霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 五乙女(いつをとめ)〔二〇一四〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm8010
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 一行(いつかう)は森蔭(もりかげ)の小(ささ)やかなる家(いへ)に立寄(たちよ)り見(み)れば、002五(ご)人(にん)の乙女(をとめ)、003笑(ゑみ)を満面(まんめん)に浮(うか)べて一行(いつかう)を迎(むか)へ入(い)れ、004旅(たび)の疲(つか)れを此(こ)の破家(あばらや)に休(やす)ませ給(たま)へと勧(すす)める。005此(この)女(をんな)の名(な)は、006秋風(あきかぜ)、007野分(のわき)、008夕霧(ゆふぎり)、009朝霧(あさぎり)、010秋雨(あきさめ)といふ。
011『秋(あき)ながら旅(たび)の疲(つか)れに汗(あせ)出(い)でぬ
012この破家(あばらや)に休(やす)ませ給(たま)へ。
013松(まつ)のひびき萩(はぎ)吹(ふ)く風(かぜ)のさやさやに
014響(ひび)きてさむき秋(あき)なりにけり。
015秋風(あきかぜ)の吹(ふ)き通(とほ)るなる此(この)館(たち)に
016暫(しば)しは汗(あせ)をぬぐはせ給(たま)へ』
017 秋男(あきを)はこれに答(こた)へて、
018『秋(あき)されば涼(すず)しきものを汗(あせ)ばみぬ
019この森蔭(もりかげ)に休(やす)らひ行(ゆ)かむか。
020一時(ひととき)をこれの館(やかた)に休(やす)らひて
021吾(われ)は力(ちから)を養(やしな)はむとぞ思(おも)ふ。
022願(ねが)はくば只(ただ)一時(ひととき)の休(やす)らひを
023これの館(やかた)に清(きよ)く許(ゆる)せよ』
024といひながら一行(いつかう)を引連(ひきつ)れ、025柴(しば)の戸(と)をくぐりて奥(おく)に入(い)るや、026表(おもて)より見(み)たる破家(あばらや)に引替(ひきか)へて、027美(うる)はしき広(ひろ)き居間(ゐま)、028幾(いく)つともなく並(なら)び居(ゐ)たりしに、
029『思(おも)ひきやこの破家(あばらや)に斯(かく)の如(ごと)
030美(うつく)しき広(ひろ)き居間(ゐま)のあるとは。
031暫(しばら)くをこれの館(やかた)に休(やす)らひつ
032勇(いさ)み火炎(くわえん)の山(やま)に進(すす)まむ』
033 松(まつ)は歌(うた)ふ。
034『草(くさ)を分(わ)け坂(さか)を辿(たど)りて吾(わが)足(あし)は
035軽(かろ)き疲(つか)れを覚(おぼ)えけるかな。
036この家(いへ)に息(いき)を休(やす)めて魂(たましひ)を
037よび生(い)かしつつ進(すす)み行(ゆ)くべし。
038不思議(ふしぎ)なる館(やかた)なるかも表(おもて)とは
039案(あん)に相違(さうゐ)の居間(ゐま)の数々(かずかず)。
040もしやもし譏(そし)り婆(ばば)アのたくらみに
041かかりしものかと案(あん)じらるるも』
042 竹(たけ)は歌(うた)ふ。
043『譏(そし)り婆(ばば)の館(やかた)なりしは幸(さいは)ひよ
044幸(さいは)ひ真昼(まひる)のことにありせば。
045此(この)家(いへ)に譏(そし)り婆(ばば)アがひそむなら
046生命(いのち)かぎりに戦(たたか)ひて見(み)む。
047此(この)家(いへ)の表(おもて)に乙女(をとめ)五柱(いつはしら)
048立(た)てるも一(ひと)つの不思議(ふしぎ)なりけり。
049鬼婆(おにばば)の潜(ひそ)める館(やかた)と思(おも)はれず
050斯(か)かる優(やさ)しき乙女(をとめ)住(す)むやを』
051 梅(うめ)は小首(こくび)を傾(かたむ)けながら歌(うた)ふ。
