霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 乙女(をとめ)の遊(あそび)〔一三二六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第3篇 鷹魅艶態 よみ(新仮名遣い):ようみえんたい
章:第11章 乙女の遊 よみ(新仮名遣い):おとめのあそび 通し章番号:1326
口述日:1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫は二人の侍女と共に楽しく時を過ごし満悦の折から、立派な衣装に身を包んだ高宮彦が愉快気にやってきた。高宮彦は絹座布団の上にどっかと腰を下ろした。
高姫は、高宮彦の神力によって如意宝珠の分霊である高子と宮子をしたがえて素晴らしい御殿に住むことを得、また自分の姿が若返ったことにお礼を述べた。高宮彦は天極紫微宮の御殿を地上に引き写し、竜宮のもっとも美しいところを海底から引き揚げたのだ、と法螺を吹いている。
高宮彦は、自分たちの栄華を保つためには、三五教やウラナイ教のやつらを一人残らず城中に引き込み、霊肉ともに亡ぼさなければならないと高姫に持ちかけた。そしてもっとも恐ろしい敵として、三五教の主管・素盞嗚尊を挙げ、その配下である東野別命、八島主命、日の出別命、言依別命、天之目一箇命、初稚姫命らの名を挙げた。
高姫は、自ら高子と宮子を引き連れて城門の外で往来の人々を待ち伏せ、若返った美貌と弁舌で残らず城中に引き入れて見せようと悪計を練り、実行すべく場外へ出て行った。
高姫は二人の侍女とともに場外の野に出て、すみれやタンポポを余念なく摘んでいるようにみせかけていた。そこへ旅装束の二人の男が、三五教の宣伝歌を歌いながらやってきた。二人は元バラモン教軍の将軍であり、三五教に改心したランチと片彦であった。
二人はかつて自分たちの軍隊が駐屯していた浮木の森に、いつの間にか立派な都会ができていることを見て驚き、いぶかしんだ。二人は高姫たち三人の乙女を認め、城内の様子を聞き取るべく近づいて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-09-05 17:41:13 文字数:3841 OBC :rm5111
愛善世界社版:163頁 八幡書店版:第9輯 324頁 修補版: 校定版:167頁 普及版:74頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は二人(ふたり)の侍女(じぢよ)と共(とも)に満面(まんめん)笑(ゑみ)を湛(たた)へ、002蓬莱山(ほうらいざん)に行(い)つて無上(むじやう)の歓楽(くわんらく)に酔(よ)ひし如(ごと)く、003恍惚(くわうこつ)として脇息(けふそく)に凭(もた)れ、004わが運(うん)の開(ひら)け口(ぐち)、005宇宙(うちう)一切(いつさい)を手(て)に握(にぎ)るも斯(か)く楽(たの)しくはあるまいと満悦(まんえつ)の折柄(をりから)、006ドアをパツと開(ひら)いて足音(あしおと)高(たか)く入(い)り来(きた)るは、007六角(ろくかく)の金色(きんしよく)燦爛(さんらん)たる冠(かむり)を戴(いただ)いた高宮彦(たかみやひこの)命(みこと)が、008さも愉快気(ゆくわいげ)にやつて来(き)た。009忽(たちま)ち床(とこ)を背(せ)にして、010ムクムクとした厚(あつ)い絹(きぬ)座布団(ざぶとん)の上(うへ)に膝(ひざ)を埋(う)める様(やう)にして坐(すわ)り込(こ)んだ。011高姫(たかひめ)はさも嬉(うれ)しげに媚(こ)びを呈(てい)しながら、
