霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 鷹宮(たかみや)殿(どの)〔一三二四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第2篇 夢幻楼閣 よみ(新仮名遣い):むげんろうかく
章:第9章 鷹宮殿 よみ(新仮名遣い):たかみやどの 通し章番号:1324
口述日:1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫は妖幻坊を杢助だと固く信じていた。そして金剛不壊の如意宝珠の力によって、このような広大な楼閣ができたのだと思っている。
高姫は、これほど神力がある男であれば、他の美人に取られて自分がお払い箱になる可能性があると心配し、如意宝珠の玉を奪ってふたたび飲み込み、杢助の喉首を抑えてしまおうと思いながら妖幻坊についていく。
妖幻坊は高姫を大きな鏡の前に導いた。そこには十七八才の妙齢の美人が、立派な錦の衣服を着流して立っていた。高姫はその美人に嫉妬するが、妖幻坊は、これは如意宝珠の神力で若返らせた高姫自身の姿だと高姫に取り入った。
高姫は若いころの名前・高宮姫に改名し、妖幻坊は高宮彦と名乗ることになった。そして高姫に豪華な一室をあてがうと、後で腰元を付けると言い残して奥殿へ消えて行った。
妖魅は変相するときは非常に苦しいので、ときどき人に見られないところで体を休める必要があるのであった。高姫の居室と見えたのは、その実、浮木の森の大きな狸穴であった。妖幻坊は奥の楠の根元の大洞穴の中に身を隠し、寝てしまった。
妖幻坊は自分の眷属・幻相坊と幻魔坊を美しい少女に変装させて、高子・宮子として高姫の侍女としてあてがった。高姫は二人の美しさに嫉妬を覚えたが、高子と宮子が自分たちは如意宝珠の玉から生まれた火と水の霊だと説明し、人間ではないことがわかると機嫌を直した。
高姫は二人を呼び入れた。高子と宮子はぱっと室内に入って左右から高姫に飛びついた。高子は火のように熱く、宮子は水のように冷たかった。高姫は寒熱に苦しんで、たちまちその場に倒れてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-05-24 12:18:25 文字数:4386 OBC :rm5109
愛善世界社版:135頁 八幡書店版:第9輯 314頁 修補版: 校定版:138頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は妖幻坊(えうげんばう)を何処(どこ)までも杢助(もくすけ)と固(かた)く信(しん)じてゐた。002而(しか)して金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の力(ちから)に依(よ)つて、003かかる広大(くわうだい)なる楼閣(ろうかく)が出来(でき)たのだと思(おも)つてゐる。
004高姫『ああ、005私(わたし)が秋山彦(あきやまひこ)の館(やかた)で腹(はら)へ呑(の)んだ時(とき)には、006これだけ威力(ゐりよく)のあるものとは思(おも)はなかつた。007ヤツパリ私(わたし)は神力(しんりき)が足(た)らなかつたのだなア。008小人(せうじん)玉(たま)を抱(いだ)いて罪(つみ)ありといふ事(こと)は私(わたし)の事(こと)か、009同(おな)じ玉(たま)でも杢助(もくすけ)さまがお使(つか)ひになると、010こんなに立派(りつぱ)に其(その)神力(しんりき)が現(あら)はれるのだ。011阿呆(あはう)と鋏(はさみ)は使(つか)ひやうで切(き)れるといふ事(こと)がある。012使手(つかひて)がよければ阿呆(あはう)も間(ま)に合(あ)ふ、013竹光(たけみつ)の刀(かたな)でも正宗(まさむね)に優(まさ)るものだ。014ヤア私(わたし)もこれから改心(かいしん)をしませう……イヤ改悪(かいあく)をしませう。