霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一三章 試練(しれん)〔一六四二〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm64a13
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 ブラバーサは祠(ほこら)の前(まへ)の人影(ひとかげ)を見(み)て、
002ブラバーサ『御祠(みやしろ)の御前(みまへ)に居(ゐ)ます物影(ものかげ)は
003いづれの人(ひと)か聞(き)かまほしけれ
004吾(われ)こそは日(ひ)の出(で)の島(しま)を立(た)ち出(い)でて
005登(のぼ)り来(き)ませるプロパガンディストぞや』
006 一人(ひとり)の男(をとこ)
007スバッフォード『アメリカンコロニー守(まも)る神司(かむづかさ)
008スバツフオードの翁(おきな)なるぞや
009大空(おほぞら)の月(つき)淡雲(あはくも)に包(つつ)まれて
010君(きみ)の御姿(みすがた)見擬(みまが)ひぬるかな』
011ブラバーサ『貴方(あなた)は、012スバツフオード様(さま)で御座(ござ)いましたか、013これはこれは失礼(しつれい)致(いた)しました。014御(ご)老体(らうたい)として今頃(いまごろ)に唯(ただ)お一人(ひとり)伴(とも)をも連(つ)れずにお出(いで)なさいましたには、015何(なに)か理由(りいう)が御座(ござ)いませうなア』
016スバッフォード『いやもう、017年(とし)はとつても心(こころ)は矢張(やはり)元(もと)の十八(じふはち)、018どこともなしに愛熱(あいねつ)に浮(う)かされてコンナ所(ところ)迄(まで)引張(ひつぱ)られて参(まゐ)りました。019アハヽヽヽ、020何程(なにほど)大神(おほかみ)様(さま)の道(みち)を遵奉(じゆんぽう)し、021女(をんな)に目(め)をかけまいと思(おも)つても心(こころ)に潜(ひそ)む心猿(しんゑん)意馬(いば)と云(い)ふ曲者(くせもの)が、022五(ご)尺(しやく)の男子(だんし)を自由(じいう)自在(じざい)に翻弄(ほんろう)致(いた)します。023人間(にんげん)と云(い)ふものは本当(ほんたう)に意志(いし)の弱(よわ)いものですよ。024一挙手(いつきよしゆ)三軍(さんぐん)を叱咤(しつた)する勇将(ゆうしやう)も、025繊弱(かよわ)き女(をんな)の一瞥(いつべつ)に会(あ)つて忽(たちま)ち骨(ほね)も肉(にく)も砕(くだ)いて仕舞(しま)ふ世(よ)の中(なか)で御座(ござ)いますからなア。026アハヽヽヽ』
027 ブラバーサはハツと胸(むね)をつき……最前(さいぜん)からのマリヤとの話(はなし)をもしや此(この)老人(らうじん)に聞(き)かれたのではあるまいか意味(いみ)ありげの今(いま)の言葉(ことば)、028はて恥(はづ)かしい事(こと)だわい、029かう老人(らうじん)の方(はう)から先鞭(せんべん)をつけられては何(なに)も云(い)ふ事(こと)が無(な)くなつて了(しま)つた。030罰(ばち)は覿面(てきめん)だ、031なぜあの時(とき)マリヤの脅迫(けふはく)を郤(しりぞ)けなかつたのだらう、032吾(われ)ながら意志(いし)の弱(よわ)いのにはあきれた。033いやいや決(けつ)して意志(いし)の弱(よわ)いのではない、034心(こころ)の中(なか)の曲者(くせもの)の為(ため)だ。035八千(はつせん)哩(マイル)を隔(へだ)てた日(ひ)の出(で)の島(しま)に妻子(さいし)を残(のこ)し、036一人身(ひとりみ)の淋(さび)しさをつくづくと感(かん)じ絶対(ぜつたい)無限(むげん)の神(かみ)様(さま)の力(ちから)を頼(たよ)る事(こと)を忘(わす)れて居(ゐ)た為(ため)に、037吾(わが)心中(しんちゆう)に悪魔(あくま)が擡頭(たいとう)してあのやうな弱(よわ)い一時逃(いちじのが)れの偽(いつは)りを云(い)つたのだ。038あゝ済(す)まない事(こと)をした。039何(なん)と云(い)つてこの翁(おきな)に答(こた)へやうかなア……
