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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第51巻(寅の巻)
序文
総説
第1篇 霊光照魔
第1章 春の菊
第2章 怪獣策
第3章 犬馬の労
第4章 乞食劇
第5章 教唆
第6章 舞踏怪
第2篇 夢幻楼閣
第7章 曲輪玉
第8章 曲輪城
第9章 鷹宮殿
第10章 女異呆醜
第3篇 鷹魅艶態
第11章 乙女の遊
第12章 初花姫
第13章 槍襖
第14章 自惚鏡
第15章 餅の皮
第4篇 夢狸野狸
第16章 暗闘
第17章 狸相撲
第18章 糞奴使
第19章 偽強心
第20章 狸姫
第21章 夢物語
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霊界物語
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真善美愛(第49~60巻)
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第51巻(寅の巻)
> 第1篇 霊光照魔 > 第3章 犬馬の労
<<< 怪獣策
(B)
(N)
乞食劇 >>>
第三章
犬馬
(
けんば
)
の
労
(
らう
)
〔一三一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
篇:
第1篇 霊光照魔
よみ(新仮名遣い):
れいこうしょうま
章:
第3章 犬馬の労
よみ(新仮名遣い):
けんばのろう
通し章番号:
1318
口述日:
1923(大正12)年01月25日(旧12月9日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月29日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松姫は神社拝礼のお勤めを終えると、居間に帰って神書を調べていた。そこにお千代があわただしく帰ってきて、門口の戸をぴしゃりと閉めると中からつっぱりをかった。松姫が不審に思って尋ねると、お千代はとんでもな化け物が、高姫と杢助と名乗ってやってきたという。
松姫はてっきり、本部から二人がやってきたと思ったが、お千代は二人の面相は化け物のようでとても本部の役員とは思えなかったと報告した。
そこへ文助がやってきて、本部から杢助と高姫がやってきて、松姫の教主職を今日かぎり解いて、代わりに二人が小北山を監督することになった、と伝えに来た。松姫は、かねてから松彦と協力して御神業の活動を外でやりたいと思っていたので願いがかなったと喜んだ。
しかしお千代は高姫と杢助と名乗る二人組は化け物だと言い張り、斎苑の館からの御沙汰が来ていないのにおかしいと指摘した。文助は二人は斎苑の館の幹部だから、その他に辞令は必要ないだろうと答えたが、お千代は自分が確認すると言ってきかない。
そこへお菊が戻ってきた。お菊は三人の話を聞くと、自分もあの高姫と杢助は怪しいと思うと報告した。松姫は、文助とお菊に二人をともかくもてなすよう言いつけ、自分は後で行くと伝えるように託した。
後にお千代は、エンゼルが耳元でささやいたと、高姫は本物だが杢助は妖幻坊という兇党界の幹部の化け物だと松姫に伝えた。松姫は高姫の身の上を心配したが、お千代は悪事を企む者にはここの神様を拝ませて驚かしてやりたいと息巻いている。
二人が話しているところへ、大きな猛犬が尾を振りながら入ってきた。スマートが初稚姫からの手紙を送ってよこしたのであった。松姫は手紙に初稚姫の名を認めると、手紙を改めるためにお千代に門口を閉めさせた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-08-03 19:03:23
OBC :
rm5103
愛善世界社版:
44頁
八幡書店版:
第9輯 281頁
修補版:
校定版:
45頁
普及版:
20頁
初版:
ページ備考:
001
松姫
(
まつひめ
)
は
各
(
かく
)
神社
(
じんしや
)
の
拝礼
(
はいれい
)
を
終
(
をは
)
り、
002
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
入
(
い
)
つて
神書
(
しんしよ
)
を
調
(
しら
)
べてゐた。
003
そこへお
千代
(
ちよ
)
は
慌
(
あわただ
)
しく
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
004
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
をピシヤツと
閉
(
し
)
め、
005
中
(
なか
)
からツツパリをかうた。
006
松姫
(
まつひめ
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
怪
(
あや
)
しみ、
007
松姫
『これ、
008
お
千代
(
ちよ
)
、
009
夜分
(
やぶん
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に、
010
何故
(
なぜ
)
戸
(
と
)
にツツパリをしたり
等
(
など
)
なさるのだい』
011
千代
(
ちよ
)
『ハイ、
012
今
(
いま
)
怪体
(
けたい
)
なド
倒
(
たふ
)
しものが
来
(
き
)
たのですよ。
013
何
(
いづ
)
れ
此処
(
ここ
)
にも
来
(
く
)
るか
知
(
し
)
れませぬから、
014
来
(
き
)
たら
入
(
い
)
れない
様
(
やう
)
にしてゐるのですよ』
015
松姫
『
昼
(
ひる
)
の
最中
(
もなか
)
に
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
めてツツパリかふ
等
(
など
)
とは
可笑
(
をか
)
しいぢやありませぬか。
016
大方
(
おほかた
)
昼泥棒
(
ひるどろぼう
)
の
連中
(
れんちう
)
が
隊
(
たい
)
を
組
(
く
)
んで
来
(
き
)
たのかい。
017
構
(
かま
)
はぬぢやないか。
018
ここは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
厶
(
ござ
)
るから、
019
何
(
なに
)
が
来
(
き
)
たつて
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だよ』
020
お千代
『
何
(
なに
)
、
021
お
母
(
かあ
