霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 月見(つきみ)ケ丘(をか)〔二〇一一〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm8007
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 秋男(あきを)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)は、002漸(やうや)くにして雑草(ざつさう)生(お)ひ茂(しげ)る月見(つきみ)ケ丘(をか)の夕(ゆふべ)を、003ここに息(いき)を休(やす)めながら松間(まつま)の月(つき)を眺(なが)めて歌(うた)ふ。
004秋男(あきを)『大野原(おほのはら)渉(わた)りて漸(やうや)く月見(つきみ)ケ丘(をか)の
005松(まつ)に懸(かか)れる月(つき)を見(み)しかな』
006 松(まつ)は歌(うた)ふ。
007『松(まつ)生(お)ふる月見(つきみ)ケ丘(をか)の月光(つきかげ)は
008秋(あき)の夕(ゆふべ)の風(かぜ)にゆれつつ。
009月(つき)清(きよ)み草葉(くさば)にすだく虫(むし)の音(ね)も
010いやさえざえに小夜(さよ)更(ふ)けにけり。
011秋月(あきづき)の静(しづ)かに照(て)れる丘(をか)の上(へ)に
012旅(たび)の疲(つか)れを休(やす)らふ宵(よひ)かな。
013籠木(こもりぎ)の梢(こずゑ)に宿(やど)る月影(つきかげ)は
014千々(ちぢ)に砕(くだ)けて風(かぜ)にさゆれつ。
015大空(おほぞら)の月(つき)の心(こころ)は知(し)らねども
016われには楽(たの)しきかげにぞありける。
017月(つき)澄(す)めるこれの丘辺(をかべ)に休(やす)らひて
018松風(まつかぜ)聞(き)けば秋(あき)の声(こゑ)あり。
019天国(てんごく)の姿(すがた)なるかな松(まつ)ケ枝(え)に
020澄(す)む月影(つきかげ)を見(み)れば楽(たの)しき』
021 竹(たけ)は歌(うた)ふ。
022『此処(ここ)に来(き)て親(した)しと思(おも)ふ故郷(ふるさと)の
023山(やま)の端(は)出(い)づる月(つき)を見(み)しかな。
024高光(たかみつ)の山(やま)に進(すす)まむ道(みち)すがら
025月見(つきみ)ケ丘(をか)の月(つき)を見(み)るかな。
026白雲(しらくも)の幕(まく)を閉(と)ぢつつ開(ひら)きつつ
027月(つき)の桂男(かつらを)われ等(ら)をのぞけり。
028鈴虫(すずむし)も清(すが)しき声(こゑ)を張(は)りあげて
029今宵(こよひ)の月(つき)を称(たた)へうたふも。
030萩(はぎ)、桔梗(ききやう)匂(にほ)へる丘(をか)に照(て)る月(つき)の
031かげは一入(ひとしほ)清(すが)しかりけり。
032空(そら)高(たか)き秋男(あきを)の君(きみ)に従(したが)ひて
033今宵(こよひ)は清(すが)しき月(つき)を見(み)るかな。
034此処(ここ)に来(き)て空(そら)ゆく月(つき)を眺(なが)むれば
035悪魔(あくま)のすまふ野路(のぢ)とは思(おも)へず。
036大丈夫(ますらを)の弥猛心(やたけごころ)も月(つき)見(み)れば
037柔(やは)らぎ初(そ)めぬ女郎花(をみなへし)の花(はな)。
038月(つき)の夜(よ)に咲(さ)く女郎花(をみなへし)よく見(み)れば
039露(つゆ)を浴(あ)みつつ傾(かたむ)きにけり。
040月(つき)の行(ゆ)く道(みち)も確(たしか)に見(み)ゆるまで
041澄(す)み渡(わた)りたり今宵(こよひ)の大空(おほぞら)。
