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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第51巻(寅の巻)
序文
総説
第1篇 霊光照魔
第1章 春の菊
第2章 怪獣策
第3章 犬馬の労
第4章 乞食劇
第5章 教唆
第6章 舞踏怪
第2篇 夢幻楼閣
第7章 曲輪玉
第8章 曲輪城
第9章 鷹宮殿
第10章 女異呆醜
第3篇 鷹魅艶態
第11章 乙女の遊
第12章 初花姫
第13章 槍襖
第14章 自惚鏡
第15章 餅の皮
第4篇 夢狸野狸
第16章 暗闘
第17章 狸相撲
第18章 糞奴使
第19章 偽強心
第20章 狸姫
第21章 夢物語
余白歌
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第51巻(寅の巻)
> 第1篇 霊光照魔 > 第2章 怪獣策
<<< 春の菊
(B)
(N)
犬馬の労 >>>
第二章
怪獣策
(
くわいじうさく
)
〔一三一七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
篇:
第1篇 霊光照魔
よみ(新仮名遣い):
れいこうしょうま
章:
第2章 怪獣策
よみ(新仮名遣い):
かいじゅうさく
通し章番号:
1317
口述日:
1923(大正12)年01月25日(旧12月9日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月29日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初と徳は文助に言いつけられて、妖幻坊と高姫のために御馳走をこしらえ、酒に燗をして二人の前に並べた。妖幻坊はお菊に酌を所望したが、お菊は二人をからかうと飛び出して逃げてしまった。
高姫と妖幻坊は、松姫もあまり信用がならず、お菊も簡単には手なずけられそうにないとして、初と徳に酒を飲ませてこちらの手に引き込もうと計画した。
高姫と妖幻坊は、初と徳に酒を飲ませながら、二人をウラナイ教に引き込もうと話を持って行っている。お菊はその様子をそっと窓からのぞいていたが、宣伝歌を歌いだした。お菊は高姫の企みを歌に歌い込み、また杢助と名乗る男は悪魔が化けているのだろうと歌い終わると、さっと逃げてしまった。
妖幻坊と高姫はお菊の歌に懸念を抱くが、また初と徳を取り込みにかかった。高姫は二人を口でちょろまかしている。
妖幻坊の体はにわかにふるえだした。窓の外をちょっと覗いてみると、猛犬が矢のように階段を上り、松姫館の法にすがたを隠した。高姫はアッと驚いて腰を下ろし、妖幻坊も冷や汗をかいて震えおののいていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-08-02 14:07:44
OBC :
rm5102
愛善世界社版:
25頁
八幡書店版:
第9輯 274頁
修補版:
校定版:
26頁
普及版:
12頁
初版:
ページ備考:
001
初
(
はつ
)
、
002
徳
(
とく
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
種々
(
いろいろ
)
と
馳走
(
ちそう
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
003
酒
(
さけ
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
燗
(
かん
)
して
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
恭
(
うやうや
)
しく
並
(
なら
)
べた。
004
初
(
はつ
)
『
私
(
わたし
)
は
此
(
この
)
お
館
(
やかた
)
の
新役員
(
しんやくゐん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
005
魔我彦
(
まがひこ
)
様
(
さま
)
にお
引立
(
ひきたて
)
に
預
(
あづか
)
りまして、
006
つい
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
幹部
(
かんぶ
)
に
選定
(
せんてい
)
されました。
007
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
はウラル
教
(
けう
)
の
信徒
(
しんと
)
で
厶
(
ござ
)
いましたが、
008
余
(
あま
)
り
此
(
この
)
お
館
(
やかた
)
にお
祀
(
まつ
)
りしてある
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
が
高
(
たか
)
いので、
009
ついお
参
(
まゐ
)
りする
気
(
き
)
になり、
010
信者
(
しんじや
)
として
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
籠
(
こも
)
つてる
中
(
うち
)
、
011
抜擢
(
ばつてき
)
されまして、
012
今
(
いま
)
では
魔我彦
(
まがひこ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
ります。
013
炊事
(
すゐじ
)
なんかするやうな
地位
(
ちゐ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬが、
014
今日
(
けふ
)
は
特別
(
とくべつ
)
を
以
(
もつ
)
て、
015
文助
(
ぶんすけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
により、
016
料理法
(
れうりはふ
)
の
粋
(
すゐ
)
を
尽
(
つく
)
して
拵
(
こしら
)
へて
参
(
まゐ
)
りました。
017
どうでお
口
(
くち
)
には
合
(
あ
)
ひますまいが、
018
何卒
(
どうぞ
)
一
(
ひと
)
つ
召上
(
めしあが
)
つて
下
(
くだ
)
さいますやう
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します。
019
たまたまのお
越
(
こ
)
し
故
(
ゆゑ
)
、
020
可成
(
なるべく
)
山海
(
さんかい
)
の
珍味
(
ちんみ
)
を
以
(
もつ
)
て
献立
(
こんだて
)
がしたいので
厶
(
ござ
)
いますが、
021
余
(
あま
)
り
俄
(
には
)
かのお
出
(
いで
)
で
材料
(
ざいれう
)
が
欠乏
(
けつぼう
)
致
(
いた
)
し
不都合
(
ふつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
022
高姫
(
たかひめ
)
『ヤ、
023
お
前
(
まへ
)
は
魔我彦
(
まがひこ
)
の
家来
(
けらい
)
かな、
024
成程
(
なるほど
)
、
025
下
(
さが
)
り
眉毛
(
まゆげ
)
の、
026
一寸
(
ちよつと
)
面白
(
おもしろ
)
い
顔
(
かほ
)
だな。
027
之
(
これ
)
から
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
が
此処
(
ここ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
だから、
028
其
(
その
)
積
(
つも
)
りで
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
029
そしてここの
信者
(
しんじや
)
は
幾
(
いく
)
ら
程
(
ほど
)
あるかな』
030
初
『ヘーお
初
(
はつ
)
にお
目
(
め
)
にかかつて、
031
顔
(
かほ
)
の
批評
(
ひひやう
)
までして
頂
(
いただ
)
きまして、
032
イヤもう
感服
(
かんぷく
)
致
(
いた
)
しました。
033
まだ
新任
(
しんにん
)
早々
(
さうさう
)
の
事
(
こと
)
で、
034
ハツキリは
分
(
わか
)
りませぬが、
035
トツ
百
