霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 糞奴使(ふんどし)〔一三三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第4篇 夢狸野狸 よみ(新仮名遣い):むりやり
章:第18章 糞奴使 よみ(新仮名遣い):ふんどし 通し章番号:1333
口述日:1923(大正12)年01月27日(旧12月11日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
救世主の詠んだ詩を吟じながら旅装束に身を固めて月夜にやってきたのは、ランチ将軍の副官であったガリヤであった。ガリヤは浮木の森の陣中で、村の美人マリーに慕われ密会を続けていたが、マリーはほどなくして亡くなってしまった。
ガリヤはひそかにマリーの死骸を浮木の森の墓所に葬り、墓の石を目印に立てていつか時を見て立派に祀ってやろうと思っていた。治国別に帰順して三五教の使徒となり、治国別の添書を持ってケースと共に斎苑の館に修業に行く途中、一人で墓所に参るためにケースを先に行かせたのであった。
ガリヤはマリーの墓にて慨嘆久しうし、涙をそそいだ。そしてまた宣伝歌を歌いながら月夜を進んで行った。ガリヤは椿の木蔭までやってくると、石に腰かけて煙草をくすべながら、浮木の森をながめて自分たちの身の上の移り変わりに想いを馳せていた。
ガリヤはいつの間にか大きな城郭が立っていることをいぶかしんでいる。すると人声がするので探り寄ってみれば、三人の男が真っ裸となって萱の茂みに何やら言い合っている。
ガリヤが様子を見れば、初、徳、ケースの三人が狸に化かされたことに気が付き、互いに名乗りあっていた。ガリヤは狸にだまされた三人の目を覚まそうと臍下丹田に息をつめ、ウーと発生した。三人は椿の根元に集まってきた。
一同が確認してみれば、初と徳が泉だと思っていたのは肥壺であった。枝にかけられた糞まみれの着物は異様の臭気を放っている。四人はこれはたまらぬと北へ北へと逃げて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-09-16 16:48:58 文字数:3998 OBC :rm5118
愛善世界社版:260頁 八幡書店版:第9輯 360頁 修補版: 校定版:266頁 普及版:120頁 初版: ページ備考:
001ガリヤ『文明(ぶんめいの)花(はな)発(ひらく)三千国(さんぜんこく)
002 道術(どうじゆつ)元(もと)通(つうず)九万(きうまんの)天(てん)。
003 時節(じせつ)花(はな)明(あきらかなり)三月(さんぐわつの)雨(あめ)
004 風流(ふうりうの)酒(さけは)洗(あらふ)百年(ひやくねんの)塵(ちり)。
005 黙然(もくぜん)坐(ざして)通(つうじ)古今(ここんに)
006 天地人(てんちじん)共(ともに)進退(しんたいす)。
007 片々(へんぺんの)霊(れい)碁(ご)一局(いつきよく)
008 家々(いへいへの)灯(あかり)天下(てんかの)花(はな)。
009 北(きたの)玄武(げんぶ)従(より)亥(ゐ)去(さり)
010 東(ひがしの)青竜(せいりう)自(より)子(ね)来(きたる)。
011 去者(さるものは)去(さり)来者(きたるものは)来(きたる)
012 有限(いうげんの)時(とき)万邦(ばんぽうの)春(はる)』[※読み下し例:文明の花は三千国に発(ひら)く/道術の元は九万の天に通ず/時節の花は三月の雨に明らかなり/風流の酒は百年の塵に洗ふ/黙然と坐して古今に通じ/天地人 共に進退す/片々の霊 碁一局/家々の灯り 天下の花/北の玄武 亥より去り/東の青竜 子より来たる/去る者は去り来たる者は来たる/有限の時 万邦の春]
 
