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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第80巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 忍ケ丘
第1章 独り旅
第2章 行倒
第3章 復活
第4章 姉妹婆
第5章 三つ盃
第6章 秋野の旅
第2篇 秋夜の月
第7章 月見ケ丘
第8章 月と闇
第9章 露の路
第10章 五乙女
第11章 火炎山
第12章 夜見還
第13章 樹下の囁き
第14章 報哭婆
第15章 憤死
第3篇 天地変遷
第16章 火の湖
第17章 水火垣
第18章 大挙出発
第19章 笑譏怒泣
第20章 復命
第21章 青木ケ原
第22章 迎への鳥船
第23章 野火の壮観
余白歌
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霊界物語
>
天祥地瑞(第73~81巻)
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第80巻(未の巻)
> 第1篇 忍ケ丘 > 第2章 行倒
<<< 独り旅
(B)
(N)
復活 >>>
第二章
行倒
(
ゆきだふれ
)
〔二〇〇六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
篇:
第1篇 忍ケ丘
よみ(新仮名遣い):
しのぶがおか
章:
第2章 行倒
よみ(新仮名遣い):
ゆきだおれ
通し章番号:
2006
口述日:
1934(昭和9)年07月26日(旧06月15日)
口述場所:
関東別院南風閣
筆録者:
林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
臥所を起き出た冬男に、三人の乙女らはお茶を勧めた。のどが乾いていた冬男は何も考える間もなくぐっと飲み干したが、その味わいは香ばしいが臭みがあった。もしや水奔草の茶ではないかと驚いたが、何食わぬ体で天地を拝し、天之数歌を歌った。
するとたちまち家も笑い婆も三人の乙女も消えうせ、あたりは白樺と雑草の茂る丘の上となってしまった。
冬男は驚いて草原を進んでいったが、だんだんに頭は痛み足はだるみ、気分が悪くなってきた。小さな丘にたどりついたが、体は腫れ上がり身動きもできなくなってしまった。
すると闇の中から笑い婆の声が聞こえてきた。そして、冬男を計略にかけ、毒茶を飲ませたことを誇らしげに歌った。三人の乙女は娘などではなく、やはり水奔草の毒茶で命を落とした水奔鬼であった。
冬男は息も切れ切れになりながら笑い婆に抵抗するが、笑い婆は冬男をあざ笑う。冬男は無念の歯を食いしばりながら笑い婆の思い通りにはならないと意気を歌うが、ついにその場に打ち伏して命を落としてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm8002
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 299頁
修補版:
校定版:
30頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
水奔草
(
すゐほんさう
)
の
生
(
お
)
ひ
茂
(
しげ
)
る
002
野路
(
のぢ
)
を
遥々
(
はるばる
)
渉
(
わた
)
りつつ
003
広
(
ひろ
)
き
丘辺
(
をかべ
)
に
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
り
004
息
(
いき
)
休
(
やす
)
めむと
上
(
のぼ
)
りゐる
005
頃
(
ころ
)
しも
空
(
そら
)
は
黄昏
(
たそが
)
れて
006
ぼやぼやぼやと
生温
(
なまぬる
)
き
007
風
(
かぜ
)
は
腮辺
(
しへん
)
をいやらしく
008
なめてゆくなりこの
丘
(
をか
)
の
009
ふとある
藁屋
(
わらや
)
に
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
れば
010
中
(
なか
)
より
出
(
い
)
でし
白髪
(
はくはつ
)
の
011
婆
(
ば
)
さんは
笑
(
ゑ
)
みを
湛
(
たた
)
へつつ
012
門
(
かど
)
の
戸
(
と
)
近
(
ちか
)
く
佇
(
たたず
)
めり
013
冬男
(
ふゆを
)
は
疲
(
つか
)
れし
声
(
こゑ
)
をあげ
014
われは
旅
(
たび
)
ゆくものなるぞ
015
一夜
(
いちや
)
の
露
(
つゆ
)
の
宿
(
やど
)
りをば
016
許
(
ゆる
)
させ
給
(
たま
)
へといひければ
017
婆
(
ば
)
さんはにつこと
打
(
う
)
ち
笑
(
わら
)
ひ
018
わたしは「
笑
(
わら
)
ひ」といふ
婆
(
ばば
)
よ
019
サアサア
御
(
お
)
泊
(
とま
)
りなさいませ
020
アハハハハツハ、イヒヒヒヒ
021
ウフフフフツフ、エヘヘヘヘ
022
オホホホホツホ
面白
(
おもしろ
)
や
023
あなをかしやと
転
(
ころ
)
び
伏
(
ふ
)
す
024
あやしき
婆
(
ばば
)
に
目
