霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 行倒(ゆきだふれ)〔二〇〇六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻 篇:第1篇 忍ケ丘 よみ(新仮名遣い):しのぶがおか
章:第2章 行倒 よみ(新仮名遣い):ゆきだおれ 通し章番号:2006
口述日:1934(昭和9)年07月26日(旧06月15日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
臥所を起き出た冬男に、三人の乙女らはお茶を勧めた。のどが乾いていた冬男は何も考える間もなくぐっと飲み干したが、その味わいは香ばしいが臭みがあった。もしや水奔草の茶ではないかと驚いたが、何食わぬ体で天地を拝し、天之数歌を歌った。
するとたちまち家も笑い婆も三人の乙女も消えうせ、あたりは白樺と雑草の茂る丘の上となってしまった。
冬男は驚いて草原を進んでいったが、だんだんに頭は痛み足はだるみ、気分が悪くなってきた。小さな丘にたどりついたが、体は腫れ上がり身動きもできなくなってしまった。
すると闇の中から笑い婆の声が聞こえてきた。そして、冬男を計略にかけ、毒茶を飲ませたことを誇らしげに歌った。三人の乙女は娘などではなく、やはり水奔草の毒茶で命を落とした水奔鬼であった。
冬男は息も切れ切れになりながら笑い婆に抵抗するが、笑い婆は冬男をあざ笑う。冬男は無念の歯を食いしばりながら笑い婆の思い通りにはならないと意気を歌うが、ついにその場に打ち伏して命を落としてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:2942 OBC :rm8002
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 299頁 修補版: 校定版:30頁 普及版: 初版: ページ備考:
001水奔草(すゐほんさう)の生(お)ひ茂(しげ)る
002野路(のぢ)を遥々(はるばる)渉(わた)りつつ
003広(ひろ)き丘辺(をかべ)に突(つ)き当(あた)り
004息(いき)休(やす)めむと上(のぼ)りゐる
005頃(ころ)しも空(そら)は黄昏(たそが)れて
006ぼやぼやぼやと生温(なまぬる)き
007風(かぜ)は腮辺(しへん)をいやらしく
008なめてゆくなりこの丘(をか)の
009ふとある藁屋(わらや)に立(た)ち寄(よ)れば
010中(なか)より出(い)でし白髪(はくはつ)の
011婆(ば)さんは笑(ゑ)みを湛(たた)へつつ
012門(かど)の戸(と)近(ちか)く佇(たたず)めり
013冬男(ふゆを)は疲(つか)れし声(こゑ)をあげ
014われは旅(たび)ゆくものなるぞ
015一夜(いちや)の露(つゆ)の宿(やど)りをば
016許(ゆる)させ給(たま)へといひければ
017婆(ば)さんはにつこと打(う)ち笑(わら)ひ
018わたしは「笑(わら)ひ」といふ婆(ばば)よ
019サアサア御(お)泊(とま)りなさいませ
020アハハハハツハ、イヒヒヒヒ
021ウフフフフツフ、エヘヘヘヘ
022オホホホホツホ面白(おもしろ)や
023あなをかしやと転(ころ)び伏(ふ)す
024あやしき婆(ばば)に目(め)もやらず
025神(かみ)を念(ねん)じて居(ゐ)たる折(をり)
026婆(ばば)はむつくと起(お)き上(あが)り
027三人(みたり)乙女(をとめ)が奥(おく)に待(ま)つ
028早(はや)く通(とほ)させ給(たま)へよと
029いふより冬男(ふゆを)は奥(おく)の間(ま)に