040と双手(もろて)を組(く)んで俯向(うつむ)いて居(ゐ)る。
041スバッフォード『アハヽヽヽ、042ブラバーサ様(さま)、043仮(かり)にもルートバハーの宣伝使(せんでんし)として一時逃(いちじのが)れの言葉(ことば)を用(もち)ゆるやうな事(こと)はなさいますまいなア、044女(をんな)と云(い)ふものは比較(ひかく)的(てき)正直(しやうぢき)なもので御座(ござ)いますから、045男(をとこ)の言葉(ことば)を真面目(まじめ)に信(しん)ずるものです。046若(も)し男子(だんし)の言葉(ことば)に一言(いちげん)たりとも偽(いつは)りある事(こと)を発見(はつけん)した時(とき)には、047それこそ命(いのち)がけになるものです。048貴方(あなた)は誰(たれ)か女(をんな)と約束(やくそく)を為(な)さつた事(こと)はありませぬか』
049ブラバーサ『ハイ、050エー何(なん)で御座(ござ)います。051止(や)むを得(え)ず一寸(ちよつと)約束(やくそく)を致(いた)しました。052本当(ほんたう)にお恥(はづ)かしい事(こと)です。053貴方(あなた)は吾々(われわれ)の秘密話(ひみつばなし)をすつかりお聞(きき)なさつたのですか』
054スバッフォード『アハヽヽヽ、055年(とし)は寄(よ)つても耳(みみ)は未(ま)だ隠居(いんきよ)を致(いた)しませぬ、056あれだけ大(おほ)きな声(こゑ)で、057情約(じやうやく)や談判(だんぱん)をして居(を)られたものですから、058手(て)に取(と)るが如(ごと)く聞(きこ)えました。059一伍(いちぶ)一什(しじふ)承(うけたま)はりましたよ。060随分(ずゐぶん)貴方(あなた)も思(おも)はれたものですなあ。061アハヽヽヽ』
062ブラバーサ『実(じつ)に困(こま)りましたよ、063九寸(くすん)五分(ごぶ)を咽喉(のど)もとへつきつけられての談判(だんぱん)同様(どうやう)ですから、064私(わたし)としてはあれより応戦(おうせん)の仕方(しかた)がないので思(おも)はぬ事(こと)を申(まを)しました。065決(けつ)して心(こころ)から宣伝使(せんでんし)の身(み)として女(をんな)なんかに恋着(れんちやく)致(いた)しませうか』
066スバッフォード『さうすると貴方(あなた)はあのマリヤさまに対(たい)し偽(いつは)りを云(い)つたのですか。067実(じつ)に怪(け)しからぬぢやありませぬか。068日(ひ)の出島(でじま)の人間(にんげん)は嘘(うそ)つきだ、069油断(ゆだん)がならぬと聞(き)いて居(を)りましたが、070まさか誠(まこと)の道(みち)を宣伝(せんでん)する貴方(あなた)に限(かぎ)り塵(ちり)程(ほど)も偽(いつは)りはあるまいと思(おも)ひましたが、071宣伝使(せんでんし)にして斯(かく)の如(ごと)しとすれば日(ひ)の出島(でじま)の人間(にんげん)は一人(ひとり)も信用(しんよう)する事(こと)が出来(でき)ますまい。072左様(さやう)な所(ところ)からどうして救世主(きうせいしゆ)が現(あら)はれませう。073あゝ心細(こころぼそ)い事(こと)だなア』
074ブラバーサ『イエイエ決(けつ)して決(けつ)して日(ひ)の出島(でじま)だと云(い)つて嘘言者(うそつき)ばかりではありませぬ。075私(わたし)は止(や)むを得(え)ずあの女(をんな)を助(たす)けるため心(こころ)にもない事(こと)を云(い)つたのです。076恋(こひ)に熱(ねつ)しきつた彼(か)の女(ぢよ)をたつた一時(いつとき)でも安心(あんしん)させたいと、077止(や)むを得(え)ず予約(よやく)をしたので御座(ござ)います』
