霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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六月一日 於大洲佐賀家

インフォメーション
題名:6月1日 於大洲佐賀家 著者:月の家(出口王仁三郎)
ページ:297 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-08-19 19:58:09 OBC :B117500c28
 朝未明(まだき)、夜来の雨は止まず風さへ加はりて、四方の山々は雨雲の幕()きまはし、天地に水気ただよふ。小雀の声十姉妹(じふしまつ)(さへづ)りも旅の吾には一種の情味こそあれ。淑子(よしこ)の君は結婚間近くなりて(すべ)ての準備に忙しく緑の黒髪を桃割(ももわれ)に結びたる艶麗(えんれい)なる容姿は一目有情の男子をして悩殺さしむべき危険性を帯びたり。俳人鳴球氏是を見て
桃割(ももわれ)は貞操を割るの始めなり」
と紙片に書きて淑子(よしこ)嬢に手交したるに、嬢は直に
「桃割は(おろか)髷主(まげぬし)の花」
と返したるに満座一時に春めきて賑はしく、其笑声は三階の吾机上にも響きたるまま(しる)しおきぬ。
「桃割の天窓(あたま)はやがて桃太郎  割り出す為の準備なるらん」
○追想歌
二名(ふたな)(しま)に渡らむと
(のり)の花咲く花明山(かめやま)
天恩郷を後にして
一行五人亀岡の
駅に自動車()せてゆく
見送る人は百余名
各自にハンカチ振り(なが)
汽笛の声と諸共(もろとも)
(をし)き別れを告げにけり。
後ふり返り眺むれば
公孫樹(いてふ)の茂る高台に
輝き渡る神集殿
月宮殿の鉄骨は
朝日に赤く照り映えて
名残を惜む如くなり
激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)の保津の(たに)
水の流れも矢の如く
()すトンネル(くぐ)り抜け
嵐山鉄橋打ち渡り
新緑()ゆる川の辺の
嵐峡(らんけふ)館や水青む
千鳥ヶ淵を右手(めて)に見て
(よろづ)代動かぬ亀山の
長トンネルに吸はれけり
花より団子の嵯峨(さが)の宿
乗降客の声高く
聞く間もあらずまつしぐら
(のり)の花()ゆ妙心寺
花園駅もかすみつつ
鉄路も二條や丹波口
東西真宗大巨刹
本願寺堂左手(ゆんで)にし
(やうや)く京都の駅につく。
明石(あかし)通ひの急行に
一行五人はのりかへて
初夏の風吹く田圃路を
流れも清き桂川
鉄橋高く打ち渡り
西へ西へと向日(むかふ)
上る山崎高槻(たかつき)
客も吹田(すいた)の里越えて
よしもあしきも浪花江(なははえ)
大阪駅に着きにけり
難波(なには)分所の内藤氏
始め宣信数十人
二名(ふたな)の旅を送らむと
同車し従ふ神戸駅
船待つ間の三時間
神戸分所に参拝し
夕飯よばれ大前に
航海無事を祈りつつ
法談しばし時満ちて
汽笛の声に一同は
波止場(はとば)をさして急ぎけり
乗り込む船は浦戸丸
一千三百二十(トン)
見送る宣使まめ人の
好意に感謝の涙しつ
数十條のテープをば
甲板上より投げやれば
先を争ひ手に握る
その光景の勇ましさ。
時刻来たれば浦戸丸
(いかり)()きて動き出す
テープは次第に伸び伸びて
五色の波を中空に
彩りながら行く行かぬ