012高姫『これはこれは吾(わが)夫(つま)、013高宮彦(たかみやひこ)様(さま)、014よく吾(わが)居間(ゐま)を訪(と)はせられました。015一(いち)時(じ)千秋(せんしう)の思(おも)ひで、016君(きみ)のお出(い)でを待(ま)ち焦(こが)れて居(を)りました。017嬉(うれ)しう厶(ござ)ります』
018と涙(なみだ)含(ぐ)む。019妖幻坊(えうげんばう)は、
020妖幻坊の杢助『いや高宮姫(たかみやひめ)殿(どの)、021長(なが)らく顔(かほ)も見(み)せず失礼(しつれい)を致(いた)した。022さぞ淋(さび)しかつたであらうな』
023高姫『はい、024幸(さいはひ)に二人(ふたり)の娘(むすめ)が近侍(きんじ)してくれて居(を)りますので、025あまり淋(さび)しいとは存(ぞん)じませぬが、026君(きみ)のお姿(すがた)が見(み)えませぬと、027何処(どこ)とはなしに、028ヤツパリ淋(さび)しう厶(ござ)ります』
029妖幻坊の杢助『アツハハハハハハ、030さうするとヤツパリ此(この)高宮彦(たかみやひこ)が恋(こひ)しいと見(み)えるのう。031や、032さうなくては叶(かな)はぬ事(こと)だ。033斯(か)うして夫(をつと)となり妻(つま)となるも、034昔(むかし)の神代(かみよ)から絶(き)るにきられぬ因縁(いんねん)であらう』
035高姫『尊(たふと)き神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)によりまして、036かかる尊(たふと)き御殿(ごてん)の内(うち)に於(おい)て親子(おやこ)夫婦(ふうふ)の邂逅(めぐりあ)ひ、037実(じつ)にこんな嬉(うれ)しい事(こと)は厶(ござ)りませぬ。038貴方(あなた)の御(ご)雄姿(ゆうし)と云(い)ひ、039高宮姫(たかみやひめ)の若返(わかがへ)りと云(い)ひ、040此(この)金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)と云(い)ひ、041更(さら)に錦上(きんじやう)花(はな)を添(そ)へたる如(ごと)き金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の分霊(ぶんれい)、042高子姫(たかこひめ)、043宮子姫(みやこひめ)二人(ふたり)の美女(びぢよ)、044天極(てんごく)紫微宮(しびきう)の壮観(さうくわん)も竜宮城(りうぐうじやう)の光景(くわうけい)も、045よもやこれ程(ほど)までには厶(ござ)りますまい』
046妖幻坊の杢助『それは、047その筈(はず)だ。048金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の不思議(ふしぎ)の神力(しんりき)にて、049天極(てんきよく)紫微宮(しびきう)の御殿(ごてん)を地上(ちじやう)に引移(ひきうつ)し、050又(また)竜宮(りうぐう)の最(もつと)も美(うつく)しき処(ところ)を、051海底(かいてい)より此処(ここ)に引上(ひきあ)げ建(た)て並(なら)べたる大城廓(だいじやうくわく)、052其(その)中心(ちうしん)の金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)、053曲輪城(まがわじやう)の高宮殿(たかみやでん)、054綺麗(きれい)なのは尤(もつと)もだ、055アハハハハハ』
056高姫『あの杢(もく)……いやいや高宮彦(たかみやひこ)様(さま)、057此(この)城廓(じやうくわく)の広袤(くわうぼう)は何程(なにほど)厶(ござ)りますか』[※第二版ではこのセリフの冒頭に話者名として「高子」と書いてあるが。しかし文脈上「高姫」のセリフではないか?]
