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五月十六日 於高松市新港町嶋中氏方

インフォメーション
題名:5月16日 於高松市新港町嶋中氏方 著者:月の家(出口王仁三郎)
ページ:121 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-08-19 19:26:14 OBC :B117500c12
朝の空隈無(くまな)く晴れて風清く
汽笛(きてき)()さへ澄める徳島。
半切紙頼まれ今日も例破り
(じふ)数枚の揮毫(きがう)せしかな。
何事か知らねど徳島某署より
栗原総務を呼出し来る。
紀州より熊々(わざわざ)島田宣伝使
ゴキゲンホウシと来電ありたり。
出来島を清く流るる助任(すけたふ)
川の(おもて)に波の穂高し。
午後の二時数多の信者に送られて
徳島後に讃岐(さぬき)に向ひぬ。
仁心(じんしん)橋 船場橋など打渡り
佐古(さこ)町行けば車に(ふさ)がる。
佐古の町讃岐街道の四辻(よつじ)
猪津(ゐのつ)公園清く映えたり。
風清く()(うらら)かに吉野川
十一丁の川幅渡る。
珍らしく昭和の代にも吉野川
渡る車に橋銭を取る。
限りなき広き桑園()(なが)
大寺橋を渡るすがしさ。
大寺町矢を射る如く通り抜け
大阪峠現・徳島県板野郡板野町にある大坂峠のこと。現在は県道1号だが、当時は国道22号(大正国道)だった。のふもとに進む。
左手(ゆんで)なる八坂神社を後にして
四里の上下の坂にかかりぬ。
面白く(つた)のからみし老松の
(みき)青々と林に立つ見ゆ。
太郎橋 (よろひ)橋など打渡り
登れば風光そろそろ(うる)はし。
松林木蔭に所狭きまでも
咲ける躑躅(つつじ)の美はしきかな。
上り行く坂道の辺に(まき)(たば)
赤くなれるを積み重ねあり。
大曲り坂を上りつ見かへれば
白布(はくふ)の道の長く()く見ゆ。
頂上に登りて見れば瀬戸の海
波の光りの美はしく見ゆ。
徳島と香川県との境まで
来りて見れば風光(たへ)なり。
海原を見下ろす刹那(せつな)の楽しさよ
沖の島山波に浮かびて。
九十九折(つづらをり)四国第一峻坂を
車に乗りて降る愉快(ゆくわい)さ。
九十九折坂下り詰め海辺(かいへん)
つたひて大川橋に乗り入る。
引田橋渡れば山に包まれて
海辺の景色見えずなりけり。
塩屋橋渡れば左右の森林に
八日躑躅(つつじ)の群がり咲く見ゆ。
中山池現・東かがわ市にある貯水池小波(さざなみ)立ちて水青く
双眼鏡の如く並べる。
白鳥(しろとり)(やしろ)鳥居(とりゐ)潜り抜け
白鳥橋を渡りて町行く。現・東かがわ市白鳥(しろとり)。当時は香川県大川郡白鳥本町及び白鳥村。
午後の四時白鳥支部に安着し
疲れ医せんと少時(しばし)休らふ。
白鳥の神社現・東かがわ市松原69に鎮座する白鳥神社だと思われる。に岩田栗原氏
吾に代りて参拝を為す。
午後六時二十分前前原を
背景として小照を撮る。
龍灯の松の姿の珍らしさ
(こずゑ)灯籠(とうろう)ありと伝ふる。
千年の老松太く(こけ)()
白鳥松原見ればさやけし。
湊川(みなとがは)橋を渡りて三本通り
与太川(よたがは)橋を渡る(はや)さよ。
眼鏡(めがね)池岸辺に小供(こども)三四人
小魚(さな)(あさ)りてささやき遊べり。
津田湾に点々と浮く群嶋(ぐんたう)
眺めはさながら()の如くなり。
鶴羽根(つるばね)の村を走れば(みち)()