078スバッフォード『ソンナ意志(いし)の弱(よわ)い事(こと)でどうして神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の神業(しんげふ)が勤(つと)まりませうか。079其方(そなた)も見(み)かけによらない意志(いし)の弱(よわ)い方(かた)ですな。080吾々(われわれ)ユダヤ人(じん)は二千(にせん)六百(ろくぴやく)年(ねん)以前(いぜん)に国(くに)を滅(ほろぼ)され亡国(ばうこく)の民(たみ)となつて世界(せかい)の人類(じんるゐ)より土芥(どかい)の如(ごと)く卑(いや)しめられ漸(やうや)く二千(にせん)六百(ろくぴやく)年(ねん)の辛苦(しんく)を経(へ)て神(かみ)様(さま)の賜(たまは)つたパレスチナの地(ち)を恢復(くわいふく)したので御座(ござ)います。081ユダヤ人(じん)には一人(ひとり)として貴方(あなた)のやうな意志(いし)の弱(よわ)い人間(にんげん)は御座(ござ)いませぬよ』
082ブラバーサ『ヤ、083恐(おそ)れ入(い)りました。084さう云(い)はれては一言(いちごん)の辞(じ)も御座(ござ)いませぬ。085これから心(こころ)を取(と)り直(なほ)し、086誠一(まことひと)つを立(た)て貫(ぬい)てユダヤ人(じん)に負(まけ)ない熱烈(ねつれつ)さと信仰力(しんかうりよく)を養(やしな)ひませう』
087スバッフォード『貴方(あなた)は今(いま)マリヤさまに仰有(おつしや)つた言葉(ことば)を反古(ほご)となさず、088実行(じつかう)なさるでせうな。089ユダヤ人(じん)の女(をんな)に嘘(うそ)でも仰有(おつしや)らうものならそれこそ大変(たいへん)ですよ。090貴方(あなた)の御(おん)身(み)のため、091道(みち)のために老婆心(らうばしん)ながら御(ご)注意(ちうい)を申(まを)し上(あ)げて置(お)きまする。092実際(じつさい)の所(ところ)は貴方(あなた)にマリヤさまが遇(あ)ふてから後(あと)と云(い)ふものは恋(こひ)に陥(お)ち、093朝夕(あさゆふ)吐息(といき)を漏(も)らし見(み)るに見(み)られぬ憐(あは)れさ、094どうかして私(わたし)が仲媒(なかうど)をせうと思(おも)ふて一足先(ひとあしさき)へ廻(まは)りお二人(ふたり)の談判(だんぱん)を伺(うかが)ふて居(ゐ)たので御座(ござ)います。095どうか約束(やくそく)を違(ちが)へないやうにしてやつて貰(もら)ひたいものです。096彼(か)の女(ぢよ)はほんたうに信仰(しんかう)の強(つよ)い赤心(まごころ)の女(をんな)で御座(ござ)いますから、097もし違約(ゐやく)でもなさらうものなら神(かみ)様(さま)を偽(いつは)つたも同様(どうやう)で御座(ござ)います。098あなたの御(おん)身(み)に忽(たちま)ち禍(わざはひ)が報(むく)ふて来(く)るかも知(し)れませぬ。099サアどうかキツパリと私(わたし)に、100も一度(いちど)云(い)つて下(くだ)さいませ。101さすれば七十(しちじふ)日(にち)の間(あいだ)マリヤさまに私(わたし)が申付(まをしつ)けて貴方(あなた)の行(ぎやう)の邪魔(じやま)にならないやうに致(いた)しますから』
102 ブラバーサは退(の)つ引(びき)ならぬ翁(をう)の言葉(ことば)に胸(むね)を痛(いた)め如何(いかが)はせむと案(あん)じ煩(わづら)つて居(ゐ)る。103暫(しばら)くあつて種々(しゆじゆ)と思案(しあん)の結果(けつくわ)思(おも)ひ切(き)つたやうに、
104ブラバーサ『ハイ、105キツと約束(やくそく)を守(まも)ります。106マリヤさまにも安心(あんしん)なさるやうに云(い)つて下(くだ)さいませ』
107スバッフォード『貴方(あなた)はさうすると日(ひ)の出島(でじま)でも独身(どくしん)生活(せいくわつ)をして居(を)られたのでせうな。108さうで無(な)ければたとへ女(をんな)が恋(こひ)したからつて冗談(じやうだん)にも約束(やくそく)を結(むす)ぶ道理(だうり)はありますまい。109マリヤが貴方(あなた)を慕(した)ふやうに、110もし貴方(あなた)に妻女(さいぢよ)がありとすればその妻女(さいぢよ)はきつと貴方(あなた)を慕(した)つて居(を)られるでせう。111神(かみ)の道(みち)を伝(つた)ふる宣伝使(せんでんし)として仮(かり)にもそんな無慈悲(むじひ)、112いや不貞(ふてい)の事(こと)はなさいますまいな』