013と救世(きうせい)教主(けうしゆ)の詠(よ)んだ詩(し)を吟(ぎん)じながら朧月夜(おぼろづきよ)の光(ひかり)を浴(あ)びて、014草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に身(み)を固(かた)め、015蓑笠(みのかさ)金剛杖(こんがうづゑ)の扮装(いでたち)にてやつて来(き)たのは、016ランチ将軍(しやうぐん)の副官(ふくくわん)たりしガリヤであつた。017道(みち)の傍(かたはら)に新(あたら)しき墓(はか)が沢山(たくさん)に並(なら)んでゐる。018ガリヤは陣中(ぢんちう)に於(おい)て浮木(うきき)の森(もり)のマリーと云(い)ふ妙齢(めうれい)の美人(びじん)に慕(した)はれ、019滞陣中(たいぢんちう)は間(ま)がな隙(すき)がな密会(みつくわい)を続(つづ)けて居(ゐ)た。020マリーとの関係(くわんけい)がついたのは、021ランチ将軍(しやうぐん)が命令(めいれい)を下(くだ)して、022四辺(あたり)の女(をんな)は老幼(らうえう)の区別(くべつ)なく残(のこ)らず引捕(ひつとら)へて陣中(ぢんちう)に連(つ)れ行(ゆ)き、023炊事(すゐじ)其(その)外(ほか)の軍務(ぐんむ)に就(つ)かしめむためであつた。024此(この)時(とき)ガリヤは其(その)役目(やくめ)に当(あた)つて、025マリーの家(いへ)にふみ込(こ)み来(きた)り老人(らうじん)夫婦(ふうふ)に、
026ガリヤ『此(この)村(むら)の女(をんな)は残(のこ)らず軍務(ぐんむ)に徴集(ちようしふ)さるべし。027就(つ)いては炊事(すゐじ)のみならず、028数多(あまた)の猛悪(まうあく)なる兵士(へいし)に凌辱(りようじよく)を受(う)くる惧(おそれ)あれば、029今宵(こよひ)の中(うち)に女(をんな)は残(のこ)らず逃(に)げ去(さ)れ』
030と親切(しんせつ)に云(い)つて呉(く)れた。031マリーの父(ちち)は此(この)村(むら)の里庄(りしやう)であつた。032直(ただ)ちに村(むら)に其(その)由(よし)を内通(ないつう)し、033勝手(かつて)覚(おぼ)えし山道(やまみち)を辿(たど)り、034或(あるひ)は小北山(こぎたやま)又(また)は思(おも)ひ思(おも)ひにパンを負(お)うて山林(さんりん)に身(み)を隠(かく)したのである。035マリーは、036ガリヤの親切(しんせつ)な計(はか)らひによつて、037村中(むらぢう)の女(をんな)は危難(きなん)を救(すく)はれたのだ、038自分(じぶん)は、
039(マリー)『村中(むらぢう)の女(をんな)を代表(だいへう)し人身(ひとみ)御供(ごく)に上(のぼ)つても構(かま)はぬ。040況(いは)んやバラモンの軍人(ぐんじん)とは云(い)へ、041之(これ)位(くらゐ)やさしき武士(ぶし)が何処(どこ)にあらうか。042自分(じぶん)も夫(をつと)を持(も)つならば斯様(かやう)な武士(ぶし)と添(そ)ひ度(た)いものだ……』
043と妙(めう)な処(ところ)へ同情(どうじやう)を起(おこ)し、044早(はや)くバラモン軍(ぐん)が自分(じぶん)を捕縛(ほぼく)に来(き)てくれまいかと、045両親(りやうしん)の止(と)めるのも諾(き)かず只(ただ)一人(ひとり)家(いへ)に待(ま)つてゐたのである。046そして幸(さいは)ひに此(この)マリーの家(いへ)はガリヤの宿所(しゆくしよ)と定(さだ)められたのである。047ガリヤは他(た)の同僚(どうれう)が一人(ひとり)も女(をんな)を連(つ)れてゐないのに、048自分(じぶん)のみ女(をんな)を侍(はべ)らして居(を)つては将軍(しやうぐん)の手前(てまへ)は如何(いかが)と気遣(きづか)ひ、049倉(くら)の中(なか)に忍(しの)ばせて隙(すき)ある毎(ごと)に密会(みつくわい)を続(つづ)けてゐたのである。