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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第80巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 忍ケ丘
第1章 独り旅
第2章 行倒
第3章 復活
第4章 姉妹婆
第5章 三つ盃
第6章 秋野の旅
第2篇 秋夜の月
第7章 月見ケ丘
第8章 月と闇
第9章 露の路
第10章 五乙女
第11章 火炎山
第12章 夜見還
第13章 樹下の囁き
第14章 報哭婆
第15章 憤死
第3篇 天地変遷
第16章 火の湖
第17章 水火垣
第18章 大挙出発
第19章 笑譏怒泣
第20章 復命
第21章 青木ケ原
第22章 迎への鳥船
第23章 野火の壮観
余白歌
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>
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第80巻(未の巻)
> 第2篇 秋夜の月 > 第14章 報哭婆
<<< 樹下の囁き
(B)
(N)
憤死 >>>
第一四章
報哭婆
(
ほうこくばば
)
〔二〇一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
篇:
第2篇 秋夜の月
よみ(新仮名遣い):
しゅうやのつき
章:
第14章 報哭婆
よみ(新仮名遣い):
ほうこくばば
通し章番号:
2018
口述日:
1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日)
口述場所:
関東別院南風閣
筆録者:
内崎照代
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
火炎山の頂上には、虎、熊、獅子、狼、豹、大蛇などの猛獣の悪魔たちが、火口の周囲に生息して火種を奪われないように守っていた。
それというのも、もしこの火種を奪われて大原野に放たれてしまうと、猛獣の悪魔たちはたちまち焼き殺されて全滅してしまうことを恐れていたからであった。
秋男が火炎山に向かっていたのも、この火を奪って猛獣の悪魔たちを焼き滅ぼそうと計画していたからに他ならなかった。
猛獣の悪魔の王たちは、水奔鬼たちを使役して、人間がこの山に近づくのを妨害していたのであった。
猛獣の悪魔の王たちが秋男一行をどうやって防ごうかと協議している最中、秋男たちの言霊に打ち負かされた笑い婆、譏り婆が逃げてきた。そして、悪魔の王たちに助力を求めてきた。
猛獣の悪魔たちは、水奔鬼の婆たちのふがいなさを責めるが、結局一致団結して秋男一行に対する防御を敷くことに決定した。
一方、秋男たちは、言霊によって水奔鬼の婆たちを追い払うと、山頂には火炎山の噴火が見えてきた。婆の幻術を打ち破り、山頂の火を求めて行軍しようと意気を上げたその矢先、猛獣の悪魔たちは秋男たちの足止めをしようと、猛烈な雨・風・雷を起こしてきた。
闇の中に稲妻がひらめく間から、鬼婆の影が現れ、再び笑い婆のおぞましい声が響いてきた。そして、猛獣の悪魔の力を借りて、秋男一行の胆力を奪おうと再び脅しをかけてきた。
秋男は胆力を据えて天地を礼拝し、生言霊を奏上するや、雷鳴電光・激しい風雨はぴたりと止んでしまい、空は晴れ渡って元の光景に立ち返った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm8014
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 364頁
修補版:
校定版:
273頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
火炎山
(
くわえんざん
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に、
002
虎
(
とら
)
、
003
熊
(
くま
)
、
004
獅子
(
しし
)
、
005
狼
(
おほかみ
)
、
006
豹
(
へう
)
、
007
大蛇
(
をろち
)
等
(
など
)
の
猛獣
(
まうじう
)
が、
008
火口
(
くわこう
)
の
周囲
(
しうゐ
)
に
棲息
(
せいそく
)
し、
009
何者
(
なにもの
)
にも
火種
(
ひだね
)
を
盗
(
ぬす
)
まれざるやうと、
010
日夜
(
にちや
)
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
つてゐる。
011
若
(
も
)
し
此
(
この
)
火種
(
ひだね
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
012
葭原
(
よしはら
)
の
大原野
(
だいげんや
)
に
放
(
はな
)
たれることあらば、
013
それこそ
一大事
(
いちだいじ
)
、
014
