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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第80巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 忍ケ丘
第1章 独り旅
第2章 行倒
第3章 復活
第4章 姉妹婆
第5章 三つ盃
第6章 秋野の旅
第2篇 秋夜の月
第7章 月見ケ丘
第8章 月と闇
第9章 露の路
第10章 五乙女
第11章 火炎山
第12章 夜見還
第13章 樹下の囁き
第14章 報哭婆
第15章 憤死
第3篇 天地変遷
第16章 火の湖
第17章 水火垣
第18章 大挙出発
第19章 笑譏怒泣
第20章 復命
第21章 青木ケ原
第22章 迎への鳥船
第23章 野火の壮観
余白歌
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霊界物語
>
天祥地瑞(第73~81巻)
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第80巻(未の巻)
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<<< 火の湖
(B)
(N)
大挙出発 >>>
第一七章
水火
(
いき
)
垣
(
がき
)
〔二〇二一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
篇:
第3篇 天地変遷
よみ(新仮名遣い):
てんちへんせん
章:
第17章 水火垣
よみ(新仮名遣い):
いきがき
通し章番号:
2021
口述日:
1934(昭和9)年07月30日(旧06月19日)
口述場所:
関東別院南風閣
筆録者:
林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
火炎山の爆発によってほとんどの猛獣毒蛇たちは全滅したが、鱗の固い爬虫類は湖水の岸辺の水奔草の中にもぐりこんで、害をなしていた。
朝空男、国生男の二神が降った忍ケ丘の付近は、湖水が一里近くまで迫っていたこともあり、これら生き残った猛獣や水奔鬼が登って来ようとするために、冬男たち精霊はその防御に苦心していた。
二神は精霊たちを安堵させると、攻めてくる猛獣や水奔鬼の群れに向かって代わる代わる生言霊を宣りあげた。すると、悪魔たちは言霊に妨げられて丘に登ってこれなくなった。
二神は、生言霊によって悪魔を清めるために自分たちは御樋代神によって使わされたのだ、と歌った。冬男たちは感謝の歌を捧げた。
国生男の神は、忍ケ丘に館を作って住み、国土を治めようと歌った。朝空男の神は、しばらく国生男の神と一緒にここに止まって国を治めようと歌った。そして、火の湖が平穏に復する日を待つこととなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm8017
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 381頁
修補版:
校定版:
333頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
火炎山
(
くわえんざん
)
の
爆発
(
ばくはつ
)
により、
002
附近
(
ふきん
)
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
の
地
(
ち
)
は
全
(
まつた
)
く
湖水
(
こすゐ
)
となり、
003
湖水
(
こすゐ
)
は
熱湯
(
ねつたう
)
の
如
(
ごと
)
く
煮
(
に
)
えくり
返
(
かへ
)
り、
004
猛獣
(
まうじう
)
、
005
毒蛇
(
どくじや
)
、
006
イヂチ
等
(
とう
)
の
毒虫
(
どくむし
)
も
大半
(
たいはん
)
殲滅
(
せんめつ
)
の
厄
(
やく
)
に
遇
(
あ
)
ひけるが、
007
中
(
なか
)
にも
最
(
もつと
)
も
甲羅
(
かふら
)
の
強
(
つよ
)
く、
008
鱗
(
うろこ
)
の
堅
(
かた
)
き
爬虫族
(
はちうぞく
)
は、
009
湖水
(
こすゐ
)
の
岸辺
(
きしべ
)
に
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
り、
010
汀辺
(
みぎはべ
)
の
水奔草
(
すゐほんさう
)
や
葭草
(
よしぐさ
)
の
中
(
なか
)
にもぐり
込
(
こ
)
み、
011
一層
(
いつそう
)
其
(
そ
)
の
害毒
(
がいどく
)