050然(しか)るにマリーは身体(しんたい)日(ひ)に日(ひ)に痩衰(やせおとろ)へ、051遂(つひ)には鬼籍(きせき)に入(い)つた。052そこでガリヤは夜(よる)密(ひそ)かにマリーの死骸(しがい)を此(この)墓所(はかしよ)に葬(はうむ)り、053目標(もくへう)を建(た)てて置(お)いたのである。054俄(にはか)に適当(てきたう)な目標(もくへう)もないので外(ほか)の墓(はか)の石(いし)を逆様(さかさま)に立(た)て、055何時(いつ)か時(とき)を見(み)て立派(りつぱ)に祀(まつ)つてやらうと思(おも)つてゐる矢先(やさき)、056治国別(はるくにわけ)に帰順(きじゆん)したのである。057ガリヤはクルスの森(もり)で百(ひやく)日(にち)の薫陶(くんたう)を受(う)け、058それよりテームス峠(たうげ)に於(おい)て、059又(また)もや第二回(だいにくわい)の薫陶(くんたう)を授(さづ)かり、060治国別(はるくにわけ)の添書(てんしよ)を得(え)て、061ケースと共(とも)に斎苑(いそ)の館(やかた)へ修業(しゆげふ)に行(ゆ)く途中(とちう)であつた。062彼(かれ)は一度(いちど)マリーの墓(はか)に詣(まゐ)り弔(とむら)つてやらねばならぬ、063それにはケースと同道(どうだう)しては都合(つがふ)が悪(わる)いと思(おも)つたので、
064ガリヤ『一寸(ちよつと)其(その)辺(へん)まで芋(いも)を埋(い)けに行(い)つて来(く)る、065君(きみ)は一足先(ひとあしさき)へ行(い)つてくれ、066何(いづ)れ浮木(うきき)の森(もり)で追付(おつつ)くから……』
067とうまくケースをまいて自分(じぶん)は谷川(たにがは)に入(い)り、068水(みづ)をいぢり或(あるひ)は蟹(かに)を追(お)ひかけ等(など)して日(ひ)を暮(くら)し、069東(ひがし)の空(そら)からボンヤリとした月(つき)の出(で)たのを幸(さいは)ひ、070此処(ここ)までやつて来(き)たのである。071ガリヤはマリーの墓(はか)に近(ちか)づき、072涙(なみだ)ながら述懐(じゆつくわい)して云(い)ふ。
 
073ガリヤ『水色(みづいろ)の月光(げつくわう)は流(なが)れ
074 真青(まつさを)に墓(はか)は並(なら)び立(た)つ
075 ああされどマリーの君(きみ)よ
076 君(きみ)は情焔(じやうえん)の人魚(にんぎよ)に非(あら)ず
077 死(し)を願(ねが)ひつつ墓(はか)を抱(いだ)き
078 吾(われ)を見捨(みす)てて遠(とほ)く行(ゆ)きましぬ
079 後(あと)に残(のこ)りし吾(わが)身(み)は
080 潛々(さめざめ)と涙(なみだ)を濺(そそ)ぐ
081 君(きみ)の心(こころ)の紅絹(こうけん)は
082 ガリヤの心(こころ)を巡(めぐ)り
083 やがて桃色(ももいろ)の雰囲気(ふんゐき)は
084 あたりを包(つつ)む
085 されど青(あを)き墓(はか)は
086 地(ち)に影(かげ)さへも動(うご)かさず
087 君(きみ)の姿(すがた)のみ幻(まぼろし)の如(ごと)く月(つき)にふるひぬ
088 ああ花(はな)は半開(はんかい)にして散(ち)りぬ
089 惜(を)しむべきかな桃色(ももいろ)の頬(ほほ)
090 月(つき)の眉(まゆ)、091雪(ゆき)の肌(はだ)
092 一度(いちど)見(み)まく欲(ほ)りすれど
093 一度(いちど)君(きみ)に会(あ)はまく欲(ほ)りすれど
094 今(いま)は詮(せん)なし諸行(しよぎやう)無常(むじやう)
095 是生(ぜしやう)滅法(めつぼう)生滅(しやうめつ)々已(めつち)
096 寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)頓生(とんしよう)菩提(ぼだい)と
097 弔(とむら)ふ吾(われ)を
098 仇(あだ)には棄(す)てな桃色(ももいろ)の君(きみ)よ』
 
