霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 怪獣策(くわいじうさく)〔一三一七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第1篇 霊光照魔 よみ(新仮名遣い):れいこうしょうま
章:第2章 怪獣策 よみ(新仮名遣い):かいじゅうさく 通し章番号:1317
口述日:1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
初と徳は文助に言いつけられて、妖幻坊と高姫のために御馳走をこしらえ、酒に燗をして二人の前に並べた。妖幻坊はお菊に酌を所望したが、お菊は二人をからかうと飛び出して逃げてしまった。
高姫と妖幻坊は、松姫もあまり信用がならず、お菊も簡単には手なずけられそうにないとして、初と徳に酒を飲ませてこちらの手に引き込もうと計画した。
高姫と妖幻坊は、初と徳に酒を飲ませながら、二人をウラナイ教に引き込もうと話を持って行っている。お菊はその様子をそっと窓からのぞいていたが、宣伝歌を歌いだした。お菊は高姫の企みを歌に歌い込み、また杢助と名乗る男は悪魔が化けているのだろうと歌い終わると、さっと逃げてしまった。
妖幻坊と高姫はお菊の歌に懸念を抱くが、また初と徳を取り込みにかかった。高姫は二人を口でちょろまかしている。
妖幻坊の体はにわかにふるえだした。窓の外をちょっと覗いてみると、猛犬が矢のように階段を上り、松姫館の法にすがたを隠した。高姫はアッと驚いて腰を下ろし、妖幻坊も冷や汗をかいて震えおののいていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-08-02 14:07:44 文字数:6712 OBC :rm5102
愛善世界社版:25頁 八幡書店版:第9輯 274頁 修補版: 校定版:26頁 普及版:12頁 初版: ページ備考:
001 初(はつ)、002徳(とく)の両人(りやうにん)は種々(いろいろ)と馳走(ちそう)を拵(こしら)へ、003酒(さけ)を沢山(たくさん)に燗(かん)して二人(ふたり)の前(まへ)に恭(うやうや)しく並(なら)べた。
004初(はつ)『私(わたし)は此(この)お館(やかた)の新役員(しんやくゐん)で厶(ござ)います。005魔我彦(まがひこ)様(さま)にお引立(ひきたて)に預(あづか)りまして、006つい此(この)間(あひだ)から幹部(かんぶ)に選定(せんてい)されました。007今(いま)迄(まで)はウラル教(けう)の信徒(しんと)で厶(ござ)いましたが、008余(あま)り此(この)お館(やかた)にお祀(まつ)りしてある神(かみ)様(さま)の御(ご)威勢(ゐせい)が高(たか)いので、009ついお参(まゐ)りする気(き)になり、010信者(しんじや)として四五(しご)日(にち)籠(こも)つてる中(うち)、011抜擢(ばつてき)されまして、012今(いま)では魔我彦(まがひこ)様(さま)の御用(ごよう)を聞(き)いて居(を)ります。013炊事(すゐじ)なんかするやうな地位(ちゐ)では厶(ござ)いませぬが、014今日(けふ)は特別(とくべつ)を以(もつ)て、015文助(ぶんすけ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)により、016料理法(れうりはふ)の粋(すゐ)を尽(つく)して拵(こしら)へて参(まゐ)りました。017どうでお口(くち)には合(あ)ひますまいが、018何卒(どうぞ)一(ひと)つ召上(めしあが)つて下(くだ)さいますやう御(お)願(ねが)ひ致(いた)します。019たまたまのお越(こ)し故(ゆゑ)、020可成(なるべく)山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を以(もつ)て献立(こんだて)がしたいので厶(ござ)いますが、021余(あま)り俄(には)かのお出(いで)で材料(ざいれう)が欠乏(けつぼう)致(いた)し不都合(ふつがふ)で厶(ござ)います』
022高姫(たかひめ)『ヤ、023お前(まへ)は魔我彦(まがひこ)の家来(けらい)かな、024成程(なるほど)、025下(さが)り眉毛(まゆげ)の、026一寸(ちよつと)面白(おもしろ)い顔(かほ)だな。027之(これ)から此(この)高姫(たかひめ)が此処(ここ)の教主(けうしゆ)だから、028其(その)積(つも)りで居(を)つて下(くだ)さい。029そしてここの信者(しんじや)は幾(いく)ら程(ほど)あるかな』