(たがひ)に姿の見えぬまで
ハンカチ旗なぞ振りかざし
月照る瀬戸の海原を
千思万考乗せながら
無心の船は進み行く
嗚呼(ああ)惟神(かむながら)惟神
今日の海路の長閑(のどか)さよ。
雷声(とどろ)く波の上
渦巻き渡る鳴戸(なだ)
危険区域の潮流も
安々夢にのり越えて
まなこ醒ませば室戸(むろと)(ざき)
二万燭光(しよくくわう)の灯台は
海の面を射照(いてら)して
往き来の船を守りけり
太平洋の荒浪(あらなみ)
今日は殊更(ことさら)平穏に
魚鱗(ぎよりん)の波に月映えて
壮観たとふる物もなし
東の空は白みつつ
優しく聞ゆる海鳥の
声に(やうや)く眼さむれば
土佐の島影青々と
緑の衣着飾りて
吾一行の旅立ちを
微笑み迎ふる風情(ふぜい)なり
風光明媚(めいび)ときこえたる
浦戸湾内のり入れば
右と左の島々は
(かすみ)のきぬに包まれて
潮水(しほみづ)青く風清く
数多の漁船を揺り(なが)
浪を()立てて桟橋(さんばし)
吾のる船はつきにけり
五月七日の七時頃
支部長その他に迎へられ
高知の市中突きぬけて
分所の神前(みまへ)に拝礼し
筆山(ひつざん)風致賞しつつ
流れも清き鏡川
牛追(うしおひ)橋のほとりなる
足立氏邸にうつりけり。
年にお米の二度獲れる
天恵豊なな土佐の国
果物みのり野菜もの
(ほか)に優れし味の良さ
南に太平の(うみ)を抱き
気候順良く暖かき
常磐(ときは)の春の風光を
遠き神代の昔より
(いや)継ぎ継ぎに恵まれて
今に変らぬ山の色
青岳(せいがく)翠巒(すいらん)重畳(ちやうでふ)
浦戸の湾や室戸(ざき)
景勝ほこる(うず)の国
紀貫之(きのつらゆき)のその昔
三年(みとせ)四とせの県守(あがたもり)
仕へし時の有様も
ありありうつる土佐日記
今に伝へて名も高し
流れも清き鏡川
筆山(ひつざん)うつす朝景色
()と珍らしき高知市よ
大坂山を打ち渡り
大歩危(おほぼけ)小歩危(こぼけ)の嶮を越え
青葉の茂る渓底(たにそこ)
清く流るる吉野川
余所(よそ)に見られぬ眺めなり
四国に名高き大杉は
雲を圧してそそり立ち
嫩葉(わかば)を含むほととぎす
あなた此方(こなた)()く声は
旅情を慰して余りあり
碧潭飛沫の吉野川
(たに)に架けたる釣橋は
東洋一の三好橋
(わた)り行くこそ楽しけれ。
汽車の通ずる池田駅
清月館に立ち寄れば
阿波徳島の宣伝使
数人此処(ここ)に迎へけり
一同昼飯為せる折
狐の如き釣眼持つ
下婢の給仕も興味あり
休憩二時間池田駅
徳島下りの汽車に乗り
吉野の流れに沿ひ(なが)
雨降りしきる大野原
二十数里の鉄路をば
無事に(やうや)く徳島の
分所の庭につきにけり。
阿波の国原(くにばら)開きたる
天之日鷲(あめのひわし)(みこと)をば
(いつ)き祭りし勢見(せみ)の山
忌部(いむべ)神社の大前に
一同神言(かみごと)奏上し
記念の撮影(あひ)終り
宮司や禰宜(ねぎ)に案内され
見晴らし(たへ)なる貴賓(きひん)
一同茶菓(さか)饗応(きやうおう)され
しばし疲れを休めけり
阿波の国原見渡せば
吉野の清流勝浦(かつら)
広き原野を区劃(くくわく)して
渦の鳴門の海に入る
あたりの松原尾を長く
曳きたる(さま)(くし)びなる。
勢見(せみ)山 眉山(びざん)  大(たき)
山々名高き徳島の
市中を囲み猪の津山
城趾(じやうし)は老樹繁茂(はんも)して