)
さま、
022
泥棒
(
どろばう
)
位
(
くらゐ
)
なら
一寸
(
ちよつと
)
も
構
(
かま
)
やしないが
大化物
(
おほばけもの
)
が
来
(
き
)
たのだよ。
023
今
(
いま
)
お
菊
(
きく
)
さまと
桃
(
もも
)
の
木
(
き
)
の
下
(
した
)
で
遊
(
あそ
)
んでゐたら、
024
一人
(
ひとり
)
は
高姫
(
たかひめ
)
だと
云
(
い
)
つて
嫌
(
いや
)
らしい
顔
(
かほ
)
した
女
(
をんな
)
、
025
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
は
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
で
耳
(
みみ
)
がペロペロ
動
(
うご
)
いてゐるのよ。
026
屹度
(
きつと
)
あれは
化物
(
ばけもの
)
に
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
027
お
母
(
かあ
)
さまをちよろまかさうと
思
(
おも
)
つて
来
(
き
)
たのだらうから、
028
屹度
(
きつと
)
会
(
あ
)
つちやいけませぬよ。
029
それで
私
(
わたし
)
が
急
(
いそ
)
いで
帰
(
かへ
)
つて
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
めたのです』
030
松姫
『
高姫
(
たかひめ
)
さまと
云
(
い
)
へば
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまのお
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
だ。
031
そして
今
(
いま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
、
032
何
(
なに
)
しに
又
(
また
)
案内
(
あんない
)
もなしに
突然
(
とつぜん
)
お
越
(
こ
)
しになつたのだらうか。
033
ハテ、
034
如何
(
どう
)
も
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
035
昨夜
(
ゆうべ
)
も
昨夜
(
ゆうべ
)
で
妙
(
めう
)
な
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだが、
036
ヒヨツとしたら
化物
(
ばけもの
)
ぢやなからうか。
037
いやいや
昼間
(
ひるま
)
に
此
(
この
)
神聖
(
しんせい
)
な
場所
(
ばしよ
)
へ
化物
(
ばけもの
)
がやつて
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
がない。
038
いや
高姫
(
たかひめ
)
さまなら
会
(
あ
)
はずばなるまい。
039
ハテ、
040
不思議
(
ふしぎ
)
だな』
041
と
云
(
い
)
つて
首
(
くび
)
をかたげている。
042
千代
(
ちよ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまなら、
043
もちと
品格
(
ひんかく
)
がありさうなものですよ。
044
それはそれは
下品
(
げひん
)
な……
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
賤
(
さも
)
しい
姿
(
すがた
)
で、
045
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
てもゾゾ
毛
(
げ
)
が
立
(
た
)
つ
様
(
やう
)
な
女
(
をんな
)
でしたよ。
046
そして
連
(
つら
)
つてゐる
男
(
をとこ
)
は
半鐘
(
はんしよう
)
泥棒
(
どろぼう
)
の
様
(
やう
)
な
不恰好
(
ぶかつかう
)
な、
047
怪体
(
けたい
)
な
面
(
つら
)
した
奴
(
やつ
)
ですよ。
048
如何
(
どう
)
しても
私
(
わたし
)
の
目
(
め
)
には
人間
(
にんげん
)
とは
見
(
み
)
えませぬわ。
049
全
(
まつた
)
く
妖怪
(
えうくわい
)
ですよ』
050
松姫
(
まつひめ
)
『ハテ、
051
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
052
そして
受付
(
うけつけ
)
の
文助
(
ぶんすけ
)
さまは
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つてゐただらうな』
053
お千代
『
文助
(
ぶんすけ
)
さまは
何
(
なん
)
だか、
054
高姫
(
たかひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
怪体
(
けたい
)
な
女
(
をんな
)
と
話
(
はなし
)
をして
居
(
を
)
りましたが、
055
一度
(
いちど
)
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げて
来
(
く
)
ると
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
りましたよ。
056
それを
聞
(
き
)
いたものだから、
057
文助
(
ぶんすけ
)
の
様
(
やう
)
な
盲
(
めくら
)
が、
058
何
(
なに
)
も
分
(
わか
)
らずにお
母
(
かあ
)
さまに、
059
せうもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
告
(
つ
)
げようものなら
大変
(
たいへん
)
だと
思
(
おも
)
つて、
060
一歩先
(
ひとあしさき
)
に
知
(
し
)
らしに
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ましたの。
061
お
母
(
かあ
)
さま、
062
屹度
(
きつと
)
あの
二人
(
ふたり
)
に
会
(
あ
)
つちやいけませぬぜ』
063
松姫
『それだと
云
(
い
)
つて、
064
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
では
何
(
ど
)
んな