042大空(おほぞら)に浮(うか)べる月(つき)の光(かげ)清(きよ)み
043地上(ちじやう)に松(まつ)の影(かげ)を描(ゑが)けり』
044 梅(うめ)は歌(うた)ふ。
045『月(つき)澄(す)める御空(みそら)の雲(くも)は次々(つぎつぎ)に
046薄(うす)らぎにつつ消(き)え失(う)せにけり。
047月(つき)と花(はな)の露(つゆ)にかこまれわれは今(いま)
048月見(つきみ)ケ丘(をか)に歌(うた)を詠(よ)むなり。
049月読(つきよみ)の露(つゆ)の恵(めぐ)みの無(な)かりせば
050百(もも)の草木(くさき)も育(そだ)たざるべし。
051澄(す)み渡(わた)る今宵(こよひ)の月(つき)は大井川(おほゐがは)
052竜(たつ)の淵瀬(ふちせ)に冴(さ)え渡(わた)るらむ。
053淵(ふち)に浮(う)く月(つき)を眺(なが)めて竜神(たつがみ)は
054水(み)の面(も)に浮(うか)び出(い)でて遊(あそ)ばむ。
055火炎山(くわえんざん)峰(みね)越(こ)す月(つき)の光(かげ)赤(あか)み
056千草(ちぐさ)の露(つゆ)も風(かぜ)に散(ち)るなり。
057一(いち)日(にち)の旅(たび)を終(をは)りてわれは今(いま)
058月見(つきみ)ケ丘(をか)の月(つき)に親(した)しむ。
059秋(あき)の野(の)の楽(たの)しきものは百千花(ももちばな)
060月(つき)に奏(かな)づる虫(むし)の音(ね)なりけり。
061此処(ここ)に来(き)て松虫(まつむし)鈴虫(すずむし)きりぎりす
062清(きよ)けき虫(むし)の鳴(な)く音(ね)聞(き)きしよ。
063水上(みなかみ)の山(やま)にも聞(き)かぬ虫(むし)の音(ね)に
064わが魂(たましひ)は蘇(よみがへ)りける。
065高光山(たかみつやま)進(すす)まむ道(みち)の首途(かどいで)に
066われは冴(さ)えたる月(つき)を見(み)しかな。
067空(そら)渡(わた)る月(つき)の下草(したぐさ)露(つゆ)うけて
068おのもおのもに玉(たま)とかがよふ。
069わが袖(そで)は露(つゆ)にしめりて御空(みそら)ゆく
070月(つき)の光(かげ)さへ宿(やど)らせにけり。
071真昼間(まひるま)にまがふべらなる月光(つきかげ)を
072浴(あ)びて今宵(こよひ)の草枕(くさまくら)かな。
073月(つき)澄(す)めば御空(みそら)の雲(くも)も消(き)えゆきて
074松(まつ)吹(ふ)く風(かぜ)の音(おと)もさやけき。
075何時(いつ)とても月(つき)を倦(あ)く夜(よ)はなけれども
076旅(たび)の夕(ゆふべ)に見(み)るは楽(たの)しき。
077天(あま)の原(はら)ふりさけ見(み)れば緑(みどり)深(ふか)し
078秋(あき)こそ月(つき)の光(ひかり)なるかな。
079水上山(みなかみやま)松(まつ)の木(こ)の間(ま)の月(つき)冴(さ)えて
080われを送(おく)るかこの丘(をか)に見(み)つ。
081雲(くも)の間(ま)に翼(つばさ)を搏(う)ちて飛(と)ぶ雁(かり)の
082数(かず)さへ見(み)ゆる今宵(こよひ)の月(つき)はも』
083 桜(さくら)は歌(うた)ふ。
084『澄(す)み渡(わた)る秋男(あきを)の君(きみ)に従(したが)ひて
085冴(さ)えたる月(つき)の顔(かむばせ)を見(み)る。
086花(はな)の香(か)も虫(むし)の鳴(な)く音(ね)も月光(つきかげ)も
087秋(あき)を飾(かざ)らぬものなかりけり。
088楽(たの)しきは秋(あき)の旅路(たびぢ)に如(し)かざらめ
089百花(ももばな)匂(にほ)ひ月(つき)の冴(さ)ゆれば。
090月(つき)冴(さ)ゆる下道(したみち)ゆけば虫(むし)の声(こゑ)