015杢助(もくすけ)さまに使(つか)はれる如意(によい)宝珠(ほつしゆ)は仕合(しあは)せだなア。016併(しか)しながら、017是(これ)だけ自由(じいう)自在(じざい)に神力(しんりき)を持(も)つてゐる男(をとこ)だから、018天下(てんか)の美人(びじん)は此(この)神力(しんりき)を見(み)たならば、019キツと惚(ほ)れるであらう。020さうなつた時(とき)は年(とし)の寄(よ)つた此(この)高姫(たかひめ)は、021折角(せつかく)結構(けつこう)な楼閣(ろうかく)に住(す)みながら、022お払(はら)ひ箱(ばこ)になつてはつまらない。023どうかして如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を杢助(もくすけ)さまの隙(すき)を伺(うかが)つて吾(わが)懐(ふところ)に入(い)れるか、024但(ただし)は呑込(のみこ)んで了(しま)つて、025まさかの時(とき)の権利(けんり)を握(にぎ)り、026杢助(もくすけ)さまの喉首(のどくび)を押(おさ)へ、027睾丸(きんたま)を握(にぎ)つておかねば、028此(この)高姫(たかひめ)は安全(あんぜん)な生涯(しやうがい)を送(おく)る事(こと)は出来(でき)ぬ。029オオさうだ さうだ、030それが上分別(じやうふんべつ)だ。031鎌(かま)の柄(え)を向(むか)ふに握(にぎ)られて、032こつちが切(き)れる方(はう)を握(にぎ)つてるやうな事(こと)では、033到底(たうてい)生存(せいぞん)競争(きやうそう)の激甚(げきじん)なる世(よ)に立(た)つことは出来(でき)ない。034杢助(もくすけ)さまも偉(えら)い人(ひと)だ、035併(しか)し又(また)女(をんな)にかけてはズルイ男(をとこ)だから、036これからあらむ限(かぎ)りの身(み)だしなみをして、037充分(じうぶん)に蘯(とろ)かしてやらねばならうまい』
038と堅(かた)く決心(けつしん)しながら、039杢助(もくすけ)の後(うしろ)に従(つ)いて行(ゆ)く。040奥殿(おくでん)深(ふか)く進(すす)んで見(み)れば、041金(きん)、042銀(ぎん)、043瑠璃(るり)、044玻璃(はり)、045硨磲(しやこ)、046珊瑚珠(さんごじゆ)等(など)にてちりばめられたる立派(りつぱ)な宝座(ほうざ)がある。047妖幻坊(えうげんばう)は高姫(たかひめ)を顧(かへり)みて、
048妖幻坊の杢助『オイ高(たか)さま、049杢助(もくすけ)の腕前(うでまへ)は分(わか)つたかなア。050サア、051之(これ)からお前(まへ)と俺(おれ)とが此(この)宝座(ほうざ)に、052日々(にちにち)上(のぼ)つて、053万民(ばんみん)の政治(せいぢ)をするのだ、054どうだ、055嬉(うれ)しうはないか』
056高姫『ハイ、057余(あま)りの事(こと)で、058あいた口(くち)がすぼまりませぬ』
059と云(い)ひながら半信(はんしん)半疑(はんぎ)の念(ねん)に打(う)たれ、060宝座(ほうざ)を押(おさ)へて見(み)たり、061柱(はしら)を押(お)して見(み)たり、062足元(あしもと)が若(も)しや草(くさ)ぼうぼうたる田圃(たんぼ)ではあるまいかと、063探(さぐ)つてみたり、064いろいろ雑多(ざつた)と調(しら)べてゐる。065けれども何(ど)うしても疑(うたが)ふ余地(よち)がない。066高姫(たかひめ)はますます笑壺(ゑつぼ)に入(い)り、
067高姫『俄(にはか)に私(わたし)も出世(しゆつせ)したものだ、068三千(さんぜん)世界(せかい)に高姫(たかひめ)位(くらゐ)仕合(しあは)せな者(もの)があらうか、069ヤツパリ義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)のお蔭(かげ)だなア』
070と小声(こごゑ)に言(い)つてゐる。071妖幻坊(えうげんばう)は高姫(たかひめ)の背(せな)を二(ふた)つ三(みつ)つ叩(たた)きながら、