甚
(
はなはだ
)
しくなりゆくこそ
歎
(
うた
)
てけれ。
012
朝空男
(
あさぞらを
)
、
013
国生男
(
くにうみを
)
二神
(
にしん
)
が
天降
(
あまくだ
)
りたる
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
は、
014
陥落
(
かんらく
)
の
難
(
なん
)
は
免
(
まぬが
)
れたれども、
015
約
(
やく
)
一
(
いち
)
里
(
り
)
附近
(
ふきん
)
まで
湖水
(
こすゐ
)
の
展開
(
てんかい
)
せるより、
016
あらゆる
曲津
(
まがつ
)
は
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
に
向
(
むか
)
つて、
017
幾百千
(
いくひやくせん
)
とも
限
(
かぎ
)
りなく
上
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
る
物凄
(
ものすご
)
さ、
018
名状
(
めいじやう
)
すべからず。
019
冬男
(
ふゆを
)
、
020
熊公
(
くまこう
)
、
021
虎公
(
とらこう
)
、
022
山
(
やま
)
、
023
川
(
かは
)
、
024
海
(
うみ
)
の
精霊
(
せいれい
)
は、
025
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
のわが
住処
(
すみか
)
には
一歩
(
いつぽ
)
も
踏
(
ふ
)
み
入
(
い
)
れさせじと
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
し
戦
(
たたか
)
へども、
026
悲
(
かな
)
しきかな
精霊
(
せいれい
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
なれば、
027
形体
(
けいたい
)
を
持
(
も
)
てる
悪魔
(
あくま
)
の
襲来
(
しふらい
)
を
喰
(
く
)
ひ
止
(
と
)
むる
由
(
よし
)
もなく、
028
苦心
(
くしん
)
を
極
(
きは
)
め
居
(
ゐ
)
たりける。
029
ここに、
030
天
(
あま
)
の
鳥船
(
とりふね
)
に
乗
(
の
)
りて
天降
(
あまくだ
)
りましたる
二柱
(
ふたはしら
)
の
神
(
かみ
)
の
神力
(
しんりき
)
に
力
(
ちから
)
を
得
(
え
)
て、
031
稍
(
やや
)
落着
(
おちつ
)
きながら
御前
(
みまへ
)
に
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
032
『
火
(
ひ
)
の
湖
(
うみ
)
の
現
(
あらは
)
れしより
曲神
(
まがかみ
)
は
033
処
(
ところ
)
失
(
うしな
)
ひ
集
(
つど
)
ひ
来
(
こ
)
むとす。
034
二柱
(
ふたはしら
)
神
(
かみ
)
の
天降
(
あも
)
りし
間
(
ま
)
もあらず
035
曲津
(
まがつ
)
は
此処
(
ここ
)
に
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る。
036
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
防
(
ふせ
)
げど
精霊
(
せいれい
)
わが
力
(
ちから
)
037
如何
(
いか
)
で
及
(
およ
)
ばむ
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ』
038
これを
聞
(
き
)
くより
二神
(
にしん
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
039
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
常磐樹
(
ときはぎ
)
の
幹
(
みき
)
に
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
支
(
ささ
)
へながら、
040
朝空男
(
あさぞらを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
041
『
葭原
(
よしはら
)
の
予讃
(
よさ
)
の
国原
(
くにはら
)
治
(
をさ
)
むべく
042
天降
(
あも
)
りしわれよ
