霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 火(ひ)の湖(みづうみ)〔二〇二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻 篇:第3篇 天地変遷 よみ(新仮名遣い):てんちへんせん
章:第16章 火の湖 よみ(新仮名遣い):ひのみずうみ 通し章番号:2020
口述日:1934(昭和9)年07月30日(旧06月19日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
秋男一行が猛獣の悪魔たちに噴火口に投げ入れられて命を落とした後、半時ほどして火炎山はたちまち大鳴動を始め、前後左右上下に振動すると大爆発を起こした。
高い山影は跡形もなくなり、代わりに大きな湖水が出現し、中央の小さな小島が残るのみであった。猛獣毒蛇、水奔鬼たちは大部分が全滅し、中央の小島には、秋男たちの精霊と、朝霧ら国津神の娘たちの水奔鬼が残り、秋男の精霊は島の主となった。
秋男たちは、未だに残る少数の猛獣毒蛇を滅ぼして、ここに精霊の安全地帯を作ろうと苦心していたが、身体を失った精霊の身では猛獣毒蛇に対抗する力がなく、天地の神に祈願して救いを待つのみであった。
高光山の朝霧比女の神一行は、火炎山が大爆発を起こしたことを知り、協議の結果、朝空男の神、国生男の神二柱が、天の鳥船を作って予讃の国に向かい、様子をうかがってくることとなった。
朝空男の神、国生男の神は述懐の歌を歌いながら鳥船を操り、予讃の国の雲をかき分けて地上に降り、かつて笑い婆の棲家であった忍ケ丘の平地に降り立った。
火炎山は大きな湖になってしまったが、その湖水が忍ケ丘の一里ほど近くまで展開していた。二柱の神々が丘の上で感謝の歌を捧げていると、かつて笑い婆に命を奪われて、精霊となって忍ケ丘を守っていた冬男たちが現れ来て、両神にこれまでの経緯と、降臨への感謝を歌った。
神々は、冬男たちが精霊の身で水奔鬼の鬼婆を追い出したと聞いて、その魂の強さに感心した。両神は、精霊たちを安堵させると、その夜は忍ケ丘の冬男の館に休息を取った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4009 OBC :rm8016
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 374頁 修補版: 校定版:309頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 秋男(あきを)を始(はじ)め、002松(まつ)、003竹(たけ)、004梅(うめ)、005桜(さくら)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)が、006猛獣(まうじう)の主共(ぬしども)に銜(くは)へられ、007火炎山(くわえんざん)の大(だい)噴火口(ふんくわこう)に投(な)げ込(こ)まれ、008身体(からだ)は白骨(はくこつ)となりて中空(ちうくう)高(たか)く昇(のぼ)り、009再(ふたた)び山上(さんじやう)に落下(らくか)したるが、010稍(やや)半時(はんとき)許(ばか)り経(へ)て、011火炎山(くわえんざん)は忽(たちま)ち大鳴動(だいめいどう)を始(はじ)め、012前後(ぜんご)左右(さいう)上下(じやうげ)に震動(しんどう)し、013遂(つひ)には大爆発(だいばくはつ)して、014見(み)る見(み)るさしもに高(たか)き山影(やまかげ)は跡形(あとかた)もなく大湖水(だいこすゐ)と変化(へんくわ)し、015猛獣(まうじう)、016毒蛇(どくじや)、017水奔鬼(すゐほんき)の大部分(だいぶぶん)は全滅(ぜんめつ)の厄(やく)に遇(あ)ひて、018その中央(ちうあう)に小(ちひ)さき小島(こじま)を残(のこ)すのみとはなりぬ。019この小島(こじま)に救(すく)はれたる精霊(せいれい)は、020秋男(あきを)一行(いつかう)を始(はじ)め、021朝霧(あさぎり)、022夕霧(ゆふぎり)、023秋風(あきかぜ)、024野分(のわき)、025秋雨(あきさめ)及(およ)び僅少(きんせう)なる水奔鬼(すゐほんき)及(およ)び猛獣(まうじう)、026毒蛇(どくじや)の小部分(せうぶぶん)なりけり。