072妖幻坊の杢助『オイ高姫(たかひめ)、073どうだ、074違(ちが)ひますかなア。075蜃気楼(しんきろう)的(てき)城廓(じやうくわく)か、076或(あるひ)は現実(げんじつ)的(てき)城廓(じやうくわく)か、077よくお調(しら)べなさい。078之(これ)でも杢助(もくすけ)の云(い)ふ事(こと)に反(そむ)きますか』
079高姫『イヤ、080モウモウ感心(かんしん)致(いた)しました。081何処(どこ)までも絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を致(いた)しませう』
082妖幻坊の杢助『高姫(たかひめ)、083お前(まへ)の姿(すがた)を一寸(ちよつと)見(み)てみよ、084それそこに玻璃鏡(はりかがみ)が懸(かか)つてゐる。085其(その)前(まへ)に立(た)つてみなさい』
086と指示(ゆびさ)す。087高姫(たかひめ)は玻璃鏡(はりかがみ)の前(まへ)に現(あら)はれると、088鏡面(きやうめん)には十七八(じふしちはつ)才(さい)の妙齢(めうれい)の美人(びじん)、089金襴(きんらん)綾錦(あやにしき)の立派(りつぱ)な衣服(いふく)を着流(きなが)し、090色(いろ)あくまで白(しろ)く、091頭(かしら)に七宝(しつぱう)の纓絡(えいらく)の垂(た)らした冠(かむり)を戴(いただ)き、092裾(すそ)を一丈(いちぢやう)許(ばか)り後(うしろ)に垂(た)らした美人(びじん)が立(た)つてゐる。093高姫(たかひめ)はハツと驚(おどろ)き、094心(こころ)の中(うち)に思(おも)ふ様(やう)……ハハー、095杢助(もくすけ)さまは腹(はら)の悪(わる)い男(をとこ)だなア。096こんな結構(けつこう)な館(やかた)を持(も)ち、097こんな美人(びじん)をかくまうておき、098私(わたし)のやうな婆(ばば)を、099此処(ここ)へ連(つ)れて来(き)て、100恥(はぢ)をかかし、101悋気(りんき)をささうと企(たく)んでゐるのだらう。102エエ悔(くや)しい……と鏡(かがみ)に映(うつ)つた天女(てんによ)のやうな美人(びじん)に打(う)つてかかる。103妖幻坊(えうげんばう)は高姫(たかひめ)の手(て)をグツと握(にぎ)り、
104妖幻坊の杢助『アハハハハ、105オイ高(たか)ちやま、106あれはお前(まへ)の姿(すがた)だよ。107如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の神力(しんりき)によつて、108三十三(さんじふさん)年(ねん)許(ばか)り元(もと)へ戻(もど)したのだ。109お前(まへ)が十八(じふはち)の時(とき)の姿(すがた)は即(すなは)ちこれだ。110まだ十八(じふはち)の時(とき)は、111こんな立派(りつぱ)な装束(しやうぞく)を着(き)てゐなかつたから別人(べつじん)のやうに見(み)えるが、112これが正真(しやうまつ)の高宮姫(たかみやひめ)時代(じだい)だ。113此(この)杢助(もくすけ)はお前(まへ)の皺(しわ)のよつた現界(げんかい)的(てき)肉体(にくたい)に惚(ほ)れたのぢやない、114霊界(れいかい)で見(み)たお前(まへ)に惚(ほ)れたのだ。115随分(ずいぶん)綺麗(きれい)なものだらう。116それだから、117高(たか)ちやまに杢助(もくすけ)が現(うつつ)をぬかすも無理(むり)ではあるまいがなア。118もしも疑(うたが)はしいと思(おも)ふなら、119お前(まへ)が目(め)を剥(む)けば目(め)を剥(む)く、120口(くち)を開(あ)くれば口(くち)を開(あ)く、121お前(まへ)の姿(すがた)其(その)儘(まま)だから、122一(ひと)つ調(しら)べてみたら何(ど)うだ』
123高姫『イヤもう疑(うたがひ)の余地(よち)はありませぬ。124何(なん)と立派(りつぱ)な美(い)い女(をんな)だこと、125われながら見(み)とれますワ。126之(これ)では高姫(たかひめ)といはずに高宮姫(たかみやひめ)と旧(もと)の名(な)に帰(かへ)りませうか』