058妖幻坊の杢助『うん、059さうだ、060東西(とうざい)が百町(ひやくちやう)、061南北(なんぼく)が百町(ひやくちやう)、062中々(なかなか)以(もつ)て広(ひろ)いものだぞや。063其(その)中心(ちうしん)なる此(この)御殿(ごてん)に於(おい)て、064汝(なんぢ)と両人(りやうにん)、065天下(てんか)を握(にぎ)る愉快(ゆくわい)さは又(また)格別(かくべつ)だ。066併(しか)しながら高宮姫(たかみやひめ)、067よつく聞(き)け、068昨日(きのふ)まではバラモン軍(ぐん)の先鋒隊(せんぽうたい)ランチ、069片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)が屯(たむろ)せる陣営(ぢんえい)の跡(あと)、070彼方(かなた)此方(こなた)に散在(さんざい)し、071見(み)る影(かげ)もなき荒野(あらの)なりしが、072神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の魔法(まはふ)によつて、073田園(でんゑん)山林(さんりん)陋屋(ろうをく)は忽(たちま)ち化(くわ)して花(はな)の都(みやこ)となり、074かく城廓(じやうくわく)を天(てん)より海底(かいてい)より引寄(ひきよ)せ、075天地(てんち)の粋(すゐ)を尽(つく)したる建物(たてもの)は漸(やうや)く建(た)つたれど、076之(これ)より汝(なんぢ)は吾(われ)と力(ちから)を協(あは)せ、077第一(だいいち)吾々(われわれ)が行動(かうどう)を妨(さまた)ぐる三五教(あななひけう)及(およ)びウラナイ教(けう)の奴輩(やつばら)を、078一人(ひとり)も残(のこ)らず此(この)城中(じやうちう)へ手段(てだて)を以(もつ)て引込(ひきこ)み、079霊肉(れいにく)共(とも)に亡(ほろ)ぼさねば、080万劫(まんごふ)末代(まつだい)此(この)栄華(えいぐわ)を保(たも)つ事(こと)は難(むつ)かしい。081最(もつと)も恐(おそ)るべきは三五教(あななひけう)を主管(しゆくわん)致(いた)す素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)だ。082それに従(したが)ふ東野別(あづまのわけの)命(みこと)、083八島主(やしまぬしの)命(みこと)、084日(ひ)の出別(でわけの)命(みこと)、085言依別(ことよりわけの)命(みこと)、086天之(あめの)目一箇(まひとつの)命(みこと)、087初稚姫(はつわかひめの)命(みこと)、088其(その)他(た)沢山(たくさん)あれども、089先(ま)づ吾々(われわれ)が敵(てき)とするは以上(いじやう)の人物(じんぶつ)だ。090それに従(したが)ふ奴輩(やつばら)も一人(ひとり)も残(のこ)らず打亡(うちほろ)ぼさねば、091吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)の大望(たいまう)は成就(じやうじゆ)致(いた)さぬぞや。092高宮姫(たかみやひめ)、093そなたが今後(こんご)採(と)るべき手段(しゆだん)は如何(いかが)で厶(ござ)るか。094それを承(うけたま)はりたいものだ、095アツハハハハハ』
096高姫『もし吾(わが)夫様(つまさま)、097否(いな)吾(わが)君様(きみさま)、098今(いま)となつて左様(さやう)の事(こと)、099お尋(たづ)ねまでも厶(ござ)りませぬ。100妾(わらは)は之(これ)より日々(ひび)此(この)城門(じやうもん)を潜(くぐ)り出(い)で、101二人(ふたり)の娘(むすめ)を引連(ひきつ)れ、102火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の近辺(きんぺん)にて往来(ゆきき)の人(ひと)を待(ま)ち伏(ふ)せ、103此(この)美貌(びばう)と弁舌(べんぜつ)にまかせ、104残(のこ)らず此(この)城内(じやうない)に引(ひ)き入(い)れ帰順(きじゆん)させてやりませう。105必(かなら)ずやお気遣(きづか)ひなさいますな』