027 ここに秋男(あきを)は此(この)島(しま)の精霊界(せいれいかい)の主(ぬし)となりけるが、028未(いま)だ肉体(にくたい)を有(いう)する猛獣(まうじう)、029毒蛇(どくじや)の残(のこ)れるを如何(いか)にもして全滅(ぜんめつ)し、030ここに精霊(せいれい)の安全(あんぜん)地帯(ちたい)を造(つく)らむと、031八方(はつぱう)辛苦(しんく)を重(かさ)ね居(ゐ)たりける。032然(しか)りと雖(いへど)も秋男(あきを)は最早(もは)や精霊(せいれい)なれば、033肉体(にくたい)を持(も)つ猛獣(まうじう)、034毒蛇(どくじや)に対抗(たいかう)すべき力(ちから)なく、035只(ただ)天地(てんち)神明(しんめい)に祈願(きぐわん)し、036救(すく)ひの神(かみ)の御(ご)降臨(かうりん)を待(ま)つより外(ほか)すべもなかりける。
037 扨(さ)て高光山(たかみつやま)に天降(あも)りませる朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)、038大御照(おほみてらし)の神(かみ)、039朝空男(あさぞらを)の神(かみ)、040国生男(くにうみを)の神(かみ)、041子心(こごころ)比女(ひめ)の神(かみ)は、042高光山(たかみつやま)の頂(いただき)なる巌窟(がんくつ)の宝座(ほうざ)に集(あつま)り、043遥(はるか)の西方(せいはう)に当(あた)り大爆音(だいばくおん)聞(きこ)え、044火炎山(くわえんざん)の天(てん)に冲(ちう)する火焔(くわえん)は、045跡形(あとかた)もなく消(き)え失(う)せ、046只(ただ)黒雲(こくうん)の漲(みなぎ)れるを望見(ばうけん)し、047葭原(よしはら)の国土(くに)の一部(いちぶ)に天変(てんぺん)地異(ちい)のありたるを憂(うれ)ひ給(たま)ひながら、048こと議(はか)り給(たま)ふ。049朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
 
050(註)天祥(てんしやう)地瑞(ちずゐ)の物語中(ものがたりちう)、051神々(かみがみ)の御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふとあるは、052御言葉(みことば)の意(い)なり。053神代(かみよ)は現代人(げんだいじん)の如(ごと)く不成立(ふせいりつ)なる言語(げんご)なく、054互(たがひ)に天地(てんち)の音律(おんりつ)に合(あ)へる三十一(みそひと)文字(もじ)を用(もち)ひ給(たま)ひしが、055所謂(いはゆる)今日(こんにち)の和歌(わか)となれるものにして、056歌(うた)ひ給(たま)ふと言(い)ふは、057申(まを)し給(たま)ふ又(また)は仰(あふ)せ給(たま)ふ、058語(かた)り給(たま)ふ、059宣(の)り給(たま)ふの意義(いぎ)と知(し)るべし。060神代(かみよ)の神(かみ)の言葉(ことば)を、061現代人(げんだいじん)は総(すべ)て歌(うた)として扱(あつか)へるを知(し)るべし。
062『見渡(みわた)せば火炎(くわえん)の山(やま)は天地(あめつち)を
063動(ゆる)がしにつつ消(き)え失(う)せにけり。
064久方(ひさかた)の空(そら)をなめたる火(ひ)の舌(した)も
065今(いま)は全(まつた)く見(み)えずなりけり。
066葭原(よしはら)の国土(くに)の曲神(まがみ)を言向(ことむ)くる
067恵(めぐみ)の御火(みひ)は消(き)え失(う)せにけり。
068いかにしてこの葭原(よしはら)を治(し)らさむや
069神(かみ)の宝(たから)の御火(みひ)消(き)えぬれば。
070兎(と)に角(かく)に火炎(くわえん)の山(やま)は消(き)え失(う)せぬ