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
は
忽
(
たちま
)
ち
焼
(
や
)
き
殺
(
ころ
)
され、
015
全滅
(
ぜんめつ
)
の
憂目
(
うきめ
)
にあはむことを
恐
(
おそ
)
れ、
016
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
の
王
(
わう
)
は
協議
(
けふぎ
)
の
上
(
うへ
)
、
017
当番
(
たうばん
)
を
選
(
えら
)
びて
噴火口
(
ふんくわこう
)
の
周囲
(
しうゐ
)
を
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
たりける。
018
秋男
(
あきを
)
は
此
(
この
)
火種
(
ひだね
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
019
山村
(
さんそん
)
原野
(
げんや
)
に
放火
(
はうくわ
)
して、
020
一斉
(
いつせい
)
に
葭原
(
よしはら
)
全帯
(
ぜんたい
)
の
悪魔
(
あくま
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
を
焼
(
や
)
き
尽
(
つく
)
さむと
計画
(
けいくわく
)
したりける。
021
然
(
しか
)
るに
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
どもの
前衛
(
ぜんゑい
)
を
務
(
つと
)
むる
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
の
水奔鬼
(
すゐほんき
)
は、
022
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りにこれを
阻止
(
そし
)
すれども、
023
動
(
やや
)
もすれば
秋男
(
あきを
)
が
登山
(
とざん
)
するの
恐
(
おそ
)
れあり、
024
如何
(
いか
)
にもしてこれを
妨
(
さまた
)
げむと、
025
種々
(
しゆじゆ
)
様々
(
さまざま
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
をつくし、
026
暫時
(
ざんじ
)
の
間
(
ま
)
を
闇
(
やみ
)
の
幕
(
まく
)
に
包
(
つつ
)
みおきたるなり。
027
山上
(
さんじやう
)
の
火口
(
くわこう
)
の
周囲
(
まはり
)
には、
028
猛獣
(
まうじう
)
の
王
(
わう
)
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
山麓
(
さんろく
)
より
響
(
ひび
)
き
来
(
きた
)
る
言霊
(
ことたま
)
の
水火
(
いき
)
に
戦
(
をのの
)
きながら、
029
如何
(
いか
)
にもして
火取
(
ひとり
)
の
敵
(
てき
)
を
防
(
ふせ
)
がむやと、
030
協議
(
けふぎ
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
のところへ、
031
すたすたと
息
(
いき
)
をはづませ
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
りしは、
032
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
ア、
033
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アの
二鬼
(
にき
)
である。
034
虎王
(
とらわう
)
は
二鬼
(
にき
)
を
見
(
み
)
るより
慌
(
あわただ
)
しく
声
(
こゑ
)
をかけ、
035
『
山裾
(
やますそ
)
に
言霊
(
ことたま
)
ひびくは
何者
(
なにもの
)
ぞ
036
つぶさにかたれ
二
(
ふた
)
つの
婆
(
ばば
)
ども』
037
熊
(
くま
)
の
王
(
わう
)
は、
038
『
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
何
(
なに
)
をためらふか
一刻
(
いつこく
)
も
039
早
(
はや
)
くまことを
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
に
伝
(
つた
)
へよ』
040
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
は、
041
『アハハハハ、
042
イヒヒヒヒ
043
いけすかぬ
餓鬼
(
がき
)
ども
五
(
いつ
)
つあらはれて
044
この
山
(
やま
)
の
火
(
ひ
)
を
取