市の中央にそそり立ち
助任(すけたふ)川の清流を
抱へて立てる雄々しさよ。
十一
阿波と讃岐の国境
播磨(はりま)(なだ)を見下せば
点々浮かぶ大小の
青島影は船の(ごと)
(なみ)にかがやく陽の光
(たへ)なる眺めあとにして
讃州(さんしう)一の難所たる
九十九(つづら)の坂にかかりけり
右に左に急坂を
折れつ曲りつ幾度か
同じ所を往復し
二十分間費やして
(やうや)く平地に下りけり
四方(よも)の山々新緑の
装ひ美々しく風清く
麦の黄ばめる野の村を
進めば早くも(しろ)鳥の
松の浜辺にいでにけり
吾自動車は容赦なく
高松指して(ひた)走る
右手(めて)(そび)ゆる屋島山
五剣の霊山雲表(うんぺう)
(さや)を払つて天を()
海風かをる高松の
早くも市中につきにけり
港に集ふ(もも)船の
柱は林の如くなり
左手(ゆんで)の空を眺むれば
老松茂る紫雲山
日本一の公園地
栗林(りつりん)池畔(ちはん)に影うつし
昔の栄華を語るなり
小豆(せうど)ケ島の風光も
殊更(ことさら)清き瀬戸の海
往き交ふ船の床しさよ
いよいよ伊予(いよ)路にさしかかり
千古の謎も白石の
沖の霊岩面白く
御代島風致(こと)に佳し。
十二
昔加藤の築きたる
松山市内の錦亀(きんき)松山城のこと
雲間に高くそそり立ち
徳川時代の旧観を
今に伝ふる床しさよ
温泉(いでゆ)に名高き道後町
三日の清き日月を
(ふな)屋旅館に明け暮らし
二名洲(ふたなず)支部や杖ケ淵
山水秀でし霊地をば
一々たづねて郡中の
(やうや)く支部につきにけり
五色の浜の風光は
一入(ひとしほ)清く(うる)はしく
粥喰(かゆくひ)山の松林
遠く望めば伊予小富士
宝珠山や障子山
牛小(うしこ)ケ原の並松は
旅人の()さを()するなり。
十三
池見峠を乗り越えて
眺望(すぐ)れし海岸を
かけゆく道も長浜や
水流清き(ひぢ)川を
(さかのぼ)りつつ大洲(ほす)
宇知麿生家につきにけり
嗚呼(ああ)惟神(かむながら)惟神
二名(ふたな)の島の草枕
事なく終へし神々の
恩頼(みたまのふゆ)を慎みて
御前に感謝したてまつる。
一年に二度まで米のとれる土佐は
()に恵まれし国原なるかも。
村瀬氏の息女危篤(きとく)の電に()
御前に祈願捧げけるかな。
神応寺(じんのうじ)山に白雲徂徠(そらい)して
大洲の町は雨となりけり。
神南山(かんなんざん)雲の(かむり)(いただ)きて
雨けぶりつつ風静かなり。
磐硅(ばんけい)に由緒の深き如宝寺山の
白雲の帯まきて立つ見ゆ。
肱川(ひぢがは)に浮ける亀山錦亀(きんき)大洲城のこと
大洲市中の(かなめ)なるらむ。
吟月や満月昼も眠りけり
昨夜(よべ)の活動写真祟りて。
音悪き太皷(たいこ)(しき)りに聞えけり
雨降る日さへ演劇ありとて。
大洲署の警官来たり講演会
注意与へて帰りてぞゆく。
(ひむがし)の便り如何にと待つ吾の
旅にある身のもどかしきかな。
亀岡を立ちてゆ二十七の日を
(けみ)して今日は大洲に休らふ。
四方(よも)の山皆五月雨(さみだれ)て旅の宿
夕風寒く肌冷え渡る。
湯に入りて安全剃刀(かみそり)手に持てば
(ひげ)清まりて若く見ゆるも。
神応寺山の頂きけぶりつつ
夕暮の空郭公(ほととぎす)()く。
宇知麿や鳴球 白嶺 三弁士
公会堂に午後七時ゆく。
終日(ひねもす)の雨も(やうや)く晴れ渡り
弁士勇みて会堂に出づ。