106妖幻坊の杢助『ヤ、107出来(でか)した出来(でか)した。108流石(さすが)は高宮姫(たかみやひめ)殿(どの)、109然(しか)らば吾(われ)は奥殿(おくでん)にて休息(きうそく)致(いた)し、110日々(ひび)の神務(しんむ)を見(み)るべければ、111汝(なんぢ)は高子(たかこ)、112宮子(みやこ)を伴(ともな)ひ、113火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の前(まへ)にて往来(ゆきき)のものは云(い)ふに及(およ)ばず、114三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)及(およ)び三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)して斎苑(いそ)の館(やかた)へ参拝(さんぱい)する奴輩(やつばら)を残(のこ)らず引捕(ひつとら)へ、115吾(わが)城内(じやうない)へつれ帰(かへ)られよ』
116高姫『仰(おほ)せにや及(およ)びませう。117高姫(たかひめ)もかく若(わか)やいだ上(うへ)は、118いろいろと力(ちから)を尽(つく)し手段(てだて)を以(もつ)て引(ひ)き寄(よ)せませう、119必(かなら)ずともに御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
120妖幻坊の杢助『いやそれを聞(き)いて安心(あんしん)致(いた)した。121兎角(とかく)浮世(うきよ)は色(いろ)と酒(さけ)、122も一(ひと)つ大切(たいせつ)なものは権勢(けんせい)だ。123何程(なにほど)智者(ちしや)学者(がくしや)と雖(いへど)も、124聖人(せいじん)君子(くんし)と雖(いへど)も、125権勢(けんせい)なければ世(よ)に時(とき)めき渡(わた)る事(こと)は出来(でき)ない。126まづ三五教(あななひけう)を崩壊(ほうくわい)し、127大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)に安心(あんしん)を与(あた)へ奉(たてまつ)らずば、128七千(ななせん)余国(よこく)の月(つき)の国(くに)は云(い)ふに及(およ)ばず、129三千(さんぜん)世界(せかい)は乱麻(らんま)の如(ごと)く乱(みだ)れ、130且(かつ)吾々(われわれ)の悪霊(あくれい)世界(せかい)へ……否(いな)悪霊(あくれい)世界(せかい)が吾々(われわれ)を滅亡(めつぼう)せむと致(いた)すは火(ひ)を睹(み)るよりも明(あきら)かだ。131吾(われ)より先(さき)に進(すす)んで館(やかた)を亡(ほろ)ぼさなくては、132吾(われ)等(ら)は彼(かれ)に亡(ほろ)ぼさるるに至(いた)らむ。133如何(いか)に如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の妙力(めうりき)ありとも、134敵(てき)にも亦(また)一(ひと)つの神宝(しんぱう)あり。135必(かなら)ず油断(ゆだん)なく……いざ之(これ)より初陣(うひぢん)の功名(こうみやう)を現(あら)はすべく出門(しゆつもん)召(め)されよ』
136と常(つね)に変(かは)り言葉(ことば)も荘重(さうちよう)に儼然(げんぜん)として宣(の)り伝(つた)へた。137高姫(たかひめ)は、
138高姫『はい、139承知(しようち)致(いた)しました。140必(かなら)ず手柄(てがら)をしてお目(め)にかけませう。141さア高子(たかこ)、142宮子(みやこ)、143母(はは)についておぢや』
144と錦(にしき)の袖(そで)を間風(まかぜ)にひるがへし、145シヨナ シヨナと身振(みぶ)りしながら裾(すそ)を持(も)ち、146高宮彦(たかみやひこ)に別(わか)れて長廊下(ながらうか)を伝(つた)ひ、147玄関口(げんくわんぐち)より黄金(こがね)の足駄(あしだ)を穿(うが)ち、148浮木(うきき)の森(もり)の火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の麓(ふもと)をさして、149シヨナリ シヨナリと太夫(たいふ)の行列(ぎやうれつ)よろしくにじり行(ゆ)く。