099と慨歎(がいたん)久(ひさ)しうし、100形(かたち)ばかりの墓場(はかば)に涙(なみだ)を濺(そそ)ぎ、101残(のこ)り惜(を)しげに墓場(はかば)を辞(じ)し、102又(また)もや宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、103風(かぜ)薫(かを)る朧夜(おぼろよ)の月(つき)を浴(あ)びて進(すす)み行(ゆ)く。
104ガリヤ『四方(よも)の山々(やまやま)春(はる)めきて
105吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)も暖(あたた)かく
106今(いま)を盛(さか)りと咲(さ)き匂(にほ)ふ
107マリーに似(に)たる桃(もも)の花(はな)
108三月(さんぐわつ)三日(みつか)の今日(けふ)の宵(よひ)
109瑞(みづ)の御霊(みたま)の御教(みをしへ)を
110頸(うなじ)に受(う)けてトボトボと
111天津(あまつ)御空(みそら)に照(て)りもせず
112曇(くも)りもやらぬ春(はる)の夜(よ)の
113朧月夜(おぼろづきよ)の風光(ふうくわう)に
114如(し)くものなしと誰(た)が言(い)うた
115吾(われ)は心(こころ)もかき曇(くも)り
116朧(おぼろ)の月(つき)を眺(なが)むれば
117千々(ちぢ)に物(もの)こそ思(おも)はるれ
118嘆(かこ)ち顔(がほ)なる吾(わが)涙(なみだ)
119乾(かわ)く暇(ひま)なき夜(よる)の旅(たび)
120定(さだ)めなき世(よ)と云(い)ひながら
121花(はな)を欺(あざむ)くマリー嬢(ぢやう)
122吾(われ)を見捨(みす)てて墓(はか)を越(こ)え
123幽冥界(いうめいかい)に旅立(たびだ)ちぬ
124悔(くや)めど帰(かへ)らぬ恋(こひ)の仲(なか)
125神(かみ)や仏(ほとけ)は坐(ま)さぬかと
126思(おも)はず知(し)らず愚痴(ぐち)が出(で)る
127汝(なれ)をば慕(した)ふ吾(わが)心(こころ)
128仇(あだ)に聞(き)くなよマリー嬢(ぢやう)
129向(むか)ふに見(み)ゆるは浮木(うきき)の里(さと)か
130印象(いんしやう)益々(ますます)深(ふか)くして
131恋(こひ)に逍(さまよ)ふ益良夫(ますらを)の
132心(こころ)の空(そら)は烏羽玉(うばたま)の
133暗夜(やみよ)とこそはなりにけり
134ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
135御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
136惑(まど)ひ来(きた)りし恋雲(こひぐも)を
137晴(は)らさせ給(たま)へ三五(あななひ)の
138皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
139謹(つつし)み敬(うやま)ひ祈(ね)ぎまつる
140朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
141月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
142大地(だいち)は仮令(たとへ)沈(しづ)むとも
143星(ほし)は空(そら)より落(お)つるとも
144神(かみ)に任(まか)せし此(この)体(からだ)
145三五教(あななひけう)の御(おん)為(ため)に
146尽(つく)さにや置(お)かぬ益良夫(ますらを)の
147ひきて返(かへ)らぬ桑(くは)の弓(ゆみ)
148弥猛心(やたけごころ)を何処(どこ)までも
149貫(つらぬ)き通(とほ)す神(かみ)の道(みち)
150進(すす)ませ給(たま)へ惟神(かむながら)