113 ブラバーサは進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まつて返(かへ)す言葉(ことば)もなく、114一層(いつそう)のこと云(い)ひ訳(わけ)の為(た)めガリラヤの海(うみ)へ身(み)を投(とう)じ苦痛(くつう)を免(まぬ)がれむかと思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。115スバツフオードは大声(おほごゑ)をあげて打(う)ち笑(わら)ひ、
116スバッフォード『アハヽヽヽガリラヤの海(うみ)へ投身(とうしん)した所(ところ)で貴方(あなた)の偽(いつはり)の罪(つみ)は消(き)えるものではありませぬよ。117サアどうなさいますか』
118ブラバーサ『あゝ仕方(しかた)がない、119こんな羽目(はめ)に陥(おちい)らうとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、120一時逃(いちじのが)れにマリヤさまをたらして帰(かへ)したのが悪(わる)かつた。121あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。122国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)許(ゆる)したまへ』
123と涙(なみだ)と共(とも)に詫(わび)入(い)る。124暫(しばら)くあつて首(くび)をあぐれば以前(いぜん)の老人(らうじん)は姿(すがた)も見(み)えず、125月(つき)は淡雲(あはくも)の衣(きぬ)の綻(ほころ)びより皎々(かうかう)と古(ふる)き祠(ほこら)の屋根(やね)を照(てら)して居(ゐ)る。126ブラバーサは訝(いぶ)かりながら祠(ほこら)に拝礼(はいれい)をなし、127スタスタと元来(もとき)し道(みち)へ引返(ひきかへ)し吾(わが)身(み)の暗愚(あんぐ)を嘆(なげ)きつつ橄欖山(かんらんざん)を下(くだ)り僧院(そうゐん)ホテルを指(さ)して帰(かへ)り往(ゆ)く。
128 因(ちなみ)に云(い)ふ。129祠(ほこら)の前(まへ)に現(あら)はれた、130スバツフオードと見(み)えた老人(らうじん)は国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)の化身(けしん)であつた。
131 大神(おほかみ)はブラバーサの身魂(みたま)を錬(きた)へむと、132化相(けさう)をもつて現(あら)はれ訓誡(くんかい)を垂(た)れたまふたのである。
133 ゲツセマネの園(その)の壁際(かべぎは)迄(まで)帰(かへ)つて来(き)た時(とき)に白(しろ)い淡(うす)い被衣(かつぎ)を被(かぶ)つて背(せ)のすらりと高(たか)い、134色(いろ)の飽迄(あくまで)白(しろ)い一人(ひとり)の美人(びじん)が急(いそ)ぎやつて来(く)るのに出遇(であ)つた。135ブラバーサは立(た)ちとまり何(いづ)れの女(をんな)かと丸(まる)い目(め)をむいて眺(なが)めて居(ゐ)ると、136女(をんな)はつかつかと遠慮気(ゑんりよげ)もなく傍(そば)に寄(よ)り来(き)たり、137無雑作(むざふさ)にブラバーサの手(て)を握(にぎ)り二(ふた)つ三(み)つゆすりながら、
138サロメ『今日(けふ)はえらう早(はや)う御座(ござ)いましたねえ。139妾(わたし)は未(ま)だ貴方(あなた)がお山(やま)に居(を)られるかと思(おも)ふて急(いそ)いで参(まゐ)りました、140マリヤさまはもうお帰(かへ)りになりましたか』