071湖(うみ)となりしか心(こころ)もとなや』
072 大御照(おほみてらし)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
073『吾(われ)も亦(また)火炎(くわえん)の山(やま)の爆発(ばくはつ)を
074思(おも)へば心(こころ)曇(くも)らひにけり。
075葭草(よしぐさ)や水奔草(すゐほんさう)を焼(や)き払(はら)ふ
076しぐみの中(うち)に火(ひ)は消(き)えにけり。
077葭原(よしはら)の島(しま)のことごと夜(よる)されば
078明(あか)るかりしを今(いま)は是非(ぜひ)なし。
079濛々(もうもう)と天(てん)に黒雲(くろくも)ふさがりて
080火炎(くわえん)の山(やま)は見(み)えずなりけり。
081曲津(まが)神(かみ)の数多(あまた)棲(す)まひし山(やま)なれば
082御火(みひ)取(と)る業(わざ)をためらひ居(を)りしに。
083ためらひてある間(ま)に御火(みひ)は消(き)えにけり
084この国原(くにはら)を如何(いか)に治(をさ)めむ。
085今日(けふ)よりは御火(みひ)は消(き)ゆれど言霊(ことたま)の
086水火(いき)を照(てら)して世(よ)を治(をさ)めませ』
087 御樋代(みひしろ)神(がみ)は歌(うた)ひ給(たま)ふ。
088『汝(なれ)こそは大御照(おほみてらし)の神(かみ)なれば
089闇(やみ)を明(あか)せよ生言霊(いくことたま)に。
090曲津見(まがつみ)のその大方(おほかた)は天地(あめつち)の
091変異(へんい)に失(う)すれど火(ひ)なきが惜(を)しき』
092 大御照(おほみてらし)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
093『吾(わが)公(きみ)の御言葉(みことば)畏(かしこ)み今日(けふ)よりは
094溪(たに)に降(くだ)りて禊(みそぎ)なすべし。
095吾(わが)禊(みそぎ)神(かみ)の心(こころ)にかなふまで
096力(ちから)限(かぎ)りに務(つと)めはげまむ』
097 御樋代(みひしろ)神(がみ)は歌(うた)ひ給(たま)ふ。
098『公(きみ)が歌(うた)聞(き)きて吾(わが)魂(たま)蘇(よみがへ)り
099天地(あめつち)開(ひら)けし心地(ここち)するかも』
100 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
101『葭原(よしはら)の国土(くに)にも高(たか)きこの山(やま)ゆ
102国形(くにがた)見(み)れば火(ひ)の山(やま)嶮(さか)き。
103嶮(さか)しかりし火炎(くわえん)の山(やま)は忽(たちま)ちに
104湖(うみ)となりしか姿(すがた)見(み)えなく。
105曲津(まがつ)神(かみ)数多(あまた)棲(す)まひしこの山(やま)は
106神(かみ)の経綸(しぐみ)か消(き)え去(さ)りにける。
107兎(と)にもあれ予讃(よさ)の国原(くにはら)さやぐらむ
108許(ゆる)させ給(たま)へば吾(われ)出(い)で行(ゆ)かむ。
109巌(いは)ケ根(ね)の神(かみ)に力(ちから)を添(そ)へながら
110予讃(よさ)の国原(くにはら)蘇(よみがへ)らせむ』
111 国生男(くにうみを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
112『吾(われ)も亦(また)朝空男(あさぞらを)の神(かみ)と諸共(もろとも)に
113予讃(よさ)の国原(くにはら)に進(すす)みたく思(おも)ふ。
114御樋代(みひしろ)の神(かみ)許(ゆる)しませ国生男(くにうみを)
115吾(わが)願(ね)ぎごとを𪫧怜(うまら)に委曲(つばら)に。
116葭原(よしはら)の国土(くに)の生(い)き物(もの)悉(ことごと)く
117悩(なや)みてあらむ進(すす)ませ給(たま)へ』
118 朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)は歌(うた)ひ給(たま)ふ。