(
と
)
らむとするも。
045
たましひのあらむ
限
(
かぎ
)
りの
力
(
ちから
)
もて
046
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
までふせぎゐたりき。
047
わが
力
(
ちから
)
最早
(
もはや
)
つきなむ
願
(
ねが
)
はくば
048
君
(
きみ
)
の
力
(
ちから
)
を
吾
(
われ
)
にあたへよ』
049
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
050
『イヒヒヒヒいらぬ
世話
(
せわ
)
やかす
餓鬼
(
がき
)
どもが
051
あらはれ
火炎
(
くわえん
)
の
山
(
やま
)
にのぼらむ。
052
われも
亦
(
また
)
力
(
ちから
)
かぎりに
防
(
ふせ
)
げども
053
敵
(
てき
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
武器
(
ぶき
)
を
持
(
も
)
つなり。
054
斯
(
か
)
くならば
君
(
きみ
)
の
力
(
ちから
)
をからむより
055
外
(
ほか
)
に
手
(
て
)
だてはなしと
思
(
おも
)
へり』
056
虎王
(
とらわう
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
057
『その
方
(
はう
)
は
小刀
(
こがたな
)
細工
(
ざいく
)
いたす
故
(
ゆゑ
)
に
058
もろくも
敵
(
てき
)
にくじかれにけむ。
059
言霊
(
ことたま
)
の
武器
(
ぶき
)
おそるるに
足
(
た
)
らざらむ
060
魔術
(
まじゆつ
)
をつくして
向
(
むか
)
ひ
戦
(
たたか
)
へ。
061
魔心
(
まごころ
)
のひるまずあれば
言霊
(
ことたま
)
の
062
剣
(
つるぎ
)
もいかで
恐
(
おそ
)
るべきかは』
063
狼
(
おほかみ
)
の
王
(
わう
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
064
『
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
ア
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アの
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
さ
065
ききて
狼
(
おほかみ
)
あきれ
果
(
は
)
てたり。
066
闇
(
やみ
)
の
幕
(
まく
)
汝
(
なんぢ
)
に
与
(
あた
)
へあるからは
067
彼
(
かれ
)
がまなこをくらませ
亡
(
ほろ
)
ぼせ』
068
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
、
069
『アハハハハ
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
アは
根
(
こん
)
かぎり
070
力
(
ちから
)
の
限
(
かぎ
)
り
戦
(
たたか
)
ひしはや。
071
迷
(
まよ
)
はせど
穴
(
あな
)
に
落
(
おと
)
せど
言霊
(
ことたま
)
の
072
剣
(
つるぎ
)
に
彼
(
かれ
)
はひるまざりける。
073
名
(
な
)
に
高
(
たか
)
き
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
アのたくらみも
074
今
(
いま
)
は
全
(
まつた
)
くやぶれはてたる。
075
この
上
(
うへ
)
は
君
(
きみ
)
が
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
りるより
076
わが
生
(
い
)
くる
道
(
みち
)
更
(
さら
)
になからむ』
077
狼
(
おほかみ
)
の
王
(
わう
)
、
078
『
気
(
き
)
のきかぬ
二人婆
(
ふたりばば
)
アよ
狼
(
おほかみ
)
は
079
今日
(
けふ
)
より
汝
(
なんぢ
)
に
暇
(
いとま
)
つかはす。
080
くら
闇
(
やみ
)
の
常夜
(
とこよ
)
の
幕
(
まく
)
を
持
(
も
)
ちながら
081
へこたれ
悩
(
なや
)
みし
腰抜
(
こしぬ
)
けなるかな』
082
獅子王
(
ししわう
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
083
『
狼
(
おほかみ
)
の
君
(
きみ
)
よしばらく
待
(
ま
)
てよかし
084
婆
(
ばば
)
アの
魔言
(
まこと
)
のふかきをさとりて。
085
斯
(
か
)
くならばわれ
等
(
ら
)
一度
(
いちど
)
に
魔力
(
まぢから