030初『ヘーお初(はつ)にお目(め)にかかつて、031顔(かほ)の批評(ひひやう)までして頂(いただ)きまして、032イヤもう感服(かんぷく)致(いた)しました。033まだ新任(しんにん)早々(さうさう)の事(こと)で、034ハツキリは分(わか)りませぬが、035トツ百(ぴやく)ばかり、036あるとか、037ないとか言(い)ふことで厶(ござ)います。038魔我彦(まがひこ)さまも、039この調子(てうし)なら、040今(いま)にパツ百(ぴやく)人(にん)ほど殖(ふ)えるだらうと申(まを)して居(を)りました。041貴女(あなた)は噂(うはさ)に……イ……高(たか)き、042ダカ姫(ひめ)さまで厶(ござ)いますかな。043どうもよくお出(い)で下(くだ)さいました。044そして立派(りつぱ)な男様(をとこさま)は貴女(あなた)様(さま)の御(ご)主人(しゆじん)でゐらせられますか、045どうも御(ご)夫婦(ふうふ)打揃(うちそろ)ひ、046御(ご)出張(しゆつちやう)下(くだ)さいました段(だん)、047やつがれ身(み)にとりまして、048恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じ奉(たてまつ)りまする』
049高姫『何(なん)と面白(おもしろ)い男(をとこ)だなア、050ヤ御(ご)馳走(ちそう)さま、051これからお腹(なか)もすいたなり、052一寸(ちよつと)くたぶれたからゆつくりと頂(いただ)きませう』
053初『私(わたし)で宜(よろ)しう厶(ござ)いますれば、054一寸(ちよつと)お酌(しやく)をさして頂(いただ)きませうかな。055私(わたし)も余(あま)り、056飲(の)めぬ口(くち)でも厶(ござ)いませぬから……』
057高姫『ヤ、058結構(けつこう)で厶(ござ)います、059何(いづ)れ用(よう)があつたら、060此(この)鈴(すず)をふりますから来(き)て下(くだ)さい』
061初『承知(しようち)致(いた)しました、062それぢやお菊(きく)さまにお給仕(きふじ)をして貰(もら)ひませう』
063お菊(きく)『コレ初(はつ)さま、064厭(いや)だよ、065誰(たれ)がこんな小父(をぢ)さまや小母(をば)さまのお給仕(きふじ)するものかい。066私(わたし)がお給仕(きふじ)するのは万(まん)さまだよ。067イヒヒヒ、068すみませぬなア、069お構(かま)ひさま』
070妖幻(えうげん)『オイお菊(きく)とやら、071此(この)杢助(もくすけ)に一(ひと)つ注(つ)いではくれまいか。072お前(まへ)の若(わか)い手(て)で注(つ)いで貰(もら)ふのは、073余(あま)り気持(きもち)が悪(わる)うはない。074高姫(たかひめ)さまといふ天下一(てんかいち)の別嬪(べつぴん)さまがついて厶(ござ)るのだから可(い)いやうなものの、075又(また)変(かは)つたのも、076此方(こちら)の気(き)が変(かは)つていいかも知(し)れない』
077お菊『いやですよ、078之(これ)からお千代(ちよ)さまと遊(あそ)んで来(こ)なならぬワ、079待合(まちあひ)の酌婦(しやくふ)ぢやあるまいし……御(ご)夫婦(ふうふ)さま仲(なか)よう、080シンネコでお楽(たの)しみ……御免(ごめん)よ』
081と逃(に)げるやうにして、082腮(あご)を三(み)つ四(よ)つしやくりながら、083肩(かた)をあげ首(くび)をすくめ、084両手(りやうて)を前(まへ)へパツと開(ひら)き揃(そろ)へ、
085お菊『イツヒヒヒ』
086と胴(どう)までしやくつて、087飛出(とびだ)して了(しま)つた。088後(あと)に二人(ふたり)はイチヤイチヤ言(い)ひながら、089酒(さけ)を汲(く)みかはし始(はじ)めた。
090高姫(たかひめ)『コレ杢助(もくすけ)さま、091松姫(まつひめ)だつて、092文助(ぶんすけ)だつて、093中々(なかなか)さう易々(やすやす)と服従(ふくじゆう)するものぢやありませぬよ。094口先(くちさき)では立派(りつぱ)な事(こと)言(い)つて居(を)つても、095心(こころ)の底(そこ)は容易(ようい)に帰順(きじゆん)致(いた)しませぬよ。096あのお菊(きく)だつて、097中々(なかなか)手(て)に合(あ)はぬぢやありませぬか、098此奴(こいつ)は一(ひと)つ、099何(なん)とか工夫(くふう)をせなくちやなりませぬよ』
100妖幻坊の杢助『兎(と)も角(かく)、101あの初(はつ)と徳(とく)とを此処(ここ)へ呼(よ)んで、102酒(さけ)でも飲(の)ませ、103腸(はらわた)までよく調(しら)べて、104其(その)上(うへ)でこちらの味方(みかた)を拵(こしら)へておかねば、105駄目(だめ)だと思(おも)ふ。106何程(なにほど)お前(まへ)が義理(ぎり)天上(てんじやう)だと云(い)つても、107杢助(もくすけ)だと云(い)つても、108松姫(まつひめ)の外(ほか)、109俺(おれ)の顔(かほ)を知(し)つた者(もの)はないのだからな』
110高姫『ソリヤさうですな、111それなら一(ひと)つ、112初(はつ)と徳(とく)を呼(よ)んで酒(さけ)を飲(の)ましてやりませうかい』