052『悪神(あくがみ)の罠(わな)に入(い)りしか何(なん)となく
053吾(わが)魂(たましひ)は落着(おちつ)かぬかも。
054八十(やそ)曲津(まがつ)神(かみ)の住家(すみか)と知(し)るならば
055力(ちから)限(かぎ)りに戦(たたか)ひて見(み)む。
056悪神(あくがみ)は優(やさ)しき乙女(をとめ)と見(み)せかけて
057吾(われ)等(ら)が生命(いのち)を窺(うかが)ひ居(ゐ)るにや。
058不思議(ふしぎ)なる事(こと)ばかりなり此(この)家(いへ)は
059窓(まど)もあらずに下(した)に明(あか)るし』
060 桜(さくら)は歌(うた)ふ。
061『疑(うたが)へば限(かぎ)りなからむ此(この)家(いへ)を
062吾(われ)は曲津(まがつ)の住家(すみか)と思(おも)はず。
063破家(あばらや)の表(おもて)に乙女(をとめ)あらはれて
064笑(ゑみ)を湛(たた)へて吾(われ)を迎(むか)へし。
065皇神(すめかみ)の御言(みこと)かがふり出(い)でで行(ゆ)く
066この旅立(たびだち)にさやる曲津(まが)なし』
067 斯(か)く歌(うた)ひ居(ゐ)る折(をり)しも、068秋風(あきかぜ)を先頭(せんとう)に四(よ)人(にん)の乙女(をとめ)は入(い)り来(きた)り、069盆(ぼん)に茶(ちや)を汲(く)みながら、070目(め)の上(うへ)高(たか)く差上(さしあ)げ、071破家(あばらや)に憩(いこ)はせ給(たま)ふ客人(まらうど)に心(こころ)ばかりの茶(ちや)を奉(たてまつ)る。
072『これの茶(ちや)は泉(いづみ)の山(やま)の高畑(たかはた)に
073栄(さか)えて甘(あま)き薬(くすり)なりけり。
074それ故(ゆゑ)に普(あまね)く人(ひと)は泉茶(いづみちや)と
075称(とな)へて朝夕(あさゆふ)楽(たの)しみ飲(の)むなり。
076これの茶(ちや)を召上(めしあが)りませ長旅(ながたび)の
077疲(つか)れは頓(とみ)に休(やす)まるべきを』
078 秋男(あきを)は怪(あや)しみながら、
079『何処(どこ)となくこの茶(ちや)の香(かを)りは怪(あや)しけれ
080暫(しばら)く時(とき)を待(ま)ちてすすらむ』
081 秋風(あきかぜ)は稍(やや)顔色(かほいろ)を変(か)へながら、
082『不思議(ふしぎ)なることを宣(の)らすよこれの茶(ちや)は
083泉(いづみ)の茶(ちや)にて人(ひと)の生命(いのち)よ』
084 秋男(あきを)は答(こた)ふ。
085『何(なん)となく吾(われ)は生命(いのち)の惜(を)しさ故(ゆゑ)
086見知(みし)らぬ茶湯(ちやゆ)は飲(の)みたくはなし』
087 野分(のわき)といふ乙女(をとめ)は涼(すず)しき声(こゑ)にて、
088『客人(まらうど)は吾(われ)等(ら)が真心(まごころ)疑(うたが)ひて
089清(きよ)き優(やさ)しき心(こころ)を受(う)けずや。
090朝(あさ)に夕(ゆふ)に清(きよ)めすまして作(つく)りたる
091これの茶(ちや)の湯(ゆ)に毒(どく)のあるべき』
092 松(まつ)は歌(うた)ふ。
093『乙女(をとめ)等(ら)の清(きよ)き心(こころ)を受(う)けぬには
094吾(われ)あらねども暫(しば)しを待(ま)たせよ。
095あつき湯(ゆ)は吾(われ)は好(この)まず舌(した)やかむ
096ぬるむを待(ま)ちて吾(われ)は飲(の)むべし』
097 夕霧(ゆふぎり)は後(あと)よりのび上(あが)りながら、
098『乙女(をとめ)等(ら)の清(きよ)き心(こころ)を疑(うたが)ひて
099吾(われ)等(ら)の誠(まこと)をうけ給(たま)はずや。
100水奔草(すゐほんさう)の茶湯(ちやゆ)と思(おも)ひて客人(まらうど)は
101ためらひ給(たま)ふと思(おも)へば怨(うら)めし。