030疲(つか)れし足(あし)を引(ひ)きずりて
031進(すす)めば不思議(ふしぎ)や三(さん)人(にん)の
032玉(たま)を欺(あざむ)く乙女(をとめ)等(ら)が
033冬男(ふゆを)の顔(かほ)を打(う)ち眺(なが)め
034甘(あま)き言葉(ことば)を並(なら)べたて
035此処(ここ)に来(き)ませし上(うへ)からは
036元津(もとつ)御国(みくに)へ帰(かへ)さじと
037各自(おのもおのも)に論(あげつら)ひ
038恋(こひ)の征矢(そや)をば放(はな)ちける
039冬男(ふゆを)は身体(しんたい)くたぶれて
040前後(ぜんご)も知(し)らず寝(い)ねければ
041山(やま)、川(かは)、海(うみ)の三乙女(みをとめ)は
042冬男(ふゆを)の全身(ぜんしん)を撫(な)でさすり
043喋々(てふてふ)喃々(なんなん)夜(よ)を明(あか)し
044一夜(いちや)の夢(ゆめ)は覚(さ)めにける
045冬男(ふゆを)は眼(まなこ)をこすりつつ
046臥床(ふしど)を起(お)き出(い)で眺(なが)むれば
047三人(みたり)の乙女(をとめ)はにこやかに
048笑(ゑ)みを湛(たた)へて居(ゐ)たりける
049冬男(ふゆを)はこれの光景(くわうけい)を
050怪(あや)しみながら問(と)ひけらく
051『われは旅行(りよかう)にくたぶれて
052一夜(いちや)の宿(やど)を願(ねが)ひしが
053辺(あた)りの空気(くうき)は何(なん)となく
054心(こころ)に染(そ)まぬけはひなり
055これの主(あるじ)とおぼえたる
056婆(ば)さんはしきりに笑(わら)ふなり
057それに引(ひ)き替(か)へあでやかな
058乙女(をとめ)三人(みたり)がわが側(そば)に
059甘(あま)き言葉(ことば)を繰(く)り返(かへ)し
060われに迫(せま)るは何事(なにごと)ぞ
061高光山(たかみつやま)の聖場(せいぢやう)に
062神(かみ)の御言(みこと)をかがふりて
063進(すす)まむわれよ一時(ひととき)も
064早(はや)くこの場(ば)を立(た)ち出(い)でて
065任(ま)けのまにまに進(すす)むべし』
066語(かた)れば三人(みたり)の乙女(をとめ)等(ら)は
067頸(くび)を左右(さいう)に振(ふ)りながら
068『日頃(ひごろ)焦(が)れて待(ま)ち居(ゐ)たる
069君(きみ)の来(きた)りし今日(けふ)こそは
070如何(いか)でたやすく帰(かへ)さむや
071先(ま)づ先(ま)づお茶(ちや)を召(め)し上(あが)れ
072われ等(ら)が勧(すす)むる茶(ちや)の湯(ゆ)こそ
073不老(ふらう)と不死(ふし)の妙薬(めうやく)ぞ
074この湯(ゆ)を飲(の)めば忽(たちま)ちに
075汝(なれ)の心(こころ)は爽(さはや)かに
076疲(つか)れも清(きよ)く治(をさ)まらむ』
077と言(い)ひつつ姉娘(あねむすめ)の山(やま)は、078木製(もくせい)の椀(わん)に湯(ゆ)を汲(く)み、079冬男(ふゆを)の前(まへ)に差出(さしだ)しけるにぞ、080一(いち)日(にち)の疲(つか)れに喉(のど)の乾(かわ)きたる冬男(ふゆを)は、081何(なに)を考(かんが)ふる暇(ひま)もなく、082貪(むさぼ)る如(ごと)くグツと飲(の)み下(くだ)せば、083その味(あぢ)はひ何(なん)となく香(かう)ばしけれど臭(くさ)みあり。084若(も)しや水奔草(すゐほんさう)の葉(は)もて作(つく)りたる茶(ちや)には非(あら)ずやと、085一(いち)時(じ)は驚(おどろ)きけるが、086何(なに)喰(く)はぬ体(てい)を装(よそほ)ひ、087天(てん)を拝(はい)し地(ち)を拝(はい)し、088声(こゑ)を限(かぎ)りに、
 