091露(つゆ)にふるひて花香(はなかを)るなり。
092月(つき)の夜(よ)の冴(さ)ゆる空気(くうき)をゆるがせて
093透(す)きとほるなり鈴虫(すずむし)の声(こゑ)。
094天地(あめつち)を隈(くま)なく照(て)らす月光(つきかげ)の
095心持(こころも)ちたし旅(たび)ゆくわれは。
096せせらぎの音(おと)も聞(きこ)えて丘(をか)の辺(べ)に
097虫(むし)の音(ね)冴(さ)ゆる月(つき)の夜頃(よごろ)よ。
098昼(ひる)の如(ごと)明(あか)るき月(つき)も女郎花(をみなへし)
099桔梗(ききやう)刈萱(かるかや)色(いろ)褪(あ)せて見(み)ゆ』
100 かく一行(いつかう)は、101秋(あき)の夜(よ)の澄(す)みきる月(つき)を称(たた)へ、102休(やす)らひ居(ゐ)たる折(をり)もあれ、103東南(とうなん)の天(てん)に当(あた)りて一塊(いつくわい)の黒雲(こくうん)現(あら)はるるよと見(み)る間(ま)に、104次第(しだい)々々(しだい)に四方(しはう)に拡(ひろ)がり、105さしもに明(あか)るき月光(つきかげ)も、106忽(たちま)ち黒雲(こくうん)に包(つつ)まれ、107咫尺(しせき)黯澹(あんたん)として、108どつかりと闇(やみ)の塊(かたまり)は月見(つきみ)ケ丘(をか)の茂樹(しげき)の森(もり)に落(お)ち来(きた)りぬ。109一行(いつかう)の姿(すがた)は互(たがひ)に見(み)えぬまで暗黒(あんこく)と化(くわ)し、110只(ただ)声(こゑ)のみを頼(たよ)りに空(そら)の晴(は)るるを待(ま)つより外(ほか)に手段(てだて)なかりける。
111 秋男(あきを)は歌(うた)ふ。
112『昼(ひる)の如(ごと)晴(は)れたる空(そら)も忽(たちま)ちに
113あやめも分(わ)かずなりにけらしな。
114幾万(いくまん)の星(ほし)を残(のこ)らず包(つつ)みたる
115雲(くも)黒々(くろぐろ)と吹(ふ)く風(かぜ)寒(さむ)し。
116虫(むし)の音(ね)もひたと止(と)まりて梢(こずゑ)吹(ふ)く
117風(かぜ)いやらしくうなり初(そ)めたり。
118松(まつ)、竹(たけ)よ梅(うめ)よ桜(さくら)よ心(こころ)せよ
119悪魔(あくま)の出(い)づる序幕(じよまく)なるらむ。
120闇(やみ)の幕(まく)下(おろ)してわれ等(ら)が目(め)をかすめ
121事(こと)謀(はか)るらし悪魔(あくま)の群(むれ)は。
122われわれの力(ちから)に怖(お)ぢて悪神(あくがみ)は
123地上(ちじやう)に闇(やみ)を落(おと)せしならむ。
124惟神(かむながら)御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
125この暗闇(くらやみ)を晴(は)らさせ給(たま)へ。
126何処(いづこ)よりか怪(あや)しき声(こゑ)の聞(きこ)ゆなり
127笑(わら)ひ婆(ばば)アか譏(そし)り婆(ばば)アか。
128如何(いか)ならむ曲津(まがつ)の襲(おそ)ひ来(きた)るとも
129われには厳(いづ)の言霊(ことたま)ありけり』
130 松(まつ)は歌(うた)ふ。
131『月見(つきみ)ケ丘(をか)松(まつ)の百木(ももき)も黒雲(くろくも)に
132かくれて見(み)えず虫(むし)の音(ね)細(ほそ)し。
133水奔鬼(すゐほんき)たとへ幾万(いくまん)来(きた)るとも
134生言霊(いくことたま)に打(う)ちて放(はふ)らむ。
135兎(と)にもあれ月見(つきみ)ケ丘(をか)を包(つつ)みたる
136闇(やみ)を晴(は)らして進(すす)みゆかばや』
137 竹(たけ)は歌(うた)ふ。
138『大丈夫(ますらを)の弥猛心(やたけごころ)は暗闇(くらやみ)に