方
(
かた
)
にでも
会
(
あ
)
はなけりやいかぬぢやないか。
065
仮令
(
たとへ
)
化物
(
ばけもの
)
でも
曲津
(
まがつ
)
でも、
066
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かして
改心
(
かいしん
)
さしてやりさへすれば
宜
(
い
)
いぢやありませぬか』
067
お千代
『だつてあんな
奴
(
やつ
)
、
068
何
(
なに
)
を
企
(
たく
)
むか
知
(
し
)
れやしないわ。
069
お
母
(
かあ
)
さまが
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
070
お
千代
(
ちよ
)
はあんな
化物
(
ばけもの
)
は
入
(
い
)
れませぬよ』
071
松姫
『マア
何事
(
なにごと
)
も
私
(
わたし
)
に
任
(
まか
)
しておきなさい。
072
お
前
(
まへ
)
さまは
未
(
ま
)
だ
子供
(
こども
)
だから、
073
さう
一
(
ひと
)
つ
一
(
ひと
)
つ
嘴
(
くちばし
)
を
容
(
い
)
れるものぢやありませぬぞや』
074
斯
(
か
)
く
親子
(
おやこ
)
が
話
(
はな
)
してゐる
処
(
ところ
)
へ、
075
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
をポンポンと
叩
(
たた
)
く
音
(
おと
)
がする。
076
之
(
これ
)
は
受付
(
うけつけ
)
の
文助
(
ぶんすけ
)
が
高姫
(
たかひめ
)
の
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
を
松姫
(
まつひめ
)
に
報告
(
はうこく
)
のためであつた。
077
文助
(
ぶんすけ
)
は
戸
(
と
)
の
外
(
そと
)
から、
078
文助
『もしもし、
079
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
、
080
文助
(
ぶんすけ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
081
一寸
(
ちよつと
)
門口
(
かどぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませぬか。
082
急用
(
きふよう
)
が
厶
(
ござ
)
りまして
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
083
松姫
『ハイ、
084
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
085
子供
(
こども
)
が
悪戯
(
いたづら
)
致
(
いた
)
しまして……
今
(
いま
)
直
(
すぐ
)
に
開
(
あ
)
けますから……これお
千代
(
ちよ
)
、
086
早
(
はや
)
く
門
(
かど
)
を
開
(
あ
)
けぬかいな』
087
お千代
『お
母
(
かあ
)
さま、
088
門
(
かど
)
を
開
(
あ
)
けたら
文助
(
ぶんすけ
)
が
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
ますよ』
089
松姫
『
這入
(
はい
)
つて
厶
(
ござ
)
る
様
(
やう
)
に
開
(
あ
)
けるのぢやないか』
090
お千代
『だつてお
母
(
かあ
)
さま、
091
文助
(
ぶんすけ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
巻込
(
まきこ
)
まれちやいけませぬよ。
092
あの
爺
(
ぢい
)
は
化物
(
ばけもの
)
にひどう
感心
(
かんしん
)
してゐた
様
(
やう
)
ですから……』
093
と
云
(
い
)
ひながらツツパリを
取外
(
とりはづ
)
しガラリと
開
(
あ
)
けた。
094
文助
(
ぶんすけ
)
はヨボヨボとしながら
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
げ、
095
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
してゐる。
096
されど
松姫
(
まつひめ
)
の
姿
(
すがた
)
はハツキリ
見
(
み
)
えなかつた。
097
只
(
ただ
)
目
(
め
)
が
悪
(
わる
)
いので、
098
声
(
こゑ
)
をしるべに
話
(
はなし
)
するより
仕方
(
しかた
)
がないのである。
099
松姫
(
まつひめ
)
は、
100
松姫
『さア
何卒
(
どうぞ
)
お
上
(
あが
)
りなさいませ』
101
と
座蒲団
(
ざぶとん
)
を
出
(
だ
)
し
文助
(
ぶんすけ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
坐
(
すわ
)
らせた。
102
文助
(
ぶんすけ
)
『アーア、
103
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つて
目
(
め
)
が
不自由
(
ふじゆう
)
なのも
厄介
(
やくかい
)
なものですわい』
104
松姫
『それだつて
貴方
(
あなた
)
は
心眼
(
しんがん
)
が
開
(
ひら
)
けてゐるのですもの、
105
結構
(
けつこう
)
ですわ。
106
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えないと
云
(
い
)
つても、
107
あれ
位
(
くらゐ
)
な
綿密
(
めんみつ
)
な
絵
(
ゑ
)
が
書
(
か
)
けるから
結構
(
けつこう
)
ぢやありませぬか。
108
時
(
とき
)
に
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
109
何
(
なに
)
か
急用
(
きふよう
)
でも
出来
(
でき
)
たので
厶
(
ござ
)
りますのか』
110
文助
『ハイ、
111
折入
(
をりい
)
つて
貴女
(
あなた
)
と
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
を
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げたい
事
(