(
ぴやく
)
ばかり、
036
あるとか、
037
ないとか
言
(
い
)
ふことで
厶
(
ござ
)
います。
038
魔我彦
(
まがひこ
)
さまも、
039
この
調子
(
てうし
)
なら、
040
今
(
いま
)
にパツ
百
(
ぴやく
)
人
(
にん
)
ほど
殖
(
ふ
)
えるだらうと
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
りました。
041
貴女
(
あなた
)
は
噂
(
うはさ
)
に……イ……
高
(
たか
)
き、
042
ダカ
姫
(
ひめ
)
さまで
厶
(
ござ
)
いますかな。
043
どうもよくお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいました。
044
そして
立派
(
りつぱ
)
な
男様
(
をとこさま
)
は
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
でゐらせられますか、
045
どうも
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
打揃
(
うちそろ
)
ひ、
046
御
(
ご
)
出張
(
しゆつちやう
)
下
(
くだ
)
さいました
段
(
だん
)
、
047
やつがれ
身
(
み
)
にとりまして、
048
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
りまする』
049
高姫
『
何
(
なん
)
と
面白
(
おもしろ
)
い
男
(
をとこ
)
だなア、
050
ヤ
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
さま、
051
これからお
腹
(
なか
)
もすいたなり、
052
一寸
(
ちよつと
)
くたぶれたからゆつくりと
頂
(
いただ
)
きませう』
053
初
『
私
(
わたし
)
で
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いますれば、
054
一寸
(
ちよつと
)
お
酌
(
しやく
)
をさして
頂
(
いただ
)
きませうかな。
055
私
(
わたし
)
も
余
(
あま
)
り、
056
飲
(
の
)
めぬ
口
(
くち
)
でも
厶
(
ござ
)
いませぬから……』
057
高姫
『ヤ、
058
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います、
059
何
(
いづ
)
れ
用
(
よう
)
があつたら、
060
此
(
この
)
鈴
(
すず
)
をふりますから
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
061
初
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
062
それぢやお
菊
(
きく
)
さまにお
給仕
(
きふじ
)
をして
貰
(
もら
)
ひませう』
063
お
菊
(
きく
)
『コレ
初
(
はつ
)
さま、
064
厭
(
いや
)
だよ、
065
誰
(
たれ
)
がこんな
小父
(
をぢ
)
さまや
小母
(
をば
)
さまのお
給仕
(
きふじ
)
するものかい。
066
私
(
わたし
)
がお
給仕
(
きふじ
)
するのは
万
(
まん
)
さまだよ。
067
イヒヒヒ、
068
すみませぬなア、
069
お
構
(
かま
)
ひさま』
070
妖幻
(
えうげん
)
『オイお
菊
(
きく
)
とやら、
071
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
に
一
(
ひと
)
つ
注
(
つ
)
いではくれまいか。
072
お
前
(
まへ
)
の
若
(
わか
)
い
手
(
て
)
で
注
(
つ
)
いで
貰
(
もら
)
ふのは、
073
余
(
あま
)
り
気持
(
きもち
)
が
悪
(
わる
)
うはない。
074
高姫
(
たかひめ
)
さまといふ
天下一
(
てんかいち
)
の
別嬪
(
べつぴん
)
さまがついて
厶
(
ござ
)
るのだから
可
(
い
)
いやうなものの、
075
又
(
また
)
変
(
かは
)
つたのも、
076
此方
(
こちら
)
の
気
(
き
)
が
変
(
かは
)
つていいかも
知
(
し
)
れない』
077
お菊
『いやですよ、
078
之
(
これ
)
からお
千代
(
ちよ
)
さまと
遊
(
あそ
)
んで
来
(
こ
)
なならぬワ、
079
待合
(
まちあひ
)
の
酌婦
(
しやくふ
)
ぢやあるまいし……
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
さま
仲
(
なか
)
よう、
080
シンネコでお
楽
(
たの
)
しみ……
御免
(
ごめん
)
よ』
081
と
逃
(
に
)
げるやうにして、
082
腮
(
あご
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つしやくりながら、
083
肩
(
かた
)
をあげ
首
(
くび
)
をすくめ、
084
両手
(
りやうて
)
を
前
(
まへ
)
へパツと
開
(
ひら
)
き
揃
(
そろ
)
へ、
085
お菊
『イツヒヒヒ』
086
と
胴
(
どう
)
までしやくつて、
087
飛出
(
とびだ
)
して
了
(
しま
)
つた。
088
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
はイチヤイチヤ
言
(
い
)
ひながら、
089
酒
(
さけ
)
を
汲
(
く
)
みかはし
始
(
はじ
)
めた。
090
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
091
松姫
(
まつひめ
)
だつて、
092
文助
(
ぶんすけ
)
だつて、
093
中々
(
なかなか
)
さう
易々
(
やすやす
)
と
服従
(
ふくじゆう
)
するものぢやありませぬよ。
094
口先
(
くちさき
)
では
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
095
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
は
容易
(
ようい
)
に
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
しませぬよ。
096
あのお
菊
(
きく
)
だつて、
097
中々
(
なかなか
)
手
(
て
)
に
合
(
あ
)
はぬぢやありませぬか、
098
此奴
(
こいつ
)
は
一
(
ひと
)
つ、
099
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
をせなくちやなりませぬよ』
100
妖幻坊の杢助
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
101
あの
初
(
はつ
)
と
徳
(
とく
)
とを
此処
(
ここ
)
へ
呼
(
よ
)
んで、
102
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
ませ、
103
腸
(
はらわた
)
までよく
調
(
しら
)
べて、
104
其
(
その
)
上
(
うへ
)
でこちらの
味方
(
みかた
)
を
拵
(
こしら
)
へておかねば、
105
駄目
(
だめ
)
だと
思
(
おも
)
ふ。
106
何程
(
なにほど
)
お
前
(
まへ
)
が
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
だと
云
(
い
)
つても、
107
杢助
(
もくすけ
)
だと
云
(
い
)
つても、
108
松姫
(
まつひめ
)
の
外
(
ほか
)
、
109
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
を
知
(
し
)
つた
者
(
もの
)
はないのだからな』
110
高姫
『ソリヤさうですな、