127妖幻坊の杢助『ウンさうだ、128高宮姫(たかみやひめ)の方(はう)が、129余程(よほど)優雅(みやび)で崇高(すうかう)で、130何(なん)となく雲上(うんじやう)の人(ひと)のやうに聞(きこ)えて床(ゆか)しいやうだ』
131高姫『それなら、132これから高宮姫(たかみやひめ)と改(あらた)めます。133何卒(どうぞ)杢助(もくすけ)さま、134旧(もと)の名(な)を呼(よ)んで下(くだ)さいや』
135妖幻坊の杢助『ウンよしよし、136就(つ)いては俺(おれ)も杢助(もくすけ)々々(もくすけ)と言(い)はれるのは、137何(なん)だか毘舎(びしや)か首陀(しゆだ)の様(やう)だ。138刹帝利(せつていり)に斉(ひと)しき名(な)をつけねばならうまい……ウン、139お前(まへ)の高宮姫(たかみやひめ)の夫(をつと)だから、140今日(けふ)から高宮彦(たかみやひこ)と改名(かいめい)しよう』
141高姫『それなら高宮彦(たかみやひこ)様(さま)、142何卒(なにとぞ)天地(てんち)に誓(ちか)つて、143どこどこまでも夫婦(ふうふ)だといふ事(こと)を守(まも)つて下(くだ)さいますなア』
144妖幻坊の杢助『天(てん)に在(あ)つては比翼(ひよく)の鳥(とり)、145地(ち)にあつては連理(れんり)の枝(えだ)、146梅(うめ)に鶯(うぐひす)、147仮令(たとへ)幾万劫(いくまんがふ)の末(すゑ)までも、148忘(わす)れてくれな、149忘(わす)れはせぬぞや。150サアサア之(これ)から其方(そなた)の居間(ゐま)を案内(あんない)致(いた)さう』
151高姫『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います』
152と妖幻坊(えうげんばう)に跟(つ)いて、153ピカピカ光(ひか)る瑪瑙(めなう)の板(いた)を以(もつ)て造(つく)られたる長(なが)い廊下(らうか)を渡(わた)り、154金銀(きんぎん)の色(いろ)をなせる庭園(ていゑん)の樹木(じゆもく)を眺(なが)めながら、155えも言(い)はれぬ美(うる)はしき居間(ゐま)に案内(あんない)された。156高姫(たかひめ)は既(すで)に十八(じふはつ)才(さい)の娘気分(むすめきぶん)になつて居(ゐ)た。
157妖幻坊の杢助『サ、158これが奥様(おくさま)のお居間(ゐま)、159随分(ずいぶん)整頓(せいとん)して居(を)りませうがなア』
160高姫『成程(なるほど)鏡台(きやうだい)から化粧(けしやう)道具(だうぐ)、161絹夜具(きぬやぐ)から絹(きぬ)座布団(ざぶとん)、162金銀(きんぎん)瑪瑙(めなう)の火鉢(ひばち)、163硨磲(しやこ)の脇息(けふそく)、164紫檀(したん)の机(つくゑ)、165黒檀(こくたん)の障子(しやうじ)の骨(ほね)、166玻璃(はり)の瓶(びん)、167白檀(たがやさん)の水屋(みづや)、168何(なに)から何(なに)まで立派(りつぱ)な物(もの)で厶(ござ)いますなア』
169妖幻坊の杢助『お前(まへ)は此(この)城廓(じやうくわく)の城主(じやうしゆ)の奥様(おくさま)だ、170随分(ずいぶん)出世(しゆつせ)をしたものだらう。171之(これ)から高宮彦(たかみやひこ)は自分(じぶん)の居間(ゐま)に行(い)つて休息(きうそく)するから、172其方(そなた)は此処(ここ)で、173今日(けふ)一日(いちじつ)はゆつくりと寛(くつろ)いだがよからう』
174高姫『私(わたし)と一緒(いつしよ)に、175なぜ居(を)つて下(くだ)さりませぬ。176何程(なにほど)立派(りつぱ)でも只(たつた)一人(ひとり)こんな所(ところ)におかれては、177たまらぬぢやありませぬか』