113妖幻坊の杢助『ウン、114それが可(い)い、115就(つ)いては、116あのお菊(きく)も此処(ここ)へよせて、117酌(しやく)をさせるがよからう。118さうでなくちや、119彼奴(あいつ)、120一(ひと)すぢ縄(なは)ではいかぬ奴(やつ)だから、121甘(うま)く手(て)の中(うち)へ丸(まる)めておく必要(ひつえう)があらうぞ』
122高姫『貴方(あなた)は又(また)、123お菊(きく)に秋波(しうは)を送(おく)つてゐるのですか、124エーエ油断(ゆだん)のならぬ男(をとこ)だなア、125それだから義理(ぎり)天上(てんじやう)さまが、126お前(まへ)を目放(めはな)しするなと仰有(おつしや)るのだ。127本当(ほんたう)に気(き)のもめる男(をとこ)だな。128私(わし)の好(す)く人(ひと)、129又(また)人(ひと)が好(す)く……といふ事(こと)がある。130こんないい男(をとこ)を夫(をつと)に持(も)つと、131此(この)高姫(たかひめ)も気(き)のもめる事(こと)だワイ』
132妖幻坊の杢助『まるで監視付(かんしつき)だなア、133高等(かうとう)要視察人(えうしさつにん)みたいなものだ。134あああ、135こんな事(こと)なら、136今(いま)までの通(とほ)り、137独身(どくしん)生活(せいくわつ)をして居(を)つたらよかつたに、138娘(むすめ)の初稚姫(はつわかひめ)にだつて、139何(なん)だか恥(はづか)しくつて、140顔(かほ)さへ合(あは)されもせないワ。141娘(むすめ)どころか犬(いぬ)にさへ恥(はづか)しいやうだ。142それだから、143俺(おれ)はあの犬(いぬ)は嫌(いや)といふのだ』
144高姫『お前(まへ)さまは、145二(ふた)つ目(め)にはいぬいぬと仰有(おつしや)るが、146何程(なにほど)いぬと云(い)つても、147綱(つな)をかけたら帰(い)なしはせぬぞや。148いぬなら帰(い)んでみなさい。149仮令(たとへ)十万(じふまん)億土(おくど)の底(そこ)までも探(さが)し求(もと)めて、150お前(まへ)さまの胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、151恨(うらみ)をはらしますぞや』
152妖幻坊の杢助『あああ、153怖(こは)い事(こと)だなア。154それなら今後(こんご)はおとなしう御用(ごよう)を承(うけたま)はりませう。155義理(ぎり)天上(てんじやう)様(さま)、156金毛(きんまう)九尾(きうび)様(さま)、157今日(こんにち)限(かぎ)り改悪(かいあく)致(いた)しますから、158お許(ゆる)しを願(ねが)ひます、159エヘヘヘヘ』
160高姫『何(なん)なつと、161いつてゐらつしやい、162どうでこんな婆(ばば)アはお菊(きく)には比(くら)べものになりませぬから』
163妖幻坊の杢助『それなら、164女王(ぢよわう)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)を遵奉(じゆんぽう)し、165ドツと改悪(かいあく)致(いた)して、166お菊(きく)は入(い)れない事(こと)にし、167初公(はつこう)と徳公(とくこう)を、168ここへ呼(よ)んで、169ドツサリ酒(さけ)を飲(の)まさうぢやないか』
170 次(つぎ)の間(ま)から、
171初、徳『ヘー、172初(はつ)も徳(とく)もここに居(を)ります。173お相手(あひて)を致(いた)しませう』
174とまだ呼(よ)びもせぬ先(さき)から、175喉(のど)がグーグーいつて仕方(しかた)がないので、176襖(ふすま)をあけて、177ヌツと顔(かほ)を出(だ)した。
178高姫(たかひめ)『コレ、179初(はつ)さま、180徳(とく)さま、181お前(まへ)は最前(さいぜん)から私(わたし)達(たち)の話(はなし)を聞(き)いて居(を)つたのだなア』
182初(はつ)『ヘー、183大命(たいめい)一下(いつか)、184時刻(じこく)を移(うつ)さず、185御用(ごよう)に立(た)たむと、186次(つぎ)の間(ま)に手具脛(てぐすね)引(ひ)いて控(ひか)へて居(を)りました。187イヤもうドツサリと結構(けつこう)なお二人(ふたり)様(さま)の情話(じやうわ)を聞(き)かして頂(いただ)き、188有難(ありがた)いこつて厶(ござ)りました。189あれだけ結構(けつこう)な話(はなし)を聞(き)かして頂(いただ)いた以上(いじやう)は、190一杯(いつぱい)や二杯(にはい)奢(おご)つて下(くだ)さつても損(そん)はいきますまい。191のう徳公(とくこう)、192本当(ほんたう)に羨(うらや)ましいぢやないか』