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
かれ。
043
如何
(
いか
)
ならむ
曲鬼
(
まがおに
)
大蛇
(
をろち
)
押
(
お
)
しよすも
044
われはやらはむ
生言霊
(
いくことたま
)
に』
045
国生男
(
くにうみを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
046
『
朝夕
(
あさゆふ
)
に
神
(
かみ
)
と
力
(
ちから
)
を
一
(
ひと
)
つにし
047
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
を
安
(
やす
)
く
守
(
まも
)
らむ』
048
冬男
(
ふゆを
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
049
『
有難
(
ありがた
)
し
二柱神
(
ふたはしらがみ
)
の
御宣示
(
みことのり
)
050
聞
(
き
)
きてわれらは
蘇
(
よみがへ
)
りぬる』
051
朝空男
(
あさぞらを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
052
『
汝
(
な
)
れ
等
(
たち
)
は
精霊
(
せいれい
)
なれどわが
宣
(
の
)
らむ
053
生言霊
(
いくことたま
)
を
補
(
おぎな
)
ひまつれ』
054
冬男
(
ふゆを
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
055
『
御宣示
(
みことのり
)
頸
(
うなじ
)
に
受
(
う
)
けて
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
056
われ
等
(
ら
)
は
宣
(
の
)
らむ
生言霊
(
いくことたま
)
を』
057
かかる
折
(
をり
)
しも、
058
阿鼻
(
あび
)
叫喚
(
けうくわん
)
の
声
(
こゑ
)
、
059
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
、
060
一
(
いち
)
時
(
じ
)
にドツと
起
(
おこ
)
り、
061
猛獣
(
まうじう
)
、
062
毒蛇
(
どくじや
)
、
063
水奔鬼
(
すゐほんき
)
は
最
(
もつと
)
も
平安
(
へいあん
)
なる
棲処
(
すみか
)
として
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
麓
(
ふもと
)
に
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
り、
064
咆哮
(
ほうこう
)
怒号
(
どごう
)
するあり、
065
のたうちまはるあり、
066
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
のまはりは
水奔鬼
(
すゐほんき
)
の
矢叫
(
やさけび
)
の
声
(
こゑ
)
かしましく、
067
一斉
(
いつせい
)
に
上
(
のぼ
)
らむとせしも、
068
二神
(
にしん
)
等
(
ら
)
の
生言霊
(
いくことたま
)
に
妨
(
さまた
)
げられて
上
(
のぼ
)
りあぐみたるぞ
面白
(
おもしろ
)
き。
069
二神
(
にしん
)
及
(
およ
)
び
冬男
(
ふゆを
)
以下
(
いか
)
の
精霊
(
せいれい
)
は、
070
交
(
かは
)
る
交
(
がは
)
る
生言霊
(
いくことたま
)
を
宣
(
の
)
る。
071
朝空男
(
あさぞらを
)
の
神
(
かみ
)
は
音吐
(
おんど
)
朗々
(
らうらう
)
として
歌
(
うた
)
ふ。
072
『
主
(
ス
)
の
神
(
かみ
)
の
御水火
(
みいき
)
に
現
(
あ
)
れにし
言霊
(
ことたま
)
を
073
国
(
くに
)
の
鎮
(
しづ
)
めと
清
(
きよ
)
けく
宣
(
の
)
らむ。
074
アオウエイ
天地
(
あめつち
)
処
(
ところ
)
を
変
(
か
)
ふるとも
075
ただに
鎮
(
しづ
)
めむ
貴
(
うづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に。
076
幾万
(
いくまん
)
の
曲神
(
まがかみ
)
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
きた
)
るとも
077
斬
(
き
)
りて
放
