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五月十四日 於栲機(たくはた)支部(棚野支部改称)

インフォメーション
題名:5月14日 於栲機支部(棚野支部改称) 著者:月の家(出口王仁三郎)
ページ:85 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-08-19 19:24:36 OBC :B117500c10
 鱶魔痴零妖、魅次心怪の一派、瑞霊の内命と称して、信者より多額の金員を巻き上げたりと云ふ沖の()棚野村々の信徒(まめひと)等の純朴(じゆんぼく)さ、実に涙の(あふ)れ落つる心地こそすれ。それあるに又もや汚腹天狗、暗蔭毒風等の狐狸(こり)の霊魂、胃腸飢霊城次々に現はれ、神の教も道の徳島も(つひ)に水の阿波(あは)と成らんとせるを深く憂慮し、遥々(はるばる)岩田、栗原の両総務と共に来遊しあり時、吾力と頼みてし従兄岩崎庄太郎氏の訃に接し、悲嘆やる方なきまま旅の疲れの身を起し、窓暗き文机(ふづくえ)()りて、一首の和歌を書きしるし、故人をしのぶ吾ぞ果敢(かかん)なき。
 ○贈故従兄岩崎庄太郎
永久に吾力ぞと頼みてし
君は速くもかくれましけり。
天に仰ぎ地に伏し泣けど叫べども
返らぬ君となりにけるかな。
花明山(かめやま)の法城に住む身も君なくば
今後の吾は寂しかるらむ。
六十の坂を見(なが)ら越えもせで
夜見に旅立つ君ぞ惜けれ。
朝晴れの空に白雲来住し
波音響く沖の()支部かな。
行々子(ぎようぎようし)声爽かに世を唄ふ
沖の洲支部の静かなるかな。
鳴球氏白嶺宣使昨夜中(よなか)
までも講演開きしと聞く。
冷熱の行交ひ余り繁くして
鼻腔(びこう)加答児(かたる)にをかされにけり。
疲れ果て前後も知らず夢に入り
寝言のみ云ふ鈴木少年。
支部長は其の官署に出頭し
正午前頃帰り来れり。
 ○徒然(つれづれ)の余り明光社第二十三回冠沓句を作り見る。
弥勒神現はれ御代は    新天地
今年からいよいよ開く   (どう)
笑ひ顔四方に花咲く    新天地
国民の心花咲く      仝
花嫁の岩戸開いて     仝
神恩を知らぬものなき   仝
山も野も慈光に充つる   仝
姑の国替へにより新天地  仝
闇の世の幕を降せば    仝
日月の並びて守る     仝
森羅万象所を得たる    仝
赤ちんが生れて家内    新天地
大本人日々の生活     仝
花匂ふ弥生の春の     仝
開け行く昭和の御代の   仝
神様を祀りて家は     仝
心から開拓して行け    仝
大本は世界に知らぬ    仝
神ながら道を進めば    仝
新天地アア新天地     仝
万寿苑大本教の      新天地
愛善の御教に開く     仝
眼をさませ  弥勒三会の鐘の音に
仝      神の教を世に比べ
仝      脚下に火が燃えてゐる
仝      今年は昭和の第三年
仝      世界総ては生てゐる
仝      桜は青葉となつてゐる
仝      寝言云つてる時じや無い
眼をさませ  前後に虎狼迫つてる
仝      金の物いふ時じやない
仝      学者の世に立つ世ではない
仝      夢の浮世はモウ過ぎた
仝      黒艦よりも飛行船
仝      赤い魔の手が伸びてゐる
仝      白蟻洋館喰つてゐる
仝      白蟻セメンの家崩す
仝      山も田地も浮いてゐる
眼をさませ  廓の花折る年じやない
仝      旭は天に冲してる
仝      無声霊話がかかつてる
仝      昼夜分たぬ御内流
仝      月の光じや無い程に
仝      烏は空から怒鳴つてる
仝      人に意見もする歳で
仝      岩戸は既に開けてる
仝      国債五十七億円