(
め
)
もやらず
025
神
(
かみ
)
を
念
(
ねん
)
じて
居
(
ゐ
)
たる
折
(
をり
)
026
婆
(
ばば
)
はむつくと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り
027
三人
(
みたり
)
乙女
(
をとめ
)
が
奥
(
おく
)
に
待
(
ま
)
つ
028
早
(
はや
)
く
通
(
とほ
)
させ
給
(
たま
)
へよと
029
いふより
冬男
(
ふゆを
)
は
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
030
疲
(
つか
)
れし
足
(
あし
)
を
引
(
ひ
)
きずりて
031
進
(
すす
)
めば
不思議
(
ふしぎ
)
や
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
032
玉
(
たま
)
を
欺
(
あざむ
)
く
乙女
(
をとめ
)
等
(
ら
)
が
033
冬男
(
ふゆを
)
の
顔
(
かほ
)
を
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
め
034
甘
(
あま
)
き
言葉
(
ことば
)
を
並
(
なら
)
べたて
035
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
ませし
上
(
うへ
)
からは
036
元津
(
もとつ
)
御国
(
みくに
)
へ
帰
(
かへ
)
さじと
037
各自
(
おのもおのも
)
に
論
(
あげつら
)
ひ
038
恋
(
こひ
)
の
征矢
(
そや
)
をば
放
(
はな
)
ちける
039
冬男
(
ふゆを
)
は
身体
(
しんたい
)
くたぶれて
040
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
寝
(
い
)
ねければ
041
山
(
やま
)
、
川
(
かは
)
、
海
(
うみ
)
の
三乙女
(
みをとめ
)
は
042
冬男
(
ふゆを
)
の
全身
(
ぜんしん
)
を
撫
(
な
)
でさすり
043
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
夜
(
よ
)
を
明
(
あか
)
し
044
一夜
(
いちや
)
の
夢
(
ゆめ
)
は
覚
(
さ
)
めにける
045
冬男
(
ふゆを
)
は
眼
(
まなこ
)
をこすりつつ
046
臥床
(
ふしど
)
を
起
(
お
)
き
出
(
い
)
で
眺
(
なが
)
むれば
047
三人
(
みたり
)
の
乙女
(
をとめ
)
はにこやかに
048
笑
(
ゑ
)
みを
湛
(
たた
)
へて
居
(
ゐ
)
たりける
049
冬男
(
ふゆを
)
はこれの
光景
(
くわうけい
)
を
050
怪
(
あや
)
しみながら
問
(
と
)
ひけらく
051
『われは
旅行
(
りよかう
)
にくたぶれて
052
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
願
(
ねが
)
ひしが
053
辺
(
あた
)
りの
空気
(
くうき
)
は
何
(
なん
)
となく
054
心
(
こころ
)
に
染
(
そ
)
まぬけはひなり
055
これの
主
(
あるじ
)
とおぼえたる
056
婆
(
ば
)
さんはしきりに
笑
(
わら
)
ふなり
057
それに
引
(
ひ
)
き
替
(
か
)
へあでやかな
058
乙女
(
をとめ
)
三人
(
みたり
)
がわが
側
(
そば
)
に
059
甘
(
あま
)
き
言葉
(
ことば
)
を
繰
(
く
)
り
返
(
かへ
)
し
060
われに
迫
(
せま
)
るは
何事
(
なにごと
)
ぞ
061
高光山
(
たかみつやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
062
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
をかがふりて
063
進
(
すす
)
まむわれよ
一時
(
ひととき
)
も
064
早
(
はや
)
くこの
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でて
065
任
(
ま
)
けのまにまに
進
(
すす
)
むべし』
066
語
(
かた
)
れば
三人
(
みたり
)
の
乙女
(
をとめ
)
等
(
ら
)
は
067
頸
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
りながら
068
『
日頃
(
ひごろ
)
焦
(
が
)
れて
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たる
069
君
(
きみ
)
の
来
(
きた
)
りし
今日
(
けふ
)
こそは
070
如何
(
いか
)
でたやすく
帰
(
かへ
)
さむや
071
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
茶
(
ちや
)
を
