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五月十九日 於高松市紫雲閣

インフォメーション
題名:5月19日 於高松市紫雲閣 著者:月の家(出口王仁三郎)
ページ:148 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-08-19 19:28:05 OBC :B117500c15
朝晴れの空に風無く陽は照りて
庭の(おもて)嫩葉(わかば)光れり。
朝八時小豆(せうど)ケ島に渡らんと
近侍子荷物の用意にかかる。
 午前八時三十分自動車にて高松港桟橋に向ふ。宣使、信徒(まめひと)十数名既に先着、吾一行の到るを待てり。船は一百五十三(トン)正宗丸にして桟橋に横たはれり。小豆島よりは中塚(くめ)之助氏態々(わざわざ)迎ひに来る。一行五人の外に宣伝使稲村清国、広瀬広義(ひろよし)氏を加へて八人一等室に入る。他に一人の相客も無く、船中は実に水入らずの航海にして安全此の上なく、縮緬(ちりめん)(じわ)()うな平静なる瀬戸の海原に散在せる島々の風光(こと)に珍らしく、左手(ゆんで)の海面には大槌 小槌 豊島 女木島 男木島などあり。右手には屋島 大島 小島等数限りなく島かげ静に浮べる中を、真一文字に切つて行く正宗丸の早業、()に壮快の気分漂ふ。船は一時間余にして()(しやう)小豆島の西端部の前島のことだと思われる。小豆島の本島とは土渕海峡(川のように細い)を挟んで二つの島に分かれている。にさしかかる。山頂には大黒の坐したる如き御影の巨岩小瀬地区の重岩(かさねいわ)のことだと思われる。屹立(きつりつ)して天を仰ぎ見る(さま)荘厳の気に打たる。土の港に入るや、信徒(まめひと)数名桟橋に出迎ふ。此処より自動車に依りて永代橋土渕海峡に架かる橋。を渡れば小豆島の本島となる。風光清き山野を渡りて入部(にふべ)現・香川県小豆郡小豆島町蒲生入部の支部に入る。
 入部の支部長中塚氏の邸宅は、余程の旧家と見えて、庭樹は何れも古く苔()し飛石又青苔(せいたい)に包まれて雅趣()とも深し。白藤の棚見事なれども花は(すで)に散り果て、(わづか)(しほ)れし花房の垂下して盛りの頃を(しの)ばしむ。小雀の鳴く声、家鶏(かけ)の声、清く聞えて雑音なく、さながら島国の仙境をしのばしむ。(かづら)の巻ける石灯籠や、蘇鉄の老樹なぞ殊に床しみあり。
百五十三(トン)正宗丸に乗り
高松港をあとに進みぬ。
玉藻(たまも)城水に浮びて五剣山
大空高く(さや)を払へり。
五剣山雲に抜き出で玉藻城
清く浮べる瀬戸の内海。
風光の清き海原渡りつつ
独り家守る妹思ふかな。
海の面に浮べる玉藻の城の影
龍宮館の(しの)ばるるかな。
瀬戸海の(たへ)なる景色吾ひとり
見るにつけても汝思ふかな。
この景色花にもまさる君許りに
うつし見せたし瀬戸内の旅。
刻々に変りて清き島かげの
妙なる景色に(たま)は溶け入る。
島影は数限りなく水の面に
浮びて清き瀬戸の海かな。
男木(をぎ)の島灯台白く見え()めて
小豆(せうど)の島の影近みけり。
豊島山神子(みこ)の浜辺のその辺り
赤土(あかつち)の岡並びて美はし。
()の庄の島の頂上ながむれば
大黒に似し御影岩立つ。
土の庄の浜にまめ人吾待ちて
迎ふる見れば嬉しかりけり。
中塚氏やかたに入りて苔のむす
庭の面にあこがれにけり。
神前の拝礼すみて別館に
休らふ今日の心長閑(のど)けし。
風清く陽は(うらら)かに照りはえて
