(ど)うかしてゐますね』
120マリヤ『何程(なにほど)同化(どうくわ)し難(がた)きユダヤ人(じん)でも、121女(をんな)と男(をとこ)ですもの、122同化(どうくわ)もしませうかい。123どうぞ此(この)結婚(けつこん)問題(もんだい)ばかりは本人(ほんにん)の自由(じいう)意志(いし)に任(まか)して下(くだ)さいませ。124貴師(あなた)のやうに年(とし)が老(よ)つて血(ち)も情(じやう)も乾(かわ)き切(き)つた、125聖(きよ)きお方(かた)と、126青春(せいしゆん)の血(ち)に燃(も)ゆる若(わか)い女(をんな)とは、127同日(どうじつ)に語(かた)る訳(わけ)には行(ゆ)きませぬからねえ』
128スバッフォード『アハヽヽヽ、129こなひだから余(あま)り陽気(やうき)が悪(わる)うて、130空気(くうき)の流通(りうつう)が悪(わる)く、131蒸(む)すので、132年老(としより)の私(わたし)も頭(あたま)がポカポカとして来(き)た。133大方(おほかた)お前(まへ)は精神(せいしん)に異状(いじやう)を来(きた)して居(を)るのだあるまいかな。134さうで無(な)ければ鬼(おに)の霊(れい)にでも憑依(ひようい)されたのだらう。135此(この)頃(ごろ)ゲツセマネの園(その)の近辺(きんぺん)に悪(わる)い狐(きつね)がウロつくといふことだが、136其奴(そいつ)の霊(れい)にでも憑依(ひようい)されたのであるまいかな。137これマリヤさまチツと用心(ようじん)なさいよ。138キツと狐(きつね)の霊(れい)ですよ。139コンコンさまにつままれたのですよ』
140マリヤ『ホヽヽヽヽ、141信心(しんじん)堅固(けんご)な妾(わたし)、142何(ど)うしてさやうな者(もの)につままれませうか。143ケツでもコンでも構(かま)ひませぬ、144妾(わたし)はケツコンさへすれば可(い)いのですもの、145ホヽヽヽヽ』
146スバッフォード『アヽ、147何(なん)となく怪体(けつたい)な風(かぜ)が吹(ふ)いて来(き)たぞ。148あゝ一(ひと)つ窓(まど)でも開(あ)けて気(き)を晴(は)らさうかな』
149マリヤ『ホヽヽヽヽ、150あのスバツフオードさまの仰有(おつしや)ることワイノ。151窓(まど)を開(あ)けたつて、152ついてゐない狐(きつね)はメツタに飛出(とびだ)す気遣(きづかひ)はありませぬよ』
153スバッフォード『丸(まる)で春情期(しゆんじやうき)の犬(いぬ)の様(やう)だなア』
154と小声(こごゑ)に呟(つぶや)く。155マリヤはスバツフオードに向(むか)ひ、
156マリヤ『モシ老師(らうし)様(さま)、157妾(わたし)は之(これ)から聖地(せいち)の巡拝(じゆんぱい)に行(い)つて参(まゐ)ります。158どうぞお留守(るす)を願(ねが)ひますよ。159前(まへ)以(もつ)て申(まを)しておきますが、160妾(わたし)も女(をんな)です。161七十(しちじふ)日(にち)の間(あひだ)メツタにブラバーサ様(さま)のホテルを訪(たづ)ねるやうなことは致(いた)しませぬから、162御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
163と予防線(よばうせん)を張(は)り早(はや)くも門口(もんぐち)に飛出(とびだ)した。
164 橄欖山(かんらんざん)の中腹(ちうふく)、165橄欖樹(かんらんじゆ)の下(もと)に腰(こし)打(う)ちかけて雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つてゐる三(さん)人(にん)のアラブがあつた。166各(おのおの)手(て)にスコツプを持(も)ち乍(なが)ら、167木(き)の株(かぶ)に腰打(こしうち)かけ、
168テク『オイ、169此(この)頃(ごろ)、170アメリカンコロニーのマリヤといふ女(をんな)、171チツと様子(やうす)が変(へん)だないか、172目(め)も何(なに)も釣上(つりあが)つてゐるやうだなア』
173ツーロ『彼奴(あいつ)ア有名(いうめい)な独身(どくしん)生活(せいくわつ)の女(をんな)だが、174ヤツパリ性欲(せいよく)は押(おさ)へ切(き)れないとみえて、175橄欖山(かんらんざん)へ参拝(さんぱい)を標榜(へうばう)し、176男(をとこ)をあさつてゐるのかも知(し)れないよ。177何(ど)うだ一(ひと)つ彼奴(あいつ)を甘(うま)く抱(だ)き込(こ)んで、178俺(おれ)達(たち)の者(もの)にしたら面白(おもしろ)からうぞ。179アラブアラブとユダヤの奴(やつ)に軽蔑(けいべつ)されてゐるのだから、180ユダヤ人(じん)のカンカンを甘(うま)くおとさうものなら、181それこそアラブ全体(ぜんたい)の面目(めんぼく)を輝(かがや)かすといふものだ。182やがて来(く)る時分(じぶん)だから、183何(なん)とか一(ひと)つ工夫(くふう)をせうだないか』
184トンク『ソリヤ面白(おもしろ)からう、185併(しか)し乍(なが)ら三(さん)人(にん)の男(をとこ)に一人(ひとり)の女(をんな)、186此奴(こいつ)ア紛擾(ふんぜう)の種(たね)をまくやうなものだから、187先(ま)づ此(この)計画(けいくわく)は中止(ちゆうし)した方(はう)が安全(あんぜん)かも知(し)れないよ。188ラマ教(けう)ならば多夫(たふ)一妻(いつさい)でよからうが、189吾々(われわれ)はそんなことしたら天則(てんそく)違反(ゐはん)で神(かみ)様(さま)から罰(ばつ)せられるからなア』