139恐(おそ)るべしやは国(くに)の御(おん)為(ため)。
140爛漫(らんまん)と匂(にほ)へる花(はな)の香(か)消(き)え失(う)せて
141闇(やみ)はますます深(ふか)みけるかな。
142この丘(をか)にすだく虫(むし)の音(ね)細(ほそ)りつつ
143怪(あや)しき風(かぜ)の吹(ふ)き来(く)る夜半(よは)なり。
144雄々(をを)しくは言挙(ことあげ)すれど村肝(むらきも)の
145心(こころ)淋(さび)しくなりにけらしな』
146 梅(うめ)は歌(うた)ふ。
147『大丈夫(ますらを)に君(きみ)は非(あら)ずや常闇(とこやみ)の
148今宵(こよひ)をさまで恐(おそ)れ給(たま)ふか。
149闇(やみ)の幕(まく)幾重(いくへ)にわれを包(つつ)むとも
150心(こころ)の誠(まこと)の光(ひか)りに進(すす)まむ。
151大空(おほぞら)の清(きよ)き月光(つきかげ)包(つつ)みつつ
152曲津(まが)はわれ等(ら)にさやらむとすも。
153よしやよし常闇(とこやみ)の夜(よ)は深(ふか)くとも
154如何(いか)でひるまむ悪魔(あくま)も恐(おそ)れじ』
155 桜(さくら)は歌(うた)ふ。
156『珍(めずら)しく月見(つきみ)ケ丘(をか)に登(のぼ)り来(き)て
157われは心(こころ)を慰(なぐさ)めしはや。
158魂(たましひ)の蘇(よみがへ)りたるたまゆらを
159包(つつ)むも憎(にく)し醜(しこ)の黒雲(くろくも)。
160黒雲(くろくも)は包(つつ)めど月(つき)は皎々(かうかう)と
161御空(みそら)に輝(かがや)き給(たま)ふなるらむ。
162中空(なかぞら)の雲(くも)は如何程(いかほど)厚(あつ)くとも
163やがては晴(は)れむ月(つき)のいませば』
164 斯(か)く歌(うた)へる折(をり)しも、165何処(いづこ)ともなく聞(きこ)え来(きた)るいやらしき声(こゑ)。
 
166『ギアハハハハハー、167ギヨホホホホー
168腰抜(こしぬ)けのヒヨロヒヨロ男(をとこ)が集(あつま)りて
169弱音(よわね)吹(ふ)くかな月見(つきみ)ケ丘(をか)に。
170空(そら)渡(わた)る月(つき)を力(ちから)に腰抜(こしぬ)けが
171くだらぬ歌(うた)をうたふ可笑(をか)しさ。
172闇(やみ)の幕(まく)に包(つつ)まれ虫(むし)の鳴(な)く如(ごと)き
173悲(かな)しき声(こゑ)をしぼり居(ゐ)るかな。
174高光山(たかみつやま)の旅(たび)をとどまれ貴様(きさま)等(ら)の
175弱腰(よわごし)にてはとても及(およ)ばじ。
176貴様(きさま)等(ら)の求(もと)むる冬男(ふゆを)は早(は)や既(すで)に
177へこたれよつて弱鬼(よわおに)となりしよ。
178メソメソと吠面(ほえづら)かわき赤恥(あかはぢ)を
179忍(しのぶ)ケ丘(をか)に泣(な)き暮(くら)し居(ゐ)る。
180其(その)方(はう)も冬男(ふゆを)の如(ごと)くへこたれて
181月見(つきみ)ケ丘(をか)の鬼(おに)となれなれ。
182汝(なんぢ)等(ら)の歌(うた)を道々(みちみち)聞(き)いてゐた
183俺(おれ)の姿(すがた)を知(し)らぬか馬鹿者(ばかもの)。
184此(この)方(はう)は世界(せかい)の奴(やつ)を悉(ことごと)く
185譏(そし)り楽(たの)しむ婆(ばば)アなるぞや。
186譏(そし)られて腹(はら)が立(た)つなら目(め)を噛(か)んで
187死(し)んでしまへば埒(らち)があくぞや。
188此(この)方(はう)の経綸(しぐみ)の闇(やみ)に包(つつ)まれて
189吠面(ほえづら)かわく腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)よ。