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
れ
072
われ
等
(
ら
)
が
勧
(
すす
)
むる
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
こそ
073
不老
(
ふらう
)
と
不死
(
ふし
)
の
妙薬
(
めうやく
)
ぞ
074
この
湯
(
ゆ
)
を
飲
(
の
)
めば
忽
(
たちま
)
ちに
075
汝
(
なれ
)
の
心
(
こころ
)
は
爽
(
さはや
)
かに
076
疲
(
つか
)
れも
清
(
きよ
)
く
治
(
をさ
)
まらむ』
077
と
言
(
い
)
ひつつ
姉娘
(
あねむすめ
)
の
山
(
やま
)
は、
078
木製
(
もくせい
)
の
椀
(
わん
)
に
湯
(
ゆ
)
を
汲
(
く
)
み、
079
冬男
(
ふゆを
)
の
前
(
まへ
)
に
差出
(
さしだ
)
しけるにぞ、
080
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
疲
(
つか
)
れに
喉
(
のど
)
の
乾
(
かわ
)
きたる
冬男
(
ふゆを
)
は、
081
何
(
なに
)
を
考
(
かんが
)
ふる
暇
(
ひま
)
もなく、
082
貪
(
むさぼ
)
る
如
(
ごと
)
くグツと
飲
(
の
)
み
下
(
くだ
)
せば、
083
その
味
(
あぢ
)
はひ
何
(
なん
)
となく
香
(
かう
)
ばしけれど
臭
(
くさ
)
みあり。
084
若
(
も
)
しや
水奔草
(
すゐほんさう
)
の
葉
(
は
)
もて
作
(
つく
)
りたる
茶
(
ちや
)
には
非
(
あら
)
ずやと、
085
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
驚
(
おどろ
)
きけるが、
086
何
(
なに
)
喰
(
く
)
はぬ
体
(
てい
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
087
天
(
てん
)
を
拝
(
はい
)
し
地
(
ち
)
を
拝
(
はい
)
し、
088
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに、
089
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
090
千万
(
ちよろづ
)
の
神
(
かみ
)
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ』
091
と
生言霊
(
いくことたま
)
を
宣
(
の
)
るや、
092
忽
(
たちま
)
ち
家
(
いへ
)
も、
093
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
も、
094
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
も、
095
あとかたなく
煙
(
けむり
)
と
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せ、
096
白樺
(
しらかば
)
の
木
(
き
)
が
疎
(
まばら
)
に、
097
雑草
(
ざつさう
)
の
萌
(
も
)
ゆる
丘
(
をか
)
の
上
(
うへ
)
なりける。
098
冬男
(
ふゆを
)
は
今更
(
いまさら
)
の
如
(
ごと
)
く
驚
(
おどろ
)
き、
099
生言霊
(
いくことたま
)
の
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
をうたひながら、
100
再
(
ふたた
)
び
葭草
(
よしぐさ
)
や
水奔草
(
すゐほんさう
)
の
所狭
(
ところせ
)
きまで
生
(
お
)
ひ
茂
(
しげ
)
れる
湿
(
しめ
)
つぽい
平原
(
へいげん
)
を、
101
皮衣
(
かはごろも
)
を
力
(
ちから
)
に
進
(
すす
)
みゆく。
102
冬男
(
ふゆを
)
は
道々
(
みちみち
)
歌
(
うた
)
ふ。
103
『ああ
訝
(
いぶか
)
しや
訝
(
いぶか
)
しや
104
日
(
ひ
)
も
黄昏
(
たそが
)
れて
漸
(
やうや
)
くに
105
一
(
ひと
)
つの
丘
(
をか
)
にたどりつき
106
形
(
かたち
)
ばかりのあばら
家
(
や
)
の
107
表
(
おもて
)
に
立
(
た
)
ちて
訪
(
おとな
)
へば
108
中
(
なか
)
より
白髪
(
しらが
)
の
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
109
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り
一夜
(
ひとよ
)
さの
110
宿
(
やど
)
りを
許
(
ゆる
)
したりければ
111
旅
(
たび
)
の
疲
(
つか
)
れを
休
(
やす
)
めむと
112
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り