190テク『さう心配(しんぱい)するな、191俺(おれ)達(たち)のやうな色(いろ)の黒(くろ)い、192唇(くちびる)の厚(あつ)い醜男(ぶをとこ)人種(じんしゆ)が、193何程(なにほど)あせつたつて、194一瞥(いちべつ)も投(な)げてくれないのは当然(たうぜん)だ。195先(ま)づ相手(あひて)にならぬ方(はう)が安全(あんぜん)かも知(し)れないよ』
196ツーロ『気(き)の弱(よわ)いことを云(い)ふな、197断(だん)じて行(おこな)へば鬼神(きしん)も之(これ)をさく。198躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)するは男子(だんし)の執(と)らざる所(ところ)だ。199今(いま)にもやつて来(き)よつたら、200大(だい)勇猛心(ゆうまうしん)を発揮(はつき)して獅子(しし)奮迅(ふんじん)の活動(くわつどう)をやるのだ。201一人(ひとり)は足(あし)をさらへ、202一人(ひとり)は猿轡(さるぐつわ)をはませ、203一人(ひとり)はかついでキドロンの谷底(たにそこ)へでもつれて行(ゆ)き、204厭応(いやおう)云(い)はせず此方(こつち)のものにするのだ』
205テク『オイ、206汝(きさま)は酒(さけ)の気(け)のある時(とき)ばかり、207そんな強(つよ)いことを言(い)ひやがるが、208酔(ゑひ)のさめた時(とき)何(ど)うだい、209其(その)元気(げんき)をどこ迄(まで)も持続(ぢぞく)することが出来(でき)れば、210おれだつて汝(きさま)と同盟(どうめい)して決行(けつかう)せないことはないが、211何分(なにぶん)弱味噌(よわみそ)だから、212先(さき)が案(あん)じられて、213する気(き)にもなれないワ。214のうトンク、215さうだないか』
216トンク『ナアニ成敗(せいはい)は時(とき)の運(うん)だ。217一(ひと)つ肝玉(きもだま)をおつぽり出(だ)して決行(けつかう)と出(で)かけやう。218ゴテゴテいつたらこの聖地(せいち)を立去(たちさ)り、219アラビヤの本国(ほんごく)へ帰(かへ)れば可(い)いだないか。220聖地(せいち)に居(を)らなくても救(すく)はれる者(もの)は救(すく)はれるのだからなア、221俺(おれ)達(たち)がマリヤを何々(なになに)せうといふのは決(けつ)して肉欲(にくよく)の為(ため)だない。222大(おほい)にアラブの気前(きまへ)を見(み)せる為(ため)だ。223言(い)はば四千万(よんせんまん)のアラブ人(じん)を代表(だいへう)してのアラブ仕事(しごと)だから、224大(たい)したものだぞ。225親譲(おやゆづ)りのハンドルが利(き)かぬとこ迄(まで)こき使(つか)はれて、226僅(わづか)に半弗(はんドル)より貰(もら)はれぬのだからバカげて仕方(しかた)がないワ。227婦人(ふじん)国有(こくいう)の議論(ぎろん)さへ、228独逸(ドイツ)では起(おこ)つたでないか。229何(なに)、230かまふものかい、231三(さん)人(にん)同盟(どうめい)でマリヤを国有(こくいう)にせうぢやないか、232サア斯(か)うきまつた以上(いじやう)は、233速(すみやか)に決行(けつかう)と出(で)かけやう』
234テク『どこへ出(で)かけやうと云(い)ふのだい。235コロニーには百(ひやく)人(にん)ばかりの団体(だんたい)がゐるだないか』
236トンク『そんな所(ところ)へ行(ゆ)かなくても、237キツと此処(ここ)へやつて来(く)るのだ』
238と云(い)つてゐる。239そこへソンナこととは夢(ゆめ)にも知(し)らぬマリヤは細(ほそ)い杖(つゑ)を力(ちから)に、240九十九(つくも)折(をり)の坂(さか)をソロソロと登(のぼ)つて来(き)た。241三(さん)人(にん)は互(たがひ)に目(め)くばせし、242物(もの)をも言(い)はず、243マリヤの体(からだ)に喰(くら)ひつき、244担(かつ)ぎ出(だ)した。245マリヤは悲鳴(ひめい)を上(あ)げて、246「人殺(ひとごろ)し人殺(ひとごろ)し」と叫(さけ)ぶ。247斯(か)かる折(をり)しもあたりの木魂(こだま)を響(ひび)かして宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)聞(きこ)え来(き)たりぬ。
248ブラバーサ『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
249善(ぜん)と悪(あく)とを立分(たてわ)ける
250時世(ときよ)時節(じせつ)は近(ちか)づきぬ
251オレゴン星座(せいざ)を立(たち)はなれ
252ウヅの聖地(せいち)に雲(くも)に乗(の)り
253降(くだ)らせ玉(たま)ふキリストの
254御声(みこゑ)は近(ちか)く聞(きこ)えけり
255日出(ひので)の島(しま)に日(ひ)の神(かみ)の
256現(あら)はれまして中天(ちうてん)に
257光(ひか)り輝(かがや)き進(すす)むごと
258暗夜(あんや)も漸(やうや)く開(あ)け近(ちか)く