119『国生男(くにうみを)神(かみ)の願(ねが)ひを諾(うべな)ひて
120予讃(よさ)の御国(みくに)の為(ため)遣(つか)はさむ。
121大御照(おほみてらし)、子心(こごころ)比女(ひめ)の二柱(ふたはしら)は
122吾(わが)右(みぎ)左(ひだり)に仕(つか)へ奉(まつ)れよ。
123朝空男(あさぞらを)、国生男(くにうみを)の神(かみ)鳥船(とりふね)を
124早(はや)く造(つく)りて進(すす)み出(い)でませ』
125 斯(か)く歌(うた)ひて奥殿(おくでん)深(ふか)く入(い)らせ給(たま)ひ、126大御照(おほみてらし)の神(かみ)と子心(こごころ)比女(ひめ)の神(かみ)は、127巌窟(がんくつ)の口(くち)の間(ま)に控(ひか)へて国形(くにがた)を看守(みまも)り給(たま)ふ事(こと)となり、128朝空男(あさぞらを)、129国生男(くにうみを)の二柱(ふたはしら)は大峡(おほがひ)小峡(をがひ)の木(き)を伐(き)り、130天(あま)の鳥船(とりふね)を七日(なぬか)七夜(ななよ)の日数(ひかず)を重(かさ)ねて漸(やうや)くに造(つく)り上(あ)げ給(たま)ひ、131両神(りやうしん)はこの鳥船(とりふね)に乗(の)りて中空(ちうくう)に翼(つばさ)をうちながら、132予讃(よさ)の国原(くにはら)さして進(すす)ませ給(たま)ふ。
133 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は鳥船(とりふね)に身(み)をまかせながら、134中空(ちうくう)を翔(か)けりつつ、1341御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
135『七日(なぬか)七夜(ななよ)を寝(ね)もやらず
136国生男(くにうみを)神(がみ)と諸共(もろとも)に
137大峡(おほがひ)小峡(をがひ)の木(き)を伐(き)りて
138目出度(めでた)くここに鳥船(とりふね)を
139造(つく)り終(を)へたる嬉(うれ)しさよ
140吾(われ)は空(そら)ゆく鳥(とり)なれや
141下界(げかい)を遥(はるか)に見下(みおろ)せば
142葭原(よしはら)の国土(くに)広々(ひろびろ)と
143あなたこなたに山(やま)の尾(を)は
144霧(きり)の面(おもて)に浮(うか)びゐる
145下界(げかい)はたしかに見(み)えねども
146霧(きり)の海原(うなばら)底(そこ)深(ふか)く
147百(もも)の人草(ひとぐさ)鬼(おに)大蛇(をろち)
148虫(むし)獣(けだもの)も草(くさ)も木(き)も
149火炎(くわえん)の山(やま)の爆発(ばくはつ)に
150悩(なや)みくるしみをののきて
151生(い)きたる心地(ここち)もなかるらむ
152火炎(くわえん)の山(やま)は遠(とほ)くとも
153御空(みそら)を走(はし)る鳥船(とりふね)の
154早(はや)き翼(つばさ)に進(すす)みなば
155一日(ひとひ)の中(うち)に到(いた)るべし
156御樋代(みひしろ)神(がみ)の天降(あも)らしし
157天(あめ)の八重雲(やへくも)に比(くら)ぶれば
158地上(ちじやう)に落(お)つる憂(うれ)ひなく
159安全(あんぜん)無事(ぶじ)の空(そら)の旅(たび)
160ああさりながらさりながら
161吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)に翼(つばさ)をば
162折(を)られて鳥船(とりふね)逆(さかさま)に
163地上(ちじやう)に落(お)つる事(こと)もがな
164行手(ゆくて)は遠(とほ)し雲(くも)の上(うへ)
165ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
166主(ス)の大神(おほかみ)の御恵(みめぐみ)に
167安(やす)く平穏(おだひ)に進(すす)ませ給(たま)へ
168心安(うらやす)らかに進(すす)ませ給(たま)へ