(
はふ
)
らむ
言霊剣
(
ことたまつるぎ
)
に。
078
麗
(
うるは
)
しき
厳
(
いづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
幸
(
さち
)
はひて
079
この
国原
(
くにはら
)
の
曲
(
まが
)
言向
(
ことむ
)
けむ。
080
炎々
(
えんえん
)
と
燃
(
も
)
えたちし
火口
(
くわこう
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
081
消
(
き
)
えて
湖水
(
こすゐ
)
となりにけらしな。
082
鬼
(
おに
)
大蛇
(
をろち
)
たとへ
幾万
(
いくまん
)
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
とも
083
恐
(
おそ
)
るべきかは
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
われは。
084
火炎山
(
くわえんざん
)
忽
(
たちま
)
ち
湖
(
うみ
)
となり
果
(
は
)
てぬ
085
生言霊
(
いくことたま
)
の
幸
(
さち
)
はひによりて。
086
木
(
き
)
も
草
(
くさ
)
も
火
(
ひ
)
の
湖
(
みづうみ
)
の
底
(
そこ
)
深
(
ふか
)
く
087
沈
(
しづ
)
みけるかな
曲
(
まが
)
の
荒
(
すさ
)
びに。
088
国土
(
くに
)
生
(
う
)
むと
天降
(
あも
)
り
来
(
きた
)
りしわれなれば
089
鬼
(
おに
)
も
大蛇
(
をろち
)
も
物
(
もの
)
の
数
(
かず
)
かは。
090
汚
(
けが
)
れたるこの
国原
(
くにはら
)
も
言霊
(
ことたま
)
の
091
水火
(
いき
)
幸
(
さち
)
はひて
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
るべし。
092
心
(
こころ
)
悪
(
あ
)
しき
曲鬼
(
まがおに
)
どもの
身
(
み
)
の
果
(
は
)
ては
093
ありあり
見
(
み
)
えぬ
湖水
(
こすゐ
)
の
波
(
なみ
)
に。
094
冴
(
さ
)
え
渡
(
わた
)
る
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
も
見
(
み
)
えぬまで
095
御空
(
みそら
)
曇
(
くも
)
りぬ
曲津
(
まがつ
)
の
水火
(
いき
)
に。
096
白雲
(
しらくも
)
の
空
(
そら
)
を
渡
(
わた
)
りて
天降
(
あも
)
りてし
097
われ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
よ
曲
(
まが
)
等
(
ら
)
恐
(
おそ
)
れじ。
098
迫
(
せま
)
り
来
(
く
)
る
鬼
(
おに
)
や
大蛇
(
をろち
)
は
多
(
おほ
)
くとも
099
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
には
光
(
ひか
)
る
玉
(
たま
)
あり。
100
譏
(
そし
)
り
婆
(
ばば
)
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
アの
水奔鬼
(
すゐほんき
)
も
101
今
(
いま
)
は
手向
(
てむか
)
ふ
力
(
ちから
)
無
(
な
)
からむ。
102
高山
(
たかやま
)
の
火口
(
くわこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
湖
(
みづうみ
)
の
103
底
(
そこ
)
に
沈
(
しづ
)
みて
湧
(
わ
)
きたつ
湯
(
ゆ
)
の
波
(
なみ
)
。
104
千早振
(
ちはやぶ
)
る
主
(
ス
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
賜
(
たま
)
ひてし
105
生言霊
(
いくことたま
)
に
刃向
(
はむか
)
ひ
得
(
え
)
むや。
106
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
もかくれて
見
(
み
)
えぬ
葭原
(
よしはら
)
の
107
国土
(
くに
)
を
照
(
て
)
らして
安
(
やす
)
く
治
(
をさ
)
めむ。
108
天
(
あめ
)
も
地
(
つち
)