為す事も無くて一日を暮らす身も
何処(どこ)とはなしに心せはしき。
佐賀淑子(よしこ)(ともへ)御前も打ちつれて
講演聴かんと会堂にゆく。
黄昏(たそが)れて電灯の下に只一人
国を思ひてつく吐息かな。
なんと無く心せはしき夕べかな
為すべき今日の品は為けれど。
高知支部始め大洲に到るまで
随行されたり石丸神使は。
遥々(はるばる)と海原渡り別府より
土井分所長大洲に出迎ふ。
時々に地方の人士(おとな)ひ来たり
吾に面接求めけるかな。
雨止みて風は無けれど大空は
黒雲の幕深く(おほ)へり。
光善(みつよし)終日(ひねもす)天国旅行して
夕方眼(こす)りてかへれり。
大洲町助役(あたらし)金吾氏黄昏(たそが)れて
吾仮の宿訪ね来にけり。
続々と講演会に詰めかくる
人の足音しげくなりけり。
只一人机にあれば声もなく
蚊の舞ひ来たりて足を刺したり。
婦人連数人夕べ訪づれて
短冊(たんざく)をば(もら)ひ帰りぬ。
今晩の講演会は盛況と
某氏ひそかに報じ来たれり。
珍らしく八重野子(まで)も講演を
聴かんと友枝子(とも)なひてゆく。
鰹節(かつをぶし)にせられちや困ると味のよい
言葉に人を吸ひつけるなり。
細い目のナイスを見れば(おのづ)から
吾眼まで細くなりゆく。
二名(ふたな)島愛媛のそばに渡り来て
悩みの種のふえにけるかな。
神南山かかりし雲は晴れぬれど
心にかかるは君の消息。
乱れ髪かき上げ(なが)らます鏡
うつる姿に君思ふかな。
君なくばこの黒髪をふつつりと
切りすてモダンガールとならむ。
小夜(さよ)ふけて淋しきままに君恋ふる
窓に聞ゆる時鳥(ほととぎす)かな。
十六夜(いざよひ)の月は御空に有り(なが)
逢はむすべなき今宵淋しも。
瀬戸海の鏡に浮かぶ島々を
うつして君が家土産にせむ。
(なみ)なぎし瀬戸の海原眺むれば
君と逢ふ夜の吾に似しかな。
上下に月照る海をすべり行く
宇和島丸は神の御舟。
立つ浪の宇和島丸に身をまかせ
君がみ(もと)に帰る楽しさ。
刻々に汝が住む国に近み行く
宇和島丸は縁の船かな。
山川を隔てて待てる人の為
思ひて渡る瀬戸の内海。
(しと)やかに風吹く瀬戸の海渡り
山川越えて君がり行かむ。
吾船の川口に着くぞ楽しけれ
九年の恋人迎へますやと。
吾船の川口駅に着くなれば
やつかん天窓(あたま)を照して迎へむ。
面白く顔面筋肉活動させ
吾乗る船を待つ人あらむ。
四日目に天恩郷に帰るかと
思へば楽し旅にある吾。
草枕旅にし見たる床の花の
さゆれに君のまぼろしは浮く。
恋の歌あまり沢山書かされて
吾恋人のまぼろしに浮く。
旅まくら夢は汽笛に破れけり
花なる君と語りし刹那(せつな)に。
しとしとと降る五月雨(さみだれ)の音聞けば
忍び音になく恋に似しかな。
大空にまたたく星の影みれば
恋しき君の瞳にも似し。
恋人の吾を尋ねて車井の
音ばかりなる夕べ淋しき。
目もとにて物言ふさへも(かた)かりき
右と左に恋人ある夜は。
恋人を(しの)びてつづる玉章(たまづさ)
机に落つる火虫なやまし。
ふくらみし(その)黒髪よその瞳
その白き歯に吾魂はとぶ。
(たに)川のかじかの声も君なくば
耳にするさへ物()かりけり。
淡雪の若やる胸にいだかれて
玉手さしまく夢を見しかな。
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