こと
)
が
突発
(
とつぱつ
)
致
(
いた
)
しました。
112
実
(
じつ
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で……
何
(
なに
)
から
云
(
い
)
つてよいやら、
113
地異
(
ちゐ
)
天変
(
てんぺん
)
、
114
言葉
(
ことば
)
の
出
(
だ
)
しやうも
厶
(
ござ
)
りませぬ』
115
お
千代
(
ちよ
)
は
側
(
そば
)
から、
116
お千代
『これ
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
117
駄目
(
だめ
)
よ。
118
彼奴
(
あいつ
)
ア
化物
(
ばけもの
)
だから、
119
お
前
(
まへ
)
が
騙
(
だま
)
されて
居
(
ゐ
)
るのだ。
120
お
母
(
かあ
)
さまに
何
(
なに
)
も
言
(
い
)
ふぢやありませぬよ。
121
さアさア トツトとお
帰
(
かへ
)
り。
122
足許
(
あしもと
)
が
危
(
あぶ
)
なけりや、
123
お
千代
(
ちよ
)
が
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて
上
(
あ
)
げませう』
124
松姫
(
まつひめ
)
『これお
千代
(
ちよ
)
、
125
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのだい。
126
お
前
(
まへ
)
は
子供
(
こども
)
だから
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
りなさい。
127
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
128
こらへて
下
(
くだ
)
さいや。
129
如何
(
どう
)
も
此
(
こ
)
の
子
(
こ
)
は
教育
(
けういく
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
ないから
困
(
こま
)
つたものです。
130
お
菊
(
きく
)
さまと
好一対
(
かういつつゐ
)
です。
131
遊
(
あそ
)
ぶ
友達
(
ともだち
)
が
悪
(
わる
)
いとサツパリ
感化
(
かんくわ
)
されて
了
(
しま
)
ひます。
132
本当
(
ほんたう
)
に
親
(
おや
)
も
迷惑
(
めいわく
)
してゐますのよ。
133
時
(
とき
)
に
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
134
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だとは
何事
(
なにごと
)
ですか』
135
文助
『ハイ、
136
実
(
じつ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまが
見
(
み
)
えまして
厶
(
ござ
)
ります。
137
そして
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
総務
(
そうむ
)
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
までがおいでになり、
138
何者
(
なにもの
)
か
貴女
(
あなた
)
の
悪口
(
あくこう
)
を
申
(
まを
)
したものと
見
(
み
)
えて、
139
貴女
(
あなた
)
は
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
教主
(
けうしゆ
)
の
役
(
やく
)
を
解
(
と
)
き、
140
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
教主
(
けうしゆ
)
となり、
141
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
が
出張
(
しゆつちやう
)
して
監督
(
かんとく
)
をなさる
事
(
こと
)
になつたのだと
云
(
い
)
つて、
142
今
(
いま
)
下
(
した
)
に
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
ります。
143
誠
(
まこと
)
に
長
(
なが
)
らくお
世話
(
せわ
)
になりましたが、
144
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
とはお
別
(
わか
)
れせなくちやならぬかと
思
(
おも
)
へば
実
(
じつ
)
にお
名残
(
なごり
)
惜
(
を
)
しう
厶
(
ござ
)
ります』
145
松姫
(
まつひめ
)
は
平然
(
へいぜん
)
として、
146
松姫
『ホホホホホ、
147
何
(
なに
)
か
大変事
(
だいへんじ
)
が
起
(
おこ
)
つたかと
思
(
おも
)
へば、
148
そんな
事
(
こと
)
ですかな。
149
そりや
結構
(
けつこう
)
です。
150
妾
(
わたし
)
も
実
(
じつ
)
は
此処
(
ここ
)
を
立退
(
たちの
)
いて、
151
夫
(
をつと
)
と
共
(
とも
)
に
大活動
(
だいくわつどう
)
をして
見
(
み
)
たかつたのです、
152
併
(
しか
)
しながら
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
今日
(
けふ
)
まで
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
りました。
153
そりや
本当
(
ほんたう
)
に
結構
(
けつこう
)
ですわ』
154
文助
『それを
聞
(
き
)
いて
私
(
わたし
)
も
一寸
(
ちよつと
)
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
155
いや
如何
(
どう
)
も
上
(
うへ
)
のお
方
(
かた
)
の
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふものは
分
(
わか
)
らぬものですな。
156
さうなくちやかなひますまい。
157
桜
(
さくら
)
は
夜
(
よる
)
の
嵐
(
あらし
)
にうたれて