111
それなら
一
(
ひと
)
つ、
112
初
(
はつ
)
と
徳
(
とく
)
を
呼
(
よ
)
んで
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
ましてやりませうかい』
113
妖幻坊の杢助
『ウン、
114
それが
可
(
い
)
い、
115
就
(
つ
)
いては、
116
あのお
菊
(
きく
)
も
此処
(
ここ
)
へよせて、
117
酌
(
しやく
)
をさせるがよからう。
118
さうでなくちや、
119
彼奴
(
あいつ
)
、
120
一
(
ひと
)
すぢ
縄
(
なは
)
ではいかぬ
奴
(
やつ
)
だから、
121
甘
(
うま
)
く
手
(
て
)
の
中
(
うち
)
へ
丸
(
まる
)
めておく
必要
(
ひつえう
)
があらうぞ』
122
高姫
『
貴方
(
あなた
)
は
又
(
また
)
、
123
お
菊
(
きく
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つてゐるのですか、
124
エーエ
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
男
(
をとこ
)
だなア、
125
それだから
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまが、
126
お
前
(
まへ
)
を
目放
(
めはな
)
しするなと
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
127
本当
(
ほんたう
)
に
気
(
き
)
のもめる
男
(
をとこ
)
だな。
128
私
(
わし
)
の
好
(
す
)
く
人
(
ひと
)
、
129
又
(
また
)
人
(
ひと
)
が
好
(
す
)
く……といふ
事
(
こと
)
がある。
130
こんないい
男
(
をとこ
)
を
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つと、
131
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
も
気
(
き
)
のもめる
事
(
こと
)
だワイ』
132
妖幻坊の杢助
『まるで
監視付
(
かんしつき
)
だなア、
133
高等
(
かうとう
)
要視察人
(
えうしさつにん
)
みたいなものだ。
134
あああ、
135
こんな
事
(
こと
)
なら、
136
今
(
いま
)
までの
通
(
とほ
)
り、
137
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をして
居
(
を
)
つたらよかつたに、
138
娘
(
むすめ
)
の
初稚姫
(
はつわかひめ
)
にだつて、
139
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづか
)
しくつて、
140
顔
(
かほ
)
さへ
合
(
あは
)
されもせないワ。
141
娘
(
むすめ
)
どころか
犬
(
いぬ
)
にさへ
恥
(
はづか
)
しいやうだ。
142
それだから、
143
俺
(
おれ
)
はあの
犬
(
いぬ
)
は
嫌
(
いや
)
といふのだ』
144
高姫
『お
前
(
まへ
)
さまは、
145
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
いぬ
いぬと
仰有
(
おつしや
)
るが、
146
何程
(
なにほど
)
いぬ
と
云
(
い
)
つても、
147
綱
(
つな
)
をかけたら
帰
(
い
)
なしはせぬぞや。
148
いぬなら
帰
(
い
)
んでみなさい。
149
仮令
(
たとへ
)
十万
(
じふまん
)
億土
(
おくど
)
の
底
(
そこ
)
までも
探
(
さが
)
し
求
(
もと
)
めて、
150
お
前
(
まへ
)
さまの
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
り、
151
恨
(
うらみ
)
をはらしますぞや』
152
妖幻坊の杢助
『あああ、
153
怖
(
こは
)
い
事
(
こと
)
だなア。
154
それなら
今後
(
こんご
)
はおとなしう
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう。
155
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
様
(
さま
)
、
156
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
様
(
さま
)
、
157
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り
改悪
(
かいあく
)
致
(
いた
)
しますから、
158
お
許
(
ゆる
)
しを
願
(
ねが
)
ひます、
159
エヘヘヘヘ』
160
高姫
『
何
(
なん
)
なつと、
161
いつてゐらつしやい、
162
どうでこんな
婆
(
ばば
)
アはお
菊
(
きく
)
には
比
(
くら
)
べものになりませぬから』
163
妖幻坊の杢助
『それなら、
164
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
し、
165
ドツと
改悪
(
かいあく
)
致
(
いた
)
して、
166
お
菊
(
きく
)
は
入
(
い
)
れない
事
(
こと
)
にし、
167
初公
(
はつこう
)
と
徳公
(
とくこう
)
を、
168
ここへ
呼
(
よ
)
んで、
169
ドツサリ
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
まさうぢやないか』
170
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
から、
171
初、徳
『ヘー、
172
初
(
はつ
)
も
徳
(
とく
)
もここに
居
(
を
)
ります。
173
お
相手
(
あひて
)
を
致
(
いた
)
しませう』
174
とまだ
呼
(
よ
)
びもせぬ
先
(
さき
)
から、
175
喉
(
のど
)
がグーグーいつて
仕方
(
しかた
)
がないので、
176
襖
(
ふすま
)
をあけて、
177
ヌツと
顔
(
かほ
)
を
出
(
だ
)
した。
178
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
179
初
(
はつ
)
さま、
180
徳
(
とく
)
さま、
181
お
前
(
まへ
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
つたのだなア』
182
初
(
はつ
)
『ヘー、
183
大命
(
たいめい
)
一下
(
いつか
)
、
184
時刻
(
じこく
)
を
移
(
うつ
)
さず、
185
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
たむと、
186
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
りました。
187
イヤもうドツサリと
結構
(
けつこう
)
なお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
の
情話
(
じやうわ
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
き、
188
有難
(
ありがた
)
いこつて
厶
(
ござ
)
りました。
189
あれだけ
結構
(
けつこう
)
な
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
190
一杯
(
いつぱい
)
や
二杯
(
にはい
)
奢
(
おご
)
つて
下
(
くだ
)
さつても
損
(
そん
)
はいきますまい。
191
のう
徳公
(
とくこう
)
、
192
本当
(
ほんたう
)
に
羨
(
うらや
)
ましいぢやないか』
193
妖幻
(
えうげん
)
『ハハハハ、