193妖幻(えうげん)『ハハハハ、194どうも気(き)の利(き)いた男(をとこ)だ、195お前(まへ)達(たち)二人(ふたり)は小北山(こぎたやま)に似合(にあ)はぬ立派(りつぱ)な者(もの)だ。196こんな立派(りつぱ)な役員(やくゐん)が、197吾々(われわれ)の来(く)るに先立(さきだ)ち、198おいてあるとは、199全(まつた)く神(かみ)様(さま)のお仕組(しぐみ)だ。200オイ、201初公(はつこう)さま、202徳公(とくこう)さま、203俺(わし)の盃(さかづき)を一杯(いつぱい)うけてくれ』
204初(はつ)『イヤ、205これはこれは御(ご)勿体(もつたい)ない、206お手(て)づから頂(いただ)きまして、207実(じつ)に光栄(くわうえい)です、208なア徳(とく)よ』
209徳(とく)『ウン有難(ありがた)いなア、210こんな事(こと)が毎日(まいにち)あると尚(なほ)結構(けつこう)だがなア』
211妖幻(えうげん)『朝顔形(あさがほがた)の盃(さかづき)はないかなア』
212徳(とく)『ヘー、213朝顔形(あさがほがた)の盃(さかづき)も沢山(たくさん)厶(ござ)いましたが、214前(まへ)の教主(けうしゆ)様(さま)が、215高姫(たかひめ)さまの唇(くちびる)に似(に)てると仰有(おつしや)つたので、216お寅(とら)さまと云(い)ふ内証(ないしよう)のレコが、217悋気(りんき)して皆(みな)破(わ)つて了(しま)はれたさうで、218今(いま)では一(ひと)つも厶(ござ)いませぬ』
219妖幻坊の杢助『フフフフフ、220さうすると、221此(この)盃(さかづき)は敗残(はいざん)の兵(へい)ばかりだな。222打(う)ちもらされし郎党(らうたう)ばかりか、223ヤヤ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、224サ、225徳公(とくこう)、226一杯(いつぱい)行(ゆ)かう』
227徳『ヤ、228これはこれは誠(まこと)に以(もつ)て有難(ありがた)く頂戴(ちやうだい)いたします。229酒(さけ)といふものは百薬(ひやくやく)の長(ちやう)とかいつて、230いいものですな、231かう青々(あをあを)とした春(はる)の野(の)を眺(なが)めて、232一杯(いつぱい)やる心持(こころもち)と云(い)つたら本当(ほんたう)に譬(たと)へやうがありませぬワ、233どうぞ之(これ)から貴方(あなた)等(がた)御(ご)両人(りやうにん)の指揮(しき)命令(めいれい)を遵奉(じゆんぽう)致(いた)しますから、234可愛(かあい)がつて下(くだ)さいや』
235妖幻坊の杢助『ウン、236よしよし、237併(しか)し蠑螈別(いもりわけ)と此(この)杢助(もくすけ)とは、238どちらがお前(まへ)は偉大(ゐだい)なと思(おも)ふ』
239初(はつ)『ソリヤきまつて居(を)ります。240背(せ)い恰好(かつかう)と云(い)ひ男振(をとこぶり)と云(い)ひ、241天地(てんち)の違(ちが)ひで厶(ござ)りますワ』
242妖幻坊の杢助『どちらが天(てん)で、243どちらが地(ち)だ』
244初『そこがサ、245テーンと、246イー私(わたし)には分(わか)らぬ所(ところ)です。247併(しか)し、248チーとばかり劣(おと)つて居(を)りますなア』
249妖幻坊の杢助『どちらが劣(おと)つて居(ゐ)るのだ』
250初『杢助(もくすけ)様(さま)、251言(い)はいでも分(わか)つてるぢやありませぬか。252劣(おと)つた方(はう)が劣(おと)つてるのですもの、253高姫(たかひめ)さまの前(まへ)だから、254何方(どちら)へ団扇(うちわ)をあげて可(い)いだやら、255マア言(い)はぬが花(はな)ですなア、256夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)をたきつけるやうな事(こと)があつては誠(まこと)にすみませぬから……』
257妖幻坊の杢助『ハハハハ、258其奴(そいつ)ア面白(おもしろ)い、259マア言(い)はぬが宜(よ)からう』
260高姫(たかひめ)『コレ初(はつ)、261構(かま)はないから言(い)つておくれ、262私(わたし)だつて何時(いつ)までも、263蠑螈別(いもりわけ)さまの事(こと)など思(おも)つてはゐやしないよ。264あの方(かた)は大広木(おほひろき)正宗(まさむね)さまの生宮(いきみや)だつたが、265今(いま)はサツパリ三五教(あななひけう)へ沈没(ちんぼつ)したのだから、266最早(もはや)普通(ふつう)の人格者(じんかくしや)としても認(みと)めてゐないよ。267何卒(どうぞ)蠑螈別(いもりわけ)さまのこた、268言(い)はぬよにして下(くだ)さい』