150 高姫(たかひめ)は二人(ふたり)の侍女(じぢよ)と共(とも)に襠衣(うちかけ)を脱(ぬ)ぎ、151火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の下(した)の間(ま)に蔵(しま)ひ置(お)き、152長柄(ながえ)の籠(かご)を各(おのおの)携(たづさ)へて、153菫(すみれ)や蒲公英(たんぽぽ)を余念(よねん)なき態(てい)を粧(よそほ)ひつつ摘(つ)んでゐた。154さうして其処(そこ)に咲(さ)き誇(ほこ)つてる寒椿(かんつばき)の花(はな)の自然(しぜん)に落(お)つるのを眺(なが)めて、155昔(むかし)のアーメニヤ時代(じだい)を思(おも)ひ浮(う)かべ、
 
156高姫『おだやかな
157 初春(はつはる)の
158 小庭(こには)にしよんぼりと
159 乙女(をとめ)の唇(くちびる)の様(やう)な
160 小(ちひ)さき寒椿(かんつばき)
161 滴(したた)るばかりの緑葉(りよくえう)は
162 昨晩(ゆうべ)から雨(あめ)にぬれた
163 病人(びやうにん)の如(ごと)く
164 椿(つばき)の花(はな)は幽(かす)かに慄(ふる)ふ
165 妾(わらは)は今(いま)
166 彼(か)の恋男(こひをとこ)の
167 痛々(いたいた)しい姿(すがた)に
168 悩(なや)まされつつ
169 昔(むかし)を今(いま)に写(うつ)して
170 喘(あへ)いで居(ゐ)るのだ
171 涙(なみだ)ぐましい気分(きぶん)が
172 四辺(あたり)に漂(ただよ)ひ
173 わが小(ちひ)さき胸(むね)に襲(おそ)ひ来(く)る
174 これの椿(つばき)の花(はな)よ
175 吾(われ)の姿(すがた)に
176 わが恋(こひ)の思(おも)ひに似(に)て』
 
177と斯(こ)んな事(こと)を云(い)つてスツカリ十八(じふはち)気分(きぶん)になり、178ありし昔(むかし)を追懐(つゐくわい)して其(その)ローマンスを夢(ゆめ)の如(ごと)く浮(うか)べて椿(つばき)の花(はな)に思(おも)ひを寄(よ)せてゐた。179世(よ)の風波(ふうは)にもまれ、180あらゆる権謀(けんぼう)を弄(ろう)し、181鬼(おに)の如(ごと)き荒男(あらをとこ)を凹(へこ)ませ、182神人(しんじん)をなやませたる高姫(たかひめ)の言葉(ことば)とは、183何(ど)う考(かんが)へても思(おも)はれない程(ほど)の、184あどけなき姿(すがた)になりきつて居(ゐ)た。185されど潜竜(せんりう)淵(ふち)に沈(しづ)むと雖(いへど)も、186一度(ひとたび)風雲(ふううん)に際会(さいくわい)すれば、187天地(てんち)を震撼(しんかん)し、188黒雲(こくうん)を巻(ま)き起(おこ)し、189億兆(おくてう)無数(むすう)の星晨(せいしん)を黒雲(こくうん)の下(もと)に舐(な)め尽(つく)す如(ごと)き執着心(しふちやくしん)と焔(ほのほ)の如(ごと)き弁舌(べんぜつ)は、190遺憾(ゐかん)なく高姫(たかひめ)の老躯(らうく)より迸(ほとばし)るのが不思議(ふしぎ)である。191高姫(たかひめ)があどけなき姿(すがた)になり、192白(しろ)い手(て)を出(だ)して怖(こは)さうに蒲公英(たんぽぽ)を摘(つ)んでゐると、193そこへ蓑笠(みのかさ)を着(つ)け草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)の旅装束(たびしやうぞく)、194金剛杖(こんがうづゑ)を左手(ゆんで)に握(にぎ)り、195宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら進(すす)み来(く)る二人(ふたり)の男(をとこ)があつた。
196(ランチ、片彦)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
197善神(ぜんしん)邪神(じやしん)を立別(たてわ)ける
198此(この)世(よ)を造(つく)り給(たま)ひたる
199国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)は
200天地(あめつち)百(もも)の神人(しんじん)の