194
どうも
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
男
(
をとこ
)
だ、
195
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
小北山
(
こぎたやま
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
立派
(
りつぱ
)
な
者
(
もの
)
だ。
196
こんな
立派
(
りつぱ
)
な
役員
(
やくゐん
)
が、
197
吾々
(
われわれ
)
の
来
(
く
)
るに
先立
(
さきだ
)
ち、
198
おいてあるとは、
199
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
だ。
200
オイ、
201
初公
(
はつこう
)
さま、
202
徳公
(
とくこう
)
さま、
203
俺
(
わし
)
の
盃
(
さかづき
)
を
一杯
(
いつぱい
)
うけてくれ』
204
初
(
はつ
)
『イヤ、
205
これはこれは
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない、
206
お
手
(
て
)
づから
頂
(
いただ
)
きまして、
207
実
(
じつ
)
に
光栄
(
くわうえい
)
です、
208
なア
徳
(
とく
)
よ』
209
徳
(
とく
)
『ウン
有難
(
ありがた
)
いなア、
210
こんな
事
(
こと
)
が
毎日
(
まいにち
)
あると
尚
(
なほ
)
結構
(
けつこう
)
だがなア』
211
妖幻
(
えうげん
)
『
朝顔形
(
あさがほがた
)
の
盃
(
さかづき
)
はないかなア』
212
徳
(
とく
)
『ヘー、
213
朝顔形
(
あさがほがた
)
の
盃
(
さかづき
)
も
沢山
(
たくさん
)
厶
(
ござ
)
いましたが、
214
前
(
まへ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
が、
215
高姫
(
たかひめ
)
さまの
唇
(
くちびる
)
に
似
(
に
)
てると
仰有
(
おつしや
)
つたので、
216
お
寅
(
とら
)
さまと
云
(
い
)
ふ
内証
(
ないしよう
)
のレコが、
217
悋気
(
りんき
)
して
皆
(
みな
)
破
(
わ
)
つて
了
(
しま
)
はれたさうで、
218
今
(
いま
)
では
一
(
ひと
)
つも
厶
(
ござ
)
いませぬ』
219
妖幻坊の杢助
『フフフフフ、
220
さうすると、
221
此
(
この
)
盃
(
さかづき
)
は
敗残
(
はいざん
)
の
兵
(
へい
)
ばかりだな。
222
打
(
う
)
ちもらされし
郎党
(
らうたう
)
ばかりか、
223
ヤヤ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
224
サ、
225
徳公
(
とくこう
)
、
226
一杯
(
いつぱい
)
行
(
ゆ
)
かう』
227
徳
『ヤ、
228
これはこれは
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
有難
(
ありがた
)
く
頂戴
(
ちやうだい
)
いたします。
229
酒
(
さけ
)
といふものは
百薬
(
ひやくやく
)
の
長
(
ちやう
)
とかいつて、
230
いいものですな、
231
かう
青々
(
あをあを
)
とした
春
(
はる
)
の
野
(
の
)
を
眺
(
なが
)
めて、
232
一杯
(
いつぱい
)
やる
心持
(
こころもち
)
と
云
(
い
)
つたら
本当
(
ほんたう
)
に
譬
(
たと
)
へやうがありませぬワ、
233
どうぞ
之
(
これ
)
から
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
致
(
いた
)
しますから、
234
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいや』
235
妖幻坊の杢助
『ウン、
236
よしよし、
237
併
(
しか
)
し
蠑螈別
(
いもりわけ
)
と
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
とは、
238
どちらがお
前
(
まへ
)
は
偉大
(
ゐだい
)
なと
思
(
おも
)
ふ』
239
初
(
はつ
)
『ソリヤきまつて
居
(
を
)
ります。
240
背
(
せ
)
い
恰好
(
かつかう
)
と
云
(
い
)
ひ
男振
(
をとこぶり
)
と
云
(
い
)
ひ、
241
天地
(
てんち
)
の
違
(
ちが
)
ひで
厶
(
ござ
)
りますワ』
242
妖幻坊の杢助
『どちらが
天
(
てん
)
で、
243
どちらが
地
(
ち
)
だ』
244
初
『そこがサ、
245
テーンと、
246
イー
私
(
わたし
)
には
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
です。
247
併
(
しか
)
し、
248
チーとばかり
劣
(
おと
)
つて
居
(
を
)
りますなア』
249
妖幻坊の杢助
『どちらが
劣
(
おと
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ』
250
初
『
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
、
251
言
(
い
)
はいでも
分
(
わか
)
つてるぢやありませぬか。
252
劣
(
おと
)
つた
方
(
はう
)
が
劣
(
おと
)
つてるのですもの、
253
高姫
(
たかひめ
)
さまの
前
(
まへ
)
だから、
254
何方
(
どちら
)
へ
団扇
(
うちわ
)
をあげて
可
(
い
)
いだやら、
255
マア
言
(
い
)
はぬが
花
(
はな
)
ですなア、
256
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
をたきつけるやうな
事
(
こと
)
があつては
誠
(
まこと
)
にすみませぬから……』
257
妖幻坊の杢助
『ハハハハ、
258
其奴
(
そいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
259
マア
言
(
い
)
はぬが
宜
(
よ
)
からう』
260
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
初
(
はつ
)
、
261
構
(
かま
)
はないから
言
(
い
)
つておくれ、
262
私
(
わたし
)
だつて
何時
(
いつ
)
までも、
263
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの
事
(
こと
)
など
思
(
おも
)
つてはゐやしないよ。
264
あの
方
(
かた
)
は
大広木
(
おほひろき
)
正宗
(
まさむね
)
さまの
生宮
(
いきみや
)
だつたが、
265
今
(
いま
)
はサツパリ
三五教
(
あななひけう
)
へ
沈没
(
ちんぼつ
)
したのだから、
266
最早
(
もはや
)
普通
(
ふつう
)
の
人格者
(
じんかくしや
)
としても
認
(
みと
)
めてゐないよ。
267
何卒
(
どうぞ
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまのこた、
268
言
(
い
)
はぬよにして
下
(
くだ
)
さい』
269
初
(
はつ
)
『モシ、
270
高姫
(
たかひめ
)
さま、
271
ここはウラナイ
教
(
けう
)
ぢやありませぬよ、
272
松彦
(
まつひこ
)
さまがお
出
(
い
)
でになつてから、
273
ユラリ
彦
(
ひこ
)
さまや
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さま、
274
ヘグレ
神社
(
じんじや
)
其
(
その
)
外
(
ほか
)
、
275
サーパリ、
276
ガラクタ
神
(
がみ
