霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 夜見(よみ)還(がへり)〔二〇一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻 篇:第2篇 秋夜の月 よみ(新仮名遣い):しゅうやのつき
章:第12章 夜見還 よみ(新仮名遣い):よみがえり 通し章番号:2016
口述日:1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
四辺は暗く雲が立ち込め、風一つない蒸し暑い空気がみなぎる中、苦しみの中で葭草と水奔草が生い茂る荒野が原を進み行く一人の男があった。
笑い婆、謗り婆の計略によって穴に落とされ、命を奪われた秋男は、幽冥の中をさまよいながら、これまでの事件を述懐していた。
すると、血のような色をした濁水が流れる大川に行き当たった。秋男はどうやってこの川を渡ろうかと思案に暮れていた。
すると、傍らのよし草をそよがせて、痩せこけた老婆が杖をつきながら秋男の前に現れた。
婆は、自分は秋男の命を奪った笑い婆・謗り婆の姉妹、瘧婆であると名乗り、秋男の霊の生命を奪おうと襲い掛かってきた。
秋男は身体きわまってどうすることもできなくなったが、そこに松、竹、梅、桜の従者の精霊たちが助けに現れ、婆を取り囲んだ。
4人は一度に瘧婆に殴りかかったが、一同のこぶしが傷ついただけで、婆は平然とあざ笑っていた。
そこへ突如、空をどよもして進んできた一柱の火団が轟然と川辺に落下した。と、瘧婆の影は雲霧と消えて跡形もなく、よく見ると5人一同は、まだ落とし穴の底に横たわっているのみであった。
5人はまだ自分たちが生命があることに気づき、何とかして穴から脱出しようと思案した。そして、秋男が言霊歌を歌い終わると、地底は次第にふくれあがり、辺りの景色は以前の樹蔭に戻った。
秋男は天地の神の恵みに生き返ったことを感謝し、曲津の砦に攻め込む意気を歌った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:2959 OBC :rm8012
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 353頁 修補版: 校定版:233頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 四辺(しへん)黯澹(あんたん)として声(こゑ)もなく、002天(てん)低(ひく)う妖雲(えううん)垂(た)れ下(さが)りて一陣(いちぢん)の風(かぜ)もなし。003蒸(む)し暑(あつ)き事(こと)釜中(ふちう)を行(ゆ)くが如(ごと)く、004陰鬱(いんうつ)の空気(くうき)漲(みなぎ)り、005全身(ぜんしん)脂汗(あぶらあせ)にじみ、006形容(けいよう)し難(がた)き苦(くる)しき中(なか)を、007葭草(よしぐさ)と水奔草(すゐほんさう)の生(お)ひ茂(しげ)る荒野(あらの)ケ原(はら)を進(すす)みゆく一人(ひとり)の男(をとこ)ありけり。
008『ああいぶかしやいぶかしや
009水上山(みなかみやま)を立(た)ち出(い)でて
010幾夜(いくよ)を重(かさ)ぬる草枕(くさまくら)
011怪(あや)しき事(こと)の数々(かずかず)を
012目撃(もくげき)しつつ黄昏(たそがれ)に
013火炎(くわえん)の山(やま)の麓(ふもと)まで
014進(すす)み来(きた)れる折(をり)もあれ
015天(てん)に冲(ちう)する大噴火(だいふんくわ)
016忽(たちま)ちとどまり暗黒(あんこく)の
017幕(まく)は四辺(しへん)を包(つつ)むよと
018見(み)るまもあらず譏(そし)り婆(ばば)
019笑(わら)ひ婆(ばば)アの水奔鬼(すゐほんき)
020闇(やみ)の幕(まく)をば距(へだ)てつつ
021怪(あや)しき事(こと)の数々(かずかず)に
022笑(わら)ひ罵(ののし)るにくらしさ