259夜(よる)の守護(しゆご)は忽(たちま)ちに
260光明(くわうみやう)世界(せかい)と進(すす)み行(ゆ)く
261あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
262神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
263自転倒(おのころ)島(じま)を立出(たちい)でて
264万里(ばんり)の波濤(はたう)を打渡(うちわた)り
265音(おと)に名高(なだか)きエルサレム
266神(かみ)の定(さだ)めし聖場(せいぢやう)に
267下(くだ)り来(きた)りし吾(われ)こそは
268救(すく)ひの神(かみ)の先走(さきばし)り
269名(な)さへ目出度(めでた)きブラバーサ
270いかなる神(かみ)の経綸(けいりん)か
271ユダヤの女(をんな)に恋慕(れんぼ)され
272進退(しんたい)維(ここ)に谷(きは)まりて
273首(くび)もまはらぬ破目(はめ)となり
274朝(あさ)な夕(ゆふ)なに橄欖(かんらん)の
275山(やま)に詣(まう)でて禍(わざはひ)を
276除(のぞ)かむ為(ため)に登(のぼ)り行(ゆ)く
277国治立(くにはるたちの)大御神(おほみかみ)
278神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大御神(おほみかみ)
279何卒(なにとぞ)吾身(わがみ)の災(わざはひ)を
280厳(いづ)と瑞(みづ)との御光(みひかり)に
281救(すく)はせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
282神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる
283朝日(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)るとも
284月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くる共(とも)
285仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
286神(かみ)に任(まか)せし此(この)体(からだ)
287仮令(たとへ)野(の)の末(すゑ)山(やま)の奥(おく)
288屍(かばね)をさらす苦(くるし)みも
289何(なに)か厭(いと)はむ道(みち)の為(ため)
290国(くに)に残(のこ)せし妻(つま)や子(こ)は
291いかに此(この)世(よ)を送(おく)るらむ
292聖地(せいち)にいます師(し)の君(きみ)の
293あらはれませる日(ひ)は何時(いつ)ぞ
294神(かみ)の集(あつ)まるエルサレム
295聖(きよ)き都(みやこ)と聞(き)き乍(なが)ら
296何(なん)とはなしに村肝(むらきも)の
297心(こころ)淋(さび)しくなりにけり
298思(おも)へば思(おも)へば人(ひと)の身(み)の
299果敢(はか)なき弱(よわ)き有様(ありさま)を
300今(いま)目(ま)のあたり悟(さと)りけり
301恵(めぐ)ませ玉(たま)へ三五(あななひ)の
302皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
303畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる』
304 此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて三(さん)人(にん)はマリヤを其(その)場(ば)に投棄(なげす)て、305雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ去(さ)りにけり。
306 マリヤは余(あま)りの驚(おどろ)きと大地(だいち)に投(な)げられたはずみに気絶(きぜつ)して了(しま)ひ、307坂路(さかみち)に大(だい)の字(じ)となつてふん伸(の)びてゐる。308ブラバーサは魔法瓶(まほふびん)から清水(せいすゐ)を出(だ)し、309倒(たふ)れたる女(をんな)の顔(かほ)に注(そそ)ぎかけた。310よくよく見(み)れば自分(じぶん)を恋(こ)ひ慕(した)ふてゐるマリヤであつた。311ブラバーサはマリヤの気(き)のついたのを幸(さいは)ひ、312顔(かほ)をかくして一生(いつしやう)懸命(けんめい)にかけ出(いだ)す。313マリヤは後姿(うしろすがた)を見(み)て、314それと悟(さと)つたか、315苦痛(くつう)を忘(わす)れ、316尻(しり)端折(はしを)つて夜叉(やしや)の如(ごと)く後(あと)を追(お)つかけ進(すす)み行(ゆ)く。317ブラバーサは林(はやし)の繁(しげ)みに身(み)をかくしマリヤの通(とほ)り過(す)ぎたあとで、318ホツと息(いき)をつぎ、319両手(りやうて)を合(あは)せ、
320ブラバーサ『あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
321(大正一二・七・一二 旧五・二九 松村真澄録)
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