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
潔
(
いさぎよ
)
く
散
(
ち
)
るのが
誉
(
ほまれ
)
だと
聞
(
き
)
きました。
158
イヤ
天晴
(
あつぱれ
)
々々
(
あつぱれ
)
、
159
見上
(
みあ
)
げたお
志
(
こころざし
)
、
160
実
(
じつ
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りました』
161
と
袖
(
そで
)
に
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
うてゐる。
162
お
千代
(
ちよ
)
は
側
(
そば
)
から、
163
お千代
『これ、
164
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
165
お
前
(
まへ
)
は
盲
(
めくら
)
だから
化物
(
ばけもの
)
に
騙
(
だま
)
されてゐるのだよ。
166
お
母
(
かあ
)
さままでが、
167
何
(
なん
)
ですか、
168
あんな
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
つて
此処
(
ここ
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
す
積
(
つも
)
りですか。
169
未
(
ま
)
だ
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
から
何
(
なん
)
とも
御
(
ご
)
沙汰
(
さた
)
がないぢやありませぬか。
170
仮令
(
たとへ
)
何
(
ど
)
んな
方
(
かた
)
が
見
(
み
)
えても
相手
(
あひて
)
になつちやいけませぬよ。
171
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
もお
寅
(
とら
)
さまが
魔我彦
(
まがひこ
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かれてから、
172
もう
四五十
(
しごじふ
)
日
(
にち
)
になるのに、
173
何
(
なん
)
の
沙汰
(
さた
)
もないぢやありませぬか。
174
同
(
おな
)
じ
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
から
見
(
み
)
えるのだから、
175
八島主
(
やしまぬし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
御
(
ご
)
内報
(
ないほう
)
がある
筈
(
はず
)
、
176
又
(
また
)
魔我彦
(
まがひこ
)
さまからも
何
(
なん
)
とか
知
(
し
)
らせがある
筈
(
はず
)
です。
177
先
(
ま
)
づトツクリと
調
(
しら
)
べた
上
(
うへ
)
でないと、
178
えらい
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
はされますよ』
179
松姫
(
まつひめ
)
『いかにもさうだな。
180
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふのも
一理
(
いちり
)
がある。
181
いや
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
182
何
(
なに
)
か
其
(
その
)
高姫
(
たかひめ
)
さまは
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
から
辞令
(
じれい
)
でも
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
厶
(
ござ
)
るか。
183
それとも
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
か
魔我彦
(
まがひこ
)
さまの
手紙
(
てがみ
)
でも
御
(
ご
)
所持
(
しよぢ
)
か、
184
それを
聞
(
き
)
いて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな』
185
文助
『ハイ、
186
聞
(
き
)
いて
参
(
まゐ
)
りませうが、
187
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
三羽烏
(
さんばがらす
)
の
一
(
いち
)
人
(
にん
)
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
出張
(
しゆつちやう
)
になつてゐるのだから、
188
尋
(
たづ
)
ねるにも
及
(
およ
)
びますまい。
189
外
(
ほか
)
の
方
(
かた
)
なら
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
、
190
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
総務
(
そうむ
)
さまだから、
191
尋
(
たづ
)
ねない
方
(
はう
)
が
宜
(
よ
)
いでせう』
192
千代
(
ちよ
)
『これ
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
193
お
前
(
まへ
)
がよう
尋
(
たづ
)
ねにや
私
(
わたし
)
が
之
(
これ
)
から
行
(
い
)
つて、
194
本真物
(
ほんまもの
)
か、
195
偽物
(
にせもの
)
か、
196
検査
(
けんさ
)
をして
来
(
き
)
ますわ。
197
お
母
(
かあ
)
さま、
198
それで
宜
(
い
)
いでせう』
199
松姫
『これこれお
千代
(
ちよ
)
、
200
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
201
お
前
(
まへ
)
は
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
にも
云
(
い
)
つちやなりませぬぞや。
202
母
(
はは
)
が
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
きますぞや』