もわが
言霊
(
ことたま
)
の
功績
(
いさをし
)
に
109
晴
(
は
)
れゆく
力
(
ちから
)
を
曲
(
まが
)
は
知
(
し
)
らずや。
110
常闇
(
とこやみ
)
のこの
国原
(
くにはら
)
を
伊照
(
いて
)
らすと
111
言霊鏡
(
ことたまかがみ
)
持
(
も
)
ちて
天降
(
あも
)
りし』
112
国生男
(
くにうみを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
113
『
波
(
なみ
)
の
上
(
へ
)
をわが
見渡
(
みわた
)
せば
鬼
(
おに
)
大蛇
(
をろち
)
114
溺
(
おぼ
)
るるさまの
浅
(
あさ
)
ましきかな。
115
煮
(
に
)
え
返
(
かへ
)
る
湖水
(
こすゐ
)
の
波
(
なみ
)
にもまれつつ
116
大蛇
(
をろち
)
は
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
き
悶
(
もだ
)
え
居
(
ゐ
)
るかも。
117
奴婆玉
(
ぬばたま
)
の
闇
(
やみ
)
は
襲
(
おそ
)
へり
曲津見
(
まがつみ
)
の
118
曲
(
まが
)
の
吐
(
は
)
く
息
(
いき
)
いや
重
(
かさ
)
なれば。
119
懇
(
ねもごろ
)
に
生言霊
(
いくことたま
)
を
宣
(
の
)
りつれど
120
曲
(
まが
)
の
耳
(
みみ
)
には
入
(
い
)
らざると
見
(
み
)
ゆ。
121
野
(
の
)
も
山
(
やま
)
も
火炎
(
くわえん
)
の
山
(
やま
)
の
爆発
(
ばくはつ
)
に
122
戦
(
をのの
)
きにけむ
草木
(
くさき
)
は
枯
(
か
)
れたり。
123
果敢
(
はか
)
なかる
世
(
よ
)
の
状
(
さま
)
なれや
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
の
124
曲
(
まが
)
悉
(
ことごと
)
く
亡
(
ほろ
)
びむとすも。
125
低山
(
ひきやま
)
は
湖
(
うみ
)
に
没
(
ぼつ
)
して
火炎山
(
くわえんざん
)
126
頂
(
いただき
)
狭
(
せま
)
く
水
(
みづ
)
に
浮
(
うか
)
べり。
127
降
(
ふ
)
る
雨
(
あめ
)
も
激
(
はげ
)
しかりけむ
湖
(
みづうみ
)
は
128
低山
(
ひきやま
)
高山
(
たかやま
)
皆
(
みな
)
浸
(
ひた
)
しつつ。
129
曲津見
(
まがつみ
)
も
火炎
(
くわえん
)
の
山
(
やま
)
の
変動
(
へんどう
)
に
130
恐
(
おそ
)
れ
戦
(
をのの
)
き
身
(
み
)
亡
(
う
)
せけるかな。
131
ほのぼのと
霧
(
きり
)
を
透
(
とほ
)
して
見
(
み
)
ゆる
湖
(
うみ
)
の
132
夕
(
ゆふべ
)
の
眺
(
なが
)
めは
淋
(
さび
)
しかりけり。
133
曲神
(
まがかみ
)
の
生命
(
いのち
)
の
果
(
は
)
てか
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
134
この
丘下
(
をかした
)
ゆ
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
るなり。
135
見
(
み
)
の
限
(
かぎ
)
り
醜草
(
しこぐさ
)
生
(
お
)
ふる
大野原
(
おほのはら
)
を
136
生言霊
(
いくことたま
)
の
幸
(
さち
)
に
清
(
きよ
)
めむ。
137
昔
(
むかし
)
より
例
(
ためし
)
もあらぬ
天地
(
あめつち
)
の
138
変動
(
かはり
)
は
神
(
かみ
)
の
戒
(
いまし
)
めなるらむ。
139
目
(
め
)
を
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
られぬまでにいぢらしき
140
この
国原
(
くにはら
)
は
神
(
かみ
)
のいましめよ。
141
濛々
(
もうもう
)
と
黒雲
(
くろくも
)
低
(
ひく
)
う
葭原
(
よしはら
)
の
142
野空
(
のぞら
)
包
(
つつ
)
みて
月日
(
つきひ
)
は
見
(
み
)
えず。
143
八千尋
(
やちひろ
)
の
湖水
(
こすゐ
)
の
底
(
そこ
)
に
曲津見
(
まがつみ
)
は
144
又
(
また
)
も
潜
(
ひそ
)
みて
災
(
わざはひ
)
為
(
な