)
をおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
277
残
(
のこ
)
らず
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
祀
(
まつ
)
り
替
(
か
)
へてあるのですから、
278
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまが
三五教
(
あななひけう
)
へお
入
(
はい
)
りになつたのが
悪
(
わる
)
い
筈
(
はず
)
はないぢやありませぬか、
279
さうすると
今
(
いま
)
は
貴女
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
ぢやないのですか』
280
高姫
『コレ
初
(
はつ
)
さま、
281
お
前
(
まへ
)
も
野暮
(
やぼ
)
な
事
(
こと
)
をいふものぢやない、
282
神
(
かみ
)
の
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
があり、
283
表
(
おもて
)
には
裏
(
うら
)
があるのだ。
284
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
だつて、
285
表面
(
へうめん
)
は
三五教
(
あななひけう
)
になつてるけれど、
286
矢張
(
やつぱ
)
りウラナイ
教
(
けう
)
だよ。
287
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
一通
(
ひととほ
)
りや
二通
(
ふたとほ
)
りでいくものでないから、
288
お
前
(
まへ
)
も
其
(
その
)
精神
(
せいしん
)
で
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
289
これからお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
杢助
(
もくすけ
)
さまの
両腕
(
りやううで
)
として
出世
(
しゆつせ
)
をさして
上
(
あ
)
げるから、
290
さうすりや
文助
(
ぶんすけ
)
さまを
頤
(
あご
)
でつかふやうになるよ、
291
今
(
いま
)
に
受付
(
うけつけ
)
の
命令
(
めいれい
)
をハイハイと
聞
(
き
)
いてるやうぢや
詮
(
つま
)
らぬぢやないか』
292
初
『イヤ、
293
分
(
わか
)
りました。
294
のう
徳公
(
とくこう
)
、
295
貴様
(
きさま
)
も
賛成
(
さんせい
)
だらう』
296
徳
(
とく
)
『ウーン、
297
お
前
(
まへ
)
が
賛成
(
さんせい
)
すりや、
298
賛成
(
さんせい
)
しない
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬワ、
299
併
(
しか
)
しながら
松姫
(
まつひめ
)
さまは
何
(
ど
)
うだろ、
300
こんな
事
(
こと
)
を
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
なさるだらうかなア』
301
初
(
はつ
)
『ソリヤ
高姫
(
たかひめ
)
さまの
腕
(
うで
)
にあるのだ、
302
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
や、
303
只
(
ただ
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
頤使
(
いし
)
に
従
(
したが
)
つて
居
(
を
)
れば
可
(
い
)
いぢやないか』
304
お
菊
(
きく
)
は
外
(
そと
)
から、
305
窓
(
まど
)
へ
顔
(
かほ
)
をあて、
306
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んでゐるのを
見
(
み
)
て、
307
あどけない
声
(
こゑ
)
でうたつてゐる。
308
お菊
『
天
(
てん
)
に
口
(
くち
)
あり
壁
(
かべ
)
に
耳
(
みみ
)
309
企
(
たく
)
んだ
企
(
たく
)
んだ
陰謀
(
いんぼう
)
を
310
お
菊
(
きく
)
はソツと
両人
(
りやうにん
)
の
311
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
まで
推知
(
すゐち
)
して
312
一寸
(
ちよつと
)
其処
(
そこ
)
まで
出
(
で
)
て
来
(
く
)
ると
313
甘
(
うま
)
くゴマかし
戸
(
と
)
の
外
(
そと
)
で
314
スツカリ
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
へば
315
耳
(
みみ
)
をペロペロ
動
(
うご
)
かして
316
尖
(
とが
)
つた
口
(
くち
)
をしながらも
317
高姫
(
たかひめ
)
さまと
意茶
(
いちや
)
ついた
318
揚句
(
あげく
)
のはてが
小北山
(
こぎたやま
)
319
此
(
この
)
神殿
(
しんでん
)
をウマウマと
320
占領
(
せんりやう
)
せむとの
企
(
たく
)
みごと
321
初公
(
はつこう
)
、
徳公
(
とくこう
)
両人
(
りやうにん
)
を
322
うまく
抱込
(
だきこ
)
み
酒
(
さけ
)
飲
(
の
)
まし
323
さうして
之
(
これ
)
から
松姫
(
まつひめ
)
の
324
目
(
め
)
を
晦
(
くら
)
まして
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
325
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
326
居据
(
ゐすわ
)
り
泥棒
(
どろばう
)
をする
積
(
つも
)
り
327
何程
(
なにほど
)
高姫
(
たかひめ
)
偉
(
えら
)
いとて
328
どうしてどうして
松姫
(
まつひめ
)
の
329
鏡
(
かがみ
)
のやうな
魂
(
たましひ
)
を
330
曇
(
くも
)
らすことが
出来
(
でき
)
ようか
331
そんな
悪事
(
あくじ
)
を
企
(
たく
)
むより
332
早
(
はや
)
く
改悪
(
かいあく
)
するがよい
333
改心
(
かいしん
)
するにも
程
(
ほど
)
がある
334
オツトドツコイこりや
違
(
ちが
)
うた
335
さはさりながら
高姫
(
たかひめ
)
は
336
善
(
ぜん
)
をば
悪
(
あく
)
と
取違
(
とりちが
)
へ
337
悪
(
あく
)
をば
善
(
ぜん
)
と
確信
(
かくしん
)
し
338
改心
(
かいしん
)
慢心
(
まんしん
)
ゴチヤまぜに
339
なさつて
厶
(
ござ
)
るお
方
(
かた
)
故
(
ゆゑ
)
340
私
(
わたし
)
も
一寸
(
ちよつと
)
其
(
その
)
流儀
(
りうぎ
)
341
臨時
(
りんじ
)
に
使用
(
しよう
)
しましたよ
342
コレコレもうし
杢
(
もく
)
さまえ
343
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
思
(
おも
)
ひ
者
(
もの
)
344
朝顔
(
あさがほ
)
猪口
(
ちよく
)
の
高
(
たか
)
さまえ
345
何程
(
なにほど
)
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
が
346
初
(
はつ
)
と
徳
(
とく
)
とを
抱込
(
だきこ
)
んで
347
うまい
事
(
こと
)
をばしようとしても
348
忽
(
たちま
)
ち
陰謀
(
いんぼう
)
露顕
(
ろけん
)
して
349
逃
(
に
)
げていなねばならぬぞや
350
松姫
(
まつひめ
)
さまがお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