169一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
170百(もも)千(ち)万(よろづ)八千万(やちよろづ)
171天津神(あまつかみ)等(たち)国津(くにつ)神(かみ)
172守(まも)らせ給(たま)へと願(ね)ぎ奉(まつ)る』
173 国生男(くにうみを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
174『吾(われ)は国生男(くにうみを)の神(かみ)よ
175遥(はるか)に高(たか)き雲(くも)の上(うへ)
176西(にし)へ西(にし)へと進(すす)みゆく
177この鳥船(とりふね)は鳳凰(ほうわう)か
178翼(つばさ)の強(つよ)き真鶴(まなづる)か
179心(こころ)の空(そら)も晴(は)れやかに
180国形(くにがた)見(み)むと進(すす)み行(ゆ)く
181今日(けふ)の旅(たび)こそ楽(たの)しけれ
182御樋代(みひしろ)神(がみ)の神言(みこと)もて
183主(ス)の大神(おほかみ)の御(おん)稜威(みいづ)
184頸(うなじ)に受(う)けて進(すす)みゆく
185吾(われ)等(ら)に御幸(みさち)あれよかし
186吾(われ)等(ら)に光(ひか)りあれよかし
187遠(とほ)く下界(げかい)を見渡(みわた)せば
188黒雲(くろくも)白雲(しらくも)交々(こもごも)に
189地上(ちじやう)を包(つつ)みて草(くさ)も木(き)も
190人(ひと)も獣(けもの)も見(み)え分(わ)かず
191漂渺(へうべう)千里(せんり)の海原(うなばら)を
192渡(わた)るが如(ごと)き心地(ここち)かな
193今(いま)まで空(そら)を照(てら)したる
194火炎(くわえん)の山(やま)は影(かげ)もなし
195目標(めじるし)さへもなき空(そら)を
196進(すす)む吾(われ)こそ雄々(をを)しけれ
197主(ス)の大神(おほかみ)の坐(ま)す限(かぎ)り
198過(あやま)つことなく進(すす)み得(え)む
199ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
200恩頼(みたまのふゆ)をたまへかし』
201 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は鳥船(とりふね)より歌(うた)ふ。
202『見下(みおろ)せば黒雲(くろくも)白雲(しらくも)群(むらが)りて
203荒海原(あらうなばら)を進(すす)むに似(に)たり。
204天(あめ)と地(つち)の中空(なかぞら)をゆく鳥船(とりふね)の
205とりつく島(しま)も見(み)えぬ旅(たび)かな。
206西(にし)東(ひがし)南(みなみ)も北(きた)も見(み)え分(わ)かぬ
207空(そら)の海(うみ)ゆく鳥船(とりふね)あはれ。
208吾(わが)伊行(いゆ)く空(そら)高(たか)ければ風(かぜ)もなく
209雨(あめ)は下(した)より降(ふ)り上(あが)るなり。
210地(ち)の上(うへ)に醜(しこ)の曲事(まがこと)現(あらは)れしか
211空(そら)のぼり来(く)る雲(くも)はにごれり』
212 国生男(くにうみを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
213『国津(くにつ)神(かみ)獣(けもの)の歎(なげ)き伝(つた)はるか
214雲(くも)に怪(あや)しき声(こゑ)のふくめる。
215高(たか)き声(こゑ)集(あつま)る方(かた)を目的(めあて)にて
216下(くだ)り着(つ)かむかこの鳥船(とりふね)を。
217宇宙間(うちうかん)何物(なにもの)も見(み)えず只(ただ)一(ひと)つ
218吾(わが)鳥船(とりふね)のあるのみぞかし。
219御樋代(みひしろ)の神(かみ)のまします高光(たかみつ)の
220山(やま)の姿(すがた)も見(み)えずなりけり。
221主(ス)の神(かみ)の始(はじ)めて宇宙(うちう)に生(あ)れませる
222時(とき)もかくやと偲(しの)ばるるかな。