102萩(はぎ)桔梗(ききやう)匂(にほ)へる秋(あき)の山裾(やますそ)に
103館(やかた)造(つく)りて君(きみ)等(ら)を待(ま)ちしよ。
104吾(われ)こそは御樋代(みひしろ)神(がみ)に仕(つか)へたる
105五乙女(いつをとめ)にて怪(あや)しきものならず』
106 竹(たけ)は歌(うた)ふ。
107『御樋代(みひしろ)の神(かみ)の乙女(をとめ)か知(し)らねども
108汝(なれ)が面(おもて)にあやしきふしあり。
109折々(をりをり)に乙女(をとめ)の耳(みみ)は動(うご)くなり
110まさしく狐狸(こり)の化身(けしん)と思(おも)ふ。
111茶(ちや)の色(いろ)は次第(しだい)々々(しだい)に変(かは)り行(ゆ)きて
112墨(すみ)の如(ごと)くになりにけらしな。
113此(この)茶(ちや)こそ水奔草(すゐほんさう)にてつくりたる
114生命(いのち)を奪(うば)ふ毒湯(どくゆ)なるべし』
115 朝霧(あさぎり)は歌(うた)ふ。
116『斯(か)くなれば最早(もはや)詮(せん)なし吾々(われわれ)は
117乙女(をとめ)と見(み)ゆれど曲津(まがつ)神(かみ)なり』
118 秋雨(あきさめ)は歌(うた)ふ。
119『客人(まらうど)に看破(みやぶ)られたるその上(うへ)は
120最早(もはや)詮(せん)なし覚悟(かくご)召(め)されよ。
121破家(あばらや)と見(み)ゆれど永遠(とは)の巌窟(がんくつ)よ
122最早(もはや)逃(のが)れる道(みち)はあるまじ』
123 梅(うめ)は声(こゑ)もあらあらしく歌(うた)ふ。
124『吾(われ)とても汝(なれ)が謀計(たくみ)を知(し)りし故(ゆゑ)
125これの巌窟(いはや)を破(やぶ)らむと来(き)つる。
126乙女子(をとめご)の姿(さま)を装(よそほ)ひ鬼婆(おにばば)の
127命(めい)に従(したが)ひ謀(はか)る曲(くせ)もの』
128 桜(さくら)は怒(いか)りながら、
129『コリヤ曲津(まがつ)もうかうなれば是非(ぜひ)もなし
130吾(わが)言霊(ことたま)に飽(あ)くまで放(はふ)らむ』
131 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
132『吾(われ)も亦(また)曲津(まがつ)の巌窟(いはや)と知(し)りしゆゑ
133殊更(わざと)に此処(ここ)に誘(さそ)はれ入(い)りぬ。
134乙女子(をとめご)と見(み)ゆるは何(いづ)れも水奔鬼(すゐほんき)の
135生命(いのち)奪(うば)ふと待(ま)てる奴(やつ)なり。
136譏(そし)り婆(ばば)に水奔草(すゐほんさう)を飲(の)まされて
137汝(なれ)等(ら)は鬼(おに)となりしものなり。
138吾(わが)言霊(ことたま)心(こころ)鎮(しづ)めて聞(き)けよかし
139譏(そし)り婆(ばば)アに怨(うら)み持(も)たずや』
140 秋風(あきかぜ)は稍(やや)顔(かほ)を曇(くも)らせて、
141『客人(まらうど)の言葉(ことば)は宜(うべ)よ吾(われ)も亦(また)
142譏(そし)り婆(ばば)アに謀(はか)られにけり。
143この辺(あた)りは譏(そし)り婆(ばば)アの縄張(なはばり)よ
144吾(われ)等(ら)は彼(かれ)に頤使(いし)さるるもの。
145玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)とられし悔(くや)しさに
146人(ひと)を艱(なや)むる鬼(おに)とはなりぬ。
147此処(ここ)に居(ゐ)る四(よ)人(にん)の乙女(をとめ)も悉(ことごと)く
148吾(われ)と等(ひと)しき運命(うんめい)たどりし。
149奥(おく)の間(ま)に譏(そし)り婆(ばば)アは傷(きず)つきて
150休(やす)らひ居(を)りぬ亡(ほろ)ぼし給(たま)へ。
151譏(そし)り婆(ばば)をきため給(たま)はば吾(われ)等(ら)亦(また)