小鳥長閑に庭の面に唄ふ。
 その昔応神の御門(みかど)の御手植になりしと伝ふる北山村の老柏の樹は、周囲四丈七尺4丈7尺は約14.2メートルに余り、枝葉繁茂(はんも)して広く地上に影を移し、太麻(をあさやま)山は峰高く樹木青く、聖観音を祀る瀧水寺は八合目あたりに(いらか)輝き風光また絶佳なり。帰途、八幡(やはた)坂の路傍に立てる千年の老樹、船繋ぎ松の姿また面白く色深し。
 午後二時過ぐる頃入部(にうべ)より自動車に運ばれて船に乗るべき処に到る。左右の沿道塩田広く開かれて国の秀いよいよ高し。岡山より帰りしと云ふ正宗丸は既に桟橋に横たはりて吾を待つに似たり。二時半といふに船はいよいよ海岸を離れて干潮(ひきしほ)の海面を(すべ)()めたり。風凪ぎて陽清く錦鱗の波の(むしろ)を、汽笛の声を合図に揺ぎ出づ。
 金刀比羅(ことひら)や弓の屋島の雄々しき姿、島山の段々畠は麦生(むぎふ)(よろひ)をかざりて立ち波を切り行く正宗丸は勢強く薙ぎて走せ、大槌小槌の島かげに打つ白浪や、豊島山神子(みこ)の浜辺に立ち舞ふ海鳥、白き翼を(ひるがへ)して青海原(あおうなばら)を渡る瀬戸内海の風光いとも珍らし。
 風は笛吹き虚空に流れ、小波(さざなみ)踊りて天に輝き魚勇む。鯨の浮けるが如き青ずみし島々点々魚鱗の浪に坐す。此の間を吾正宗丸は浪の切れ味面白く、百の小島の島かげに遊ぶ(かもめ)の羽根白く、波間にきらめく日の光、神のめぐみも深海の、底ひも潮の上に清く輝き渡る。真帆片帆行き交ふ漁船の数々も、国へ土産の一つぞと思ふも楽し今日の旅かな。
 午後の四時高松の港につく。出迎へのまめ人桟橋に立ちて、各自にハンカチ扇子なぞ振る。
(うる)はしき海原渡り今此処に
帰り来にけり高松港内。
正宗丸窓を透かしてながめたる
(たへ)なる景色和歌によみてむ。
五剣山一剣二剣と抜きとられ
不二三(ふじさん)剣の山となる見ゆ。
その昔平家の敗れし壇の浦の
(かに)さへ道は横行かぬとぞ聞く。
何処(いづこ)より見るも屋島のおもかげは
(わら)ぶきの()に良くも似てけり。
海原に浮べる島山麦畠の
黄ばみつ夕陽に映ゆる(すが)しさ。
 ○ある人の雄猛(をたけ)びを見てよめる
正宗丸高松港に近づきて
副守又なく勇み出したり。
 ○紫雲閣に帰りてよめる
紫雲閣帰りて見れば門前に
まめ人数多立ちて迎へり。
小雀の声さはやかに老松の
(こずゑ)に集ひて吾(さち)唄ふ。
天恩郷御田村(みたむら)主事補ゆ色々と
各地に於ける消息きたる。
新居浜(にゐはま)ゆ二泊せよとの急電を
送りきにけり紫雲閣まで。
 ○伊都能売(いづのめ)会和歌
 兼題 早苗
御手づから早苗とらして国民に
御範示させ玉ふ大君。
身も魂も清めすまして主基の田に
さなえ植ゑつつ唄ふ早乙女(さをとめ)
五月雨の煙る田の面に早乙女が
降り立ち早苗植うる(すが)しさ。
日の本の国の富貴を植ゑつける
早乙女姿の勇ましきかな。
悠基主基の斎田にさ乙女早苗さす
清き姿に晴るる五月雨。
雲低ふ田の面にたれて雨けぶる
中に聞ゆる早乙女の唄。
早苗とる乙女の姿打ちながめ
遠き神代を(しの)びけるかな。
村長の娘も共に田に降りて
早苗さすかな五月雨の空。
不二(ふじ)の山登りて早苗植ゑつける
裾野の乙女の色白きかな。
白妙の不二の影浮くユキの田に
早苗さし行く白魚の御手。
晴れ渡る水田にうつる不二の峰
白きはユキの苗さす早乙女(さをとめ)
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