351
詐
(
いつは
)
り
言
(
ごと
)
を
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
けて
352
聞
(
き
)
かれたとこが
此
(
この
)
お
菊
(
きく
)
353
中々
(
なかなか
)
承知
(
しようち
)
は
致
(
いた
)
さない
354
侠客娘
(
けふかくむすめ
)
と
名
(
な
)
を
取
(
と
)
つた
355
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
のチヤキチヤキだ
356
オホホホホホホオホホホホ
357
窓
(
まど
)
から
中
(
なか
)
を
眺
(
なが
)
むれば
358
あのマア
詮
(
つま
)
らぬ
顔
(
かほ
)
ワイナ
359
イヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ
360
杢
(
もく
)
ちやま、
高
(
たか
)
ちやま
左様
(
さやう
)
なら
361
ゆつくり
陰謀
(
いんぼう
)
お
企
(
たく
)
みよ
362
あとからあとから
此
(
この
)
お
菊
(
きく
)
363
叩
(
たた
)
きつぶしてゆく
程
(
ほど
)
に
364
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
杢
(
もく
)
さまの
365
姿
(
すがた
)
が
時々
(
ときどき
)
変
(
かは
)
り
出
(
だ
)
し
366
耳
(
みみ
)
の
動
(
うご
)
くはまだおろか
367
口
(
くち
)
までチヨイチヨイ
尖
(
とが
)
り
出
(
だ
)
し
368
鼻
(
はな
)
より
高
(
たか
)
うなつてゐる
369
私
(
わたし
)
が
一寸
(
ちよつと
)
首
(
くび
)
ひねり
370
考
(
かんが
)
へました
結末
(
けつまつ
)
は
371
虎
(
とら
)
と
獅子
(
しし
)
との
混血児
(
こんけつじ
)
372
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
と
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
に
373
なつてここまで
小北山
(
こぎたやま
)
374
貴
(
うづ
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
を
占領
(
せんりやう
)
し
375
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
酒
(
さけ
)
のんで
376
威張
(
ゐば
)
り
散
(
ち
)
らさむ
計劃
(
けいくわく
)
か
377
但
(
ただし
)
はここに
網
(
あみ
)
を
張
(
は
)
り
378
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
往来
(
ゆきき
)
する
379
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
を
引捉
(
ひつとら
)
へ
380
堕落
(
だらく
)
さした
上
(
うへ
)
ウラナイの
381
醜
(
しこ
)
の
教
(
をしへ
)
に
引込
(
ひきこ
)
んで
382
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
泥海
(
どろうみ
)
に
383
濁
(
にご
)
らし
汚
(
けが
)
すつもりだろ
384
何程
(
なにほど
)
弁解
(
べんかい
)
したとても
385
お
菊
(
きく
)
がここにある
限
(
かぎ
)
り
386
お
前
(
まへ
)
の
企
(
たく
)
みは
駄目
(
だめ
)
だぞえ
387
ああ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
388
面白
(
おもしろ
)
うなつて
来
(
き
)
ましたよ
389
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
や
390
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
391
鼻高姫
(
はなたかひめ
)
の
運
(
うん
)
の
尽
(
つき
)
392
松姫
(
まつひめ
)
さまの
神力
(
しんりき
)
と
393
お
千代
(
ちよ
)
の
方
(
かた
)
の
神懸
(
かむがかり
)
394
さとき
眼
(
まなこ
)
に
睨
(
にら
)
まれて
395
尻尾
(
しつぽ
)
を
出
(
いだ
)
しスタスタと
396
忽
(
たちま
)
ち
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
駆出
(
かけだ
)
すは
397
鏡
(
かがみ
)
にかけて
見
(
み
)
るやうだ
398
悪魔
(
あくま
)
がそんな
扮装
(
なり
)
をして
399
大日
(
おほひ
)
の
照
(
て
)
るのに
吾々
(
われわれ
)
を
400
化
(
ば
)
かそとしても
反対
(
あべこべ
)
に
401
化
(
ば
)
けが
現
(
あら
)
はれ
舌
(
した
)
かんで
402
旭
(
あさひ
)
に
打
(
う
)
たれて
消
(
き
)
えるだろ
403
それ
故
(
ゆゑ
)
お
前
(
まへ
)
杢助
(
もくすけ
)
は
404
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
にゐた
時
(
とき
)
ゆ
405
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
の
照
(
て
)
る
所
(
とこ
)
へ
406
一度
(
いちど
)
も
出
(
で
)
たこたないぢやないか
407
たまたま
外
(
そと
)
へ
出
(
で
)
た
時
(
とき
)
は
408
日蔭
(
ひかげ
)
の
深
(
ふか
)
き
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
409
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
伴
(
ともな
)
ひし
410
スマートさまにやらはれて
411
ビリビリ
慄
(
ふる
)
うてゐただらう
412
お
菊
(
きく
)
はチツとも
知
(
し
)
らないが
413
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
414
グルグルグルと
玉
(
たま
)
ころが
415
喉元
(
のどもと
)
迄
(
まで
)
もつきつめて
416
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
をば
云
(
い
)
ひますぞ
417
これこれ
高姫
(
たかひめ
)
、
杢
(
もく
)
さまよ
418
初公
(
はつこう
)
、
徳公
(
とくこう
)
両人
(
りやうにん
)
よ
419
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
をあて
思案
(
しあん
)
して
420
臍
(
ほぞ
)
をかむよな
事
(
こと
)
をすな
421
誠
(
まこと
)
の
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
422
お
菊
(
きく
)
の
体
(
たい
)
をかりまして
423
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
獣
(
けもの
)
に
気
(
き
)
をつける
424
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
425
目玉
(
めだま
)
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
しましませよ
426
アハハハハハハアハハハハ
427
オホホホホホホオホホホホ』
428