枝振り(たへ)なる老松の立つ。
風清き津田の松原別け行けば
石清水の宮()の間に光る。
老松の林すかして海の面に
白帆の影の見ゆる(すず)しさ。
斎庭(いみには)を塞ぎて()てる一本の
臥龍(ぐわりよう)の松の面白きかな。
津田川橋渡りて見れば川岸に
肥えたる牛の草()める見ゆ。
加部(かべ)側の(つつみ)走れば初夏の風
車の窓を吹きて肌()ゆ。
鴨の庄進めば田家の軒高く
風におよげる鯉幟(こひのぼり)見ゆ。
源平の戦争に其の名聞こえたる
屋島の山姿清く眼に入る。
聖天を祀れる讃岐(さぬき)の五剣山
雲間に高く雄姿(ゆうし)現はす。
弁天橋渡れば近き海上に
弁天島の清く浮く見ゆ。
謡曲に名を知られたる志度(しど)寺を
通れば海士(あま)(しの)ばるるかな。
五剣山雲の彼方に三剣を
吾眼の前に抜き放ちたり。
房崎(ふさざき)を過ぐれば五剣残りなく
御空に高く現はれにけり。
走り行く道の左右の草中に
赤黄色なす月見草咲く。
屋島山近けくなりて道の辺に
塩田(えんでん)広く開かれてありき。
田の面に(ぼしよく)色包みて(かす)日川橋
渡れば老松並木茂れる。
詰田川橋(これ)より屋島を眺むれば
(ゆふ)べの雲に山は映えたり。
沖松島町の千代橋渡る頃
家々の軒電灯つきたり。
電灯もてトンネル造りし片原(かたはら)
町を通れば城趾(じやうし)眼に入る。
高松港海岸通り島中氏
事務所に一同安く来にけり。
県内の宣使まめ(ひと)八十余名
島中邸にて吾迎へ待ちぬ。
ここから時間を溯り土佐(高知県)に上陸してから今日までの回顧歌となる 紀貫之(きのつらゆき)がものせし土佐日記を読みてより以来永年憧憬(あこが)れたる土佐の風光を探り、かたがた熱心なる信徒(まめひと)に直接面会せん事を楽しみて、いよいよ今回の四国路巡遊の途に上る事とはなりぬ。貫之の昔の如く、文明の御代の有難さは、海賊のおそれも無く難船の心配も無く神戸港を夕方立ち出で、暖かき夢を結びつつ翌朝早くも目的の土佐浦戸湾の風光に接する事とは成りぬ。浦戸湾は土佐第一の良港にして山水の風光()に珍らしき眺めなりき。
開けたる御代のめぐみは憧憬(あこがれ)
土佐へ一夜に着きにけるかな。
貫之(つらゆき)を近寄り起し今の土佐
見すれば如何に驚くなるらむ。
太平洋南に負ひし土佐国の
山と水との(ゆたか)なるかな。
一年に二度まで(いね)のみのるなる
土佐は天地に恵まれし国。
高知市の山内公の城趾見て
維新の志士を(しの)びぬるかな。
薩長土並びて瀑布を(たふ)したる
維新の勇気今見る由なし。
市中をば自由自在に船をやる
工事起せし兼山(けんざん)偲ばる。
筆山(ひつざん)や鏡の川や五台山
吾たましひを洗ふ山川。
軒下に流るる鏡の清川を
ながめて土佐の風光見しかな。
足立氏の(うづ)(やかた)に身を休め
思ひを遠く神代に()せたり。
 浦戸湾の風光にあこがれて半日の清遊を船に試み、副守護神を満足させたる其翌日高知より(さんじふ)数里を隔てたる、日本新八景の第一位室戸岬(むろとざき)に案内せんと、宣伝使信徒(まめひと)の好意()するに忍びず、雨煙る土佐の平野海岸等を四台の自動車を連ねて一日の遊覧を(こころ)むべく、朝早くより出立し、室戸の勝地に到る。名にし負ふ太平洋の荒浪(あらなみ)打寄する浜辺の事とて波に洗はれたる万年の岩石海岸に数限りなく碁布(きふ)併立(へいりつ)し、少しく旅情を(なぐさ)むるに足るべし。しかるに此の附近(ふきん)は林中墓地多く亡霊充満して、霊感者の吾に取りては不愉快極まりなく、半時の間も(とど)まる事の苦しきを()へ忍び、人々の好意を無視せまじ、と社交的に(をし)き時間を空費せり。記念の小照を、砕破(さいは)せる巌上に立ちて撮りぬ。