152君(きみ)に力(ちから)を添(そ)へ奉(まつ)るべし。
153力強(ちからづよ)き鬼婆(おにばば)ながら昨夜(さくや)より
154不快(ふくわい)なりとて呻吟(うめ)き居(ゐ)るなり』
155 松(まつ)は歌(うた)ふ。
156『吾(わが)君(きみ)の生言霊(いくことたま)に打出(うちだ)され
157婆(ばば)はいたでに悩(なや)むなるらむ。
158面白(おもしろ)し斯(か)くも秘密(ひみつ)を聞(き)く上(うへ)は
159乙女(をとめ)に吾(われ)等(ら)は力(ちから)を添(そ)へむ。
160面白(おもしろ)き事(こと)を聞(き)くかな鬼婆(おにばば)は
161これの館(やかた)に呻吟(うめ)き居(ゐ)るとは。
162斯(か)くならば力(ちから)の限(かぎ)り声(こゑ)かぎり
163生言霊(いくことたま)に攻(せ)め艱(なや)まさむ』
164 茲(ここ)に秋男(あきを)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)と五柱(いつはしら)の乙女(をとめ)、165互(たがひ)に堅(かた)き握手(あくしゆ)を交(か)はし、166譏(そし)り婆(ばば)の潜(ひそ)める居間(ゐま)を四方(しはう)より取巻(とりま)き、167天地(てんち)も破(やぶ)るるばかりに大音声(だいおんじやう)を発(はつ)し、
168『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
169百(もも)千(ち)万(よろづ)八千万(やちよろづ)の神(かみ)
170此(これ)の館(やかた)に潜(ひそ)みたる
171譏(そし)り婆(ばば)なる水奔鬼(すゐほんき)を
172吾(わが)言霊(ことたま)にくまもなく
173亡(ほろ)ぼし給(たま)へ惟神(かむながら)
174吾(わが)言霊(ことたま)に力(ちから)あれ
175吾(わが)言霊(ことたま)に光(ひかり)あれ
176アオウエイ
177カコクケキ』
178と次々(つぎつぎ)に七十五(しちじふご)声(せい)の言霊(ことたま)宣(の)れば
179さすがの水奔鬼(すゐほんき)も堪(たま)りかね
180狭(せま)き室内(しつない)を右往(うわう)左往(さわう)に荒(あ)れ狂(くる)ひ
181悲鳴(ひめい)を挙(あ)げて又(また)もや再(ふたた)び起上(おきあが)り
182死物狂(しにものぐる)ひの形相(ぎやうさう)凄(すさま)じく
183秋男(あきを)に向(むか)つて飛(と)びかかるを
184ものをも言(い)はず拳(こぶし)を固(かた)め
185婆(ばば)の横面(よこづら)を打(う)ちすゑ打(う)ちすゑきためければ
186さしもの婆(ばば)も痛(いた)さに堪(た)へ兼(か)ねてや
187窓(まど)の戸(と)にはかに押開(おしあ)けて
188忽(たちま)ち巌窟内(がんくつない)を飛出(とびいだ)し
189怪(あや)しき雲気(うんき)を吐(は)きながら
190雲(くも)を霞(かすみ)と大空(おほぞら)さして
191血煙(ちけむり)の雨(あめ)を降(ふ)らせつつ
192跡白雲(あとしらくも)と逃(に)げ行(ゆ)きぬ
193ああ惟神(かむながら)言霊(ことたま)の
194厳(いづ)の力(ちから)ぞ畏(かしこ)けれ
195譏(そし)り婆(ばば)アの水奔鬼(すゐほんき)は
196斯(か)くして五(ご)人(にん)の乙女(をとめ)の精霊(せいれい)を
197醜(しこ)の巌窟(がんくつ)に残(のこ)し置(お)き
198第二(だいに)の作戦(さくせん)に移(うつ)らむと
199逃(に)げ行(ゆ)きしこそ恐(おそ)ろしき。
200 五乙女(いつをとめ)は満面(まんめん)に笑(ゑみ)を湛(たた)へ、201胸(むね)撫(な)で下(おろ)し、202「ウオウオ」と叫(さけ)びつつ、203手(て)の舞(ま)ひ足(あし)の踏(ふ)む所(ところ)を知(し)らぬばかりなりける。
204 秋風(あきかぜ)は歌(うた)ふ。