023われ等(ら)は腹(はら)に据(す)ゑかねて
024闇(やみ)に向(むか)つてつき込(こ)めば
025思(おも)ひがけなや八千尋(やちひろ)の
026地底(ちそこ)の穴(あな)に陥(おちい)りて
027苦(くる)しみもだゆる折(をり)もあれ
028続(つづ)いて落(お)ち込(こ)む松(まつ)、竹(たけ)、梅(うめ)
029桜(さくら)の四(よ)人(にん)も現世(うつしよ)の
030生命(いのち)は空(むな)しくなりにけり
031此処(ここ)にも怪(あや)しき婆(ばば)の声(こゑ)
032いぶかしさよと思(おも)ふ折(をり)
033わが言霊(ことたま)はいち早(はや)く
034この場(ば)を去(さ)りしと思(おも)ひきや
035かかる怪(あや)しき大野原(おほのはら)
036悲(かな)しく淋(さび)しく一人(ひとり)ゆく
037ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
038神(かみ)の此(この)世(よ)にましまさば
039わが行(ゆ)く先(さき)を明(あき)らかに
040天地(てんち)の妖気(えうき)を吹(ふ)き払(はら)ひ
041示(しめ)させ給(たま)へと願(ね)ぎまつる
042天地(てんち)静(しづ)かに風(かぜ)死(し)して
043わが身体(からたま)の全部(ぜんぶ)より
044熱湯(ねつたう)の汗(あせ)はにじみ出(い)で
045痒(かゆ)さ苦(くる)しさ堪(た)へがたし
046ここは地獄(ぢごく)か八衢(やちまた)か
047合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)ばかり
048正(まさ)しく幽冥(いうめい)の道(みち)ならば
049わが弟(おとうと)に出会(であ)ふならむ
050冬男(ふゆを)恋(こひ)しや、なつかしや
051精霊(みたま)となりて生(い)くるなら
052われの悲(かな)しき心根(こころね)を
053思(おも)ひ計(はか)りて来(きた)れかし
054汝(なんぢ)の仇(あだ)を討(う)たむとて
055悪魔(あくま)の婆(ばば)に謀(はか)らはれ
056尊(たふと)き生命(いのち)を捨(す)てにけり
057思(おも)へば思(おも)へば憎(にく)らしや
058譏(そし)り婆(ばば)アに笑(わら)ひ婆(ばば)
059たとへ幽界(かくりよ)なればとて
060これの悪魔(あくま)を殲滅(せんめつ)し
061精霊界(せいれいかい)を悉(ことごと)く
062清(きよ)め澄(す)まして天国(てんごく)の
063貴(うづ)の門戸(もんこ)となさしめむ
064ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
065恩頼(みたまのふゆ)を願(ね)ぎまつる
066高光山(たかみつやま)は遠(とほ)くとも
067火炎(くわえん)の山(やま)はさかしとも
068如何(いか)でひるまむ霊魂(たましひ)の
069生命(いのち)のあらむ其(その)限(かぎ)り
070登(のぼ)らなおかぬ大丈夫(ますらを)の
071弥猛心(やたけごころ)をみそなはし
072天地(てんち)に神(かみ)のいますなら
073わが願(ね)ぎ言(ごと)を詳細(まつぶさ)に
074聞(きこ)し召(め)さへと願(ね)ぎまつる』
075 斯(か)くうたひつつ前進(ぜんしん)すれば、076血(ち)の如(ごと)き色(いろ)を為(な)せる濁水(だくすゐ)の流(なが)るる大川(おほかは)につと行(ゆ)き当(あた)りたり。077秋男(あきを)は如何(いか)にしてこの濁水(だくすゐ)を渡(わた)らむかと、078岸辺(きしべ)に佇(たたず)み、079頭(かしら)を傾(かたむ)け、080腕(うで)を組(く)み、081太(ふと)き溜息(ためいき)吐(は)きながら、082微(かすか)に歌(うた)ふ。
083『幽界(いうかい)の淋(さび)しき道(みち)をたどり来(き)て