113
三人
(
みたり
)
のあやしき
乙女
(
をとめ
)
等
(
ら
)
に
114
種々
(
いろいろ
)
様々
(
さまざま
)
くどかれて
115
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
眠
(
ねむ
)
りしが
116
辺
(
あた
)
りの
空気
(
くうき
)
の
不快
(
ふくわい
)
さに
117
いぶかる
折
(
をり
)
しも
夜
(
よ
)
は
明
(
あ
)
けて
118
近
(
ちか
)
くに
聞
(
きこ
)
ゆる
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
119
乙女
(
をとめ
)
の
勧
(
すす
)
むる
茶
(
ちや
)
を
飲
(
の
)
めば
120
益々
(
ますます
)
気分
(
きぶん
)
悪
(
あ
)
しくなり
121
若
(
も
)
しや
毒湯
(
どくゆ
)
に
非
(
あら
)
ずやと
122
御空
(
みそら
)
を
拝
(
はい
)
し
地
(
ち
)
を
拝
(
はい
)
し
123
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
宣
(
の
)
りつれば
124
婆
(
ば
)
さんも
娘
(
むすめ
)
も
其
(
その
)
家
(
いへ
)
も
125
煙
(
けむり
)
となりて
消
(
き
)
え
果
(
は
)
てし
126
あとをよくよく
眺
(
なが
)
むれば
127
雑草
(
ざつさう
)
生
(
お
)
ふる
白樺
(
しらかば
)
の
128
林
(
はやし
)
と
知
(
し
)
るより
驚
(
おどろ
)
きて
129
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
を
逃
(
に
)
げ
下
(
くだ
)
り
130
再
(
ふたた
)
び
東
(
ひがし
)
に
向
(
むか
)
ふなり
131
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
に
喉
(
のど
)
乾
(
かわ
)
き
132
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
まむと
思
(
おも
)
へども
133
水奔草
(
すゐほんさう
)
の
毒気
(
どくき
)
をば
134
含
(
ふく
)
める
池水
(
いけみづ
)
川水
(
かはみづ
)
は
135
われ
等
(
ら
)
が
口
(
くち
)
に
入
(
い
)
るよしも
136
なくなく
進
(
すす
)
む
長
(
なが
)
の
野路
(
のぢ
)
137
何
(
なん
)
と
詮術
(
せむすべ
)
なかりけり
138
頭
(
あたま
)
は
痛
(
いた
)
み
足
(
あし
)
だるみ
139
勢力
(
せいりよく
)
頓
(
とみ
)
に
衰
(
おとろ
)
へて
140
わが
目
(
め
)
の
光
(
ひか
)
りつぎつぎに
141
うすれ
行
(
ゆ
)
くこそ
悲
(
かな
)
しけれ
142
夜前
(
やぜん
)
の
女
(
をんな
)
は
正
(
まさ
)
しくや
143
水奔鬼
(
すゐほんき
)
には
非
(
あら
)
ざるか
144
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へばいぶかしや』
145
と
歌
(
うた
)
ひつつ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
けば、
146
又
(
また
)
もや
小
(
ちひ
)
さき
丘
(
をか
)
、
147
行手
(
ゆくて
)
に
横
(
よこた
)
はるを
見
(
み
)
る。
148
冬男
(
ふゆを
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
其
(
そ
)
の
丘
(
をか
)
にたどりつき、
149
水
(
みづ
)
でもあらば、
150
喉
(
のど
)
を
潤
(
うるほ
)
し
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めむと、
151
疲
(
つか
)
れし
身体
(
からだ
)
に
勇気
(
ゆうき
)
を
鼓
(
こ
)
して、
152
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
黄昏
(
たそが
)
るる
頃
(
ころ
)
、
153
小
(
ちひ
)
さき
丘
(
をか
)
の
辺
(
べ
)
に
着
(
つ
)
きたり。
154
冬男
(
ふゆを
)
は
声
(
こゑ
)
細々
(
ほそぼそ
)
と
歌
(
うた
)
ふ。
155
『あへぎあへぎ
醜草
(
しこぐさ
)
生
(
お
)
ふる
野
(
の
)
を
渉
(
わた
)
り
156
漸
(
やうや
)
くこれの
丘
(
をか
)
に
着
(
つ
)
きぬる。
157
この
丘
(
をか
)
に
真清水
(
ましみづ
)
あれば
乾
(
かわ
)
きたる
158
喉
(
のど
)
うるほして
蘇
(
よみがへ
)
らむを。
159
真清水
(
ましみづ
)