223葭原(よしはら)の国土(くに)広(ひろ)ければ二夜(ふたよ)三夜(みよ)
224走(はし)るも万里(まで)の海(うみ)には到(いた)らず。
225万里(まで)の海(うみ)の中(なか)にも広(ひろ)き葭原(よしはら)の
226国津(くにつ)御空(みそら)の定(さだ)まらぬかな』
227 両神(りやうしん)は空中(くうちう)を歌(うた)ひながら、228予讃(よさ)の国土(くに)の空(そら)を静(しづか)に八重雲(やへくも)かき分(わ)け下(くだ)らせ給(たま)へば、229笑(わら)ひ婆(ばば)の棲(す)み居(ゐ)たりし忍(しのぶ)ケ丘(をか)の平地(へいち)に鳥船(みふね)は安々(やすやす)着(つ)きにける。
230 火炎山(くわえんざん)一帯(いつたい)約(やく)百余(ひやくよ)里(り)の地(ち)は大湖水(だいこすゐ)と化(くわ)したれども、231忍(しのぶ)ケ丘(をか)は幸(さいは)ひその圏外(けんぐわい)に置(お)かれて、232約(やく)一(いち)里(り)近(ちか)くまで湖水(こすゐ)は展開(てんかい)し居(ゐ)たりける。233二神(にしん)は此(この)丘(をか)に下(お)り立(た)ち、234天地(てんち)の神霊(しんれい)に向(むか)つて、235感謝(かんしや)の言霊(ことたま)を奏上(そうじやう)し数歌(かずうた)をうたはせ給(たま)ふ。
236 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
237『久方(ひさかた)の朝(あした)の空(そら)を雄々(をを)しくも
238渡(わた)り来(き)にけり鳥船(とりふね)に乗(の)りて。
239雲(くも)分(わ)けて下(くだ)りて見(み)れば忍(しのぶ)ケ丘(をか)の
240思(おも)ひがけなき休所(やすど)なりしよ。
241新(あたら)しき火炎(くわえん)の湖(うみ)は間近(まぢか)ければ
242この丘(をか)よりはたしに見(み)ゆるも』
243 国生男(くにうみを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
244『煩(わづら)ひし心(こころ)の闇(やみ)も明(あ)け放(はな)れ
245吾(われ)恙(つつが)なく丘(をか)の上(へ)に降(お)りぬ。
246見渡(みわた)せば火炎(くわえん)の湖(うみ)は広々(ひろびろ)と
247ほのかに霧(きり)の立昇(たちのぼ)る見(み)ゆ。
248今日(けふ)よりはこの丘(をか)の上(へ)に家(いへ)造(つく)り
249予讃(よさ)の国土(くに)をば生(い)かさむと思(おも)ふ』
250 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、251笑(わら)ひ婆(ばば)に生命(いのち)を奪(うば)はれし精霊(せいれい)なる国津(くにつ)神(かみ)の末子(ばつし)冬男(ふゆを)は、252熊公(くまこう)、253虎公(とらこう)及(およ)び山(やま)、254川(かは)、255海(うみ)の三女(さんぢよ)の精霊(せいれい)も共(とも)に、256恐(おそ)る恐(おそ)る出(い)で来(きた)り、257微(かすか)の声(こゑ)にて両神(りやうしん)に向(むか)ひ感謝(かんしや)の真心(まごころ)を歌(うた)ふ。
258冬男(ふゆを)『久方(ひさかた)の天津(あまつ)御空(みそら)ゆ天降(あも)りましし
259二柱(ふたはしら)の神(かみ)尊(たふと)かりけり。
260葭原(よしはら)の予讃(よさ)の御国(みくに)は曲津(まがつ)神(かみ)
261伊猛(いたけ)り狂(くる)ひて騒(さわ)がしかりけり。
262火炎山(くわえんざん)爆発(ばくはつ)によりて曲津(まが)神(かみ)の
263その大方(おほかた)は亡(ほろ)び失(う)せたり。
264吾(われ)こそは巌(いは)ケ根(ね)の末子(ばつし)冬男(ふゆを)なり
265今(いま)はこの世(よ)の者(もの)にあらねど。
266水奔鬼(すゐほんき)の笑(わら)ひ婆(ばば)アにはかられて
267現(うつつ)の生命(いのち)を奪(うば)はれし吾(われ)。