)
を
086
あはせて
敵
(
てき
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさむかな。
087
熊
(
くま
)
も
来
(
こ
)
よ
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
も
従
(
したが
)
へよ
088
山
(
やま
)
を
降
(
くだ
)
りて
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
はむ。
089
言霊
(
ことたま
)
の
剣
(
つるぎ
)
の
光
(
ひかり
)
するどくも
090
われ
等
(
ら
)
は
牙
(
きば
)
もて
咬
(
か
)
み
殺
(
ころ
)
すべし』
091
斯
(
か
)
く
山上
(
さんじやう
)
の
悪魔
(
あくま
)
等
(
たち
)
は
協議
(
けふぎ
)
を
凝
(
こ
)
らしてゐる。
092
麓
(
ふもと
)
の
樹蔭
(
こかげ
)
に
夢
(
ゆめ
)
よりさめたる
如
(
ごと
)
き
秋男
(
あきを
)
一行
(
いつかう
)
は、
093
山頂
(
さんちやう
)
の
噴火
(
ふんくわ
)
するさまを
眺
(
なが
)
めながら、
094
『ああ
吾
(
われ
)
は
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アにはかられて
095
樹
(
こ
)
かげに
夢
(
ゆめ
)
をみてゐたりけむ。
096
如何
(
いか
)
ならむ
艱
(
なや
)
みにあふもひるむまじ
097
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
の
火
(
ひ
)
をとらざれば。
098
火
(
ひ
)
の
種
(
たね
)
をとられむことをおそれみて
099
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
は
守
(
まも
)
りゐると
言
(
い
)
ふ。
100
ともかくも
捨身
(
すてみ
)
となりて
堂々
(
だうだう
)
と
101
曲津
(
まが
)
の
砦
(
とりで
)
に
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せゆかむ。
102
火
(
ひ
)
の
種
(
たね
)
の
一
(
ひと
)
つありせば
山
(
やま
)
に
野
(
の
)
に
103
ひそむ
悪魔
(
あくま
)
の
棲処
(
すみか
)
を
焼
(
や
)
かむ』
104
松
(
まつ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
105
『
情
(
なさけ
)
なや
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アのたくらみに
106
大丈夫
(
ますらを
)
吾
(
われ
)
はあざむかれける。
107
斯
(
か
)
くならば
最早
(
もはや
)
覚悟
(
かくご
)
し
鬼婆
(
おにばば
)
の
108
醜
(
しこ
)
のたくみを
退
(
しりぞ
)
けゆかむ。
109
国
(
くに
)
の
為
(
た
)
めに
心
(
こころ
)
をいらつわが
側
(
そば
)
に
110
無心
(
むしん
)
の
桔梗
(
ききやう
)
は
安
(
やす
)
く
匂
(
にほ
)
へり。
111
天津空
(
あまつそら
)
仰
(
あふ
)
ぎて
見
(
み
)
れば
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
は
112
うす
雲
(
ぐも
)
の
中
(
なか
)
に
輝
(
かがや
)
き
給
(
たま
)
へり』
113
竹
(
たけ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
114
『
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アのさまたげを
115
うちはらひつつ
登
(
のぼ
)
りゆくべし。
116
にくらしや
冬男
(
ふゆを
)
の
君
(
きみ
)
の
御
(
おん
)
生命
(
いのち
)
117
とりたる
婆
(
ばば
)
アを
征討
(
きた
)
めでおくべき。
118
この
婆
(
ばば
)
は
曲津神
(
まがつかみ
)
等
(
ら
)
のさきばしりを
119
つとむる
醜
(
しこ
)
の
曲
(
くせ
)
ものなるらむ』
120
梅
(
うめ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
121
『
大空
(
おほぞら
)
はやや
曇
(
くも
)
れども
路
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
の
122
千草
(
ちぐさ
)
は
花
(
はな
)
をかざして
匂
(