はよし
湧
(
わ
)
くとても
黄昏
(
たそがれ
)
の
160
道
(
みち
)
なき
野路
(
のぢ
)
をさがすよしなし。
161
あやしかる
女
(
をみな
)
に
毒茶
(
どくちや
)
を
飲
(
の
)
まされて
162
われは
死
(
し
)
ぬより
苦
(
くる
)
しき
宵
(
よひ
)
なり。
163
刻々
(
こくこく
)
にわが
身体
(
からたま
)
ははれ
上
(
あが
)
り
164
身動
(
みうご
)
きならぬ
今
(
いま
)
となりけり。
165
常世
(
とこよ
)
ゆく
闇
(
やみ
)
の
荒野
(
あらの
)
に
只一人
(
ただひとり
)
166
われは
悲
(
かな
)
しくもだえ
居
(
ゐ
)
るなり。
167
故郷
(
ふるさと
)
を
思
(
おも
)
へば
恋
(
こひ
)
し
父母
(
ちちはは
)
を
168
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
し
旅
(
たび
)
の
夕暮
(
ゆふぐれ
)
。
169
只一人
(
ただひとり
)
旅
(
たび
)
ゆくわれの
淋
(
さび
)
しさは
170
野山
(
のやま
)
の
奥
(
おく
)
に
住
(
す
)
む
心地
(
ここち
)
なり。
171
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
生命
(
いのち
)
きれなば
如何
(
いか
)
にせむ
172
わが
故郷
(
ふるさと
)
にしらす
由
(
よし
)
なく。
173
言霊
(
ことたま
)
の
厳
(
いづ
)
の
力
(
ちから
)
に
救
(
すく
)
はれて
174
生命
(
いのち
)
からがら
逃
(
に
)
げ
来
(
き
)
つるかも。
175
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
て
露
(
つゆ
)
の
生命
(
いのち
)
の
消
(
き
)
ゆるかと
176
思
(
おも
)
へば
淋
(
さび
)
しき
吾
(
わが
)
身
(
み
)
なるかも。
177
水奔鬼
(
すゐほんき
)
の
集
(
つど
)
へる
丘
(
をか
)
に
一夜
(
ひとよ
)
寝
(
ね
)
て
178
玉
(
たま
)
の
生命
(
いのち
)
を
縮
(
ちぢ
)
めたりけり』
179
かく
歌
(
うた
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
180
『アハハハハー
181
イヒヒヒヒー
182
ウフフフフー
183
エヘヘヘヘー
184
われこそは
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
よ
185
よくも
此処
(
ここ
)
まで
逃
(
に
)
げ
来
(
き
)
つるかな。
186
この
婆
(
ばば
)
は
人
(
ひと
)
の
艱
(
なや
)
みを
見
(
み
)
て
笑
(
わら
)
ふ
187
黄泉
(
よもつ
)
の
国
(
くに
)
の
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
ぞや。
188
身
(
み
)
も
魂
(
たま
)
も
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
てたる
汝
(
なれ
)
が
態
(
ざま
)
189
見
(
み
)
るにつけても
可笑
(
をか
)
しくぞある。
190
われこそは
笑
(
わら
)
ひの
婆
(
ばば
)
よ
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
の
191
まめやかなるを
朝夕
(
あさゆふ
)
ねたむ。
192
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
を
汝
(
なれ
)
は
見
(
み
)
たるべし
193
あれは
毒茶
(
どくちや
)
に
見亡
(
みう
)
せし
女
(
をみな
)
よ。
194
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
生命
(
いのち
)
きれなむこの
間際
(
まぎは
)
に
195
わが
夫
(
つま
)
となる
約束
(
やくそく
)
をせよ。
196
この
婆
(
ばば
)
はきたなく
見
(
み
)
ゆれど
魂
(
たましひ
)
は
197
玉
(
たま
)
の
如
(
ごと
)
くに
輝
(
かがや
)
き
居
(
ゐ
)
るぞや。
198
わが
言葉
(
ことば
)
諾
(
うべな
)
ふなれば
今
(
いま
)
よりは
199
玉
(
たま
)
の
生命
(
いのち
)
を
安
(
やす
)
く
生
(
い
)
かさむ』
200
と、
201
いやらしき
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げながら、
202
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
にハツと
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はした。
203