)
すらむ。
145
如何程
(
いかほど
)
に
曲津見
(
まがつみ
)
大蛇
(
をろち
)
荒
(
すさ
)
ぶとも
146
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
に
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
さむ。
147
湯
(
ゆ
)
の
如
(
ごと
)
く
沸
(
わ
)
き
返
(
かへ
)
りたる
湖
(
みづうみ
)
の
148
水面
(
みのも
)
に
湯気
(
ゆげ
)
は
立
(
た
)
ち
昇
(
のぼ
)
りつつ。
149
遠近
(
をちこち
)
の
区別
(
けぢめ
)
もしらに
災
(
わざはひ
)
の
150
神
(
かみ
)
のいましめ
畏
(
かしこ
)
きろかも。
151
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
152
貴
(
うづ
)
の
功
(
いさを
)
に
如
(
し
)
くものはなし。
153
われこそは
御樋代
(
みひしろ
)
神
(
がみ
)
に
仕
(
つか
)
へたる
154
生言霊
(
いくことたま
)
の
司
(
つかさ
)
なるぞや。
155
いち
早
(
はや
)
く
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
に
天降
(
あも
)
り
来
(
き
)
て
156
葭原国
(
よしはらぐに
)
の
状
(
さま
)
を
見
(
み
)
しかな。
157
美
(
うる
)
はしき
神
(
かみ
)
の
御国
(
みくに
)
を
生
(
う
)
まむとて
158
われは
降
(
くだ
)
れり
神言
(
みこと
)
帯
(
お
)
びつつ。
159
ゑらゑらに
歓
(
ゑら
)
ぎ
賑
(
にぎ
)
はふ
神国
(
かみくに
)
を
160
生
(
う
)
まで
置
(
お
)
くべき
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに。
161
大蛇
(
をろち
)
棲
(
す
)
む
葭原国
(
よしはらぐに
)
もわがあれば
162
いと
安
(
やす
)
からむ
勇
(
いさ
)
みてあれよ』
163
冬男
(
ふゆを
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
164
『
二柱
(
ふたはしら
)
神
(
かみ
)
の
天降
(
あも
)
らすこの
丘
(
をか
)
に
165
われ
蘇
(
よみがへ
)
り
曲
(
まが
)
を
防
(
ふせ
)
がむ。
166
二柱
(
ふたはしら
)
神
(
かみ
)
の
言霊
(
ことたま
)
幸
(
さち
)
はひて
167
わがたましひの
力
(
ちから
)
添
(
そ
)
はりぬ。
168
かくなれば
精霊
(
せいれい
)
われも
勇
(
いさ
)
ましく
169
鬼
(
おに
)
の
砦
(
とりで
)
に
向
(
むか
)
ひ
進
(
すす
)
まむ。
170
現世
(
うつしよ
)
の
人
(
ひと
)
と
生
(
うま
)
れし
心地
(
ここち
)
かな
171
わが
霊身
(
れいしん
)
の
輝
(
かがや
)
き
初
(
そ
)
むれば。
172
永年
(
ながとせ
)
を
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
鬼
(
おに
)
となりて
173
岐美
(
きみ
)
の
天降
(
あも
)
りを
待
(
ま
)
ちわびにける。
174
浅
(
あさ
)
ましきみたまのわれも
今日
(
けふ
)
よりは
175
神
(
かみ
)
の
御後
(
みあと
)
に
仕
(
つか
)
へまつらむ。
176
蘇
(
よみがへ
)
り
生
(
い
)
きの
生命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
ちつつ
177
幽世
(
かみよ
)
の
花
(
はな
)
となるぞ
嬉
(
うれ
)
しき。
178
浮腰
(
うきごし
)
のわがたましひも
落着
(
おちつ
)
きて
179
動
(
うご
)
かぬ
心
(
こころ
)
勇
(
いさ
)
みたつなり。
180
鬼
(
おに
)
大蛇
(
をろち
)
醜
(
しこ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
181
最早
(
もは
)
や
恐
(
おそ
)
れじ
神
(
かみ
)
なるわれは。
182
矢叫
(
やさけ
)
びの
声
(
こゑ
)
は
麓
(
ふもと
)
にどよめけり
183
鬼
(