にほ
)
へり。
123
一天
(
いつてん
)
はにはかに
曇
(
くも
)
り
太
(
ふと
)
き
雨
(
あめ
)
124
降
(
ふ
)
り
出
(
だ
)
しにけり
曲
(
まが
)
のたくみか』
125
斯
(
か
)
く
歌
(
うた
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
126
山上
(
さんじやう
)
の
猛獣
(
まうじう
)
連
(
れん
)
は
秋男
(
あきを
)
一行
(
いつかう
)
の
登山
(
とざん
)
を
喰
(
く
)
ひ
止
(
と
)
めむとして、
127
雲
(
くも
)
を
呼
(
よ
)
び、
128
風
(
かぜ
)
を
起
(
おこ
)
し
大雨
(
たいう
)
を
降
(
ふ
)
らし、
129
雷
(
かみなり
)
を
使
(
つか
)
ひ、
130
忽
(
たちま
)
ち
天地
(
てんち
)
は
暗澹
(
あんたん
)
として
修羅道
(
しゆらだう
)
を
現出
(
げんしゆつ
)
したりける。
131
梅
(
うめ
)
はこの
光景
(
くわうけい
)
を
眺
(
なが
)
めて、
132
『
頂
(
いただき
)
にすまへる
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくへび
)
の
133
すさびなるらむ
雨風
(
あめかぜ
)
しげし。
134
雷
(
いかづち
)
は
高
(
たか
)
く
轟
(
とどろ
)
き
風
(
かぜ
)
荒
(
あ
)
れて
135
山
(
やま
)
を
登
(
のぼ
)
らむ
手
(
て
)
だてさへなき。
136
斯
(
か
)
くならば
曲
(
まが
)
の
力
(
ちから
)
の
弱
(
よわ
)
るまで
137
待
(
ま
)
ちて
登
(
のぼ
)
らむ
火炎
(
くわえん
)
の
山頂
(
さんちやう
)
』
138
秋男
(
あきを
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
139
『
又
(
また
)
してもこざかしきかな
曲神
(
まがかみ
)
は
140
黒雲
(
くろくも
)
おこし
雨
(
あめ
)
を
降
(
ふ
)
らすも。
141
曲神
(
まがかみ
)
の
醜
(
しこ
)
の
材料
(
ざいれう
)
つくるまで
142
心
(
こころ
)
静
(
しづ
)
かに
樹
(
こ
)
かげに
待
(
ま
)
たむ』
143
雷鳴
(
らいめい
)
轟
(
とどろ
)
き
稲妻
(
いなづま
)
ひらめき、
144
山風
(
やまかぜ
)
強
(
つよ
)
く
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
び、
145
大雨
(
たいう
)
沛然
(
はいぜん
)
として
降
(
ふ
)
りしきり、
146
樹下
(
じゆか
)
の
宿
(
やど
)
りも
雨洩
(
あまも
)
りの
為
(
ため
)
に、
147
皮衣
(
かはごろも
)
もびしよ
濡
(
ぬ
)
れとなり、
148
大
(
おほ
)
いに
苦
(
くる
)
しみたれど、
149
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
大丈夫
(
ますらを
)
は
少
(
すこ
)
しもひるまず、
150
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
時
(
とき
)
の
過
(
す
)
ぐるを
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たり。
151
天地
(
てんち
)
の
闇
(
やみ
)
を
縫
(
ぬ
)
うてひらめく
稲妻
(
いなづま
)
の
間
(
あひだ
)
より、
152
鬼婆
(
おにばば
)
の
影
(
かげ
)
ちらりちらりと
現
(
あら
)
はるるさま、
153
一入
(
ひとしほ
)
いやらし。
154
樹
(
き
)
の
枝
(
えだ
)
高
(
たか
)
く
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
又
(
また
)
もや
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
155
『ギヤハハハハ、
156
獅子王
(
ししわう
)
様
(
さま
)
の
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
り、
157
あらはれ
来
(
きた
)
りし
鬼婆
(
おにばば
)
ぞや。
158
この
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
は
以前
(
いぜん
)
と
事変
(
ことかは
)
り、
159
獅子王
(
ししわう
)
、
160
熊王
(
くまわう
)
、
161
虎王
(
とらわう
)
、
162
狼王
(
おほかみわう
)