269初(はつ)『モシ、270高姫(たかひめ)さま、271ここはウラナイ教(けう)ぢやありませぬよ、272松彦(まつひこ)さまがお出(い)でになつてから、273ユラリ彦(ひこ)さまや義理(ぎり)天上(てんじやう)さま、274ヘグレ神社(じんじや)其(その)外(ほか)、275サーパリ、276ガラクタ神(がみ)をおつ放(ぽ)り出(だ)し、277残(のこ)らず三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)と祀(まつ)り替(か)へてあるのですから、278蠑螈別(いもりわけ)さまが三五教(あななひけう)へお入(はい)りになつたのが悪(わる)い筈(はず)はないぢやありませぬか、279さうすると今(いま)は貴女(あなた)は三五教(あななひけう)ぢやないのですか』
280高姫『コレ初(はつ)さま、281お前(まへ)も野暮(やぼ)な事(こと)をいふものぢやない、282神(かみ)の奥(おく)には奥(おく)があり、283表(おもて)には裏(うら)があるのだ。284此(この)高姫(たかひめ)だつて、285表面(へうめん)は三五教(あななひけう)になつてるけれど、286矢張(やつぱ)りウラナイ教(けう)だよ。287世(よ)の中(なか)は一通(ひととほ)りや二通(ふたとほ)りでいくものでないから、288お前(まへ)も其(その)精神(せいしん)で居(を)つて下(くだ)さい。289これからお前(まへ)等(ら)二人(ふたり)を杢助(もくすけ)さまの両腕(りやううで)として出世(しゆつせ)をさして上(あ)げるから、290さうすりや文助(ぶんすけ)さまを頤(あご)でつかふやうになるよ、291今(いま)に受付(うけつけ)の命令(めいれい)をハイハイと聞(き)いてるやうぢや詮(つま)らぬぢやないか』
292初『イヤ、293分(わか)りました。294のう徳公(とくこう)、295貴様(きさま)も賛成(さんせい)だらう』
296徳(とく)『ウーン、297お前(まへ)が賛成(さんせい)すりや、298賛成(さんせい)しない訳(わけ)にも行(ゆ)かぬワ、299併(しか)しながら松姫(まつひめ)さまは何(ど)うだろ、300こんな事(こと)を御(ご)承知(しようち)なさるだらうかなア』
301初(はつ)『ソリヤ高姫(たかひめ)さまの腕(うで)にあるのだ、302俺(おれ)達(たち)や、303只(ただ)御(ご)両人(りやうにん)の頤使(いし)に従(したが)つて居(を)れば可(い)いぢやないか』
304 お菊(きく)は外(そと)から、305窓(まど)へ顔(かほ)をあて、306四(よ)人(にん)の酒(さけ)を飲(の)んでゐるのを見(み)て、307あどけない声(こゑ)でうたつてゐる。
308お菊『天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)に耳(みみ)
309企(たく)んだ企(たく)んだ陰謀(いんぼう)を
310お菊(きく)はソツと両人(りやうにん)の
311腹(はら)の中(なか)まで推知(すゐち)して
312一寸(ちよつと)其処(そこ)まで出(で)て来(く)ると
313甘(うま)くゴマかし戸(と)の外(そと)で
314スツカリ様子(やうす)を窺(うかが)へば
315耳(みみ)をペロペロ動(うご)かして
316尖(とが)つた口(くち)をしながらも
317高姫(たかひめ)さまと意茶(いちや)ついた
318揚句(あげく)のはてが小北山(こぎたやま)
319此(この)神殿(しんでん)をウマウマと
320占領(せんりやう)せむとの企(たく)みごと
321初公(はつこう)、徳公(とくこう)両人(りやうにん)を
322うまく抱込(だきこ)み酒(さけ)飲(の)まし
323さうして之(これ)から松姫(まつひめ)の
324目(め)を晦(くら)まして義理(ぎり)天上(てんじやう)
325日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)と
326居据(ゐすわ)り泥棒(どろばう)をする積(つも)り
327何程(なにほど)高姫(たかひめ)偉(えら)いとて
328どうしてどうして松姫(まつひめ)の
329鏡(かがみ)のやうな魂(たましひ)を
330曇(くも)らすことが出来(でき)ようか
331そんな悪事(あくじ)を企(たく)むより
332早(はや)く改悪(かいあく)するがよい
333改心(かいしん)するにも程(ほど)がある
334オツトドツコイこりや違(ちが)うた
335さはさりながら高姫(たかひめ)は
336善(ぜん)をば悪(あく)と取違(とりちが)へ
337悪(あく)をば善(ぜん)と確信(かくしん)し
338改心(かいしん)慢心(まんしん)ゴチヤまぜに
339なさつて厶(ござ)るお方(かた)故(ゆゑ)
340私(わたし)も一寸(ちよつと)其(その)流儀(りうぎ)
341臨時(りんじ)に使用(しよう)しましたよ
342コレコレもうし杢(もく)さまえ
343蠑螈別(いもりわけ)の思(おも)ひ者(もの)
344朝顔(あさがほ)猪口(ちよく)の高(たか)さまえ
345何程(なにほど)お前(まへ)等(ら)両人(りやうにん)が
346初(はつ)と徳(とく)とを抱込(だきこ)んで