日本一室戸の岬の景勝も
(みぐる)しかりけり亡霊群れ居て。
空海が跡を遺せし室戸岬に
今は悪霊のみぞ(のこ)れる。
日本一勝地と聞けど吾眼には
余り(すが)しと思はざりけり。
 四方に雨雲塞がり陰気なる高知の空を後にして高知分所長、徳島中央支部長に案内され、栗原、岩田両総務を始め、(てる)()吟月、玉の()満月の一行七人、いよいよ恋しき高知に離れ阿波路(あはぢ)に向ふ。雨激しく風また強し。
高知市をあとに阿波路に進み行く
別れ涙か雨降り(しき)る。
天地(あめつち)の恵み豊な土佐の国
離るる時の心淋しも。
 天恵豊にして樹木茂り合ふ土佐の山々、青く清く(そび)えて、河水()とも(うる)はしき大坂山を越ゆれば、穴内川(あなないがは)の清流吉野川の碧潭(へきたん)に注ぎ、水声淙々(そうそう)として川底透明なり。断崖絶壁を修理して川の左岸に国道を通じ、大歩危(おほぼけ)小歩危(こぼけ)(けん)も今は名のみ残りて自動車、馬車の通ふ事となりぬ。廿(にじふ)数里の渓路(たにみち)は大部分川沿ひにして、風光(こと)に麗しく、旅情を慰して(なほ)余りありき。
土佐の山河波の山々の新緑の
もゆるあたりに郭公(ほととぎす)()く。
山清く河水澄める(たに)路の
眺めは終生忘れざるらむ。
山々の頂きまでも畑作り
国富計る国人()ぐしも。
 阿波の鳴戸十郎兵衛お弓にお鶴、大阪玉造など近松作の戯曲に()りて、幼時より深く印象されたる阿波の徳島市に始めて足を踏み入るる事とはなりぬ。人家稠密(ちうみつ)にして国の()豊なり。徳島分所の二泊中、巡礼の歌耳に入りて倍々(ますます)床しさの胸に湧く。忌部(いむべ)神社の参拝、猪津山城趾(じやうし)の巡覧、古川橋の広さ長さ、鳴戸支部の訪問、等何れも阿波旅行の気分にしたる。鳴戸支部の所在地近くなる撫養(むや)の町競馬場、若布の香り、百枚(むしろ)の大紙鳶(たこ)なぞ物珍らし。
 此処より一里にして有名なる鳴戸あり、案内すべければ、一度その壮観に触れ玉はずや、と心良き人々の勧めをも固辞して、早々其日の夕暮、沖の()支部長柏原(かしはら)花実子(かみこ)氏邸に入り、旅の疲れを養ふ事となしぬ。
神業の忙しき身には阿波鳴戸
近しと聞けど訪ふ暇もなし。
競馬場鳴戸若布の(かほ)りなぞ
吾には別けて珍らしかりけり。
栲機(たくはた)の支部に一夜の宿りして
いと珍しき煙火(はなび)見しかな。
勝浦(かつら)川清き流れを遡り
小津森の淵賞観せしかな。
 晴れ渡る初夏の空に三台の自動車に分乗し、徳島分所長、及高松市の稲村 大内の三氏に送り迎へられ、一行八人午後二時中央支部を立ち出で讃岐(さぬき)の高松市に向ふ。此処にも土佐同様に大阪峠あり。徳島と香川県との堺の山上より海面を見る。風光の絶妙なる九十九(つづら)折の峻坂を下りたる時の爽快なる、四国路旅行中の第一印象たるべし。白鳥、津田の両松原の景色、五剣山、屋島山の勝景に送られ、夕刻無事高松市に入りぬ。
千年の(こけ)()す松原海の面
ながめつ楽しき今日の旅かな。
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