178妖幻坊の杢助『お前(まへ)は義理(ぎり)天上(てんじやう)さまで厶(ござ)るなり、179金毛(きんまう)九尾(きうび)様(さま)も狸(たぬき)、180狼(おほかみ)、181大蛇(をろち)、182蟇(がま)其(その)他(ほか)いろいろのお客(きやく)さまも厶(ござ)るのだから、183別(べつ)に淋(さび)しい事(こと)はなからうに……』
184高姫『ソリヤ居(を)ります。185けれども、186声(こゑ)がするばかりで、187チツトも形(かたち)を現(あら)はしませぬから、188つまりませぬワ』
189妖幻坊の杢助『それなら、190二人(ふたり)程(ほど)腰元(こしもと)を、191後(あと)からつけるやうに取計(とりはか)らつてやる。192こんな立派(りつぱ)な城内(じやうない)に主人(あるじ)となつた者(もの)は、193普通(ふつう)の毘舎(びしや)や首陀(しゆだ)のやうに、194一間(ひとま)に同棲(どうせい)することは体面(たいめん)上(じやう)出来(でき)るものでない。195いざ高宮姫(たかみやひめ)、196ゆつくりなされ、197高宮彦(たかみやひこ)は吾(わが)居間(ゐま)に入(はい)つて、198暫(しばら)く休息(きうそく)を致(いた)す』
199と言(い)ひすてて、200ドアを開(ひら)き、201悠々(いういう)として、202奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み入(い)る。
203 高宮姫(たかみやひめ)は声(こゑ)を限(かぎ)りに、
204高姫『モシ杢助(もくすけ)さま、205モウ一言(ひとこと)お尋(たづ)ね致(いた)したい事(こと)が厶(ござ)います。206此(この)お城(しろ)は何(なん)と云(い)ひますか』
207 妖幻坊(えうげんばう)は後(あと)ふり向(む)いて、
208妖幻坊の杢助『ここは今(いま)まで鶏頭城(けいとうじやう)と申(まを)したが、209今日(けふ)より改(あらた)めて高宮城(たかみやじやう)と命名(めいめい)致(いた)す』
210高姫『ハイ、211有難(ありがた)う厶(ござ)いました。212高宮城(たかみやじやう)に高宮彦(たかみやひこ)、213高宮姫(たかみやひめ)、214何(なん)とゆかしい名(な)で厶(ござ)いますな、215ホホホホ』
216 妖幻坊(えうげんばう)は、
217妖幻坊の杢助『左様(さやう)なら』
218と云(い)ひすて、219ドンドンと奥(おく)に入(はい)つた。
220 すべて妖魅(えうみ)は変相(へんさう)する時(とき)は非常(ひじやう)に苦(くる)しいものである。221それ故(ゆゑ)時々(ときどき)人(ひと)に見(み)られない所(ところ)で体(からだ)を休(やす)める必要(ひつえう)がある。222高姫(たかひめ)の今(いま)入(はい)つて居(を)つた一間(ひとま)は、223其(その)実(じつ)浮木(うきき)の森(もり)の可(か)なり大(おほ)きな狸穴(まみあな)であつた。224妖幻坊(えうげんばう)はモ一(ひと)つ奥(おく)の楠(くす)の根元(ねもと)の大洞穴(おほほらあな)の中(なか)に身(み)を隠(かく)し、225他愛(たあい)もなく寝(ね)て了(しま)つたのである。
226 妖幻坊(えうげんばう)には幻相坊(げんさうばう)、227幻魔坊(げんまばう)といふ二人(ふたり)の眷属(けんぞく)があつた。228而(しか)して幻相坊(げんさうばう)は火(ひ)の術(じゆつ)をよく使(つか)ひ、229幻魔坊(げんまばう)は水(みづ)の術(じゆつ)を使(つか)ふに長(ちやう)じてゐた。230又(また)妖幻坊(えうげんばう)は幻術(げんじゆつ)を以(もつ)て、231一(いち)時(じ)に数百(すうひやく)数千(すうせん)の軍人(ぐんじん)を現(あら)はしたり、232妙齢(めうれい)の美人(びじん)を現(あら)はしたり、233或(ある)時(とき)は老翁(らうをう)、234或(ある)時(とき)は老婆(らうば)を忽(たちま)ち現(あら)はして、235世人(せじん)を騙(たばか)る事(こと)を楽(たの)しみとしてゐた。236而(しか)して妖幻坊(えうげんばう)は日々(にちにち)獣(けだもの)の肉(にく)を喰(く)はなくては、237体(からだ)がもえて仕方(しかた)がなかつた。238又(また)時々(ときどき)人肉(じんにく)をも、239殊更(ことさら)喜(よろこ)んで喰(く)ふのである。