201醜(しこ)の罪科(つみとが)一身(いつしん)に
202引受(ひきう)け給(たま)ひ天界(てんかい)の
203天極(てんごく)紫微宮(しびきう)後(あと)にして
204根底(ねそこ)の国(くに)に落(お)ちましぬ
205ああさりながら大神(おほかみ)は
206仁慈(じんじ)無限(むげん)の御心(みこころ)に
207此(この)世(よ)を救(すく)ひ助(たす)けむと
208千々(ちぢ)に心(こころ)を悩(なや)ませつ
209御(おん)身(み)を変(へん)じ遠近(をちこち)と
210彷徨(さまよ)ひ世人(よびと)を守(まも)りつつ
211百(もも)の難(なや)みを苦(く)にもせず
212守(まも)らせ給(たま)ふ有難(ありがた)さ
213バラモン教(けう)に仕(つか)へたる
214吾(われ)はランチの将軍(しやうぐん)ぞ
215吾(われ)は片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)ぞ
216大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を受(う)け
217斎苑(いそ)の館(やかた)に現(あ)れませる
218神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)を
219打亡(うちほろ)ぼして世(よ)の中(なか)の
220曲(まが)をば払(はら)ひ清(きよ)めむと
221数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)引率(ひきつ)れて
222隊伍(たいご)を整(ととの)へ堂々(だうだう)と
223浮木(うきき)の森(もり)や河鹿山(かじかやま)
224進(すす)み来(きた)りし折(をり)もあれ
225三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
226神力(しんりき)無双(むさう)の神人(しんじん)に
227説(と)きつけられて三五(あななひ)の
228誠(まこと)の道(みち)を相悟(あひさと)り
229武装(ぶさう)を棄(す)てて治国(はるくに)の
230別(わけ)の命(みこと)の弟子(でし)となり
231クルスの森(もり)やテームスの
232峠(たうげ)に長(なが)らく足(あし)を止(と)め
233天国(てんごく)浄土(じやうど)の御教(みをしへ)を
234聴聞(ちやうもん)なして人生(じんせい)の
235其(その)本分(ほんぶん)を悟(さと)りしゆ
236吾(わが)信仰(しんかう)はいや固(かた)く
237仮令(たとへ)巨万(きよまん)の黄金(わうごん)も
238天女(てんによ)を欺(あざむ)く美人(びじん)にも
239汚(きたな)き心(こころ)を起(おこ)さざる
240勇猛心(ゆうまうしん)となりにけり
241これぞ全(まつた)く皇神(すめかみ)の
242吾(われ)等(ら)を救(すく)ひ給(たま)はむと
243降(くだ)し給(たま)へる仁愛(じんあい)の
244恵(めぐ)みの雨(あめ)の賜物(たまもの)ぞ
245ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
246御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ
247向(むか)ふの森(もり)を眺(なが)むれば
248印象(いんしやう)深(ふか)き浮木原(うききはら)
249数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)引率(ひきつ)れて
250滞陣(たいぢん)したる馴染(なじみ)の地(ち)
251暫(しばら)く月日(つきひ)を経(ふ)るままに
252うつて変(かは)りしあの様子(やうす)
253如何(いか)なる偉人(ゐじん)の現(あら)はれて
254かくも立派(りつぱ)な都会(とくわい)をば
255造(つく)りしものか、あら不思議(ふしぎ)
256雲表(うんぺう)高(たか)くきらめくは
257大廈(たいか)高楼(かうらう)金銀(きんぎん)の
258甍(いらか)に輝(かがや)く日(ひ)の光(ひかり)
259合点(がてん)の行(ゆ)かぬ此(この)始末(しまつ)