084血潮(ちしほ)流(なが)るる川辺(かはべ)に来(きた)りぬ。
085滔々(たうたう)と流(なが)るる水(みづ)は悉(ことごと)く
086悪臭(あくしう)交(まじ)りて胸(むね)ふさがりぬ。
087汚(けが)れたる此(こ)の血(ち)の川(かは)を渡(わた)らむと
088われは思(おも)はじ如何(いか)になるとも。
089人(ひと)の身(み)の宿世(すぐせ)思(おも)へば悲(かな)しけれ
090わがたつ涙(なみだ)川(かは)と流(なが)れつ』
091 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、092傍(かたはら)の葭草(よしぐさ)の枯葉(かれは)をそよがせながら、093痩(や)せこけた老婆(らうば)、094藜(あかざ)の杖(つゑ)をつき海老腰(えびごし)になりながら、095秋男(あきを)の前(まへ)に現(あら)はれ来(きた)り、096全身(ぜんしん)を見上(みあ)げ見下(みおろ)し、097「ゲラゲラ」と打(う)ち笑(わら)ひ、
098『この婆(ばば)はそちが生命(いのち)を奪(うば)ひたる
099譏(そし)り婆(ばば)アの分(わ)けみたまぞや。
100よくもまあ迷(まよ)ひ来(き)しよなこの川(かは)は
101膿血(うみち)と痰(たん)の集(あつま)りなるぞや』
102 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
103『思(おも)ひきや紫微(しび)天界(てんかい)の真秀良場(まほらば)の
104この葭草(よしぐさ)に地獄(ぢごく)ありとは。
105よしやよし地獄(ぢごく)の旅(たび)を続(つづ)くるとも
106われは進(すす)まむ高光山(たかみつやま)へ』
107 婆(ばば)アは顎(あご)をしやくりながら、
108『この婆(ばば)は瘧(おこり)と申(まを)す水奔鬼(すゐほんき)
109此処(ここ)に来(く)る奴(やつ)なやめて楽(たの)しむ。
110来(く)る奴(やつ)は一人(ひとり)も残(のこ)らずわが為(た)めに
111瘧(おこり)を病(や)みて死(し)ぬる嬉(うれ)しさ。
112其(その)方(はう)は精霊(せいれい)なれどこの婆(ばば)の
113恵(めぐ)みによりて瘧(おこり)をふるへよ』
114 秋男(あきを)は冷然(れいぜん)として、
115『かくなればわれは恐(おそ)れじ瘧婆(おこりばば)の
116霊(たま)の生命(いのち)を伐(き)り放(はふ)るべし』
117 婆(ばば)アはこの歌(うた)に眼(め)を釣(つ)り上(あ)げ、118口(くち)を尖(とが)らし、119秋男(あきを)が側(そば)近(ちか)く寄(よ)り添(そ)ひ、120氷(こほり)の如(ごと)き冷(つめた)き手(て)にて、121秋男(あきを)の左右(さいう)の手(て)をグツと握(にぎ)り、122憎々(にくにく)しげに、
123『こりや秋男(あきを)の餓鬼(がき)、124俺(おれ)を何方(どなた)と心(こころ)得(え)てゐるか。125血(ち)の川(かは)の主(ぬし)、126水奔鬼(すゐほんき)の瘧婆(おこりばば)アといふは此(この)方(はう)の事(こと)だ。127さア、128これからは其方(そち)の霊(たま)の生命(いのち)をとり、129血(ち)の川(かは)に水葬(すいさう)してやらう。130有難(ありがた)く思(おも)へ』
131 秋男(あきを)は、
132『何(なに)をするか氷(こほり)の如(ごと)き痩腕(やせうで)に
133われの両手(もろて)を離(はな)さぬ鬼婆(おにばば)。
134鬼婆(おにばば)の醜(みにく)き姿(すがた)一目(ひとめ)見(み)て
135われは吐(は)き気(け)を催(もよほ)しにけり』
136 婆(ばば)アは、