141 ブラバーサは其(その)声(こゑ)を聞(き)いてサロメなる事(こと)を知(し)つた。142さうしてマリヤの名(な)を呼(よ)ばれて今日(けふ)はいつになく胸(むね)を躍(をど)らせ頬(ほほ)を紅(くれなゐ)に染(そ)めた。143サロメは層一層(そういつそう)固(かた)く手(て)を握(にぎ)りしめ、
144サロメ『遉(さすが)は日(ひ)の出島(でじま)の宣伝使(せんでんし)、145貴方(あなた)の御(ご)名望(めいばう)はエルサレム市中(しちう)に誰一人(たれひとり)知(し)らぬものはありませぬよ。146妾(わたし)だつて貴方(あなた)のやうな人気(にんき)のあるお方(かた)の傍(そば)へ唯(ただ)一時(いつとき)でも置(お)いて欲(ほ)しう御座(ござ)いますわ』
147ブラバーサ『貴方(あなた)はサロメ様(さま)では御座(ござ)いませぬか。148姫君(ひめぎみ)様(さま)のあられもない貴族(きぞく)のお姫(ひめ)様(さま)の身(み)をもつて何(なん)と云(い)ふ冗談(じやうだん)を仰有(おつしや)います、149どうぞよい加減(かげん)に揶揄(からか)つて置(お)いて下(くだ)さいませ。150随分(ずゐぶん)貴女(あなた)も悪戯(いたづら)がお上手(じやうづ)ですね』
151サロメ『ホヽヽヽヽ、152悪戯(いたづら)のお上手(じやうづ)なのは貴方(あなた)ぢや御座(ござ)いませぬか。153男(をとこ)と云(い)ふものは随分(ずいぶん)女(をんな)を玩具(おもちや)のやうに扱(あつか)ふものですが、154女(をんな)の恋(こひ)は真剣(しんけん)ですよ、155一(ひと)つ違(ちが)へばお腹(なか)が膨(ふく)れ命(いのち)がけですからな。156女(をんな)に冗談(じやうだん)や戯(たはむ)れはありませぬ。157貴方(あなた)もマリヤさまをどうか末長(すゑなが)う可愛(かあい)がつて上(あ)げて下(くだ)さいませや。158もし貴方(あなた)がマリヤさまに対(たい)し約束(やくそく)を破(やぶ)るやうな事(こと)をなさいませうものなら、159ユダヤ人(じん)は団結(だんけつ)が固(かた)う御座(ござ)いますから、160貴方(あなた)を恨(うら)んでどんな事(こと)をするか分(わか)りませぬよ。161御(ご)注意(ちうい)なさいませ』
162ブラバーサ『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。163未(ま)だ別(べつ)に堅(かた)い約束(やくそく)をしたと云(い)ふのでもなく、164ほんの予備(よび)行為(かうゐ)をたつた今(いま)やつた所(ところ)で御座(ござ)います。165マリヤさまだつてどうして吾々(われわれ)のやうなものに恋慕(れんぼ)される筈(はず)が御座(ござ)いませう。166橄欖山(かんらんざん)は霊地(れいち)で御座(ござ)いますから神(かみ)様(さま)がマリヤさまとなつて私(わたくし)の気(き)を引(ひ)かれたのかと思(おも)ひます。167いやもう結構(けつこう)な所(ところ)の恐(おそ)ろしい所(ところ)で御座(ござ)いますわ。168貴女(あなた)も是(これ)からお一人(ひとり)で橄欖山(かんらんざん)にお登(のぼ)りなさるので御座(ござ)いますか、169よくまあ御(ご)信神(しんじん)が出来(でき)ますなあ』
170サロメ『妾(わたし)が橄欖山(かんらんざん)へ女(をんな)の身(み)で唯(ただ)一人(ひとり)参(まゐ)りますのも聖師(せいし)にお目(め)にかかり度(た)いばかりで御座(ござ)います。171貴方(あなた)がお帰(かへ)りとあれば妾(わたし)も一所(いつしよ)に登山(とざん)はやめてお宿(やど)迄(まで)送(おく)らせて頂(いただ)きませう。172気(き)の多(おほ)い貴方(あなた)に滅多(めつた)に情約(じやうやく)締結(ていけつ)を迫(せま)るやうな事(こと)は致(いた)しませぬから、173安心(あんしん)して下(くだ)さいませ。174オホヽヽヽ』
175ブラバーサ『これこれサロメ様(さま)、176あまり揶揄(からか)つて下(くだ)さいますな。177ほんたうに姫(ひめ)様(さま)にも似合(にあ)はず、178お意地(いぢ)が悪(わる)いでは御座(ござ)いませぬか』