眼をさませ  石屋がスキをねらつてる
仝      龍神活動始めてる
仝      田植の歌が聞えてる
仝      怪しい雲が立つてゐる
仝      酒が生命ねらつてる
威張つてる  三文奴が肱張つて
仝      (なまづ)(どぢやう)の前だけで
仝      媽には鯰泡を吹き
仝      鯰は金の針で釣り
威張つてる  無鳥郷の蝙蝠(かうもり)
仝      媽アの尻は石の臼
仝      肩を四角に釣り上げて
仝      まさかの時に()げる奴
仝      シルクハツトで丹波猿
仝      媽アの前で労働者
仝      昔の家系並べたて
仝      薬缶(やかん)のすはる床柱
午後三時五十分より沖の洲を
立ちて横瀬の町をさし行く。
勝浦(かつら)土堤(どて)を走れば月見草
路の左右に咲き満ちてあり。
小津(こづの)森の清けき淵に蛇の枕
伝説包みて横たはりけり。
常磐木(ときはぎ)()ふる岩山いと清く
落つる鳴瀧(なるたき)水音(みなおと)清けし。
犬帰り猿帰りなる岩壁も
自動車の行く昭和の御代かな。
白鶴(はくづる)の導きにより空海の
霊場開きし鶴林寺見ゆ。
空海が修行の遺跡と伝へたる
星の岩窟(いはや)は右山にあり。
午後の五時三十分に栲機(たくはた)
支部に一行安くつきたり。
煙火(はなび)をば揚げて信徒(まめひと)一行の
無事着郷を祝しけるかな。
これはこれは  貰つた媽アは坊主山
仝       思はぬ所へ御脱線
仝       恐れ入り谷の鬼子母神
仝       海千山千河千年
仝       四つ身の弁に餅を焼く
仝       仕掛煙火(はなび)俄雨(にわかあめ)
仝       知らぬは亭主生仏
仝       河鹿の声に川へ落ち
仝       来た花嫁は土産持ち
 阿波第一の清流と聞えたる勝浦(かつら)川を(さかのぼ)り、横瀬勝浦郡棚野村が大正15年2月に横瀬町と改称。昭和30年に隣村と合併して勝浦町となる。の支部に出張すべく吾一行五名の(ほか)に徳島分所長、沖の()支部長、外三支部長と共に自動車三台を馳す。何分四国の地は弘法大師の遺蹟も多く所々に霊山霊場あり。巡礼者の数も中々多く春秋の参拝者合計二十有五万人と称せらる。鶴林寺、星の岩窟、灌頂(くわんちやう)山等沿道の左右にありて、法灯連綿として末法の世を照らせり。勝浦川の(つつみ)を行けば、赤黄色の月見草の花、吾行く左右の草の中に咲き充ち川水に影を落して風情(ふぜい)言はん方なし。小津森(こづのもり)の蛇の枕、鳴瀧なぞの奇勝に心胆を洗ひ(なが)ら、犬帰り猿帰りの絶壁の眺め面白し。昭和の御代は(かか)る岩壁にも自動車の来往自由にして生稲(いくいな)の田園は古来良米の産地として其の名高く、山林ますます青く繁く、渓流ますます清く(うる)はしく、六里の行程も何の退屈も覚えず、地方の信者に迎へられ、横瀬の支部に安く来りぬ。空は曇りたれども何となく風清く心地よき霊地なりけり。坂本川の瀬々良木(せせらぎ)の音一入(ひとしほ)興趣(きようしゆ)を添ゆ。栲機(たくはた)支部は支部長美馬(みま)邦次(くにじ)氏の邸宅を宛てられ、風光極めて佳き山間の霊地なり。表門を(くぐ)りて直ちに離れ座敷に招かれ、此処(ここ)に休憩する事とはなりぬ。(こけ)()す岩以て築きたる泉水の周りには五葉松(ごえふまつ)の老樹立ち栄え、太き長き大島にも琉球にも(かつ)て見し事なき蘇鉄(そてつ)の株庭園の(かなめ)と立ち、珍らしき楓樹(ふうじゆ)の露の(しづく)たる新芽池の面を覆ひ、躑躅(つつじ)南天木犀(もくせい)柑橘樹等庭の面を(ふさ)ぎ、潺々(せんせん)たる()り水の音清く響きて、仙境を(しの)ばしむ。里の(わらべ)は所()きまで集まり来たりて、吾面を一目見んものとひしめき合ひ、閑静の庭の面もいと(にぎ)はし。