151神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる』
152と歌(うた)ひながら椿(つばき)の花(はな)咲(さ)く木蔭(こかげ)までスタスタやつて来(き)た。
153 ガリヤは椿(つばき)の下(もと)の天然(てんねん)の石(いし)のベンチに腰(こし)を打掛(うちか)け、154火打(ひうち)を取出(とりだ)し煙草(たばこ)を燻(くす)べながら、155浮木(うきき)の森(もり)の彼方(あなた)を眺(なが)め感慨(かんがい)無量(むりやう)の息(いき)を洩(も)らしてゐる。
156ガリヤ『有為(うゐ)転変(てんぺん)は世(よ)の習(なら)ひ、157変(かは)れば変(かは)るものだな。158僅(わづ)か四(し)ケ月(げつ)以前(いぜん)にはバラツク式(しき)の陣営(ぢんえい)が沢山(たくさん)に建(た)て並(なら)べられてあつたが、159何時(いつ)の間(ま)にやら、160大(だい)なる城廓(じやうくわく)が建(た)つてゐるやうだ。161はて、162何人(なんぴと)の住宅(すまゐ)であらうか。163合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)だな』
164と独語(ひとりご)ちつつ目(め)をつぶつて考(かんが)へ込(こ)んでゐる。165何(なん)だか間近(まぢか)の方(はう)から人声(ひとごゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。166ガリヤはツと立(た)つて人声(ひとごゑ)を当(あて)に月(つき)に透(す)かしながら探(さぐ)り寄(よ)つた。167見(み)れば三(さん)人(にん)の男(をとこ)が萱(かや)の茂(しげ)つた中(なか)に真裸(まつぱだか)となつて四這(よつばひ)となり、168思(おも)ひ思(おも)ひの事(こと)を囀(さへづ)つてゐる。
169ガリヤ『はて不思議(ふしぎ)だ。170春(はる)とは云(い)へど夜分(やぶん)はまだ寒(さむ)い。171それに何(なん)ぞや、172斯様(かやう)な萱草(かやくさ)の中(なか)に荒男(あらをとこ)が而(しか)も三(さん)人(にん)、173何(なに)をして居(ゐ)るのだらう。174ハハア大方(おほかた)、175浮木(うきき)の森(もり)の豆狸(まめだぬき)につままれよつたのだらう。176一(ひと)つ気(き)をつけてやらねばなるまい』
177と思(おも)つたが、178又(また)思(おも)ひ直(なほ)して、
179ガリヤ『待(ま)て待(ま)て彼(かれ)等(ら)三(さん)人(にん)の言(い)ひ草(ぐさ)を聞(き)いてから、180何者(なにもの)だと云(い)ふ事(こと)の、181凡(およ)その見当(けんたう)をつけてからでなくては、182如何(いか)なる災難(さいなん)に遇(あ)ふかも知(し)れない。183まづ凡(すべ)ての掛合(かけあひ)は相手(あひて)を知(し)るが第一(だいいち)だ』
184と思(おも)ひ直(なほ)して杖(つゑ)にもたれて覗(のぞ)く様(やう)にして考(かんが)へ込(こ)んでゐた。
185裸(はだか)の一(いち)(裸の男一)『おい、186転田山(こけたやま)、187あの摩利支(まりし)天(てん)と云(い)ふ奴(やつ)、188口(くち)ほどにない弱味噌(よわみそ)だな。189俺(おれ)の反(そり)にかかりやがつて、190土俵(どへう)のド中央(まんなか)にふん伸(の)びた時(とき)の態(ざま)と云(い)つたらなかつたぢやないか』
191裸(はだか)の二(に)(裸の男二)『貴様(きさま)は負田山(まけたやま)だと名乗(なの)つてゐるが妙(めう)に強(つよ)かつたぢやないか。192大方(おほかた)向(むか)ふが力負(ちからまけ)したのかも知(し)れないのう』