347うまい事(こと)をばしようとしても
348忽(たちま)ち陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)して
349逃(に)げていなねばならぬぞや
350松姫(まつひめ)さまがお前(まへ)等(ら)の
351詐(いつは)り言(ごと)を真(ま)に受(う)けて
352聞(き)かれたとこが此(この)お菊(きく)
353中々(なかなか)承知(しようち)は致(いた)さない
354侠客娘(けふかくむすめ)と名(な)を取(と)つた
355浮木(うきき)の森(もり)のチヤキチヤキだ
356オホホホホホホオホホホホ
357窓(まど)から中(なか)を眺(なが)むれば
358あのマア詮(つま)らぬ顔(かほ)ワイナ
359イヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ
360杢(もく)ちやま、高(たか)ちやま左様(さやう)なら
361ゆつくり陰謀(いんぼう)お企(たく)みよ
362あとからあとから此(この)お菊(きく)
363叩(たた)きつぶしてゆく程(ほど)に
364何(なん)だか知(し)らぬが杢(もく)さまの
365姿(すがた)が時々(ときどき)変(かは)り出(だ)し
366耳(みみ)の動(うご)くはまだおろか
367口(くち)までチヨイチヨイ尖(とが)り出(だ)し
368鼻(はな)より高(たか)うなつてゐる
369私(わたし)が一寸(ちよつと)首(くび)ひねり
370考(かんが)へました結末(けつまつ)は
371虎(とら)と獅子(しし)との混血児(こんけつじ)
372金毛(きんまう)九尾(きうび)と御(ご)夫婦(ふうふ)に
373なつてここまで小北山(こぎたやま)
374貴(うづ)の聖場(せいぢやう)を占領(せんりやう)し
375朝(あさ)から晩(ばん)まで酒(さけ)のんで
376威張(ゐば)り散(ち)らさむ計劃(けいくわく)か
377但(ただし)はここに網(あみ)を張(は)り
378斎苑(いそ)の館(やかた)へ往来(ゆきき)する
379数多(あまた)の信者(しんじや)を引捉(ひつとら)へ
380堕落(だらく)さした上(うへ)ウラナイの
381醜(しこ)の教(をしへ)に引込(ひきこ)んで
382此(この)世(よ)の中(なか)を泥海(どろうみ)に
383濁(にご)らし汚(けが)すつもりだろ
384何程(なにほど)弁解(べんかい)したとても
385お菊(きく)がここにある限(かぎ)り
386お前(まへ)の企(たく)みは駄目(だめ)だぞえ
387ああ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
388面白(おもしろ)うなつて来(き)ましたよ
389妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)や
390金毛(きんまう)九尾(きうび)の義理(ぎり)天上(てんじやう)
391鼻高姫(はなたかひめ)の運(うん)の尽(つき)
392松姫(まつひめ)さまの神力(しんりき)と
393お千代(ちよ)の方(かた)の神懸(かむがかり)
394さとき眼(まなこ)に睨(にら)まれて
395尻尾(しつぽ)を出(いだ)しスタスタと
396忽(たちま)ち此(この)場(ば)を駆出(かけだ)すは
397鏡(かがみ)にかけて見(み)るやうだ
398悪魔(あくま)がそんな扮装(なり)をして
399大日(おほひ)の照(て)るのに吾々(われわれ)を
400化(ば)かそとしても反対(あべこべ)に
401化(ば)けが現(あら)はれ舌(した)かんで
402旭(あさひ)に打(う)たれて消(き)えるだろ
403それ故(ゆゑ)お前(まへ)杢助(もくすけ)は
404祠(ほこら)の森(もり)にゐた時(とき)ゆ
405日輪(にちりん)様(さま)の照(て)る所(とこ)へ
406一度(いちど)も出(で)たこたないぢやないか
407たまたま外(そと)へ出(で)た時(とき)は
408日蔭(ひかげ)の深(ふか)き森(もり)の中(なか)
409初稚姫(はつわかひめ)の伴(ともな)ひし
410スマートさまにやらはれて
411ビリビリ慄(ふる)うてゐただらう
412お菊(きく)はチツとも知(し)らないが
413何(なん)だか知(し)らぬが腹(はら)の中(なか)
414グルグルグルと玉(たま)ころが
415喉元(のどもと)迄(まで)もつきつめて
416妙(めう)な事(こと)をば云(い)ひますぞ
417これこれ高姫(たかひめ)、杢(もく)さまよ
418初公(はつこう)、徳公(とくこう)両人(りやうにん)よ
419胸(むね)に手(て)をあて思案(しあん)して
420臍(ほぞ)をかむよな事(こと)をすな
421誠(まこと)の日(ひ)の出(で)の義理(ぎり)天上(てんじやう)
422お菊(きく)の体(たい)をかりまして
423四(よ)人(にん)の獣(けもの)に気(き)をつける
424ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
425目玉(めだま)飛(と)び出(だ)しましませよ
426アハハハハハハアハハハハ
427オホホホホホホオホホホホ』
428と歌(うた)ひ了(をは)り、429一生(いつしやう)懸命(けんめい)に青葉(あをば)の芽(め)ぐむ森林(しんりん)の中(なか)へ脱兎(だつと)の如(ごと)く身(み)を隠(かく)して了(しま)つた。
430妖幻(えうげん)『オイ高姫(たかひめ)、431ありや気違(きちが)ひぢやないか。432困(こま)つた、433此処(ここ)にはモノが居(を)るぢやないか。434あんな事(こと)を言(い)はしておきや、435数多(あまた)の信者(しんじや)を迷(まよ)はすかも知(し)れない。436何(なん)とかして、437窘(たしな)めてやらねばなるまいぞ』
438高姫(たかひめ)『本当(ほんたう)に、439仕方(しかた)のない奴(やつ)ですワ、440松姫(まつひめ)さまも、441なぜあんな気違(きちが)ひを置(お)いとくのだらうなア。442コレ初公(はつこう)さま、443いつも、444あのお菊(きく)はあんな事(こと)を言(い)ふのかい』
445初(はつ)『ヘー、446随分(ずいぶん)誰(たれ)にでもヅケヅケといふ女(をんな)ですよ。447併(しか)しながら今日(けふ)みたいな悪口(わるくち)云(い)つたこた、448まだ聞(き)きませぬな、449あの女(をんな)の云(い)ふ事(こと)は、450比較(ひかく)的(てき)正確(せいかく)だとの定評(ていひやう)があります』
451高姫『定評(ていひやう)があると云(い)ふからには、452お前(まへ)達(たち)は吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)を怪(あや)しいものと観察(くわんさつ)してゐるのかい』
453初『ヘー、454別(べつ)に……怪(あや)しいとは思(おも)ひませぬ。455只(ただ)貴方(あなた)等(がた)両人(りやうにん)の仲(なか)は、456ヘヘヘヘ、457チと怪(あや)しくないかと直覚(ちよくかく)致(いた)しました、458違(ちが)ひますかな』
459高姫『杢助(もくすけ)さまと夫婦(ふうふ)になつたのが、460何(なに)が怪(あや)しいのだ。461神(かみ)と神(かみ)との許(ゆる)し給(たま)うた結構(けつこう)な生宮(いきみや)だぞえ。462神(かみ)だとて夫婦(ふうふ)がなければ、463陰陽(いんやう)の水火(いき)が合(あ)はないから、464天地(てんち)造化(ざうくわ)の神業(しんげふ)が成功(せいこう)せないぢやないか』
465初『ヤ、466さうキツパリと承(うけたま)はりますれば、467今後(こんご)は其(その)考(かんが)へでお仕(つか)へ致(いた)します。468さうすると杢助(もくすけ)様(さま)は貴女(あなた)の旦那(だんな)で厶(ござ)いますか。469よくお似合(にあ)ひました夫婦(ふうふ)で厶(ござ)います。470ヘヘヘヘ、471イヤもうお目出度(めでた)う、472それでは今日(けふ)は御(ご)婚礼(こんれい)の御(ご)披露(ひろう)の酒(さけ)とも申(まを)すべきものですな、473ドツサリ頂戴(ちやうだい)致(いた)しませう。474誠(まこと)に御(ご)馳走(ちそう)さまで』
475徳(とく)『オイ、476初(はつ)ウ、477さう御(お)礼(れい)を言(い)ふに及(およ)ばぬぢやないか、478お酒(さけ)も御(ご)馳走(ちそう)の材料(ざいれう)も、479皆(みな)小北山(こぎたやま)の物(もの)でしたのなり、480料理(れうり)も俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)がしたのだ。481そして新夫婦(しんふうふ)に、482こちらから振舞(ふるま)つてゐるのだから、483御(ご)馳走(ちそう)さまも何(なに)もあつたものかい、484先方(むかふ)の方(はう)から礼(れい)を云(い)つたら可(い)いのだ』
485高姫(たかひめ)『コレ、486徳(とく)とやら、487お前(まへ)の云(い)ふ事(こと)は一応(いちおう)理窟(りくつ)があるやうだが、488それは神界(しんかい)の事(こと)の解(わか)らぬ八衢(やちまた)人間(にんげん)の云(い)ふ理窟(りくつ)だぞえ。489現界(げんかい)の理窟(りくつ)は霊界(れいかい)には通(つう)じませぬぞや。490かうして御(ご)馳走(ちそう)が出来(でき)るやうになつたのも、491皆(みな)天上(てんじやう)から日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が御光(みひかり)を投(な)げ与(あた)へ、492雨露(あめつゆ)を降(ふ)らして下(くだ)さるお蔭(かげ)で、493五穀(ごこく)、494さわもの、495菜園物(しやゑんもの)一切(いつさい)が出来(でき)てるぢやないか、496其(その)生神(いきがみ)様(さま)にお給仕(きふじ)さして頂(いただ)くお前(まへ)は誠(まこと)に結構(けつこう)だ。497神(かみ)の方(はう)から御(お)礼(れい)申(まを)すといふ理窟(りくつ)がどこにあるものかい。498チツとお前(まへ)も神界(しんかい)の勉強(べんきやう)をしなさい、499さうすりや、500そんな小言(こごと)は云(い)はないやうになつて了(しま)ひますよ』