おに
)
も
大蛇
(
をろち
)
も
登
(
のぼ
)
らむとして。
184
言霊
(
ことたま
)
の
水火垣
(
いきがき
)
高
(
たか
)
く
築
(
きづ
)
きませば
185
如何
(
いか
)
なる
曲
(
まが
)
も
登
(
のぼ
)
り
得
(
え
)
ざらむ。
186
神々
(
かみがみ
)
の
貴
(
うづ
)
の
恵
(
めぐ
)
みに
抱
(
いだ
)
かれて
187
安
(
やす
)
く
過
(
す
)
ぎなむ
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
に。
188
狭霧
(
さぎり
)
たつ
火
(
ひ
)
の
湖
(
みづうみ
)
も
恐
(
おそ
)
れむや
189
如何
(
いか
)
なる
曲
(
まが
)
のよし
潜
(
ひそ
)
むとも。
190
水奔鬼
(
すゐほんき
)
魍魎
(
すだま
)
曲霊
(
まがたま
)
数
(
かず
)
の
限
(
かぎ
)
り
191
寄
(
よ
)
せて
来
(
きた
)
るも
何
(
なに
)
か
恐
(
おそ
)
れむ』
192
熊公
(
くまこう
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
193
『
思
(
おも
)
ひきや
二柱神
(
ふたはしらがみ
)
の
出
(
い
)
でまして
194
国土
(
くに
)
の
災除
(
わざはひのぞ
)
かせ
給
(
たま
)
へり。
195
われは
今
(
いま
)
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
鬼
(
おに
)
となれど
196
元津
(
もとつ
)
みたまは
神
(
かみ
)
なりにけり。
197
たましひは
元
(
もと
)
より
清
(
きよ
)
し
惟神
(
かむながら
)
198
神
(
かみ
)
に
受
(
う
)
けたる
生命
(
いのち
)
なりせば。
199
水奔鬼
(
すゐほんき
)
に
追
(
お
)
ひたてられて
長
(
なが
)
き
日
(
ひ
)
を
200
清水
(
しみづ
)
ケ
丘
(
をか
)
にひそみたりける。
201
虎公
(
とらこう
)
と
二人
(
ふたり
)
淋
(
さび
)
しく
潜
(
ひそ
)
みたる
202
清水
(
しみづ
)
ケ
丘
(
をか
)
を
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
しき。
203
わが
君
(
きみ
)
も
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
アに
計
(
はか
)
られて
204
清水
(
しみづ
)
ケ
丘
(
をか
)
に
身
(
み
)
亡
(
う
)
せ
給
(
たま
)
ひぬ』
205
朝空男
(
あさぞらを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
206
『
種々
(
くさぐさ
)
の
汝
(
な
)
が
物語
(
ものがたり
)
聞
(
き
)
くにつけ
207
曲
(
まが
)
の
猛
(
たけ
)
びの
強
(
つよ
)
きをさとる。
208
葭原
(
よしはら
)
の
国土
(
くに
)
は
曲津
(
まがつ
)
の
影
(
かげ
)
もなく
209
清
(
きよ
)
め
澄
(
す
)
まさむ
神
(
かみ
)
なるわれは』
210
虎公
(
とらこう
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
211
『ありがたし
貴
(
うづ
)
の
御神
(
みかみ
)
の
御
(
おん
)
言葉
(
ことば
)
212
われは
忘
(
わす
)
れじ
幾世
(
いくよ
)
経
(
ふ
)
るとも』
213
山
(
やま
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
214
『
妾
(
わらは
)
とて
鬼
(
おに
)
にはあらず
惟神
(
かむながら
)
215
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
御子
(
みこ
)
なりしはや。
216
旅
(
たび
)
ゆきて
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
に
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
りつ
217
笑
(
わら
)
ひ
婆
(
ばば
)
アに
生命
(
いのち
)
とられし。
218
鬼婆
(
おにばば
)
に
玉
(
たま