179サロメ『それでも貴方(あなた)、180アラブのクリー[※クリーとは「もとインド・中国の下層労働者の呼称。転じて、東南アジア諸地域の筋肉労働者」」(広辞苑)のことで、クーリー、苦力とも呼ぶ。]と手(て)を繋(つな)いで歩(ある)くより私(わたし)と手(て)を繋(つな)ぐ方(はう)が幾分(いくぶん)かお心持(こころもち)がよいでせう』
181ブラバーサ『いやもう結構(けつこう)で御座(ござ)います。182どうか放(はな)して下(くだ)さい、183もう沢山(たくさん)です。184アイタヽヽ指(ゆび)が痺(しび)れさうで御座(ござ)いますわ』
185サロメ『さうでせうともマリヤさまには指(ゆび)の二本(にほん)や三本(さんぼん)は切(き)つてお与(あた)へなさつても痛(いた)くはありますまいが、186私(わたし)の手(て)が触(ふ)れるとそれだけ御(ご)気分(きぶん)が悪(わる)いのでせう。187私(わたし)も女(をんな)の意地(いぢ)です。188滅多(めつた)にマリヤさまには選挙(せんきよ)競争(きやうそう)をして負(まけ)るやうな事(こと)は御座(ござ)いませぬよ。189御(お)覚悟(かくご)なさいませ。190ほんとに海洋(かいやう)万里(ばんり)を渡(わた)つて二人(ふたり)の女(をんな)に恋慕(れんぼ)される貴方(あなた)は天下(てんか)の幸福者(かうふくもの)ですよ。191オホヽヽヽ』
192ブラバーサ『そのオホヽヽヽが気(き)に入(い)りませぬわい。193本当(ほんたう)に六(ろく)尺(しやく)の男子(だんし)を、194腹(はら)の悪(わる)い玩具(おもちや)になさいますのか、195ユダヤ人(じん)は油断(ゆだん)がなりませぬなア』
196サロメ『油断(ゆだん)がならぬからユダヤ人(じん)と云(い)ふのですよ。197ホヽヽヽヽ』
198ブラバーサ『ヤア此奴(こいつ)は些(ちつと)怪(あや)しいぞ、199化州(ばけしう)だな。200本当(ほんたう)のサロメさまがどうしてこんなお転婆(てんば)式(しき)の事(こと)を仰有(おつしや)るものか。201大方(おほかた)金毛(きんまう)九尾(きうび)白面(はくめん)の悪狐(あくこ)が瞞(だま)して居(ゐ)るのだらう。202今(いま)山上(さんじやう)で大神(おほかみ)様(さま)に叱(しか)られて来(き)た所(ところ)だ』
203と眉毛(まゆげ)に唾(つばき)をつけて居(ゐ)る。
204サロメ『もし聖師(せいし)様(さま)、205眉毛(まゆげ)に唾(つばき)をつけたりして貴方(あなた)は妾(わたし)を侮辱(ぶじよく)するのですか、206狐(きつね)や狸(たぬき)ではありませぬ。207正真(しやうしん)正銘(しやうめい)のサロメです。208余(あま)り見違(みちが)ひをして下(くだ)さいますな』
209ブラバーサ『ヘン、210何程(なにほど)甘(うま)く化(ばけ)たつて駄目(だめ)だ。211日(ひ)の出島(でじま)から選抜(せんばつ)されて来(く)るやうな、212プロバガンディストだから其(その)手(て)には乗(の)らないのだ。213今(いま)に尻尾(しつぽ)を現(あら)はしてやらう。214ド狐(ぎつね)奴(め)』
215と後(あと)の一言(ひとこと)を雷(らい)の如(ごと)く呶鳴(どな)りつけた。216サロメは、
217サロメ『オホヽヽヽ』
218とおちよぼ口(ぐち)で笑(わら)ひながらクレツと尻(しり)を捲(まく)つた途端(とたん)に毛(け)の生(は)えた真白(まつしろ)の狐(きつね)となり、219箒(はうき)のやうな尾(を)をプリプリと振(ふ)り乍(なが)らのそりのそりと這(は)ひ出(だ)した。220ブラバーサは匆徨(さうくわう)として慄(ふる)ひ乍(なが)ら、221カトリックの僧院(そうゐん)に立(た)ち帰(かへ)り、222ソフアの上(うへ)に横(よこた)はり漸(やうや)く寝(しん)についた。
223(大正一二・七・一二 旧五・二九 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→