260汝(なんぢ)片彦(かたひこ)宣伝使(せんでんし)
261彼(か)の光景(くわうけい)を何(なん)と見(み)る
262訝(いぶ)かしさよ』と尋(たづ)ぬれば
263片彦(かたひこ)首(くび)をかたげつつ
264口許(くちもと)重(おも)く答(こた)へらく
265『君(きみ)の宣(の)らする其(その)如(ごと)く
266実(げ)にも不思議(ふしぎ)の光景(くわうけい)ぞ
267いざ之(これ)よりは逸早(いちはや)く
268足(あし)を早(はや)めて実否(じつぴ)をば
269調(しら)べて見(み)むか、如何(いか)にぞや』
270反問(はんもん)すればまたランチ
271『如何(いか)にも尤(もつと)も探険(たんけん)』と
272道(みち)を行(ゆ)きつつ語(かた)り合(あ)ひ
273火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の麓(ふもと)まで
274二本(にほん)の杖(つゑ)に地(ち)を叩(たた)き
275しづしづ此処(ここ)に着(つ)きにけり。
276 ランチ、277片彦(かたひこ)両人(りやうにん)は自分(じぶん)が四(し)ケ月(げつ)以前(いぜん)に駐屯(ちゆうとん)してゐた時(とき)の俤(おもかげ)は烟(けむり)の如(ごと)く消(き)え、278得(え)も云(い)はれぬ立派(りつぱ)な城廓(じやうくわく)や市街(しがい)が立並(たちなら)び、279火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)は金色(きんしよく)燦然(さんぜん)として四辺(しへん)を輝(かがや)かして居(ゐ)る。280二人(ふたり)は不思議(ふしぎ)さうに立止(たちど)まり、281目(め)を丸(まる)くしながら無言(むごん)の儘(まま)、282四辺(あたり)キヨロキヨロみつめて居(ゐ)る。283ランチは漸(やうや)く口(くち)を開(ひら)き、
284ランチ『いや片彦(かたひこ)殿(どの)、285何(なん)と不思議(ふしぎ)では厶(ござ)らぬか。286拙者(せつしや)が将軍(しやうぐん)として貴殿(きでん)と共(とも)に陣屋(ぢんや)を構(かま)へし俤(おもかげ)はなく、287殆(ほとん)ど千(せん)年(ねん)の都(みやこ)の如(ごと)き此(この)壮大(さうだい)なる構(かま)へ、288繁華(はんくわ)なる市街(しがい)の櫛比(しつぴ)する有様(ありさま)、289夢(ゆめ)の様(やう)には厶(ござ)らぬか』
290片彦『成程(なるほど)、291貴殿(きでん)の申(まを)さるる通(とほ)り実(じつ)に不思議(ふしぎ)千万(せんばん)で厶(ござ)る。292もしか悪神(あくがみ)等(ら)の悪企(わるだく)みでは厶(ござ)るまいかな。293如何(いか)なる神人(しんじん)と雖(いへど)も、294かくの如(ごと)き事業(じげふ)を短日月(たんじつげつ)に完成(くわんせい)すべしとは思(おも)ひも寄(よ)らぬ。295さてもさても不思議(ふしぎ)の事(こと)よ。296いや、297向(むか)ふの椿(つばき)の木(き)の根元(ねもと)に妙齢(めうれい)の女(をんな)が三(さん)人(にん)、298花(はな)を摘(つ)んでゐる様(やう)です。299彼(か)の女(をんな)を捕(とら)へ、300此(この)城内(じやうない)の様子(やうす)を伺(うかが)つて見(み)ようではありませぬか』
301ランチ『成程(なるほど)、302それも宜(よろ)しからう』
303と云(い)ひながら三(さん)人(にん)の乙女(をとめ)の方(はう)へと歩(ほ)を進(すす)めた。
304 四辺(あたり)は春(はる)めきて、305去年(きよねん)のかたみの枯草(かれくさ)の間(あひだ)から、306青草(あをくさ)の芽霧(めぎり)が細(ほそ)く柔(やはら)かく伸(の)びて居(ゐ)る。307小鳥(ことり)の声(こゑ)は音楽(おんがく)の様(やう)に四辺(あたり)に響(ひび)いて来(き)た。
308(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 北村隆光録)
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