)
の
生命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
はれし
219
人
(
ひと
)
のみたまは
数限
(
かずかぎ
)
りなし。
220
二柱
(
ふたはしら
)
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
に
水奔鬼
(
すゐほんき
)
の
221
影
(
かげ
)
を
地上
(
ちじやう
)
に
消
(
け
)
させ
給
(
たま
)
はれ』
222
国生男
(
くにうみを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
223
『
果
(
は
)
てしなき
広
(
ひろ
)
き
国原
(
くにはら
)
隈
(
くま
)
もなく
224
清
(
きよ
)
め
澄
(
す
)
まして
曲
(
まが
)
滅
(
ほろぼ
)
さむ。
225
兎
(
と
)
にもあれ
角
(
かく
)
にもあれやこの
丘
(
をか
)
に
226
館
(
やかた
)
つくりて
国土
(
くに
)
を
治
(
をさ
)
めむ』
227
川
(
かは
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
228
『
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
光
(
ひか
)
りのあれまして
229
葭原
(
よしはら
)
の
闇
(
やみ
)
晴
(
は
)
れそめにけり。
230
われとても
同
(
おな
)
じ
運命
(
うんめい
)
をたどり
来
(
き
)
て
231
鬼
(
おに
)
となりける
乙女
(
をとめ
)
なるぞや。
232
今日
(
けふ
)
よりは
曇
(
くも
)
りし
心
(
こころ
)
照
(
て
)
りあかし
233
生言霊
(
いくことたま
)
を
宣
(
の
)
り
続
(
つづ
)
くべし』
234
海
(
うみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
235
『
海山
(
うみやま
)
の
恵
(
めぐ
)
みをうけてわれは
今
(
いま
)
236
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
に
安
(
やす
)
く
居
(
ゐ
)
るかも』
237
冬男
(
ふゆを
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
238
『
果
(
は
)
てしなき
葭原
(
よしはら
)
の
国土
(
くに
)
隈
(
くま
)
もなく
239
照
(
て
)
らさせ
給
(
たま
)
へ
二柱神
(
ふたはしらがみ
)
。
240
力
(
ちから
)
なきわれにはあれど
御後
(
みしりへ
)
に
241
従
(
したが
)
ひ
神業
(
みわざ
)
に
仕
(
つか
)
へまつらむ。
242
熊
(
くま
)
も
虎
(
とら
)
も
山
(
やま
)
、
川
(
かは
)
、
海
(
うみ
)
も
神業
(
かむわざ
)
に
243
使
(
つか
)
はせ
給
(
たま
)
へとこひのみまつる』
244
朝空男
(
あさぞらを
)
の
神
(
かみ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
245
『
汝
(
な
)
が
願
(
ねが
)
ひ
諾
(
うべな
)
ひわれは
国生男
(
くにうみを
)
と
246
暫時
(
しばし
)
を
此処
(
ここ
)
にとどまり
治
(
をさ
)
めむ』
247
かく
歌
(
うた
)
ひ
給
(
たま
)
ひて、
248
火
(
ひ
)
の
湖
(
みづうみ
)
の
平穏
(
へいをん
)
に
復
(
ふく
)
する
日
(
ひ
)
を
待
(
ま
)
たせ
給
(
たま
)
ひける。
249
忍
(
しのぶ
)
ケ
丘
(
をか
)
の
麓
(
ふもと
)
には
数万
(
すうまん
)
の
猛獣
(
まうじう
)
、
250
毒蛇
(
どくじや
)
、
251
水奔鬼
(
すゐほんき
)
など、
252
逃場
(
にげば
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
253
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
にひしめきあへりけり。
254
(
昭和九・七・三〇
旧六・一九
於関東別院南風閣
林弥生
謹録)
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