様
(
さま
)
方々
(
かたがた
)
の
御
(
お
)
力
(
ちから
)
を
拝借
(
はいしやく
)
致
(
いた
)
してこれに
現
(
あら
)
はれしものなれば、
163
最早
(
もはや
)
、
164
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
言霊
(
ことたま
)
とやらにひるむべき。
165
さあ、
166
これよりは
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
にて、
167
骨
(
ほね
)
を
砕
(
くだ
)
き、
168
肉
(
にく
)
を
削
(
そ
)
ぎ、
169
血
(
ち
)
をしぼり、
170
獅子王
(
ししわう
)
様
(
さま
)
のお
食事
(
しよくじ
)
に
奉
(
たてまつ
)
らむ。
171
てもさても
面白
(
おもしろ
)
や
勇
(
いさ
)
ましや、
172
イヒヒヒヒ、
173
ウフフフフ、
174
イヒヒヒヒ、
175
オホホホホ
臆病者
(
おくびやうもの
)
、
176
この
方
(
はう
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
胴
(
どう
)
ぶるひ
致
(
いた
)
してゐるが、
177
さてもさてもいぢらしい
者
(
もの
)
だワイ。
178
ギヤハハハハ、
179
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
恐
(
おそ
)
るる
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
ぞや。
180
今日
(
けふ
)
こそは
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
運
(
うん
)
の
尽
(
つ
)
き、
181
獅子王
(
ししわう
)
様
(
さま
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
つて
生命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
はるべし。
182
じたばたしても、
183
もう
敵
(
かな
)
ふまい。
184
さあ
動
(
うご
)
くなら
動
(
うご
)
いてみよ。
185
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
金縛
(
かなしば
)
りの
術
(
じゆつ
)
にかけおきたれば
最早
(
もはや
)
びくとも
動
(
うご
)
けまい。
186
さてもさても
心地
(
ここち
)
よやな、
187
ギヤフフフフ、
188
ヒウーードロドロドロ、
189
この
方
(
はう
)
は
水奔鬼
(
すゐほんき
)
の
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
アの
幽霊
(
いうれい
)
ぞや。
190
いやらしくはないか、
191
いや、
192
おそろしくはないかウフフフフ』
193
と、
1931
幾度
(
いくたび
)
となく
同
(
おな
)
じことのみ
繰返
(
くりかへ
)
す
鬼婆
(
おにばば
)
の
言葉
(
ことば
)
に、
194
秋男
(
あきを
)
は
胆力
(
たんりよく
)
を
据
(
す
)
ゑ、
195
再
(
ふたた
)
び
天地
(
てんち
)
を
拝
(
はい
)
し、
196
生言霊
(
いくことたま
)
を
奏上
(
そうじやう
)
するや、
197
さしも
激
(
はげ
)
しかりし
雷鳴
(
らいめい
)
電光
(
でんくわう
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
止
(
と
)
まり、
198
山風
(
やまかぜ
)
の
荒
(
すさ
)
びも、
199
降
(
ふ
)
る
雨
(
あめ
)
も、
200
ぴたりと
止
(
と
)
まりて、
201
天地
(
てんち
)
清明
(
せいめい
)
、
202
空
(
そら
)
に
一点
(
いつてん
)
の
雲霧
(
くもきり
)
もなく、
203
地上
(
ちじやう
)
は
錦
(
にしき
)
の
莚
(
むしろ
)
を
敷
(
し
)
き
並
(
なら
)
べたる
如
(
ごと
)
く、
204
日月
(
じつげつ
)
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り、
205
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
天地
(
てんち
)
の
光景
(
くわうけい
)
にかへりたるこそ
不思議
(
ふしぎ
)
なれ。
206
(
昭和九・七・二八
旧六・一七
於関東別院南風閣
内崎照代
謹録)
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