瀕死
(
ひんし
)
の
境
(
さかひ
)
にある
冬男
(
ふゆを
)
は、
204
婆
(
ばば
)
の
罠
(
わな
)
にかかりし
残念
(
ざんねん
)
さに、
205
歯
(
は
)
を
喰
(
く
)
ひしばりながら
息
(
いき
)
もきれぎれに
歌
(
うた
)
ふ。
206
『わが
生命
(
いのち
)
たとへ
死
(
し
)
すとも
汝
(
な
)
が
如
(
ごと
)
き
207
きたなき
婆
(
ばば
)
に
従
(
したが
)
ふべきやは。
208
身体
(
からたま
)
はよし
罷
(
まか
)
るとも
霊魂
(
たましひ
)
は
209
生
(
い
)
きて
汝
(
なんぢ
)
を
苦
(
くる
)
しめて
見
(
み
)
む。
210
水上
(
みなかみ
)
の
貴
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
に
生
(
うま
)
れたる
211
われは
正
(
ただ
)
しき
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
ぞや。
212
汝
(
なれ
)
こそは
音
(
おと
)
に
聞
(
き
)
くなる
水奔鬼
(
すゐほんき
)
の
213
幽霊婆
(
いうれいばば
)
よとく
此処
(
ここ
)
を
去
(
さ
)
れ』
214
婆
(
ばば
)
は
耳
(
みみ
)
まで
裂
(
さ
)
けた
真青
(
まつさを
)
の
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
215
牛
(
うし
)
の
如
(
ごと
)
き
舌
(
した
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
しながら、
216
『ガハハハハツハ、
217
ギヒヒヒヒ、
218
グフフフフツフ、
219
ゲヘヘヘヘ、
220
ギヨホホホホツホ、
221
てもさてもいぢらしい
腰抜
(
こしぬ
)
け
野郎
(
やらう
)
ども、
222
この
方
(
はう
)
が
計略
(
けいりやく
)
にかかり、
223
大事
(
だいじ
)
の
大事
(
だいじ
)
の
玉
(
たま
)
の
生命
(
いのち
)
の
安売
(
やすうり
)
致
(
いた
)
したウツソリども、
224
嫌
(
いや
)
なら
嫌
(
いや
)
でもう
頼
(
たの
)
まぬ。
225
ギヤハハハハー、
226
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
につれ
帰
(
かへ
)
り、
227
一族
(
いちぞく
)
郎党
(
らうたう
)
呼
(
よ
)
び
集
(
あつ
)
め、
228
汝
(
なんぢ
)
が
亡
(
な
)
きあとの
霊魂
(
たましひ
)
の
生命
(
いのち
)
を
再
(
ふたた
)
び
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げて、
229
恨
(
うら
)
みを
晴
(
は
)
らさでおくものか、
230
ギヤハハハハー、
231
てもさても
心地
(
ここち
)
よやな』
232
冬男
(
ふゆを
)
は
無念
(
むねん
)
の
歯
(
は
)
を
喰
(
く
)
ひしばりながら、
233
『わが
生命
(
いのち
)
如何
(
いか
)
になるとも
汝
(
な
)
の
如
(
ごと
)
き
234
悪魔
(
あくま
)
に
靡
(
なび
)
くわれには
非
(
あら
)
ず。
235
吾
(
われ
)
も
亦
(
また
)
鬼
(
おに
)
と
生
(
うま
)
れて
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
236
生命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
ひなやめてくれむ。
237
葭原
(
よしはら
)
の
国土
(
くに
)
の
秀
(
ひい
)
でて
勝
(
すぐ
)
れたる
238
水上山
(
みなかみやま
)
の
王
(
こきし
)
の
息子
(
せがれ
)
ぞ。
239
汝
(
な
)
が
如
(
ごと
)
きいやしき
鬼
(
おに
)
の
果
(
は
)
てならず
240
われには
厳
(
いづ
)
の
力
(
ちから
)
ありけり』
241
かく
歌
(
うた
)
ひながら
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えに、
242
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
打伏
(
うちふ
)
したるまま
身
(
み
)
亡
(
う
)
せにける。
243
(
昭和九・七・二六
旧六・一五
於関東別院南風閣
林弥生
謹録)
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(B)
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【第2章 行倒|第80巻|天祥地瑞|霊界物語|/rm8002】
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