193裸の男一『馬鹿(ばか)云(い)へ。194俺(おれ)が強(つよ)うて向(むか)ふが弱(よわ)かつたのだ。195弱(よわ)いものが負(ま)けると云(い)ふのは何万(なんまん)年(ねん)経(た)つたつてきまつた規則(きそく)だ。196然(しか)し、197彼奴(あいつ)は吃驚(びつくり)しやがつて雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げたぢやないか』
198裸の男二『ナーニ、199そこに居(ゐ)るぢやないか。200アー、201臭(くさ)い臭(くさ)い貴様(きさま)、202屁(へ)を垂(た)れやがつたな。203俄(にはか)に臭(くさ)くなりやがつたぞ』
204裸の男一『馬鹿(ばか)云(い)へ、205貴様(きさま)も臭(くさ)いわ。206最前(さいぜん)から何(なん)だか臭(くさ)いと思(おも)つたが、207よう考(かんが)へりや相撲(すまう)に呆(はう)けて忘(わす)れて居(ゐ)たが、208古狸(ふるだぬき)に撮(つま)まれて糞壺(くそつぼ)へ貴様(きさま)と俺(おれ)とが落(お)ち込(こ)み、209椿(つばき)の下(した)の泉(いづみ)で衣服(きもの)を洗(あら)ひ、210木(き)に掛(か)けて乾(かわ)かす間(ま)に、211寒(さむ)さ凌(しの)ぎに相撲(すまう)を始(はじ)めたぢやなかつたかね』
212裸の男二『ウン、213さう云(い)ふと、214そんな気(き)も……する様(やう)だ。215此(この)体(からだ)が臭(くさ)いのは洗(あら)ひが足(た)らなかつたのに違(ちが)ひないぞ。216何程(なにほど)雑兵(ざふひやう)だと云(い)つても、217こんなに臭(くさ)い筈(はず)はないからな』
218裸(はだか)の三(さん)(裸の男三)『こりや、219二人(ふたり)の奴(やつ)、220貴様(きさま)は狸(たぬき)に騙(だま)されよつたのだな。221馬鹿(ばか)だな』
222裸(はだか)の一(いち)(裸の男一)『アハハハハハ、223あれ程(ほど)沢山(たくさん)の相撲取(すもうとり)や見物(けんぶつ)が来(き)て居(を)つたのは皆(みな)狸(たぬき)だ。224オイ何処(どこ)の奴(やつ)か知(し)らぬが、225弱相撲(よわずまう)、226貴様(きさま)だつてヤツパリ騙(だま)されて居(を)つたのだよ』
227裸(はだか)の三(さん)(裸の男三)『馬鹿(ばか)云(い)へ。228俺(おれ)は貴様(きさま)と相撲(すまう)とつたのだ。229貴様(きさま)こそ狸(たぬき)を相手(あひて)に挑(いど)み合(あ)つてゐたのだよ。230あれほど沢山(たくさん)居(を)つたが、231人間(にんげん)はただの三(さん)人(にん)より居(ゐ)なかつたと見(み)える。232本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)の寄合(よりあ)ひだな。233オイ、234貴様(きさま)の本名(ほんみやう)は何(なん)と云(い)ふのか。235負田山(まけたやま)、236転田山(こけたやま)では、237テーンと分(わか)らぬぢやないか』
238裸の男一『俺(おれ)の本名(ほんみやう)が聞(き)きたくば、239貴様(きさま)から名告(なの)れ、240そしたら云(い)ひ聞(き)かしてやらう』
241裸の男三『俺(おれ)の名(な)を聞(き)いて驚(おどろ)くな。242バラモン軍(ぐん)のランチ将軍(しやうぐん)が副官(ふくくわん)ケースの君(きみ)だぞ』
243裸の男一『何(なん)だ、244そんな肩書(かたがき)をふり廻(まは)したつて今時(いまどき)通用(つうよう)しないぞ。245某(それがし)こそは三五教(あななひけう)の未来(みらい)の宣伝使(せんでんし)初公別(はつこうわけの)命(みこと)だ。246もう一人(ひとり)は徳公別(とくこうわけの)命(みこと)だぞ』
247ケース『お名(な)を承(うけたま)はりまして初(はじ)めて呆(あき)れ返(かへ)りました。248如何(いか)にも下賤(げせん)愚劣(ぐれつ)のお方(かた)で厶(ござ)るな』