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
429
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
青葉
(
あをば
)
の
芽
(
め
)
ぐむ
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
へ
脱兎
(
だつと
)
の
如
(
ごと
)
く
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
430
妖幻
(
えうげん
)
『オイ
高姫
(
たかひめ
)
、
431
ありや
気違
(
きちが
)
ひぢやないか。
432
困
(
こま
)
つた、
433
此処
(
ここ
)
には
モノ
が
居
(
を
)
るぢやないか。
434
あんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はしておきや、
435
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
を
迷
(
まよ
)
はすかも
知
(
し
)
れない。
436
何
(
なん
)
とかして、
437
窘
(
たしな
)
めてやらねばなるまいぞ』
438
高姫
(
たかひめ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に、
439
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
ですワ、
440
松姫
(
まつひめ
)
さまも、
441
なぜあんな
気違
(
きちが
)
ひを
置
(
お
)
いとくのだらうなア。
442
コレ
初公
(
はつこう
)
さま、
443
いつも、
444
あのお
菊
(
きく
)
はあんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふのかい』
445
初
(
はつ
)
『ヘー、
446
随分
(
ずいぶん
)
誰
(
たれ
)
にでもヅケヅケといふ
女
(
をんな
)
ですよ。
447
併
(
しか
)
しながら
今日
(
けふ
)
みたいな
悪口
(
わるくち
)
云
(
い
)
つたこた、
448
まだ
聞
(
き
)
きませぬな、
449
あの
女
(
をんな
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
450
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
正確
(
せいかく
)
だとの
定評
(
ていひやう
)
があります』
451
高姫
『
定評
(
ていひやう
)
があると
云
(
い
)
ふからには、
452
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
怪
(
あや
)
しいものと
観察
(
くわんさつ
)
してゐるのかい』
453
初
『ヘー、
454
別
(
べつ
)
に……
怪
(
あや
)
しいとは
思
(
おも
)
ひませぬ。
455
只
(
ただ
)
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
両人
(
りやうにん
)
の
仲
(
なか
)
は、
456
ヘヘヘヘ、
457
チと
怪
(
あや
)
しくないかと
直覚
(
ちよくかく
)
致
(
いた
)
しました、
458
違
(
ちが
)
ひますかな』
459
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
さまと
夫婦
(
ふうふ
)
になつたのが、
460
何
(
なに
)
が
怪
(
あや
)
しいのだ。
461
神
(
かみ
)
と
神
(
かみ
)
との
許
(
ゆる
)
し
給
(
たま
)
うた
結構
(
けつこう
)
な
生宮
(
いきみや
)
だぞえ。
462
神
(
かみ
)
だとて
夫婦
(
ふうふ
)
がなければ、
463
陰陽
(
いんやう
)
の
水火
(
いき
)
が
合
(
あ
)
はないから、
464
天地
(
てんち
)
造化
(
ざうくわ
)
の
神業
(
しんげふ
)
が
成功
(
せいこう
)
せないぢやないか』
465
初
『ヤ、
466
さうキツパリと
承
(
うけたま
)
はりますれば、
467
今後
(
こんご
)
は
其
(
その
)
考
(
かんが
)
へでお
仕
(
つか
)
へ
致
(
いた
)
します。
468
さうすると
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
は
貴女
(
あなた
)
の
旦那
(
だんな
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
469
よくお
似合
(
にあ
)
ひました
夫婦
(
ふうふ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
470
ヘヘヘヘ、
471
イヤもうお
目出度
(
めでた
)
う、
472
それでは
今日
(
けふ
)
は
御
(
ご
)
婚礼
(
こんれい
)
の
御
(
ご
)
披露
(
ひろう
)
の
酒
(
さけ
)
とも
申
(
まを
)
すべきものですな、
473
ドツサリ
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう。
474
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
さまで』
475
徳
(
とく
)
『オイ、
476
初
(
はつ
)
ウ、
477
さう
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
言
(
い
)
ふに
及
(
およ
)
ばぬぢやないか、
478
お
酒
(
さけ
)
も
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
の
材料
(
ざいれう
)
も、
479
皆
(
みな
)
小北山
(
こぎたやま
)
の
物
(
もの
)
でしたのなり、
480
料理
(
れうり
)
も
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
がしたのだ。
481
そして
新夫婦
(
しんふうふ
)
に、
482
こちらから
振舞
(
ふるま
)
つてゐるのだから、
483
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
さまも
何
(
なに
)
もあつたものかい、
484
先方
(
むかふ
)
の
方
(
はう
)
から
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
つたら
可
(
い
)
いのだ』
485
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
486
徳
(
とく
)
とやら、
487
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
一応
(
いちおう
)
理窟
(
りくつ
)
があるやうだが、
488
それは
神界
(
しんかい
)
の
事
(
こと
)
の
解
(
わか
)
らぬ
八衢
(
やちまた
)
人間
(
にんげん
)
の
云
(
い
)
ふ
理窟
(
りくつ
)
だぞえ。
489
現界
(
げんかい
)
の
理窟
(
りくつ
)
は
霊界
(
れいかい
)
には
通
(
つう
)
じませぬぞや。
490
かうして
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
が
出来
(
でき
)
るやうになつたのも、
491
皆
(
みな
)
天上
(
てんじやう
)
から
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
が
御光
(
みひかり
)
を
投
(
な
)
げ
与
(
あた
)
へ、
492
雨露
(
あめつゆ
)
を
降
(
ふ
)
らして
下
(
くだ
)
さるお
蔭
(
かげ
)
で、
493
五穀
(
ごこく
)
、
494
さわもの、
495
菜園物
(
しやゑんもの
)
一切