205『吾(われ)こそは泉ケ丘(いづみがをか)に生(うま)れたる
206国津神(くにつかみ)等(ら)の娘(むすめ)なりけり。
207四柱(よはしら)の乙女(をとめ)も同(おな)じ里(さと)の子(こ)よ
208この鬼婆(おにばば)に謀(はか)られしもの。
209水奔草(すゐほんさう)の茶(ちや)を飲(の)まされて吾々(われわれ)は
210水奔鬼(すゐほんき)とはなりにけらしな。
211客人(まらうど)に此(この)茶(ちや)をささげ吾(われ)と共(とも)に
212力(ちから)協(あは)すと勧(すす)めけるかな。
213思(おも)へば春(はる)の初(はじ)めなり
214吾(われ)等(ら)五(ご)人(にん)の乙女(をとめ)等(ら)は
215泉(いづみ)の里(さと)を立(た)ち出(い)でて
216高光山(たかみつやま)に詣(まう)でむと
217進(すす)み来(きた)れる折(をり)もあれ
218旅(たび)の疲(つか)れに咽喉(のど)かわき
219苦(くる)しむ折(をり)しも森蔭(もりかげ)の
220一(ひと)つの小(ちひ)さき家(いへ)を見(み)て
221吾(われ)等(ら)五(ご)人(にん)の乙女(をとめ)等(ら)は
222立寄(たちよ)り見(み)れば白髪(はくはつ)の
223一人(ひとり)の婆(ば)さんが住(すま)ひ居(ゐ)て
224先(ま)づ先(ま)づ渋茶(しぶちや)を召(あ)がれよと
225手招(てまね)きしたる嬉(うれ)しさに
226暫(しばら)く息(いき)を休(やす)めつつ
227水奔草(すゐほんさう)の茶(ちや)と知(し)らず
228吾(われ)等(ら)は一度(いちど)に飲(の)み乾(ほ)しぬ
229俄(にはか)に頭(あたま)は痛(いた)み出(だ)し
230手足(てあし)身体(しんたい)腫(は)れ上(あが)り
231身動(みうご)きならぬ状態(さま)を見(み)て
232婆(ばば)はニツコと打(う)ち笑(わら)ひ
233吾(わが)計略(けいりやく)にかかりしよ
234汝(なんぢ)乙女(をとめ)の玉(たま)の緒(を)の
235生命(いのち)は最早(もはや)今日(けふ)かぎり
236葭原(よしはら)の国津神(くにつかみ)等(ら)の生命(せいめい)を
237残(のこ)らず取(と)りて幽界(いうかい)の
238真正(まこと)の鬼(おに)となせよかし
239吾(われ)の言葉(ことば)に反(そむ)きなば
240茨(いばら)の鞭(むち)を振(ふ)り上(あ)げて
241汝(なんぢ)が全身(ぜんしん)打(う)ち破(やぶ)り
242つらき目(め)見(み)せて呉(く)れむずと
243威(おど)しの言葉(ことば)に怖(お)ぢ恐(おそ)れ
244彼(かれ)が教(をし)ふるままにして
245悲(かな)しき月日(つきひ)を送(おく)り来(き)ぬ
246秋男(あきを)の君(きみ)は現世(うつしよ)の
247人(ひと)にしあれば言霊(ことたま)の
248力(ちから)は強(つよ)し吾々(われわれ)は
249精霊界(せいれいかい)にある身(み)なれば
250其(その)言霊(ことたま)に力(ちから)あるべき
251言霊(ことたま)の光(ひかり)は出(い)でず苦(くる)しみぬ
252心(こころ)の中(うち)にて泣(な)くばかり
253救(すく)はせ給(たま)へ水上(みなかみ)の
254山(やま)に輝(かがや)く巌(いは)ケ根(ね)の
255御子(みこ)とあれます秋男神(あきをがみ)の
256御前(みまへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
257五人(ごにん)乙女(をとめ)は鬼婆(おにばば)の
258頤使(いし)に甘(あま)んじ仕(つか)へつつ
259強(つよ)き身魂(みたま)の来訪(らいはう)を
260待(ま)ちに待(ま)ちたる甲斐(かひ)ありて
261恨(うら)みを晴(は)らす時(とき)は来(き)ぬ
262ああたのもしや心地(ここち)よや