 鳴戸蜜柑(みかん)や甘夏(だいだい)や夏蜜柑(みかん)は黄金色に実りて(こずゑ)も折れん(ばか)りぶら下り、其美味捨がたし。又普通の蜜柑の花の盛りにて、芳香四辺に(くん)じ更生の気を吾身辺に(みつ)ぎす。山腹には木苺(きいちご)の枝も(たわ)はに実るあり。採りて口にすれば味はひ(こと)(うる)はしく(たへ)なり。
 坂本青年団の製作せる阿波第一の煙火(はなび)を吾(ため)に見せやらんものと、準備おさおさ(おこた)りなき折から、一天(にはか)に黒雲(おほ)ひ、大粒の雨バラバラと降りそそぐ。役員信徒(まめひと)は云ふも更なり、青年団員の失望落胆思ひやられて気の毒なりき。山本宣伝使吾前に来り、仕掛煙火(はなび)に雨は大禁物なり、何卒(なにとぞ)今宵の雨を晴らさせ青年団及び有志者の好意を受けられたしとの申し入れ、()に最もの事なりとて、産土(うぶすな)の神(ならび)(あめ)水分神(みくまりのかみ)に対して左の言霊(ことたま)()れば、雨は(たちま)ち晴れ渡りけり。
伊都能売(いづのめ)の神に捧ぐるこの煙火(はなび)
雨を晴らせよ水分(みくまり)の神。
大神の御命(みこと)のままに()し吾に
煙火を見せよ産土の神。
 鹿背山(しかのせやま)稼勢山とも(ふもと)坂本川の岸辺には坂本青年団右往左往、花火打ち揚げの準備忙がしげなり。支部の斎庭(ゆには)に観覧台を造り、塀越に見るべき仕掛なり。河鹿の声彼方此方の渓流を圧して清く聞え、煙火の打ち揚げを(うなが)すものの如し。庭の面に茂れる橘の花の香は夕べの風に芳香を吐き送り、吾人の精霊に更生の霊気を(みつ)ぐに似たり。拍子木(ひようしぎ)の音闇を破るや、青年団の製作になる打揚げ煙火(はなび)四辺(あたり)の山にこだまして、暗の天空に時ならぬ花を咲かせり。()づ煙火の種類は第一に打揚玉(うちあげだま)大和響(やまとひびき)引咲(ひきさき)()二化(にくわ)引火咲(ひきびざき)の小花、雷鳴(ほか)十八発にして壮観なり。又仕掛煙火としては夜桜の満開、百万燭光、華厳之(たき)、乱星、元火(げんくわ)、白糸之瀧等最も雄大にして巧妙なる出来栄えなりき。
 続いて佐賀定太郎氏製作の煙火(はなび)となる。先づ打揚玉としては登り電光、祝砲曲導付菊咲二化、紅牡丹(あかぼたん)咲桔梗(さきききやう)、水星残月、登り龍火菊咲三化、上り分火(わけび)引咲(ひきざき)三化、登り電光付変星(かはりぼし)、上り分花(わけばな)小花、(にしき)牡丹咲二化等にして仕掛煙火の方は、銀華の瀑布、吉野山桜花満開、菖蒲(あやめ)の満開等にして、其の美観と荘厳さは、天国紫微宮(しびきゆう)()ける祭典の(うる)はしさに似たりと云ふべし。
 嗚呼(ああ) 惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
風薫る花橘に包まれて
御空に開く煙火(はなび)見しかな。
阿波一の名物煙火見る庭に
(かを)るなり河鹿(かじか)なくなり。
斎庭(いみには)に棚を造りて煙火見る
吾面数多の村人が見る。
新緑の()え立つ初夏の夕庭に
花橘の薫る神の()
河鹿なく夕べにかをる橘の
煙火の(さま)()しく(たへ)なる。
打ち出だす清き煙火の筒音に
驚きにけむ蛙鳴き止む。
いく度か煙火を見たる吾目にも
飽かず見にけり今日の煙火は。
 数十発の大煙火は群集が拍手喝采の間に無事終了したれば、岩田、栗原両弁士、群集の散らぬ内にと、支部の広間に立ちて()はる()はる天国の福音をいと雄弁に宣べ伝ふ。集まる村人、老いも若きも、男子も女子も拍手して迎ふ。煙火終ると共に地上は雨の国とはなりたれど、熱心なる村人等は雨を物ともせず、軒に立ちて聞き入るもありき。
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