(
いつさい
)
が
出来
(
でき
)
てるぢやないか、
496
其
(
その
)
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
にお
給仕
(
きふじ
)
さして
頂
(
いただ
)
くお
前
(
まへ
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
だ。
497
神
(
かみ
)
の
方
(
はう
)
から
御
(
お
)
礼
(
れい
)
申
(
まを
)
すといふ
理窟
(
りくつ
)
がどこにあるものかい。
498
チツとお
前
(
まへ
)
も
神界
(
しんかい
)
の
勉強
(
べんきやう
)
をしなさい、
499
さうすりや、
500
そんな
小言
(
こごと
)
は
云
(
い
)
はないやうになつて
了
(
しま
)
ひますよ』
501
徳
(
とく
)
『ヘー、
502
何
(
なん
)
とマア
都合
(
つがふ
)
の
好
(
い
)
い
教理
(
けうり
)
で
厶
(
ござ
)
いますこと』
503
高姫
『コレ、
504
お
前
(
まへ
)
は
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が、
505
どうしても
腹
(
はら
)
へ
入
(
はい
)
らぬのかなア』
506
徳
『ヘー、
507
さう
俄
(
には
)
かに
入
(
はい
)
りにくう
厶
(
ござ
)
います。
508
何分
(
なにぶん
)
お
酒
(
さけ
)
や
御飯
(
ごはん
)
で
格納庫
(
かくなふこ
)
が
充実
(
じうじつ
)
してゐますから、
509
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
では
余地
(
よち
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ』
510
高姫
『
何
(
なん
)
とマア
盲
(
めくら
)
ばかりだなア、
511
そら
其
(
その
)
筈
(
はず
)
だ、
512
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
と、
513
八衢
(
やちまた
)
人間
(
にんげん
)
の
霊
(
みたま
)
とだから
無理
(
むり
)
もない、
514
お
前
(
まへ
)
さまもチツと
之
(
これ
)
から
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
筆先
(
ふでさき
)
を
読
(
よ
)
みなさい。
515
さうすれば
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
が
見
(
み
)
えすくやうになるだらう、
516
コレ
初
(
はつ
)
さまえ、
517
お
前
(
まへ
)
はチツと
賢
(
かしこ
)
さうな
顔
(
かほ
)
してるが、
518
高姫
(
たかひめ
)
のいふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つたかなア』
519
初
(
はつ
)
『ハイ、
520
仰
(
おほ
)
せの
通
(
とほ
)
り、
521
此
(
この
)
お
土
(
つち
)
の
上
(
うへ
)
に
出来
(
でき
)
たものは
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
力
(
ちから
)
で
厶
(
ござ
)
います。
522
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
でも、
523
菜
(
な
)
の
葉
(
は
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
生
(
う
)
み
出
(
だ
)
すことは
出来
(
でき
)
ませぬ、
524
仰
(
おほ
)
せ
御尤
(
ごもつと
)
もだと
考
(
かんが
)
へます』
525
高姫
『
成程
(
なるほど
)
、
526
お
前
(
まへ
)
は
偉
(
えら
)
いわい、
527
之
(
これ
)
から
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
の
片腕
(
かたうで
)
にして
上
(
あ
)
げるから、
528
どうだ
嬉
(
うれ
)
しうないか、
529
結構
(
けつこう
)
だらうがな。
530
何
(
なん
)
といつても
三五教
(
あななひけう
)
の
三羽烏
(
さんばがらす
)
の
一
(
いち
)
人
(
にん
)
、
531
時置師
(
ときおかしの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だぞえ』
532
初
『ハイ、
533
身
(
み
)
に
余
(
あま
)
る
光栄
(
くわうえい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
534
オイ、
535
徳
(
とく
)
、
536
貴様
(
きさま
)
も
改心
(
かいしん
)
して、
537
結構
(
けつこう
)
だといはぬかい……
否
(
いな
)
改悪
(
かいあく
)
して、
538
貴女
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
りだ、
539
と、
540
心
(
こころ
)
はどうでもいい、
541
いつておかぬかい。
542
社交
(
しやかう
)
の
下手
(
へた
)
な
奴
(
やつ
)
だなア』
543
徳
(
とく
)
『それなら
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
お
)
説
(
せつ
)
に、
544
ドツと
改悪
(
かいあく
)
して
賛成
(
さんせい
)
致
(
いた
)
します。
545
何卒
(
どうぞ
)
宜
(
よろ
)
しう
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
546
高姫
『
心
(
こころ
)
からの
改心
(
かいしん
)
でなければ
駄目
(
だめ
)
だぞえ。
547
ウツフフフフ、
548
コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
549
人民
(
じんみん
)
を
改心
(
かいしん
)
さすのは
高姫
(
たかひめ
)
に
限
(
かぎ
)
りませうがな』
550
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
俄
(
にはか
)
に
体
(
からだ
)
が
震
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
した。
551
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
ると、
552
猛犬
(
まうけん
)
が
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
く
階段
(
かいだん
)
を
登
(
のぼ
)
つて、
553
松姫館
(
まつひめやかた
)
の
方
(
はう
)
へ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
554
高姫
(
たかひめ
)
はアツと
一声
(
ひとこゑ
)
、
555
ドスンと
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
し、
556
目
(
め
)
を
白黒
(
しろくろ
)
してゐる。
557
妖幻坊
(
えうげんばう
)
も
亦
(
また
)
冷汗
(
ひやあせ
)
をズツポリかき、
558
ガタガタと
震
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
くこと
益々
(
ますます
)
甚
(
はなはだ
)
しい。
559
(窓外白雪皚々たり
大正一二・一・二五
旧一一・一二・九
松村真澄
録)
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