203
お千代
『だつて
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
204
お
母
(
かあ
)
さまの
箝口令
(
かんこうれい
)
位
(
くらゐ
)
で
閉口
(
へいこう
)
出来
(
でき
)
ますか』
205
松姫
『ああ
困
(
こま
)
つた
娘
(
むすめ
)
だな』
206
お千代
『ああ
困
(
こま
)
つたお
母
(
かあ
)
さまだな』
207
文助
(
ぶんすけ
)
『
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだな』
208
千代
(
ちよ
)
『ハツハハハハ』
209
と
笑
(
わら
)
ふ
声
(
こゑ
)
を
外
(
そと
)
から
聞
(
き
)
きつけて
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのはお
菊
(
きく
)
であつた。
210
お菊
『お
千代
(
ちよ
)
さま、
211
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しいの、
212
よく
笑
(
わら
)
つてゐますね』
213
お千代
『お
菊
(
きく
)
さまか、
214
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
215
今
(
いま
)
ね、
216
文助
(
ぶんすけ
)
さまが
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
217
あの
化物
(
ばけもの
)
を
杢助
(
もくすけ
)
さまだ、
218
高姫
(
たかひめ
)
さまだと
云
(
い
)
つてゐますのよ。
219
それをお
母
(
かあ
)
さまが
本当
(
ほんたう
)
にしてるのだもの、
220
可笑
(
をか
)
しうて
堪
(
たま
)
らないわ』
221
お菊
『
本当
(
ほんたう
)
にね。
222
怪体
(
けたい
)
な
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
たものですわ。
223
私
(
あた
)
い
高姫
(
たかひめ
)
と
云
(
い
)
つたら、
224
もつと
立派
(
りつぱ
)
な
小母
(
をば
)
さまと
思
(
おも
)
つてゐたのに、
225
まるで
化物
(
ばけもの
)
だわ。
226
杢助
(
もくすけ
)
さまだと
云
(
い
)
つてるが
獣
(
けだもの
)
の
様
(
やう
)
に
耳
(
みみ
)
がペロペロ
時々
(
ときどき
)
動
(
うご
)
くのだもの。
227
何
(
なん
)
でも
彼奴
(
あいつ
)
ア
可笑
(
をか
)
しい
化
(
ばけ
)
さまですよ。
228
然
(
しか
)
しあの
婆
(
ばば
)
が「
私
(
わたし
)
は
高姫
(
たかひめ
)
だ、
229
松姫
(
まつひめ
)
さまの
師匠
(
ししやう
)
だから
早
(
はや
)
く
呼
(
よ
)
んで
来
(
こ
)
い」と
云
(
い
)
つたので
仕方
(
しかた
)
なしに
来
(
き
)
たのよ。
230
もし
松姫
(
まつひめ
)
さま、
231
あんな
奴
(
やつ
)
に
会
(
あ
)
つちやいけませぬよ。
232
然
(
しか
)
し
何
(
なん
)
とか
返事
(
へんじ
)
をせなくちやなりませぬから、
233
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
報告
(
ほうこく
)
旁
(
かたがた
)
やつて
来
(
き
)
ましたの』
234
松姫
(
まつひめ
)
『それは、
235
まアよう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
236
お
菊
(
きく
)
さま、
237
お
前
(
まへ
)
怪
(
あや
)
しいと
思
(
おも
)
つたのかい』
238
お菊
『
如何
(
どう
)
も
可笑
(
をか
)
しい
奴
(
やつ
)
ですわ。
239
キツト、
240
ありや
贋
(
にせ
)
ですよ』
241
松姫
『お
菊
(
きく
)
さま、
242
それなら
貴女
(
あなた
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
243
その
高姫
(
たかひめ
)
さまとやらに
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいね、
244
「
今
(
いま
)
松姫
(
まつひめ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
の
最中
(
さいちう
)
だから、
245
済
(
す
)
み
次第
(
しだい
)
お
目
(
め
)
にかかります。
246
それまで
教主館
(
けうしゆやかた
)
で、
247
お
酒
(
さけ
)
なつと
飲
(
あが
)
つて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい」と
私
(
わたし
)
が
云
(
い
)
つたと
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さいね。
248
文助
(
ぶんすけ
)
さまも
一緒
(
いつしよ
)
に
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
249
そして
粗忽
(
そそう
)
のない
様
(
やう
)
にもてなしを
頼
(
たの
)
みますよ』
250
文助
(
ぶんすけ
)
『ハイ、
251
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
252
サアお
菊
(
きく
)
さま、
253
帰
(
かへ
)
りませう』
254
とお
菊
(
きく
)
に
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
かれコチコチと
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
255
後
(
あと
)
にお
千代
(
ちよ
)
は
声
(
こゑ
)
を
潜
(
ひそ
)
めて、
256
お千代
『お
母
(
かあ
)
さま、
257
高姫
(
たかひめ
)
は
本当
(
ほんたう
)
のよ。
258
けれど
後
(
あと
)
からついて
来
(
き
)
た
杢助
(
もくすけ
)
と
