今日も亦大空清く晴れ渡り
庭の若葉に清風到る。
二名支部山口宣使始めとし
各支部宣使迎へに来たる。
○今治新聞社編輯長近藤善寛氏来訪、左の一首を贈る。
○東予日報記者松岡精巳氏来訪、左の一首を贈る。
松の岡二名の島に茂り合ひて
天地きよみ海精巳つつ。
富田村郵便局長渡辺氏
色紙に揮毫乞ひて帰りぬ。
午後一時宮田氏方を立ち出でて
急ぎ今治の停車場につく。
波止浜の駅に進めば老木の
茂る荒神山の美はし。
塩田の広く開けし波止浜は
木原鬼仏の生地とぞ聞く。
渦巻の激しき久留島海峡は
阿波の鳴門と並び名高し。
老松の茂れる瀬早の神社は
海に面して風光佳きかな。
黄ばみたる麦田に立ちて百姓の
手にする鎌に初夏の陽輝く。
面白き小松の丘を縫ひ乍ら
水の面清き沢池陽に照る。
並木松長く続きて龍神の
社の森は海の面に映ゆ。
老松の茂れる丘に産土の
大井八幡神社かがやく。
大井駅西に過ぐれば海の面に
松美はしき島嶼浮く見ゆ。
小丘を残らず開き梨の畑
處狭きまで作れる里かな。
雉の住む怪島の山は海中に
かすみの幕を引きて覗けり。
風光の妙なる山海誉め乍ら
伊予亀岡の駅に入りけり。
海岸の近くに烏帽子の如くなる
臍島の景眺め妙なる。
斎島遠くかすみて瀬戸内の
海の彼方にかすみ浮く見ゆ。
山と海景色競ひて美はしく
厄除け大師の遍照院映ゆ。
瓦焼く松の枯葉を山の如
浜辺に積める菊間の里かな。
清々し海原見れば遠近と
青き小島の浮ける瀬戸海。
汀辺に網を干しつつ漁夫数多
裸体となりて囁き合へり。
砂浜に初夏の海風浴び乍ら
老若男女の貝拾ふ見ゆ。
遊廓の在りてふ瀬戸の哀島の
姿小さく遠海に浮く。
鹿の住む鹿島神社の島森は
新緑映えていとも崇高し。
燕子花小さき為に名の高き
腰折山の新緑さやけし。
鹿島山老樹の若葉萌ゆる見て
北條の駅近くなりけり。
契り島鹿島に近く門柱の
如く巌の立つぞ珍らし。
高縄山高く聳えて観音を
祀れる寺院の風景佳きかな。
その昔河野通有の戦ひし
山野は清く黄ばむ麦畑。
一本の蜈蚣の松は道の辺に
怪しく立ちて吾を見送る。
海原にかすみの幕を懸けまはし
景佳き島々浮かぶ瀬戸内。
海原を劃して大島中ノ島
霞にけぶり静に浮かべり。
和気の駅あたりの家の秀高くして
松の翠に夕陽かがやく。
太山寺山はかすみて右左
丘に橘梨の畑充つ。
伊予小不二麓は全部桃の畑
花の盛りの美はしかるらむ。
衣山を過ぐれば昔純友の
駒止め岩の遺跡ありけり。
自動車を数多つらねて松山市
横ぎり道後鮒屋に入りけり。
庭園は水音高く渓川の
流れて水車米搗く床しさ。
三階の一間に坐して庭の面
見れば風光一入清けし。
紅葉谷流れを引きて庭の面に
うるほふ鮒屋の恵まれたるかな。
せせらぎの音ざわざわと響きつつ
嫩葉の庭に小鳥鳴くなり。
雨蛙梢に鳴きて空曇り
庭に凉しき風吹きわたる。
庭の面の青葉に電灯照りはえて
夜の眺めの珍らしきかな。
和歌詠草無事亀岡に届きしと
細々清記ゆ報じ来たれり。
歌日記十九日迄届きしと
天声社より知らせの文来る。
小夜更けて宇知麿宿に帰り来ぬ
松山分所の礼拝終りて。
五月雨の降り頻く夕べ消えもせで
光いやます沢の蛍火。(蛍)