240 高姫(たかひめ)は一人(ひとり)美(うる)はしき座敷(ざしき)を与(あた)へられた事(こと)を非常(ひじやう)に喜(よろこ)び、241知(し)らず知(し)らずに鼻唄(はなうた)さへ歌(うた)つてゐた。242そこへドアを開(ひら)ひて、243淑(しと)やかに十四五(じふしご)才(さい)の女(をんな)が二人(ふたり)、244白綸子(しろりんず)の着物(きもの)に紫縮緬(むらさきちりめん)の袴(はかま)を穿(うが)ち、245美(うる)はしき漆(うるし)のやうな下(さ)げ髪(がみ)を紫(むらさき)の紐(ひも)にてしばり、246上(うへ)に桃色(ももいろ)の㎏衣(かくい)を着(き)て、
247高子『御免(ごめん)なさいませ、248奥様(おくさま)のお居間(ゐま)はここで厶(ござ)いますか。249私(わたし)は高子(たかこ)と申(まを)します、250妹(いもうと)は宮子(みやこ)と申(まを)します。251今日(けふ)から高宮彦(たかみやひこ)様(さま)のお指図(さしづ)によりまして、252姫(ひめ)様(さま)のお小間使(こまづかひ)を仰(おほ)せ付(つ)けられました。253何分(なにぶん)不束(ふつつか)な者(もの)で厶(ござ)いますれば、254何卒(どうぞ)叱(しか)つてお使(つか)ひ下(くだ)さいませ』
255と優(やさ)しい手(て)をついて、256頭(あたま)を下(さ)げ挨拶(あいさつ)をする。257高姫(たかひめ)は二人(ふたり)の姿(すがた)を見(み)て、
258高姫『ああ何(なん)と、259揃(そろ)ひも揃(そろ)つて美(うつく)しい娘(むすめ)だなア。260併(しか)しながら今(いま)はまだ年(とし)が若(わか)くて大丈夫(だいぢやうぶ)だが、261此(この)女(をんな)が二三(にさん)年(ねん)もたつたら、262丁度(ちやうど)私(わたし)のやうな姿(すがた)になるだらう。263そした時(とき)は、264又(また)杢助(もくすけ)さまが変(へん)な心(こころ)を起(おこ)しはすまいか』
265と思(おも)ふと、266俄(にはか)に此(この)二人(ふたり)が、267何処(どこ)ともなく憎(にく)らしいやうな気(き)になつて了(しま)つた。268高姫(たかひめ)は舌長(したなが)に、
269高姫『ハイ、270お前(まへ)は高宮彦(たかみやひこ)さまの身内(みうち)の者(もの)か、271但(ただし)は、272どつからか頼(たの)まれて御(ご)奉公(ほうこう)にあがつてゐるのか、273それが聞(き)かして欲(ほ)しい、274其(その)上(うへ)でお世話(せわ)になりませう』
275高子(たかこ)『ハイ、276妾(わらは)は父(ちち)もなければ母(はは)も厶(ござ)いませぬ』
277高姫『父母(ふぼ)もない子(こ)が何処(どこ)にあるものか、278ハハー、279さうすると、280お前(まへ)は捨児(すてご)だなア。281そして宮子(みやこ)、282お前(まへ)の父母(ふぼ)は何(なん)と云(い)ふかな』
283宮子『ハイ、284妾(わらは)も両親(りやうしん)が厶(ござ)いませぬ』
285高姫『両親(りやうしん)の分(わか)らぬやうな子供(こども)は要(い)りませぬ。286何処(どこ)の馬(うま)の骨(ほね)か牛(うし)の骨(ほね)か分(わか)らぬ、287女(あま)つちよを、288ヘン、289此(この)素性(すじやう)の高(たか)き高宮姫(たかみやひめ)の、290お小間使(こまづかひ)なんて、291高宮彦(たかみやひこ)さまも余(あま)りだ。292コレ両人(りやうにん)、293こちらに用(よう)はないから、294トツトと帰(かへ)つて下(くだ)さい。295そして此(この)城内(じやうない)には、296高宮姫(たかみやひめ)が今日(けふ)限(かぎ)りおきませぬぞや』