云
(
い
)
ふのは
屹度
(
きつと
)
化物
(
ばけもの
)
よ。
259
その
積
(
つも
)
りでつき
合
(
あ
)
はなくちやいけませぬよ』
260
松姫
『そんな
事
(
こと
)
、
261
どうしてお
前
(
まへ
)
に
分
(
わか
)
つたのかい』
262
お千代
『それでも、
263
私
(
わたし
)
の
耳許
(
みみもと
)
でエンゼルが
囁
(
ささや
)
いて
下
(
くだ
)
さいましたもの。
264
お
母
(
かあ
)
さまによく
気
(
き
)
をつける
様
(
やう
)
にと
云
(
い
)
はれましたよ』
265
松姫
『お
前
(
まへ
)
は
時々
(
ときどき
)
エンゼルの
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
があるのですから
本当
(
ほんたう
)
に
重宝
(
ちようほう
)
な
体
(
からだ
)
ね。
266
そして
其
(
その
)
化物
(
ばけもの
)
は
何物
(
なにもの
)
だと
仰有
(
おつしや
)
つたかい』
267
お千代
『あれは
妖幻坊
(
えうげんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
兇党界
(
きようたうかい
)
の
相当
(
さうたう
)
の
位地
(
ゐち
)
を
占
(
し
)
めてる
大悪魔
(
だいあくま
)
ださうです。
268
然
(
しか
)
し
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
を
恐
(
おそ
)
れる
事
(
こと
)
が
非常
(
ひじやう
)
なもので、
269
昼
(
ひる
)
歩
(
ある
)
く
時
(
とき
)
は
深編笠
(
ふかあみがさ
)
を
被
(
かぶ
)
り、
270
中々
(
なかなか
)
外
(
そと
)
へは
出
(
で
)
ないさうですよ。
271
昼間
(
ひるま
)
は
何時
(
いつ
)
も
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
で
寝
(
ね
)
てると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですわ。
272
その
妖幻坊
(
えうげんばう
)
に
高姫
(
たかひめ
)
さまが
化
(
ば
)
かされて、
273
又
(
また
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
をふり
廻
(
まは
)
してゐるのだから
尚々
(
なほなほ
)
始末
(
しまつ
)
が
悪
(
わる
)
いのよ』
274
松姫
『ハテ、
275
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だな。
276
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
があるまいかな』
277
お千代
『お
母
(
かあ
)
さま、
278
屹度
(
きつと
)
会
(
あ
)
つちやいけませぬよ。
279
そして
高姫
(
たかひめ
)
は
自分
(
じぶん
)
勝手
(
かつて
)
に、
280
此処
(
ここ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
だと
云
(
い
)
つてるのですよ。
281
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
からお
沙汰
(
さた
)
のあるまで
動
(
うご
)
いちやいけませぬぞえ。
282
お
母
(
かあ
)
さまは
小北山
(
こぎたやま
)
の
神司
(
かむづかさ
)
だから、
283
誰
(
たれ
)
に
指一本
(
ゆびいつぽん
)
さへられる
体
(
からだ
)
ぢやありませぬからね。
284
屹度
(
きつと
)
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
たら、
285
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
書付
(
かきつけ
)
は
持
(
も
)
つてゐない
事
(
こと
)
はきまつてゐますわ。
286
それで
面白
(
おもしろ
)
いから、
287
一遍
(
いつぺん
)
調
(
しら
)
べてやらうと
思
(
おも
)
つたのよ』
288
松姫
『そんな
要
(
い
)
らぬ
事
(
こと
)
をせなくてもいいぢやないか。
289
高姫
(
たかひめ
)
さまに
恥
(
はぢ
)
をかかさない
様
(
やう
)
にして、
290
なるべく
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
を
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
に
真心
(
まごころ
)
を
尽
(
つく
)
して
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
申上
(
まをしあ
)
げるのだな。
291
お
前
(
まへ
)
も
出過
(
です
)
ぎた
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はない
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さいや』
292
お千代
『それでも
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐるのだもの、
293
ちつとは
言
(
い
)
ひたくなつて
来
(
く
)
るのよ。
294
一遍
(
いつぺん
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
拝
(
をが
)
ましてやつたら
吃驚
(
びつくり
)
するだらうね。
295
それを
見
(
み
)
るのが
楽
(
たの
)
しみだわ』
296
松姫
『
何
(
なん
)
とまア
口
(
くち
)
の
悪
(
わる
)
い
子
(
こ
)
だな。
297
人
(
ひと
)
がビツクリするのが、
298
お
前
(
まへ
)
はそれ
程
(
ほど
)
面白
(
おもしろ
)
いのかい。
299
困
(
こま
)
つたお
転婆
(
てんば
)
だな』
300
お千代
『それでも
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
誑