089『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)
090 千万(ちよろづ)の神(かみ)救(すく)はせ給(たま)へ』
 
091と生言霊(いくことたま)を宣(の)るや、092忽(たちま)ち家(いへ)も、093笑(わら)ひ婆(ばば)も、094三(さん)人(にん)の娘(むすめ)も、095あとかたなく煙(けむり)と消(き)え失(う)せ、096白樺(しらかば)の木(き)が疎(まばら)に、097雑草(ざつさう)の萌(も)ゆる丘(をか)の上(うへ)なりける。
098 冬男(ふゆを)は今更(いまさら)の如(ごと)く驚(おどろ)き、099生言霊(いくことたま)の天(あま)の数歌(かずうた)をうたひながら、100再(ふたた)び葭草(よしぐさ)や水奔草(すゐほんさう)の所狭(ところせ)きまで生(お)ひ茂(しげ)れる湿(しめ)つぽい平原(へいげん)を、101皮衣(かはごろも)を力(ちから)に進(すす)みゆく。102冬男(ふゆを)は道々(みちみち)歌(うた)ふ。
103『ああ訝(いぶか)しや訝(いぶか)しや
104日(ひ)も黄昏(たそが)れて漸(やうや)くに
105一(ひと)つの丘(をか)にたどりつき
106形(かたち)ばかりのあばら家(や)の
107表(おもて)に立(た)ちて訪(おとな)へば
108中(なか)より白髪(しらが)の笑(わら)ひ婆(ばば)
109現(あら)はれ来(きた)り一夜(ひとよ)さの
110宿(やど)りを許(ゆる)したりければ
111旅(たび)の疲(つか)れを休(やす)めむと
112奥(おく)の間(ま)さして進(すす)み入(い)り
113三人(みたり)のあやしき乙女(をとめ)等(ら)に
114種々(いろいろ)様々(さまざま)くどかれて
115知(し)らず知(し)らずに眠(ねむ)りしが
116辺(あた)りの空気(くうき)の不快(ふくわい)さに
117いぶかる折(をり)しも夜(よ)は明(あ)けて
118近(ちか)くに聞(きこ)ゆる鳥(とり)の声(こゑ)
119乙女(をとめ)の勧(すす)むる茶(ちや)を飲(の)めば
120益々(ますます)気分(きぶん)悪(あ)しくなり
121若(も)しや毒湯(どくゆ)に非(あら)ずやと
122御空(みそら)を拝(はい)し地(ち)を拝(はい)し
123天(あま)の数歌(かずうた)宣(の)りつれば
124婆(ば)さんも娘(むすめ)も其(その)家(いへ)も
125煙(けむり)となりて消(き)え果(は)てし
126あとをよくよく眺(なが)むれば
127雑草(ざつさう)生(お)ふる白樺(しらかば)の
128林(はやし)と知(し)るより驚(おどろ)きて
129忍(しのぶ)ケ丘(をか)を逃(に)げ下(くだ)り
130再(ふたた)び東(ひがし)に向(むか)ふなり
131長途(ちやうと)の旅(たび)に喉(のど)乾(かわ)き
132水(みづ)を飲(の)まむと思(おも)へども
133水奔草(すゐほんさう)の毒気(どくき)をば
134含(ふく)める池水(いけみづ)川水(かはみづ)は
135われ等(ら)が口(くち)に入(い)るよしも
136なくなく進(すす)む長(なが)の野路(のぢ)
137何(なん)と詮術(せむすべ)なかりけり
138頭(あたま)は痛(いた)み足(あし)だるみ
139勢力(せいりよく)頓(とみ)に衰(おとろ)へて
140わが目(め)の光(ひか)りつぎつぎに
141うすれ行(ゆ)くこそ悲(かな)しけれ
142夜前(やぜん)の女(をんな)は正(まさ)しくや