268御(おん)前(まへ)に打(う)ち伏(ふ)すこれの友垣(ともがき)は
269皆(みな)精霊(せいれい)となりにけらしな。
270二柱(ふたはしら)天降(あも)り給(たま)ひし今日(けふ)よりは
271精霊界(せいれいかい)も安(やす)くあるべし』
272 熊(くま)は歌(うた)ふ。
273『吾(われ)も亦(また)巌(いは)ケ根(ね)の君(きみ)に仕(つか)へたる
274下僕(しもべ)なれども現身(うつそみ)はなし。
275虎公(とらこう)もこの三(さん)人(にん)の乙女(をとめ)等(ら)も
276みな精霊(せいれい)よあはれみ給(たま)へ』
277 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
278『かねて聞(き)く水奔鬼(すゐほんき)の棲(す)む里(さと)は
279いづれにあるや具(つぶさ)に語(かた)らへ』
280 冬男(ふゆを)は歌(うた)ふ。
281『水奔鬼(すゐほんき)の司(つかさ)笑(わら)ひの婆(ば)アさんが
282棲(す)みにし丘(をか)はここなりにけり。
283吾々(われわれ)の力(ちから)に恐(おそ)れ笑(わら)ひ婆(ばば)は
284火炎(くわえん)の山(やま)をさして逃(に)げたり。
285火炎山(くわえんざん)湖水(こすゐ)となりし上(うへ)からは
286笑(わら)ひ婆(ばば)アも亡(ほろ)びしなるらむ』
287 国生男(くにうみを)の神(かみ)、
288『珍(めづら)しき吾(われ)は話(はなし)を聞(き)きにけり
289笑(わら)ひ婆(ばば)アを追(お)ひやりしとは。
290精霊(せいれい)といへども冬男(ふゆを)のたましひの
291強(つよ)き力(ちから)に吾(われ)はあきれし』
292 山(やま)は歌(うた)ふ。
293『吾(われ)こそは冬男(ふゆを)の妻(つま)の精霊(せいれい)よ
294守(まも)らせ給(たま)へ二柱(ふたはしら)の神(かみ)。
295御樋代(みひしろ)の神(かみ)の神言(みこと)に天降(あも)りましし
296尊(たふと)き神(かみ)に会(あ)ふぞ嬉(うれ)しき。
297斯(か)くならば葭原(よしはら)の国土(くに)は安(やす)からむ
298現界(げんかい)神界(しんかい)幽界(いうかい)なべて』
299 川(かは)は歌(うた)ふ。
300『水奔鬼(すゐほんき)笑(わら)ひ婆(ばば)アの謀計(たくらみ)に
301みたまとなりし川(かは)は吾(われ)なり。
302虎公(とらこう)の精霊(せいれい)が妻(つま)と吾(われ)なりて
303忍(しのぶ)ケ丘(をか)に年(とし)をふりけり。
304二柱(ふたはしら)尊(たふと)き神(かみ)の出(い)でましに
305精霊(せいれい)吾(われ)は蘇(よみがへ)りたり』
306 海(うみ)は歌(うた)ふ。
307『虎公(とらこう)が精霊(せいれい)の妻(つま)吾(われ)は海(うみ)
308尊(たふと)き神(かみ)の前(まへ)に立(た)つかな。
309今日(けふ)よりは吾(われ)等(ら)を憐(あは)れみ給(たま)ひつつ
310曲津神(まがつかみ)等(ら)をきため給(たま)はれ。
311待(ま)ち待(ま)ちし御樋代(みひしろ)神(がみ)の御(おん)使(つか)ひ
312忍(しのぶ)ケ丘(をか)に天降(あも)りましけり』
313 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は歌(うた)ふ。
314『吾(われ)等(ら)二神(にしん)ここに降(くだ)りし上(うへ)からは
315心(こころ)安(やす)かれ永久(とは)に守(まも)らむ』
316 斯(か)く互(たがひ)に歌(うた)ひつつ、317その夜(よ)は忍(しのぶ)ケ丘(をか)の冬男(ふゆを)が館(やかた)に息(いき)を休(やす)めける。
318(昭和九・七・三〇 旧六・一九 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)
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