297高子(たかこ)『左様(さやう)なれば、298姫(ひめ)様(さま)、299是非(ぜひ)が厶(ござ)いませぬ。300妾(わらは)と妹(いもうと)が両親(りやうしん)がないと云(い)つたのは外(ほか)でも厶(ござ)いませぬ、301実(じつ)は如意(によい)宝珠(ほつしゆ)から生(うま)れた者(もの)で厶(ござ)います。302妾(わらは)は火(ひ)を守護(しゆご)し、303妹(いもうと)は水(みづ)を守護(しゆご)する霊(みたま)で厶(ござ)います。304貴女(あなた)は火(ひ)と水(みづ)がいらないとみえますな。305左様(さやう)なれば仰(おほせ)に従(したが)ひ帰(かへ)ります』
306と足早(あしばや)に室外(しつぐわい)へ出(で)ようとする。307高姫(たかひめ)は驚(おどろ)いて、
308高姫『マママ待(ま)つて下(くだ)さい、309ヤ、310小母(をば)さまが悪(わる)かつた。311つい何(ど)う仰有(おつしや)るかと思(おも)うて、312お前(まへ)さまの気(き)をひいてみたのだ。313潮干(しほひる)潮満(しほみつ)の、314お前(まへ)は玉(たま)だつたな。315どうもそれに違(ちが)ひないと思(おも)つたけれど、316それとはなしに小母(をば)さまが探(さぐ)つて見(み)たのだから、317何卒(どうぞ)悪(わる)く思(おも)つて下(くだ)さるな』
318高子(たかこ)『ハイ、319有難(ありがた)う厶(ござ)います、320併(しか)しながら姫(ひめ)様(さま)から一遍(いつぺん)追(お)つ立(た)てをくつたので御座(ござ)いますから、321私(わたし)は火(ひ)で厶(ござ)います。322何卒(どうぞ)お暇(ひま)を下(くだ)さいませ。323なア宮(みや)ちやま、324お前(まへ)さまだつて、325さうでせうね』
326宮子(みやこ)『私(わたし)小母(をば)さまには追(お)ひ出(だ)され、327小父(をぢ)さまの所(ところ)へ行(い)つては叱(しか)られちや、328立(た)つ瀬(せ)がありませぬワ。329私(わたし)は水(みづ)の精(せい)だから、330川(かは)の瀬(せ)へでも行(い)つて流(なが)れませうよ』
331高姫『コレコレ、332高(たか)さま、333宮(みや)さま、334何卒(どうぞ)、335さう言(い)はずに、336私(わたし)の所(ところ)に居(を)つて下(くだ)さい。337余(あま)り気儘(きまま)な事(こと)を云(い)つたと云(い)つて、338高宮彦(たかみやひこ)さまに此(この)小母(をば)さまも叱(しか)られる。339又(また)お前(まへ)たちも叱(しか)られちや大変(たいへん)だぜ。340サアサア、341小母(をば)さまが大切(たいせつ)にして上(あ)げるから、342機嫌(きげん)を直(なほ)してくるのだよ』
343 二人(ふたり)は、
344高子、宮子『アーイ』
345と細(ほそ)い涼(すず)しい声(こゑ)を揃(そろ)へて云(い)ふかと思(おも)へば、346光線(くわうせん)の如(ごと)くパツと室内(しつない)に入(い)り来(きた)り、347右(みぎ)と左(ひだり)から高姫(たかひめ)に飛(と)び付(つ)いて、
348高子、宮子『小母(をば)さま、349姫(ひめ)さま』
350と嬉(うれ)しさうに叫(さけ)んだ。351高子(たかこ)は火(ひ)の如(ごと)く熱(あつ)く、352宮子(みやこ)は水(みづ)の如(ごと)く冷(つめ)たい。353高姫(たかひめ)は火(ひ)と水(みづ)に責(せ)められ、354寒熱(かんねつ)に苦(くる)しんで、355忽(たちま)ち其(その)場(ば)に目(め)をマハして了(しま)つた。
356(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 松村真澄録)
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