143水奔鬼(すゐほんき)には非(あら)ざるか
144思(おも)へば思(おも)へばいぶかしや』
145と歌(うた)ひつつ進(すす)み行(ゆ)けば、146又(また)もや小(ちひ)さき丘(をか)、147行手(ゆくて)に横(よこた)はるを見(み)る。148冬男(ふゆを)は兎(と)も角(かく)も其(そ)の丘(をか)にたどりつき、149水(みづ)でもあらば、150喉(のど)を潤(うるほ)し息(いき)を休(やす)めむと、151疲(つか)れし身体(からだ)に勇気(ゆうき)を鼓(こ)して、152其(その)日(ひ)の黄昏(たそが)るる頃(ころ)、153小(ちひ)さき丘(をか)の辺(べ)に着(つ)きたり。
154 冬男(ふゆを)は声(こゑ)細々(ほそぼそ)と歌(うた)ふ。
155『あへぎあへぎ醜草(しこぐさ)生(お)ふる野(の)を渉(わた)り
156漸(やうや)くこれの丘(をか)に着(つ)きぬる。
157この丘(をか)に真清水(ましみづ)あれば乾(かわ)きたる
158喉(のど)うるほして蘇(よみがへ)らむを。
159真清水(ましみづ)はよし湧(わ)くとても黄昏(たそがれ)の
160道(みち)なき野路(のぢ)をさがすよしなし。
161あやしかる女(をみな)に毒茶(どくちや)を飲(の)まされて
162われは死(し)ぬより苦(くる)しき宵(よひ)なり。
163刻々(こくこく)にわが身体(からたま)ははれ上(あが)り
164身動(みうご)きならぬ今(いま)となりけり。
165常世(とこよ)ゆく闇(やみ)の荒野(あらの)に只一人(ただひとり)
166われは悲(かな)しくもだえ居(ゐ)るなり。
167故郷(ふるさと)を思(おも)へば恋(こひ)し父母(ちちはは)を
168思(おも)へば悲(かな)し旅(たび)の夕暮(ゆふぐれ)。
169只一人(ただひとり)旅(たび)ゆくわれの淋(さび)しさは
170野山(のやま)の奥(おく)に住(す)む心地(ここち)なり。
171玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)きれなば如何(いか)にせむ
172わが故郷(ふるさと)にしらす由(よし)なく。
173言霊(ことたま)の厳(いづ)の力(ちから)に救(すく)はれて
174生命(いのち)からがら逃(に)げ来(き)つるかも。
175此処(ここ)に来(き)て露(つゆ)の生命(いのち)の消(き)ゆるかと
176思(おも)へば淋(さび)しき吾(わが)身(み)なるかも。
177水奔鬼(すゐほんき)の集(つど)へる丘(をか)に一夜(ひとよ)寝(ね)て
178玉(たま)の生命(いのち)を縮(ちぢ)めたりけり』
179 かく歌(うた)ふ折(をり)しも、
180『アハハハハー
181イヒヒヒヒー
182ウフフフフー
183エヘヘヘヘー
184われこそは忍(しのぶ)ケ丘(をか)の笑(わら)ひ婆(ばば)よ
185よくも此処(ここ)まで逃(に)げ来(き)つるかな。
186この婆(ばば)は人(ひと)の艱(なや)みを見(み)て笑(わら)ふ
187黄泉(よもつ)の国(くに)の笑(わら)ひ婆(ばば)ぞや。
188身(み)も魂(たま)も疲(つか)れ果(は)てたる汝(なれ)が態(ざま)
189見(み)るにつけても可笑(をか)しくぞある。
190われこそは笑(わら)ひの婆(ばば)よ世(よ)の人(ひと)の
191まめやかなるを朝夕(あさゆふ)ねたむ。
192三(さん)人(にん)の娘(むすめ)を汝(なれ)は見(み)たるべし
193あれは毒茶(どくちや)に見亡(みう)せし女(をみな)よ。
194玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)きれなむこの間際(まぎは)に
195わが夫(つま)となる約束(やくそく)をせよ。
196この婆(ばば)はきたなく見(み)ゆれど魂(たましひ)は
197玉(たま)の如(ごと)くに輝(かがや)き居(ゐ)るぞや。
198わが言葉(ことば)諾(うべな)ふなれば今(いま)よりは
199玉(たま)の生命(いのち)を安(やす)く生(い)かさむ』
200と、201いやらしき声(こゑ)を張上(はりあ)げながら、202闇(やみ)の中(なか)にハツと姿(すがた)を現(あら)はした。203瀕死(ひんし)の境(さかひ)にある冬男(ふゆを)は、204婆(ばば)の罠(わな)にかかりし残念(ざんねん)さに、205歯(は)を喰(く)ひしばりながら息(いき)もきれぎれに歌(うた)ふ。
206『わが生命(いのち)たとへ死(し)すとも汝(な)が如(ごと)き
207きたなき婆(ばば)に従(したが)ふべきやは。
208身体(からたま)はよし罷(まか)るとも霊魂(たましひ)は
209生(い)きて汝(なんぢ)を苦(くる)しめて見(み)む。
210水上(みなかみ)の貴(うづ)の館(やかた)に生(うま)れたる
211われは正(ただ)しき国津(くにつ)神(かみ)ぞや。
212汝(なれ)こそは音(おと)に聞(き)くなる水奔鬼(すゐほんき)の
213幽霊婆(いうれいばば)よとく此処(ここ)を去(さ)れ』
214 婆(ばば)は耳(みみ)まで裂(さ)けた真青(まつさを)の口(くち)を開(ひら)き、215牛(うし)の如(ごと)き舌(した)を吐(は)き出(だ)しながら、
216『ガハハハハツハ、217ギヒヒヒヒ、218グフフフフツフ、219ゲヘヘヘヘ、220ギヨホホホホツホ、221てもさてもいぢらしい腰抜(こしぬ)け野郎(やらう)ども、222この方(はう)が計略(けいりやく)にかかり、223大事(だいじ)の大事(だいじ)の玉(たま)の生命(いのち)の安売(やすうり)致(いた)したウツソリども、224嫌(いや)なら嫌(いや)でもう頼(たの)まぬ。225ギヤハハハハー、226忍(しのぶ)ケ丘(をか)につれ帰(かへ)り、227一族(いちぞく)郎党(らうたう)呼(よ)び集(あつ)め、228汝(なんぢ)が亡(な)きあとの霊魂(たましひ)の生命(いのち)を再(ふたた)び取(と)り上(あ)げて、229恨(うら)みを晴(は)らさでおくものか、230ギヤハハハハー、231てもさても心地(ここち)よやな』
232 冬男(ふゆを)は無念(むねん)の歯(は)を喰(く)ひしばりながら、
233『わが生命(いのち)如何(いか)になるとも汝(な)の如(ごと)き
234悪魔(あくま)に靡(なび)くわれには非(あら)ず。
235吾(われ)も亦(また)鬼(おに)と生(うま)れて汝(なんぢ)等(ら)が
236生命(いのち)を奪(うば)ひなやめてくれむ。
237葭原(よしはら)の国土(くに)の秀(ひい)でて勝(すぐ)れたる
238水上山(みなかみやま)の王(こきし)の息子(せがれ)ぞ。
239汝(な)が如(ごと)きいやしき鬼(おに)の果(は)てならず
240われには厳(いづ)の力(ちから)ありけり』
241 かく歌(うた)ひながら息(いき)も絶(た)え絶(だ)えに、242其(その)場(ば)に打伏(うちふ)したるまま身(み)亡(う)せにける。
243(昭和九・七・二六 旧六・一五 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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