137『何(なに)をこしやくな、138俺(おれ)の顔(かほ)を見(み)て吐気(はきけ)を催(もよほ)すとはよくも言(い)へたものだ。139やい糞袋(くそぶくろ)、140痰壺(たんつぼ)、141小便(しよんべん)のタンク奴(め)、142左様(さやう)な太平楽(たいへいらく)を聞(き)く鬼(おに)さんぢやないぞ。143サアこれから其(その)方(はう)の皮衣(かはごろも)をはぎ、144腕(うで)をぬき、145骨(ほね)を引(ひ)き切(き)り、146川瀬(かはせ)の乱杭(らんぐひ)に使(つか)つてやらうぞ。147それがせめても貴様(きさま)にとつての幸(さいは)ひ、148罪滅(つみほろぼ)しといふものだ。149ギヤハハハハー、150あのまあむづかしい、151青黒(あをぐろ)い、152悲(かな)しさうな顔(かほ)わいのう、153イヒヒヒヒ』
154 秋男(あきを)は進退(しんたい)これ谷(きは)まりて如何(いかん)ともする術(すべ)なく、155途方(とはう)にくれたる折(をり)もあれ、156松(まつ)、157竹(たけ)、158梅(うめ)、159桜(さくら)四(よ)人(にん)の精霊(せいれい)は此(この)場(ば)に現(あらは)れ来(きた)り、160秋男(あきを)が瘧婆(おこりばば)アに苦(くる)しめられてゐる体(てい)を見(み)て、161驚(おどろ)きながらバラバラと婆(ばば)アを取(と)りかこみ、
162『はて不思議(ふしぎ)譏(そし)り婆(ばば)アによく似(に)たる
163ここにも鬼(おに)が現(あらは)れしぞや。
164よく見(み)れば秋男(あきを)の君(きみ)の手(て)をつかみ
165苦(くる)しめ居(ゐ)るか悪(あく)たれ婆(ばば)ア奴(め)』
166 秋男(あきを)は細(ほそ)き声(こゑ)にて顔(かほ)をしかめながら、
167『この婆(ばば)に苦(くる)しめられてゐるところ
168汝(なれ)等(ら)四(よ)人(にん)はわれを救(すく)へよ』
169 松(まつ)は応(こた)へて、
170『若君(わかぎみ)の悩(なや)みを見(み)つつ如何(いか)にして
171われ等(ら)四人(よつたり)もだし居(ゐ)るべき。
172わが力(ちから)あらむ限(かぎ)りをこの婆(ばば)の
173頭上(づじやう)にくはへて打(う)ち据(す)ゑて見(み)む。
174竹(たけ)よ梅(うめ)よ桜(さくら)よ来(きた)れ此(こ)の婆(ばば)を
175只一息(ただひといき)に打(う)ちなやまさむ』
176 四(よ)人(にん)は一度(いちど)に拳(こぶし)を固(かた)め、177婆(ばば)アの面部(めんぶ)をめがけて打(う)ち据(す)ゆれば、178如何(いかが)はしけむ、179婆(ばば)アはビクともせず、180四(よ)人(にん)の拳(こぶし)よりは血潮(ちしほ)タラタラと流(なが)れ出(い)で、181痛(いた)き事(こと)堪(た)へ難(がた)し。182瘧婆(おこりばば)は冷笑(れいせう)し、
183『ギヤハハハハ、184この方(はう)を何方(どなた)様(さま)と心得(こころえ)てゐるか。185岩(いは)より固(かた)き水奔草(すゐほんさう)の司(つかさ)、186この川(かは)の辺(べ)に棲処(すみか)を固(かた)め、187先(さき)に廻(まは)つて汝(なんぢ)等(ら)が迷(まよ)ひ来(く)るを待(ま)つてゐた。188笑(わら)ひ婆(ばば)アや譏(そし)り婆(ばば)アの一味(いちみ)の者(もの)だよ。189もうかうなる上(うへ)は覚悟(かくご)を致(いた)せ。190往生(わうじやう)致(いた)さねば此(この)上(うへ)辛(つら)き目(め)見(み)せてくれむ。191さあ返答(へんたふ)はどうぢや。192イヒヒヒヒ、193てもさても心地(ここち)よやな』
194 五(ご)人(にん)はここに進退(しんたい)維谷(これきは)まり、195如何(いかが)はせむと案(あん)じわづらふ折(をり)もあれ、196忽(たちま)ち空(そら)をどよもして進(すす)み来(きた)る一炷(いつしゆ)の火団(くわだん)、197轟然(がうぜん)たる響(ひびき)とともにこの川(かは)の辺(べ)に落下(らくか)したり。198この出来事(できごと)に、199瘧婆(おこりばば)アの影(かげ)は雲霧(くもきり)と消(き)えて跡形(あとかた)もなく、200よくよく見(み)れば、201依然(いぜん)として火炎山(くわえんざん)の麓(ふもと)の譏(そし)り婆(ばば)が造(つく)り置(お)きたる陥穽(おとしあな)の底(そこ)に主従(しうじう)五(ご)人(にん)横(よこ)たはり居(ゐ)たるなりけり。