501徳(とく)『ヘー、502何(なん)とマア都合(つがふ)の好(い)い教理(けうり)で厶(ござ)いますこと』
503高姫『コレ、504お前(まへ)は義理(ぎり)天上(てんじやう)の云(い)ふ事(こと)が、505どうしても腹(はら)へ入(はい)らぬのかなア』
506徳『ヘー、507さう俄(には)かに入(はい)りにくう厶(ござ)います。508何分(なにぶん)お酒(さけ)や御飯(ごはん)で格納庫(かくなふこ)が充実(じうじつ)してゐますから、509今(いま)の所(ところ)では余地(よち)が厶(ござ)いませぬ』
510高姫『何(なん)とマア盲(めくら)ばかりだなア、511そら其(その)筈(はず)だ、512霊国(れいごく)の天人(てんにん)の霊(みたま)と、513八衢(やちまた)人間(にんげん)の霊(みたま)とだから無理(むり)もない、514お前(まへ)さまもチツと之(これ)から日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の筆先(ふでさき)を読(よ)みなさい。515さうすれば三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)が見(み)えすくやうになるだらう、516コレ初(はつ)さまえ、517お前(まへ)はチツと賢(かしこ)さうな顔(かほ)してるが、518高姫(たかひめ)のいふ事(こと)が分(わか)つたかなア』
519初(はつ)『ハイ、520仰(おほ)せの通(とほ)り、521此(この)お土(つち)の上(うへ)に出来(でき)たものは皆(みな)神(かみ)様(さま)のお力(ちから)で厶(ござ)います。522何程(なにほど)立派(りつぱ)な人間(にんげん)でも、523菜(な)の葉(は)一(いち)枚(まい)生(う)み出(だ)すことは出来(でき)ませぬ、524仰(おほ)せ御尤(ごもつと)もだと考(かんが)へます』
525高姫『成程(なるほど)、526お前(まへ)は偉(えら)いわい、527之(これ)から杢助(もくすけ)様(さま)の片腕(かたうで)にして上(あ)げるから、528どうだ嬉(うれ)しうないか、529結構(けつこう)だらうがな。530何(なん)といつても三五教(あななひけう)の三羽烏(さんばがらす)の一(いち)人(にん)、531時置師(ときおかしの)神(かみ)様(さま)だぞえ』
532初『ハイ、533身(み)に余(あま)る光栄(くわうえい)で厶(ござ)います。534オイ、535徳(とく)、536貴様(きさま)も改心(かいしん)して、537結構(けつこう)だといはぬかい……否(いな)改悪(かいあく)して、538貴女(あなた)の仰有(おつしや)る通(とほ)りだ、539と、540心(こころ)はどうでもいい、541いつておかぬかい。542社交(しやかう)の下手(へた)な奴(やつ)だなア』
543徳(とく)『それなら高姫(たかひめ)さまの御(お)説(せつ)に、544ドツと改悪(かいあく)して賛成(さんせい)致(いた)します。545何卒(どうぞ)宜(よろ)しう御(お)願(ねが)ひ申(まを)します』
546高姫『心(こころ)からの改心(かいしん)でなければ駄目(だめ)だぞえ。547ウツフフフフ、548コレ杢助(もくすけ)さま、549人民(じんみん)を改心(かいしん)さすのは高姫(たかひめ)に限(かぎ)りませうがな』
550 妖幻坊(えうげんばう)は俄(にはか)に体(からだ)が震(ふる)ひ出(だ)した。551窓(まど)の外(そと)を一寸(ちよつと)覗(のぞ)いて見(み)ると、552猛犬(まうけん)が矢(や)の如(ごと)く階段(かいだん)を登(のぼ)つて、553松姫館(まつひめやかた)の方(はう)へ姿(すがた)を隠(かく)した。554高姫(たかひめ)はアツと一声(ひとこゑ)、555ドスンと腰(こし)を下(おろ)し、556目(め)を白黒(しろくろ)してゐる。557妖幻坊(えうげんばう)も亦(また)冷汗(ひやあせ)をズツポリかき、558ガタガタと震(ふる)ひ戦(をのの)くこと益々(ますます)甚(はなはだ)しい。
559(窓外白雪皚々たり 大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 松村真澄録)
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