(
たぶら
)
かし
人
(
ひと
)
を
苦
(
くる
)
しめ、
301
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
道
(
みち
)
を
妨害
(
ばうがい
)
する
悪魔
(
あくま
)
だから、
302
チツとは
懲
(
こら
)
しめてやらなくちや、
303
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へしてゐるお
母
(
かあ
)
さまの
役
(
やく
)
も
済
(
す
)
みますまい。
304
私
(
わたし
)
だつて
化物
(
ばけもの
)
を
看過
(
かんくわ
)
しちや
職務
(
しよくむ
)
不忠実
(
ふちうじつ
)
と
云
(
い
)
ふものですわ。
305
こんな
時
(
とき
)
こそは
審神
(
さには
)
を
充分
(
じうぶん
)
しなくちやなりませぬわ』
306
松姫
『
併
(
しか
)
し
高姫
(
たかひめ
)
さまは
本物
(
ほんもの
)
だとあれば、
307
私
(
わたし
)
の
大恩
(
だいおん
)
ある
御
(
お
)
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
、
308
お
目
(
め
)
にかかつて
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げねばなるまい。
309
そして
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
悪魔
(
あくま
)
に
騙
(
だま
)
されて
居
(
を
)
りなさるなら、
310
気
(
き
)
をつけて
上
(
あ
)
げなくちや
師弟
(
してい
)
の
役
(
やく
)
が
済
(
す
)
むまい。
311
ああ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだ』
312
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
尾
(
を
)
をふつて
潔
(
いさぎよ
)
く
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは
巨大
(
きよだい
)
なる
猛犬
(
まうけん
)
であつた。
313
見
(
み
)
れば
首
(
くび
)
たまに
何
(
なに
)
か
手紙
(
てがみ
)
の
様
(
やう
)
なものが
下
(
さが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
314
松姫
(
まつひめ
)
『ア、
315
これは
何処
(
どこ
)
からか
手紙
(
てがみ
)
を
持
(
も
)
つてお
使
(
つか
)
ひに
来
(
き
)
たのだな。
316
これこれお
犬
(
いぬ
)
さま、
317
何処
(
どこ
)
からか
知
(
し
)
らぬが
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつたな。
318
どれどれ、
319
お
手紙
(
てがみ
)
を
見
(
み
)
せて
頂
(
いただ
)
きませう』
320
とやさしく
云
(
い
)
ひながら
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つ
首
(
くび
)
の
辺
(
あた
)
りを
撫
(
な
)
でて
可愛
(
かあい
)
がり、
321
括
(
くく
)
りつけた
手紙
(
てがみ
)
を
取
(
と
)
り、
322
上書
(
うはがき
)
を
見
(
み
)
れば、
323
「
小北山
(
こぎたやま
)
の
神司
(
かむづかさ
)
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
へ、
324
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
於
(
おい
)
て、
325
初稚姫
(
はつわかひめ
)
より」と
記
(
しる
)
してある。
326
松姫
『ああ
之
(
これ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
手紙
(
てがみ
)
だ。
327
何
(
なに
)
か
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たのかな。
328
これお
千代
(
ちよ
)
や、
329
一寸
(
ちよつと
)
門口
(
かどぐち
)
を
閉
(
し
)
めて
下
(
くだ
)
さい。
330
秘密
(
ひみつ
)
の
御用
(
ごよう
)
かも
知
(
し
)
れないから』
331
お
千代
(
ちよ
)
は
外
(
そと
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し、
332
誰
(
たれ
)
も
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ないので
安心
(
あんしん
)
の
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
おろ
)
し、
333
ソツと
戸
(
と
)
をしめて
堅
(
かた
)
くツツパリをかうた。
334
此
(
この
)
猛犬
(
まうけん
)
は
云
(
い
)
はずと
知
(
し
)
れた
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
愛犬
(
あいけん
)
スマートなる
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
ふまでもない。
335
(
大正一二・一・二五
旧一一・一二・九
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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(B)
(N)
乞食劇 >>>
霊界物語
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第51巻(寅の巻)
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【第3章 犬馬の労|第51巻|真善美愛|霊界物語|/rm5103】
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