202 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
203『いぶかしや悪魔(あくま)の罠(わな)に陥(おちい)りて
204死(し)せしと思(も)ひしは過(あやまち)なりしよ。
205身体(からたま)の生命(いのち)ありせばこれよりは
206この陥穽(おとしあな)を伝(つた)ひ上(あが)らむ』
207 松(まつ)は歌(うた)ふ。
208『有難(ありがた)し神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひに
209われは罷(まか)らずありにけらしな。
210常磐木(ときはぎ)の松(まつ)の心(こころ)をはげまして
211冬男(ふゆを)の君(きみ)の仇(あだ)を酬(むく)はむ。
212玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)失(う)せしと思(おも)ひしを
213神(かみ)の恵(めぐ)みに生(い)きてありけり』
214 竹(たけ)は歌(うた)ふ。
215『大丈夫(ますらを)われ生(い)きてありけり穴(あな)の底(そこ)を
216伝(つた)ひ上(あが)りて再(ふたた)び活動(はたら)かむ。
217玉(たま)の緒(を)の生(い)きの生命(いのち)のある限(かぎ)り
218災(わざはひ)をなす鬼(おに)をやらはむ。
219飽(あ)くまでも初心(しよしん)を貫徹(くわんてつ)なさざれば
220益荒(ますら)猛男(たけを)の胸(むね)の晴(は)るべき』
221 梅(うめ)は歌(うた)ふ。
222『兎(と)も角(かく)も蘇(よみがへ)りたる嬉(うれ)しさに
223われは言葉(ことば)も絶(た)え果(は)てにけり』
224 桜(さくら)は歌(うた)ふ。
225『火炎山(くわえんざん)麓(ふもと)にすめる譏(そし)り婆(ばば)アの
226たくみ果敢(はか)なく破(やぶ)れけるかな。
227曲鬼(まがおに)は闇(やみ)に陥穽(かんせい)作(つく)り居(ゐ)て
228わが一行(いつかう)をなやまさむとせり。
229男(を)の子(こ)われ生(い)きの生命(いのち)の続(つづ)く限(かぎ)り
230神国(みくに)の為(た)めに曲(まが)亡(ほろ)ぼさむ』
231 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
232『いざさらば生言霊(いくことたま)を宣(の)りながら
233上(のぼ)りゆかなむこの深穴(ふかあな)を。
234 一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
235 百(もも)千(ち)万(よろづ)八百万(やほよろづ)の神(かみ)
236 守(まも)らせ給(たま)へ』
 
237と、238宣(の)り終(をは)るや、239地底(ちてい)は次第(しだい)にふくれ上(あが)り、240以前(いぜん)の樹蔭(じゆいん)にたちかへりける。
241 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
242『天地(あめつち)の神(かみ)の恵(めぐ)みの深(ふか)ければ
243元津(もとつ)場所(ばしよ)に生(い)きかへりたり。
244これからは五(ご)人(にん)心(こころ)を協(あは)せつつ
245曲(まが)の砦(とりで)に攻(せ)めて上(のぼ)らむ』
246(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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