263月見(つきみ)ケ丘(をか)の聖場(せいぢやう)に
264汝(なれ)等(ら)が一行(いつかう)悉(ことごと)く
265艱(なや)まし呉(く)れむと計画(たく)みしを
266譏(そし)り婆(ばば)アは逆(さか)しらに
267生言霊(いくことたま)に打出(うちだ)され
268生命(いのち)からがら逃(に)げ帰(かへ)り
269一間(ひとま)に呻吟(うめ)き居(ゐ)たりしゆ
270此(この)時(とき)こそは幸(さいは)ひと
271五人(ごにん)乙女(をとめ)は諜(しめ)し合(あは)せ
272仇(あだ)を打(う)たむと思(おも)へども
273素(もと)より乙女(をとめ)の力(ちから)には
274手向(てむか)ふ由(よし)もなかりけり
275かかる処(ところ)へ現身(うつそみ)の
276身体(からたま)もたす汝(なれ)一行(いつかう)
277来(きた)らせ給(たま)ふ嬉(うれ)しさに
278毒(どく)と知(し)りつつ水奔草(すゐほんさう)の
279湯(ゆ)を勧(すす)めむとしたりけり
280必(かなら)ず怒(いか)らせ給(たま)ふなかれ
281君(きみ)を力(ちから)と思(おも)ふが故(ゆゑ)に
282吾(われ)等(ら)と共(とも)に幽界(かくりよ)に
283現(あら)はれまして鬼婆(おにばば)を
284討(う)ち罰(きた)めつつ霊界(れいかい)の
285禍(わざは)ひ除(のぞ)くと思(おも)へばなり
286許(ゆる)させ給(たま)へ秋男神(あきをがみ)
287御供(みとも)の神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
288真心(まごころ)あらはし詫(わ)び奉(まつ)る
289外(ほか)の乙女(をとめ)も同(おな)じ心(こころ)の捨小舟(すてをぶね)
290取(と)りつく島(しま)もなかりしが
291今日(けふ)の吉(よ)き日(ひ)の喜(よろこ)びに
292蘇(よみがへ)りけりあら尊(たふと)
293偏(ひとへ)に感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
294是(これ)より君(きみ)は言霊(ことたま)の
295天(あま)の数歌(かずうた)うたひつつ
296火炎(くわえん)の山(やま)に進(すす)みませ
297譏(そし)り婆(ば)さんの第一(だいいち)に
298恐(おそ)れて忌(い)むは言霊(ことたま)よ
299吾(われ)は後(あと)より蔭(かげ)ながら
300君(きみ)の出(い)で立(た)ち送(おく)りつつ
301一臂(いつぴ)の力(ちから)を添(そ)へ奉(まつ)らむ
302進(すす)ませ給(たま)へ』
303と言(い)ひながら、304五(ご)人(にん)の乙女(をとめ)は白煙(はくえん)となりて消(き)え失(う)せにけり。305よくよく見(み)れば、306森蔭(もりかげ)の雑草(ざつさう)の生(お)ひ茂(しげ)る中(なか)に一行(いつかう)は腰(こし)を下(おろ)してうづくまり居(ゐ)つ。307破家(あばらや)の蔭(かげ)も巌窟(いはや)も跡形(あとかた)なく、308小鳥(ことり)の囀(さへづ)り、309虫(むし)の啼(な)く音(ね)ばかりなりける。
310 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
311『不思議(ふしぎ)なる夢(ゆめ)を見(み)しより鬼婆(おにばば)の
312悩(なや)める状態(さま)を覚(さと)らひにけり。
313破家(あばらや)も巌窟(いはや)も全(まつた)く消(き)え失(う)せて
314野辺(のべ)吹(ふ)く風(かぜ)の音(おと)さやかなり』
315(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 森良仁謹録)
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