249初(はつ)『きまつたことだ。250神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の力(ちから)を有(いう)する、251何(ど)うしても解(げ)せぬ男(をとこ)だらう。252酒(さけ)を飲(の)めばグレツく事(こと)は天下(てんか)の名人(めいじん)だ。253小北山(こぎたやま)の初公(はつこう)と云(い)ふより下賤(げせん)愚劣(ぐれつ)と云(い)つた方(はう)が、254よく通(とほ)つてるからな、255アハハハハ』
256 ガリヤは、
257ガリヤ『ハハア、258ケースの奴(やつ)、259狸(たぬき)にチヨロまかされ相撲(すまう)とりよつたのだな。260そして糞壺(くそつぼ)へはまつた奴(やつ)と取組(とりく)みよつたと見(み)える。261何(なん)だか臭(くさ)くなつて来(き)たぞ。262一(ひと)つ大声(おほごゑ)を出(だ)して呶鳴(どな)り、263眼(め)を醒(さま)してやらなくちや駄目(だめ)だ』
264と云(い)ひながら臍下(せいか)丹田(たんでん)に息(いき)をつめ(大声(おほごゑ))『ウー』と発声(はつせい)した。265三(さん)人(にん)は猛獣(まうじう)の襲来(しふらい)かと早合点(はやがてん)し、266赤裸(まつぱだか)の儘(まま)ノタノタと這(は)ひ出(だ)し、267何(いづ)れも云(い)ひ合(あは)した様(やう)に椿(つばき)の根元(ねもと)に集(あつま)つて了(しま)つた。
268ガリヤ『オイ、269お前(まへ)はケースぢやないか。270拙者(せつしや)はガリヤだ。271何(なん)だ、272こんな処(ところ)へ赤裸(まつぱだか)になりよつて……』
273ケース『ウン、274兄貴(あにき)か、275もう一足(ひとあし)早(はや)く来(く)ればよかつたにな。276大変(たいへん)狸相撲(たぬきずまう)がはづんでゐたよ、277アハハハハ』
278初(はつ)『エヘヘヘヘ』
279徳(とく)『臭(くさ)い臭(くさ)い臭(くさ)い、280ウツフフフフ、281糞面白(くそおもしろ)うもない。282糞(ばば)にされて了(しま)つた』
283ケース『揃(そろ)ひも揃(そろ)つて臭(くさ)い野郎(やらう)だな』
284ガリヤ『アハハハハ、285ああもう夜(よ)が明(あ)けた』
286 三(さん)人(にん)は泥(どろ)まぶれの顔(かほ)をして其処(そこ)等(ら)を見(み)まはした。287糞(くそ)まぶれの着物(きもの)は異様(いやう)の臭気(しうき)を放(はな)ち、288傍(かたはら)の青木(あをき)の枝(えだ)に烏(からす)の死(し)んだのを水(みづ)に漬(つ)けた様(やう)な形(かたち)になつてブラ下(さが)つて居(ゐ)る。289椿(つばき)の下(もと)の清泉(せいせん)は……と覗(のぞ)いて見(み)れば臭気(しうき)紛々(ふんぷん)たる肥壺(こえつぼ)であつた。290金色(こんじき)の蠅(はい)がブンブンと四(よ)人(にん)の顔(かほ)を目標(めあて)に襲撃(しふげき)し、291目(め)をせせつたり鼻(はな)の穴(あな)へ潜伏(せんぷく)したり、292口(くち)の角(かど)などを頻(しき)りにいぢり出(だ)した。
293『此奴(こいつ)ア堪(たま)らぬ』
294とガリヤ及(およ)び三(さん)人(にん)の裸(はだか)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に北(きた)へ北(きた)へと逃(に)げて行(ゆ)く。
295(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 北村隆光録)
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