190ギヤハハハハーぎゆうぎゆう喉(のど)をしめられて
191今(いま)に悲(かな)しき最後(さいご)をする奴(やつ)。
192かうなればもう俺(おれ)のもの貴様(きさま)等(ら)は
193舌(した)など噛(か)んで死(し)んだがよいぞや。
194世(よ)の中(なか)に俺(おれ)程(ほど)えらい者(もの)はない
195水上館(みなかみやかた)も神(かみ)もあるかい。
196腰抜(こしぬけ)の冬男(ふゆを)の兄(あに)が来(く)ると聞(き)きて
197待(ま)つて居(ゐ)たぞよ月見(つきみ)ケ丘(をか)に。
198かくなればもうこちのもの煮(に)て喰(く)はうと
199焼(や)いて喰(く)はうとしたい放題(はうだい)。
200アハハハハあはれなるかな此(この)餓鬼(がき)は
201俺(おれ)等(ら)の仲間(なかま)で嬲(なぶ)り殺(ごろ)しよ。
202ちよこざいな腰弱(こしよわ)男(をとこ)の餓鬼(がき)どもが
203俺(おれ)の縄張(なはばり)荒(あ)らそとするか。
204縄張(なはばり)をむざむざ貴様(きさま)に荒(あ)らされて
205譏(そし)り婆(ば)さんの顔(かほ)がたつかい。
206笑(わら)ひ婆(ばば)の妹(いもと)の俺(おれ)は譏(そし)り婆(ばば)よ
207譏(そし)り散(ち)らして泡(あわ)を吹(ふ)かさむ。
208此(この)方(はう)の罠(わな)にかかつてこの丘(をか)に
209休(やす)むといふは運(うん)の尽(つ)きぞや。
210大空(おほぞら)の月見(つきみ)したのが其(そ)の方(はう)の
211いよいよ運(うん)の尽(つ)きとなりける。
212運(うん)のつきまごつきうろつききよろつきの
213五人(ごにん)男(をとこ)の憐(あは)れなるかな。
214 ギヤハハハハー、215ギヨホホホホー、216ギユフフフフー』
 
217といやらしき声(こゑ)が闇(やみ)の中(なか)に連続(れんぞく)してゐる。218秋男(あきを)は最早(もは)や堪(たま)り兼(か)ね、219天(てん)を拝(はい)し地(ち)を拝(はい)し拍手(はくしゆ)しながら、
 
220『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
221 百(もも)千(ち)万(よろづ)八千万(やちよろづ)の神(かみ)
222 天津(あまつ)御空(みそら)を晴(は)らさせ給(たま)へ』
 
223と天(あま)の数歌(かずうた)を繰(く)り返(かへ)してゐる。
224 闇(やみ)の中(なか)より破鐘(われがね)の様(やう)な声(こゑ)、
225『ワツハハハハー、226ウフフフフー、227てもさてもいぢらしいものだのう。228此(この)方(はう)は忍(しのぶ)ケ丘(をか)に棲(す)む水奔鬼(すゐほんき)の笑(わら)ひ婆(ば)アさんの妹(いもうと)、229世界(せかい)の奴(やつ)ども片(かた)つぱしから譏(そし)り散(ち)らして茶々(ちやちや)を入(い)れる譏(そし)り婆(ばあ)さんの貧乏神(びんばふがみ)ぞや、230恐(おそ)れ入(い)つたか。231天(あま)の数歌(かずうた)なんぞと減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)くな。232そんな事(こと)でビクとも致(いた)す鬼婆(おにばば)ではないぞや。233ギヤハハハハー、234ギユフフフフー、235終(をは)り』
236と言(い)つた限(き)り、237ピタリと怪(あや)しき声(こゑ)は止(とま)つた。
238(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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